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廃人ゲーマー<ゲームでも異世界です。  作者: 中二ばっか
1章 終わりゆく世界にログイン
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1-1

踏ん切りがついてこちらでも投稿することにしました。

 目が覚める。

 先程まで居た自分の薄暗い室内とは違う所。

 燦々と降り注ぐ日光が肌を刺激する。

 口を開けば喉にも外気が触れて火傷しそうな熱を持つ。時折吹く風が砂を巻き上げ、体を叩き付ける。

 砂が幾多の小さな丘を作っているが、太陽は真上で影は短い。日陰が出来るような雲はなくどこまでも澄み渡る青空。


 そんな砂漠に1人ぽつんと佇む。


 魅力に乏しいさえない顔、目つきは焦点が合っておらず、気力がない。日に当たっていない肌は白いというより濁っている印象を受ける。体格はひょろりとしており中背は少し猫背になっている。

 全身からやる気や生気を感じない見た目を持つ、青年であった。

 だがそれも当然、青年は引きこもりのゲーム廃人である。

 外に出ることは最低限。ほとんど使わない筋肉は老人よりマシと言った程度しかない。


 夏のような日差しを浴びれば一目瞭然、弱音やら愚痴やらを独りでに呟く。

「あーぢ~。溶げるー」


 幾ら貧弱な体と精神を持つ青年とはいえ、体が蝋燭のように溶けるということはない。だが、陽炎が出るほどの砂漠の風景は見るだけで目の水分がなくなりそうなほどだ。サンサンと降り注ぐ日差しも、ただでさえ少ない気力が減少していく。


 そして、日陰を探す青年だがその足取りは重く、のろのろと動く。ボロボロの外套でも羽織っていれば亡者か、行き倒れ寸前の者に見えただろう。

 しかし、彼が纏っているのは見事な武者鎧。表現するなら場違いな落武者か脱藩が近い。無論、彼は武士ではない。


 なぜ、部屋に居たのにいきなりこんな場所に来ているのかということに思考が向かず、まず自分が楽をしたいがために日陰に探す方に思考を向けるくらいには、頭に少々問題がある人物であった。


 青年は日差しが激しく照りつける中を歩く行為は、酷く億劫である。なのに10分以上経っても、日差しの中を歩いていても余り疲労せず、汗は掻くが滝のようには流れない。砂漠の日差しを浴びている中、武者鎧を着て歩いていた。

 一日中ディスクワークに近い事をして体力が低い青年、引きこもりのゲーム廃人ができることではなかった。


「……ってか、なんで俺こんなの着てるんだ。動きにくいだけじゃねぇか」

 今さら武者鎧に気付いて脱ごうとするが、時代劇でしか見たことがない物を身に纏っている。着け方、脱ぎ方など知っている訳がなく、脱ぐのに手間取っている。

 悪戦苦闘し、胴体の剣道の黒光する胴台や肩の大袖は紐で結んでいるため脱ぎ辛い。


 そこで、青年はやっと気づいた。自分の着ている武者鎧の装飾に見覚えがある。

 MMORPG【フォークロア】で自身のキャラが装備していた、レイドボスのドラゴン8体の素材から作られる装備である【八竜】シリーズ。8匹の竜の尾が曲がったりして重なり独特な模様がある。


「……オンラインゲームの世界……?」


 そして今起きている事態を飲み込んだ青年は、感動して生まれてこの方出したことのない音量で叫ぶ。


「やったぁぁぁぁああああ!!」


 普通なら驚くところであり、狼狽するはずなのだが、慣れない日差しに頭をやられた青年はここがゲームの世界だということに気づいてからの第一声は喜びであった。

 何せここには就職活動はしなくていい。

 口うるさい親もいない。

 24時間、ログインして遊び放題。

 そして、青年が10年間やりこみ、愛着がある【フォークロア】なのだ。

 ここでゲームの世界に来たことには困惑せず、喜んでしまう程の根っからの社会不適合者であった。




 MMORPG【フォークロア】。英語で民話を意味している。

 ゲームシステムはスキル制が強く反映され、【フォークロア】の特徴としてアップデートで様々なスキルが追加されていった。


 普通のMMORPGのスキルは職業ごとに習得できる物が限られていたり、ツリー型というスキルの能力を成長させ、成長する方向性によっては習得できないスキルも多いが、【フォークロア】はランクアップ型になっている。


