第八十五話 振り回されるニーズヘッグと強者に挑むララン
準々決勝第二試合、ヴリトラとラピュスの戦いはヴリトラが勝利する。負けたラピュスも全力でヴリトラと戦い自分の強さを知り、より強くなろうと言う気持ちを手に入れる事が出来たので悔いは無かった。この試合により二人の心身はより強くなったと言えるだろう。
試合が終わると、ヴリトラとラピュスは試合場を下りてリンドブルム達の下へ向かう。三人は戻って来た二人を見て笑顔を見せていた。
「お疲れ様。凄い戦いだったね?」
「ああ、久しぶりに熱くなったよ」
リンドブルムの方を向いて笑いながら答えるヴリトラ。試合を見ていたリンドブルム達も少し興奮していたのか、楽しそうな態度を見せている。
「それにしても、まさかヴリトラの居合を無傷で凌ぐとは思わなかったぞ?」
「うん、アレはビックリしたよねぇ~」
「・・・隊長、凄い」
「い、いや、あれは偶然だ。少し嫌な予感がしたから咄嗟に後ろへ下がっただけで・・・」
ニーズヘッグ達に持ち上げられて少し照れ顔を見せるラピュス。そんなラピュスを見たヴリトラはニッと笑いながら彼女の背中を叩く。
「なぁに照れてるんだよ?言っただろう、俺の居合切りを止めた事は誇ってもいいって?」
「ツツツ・・・それは分かったが、もう少し手加減してくれ・・・」
「ハハハ、ワリィワリィ」
背中をさすりながらヴリトラにの方を向くラピュスとそれを見て笑いながら軽く謝るヴリトラ。そんな二人の会話を見ていたリンドブルム達も小さく笑っている。
「これで俺とリンドブルムが次の試合でぶつかる事になる訳だな?」
「うん。その時は僕も全力で行くからね」
「それは俺も同じさ」
ヴリトラとリンドブルムは互いに相手を見つめ、楽しそうな顔で火花を散らす。ラピュスとラランも七竜将同士の試合が楽しみなのか二人をジッと見ていた。だが、その中でニーズヘッグだけが気の進まない様な暗い顔をして四人に背を向けている。そんなニーズヘッグに気付いたラピュスはふと彼の方を向いて不思議そうな顔した。
「ニーズヘッグ、どうしたんだ?」
「・・・ああ、次が俺の試合だと思うと気が滅入ってな」
「気が滅入る?・・・・・・ああぁ、成る程な」
ラピュスはニーズヘッグが暗い原因に気付き、納得して頷く。ヴリトラ達もニーズヘッグの方を向き、彼の対戦相手の事を思い出して苦笑いをする。そこへ、その対戦相手が現れてニーズヘッグの肩にそっと手を置く。手を置かれたニーズヘッグはビクッと反応して振り返った。そして自分の背後でまばたきをしているカーマオの姿を見つける。
「ううっ!?」
「あら~、どうしたのぉ?そんなにビックリした顔をしてぁ~?」
「・・・そりゃあ、間近でそんな顔を見たら誰だって驚くさ」
ヴリトラはカーマオに聞こえないように顔を逸らしながら呟く。彼の隣に立っていたリンドブルムとラランはヴリトラの声が聞こえたのか揃って頷いている。ラピュスはただ苦笑いをしながらニーズヘッグとカーマオを見ている事しか出来なかった。
「ウフフ♡いよいよあたし達の試合ねぇ?うんと可愛がって上げるから、覚悟してね?ボウヤ~♡」
「う、ううう・・・」
真っ青になりながら目の前でウインクするオカマに怯える様子を見せるニーズヘッグ。ヴリトラ達は苦笑いをしながら「お気の毒」と言いたそうにしているのだった。そこへレヴァート兵がやって来て次の試合選手であるニーズヘッグとカーマオに声を掛けてきた。
「続きました、準々決勝第三試合を始めます。ニーズヘッグ選手、カーマオ選手は試合場へお願いします」
「あら、そう?分かったわ、直ぐに行くわね。教えてくれてありがとう♡」
「ハ、ハイ・・・」
レヴァート兵もウインクをして礼を言うカーマオに引いたのか表情をひくつかせながら後ろの下がる。カーマオはスキップをしながら試合場へ向かって行き、ニーズヘッグもそれに続いてゆっくりと歩いて行く。
「おい、ニーズヘッグ!」
「・・・ん?」
突然力の入った声で名を呼ぶヴリトラの方を暗い顔で見るニーズヘッグ。視線の先にはヴリトラとその隣にリンドブルムが立っており、二人は右手の親指を立てながらニッと笑う。
