第八十六話 ラランを睨む赤き眼 明かされたSの正体!
ニーズヘッグとカーマオの戦いはニーズヘッグの完勝で終わった。そして遂にブラッド・レクイエム社の機械鎧兵士の一人、Sとラランの試合が始まろうとしている。ところが、試合の直前で棄権するはずのラランが試合を行うと言い出す。反対していたヴリトラ達だが、これからもラランが自分達と共に戦う為にも、Sと戦う事を決意し、ヴリトラ達もそれを見守る事にするのだった。
試合場へと上がって行くラランを見守るヴリトラ達。観客席でもSと戦おうとするラランを真剣な目で見つめるオロチとファフニール、そして心配そうな目で見つめるアリサの姿があった。仲間達に見守られながらラランは先に試合場の上に立つSと向かい合う。審判は二人が試合場に上がり向き合うのを確認して観客達の方をグルッと見回した。
「それでは、準々決勝第四試合を執り行います!我がレヴァート王国騎士団の遊撃隊に所属するララン・アーナリア選手と容姿やその素性が全て不明なS選手です!」
審判の説明を聞いた観客達は歓声を上げる。だがその中にはSに対する不安を訴える者もいた。前の試合で姫騎士を殺害したのだから、Sをよく思っていない者がいても不思議ではない。Sはそんな観客達の事も気にせずに目の前で突撃槍を握りラランを赤く光る目で見つめていた。
「相変わらず、やかましい連中だ。しかも次の相手も女騎士となればますます気分が悪くなる。全然本気で戦えない・・・満足出来ない」
今回の戦いや前の戦いで強者と戦えなかった事に不満を感じていたのかSは機械音の声でラランを見つめながら言った。そんなSを見ていたラランはジッと鋭い目で見つめながら口を動かす。
「・・・戦いを楽しむなんて、頭のおかしい人がする事」
「言うじゃないか、小娘」
「・・・前の試合でサラ殿を殺したのに、何も感じないの?」
「サラ?・・・ああぁ、あの女騎士か。何も感じないな、あれはアイツが弱かった事が原因で招いたアイツの運命だ。戦士として、戦う相手の死に後ろめたさを感じているような奴は長生き出来んからな」
「・・・最低。それは貴方がこれまで多くの人を殺して来たから?・・・それとも、貴方がブラッド・レクイエムの機械鎧兵士だから?」
「!」
ラランの口から出たブラッド・レクイエム、機械鎧兵士の言葉にSは反応する。どうやらヴリトラ達の推理通り、本当にSとZはブラッド・レクイエム社の機械鎧兵士の様だ。Sは自分達の正体を知るラランに少し驚いたが、直ぐに落ち着いてラランとの会話を再開した。
「・・・俺達を知っているとは、お前、ただの小娘ではないな?」
「・・・私は、今までにリンドブルム達と一緒に戦ってきた。貴方達の事も聞いたし、貴方達の仲間とも戦った」
「ほぉ?それは驚いたな。・・・となると、ゴルバンの町を占拠した我等の小隊やフォルモントの森のエント隊を倒したのも、やはり七竜将とお前だったのか?」
「・・・・・・」
Sの質問にラランは答えず彼を見つめたまま黙り込む。黙秘するラランを見てSはフードの下から赤い目を光らせながら不気味に笑い出した。
「フフフフフ、これは予想外の事が起きた。まさか七竜将の仲間である騎士と戦う事が出来るとは。奴等の仲間なら多少は楽しませてくれるんだろうな?」
「・・・そんなの知らない」
「フッ・・・。まぁ何にせよ、七竜将の仲間なら生かしておく訳にもいかん。この世界の住人で我々の事を知る者がいると何かと面倒なのでな」
Sはマントの中から黒く光る機械鎧の両腕を出し、握り拳を作って構えた。ラランも構えるSを見て突撃槍両手で持ち、構えながら鋭い視線でSを睨む。その様子を試合場の外で見ていたヴリトラ達も鋭い視線でSを見つめている。