 基本的にキャラが使用できるスキルは、習得条件を満たせば全て取得可能になる。種族の違いやイベントの期間限定のスキルも在るため、取得できないスキルも存在する。

 遅くとも3か月、早いときには2週間後にはアップデートによって新しいスキルが追加されており、それがランクアップして徐々に強くなっていくのが達成感を青年に与えていた。


 なので青年は、新しく追加されていくスキルを片っ端から習得し、スキルランクを上げていく。そのために、小学生の時から青年は【フォークロア】を放課後、休日、祝日などに注ぎ込んでいた。


 そして、スキル制MMORPGの特徴として、他のMMORPGにある職業の概念がない。

 スキルランクが上がると同時にステータスが上がり、その合計が【総合戦闘力】と表示され、【フォークロア】ではそれがキャラのLVに代わる強さになっている。


 他にも課金アイテム、イベントの豊富さ、アクション性の高い戦闘システムで人気が続き12年もの間続いていたオンラインゲームである。


 しかし、グラフィックの向上により映画のような迫力が出た他のMMORPGとは違い、【フォークロア】は10年前のままのグラフィック。3Ⅾポリゴンでアニメのキャラのような可愛らしさをしているものの、可愛らしさなら絵師によるソーシャルゲームの方が綺麗で可愛いだろう。


 更にスキル制なので初心者は、ゲームのプレイ時間をつぎ込まなければ古株に追いつけず、手軽には強くなれない。一応、イベントや課金サービスによる救済措置も設けられた。だが、イベントは期間が短く、課金は料金が高いのでそれ程功を奏した訳ではなかった。


 そんな中で廃人どもが、バンバン高火力を出しているのを見ていれば、同じように初心者も高火力を出そうと必死になってキャラクターを育てようとする。

 だがそんなのは最初だけで、ランクアップの作業じみた事を永延と繰り返すことに付いて行けず、繰り返す作業に精神的に辛く心が折れる。

 そして、プレイヤーの廃人度、総合プレイ時間1000日などざらなことに顔を引きつって、他の手頃なゲームに乗り換える。


 そんなので人気が徐々に薄れていった【フォークロア】もサービス終了になり、閉鎖することになった。

 しかし、それでも意地悪くプレイする青年は、最後なのでやれるとこまでやってしまおうと、閉鎖の報告をホームページで見た後もプレイし続けた。


 銀行がカンストするくらいのキャッシュ(【フォークロア】のゲーム上のお金)をつぎ込み、レア装備をかき集め【農場】の倉庫に押し込み、スキルランクは元々最大値の100なので、ソロレイドをして記録を残していった。とはいえ流石に1人ではどうしても勝てないレイドボスも居た。


 そして、閉鎖日。

 最早習慣のようにパソコンを起動して、【フォークロア】にログインする。

 青年のメインキャラクター【アカザ】


 青年がアカザと言う植物を家に在った辞典で見た時に、漢字がかっこいいと思ってそのキャラの名前となった。


 そして、青年はキャラクター【アカザ】でログインし、10年間仮想の世界で冒険をし続け、最終日に何をしようか考えた。

 最後なので見納めにこの世界の景色を見て回る事にした。そして、パソコンの画面上に映る景色を見るうちに、涙が出て来てしまう。


 最初の村ではモンスターの出現場所が分からず、フィールドを歩き回ったのを思い出した。

 鍛冶のランクを上げるために素材を集め回っていた洞窟は、ウンザリしていたはずなのに、レアな鉱石が出ると思わず叫びそうになった。

 レイドボスは生憎前にボスラッシュしていたので会いに行かなかったが、フィールドボスが現れて攻撃しかけたら、危うく死にそうになったが倒した。昔なら瞬殺されていたのに自分のキャラも強くなったものである。


