間抜けな声
その日も、いつも通りの様な、そうでないような時間を過ごす。
気が付けば部活の時間で、俺_桜田縒空はオカルト部の部室である空き教室へと向かう。
ガラリ、と音を立てて扉が開く。
中にはもう既に部員が揃っていた。
「おー、来たな縒空。」
最初にそう声を掛けてきたのは顧問の宮古新志先生。
「ども、遅くなりました。」
「あー、大丈夫だよ。さくたん、最後ではあるけど揃い始めたのついさっきだし。」
「つか、美沙希が来たのがついさっき。」
部長の星月美沙希先輩がにこやかに言うと、それに鳥海舞歌先輩がしれっと付け足した。
「わー、まいちゃん、それは言っちゃダメだってー。」
「誰がまいちゃんだって?それ、やめろって何年言い続ければいいんだ?」
「しょーがない。舞ちゃんだもん。」
「おい。春花…」
美沙希先輩に便乗するモト春花。名前も変わってるが、本人も変わってる。
「縒空、これあげるー。」
「あ?…なにこれ。」
「ざきたんの作ったクッキー。」
「力作ですよー!」
「…サル?」
「クマですっ」
黒川千代が差し出す、少し黒いクッキー。
俺の率直な意見に対して、製作者の崎田一樹による抗議。
「結構、美味しいんだよ。」
「黒いんだけどねェ。」
「黒いのは…す、すみませんでした…」
高橋藍と副顧問のマドレーヌ鬼坂先生も食した後らしい。
それにしても、と荷物を開いている机に置きながら考える。
今年からの藍や鬼坂先生はすごく馴染んでいる。
ほんの一週間前は、ここにもう一人いたんだ。
そう思うと、何となく不思議な感じがした。
欠けているはずなのに、揃っている。
そんな感じがした。
「おーい、さくたーん?どうしたー?」
「あ、いや…何でもないっす…。」
呼びかけられ、我に返る。
いつも自分が使っている席に腰掛け、教室を見渡す。
オカルト部、なんてのは名ばかりの部活。
やることは特になくて、各々好きなことをやっている。
絵をかく崎田、それを覗きこむ美沙希先輩。
机に突っ伏し、昼寝を始める舞歌先輩。
何の話をしているのか、よくわからないけど、盛り上がっている先生方と藍、それから春花。
千代は崎田のクッキーをポリポリと食べていて、それを物欲しそうに時雨が見ている。
「…え…?」
自分の個々の解説に、そんな間抜けな声が漏れる。
「どうしたの、縒空。…しぐれん、欲しい時は言ってくれれば…ん?」
俺の視線で千代が振り返りながら、やはり、俺と同じように間抜けな声を出す。
「だーって、どうせ言ったって聞こえないしー…って、は?」
そして、驚きの元が俺たちの様に呆けたような顔をする。
千代の少し後ろには、死んだはずの部員、卜部時雨が浮遊していた。