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廃人ゲーマー<ゲームでも異世界です。  作者: 中二ばっか
1章 終わりゆく世界にログイン
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1-10

 根暗な子供だった。

 会話の要領は悪かった。

 友達も作れなかった。

 休み時間は本を読んで過ごした。

 天才の姉と違って平凡だった。

 きっと人が平等なんてことはないことは子供の頃に分かっていた。


 何せいじめを受けていたのだから。


 なんで僕だけなんだろと思った。理由はない。1人で過ごしている所を面白がってやっていたのだろう。

 初めに受けたのは教科書が捨てられていたこと。

 次は机の上に花瓶。

 休み時間にトイレや図書館に行った時にノートや教科書、机に【死ね】と書かれた。

 机の中には【殺す】だの【クズ】、【のろま】等書かれた紙が置かれて、段々時がたってくるとゴミや雑巾を入れられていた。

 給食をお盆ごとひっくり返され、食事をせず午後の体育に出された。


 笑われた。

 壊された。

 殴られた。


 教師に言っても何もしてくれない。面倒事など誰だって嫌だろう。むしろ先生にとっては「お前が悪い」らしい。

 両親は天才の姉の方にしか関心を示さない。小学生のテストで勉強して全教科95点以上をキープしようが、高校のテストで全く勉強せず100点が当たり前。成績は全て(体育や美術、音楽を含む)最高値のオール5。


 そして学級委員長からすぐに生徒会長になるような姉。そして、誰もが容姿端麗であり、非の打ち所がないとくれば誰だってできの悪い弟の方はどうでも良くなるだろう。

 一度通学姿を見かけたが、誰からも人気者で様々な男女問わずの生徒たちが取り巻きになっていた。

 神様に選ばれたような、もしくは聖女の生まれ変わりのような姉である。


 実際に会社を立ち上げ、急成長させ、今や誰もが名前を聞かないことはないほどに大きくした。


 朝、昼、夕のご飯は500円玉が食台や自分の机に置かれているだけ。休日に遊んではもらえなかった。いつも姉のご機嫌取りでおこぼれに預からせてもらうだけだった。

 

 いじめられる理由は「自分が悪い」らしいのでそこは認めた。

 根暗で1人でなのがいけないと。

 親に心配などかけていない。

 天才の姉にしか家族と思っていないのだから。

 いじめられることを恥と思ったことはない。

 「自分が悪い」のだから。自分のせいだと自覚した。


 ただ、教科書もノートも買わなければならないほどに、色々書かれ塗りつぶされてきたので買い直さなければならなかった。お金を貯めるということはできない。だって朝、夜を500円で空腹を満たさなければならないのだから。そのお釣りも奪われることが多かった。


 だから交番まで行った。

「器物破損と暴行、窃盗、職務放棄にあってます。どうにかしてください」

 ただウザったかった。勉強の支障になりつつあった。邪魔はしないでほしかった。


 頭の知識に犯罪を犯した者は刑務所に入れられ、子供の場合は少年院に送られるということは、人気シリーズの推理小説で知っていた。そういうことが証明できれば邪魔が消えるぐらいには思った。

 その時の警察官は、お腹の痣や栄養不足気味な顔から問題だと感じたらしい。

 

 来たのは大量のマスコミ記者とかだった。

 取材させてくれとうるさかったので、自分の机を外に放り出した。

 物的証拠があれば、後はあちらが面白おかしくニュースにでもするだろう。それを飯のネタにでもすればいい。


 【死ね】と大々的に書かれ、【速く消えろ】と彫刻刀で消えないように付けられ、カッターナイフで傷だらけになった机。

 もう自分の名前を書かれたシールの部分が塗りつぶされかけていた。

 記者たちが取材させろと、それに対して教師が、お引き取り下さいと騒いでいたのが一瞬にして消え、耳が痛くなるほどの静寂に包まれていたと思う。


 次は家に担任教師と校長が謝罪文と札束を持ってきた。

 転校してくれと、これ以上騒ぎを大きくしないでくれと。

 それは謝罪じゃなくて要求してきているだけではないだろうかと、子供ながらに思った。

 そして、その時の彼らの顔はこちらを睨みつけて来ていて、怖かった印象が今にも残っている。


 別にお金が欲しかったわけじゃない。

 謝ってほしいわけじゃない。

 