 10年分の思い出が消えていくようで怖かった。

 無駄なことしてきたことは青年も分かっている。

 ゲームをしている時間を勉強・就活に回せと親に何度も言われた。

 クラスメイトには時代遅れのゲームと嘲笑された。


 だけど、少なくとも青年にとっては素晴らしい時間をくれた、夢中になれた素晴らしい世界だったのだ。


 そんな世界ももうすぐ終わる。

 明日からどうしようかと考えるが、結局他のMMORPGをダウンロードしてプレイするくらいしかない。それと同時に、就職斡旋所で金を稼ぐ手段を見つけなくてはならない。


 はぁ、と大きなため息をつきた時、閉鎖時間になり画面が真っ黒く消えた。部屋も電気を付けておらず夜でPCのモニターも光源だったので室内は真っ暗になった。

 この【フォークロア】の世界が終ったのと同時に、いきなり強い立ち眩みにあったように視界は暗くなり、頭が働かなくなる。


 そして、立ち眩みが治ると視界には地平線まで砂漠の荒野。先ほどまで居た室内とは打って変わって暑い気温と熱い日差し。

 地球の青年は【フォークロア】で【アカザ】となった瞬間であった。


「で、どうしよう」

 流石にこの状況に危機感を抱いたのか困り顔になったアカザ。


「装備とかゲームみたいに一瞬で着替えることとかできないのか?」

 ゲーム感覚で装備を変更出来ないことに疑問が浮かんだ。現実的に考えて衣服がいきなり消えたり、数秒の時間を掛けず着替えていたりできるのはおかしいが、ここはゲームの世界。しかもファンタジーゲーム。何が起きても不思議はないだろうと都合よく判断した。


 もっと他にやる事がないか、と自分でも思う。何も準備もなくいきなり砂漠に放り出されて生きていけるかと言われれば、青年はまず不可能と答える。

 だが、この世界がゲームの世界なら話は別である。なにせ、ゲームの中で餓死で死ぬことなど、そうそうない。例え空腹だったとしても、行動不能に陥ったりしない限り何とかなるはず。どれだけ、それこそ5時間ぶっ続けて駆け足で走り続けることが可能な世界なのだ。


「と言うか装備とか銀行とか普通にどうなってるんだ? 課金サービスなんかもこの世界でどうなっているのか分からないし」

 これがゲームの世界であるのなら、今後課金サービスはどこですればいいのかと思い始めた。ゲームの通貨と現実の通貨の価格はまるっきり違うし、公式サイトもどこからアクセスすればいいのか。


「あーあ。こんな事になるんだったら親から前借でもして課金した後、ばっくれればよかった。いや、使えないなら無駄か?」

 家族との会話すら最小限しかしない引きこもりが、砂漠のど真ん中で1人で居たせいだろう。遠慮なしで独り言が多く呟かれる。


「せめて【ステータスウィンド】が見らればな」


 そして独り言を呟いた瞬間、目の前に【ステータスウィンド】が突如現れた。


「うぉ!?」

 いきなり物が現れて驚く月夜見だが、水色の枠に様々な表示や文字が書かれている者には見覚えがあった。


[名前 アカザ]

[種族・人間/性別・男]

[職業称号・マスターサムライ▼]

[職業才能・鍛冶]

[ステータス][LV 1000]

[STR 9982 DEF 9867 INT 9895 DEX 9963 AGI 9971 WILL 9896 MND 8967 LUK 8172]

[生命力 9991]

[マナ 9816]

[スタミナ 9948][満腹感 90%]


 改めてみると酷い物である。

 職業補正や装備補正があるってもステータスの数値がほぼカンストに近い。

 【フォークロア】のアカザのステータスであり、ゲーム時代と変わっていないことに安堵する。初期のステータスでは、この砂漠すら越えることは出来ない。だが、この数字ならば余裕で横断すら可能だ。


 それにゲームのように復活できず、現実と同じく死んだら終わり、であれば自身が強いことに越したことはない。少なくともこの砂漠に出現するモンスターには、ゲーム時代と同じならば、対処可能なことにほっと息を吐いた。


