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廃人ゲーマー<ゲームでも異世界です。  作者: 中二ばっか
1章 終わりゆく世界にログイン
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 MMORPG【フォークロア】の世界に転移したと思っているアカザは、砂漠の中で喜びはしゃいでいた。そのため、砂漠の熱がこもった空気で口の中の水分が瞬く間になくなり、喉に風で巻き上げられた砂が中に入ったせいで、咳を出す。

「あはははっつあ、げっほ、ごっごっ」


 そのことで高揚していた気持ちが、少し落ち着き自分がまだ先ほどの【デザートスコーピオン】などのモンスターが出現するフィールドだったことを思いだす。


 そのことに気付いた時、身震いした。


 なにせモニター越しにマウスやキーボード操作をしてモンスターと戦うのではなく、生身でモンスターの攻撃に晒されるのだ。そんな弱肉強食の世界で生きていける程にアカザは心が強くない。


 今更ながらに戦いの恐怖を感じて、足が震えだす。


(取りあえず都市に行こう)

 先ほどまでの高笑いと自信はどこへやら。


 取りあえず自身の安全のために都市に行くという方針を決め、【スキルウィンドウ】と呟いて目の前に投影された【スキルウィンドウ】の項目、【特殊】の欄を人差し指でクリックする。


 【特殊】欄には【鑑定】【言語理解】【スケッチ】【賭博】【探索】【マッサージ】などの直接的な戦闘には向かないようなスキルがずらりと並んでいる。


 その中の一つ【大地移動】というアイコンに人差し指でクリックすると、今度はこの世界の地図が、【ウィンドウ】と同じく目の前に出てくる。


 その地図は現実のとは真逆の世界であった。

 大陸が海に、海溝が山に。


 【フォークロア】の世界地図はこのようになっている。

 大部分が陸続きとなっており、地図上では海ではなく大小の湖が表示される。

 そして現実で言う日本海の新潟県付近をクリック。


 次の瞬間、アカザの周りに大量の雪が降ったように白い粉が身を覆う。そして、風に吹かれる灰のように砂漠から消えた。




「おぉ」

 思わず感嘆の声を出すアカザ。


 モニター越しで何度も繰り返した行為ではあるが、体感すると凄まじい。何せ一瞬にして何百キロも離れた所に瞬間移動できるのだ。その衝撃はただ驚いただけでは表せない。


 先程までいた砂漠。殺風景な砂か岩場ばかりの【ヴェッソドイラ】(現実の北大西洋、ハワイはオアシス)とは打って変わって日本独得の和風建築がずらりと並ぶ都市。

 瓦と木材でできた屋敷、城、神社、長屋は江戸時代を連想する。

 日本海の右側に存在する都市【エチゴ】。


 スキル群【侍】や【忍術】のスキルを習得する場所でもあり、ゲームをしていた頃にアカザが拠点としていた都市の1つ。


 取りあえず装備を変更し、【八竜《篭手》】と【八竜《脛当》】を外して靴の装備欄に【錬金術師シューズ】を装備する。

 どこかのくたびれた研究者といった格好だが、生憎、着物や羽織といった日本なじみの服装が【インベントリウィンドウ】内にはない。

 流石に刀を腰に差し、鎧姿で都市に入った瞬間、役人が御法度と追い掛け回されることはないだろう。現代の日本なら銃刀法違反、もしくはコスプレと勘違いされるぐらいだが、ここはゲームの世界。しかも江戸時代に近い設定なので違和感はない。


(だけど、装備していると耐久値が減るからなぁ)

 攻撃をしたり防御したり、装備していることによって徐々に耐久値が減少し、直すためには道具やお金が必要になってしまう。チャットや採取などの長く戦闘をしない場合は修理費が安く済む装備に変更する貧乏性なプレイヤーであったアカザ。


 どっしりと構えた大門から都内に入っていく。

 都市並みは遠くから来たのか荷馬車が大通りを通越していたり、その辺には八百屋や武器屋が道行く人たちに声を掛けていた。


 しかし、モンスターが徘徊するフィールドから出られたのは良いものの、すぐにアカザは途方に暮れた。

(なにすりゃいいんだろ)

 やることがない。


 少なくとも銀行にカンストするだけの金を入金している時点で生活には支障ない。

(いや、なら銀行に行って確認した方がいいのか?)


 転生系で所持品、レベルが初期化されるというストリーがあるアニメや小説があるのを思い出して、銀行へと向かう。

 もしそれらのアイテムを引き継ぎできないと分かれば、少なくとも1ヶ月は呆然としているだろう。せっかくゲームの世界へと来ることができて、セーブデータがなくなってしまえばあまりにも残念。いや、惨めな絶望感に浸ってしまう。


 少なくとも途方もない努力をして集め続けた物が、一瞬にして消える感覚は怖い。

(どうかっ! どうかせめて【農場】の【倉庫】に入れたアイテムは残っていてくれ!)