 だから、学校でいじめていた主犯に謝らせてきた時こんなことを言った。


「関わらないでよ。それで解決だから」

 それでもしつこく反省しているだの、悪かっただの言って来るのでマジックで死ねと、彫刻刀で溝を作りデコボコにしてみた。


 次の日にはその主犯の机はきれいさっぱり何事もなかったかのように、新品になっていた。

 彼らなりに理由はあるのだろう。だがそれはお金がないから万引きする人、憎いから人を殺す人に全く罰を与えず、いつの間にか許されてしまっていることに思えた。


 自分は許したとも、言っていないのに。

 しかし、相手が反省しているということで何のお咎めもなかった。後日また同じことをしてきたにも拘わらずだ。


 だから、やってられるかと人生を放り投げた。転校しても根暗に誰ともかかわらず、話しかけて来る同年代の話など聞かなかった。


 学校に行って帰るだけの日々。

 世間体が悪いと思ったのか、償いのつもりか当時は子供が持つような物ではない高かったパソコンを両親に買ってもらった。それを使っているとゲームをダウンロードして、遊べるらしく、暇つぶしにすることにした。


 モンスターを倒すとお金や素材が手に入り、技術を磨くと強くなっていくのがゲームの法則。

 「フォークロア」での数値が絶対の世界が正しく思えた。


 それからめり込んでいった。

 スキルを上げて強くなっていきモンスターを倒す。

 今度はパーティ戦でダンジョンに潜って強大なモンスターを団結して倒すことができた。

 こういうのが仲間なのだと初めて知った。

 ソロや野良に飽きて来た時にギルドと言うシステムに入ってみようかと思い、できればかっこいい名前のギルドがいいなと探し、入会。


 ギルドメンバーとは沢山チャットで話した。

 馬鹿騒ぎ、愚痴、自慢、称賛。

 直接口で話し、耳で聴いたわけではないのに、物凄く笑えることができた。

 ランクが上がりずらいスキルをマスターまで育てたギルドマスターは、すごいと思った。

 他のギルドと一緒にレイドでモンスターに負けてしまった時は、ごめんなさいと言ったが叱られると思った。何せ自分があと少しで倒せると焦り敵愾心を煽ってしまい、戦場を荒らしてしまったのだから。しかし予想に反しドンマイや次は倒せると励ましてくれた。


 これが友人という物ではないかと思ってしまった。


 小学校卒業までに作れた友達はいない。テストもやる気がないので名前も書かず白紙の状態で出した。

 中学校卒業までに話した言葉は数えられるほど。休み時間は周りの声がうるさいが一人で本を読む。成績は全くしなくなったので精々中の下くらい。

 部活? 帰宅部一択。

 高校卒業は図書館の本を読みつくした後は、放課後図書館に通い本を借りて休み時間を過ごす。成績は赤点での補習が時間が潰れると思い勉強していたので悪くはなかった。

 さっさと家に帰ってゲームをしたかった。部活なんて時間の無駄。

 大学は単位を取ってレポートを手っ取り早く適当に作成した後は、【フォークロア】で遊び放題だったので楽しかった。サークル? 時間の無駄。


 だが、そこまで。


 就職活動の基盤になる「何になりたいか」など持っていなかった。

 適当な飯と部屋、衣服は別に何着も持つ必要はない。そして、インターネット環境が整えられる金があればいい。


 なにせ唯一無我夢中で真剣になれることができるのがゲームなのだから。

 20年ほど生きていれば流石に分かる。ゲームは空想であって、人を楽しませるための娯楽であって、現実ではないのだと。



 現実は正しくなくて、そんな世界に―――は居たくなかった。

 しかし、現実の―――は元から正しくない。


 根暗は社会に否定される。アルバイトの求人広告には「明るく元気な方募集」。

 友達はゲームの中だけ。現実では友達は居ない。コミュニケーション能力がないと見下される。

 勉強は適当だと我慢強くないらしい。途轍もなく修練内容がドMなスキルをマスターにしてもだ。


 社会にとっては間違っているのは―――の方だった。

 生まれた時から社会に不適切なバク。

 それが―――。



 瞳を開け、黒くなった空を見上げる。

 嫌な夢を見ていた。

 そのことからしばし呆然としていまう。


 この世界に居ると前の世界が夢のように感じてしまい、現実とゲームの区切りが分からなくなってしまう。しかし、横たわって頭をつけている地面の感触のゴツゴツがタオルを通して伝わってくる。