「ドンマイ!」
「こういう時もあるよ」
「うるせぇ~よっ!もっと他に言葉があるだろうが!」
慰めや励ましの言葉を掛ける訳でもなく、ただ面白がっている様子のヴリトラとリンドンブルムを血管を浮かべながら怒鳴る様にツッコミを入れるニーズヘッグ。彼そのまま怒りながら試合場の方へ歩いて行った。その後ろ姿を見て笑うヴリトラとリンドブルム、そしてそんな二人の姿を見てポカーンとしているラピュスとララン。
「おい・・・緊張状態のニーズヘッグをからかうのはマズイのではないか?」
「・・・逆に試合が上手くいかないかも」
ニーズヘッグの状態を心配するラピュスとラランにヴリトラとリンドブルムは笑いながら彼女達の方を向き、顔の前に手を持って来て横に振った。
「そんな事ねぇよ、寧ろ逆さ」
「そうそう、怒った事で気分の悪さを忘れて試合に集中できるようになったんだよ」
「あ、あれでか?」
「・・・信じられない」
ヴリトラとリンドブルムがニーズヘッグの為にやった事を聞いて驚きと疑いの顔を見せるラピュスとララン。二人からしてみれば七竜将のコミュニケーションの取り方というのが不思議に思えてしまうのだが、七竜将にとってはこれが普通なのだ。世界や住んでいる環境が違えば接し方も違う。この時、二人はまた知らない七竜将の姿を見つける事が出来たのだ。
闘技場で準々決勝の第三試合が始まろうとしている頃、町の隅にある大きな倉庫の近くではジャバウォック達調査チームが倉庫の周りを調べていた。ティムタームの町で目立たず、人目に付かずにか隠れやすい場所と言えばこの倉庫が一番だと遊撃隊の騎士から聞かされて調べに来たのだ。しかも倉庫の近くには町を囲む城壁のてっぺんにある見張り台へ続く階段があり、そこからなら町の正門を通らなくても外に出る事が出来る。
「この倉庫になら何日隠れていても見つかり難いしだ、町の外への脱出も簡単だ」
「ええ、それに倉庫は幾つもあるから色々な物資や食料が直ぐに手に入るわ。身を隠すにはもってこいの場所ね」
ジャバウォックとジルニトラが周りを見て幾つもある倉庫を眺めながら隠れ場所には最適と判断する。周りでは遊撃隊の騎士達は倉庫の周りなどを知らべて怪しい人影がいないかを調べている姿があった。
「おーい!皆、一度集まってくれ!」
状況確認の為にジャバウォックは探索をしている騎士達を全員呼び集める。騎士達もジャバウォックの声を聞いて一斉に集まり、状況とこれまでに得た情報の確認を始めた。
「正門から町中、そしてこの倉庫まで一通り調べてが怪しい奴は一人もいなかった。そして兵士達や町の人達も怪しい奴は見ていないと言っている。となると、やっぱりこの倉庫に隠れている可能性がある。今度は倉庫の中も調べてみるぞ?」
「だけど、これだけ調べてもいないのなら、この町にブラッド・レクイエムの人間はいないんじゃないのか?」
「ああ、ここの倉庫も殆どが物資や食料でいっぱいになっている。隠れる場所なんて殆どないぜ?」
二人の男性騎士がブラッド・レクイエム社の仲間は町にいないのではないかと考えてジャバウォックに話す。他の二人の騎士達も同じ気持ちなのか互いの顔を見て頷き合う。するとジャバウォックは腕を組みながら騎士達に向かって力の入った声を出す。
「甘い!『隠れていないだろう』『この町にはいないだろう』と考える相手の裏をかいて倉庫や目立つ所に隠れている可能性だってあるんだ。常に相手の一手二手先を読んで行動する、それが作戦ってもんじゃねぇのか?」
「それは、確かに・・・」
「だから奴等も『こんなに沢山物資がある倉庫には隠れる場所が無いから敵も探さないだろう』と考えて隠れているかもしれない。可能性がある所は片っ端から調べる。もし見逃して後で大変な事が起きたら後悔するだけだろう?」
「そうよ?だから此処のある倉庫を一つずつ細かく調べていきましょう」
ジャバウォックの話を聞き、しばらく仲間の顔を見つめる騎士達はジャバウォックとジル二トラの方を向いて頷く。すると、一人の男性騎士が二人にある提案を出してきた。
