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「おう、流石に明かるいとこで見ると酷い顔だな。汗まみれだし笑顔がひきつってますよー、立花 真さん?」
立花真。タチバナマコト。
女っぽい名前だが、残念な事に俺の名だ。
しかし異常事態だからと言って一人で鏡の中の自分に話しかけるとは、相当にヤバイくないか?
しかも場所が場所な訳でいくら照明があるからと油断は出来ない。
いや、今更誰かに見つかったところでアレを止められる訳がない、要するに救いを望むなんて無駄って事だ。
蛇口から出した水で顔を洗い、ジャージで拭う。
ボサボサだった髪も軽く整えると、大分マシになった。
顔は良いと言われる、黒い目は綺麗だとも言われるのだが、何々『は』とはつまりそれ以外が残念って訳だろうな……現実とは悲しい。
実を言うと俺は女が苦手だ。女が嫌いと言う訳ではなく、女っぽい名前からのコンプレックスが影響している。
例えば妹から真ちゃんなんて呼ばれると、俺は妹をピカリ君と呼んで差し上げ罵り愛するのが立花真さんの日常である。
しかしそれが赤の他人、クラスメイトから言われたらそうは行かない。
真面目な顔で止めて欲しいと頼んだつもりでも、何故だかごめんねなんて謝られ後日から距離を置かれる訳だ。
そして女子のグループってやつにそれは伝染する。
平和な学園の平凡な一クラスだから悪意はないんだろうが、今の状況と同じく俺は孤立していた。
要するにぼっちである、一つ下の妹くんが居なければ毎回一人飯になってしまうようなぼっちが立花真、やはり悲しいがそれが俺だ。
頭が冷えた筈なのにネガティブな考え方しか出来ない、こんな女々しい性格も女子に距離を置かれる要因の一つなんだろうか?
…………いや、今更過ぎる。冷静になればなる程アレから逃げるのが無理に思えて、トイレに逃げ込んだのが間違いに思えて来た。
ここはこれ以上逃げ場がない袋小路じゃないか、もしもこんな場所で襲われたらどうなる?
詰んでいる、詰んでいるがこれ以上どこに逃げろって言うんだよ。永遠に走り続けるなんて事、人間には無理な芸当だ。
なら覚悟を決めるしかない、決死の覚悟ってやつをな。