「鉄の機械鎧、やっぱりアイツとZはブラッド・レクイエムの機械鎧兵士だったんだね」
「ああ、それにエントと同じ幹部クラスの機械鎧兵士って事も分かった。かなり手強いはずだ!」
「大丈夫なのか、ララン・・・」
力の入った声で話すリンドブルムとニーズヘッグの隣でラランを心配するラピュス。するとヴリトラがラピュスの肩にそっと手を置いた。
「心配するな、ラピュス。本当に危なくなったら俺達が助けに行くからさ」
「ヴリトラ・・・」
優しい声で言ってくれたヴリトラの顔をジッと見つめるラピュス。二人が見つめ合っていると、リンドブルムがジト目で二人に声を掛けてきた。
「ちょっと二人とも、これからラランが命がけの戦いをするっていうのに、何をそこでイチャイチャしてるの?」
「不謹慎だぞ?」
リンドブルムに続いてニーズヘッグもジト目で二人を見ながら言う。ヴリトラとラピュスは二人の声を聞き、フッと驚きながらリンドブルムとニーズヘッグの方を向いた。
「だ、誰がイチャイチャだ!?」
「俺達がそんな空気の読めないような事をすると思うか?」
「思うから言ってるんだろう?」
「うんうん」
「ひでぇなぁ・・・」
自分達のそんな気持ちは無いのにイチャついていると思われた事にショックを受けるヴリトラは肩を落とす。ラピュスは頬を少し赤くしながらそっぽ向いて二人から目を反らす。
「と、とにかく!今はラランが無理しない事を祈りながら戦いを見守る事が大切だ」
「・・・確かにそうだね。無理をしないといいけど」
少々強引に話を戻すヴリトラを見ながら、試合場へ視線を戻るリンドブルムとニーズヘッグ。ラピュスも真剣な表情に戻り試合場を見つめた。試合場では審判が二人から距離を取り、準備の整った二人を確認すると両手を上げる。そして少し時間を空けて勢いよく両手を振り下ろす。
「始めっ!」
審判の合図で試合が始めり、観客席から歓声が闘技場全体に広がっていく。その歓声の中でラランは突撃槍を構えてSを見つめ、出方を待っていた。そしてSも構えたまま動こうとしない。お互いに相手が動くのを待っているようだ。
「・・・・・・」
「フフフ、どうした?攻めてこないのか?」
「・・・貴方達に迂闊に攻撃したらどうなるか分からない。だから慎重に行く」
「用心深いな。いや、臆病と言うべきか?」
Sに挑発されるも、ラランは表情を変える事無くジッと構えたまま動こうとしない。しばらく試合場に沈黙が続き、ヴリトラ達やオロチ達もピクリとも動かないラランとSを見つめていた。
「・・・フン、これ以上待っても進展がない。先に行かせてもらうぞ」
痺れを切らしたのか、Sが先に動き出した。Sは両手を素早くマントの中に戻し、再びマントの外に出すと、その手にはクナイが握られている。前の試合でサラを倒した時に使った物だろう。それを見たラランは目を見張って一瞬驚きの顔を見せる。
「前の試合の女みたいに直ぐに終わらないでくれよ?」
Sはそう言って両手に持っている二本のクナイをラランに向かって勢いよく投げた。クナイは刃を光らせながらラランの方へ真っ直ぐに飛んで行き、ラランは向かって来るクナイを突撃槍で弾く。弾かれたクナイは宙を舞いゆっくりと試合場に落ちて行く。だがクナイが試合場に落ちる瞬間にもの凄い速さで何かに引っ張られる様にSの方へ戻って行く。恐らくクナイに結びついているワイヤーを巻き戻しているのだろう。引っ張られるクナイはSの手の中に納まり、Sは突撃槍を構え直したラランを見つめた。
「やるな、今の一撃を弾くとは・・・」
「・・・サラ殿の試合で見てたから」