 と、ガチャを回すとき以上の期待感と祈りを込めるアカザ。まぁ、ガチャはそんな祈りを無視するか、物欲センサーで警戒することすら忘れている。

 そのくらい必死のアカザ。


 【インベントリウィンドウ】を見ていた限りではゲームをプレイしていた時と同じ数量、種類通りでアイテムロスト(紛失)はなかったが、銀行の保存したアイテムや農場の家に保存したアイテムがロスト(紛失)している可能性だってある。


 取りあえずアカザは【エチゴ】の銀行を探すが。

(…………どこにあるんだ銀行)

 アカザは慣れ親しんだ【エチゴ】で迷子になった。


 ゲームではキャラクターをモニター越しに上から見下ろして見ていた。そのため、遠くの物件も、建物の隣の店も確認できた。だが今は視点が低くなってしまったために視野が狭くなり、まるで昼間は知っているのに夜になると知らない道に変わったかのような感覚がある。


 そのため、銀行に行くことができず右往左往してしまう。

 かれこれ1時間近く近くをウロウロすることになった。


 裏路地や大通りを行き来しているうちに、地図を見るのをすっかり忘れていたアカザはスキル【地図】を見ることにした。

 【スキルウィンドウ】の【地図】のアイコンをクリックすると、【マップ】がアカザの視界の右上にに投影される。


 それを見ると、武器屋、薬屋などを示す記号が表示される。銀行はこの世界の共通硬貨【キャッシュ】で表示される。それを探すと自分の現在地を現す、緑色の三角が最初の入り口の大門から左側に移動しているのが分かる。対して銀行は右側であった。

 もういっそ【ペット】を呼び出して空を飛んでいこうかと考えてしまう。


「ねぇ、お兄さん。さっきからあっちこっち歩き回ってるけどここに興味があるのかい?」

「おうぇえ!?」

 突然声を掛けられて、背中と叩かれ驚くアカザ。


 何せ引きこもりである。

 コンビニ店に課金サービスでお金を振り込むことはあるが、最低限の会話しかしないのだ。突然声を掛けられれば慣れていないので戸惑ってしまう。ましてやかなりスキンシップなどしたことないアカザにとって、背中を叩かれるだけでも心臓が飛び出しそうなことである。


「え、えっと……あの……」

「入るのが恥ずかしいんだろ? もしかして初心なのかい? それとも美人に言い寄られて緊張しているのかい?」


 自身で美人と言うのはかなり傲慢で残念な感じがするが、茶化したように言うためそんなに嫌悪感はなかった。それにアカザの目から見ても彼女の言う通り美人である。

 モデルのように整った身体とパッチリと開いたネコ目。髪は耳に掛かるくらいの短さで麦色の金。跳ねてはいるが寝癖やだらしなさはなく、活発的な印象を受ける。

 それが服にも表れているようで短パンと、サラシを巻いているだけで露出が多い。そして胸をサラシで撒いているはずなのに、抑えられていないのか凹凸が分かってしまう。


 何よりアカザの目に一番印象に残ったのは、短い麦畑から生える髪と同じ色の猫耳。

 獣人。

 【フォークロア】の選択できる種族の1つであり、頭に生える耳をプレイヤーは選択できる。キツネ耳、ウサギ耳はもちろん。くま耳、犬のたれ耳、鹿の角なども選択可能。


 思わず現実では見られない本物の猫耳娘、クゥカの特徴的である猫耳を食い入るように見る。アカザはケモナーではないが、そのピンと立つ猫耳には興味が惹かれてしまう。


「なんだいあんた。もしかして獣人は獣臭いとかいう奴かい?」

 アカザが現実では見られない本物の猫耳を凝視していたことで、反感的な目で見だした獣人。

「いや、その……めずらしいなって」

「あんたどっかの田舎から来たのかい? この辺で獣人は珍しくないよ」


 【フォークロア】ではアカザの人間以外にも種族があり、基本人型なら種族選択が可能。流石にアンデット系の腐敗したゾンビや骨だけのスケルトンは実装されなかったが、獣人、エルフは勿論、ドワーフ、フェレール(妖精)、果ては魔人であったサキュバスにも選択ができるようになった。


 獣人はその中でも力と体の強靭さが売りの種族である。

 そして、アカザはもうこの時点で何かが違うと思った。

「まぁ、なんだい。都会に出て来たのに坊やで終わるなんてもったいないだろ。故郷に帰るにしても男にならなきゃ」

「……」

「と言うわけで、さー1名ご案内!」


 アカザはその違和感を考えていたので彼女の言っていることも分からず、どう答えればいいのか戸惑って声が出せなくなったアカザ。

 それを肯定と勘違いしたのか、アカザの手を取って引きづり出す獣人。


 アカザは手を引きずる彼女をNPCと考えたが、こんなに自発的でプレイヤーを強制的にクエストに参加させるNPCなど聞いたことがない。


 NPCとはアイテムを販売したり、クエストの外旋をしてくれる存在でしかなかった。だが、それはゲームの話だ。

(……仕様が変わった?)