「アカザさん! 起きたんだね。良かったぁ」

 アカザの目が開いていることに気づき、ほっとし安堵の息をつくトゥルー。

 しかし、その横には冷たい目でこちらを見つめる人物が一人。


「全く、手間を掛けさせてくれる。暴走したかと思えば、手練れのような動きを見せる貴様は何者だ?」

 いぶかしい表情でアカザを何者か聞いてくるエルフ師匠。


「……そう言うあなたは自身が何者か知っているのか?」

「ハイエルフ、銀の風の一風。シルフィールだが」

「いや、名前とか所属じゃなくて、何がどういった存在かなんて認識によって変わるものだろ。あんたが俺を何者かって決めればいいだけの話じゃないか」

 ちなみにアカザが付けられた認識は【根暗】【クズ】【汚物】【姉とは同日の論にあらず】だが。


「……【ふざけた数のスキルを使う謎多き、弟子に欲情して近づく狼で危険人物】でいいな?」

 生まれてこの方そんな長い認識を持たれた気がする。あと、若干声に殺気が籠っている気がした。


「……もうなんとでも」

 ふざけたと言っても精々使ったのは20に届くか届かないかだ。【フォークロア】ではスキル群にもよるが最低でも10は超えている。しかし、スキル群【魔法】はその中でも10000を越えそうな勢いで、アップデートごとに追加されたスキル群である。


 その中でアカザが使ったのは初級から中級魔法までである。上級魔法や最上級魔法は使っていない。

「それより【レッドワイバーン】は、どうなった?」

「中腹辺りは一掃した。だが、山頂辺りに逃げる【レッドワイバーン】はいない」

「でも、まだいるんだよね。お師匠さま」

 どうやらアカザが気絶する前に殲滅した【レッドワイバーン】の他にも、山頂辺りにまだ居るらしい。


「というか、隠れて尾行してたんじゃなかったのか?」

「何事もなければな。だが魔法の連発で【マナ】を消費し尽くして、意思を形作る物がなくなり精神摩擦で気絶した。まだ、撃ち漏らしが数体居たので我々で止めを刺しただけだ」

 創波、この世界を形作るエネルギー。


 当然、アカザもそれで作られていく。【生命力】は肉体という器を形作り、【マナ】は精神を構築し、【スタミナ】は体を動かす原動力である。

 アカザの頭がぼんやりとしていたのは、【マナ】の消費によるものらしい。

 と言うことは、今後は戦闘中マナ、スタミナ管理にはいっそう気をつけなければならない。【生命力】があっても死なないが、【マナ】の減少で気力がなくなり、【スタミナ】の消費で体が動かなくなるなんてことになりそうである。

 難易度が上がりすぎている気がした。


(……もしかしてプレイヤーキャラクターってこんな感覚いつも受けて、俺酷似していたのか?)

 当たり前だが、現実のゲームでプレイヤーキャラクターが傷つこうが死のうが、プレイヤーは痛くも痒くもない。しかし、今のアカザの状態はプレイヤーキャラクターの体に、プレイヤーが融合したような物である。そのため、アカザの体調、空腹、痛み、感情も無視できない。


 【マナ】が切れたら回復せず、近接スキルで【スタミナ】切れになるまでゲームしていたこともある。(ポーション縛りプレイでダンジョン攻略などをしていた)

 その時の状態は、プレイヤーキャラクターは風邪を引いて、常時息切れでダンジョンの薄暗い通路を無理やり走らされたと言うことになる。下手な苛めや拷問よりきついのではないのか。


(あれ、でもプレイヤーキャラクターの体に精神や魂が入ったって設定なら、なんで顔や体格が反映されているんだ?)

 そこが一番納得がいかなかったアカザ。

 まるで中途にゲームのアカザと、現実のプレイヤーを融合したような物である。

 しかし、考えても答えは出なかった。


「取りあえず、明日山頂に向かい【レッドワイバーン】を駆逐する。異存はないな?」

「あ、ああ……」

「あと、もう一息だから頑張ろうね!」

 取りあえず、整形は特殊なアイテムでもないと無理なため、顔のことは頭の隅に置き寝ることにしたアカザ。

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