「フフフ、そうだったな?なら、今度は前の試合で使っていない戦術で戦うとしよう」
笑いながらSは握っているクナイを離した。クナイは真っ直ぐ刃を下にして落ちて行き、試合場に落ちるように思えた。だが、切っ先が試合場に触れる直前にピタリとクナイは宙に浮いて止まった。その光景にラランは驚いてクナイを見つめている。しかし、実際クナイは浮いているのではなく、Sが持っているワイヤーに吊るされているだけだった。ラランも薄らと見えるワイヤーに気付いてつまらなそうな表情に変わる。
ラランの表情を見てSは再び目を赤く光らせ、持っているワイヤーを縦に振り回し始めた。それと同時にワイヤーで結ばれているクナイも勢いによって回り出す。クナイはSの側面で勢いよく円を書きながら回りだし、それを見てラランは表情を驚きの表情へと戻す。
「さて、この戦術をどう凌ぐのかな?」
Sはクナイの付いたワイヤーを振り回してラランに向かって歩き出す。クナイの刃は外を向いており、迂闊に近づけば切り刻まれてしまう。ラランはそれに気づいて突撃槍を構えて一歩後ろに下がる。
「・・・クッ!」
緊迫した様な表情でSを見つめるララン。そんな彼女を見ていたSはワイヤーを振り回しながら歩き続けている。
「どうした?攻めてこないのか?だったら、また俺から行くぞ!」
そう言ってSは左手で振り回していたワイヤーをラランに向かって投げる。遠心力でクナイは勢いよくラランに向かって飛んで行き、それはなるで西部劇の投げ縄の様だった。ラランは飛んで来たクナイをまた突撃槍で弾き落とす。だがその直後にSがラランに素早く近づいて右手のワイヤーに鞭の様にしならせて攻撃した。ワイヤーはラランの左上腕に当たるも、ワイヤー自体は普通の物で怪我は無い。しかし先端に結びつけてあるクナイがラランの上腕を掠り、小さな切傷を作った。
「うっ!?」
腕から伝わる痛みに声を上げるララン。そこへSの更なる追撃が入った。Sは左手のワイヤーももう一度振り回して勢いをつけると、右手のワイヤーの様に鞭の様にして攻撃する。こちらもワイヤー自体には細工は無いが、先端のクナイがラランの太腿を掠めて当たらな切傷を生み出した。
「くうぅ!」
また攻撃を受けたラランは目の前に立つSを突撃槍で突き反撃する。だが、Sは素早く後ろに跳んで突きを回避し、ラランから距離を作った。一瞬の間に上腕と太腿に傷を負ったララン。そんなラランを見ていたヴリトラ達にも緊張が走り、微量の汗を掻いていた。
「完全に押されてる・・・」
「無理もないよ、相手の攻撃方法が分からないんじゃ反撃のしようがないもん」
「しかもアイツは幹部クラスの機械鎧兵士だ、どんな内蔵兵器が機械鎧に仕込まれているのかも分からない。・・・やっぱり無謀だったか」
ラランのが不利な状況を見て表情を曇らせて心配するラピュスとリンドブルム。そしてラランを止めるべきだったと後悔しだすニーズヘッグ。しかし、ヴリトラだけは表情を変えずにジッとラランを見つめていた。
「ラランは大丈夫だ。俺はそう思ってる・・・」
「思ってるって、そんな根拠の無い・・・」
「初めて戦う相手に根拠も勝機もあるか?どんな戦いでも100%の勝利や敗北は無い。それにラランは俺達と一緒に戦う為に、ニーズヘッグが次の試合で戦いやすい様にする為に試合に出たんだ。アイツの意思を無駄にしない為にも、俺達はこの試合を最後まで見守るんだ。何より、仲間として見守っている俺達がラランを信じないとマズイだろう?」
ヴリトラの真面目な話を聞いているリンドブルムはジッと彼を見つめた後に目を閉じ何かを考え込む。そして次に目を開くと力強く頷いた。