 少なくともゲームとは断言できない。まず、クエストはプレイヤーがNPCに話しかけて受諾するのが普通である。プレイヤーを強制連行し発生させるクエストなどアカザは知らない。


 アカザの疑問を他所に腕を組んで連行する獣人。いくらステータスがふざけているほどに高くとも、いきなり女性に腕を絡めてされれば挙動不審になってしまいずるずるとある店に連れていかれる。


(ってか、胸が……)

 狙っているのだろう。たわわな胸に挟むようにしてアカザの腕を引っ張っている。いきなりの未知の体験にアカザの頭の中は、正常に働くことができなかった。


 行きついた先は5階はあろうかと言うほどに高い木造建築の店。縁側や手すりには赤い漆が塗られ、六角形の提灯が吊るされている。周りの家と比べても豪華に見えた。


 【常春】と書かれたのれんは、花屋をイメージさせる。

 しかし、その獣人に導かれるままに店内に入るが、花などはない。花屋と言うより、宿屋と言われた方がまだ納得ができる程に部屋の数が多く、所々に淡く橙色に灯るような行灯(あんどん)が置かれている。


 ゲームの時ではこの区画はオブジェでしかなく、入ることができなかったので興味が出て来たアカザ。

 そして、店に入った時番台のおねぇさん的存在がアカザたちに声を掛ける。

「この店は夜開店だよ。なんで昼間から客を連れて来てんだいクゥカ」

「いいじゃん。お相手してお金貰うんだから姉御」

 姉御と呼ばれた女性はウェーブがかかった長い紫が掛かった黒髪で、着ている着物は藍色の花が書かれている。大人の女性の雰囲気が、帯を緩ませているのか胸元が開いているせいで色香が出て魔性の女性と言う雰囲気も出ている。


「坊やも少しはわきまえてくれないかねぇ?」

 何やら責められていることは分かるのだが、どうして責められているのかが分からないアカザはもう混乱する。生まれてこの方、女の子に腕を組まれて歩いたこともないので赤面して歩き、今度はここの店長みたいな人に責められる。


「……あの、何を弁えればいいのでしょうか?」

「決まっているだろ。昼間から遊郭に入るのはろくでもない男に相場が決まっているんだよ」

 アカザはおずおずと彼女に聞くが、最初は何を言っているのだろうと思った。


(ゆうかくって、遊郭か? え。でも、【フォークロア】にそんなものないはずだろ!?)

 そもそもゲームで娼館などが出て来るゲームなどエロゲーぐらいだろう。

 【フォークロア】は全年齢対象に作成されたゲームである。そんな所に18禁要素など入るはずがない。


(ど、どういうことだ!? ゲームでプレイしていた時はここはオブジェで入れないし、ゲームの世界に入ったら遊郭だって!? せめて宿屋にしとけよ!)

 あんまりな展開に頭が混乱し続けるアカザ。


 それでもクゥカと姉御の会話は続く。

「第一金持ってそうに見えないね」

「大丈夫だよ。いざとなったら身ぐるみはがせばいいんだから。こいつが着ているの【錬金術師コート】だぜ」

「ああ、どこから来たボンボンなのかい。だったら家の方に金があるのかもね」

 このまま話が流れて行くのはまずいと思い始め、二人にばれないようにそっと後ろに身を引いて逃げようとするアカザ。


「どこ行くんだいあんた」

 話に夢中になっているかと思いきや、しっかりとこちらを見ていたらしい姉御。

「あ、あの、宿屋じゃないん、ですか?」

 しどろもどろになりつつ質問するアカザ。

「宿屋を探していたのかい?」

「……まぁ。一夜を過ごす場所ではあるね。女と男で」


 姉御は興味がなくなったようにジト目でクゥカを見て、クゥカは冷や汗を流しながら目を逸らす。

「宿屋はここから右に出て進んだところにある酒場の隣にあるよ。それよりクゥカ。あんたはちょっとこっち来な」

「ニ゛ァ゛ァ゛! 姉御そこはダメー! いだい゛」

 ぶっきらぼうに言う姉御は、そのままクゥカの猫耳を手掴みで店の奥に引っ張っていく。よほど痛いのか、悲鳴を上げながら引っ張られて行く。


 奥からは「トラブルはごめんだって何度言えば分かるんだい、この雌猫!」「売り上げに貢献しようとしただけじゃん!」と言い争いを始めた。

 アカザは、基本的にナイーブな性格のため慣れないため他人の喧嘩の怒鳴り声でもドキリとして、ドラマやアニメでも余り気分がいい物と感じることができず、姉御たちの言い争いから逃げるようにして遊郭【常春】から出て行った。

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