 しかし、次にアカザが思ったのはなんで【ステータスウィンド】が目の前に現れたのかという疑問。


「装備ウィンド」

 と同じように呟くアカザの目の前には何も現れなかった。

 なんでかと考えてみると、【フォークロア】では装備ウィンドウと言う物はない。


「【インベントリウィンド】」

 もう一度期待を込めて言うと【ステータスウィンド】の上に重なるように【インベントリウィンド】が出て来た。現在の装備と隣に所持品が表示される。

 そして、現在の装備を人差し指をカーソルに見立ててタッチしドラッグ。隣に空いた所持品の欄に入れる。

 すると脱ぐのに戸惑っていた【八竜《胴》】がテレポートでどこかに飛んだようになくなった。


「あぢっ!?」

 それと同時に上半身が外気に晒され、思った以上に日差しが強い。幸い、ステータスがカンストまで上がっているためか、火傷にはならなず痛みもそれ程ではない。これが現実なら40度を超す熱に肌が焼かれ続けるような事態。


 急いで所持品の【錬金術師コート】を装備するためにドラッグする。すると今度は装備していた【八竜《篭手》】【八竜《脛当》】の中に無理やり入るようにして、紅いコートと白いYシャツと黒いズボンがテレポートでもしたように装備された。

 後は【八竜《篭手》】【八竜《脛当》】もドラッグしていけばいい。

 

 そう思っていたがいきなり後ろから衝撃を感じた。



 砂から何かが出て来た。

 まるで、装備を変更して防御力が低下したのを狙ったかのように、アカザの背中に狙いを定め毒針を後ろから突き刺す。


「あいだっ!?」

 だが、アカザにその毒針は通じない。

 アカザのDEFはカンスト目前の9000以上なためか、金属部分などない【錬金術師コート】さえ鋭い毒針を通さない。毒もWILLと【毒物抵抗】のスキルによって状態異常にはならない。精々後ろから勢いよくド突かれたぐらいで、バランスを崩しただけである。

 不意の一撃を何とも思わない動物に驚愕したモンスター。


 いきなりの後ろからの衝撃に振り替えると褐色のサソリが居た。ただしサイズが現実の10倍以上の大きなになっており、生物的嫌悪感も10倍になってしまう。

 黒光りした丸い目、アカザの身長ほどもある大きな鋏、鋭くフックのように曲がった尾針。鳥肌が立って悲鳴を上げ、腰を抜かして座ってしまう。


「ひぃ!?」

 現実さえ、いきなり蜂やゴキブリなどの害虫が目の前に来たら鳥肌が立つアカザ。一刻も離れようと、座ったままの状態で必死に手足を動かし後ずさりしようとする。が、地面が砂なので掘ってしまい、あまり動いていない。


 あまりな絶望的状況に涙が出て来てしまった。

 そんな様子に好機と思ったのか、鋏でアカザを両断しようと大きく広げ、逃げ惑うアカザを挟む。このまま胴体を挟み斬ろうとしたモンスター【デザートスコーピオン】だが、自身の鋏の根元が悲鳴を上げた。


 まるで金剛石でも斬ろうとしているように、目の前の獲物が固い。

 もう何が何だか分からず、さっさと捕食しようと鋭い牙と間接的な口を開いて齧り付こうとした【デザートスコーピオン】であったが、それがなければ、食えない無機物と判断しておけば死ぬことはなかった。


 アカザは【デザートスコーピオン】が怖くて仕方なかった。なので一刻も遠ざかりたいものが喰おうと近づいてきたのだ。一刻も早く逃げたい、遠ざかりたい一心で【デザートスコーピオン】に【キック】を放つ。


 動作としてしては最悪で、力も何も籠っていない。現実なら、押しのける事さえ出来ないだろう。しかし、それはstr 9000以上の【攻撃】の【キック】なのだ。

 その足底に触れた【デザートスコーピオン】は10メートルもぶっ飛ばされ、自身の【生命力】を0にした。


「ぶふぇ?」


 展開に付いて行けないのはアカザも同じであり、数秒動くことが出来なかった。

 そして、仰向けに死んでいる【デザートスコーピオン】が黒い霧上に解けて消えることで、やっと動くことが出来た。


 何度も見たことがある光景。

 モンスターが死んで、魔素となって消えていくのを思い出した。

 そして、自分はそこらのモンスターが束になっても数秒で殲滅できるキャラだったことを思い出す。


「す、すげぇえええ!」

 本当にゲームの世界だということに歓喜したアカザ。先ほどまでモンスターに襲われたことなど忘れているように。

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