「そうだね、僕達はラランを信じて行かせたんだもん。その僕達が不安になったりしたらそれこそラランの思いを無駄にする事になっちゃう!」
「まったく、お前って普段はチャラチャラしてるのに時々こんな風に真面目になる時があるからなぁ」
「そうやって戦っている時に真面目な分、日常では抜けてところが表に出ているのだろうな?」
「ガクッ!・・・ラピュス、お前褒めてるのか?貶してるのか?」
最後のラピュスの言葉を聞いたヴリトラは膝を折ってその場で体勢を崩し、ラピュスをジト目で見つめるのだった。そんな二人のやりとりを苦笑いで見ているリンドブルムとニーズヘッグ。そして四人は直ぐに真剣な表情に戻り、試合場のラランを見守るのだった。
当のラランは未だにSのワイヤー付きクナイの攻撃に苦戦していた。Sの手元で回転している時は盾となり、投げた時は刃となる。攻防一体のその武器の攻略方法が分からずに只々突撃槍で防ぐしかなかった。
「・・・ハァ、ハァ、ハァ」
「どうした?試合が始まってからまだ数分しか経っていないのに、もう疲労が出て来たのか?」
「・・・ううぅ!」
「いくら姫騎士と言っても所詮は子供、大人で機械鎧兵士の俺とでは体力が違い過ぎるのだ」
Sの言うとおり、いくら騎士と言えどラランはまだ十一歳の子供。機械鎧兵士との攻防を長時間繰り返せば先に疲労に襲われるのは当然ラランだ。更に機械鎧兵士は体内に様々なナノマシンを投与しており、その中には疲労の回復力を高める物もある。身体能力、使用武器、戦況、全てにおいてラランは不利な状況にあった。
「機械鎧兵士である俺に正面から挑んで来た度胸は褒めてやる。だが、所詮この世界の人間が機械鎧兵士に挑むなど無謀な事だったのだ」
「・・・そんなの、まだ分からない」
「フッ、威勢がいいな?ならそろそろ終わらせてやる、恨むなら俺と戦おうなどと考えた自分の甘さを恨め!」
Sは振り回してるクナイを再びラランに向かって投げた。ワイヤーは真っ直ぐにラランの方へ飛んで行き、ラランは飛んで来たクナイを突撃槍で弾き落とす。そこへSが素早く接近し、前と同じようにクナイの付いたワイヤーを鞭の様にしてラランの頭上から振りおろし攻撃して来た。ラランは咄嗟に後ろに下がってクナイをかわすも、クナイの刃がラランの頬を掠めて新たな切傷を作り出す。痛みで表情が歪むラランであったが、素早く突撃槍で反撃に出た。だがSは突撃槍の突きを軽くかわしてラランの顔に頭突きを撃ち込む。
「ううっ!」
突然の頭突きをまともに受けたラランは仰向けに倒れる。そしてSは倒れたラランの鎧を右足で踏みつけ、左足は突撃槍を握っている右前腕の上に置き完全にラランの動きを封じた。
「うっ、ううっ!」
体と右腕に掛かる重さに声を漏らすララン。空いている左手で胸の上に乗っているSの右足を掴んで退かそうとするも、ピクリとも動かなかった。苦痛で歪むラランの顔を見下ろしながらSは愉快そうに笑った。
「ハハハハ!安心しろ、俺は弱い者を甚振る趣味は無い。前の試合の女騎士と同じだ、苦しまない様に殺してやるぜ」
ワイヤーを巻き戻して両手にクナイを持つSはラランを見下ろしながらクナイの刃を光らせる。ラランはそんなSを見上げながら歯を食いしばって彼を睨み付けた。
「マズイ!アイツ、ラランを殺る気だ!」
「ララン!」
ニーズヘッグとラピュスが殺されそうになっているラランを見て声を上げる。ヴリトラとリンドブルムも緊迫した様子で森羅とライトソドムに手を掛けていた。
「クソォ、俺が行く!」
ヴリトラは森羅を柄を握り、いつでも抜けるようにして走り出そうとする。すると、突然リンドブルムが何かに気付いて声を出した。
「・・・ッ!待って!」
「ッ!?何だ?」
足を止めてリンドブルムの方を向くヴリトラ。ラピュスとニーズヘッグもフッとリンドブルムの方を向いた。
「どうしたんだ?急がないとラランが殺されてしまう!」
「・・・ララン、何かをするつもりだよ」
「「「え?」」」
リンドブルムはラランの方をジッと見て話し、三人の一斉に試合場の方を向いた。試合場の上ではラランが仰向けのままSを睨んでいる姿があった。だがよく見ると、ラランの髪が微かに揺れており、試合場で風が舞っている様にも見えた。
「な、何だあれは?」
「試合場に風が集まっているようにも見えるな・・・」
「・・・ッ!まさか、ラランは気の力を?」
ラランが何をしているのかに気付いたラピュスはハッと顔を上げるヴリトラとニーズヘッグもラピュスの言葉に反応して彼女の方を向く。リンドブルムは一人、ジッと試合場を見つめながらホルスターのライトソドムを抜いて強く握っている。
試合場の上では突然舞い上がった風にSが驚いて周りを見回していた。
「な、何だ、突然風が・・・」
ラランを踏みつけながら戸惑いを見せるSを見てラランは右手に持っている突撃槍を強く握ったまま、Sに気付かれないように手首だけを動かして槍先をSに向けた。そしてラランが目を見張って何かに意識を送り込む様にした瞬間、風はラランの突撃槍に集まりだした。
「んんっ!?お前、何を・・・」
「・・・くらえ、突風霊鳥刃!」
ラランが新しい技の名前を口にした瞬間、突然突撃槍に纏われていた風が周囲に広がりラランを踏みつけているSを吹き飛ばした。
「ぐおおおぉ!?」
突然起きた突風にバランスを崩したSは大きく飛ばされた。それと同時にSが羽織っていたフード付きマントも突風で破れてSの体から離れた。宙を舞うマントを目で追うヴリトラ達は直ぐにSの姿を確認しようと視線をSの方へ向けた。そして試合場の上で両腕と両足が黒い機械鎧となっており、黒と赤の特殊スーツを纏い、ドクロをモチーフにした鉄のフルフェイスマスクを被っている一人の機械鎧兵士の姿を見つけた。観客達もマントを外したSの姿を見てざわめいている。
「あれがSか・・・」
「やっと正体を見せてくれたな」
Sの姿を見つめるヴリトラとラピュス。二人の隣ではリンドブルムがジッとSを見つめており、ニーズヘッグも真剣な表情で見ていた。試合場のラランも立ち上がって突撃槍を両手で握り、構えながらSを見つめている。Sはラランの事を気にしていないのか、普通に特殊スーツに付いているホコリを手で張らっていた。
「・・・大したものだ、あの状況で俺を吹き飛ばすとは。それが噂で聞いた騎士達の使う気の力と言うものか?」
「・・・そう。それで、それが貴方の本当の姿?」
「その通り。改めて自己紹介といこう・・・俺はブラッド・レクイエム機械鎧兵士隊、特殊工作部所属、『スケルトン』だ」
「・・・スケルトン?」
Sの正体と本当の名を知ったラランは威圧感の様な物を感じて構え直す。そう、彼のSはSkeletonの頭文字を取ったものだったのだ。
「小娘、あの体勢で俺を吹き飛ばし、俺の正体を明かすとは大したものだ。だが、おかげで俺はもう正体を隠し必要も無くなり、機械鎧の内蔵兵器も自由に使えるようになったのだ!」
スケルトンはそう言って右腕の機械鎧を前に突きだした。すると、右前腕部の装甲が全て動きだし右手の形を変えていく。突然右腕が変形していく光景に驚くラランと審判。ヴリトラ達も緊迫した表情を見せて、観客達も驚いている。やがて、スケルトンの右腕は変形を終えて先端が丸ノコへと変わった。
「・・・ッ!腕が、変わった」
「光栄に思え、ただの人間ごときが機械鎧兵士の内蔵兵器で殺されるのだからなっ!」
そう言ってスケルトンは地を蹴ってラランに向かって飛んで行った。そしてラランが間合に入ると丸ノコを勢いよく横に振って攻撃する。ラランは突撃槍を縦にして迫って来た丸ノコを防いだ。丸ノコは高速回転してラランの突撃槍を削ろうと火花を散らす。金属が削れる高い音が試合場に響き、ラランは歯を食いしばりながらその場で踏ん張った。
「・・・ううぅ!」
「フッ、丸ノコにばかり気を取られるな」
スケルトンはそう言って左手に持っているクナイでラランの左前前腕部を刺した。
「ううっ!」
腕の痛みで力を抜いてしまったラランは丸ノコと止められずに手を離してしまう。突撃槍は宙を舞い試合場に落ち、ラランも刺されたところを抑えながら片膝をつく。そこへスケルトンの丸ノコが再び迫る。
「降参はさせん!このまま切り刻んでやる!」
「!」
ラランは顔を上げて頭上から迫って来る丸ノコを見上げる。丸ノコがラランの顔に触れると思われた瞬間にラランは目を閉じた。すると、突然高い金属音が試合場に響き、ラランはゆっくりと目を開く。そこには機械鎧の内蔵超振動短剣で丸ノコを止めているリンドブルムの姿があった。刃はラランに当たる数cm手前でリンドブルムの短剣が止めていたのだ。
交じり合う刃から火花と金属を削る音が広がり、リンドブルムとスケルトンは互いを見つめ合っている。
「・・・七竜将か」
「スケルトンさん、これ以上彼女を傷つけると言うなら、今度は僕が相手をしますよ・・・?」
「ほほぉ?同じ機械鎧兵士なら少しは楽しめそうだが・・・やはりガキが相手では少々不満だな」
「・・・殺しますよ?」
赤く目を光らせるスケルトンと包丁小悪魔の性格に変わりスケルトンを睨み付けるリンドブルム。しばらく睨み合う二人の機械鎧兵士、そしてしばらくするとスケルトンは右腕の機械鎧を元の手の形に戻した。
「・・・止めておこう。俺も無駄に騒ぎを起こしたくない。正体は知られたが、まだ目的自体はバレてないからな」
「目的?」
「知りたければ、俺に勝つことだな。分かっていると思うか今回の試合は俺の勝ちだ、文句はあるまい?」
スケルトンはチラッと膝をついているラランを覗き込むように見る。ラランも言い返す言葉が見つからないのかそっぽ向いて悔しそうに歯を食いしばっていた。スケルトンは審判を見た後に試合場から静かに去っていく。残ったリンドブルムは右腕の超振動短剣をしまい、ラランの方を向いて膝をつく。
「ララン、大丈夫?」
「・・・うん、平気」
元に戻ったリンドブルムはラランの安否を心配しながら左腕の傷口に応急処置を施す。そこへ審判が近づいて来て試合の結果を伝える。
「ただいまの試合、アーナリア選手の戦意喪失と見なしてS選手の勝利と判定させていただきます。そして、リンドブルム選手は他者の試合に乱入して試合を妨害し、反則行為として次の試合の出場権を取り消させてもらいますが、よろしいですかな?」
「・・・ええ、最初からそのつもりで止めたんですから」
「では、ただいまの試合をS選手の勝利とさせていただきます!」
審判の結果報告と共に試合終了を聞いた観客達は歓声を上げた。ヴリトラ達も試合場に駆け寄り、ラランの傷の手当てをする為に控室へと戻って行った。
ラランとSことスケルトンの試合はスケルトンの勝利に終わった。ラランは敗北したが、彼女のおかげでスケルトンの正体や戦い方、そして機械鎧の内蔵兵器の事を知る事が出来たヴリトラ達。ラランの戦いは決して無駄ではなく、次の試合のニーズヘッグに大きな情報を与えたのだった。