「此処のある倉庫は少なくても二十から三十はある。それをこの人数で調べるのは大変だ。俺が詰所で待機している第三遊撃隊の騎士達を呼んで来る、それなら手間も省けるだろう?」
「確かにそうね。たった六人で探すよりもそっちの方が効率がいいわ」
騎士の提案を聞いて要領がよくなると考えたジルニトラは男性騎士の考えに同意する。他の騎士達はジャバウォックもその作戦が賛成なのかジルニトラを見ながら頷いた。
「それじゃあ、俺が詰所に行って仲間達を呼んで来る。直ぐに戻るから待っててくれ!」
男性騎士はそう言って詰所のある方へ全力で走り出した。残ったジャバウォック達は男性騎士を見送った後に目の前の自分達の前にある倉庫を見上げる。
「アイツが仲間を連れて戻って来るまで、俺達は何もせずに待っている訳にもいかない。とりあえず、この倉庫の中を調べよう」
「そうね。それじゃあ、中を調べましょう!」
ジャバウォック達は倉庫に入口である扉を開けて倉庫の中へと入って行く。少しずつではあるがジャバウォック達はブラッド・レクイエム社の手掛かり集めを進めていく。彼等はブラッド・レクイエム社の情報を、そして仲間を見つける事が出来るのだろうか。
一方、闘技場ではニーズヘッグとカーマオの試合が始まっていた。試合場に立つ青年とオカマの試合を目にする観客達の中には試合を楽しむ者、カーマオの姿を見て気持ち悪がる者と色々いた。
「ウフフフ~♡さぁ~て、まずはどんな風に可愛がろうかしらぁ~?迷っちゃうわぁ♪」
「ぐぅ~~っ、調子狂うおっさんだなぁ。さっさとかかって来いよぉ」
「んまぁ~っ!おっさんなんてひどいわぁ!確かに見た目は男だけど、心の中は可憐な乙女なのに~!」
「分かったから早く来いよ!」
気持ち悪い口調と体の動きにニーズヘッグは徐々にイライラして来た。気持ち悪い物も最初は引いていたが、時間が経てば慣れて行き、やがては苛立ちへと変わっていく。
「んも~、あわてんぼうさんねぇ?心配しなくても、今から可愛がってあ、げ、る♡」
カーマオはニーズヘッグにウインクをすると、腰に納めてある棍棒を手に取り構えた。ニーズヘッグも鞘に納めてあるアスカロンを抜いて右手で構える。カーマオは棍棒を持った後もクネクネと体を動かしながらニーズヘッグを見てまばたきをしていた。
「さぁ~、始めるわよぉ?」
カーマオは棍棒を振り上げてニーズヘッグに向かって走り出す。その走り方は実に女っぽく、それを見ていたニーズヘッグや試合場の外にいるヴリトラ達はジト目でカーマオを見ていた。
「・・・まったく、付き合い切れねぇ」
呆れる様な顔で呟くニーズヘッグは大きく跳んで試合場の隅まで移動した。カーマオはそんなニーズヘッグを見て彼を追いかけた。
「待ちなさぁ~い、逃がさないわよぉ~♪」
「・・・う~、やっぱり見てて腹がたつぜ」
ニーズヘッグな自分の後を追って来るカーマオの姿を見て歯ぎしりをする。その姿を試合場の外で見ていたヴリトラ達も呆れる様な顔でカーマオの後ろ姿を見つめている。
「何ちゅう戦い方をするんだ、あのオカマ野郎は・・・」
「まったくだね・・・」
呆れ顔で話をするヴリトラとリンドブルム。もはや二人はこの戦いを見る事に小さな抵抗を感じ始めているようだ。
「・・・ねぇ、聞きたい事があるの」
「ん?何、ララン?」
突然質問をしてきたラランにリンドブルムが表情を戻して尋ねる。ラランは無表情のまま小首を傾げながら口を開いた。
「・・・さっきから言ってる、オカマって、何?」
「ん?」
ファムステミリアには存在しない言葉なのか、ラランはオカマの意味が気になりヴリトラとリンドブルムの方を向いて尋ねる。目の前で無表情のまま尋ねてくる十一歳の少女を見ながら二人は目を丸くする。
「あ~・・・オホン!・・・ララン、そのオカマっていうのは――」
「お前はまだ知らなくていい!」
リンドブルムが説明しようとするとヴリトラが会話に割り込んでくる。突然のヴリトラの行動にフッと驚いて彼の方を向くリンドブルムと小首を傾げるラランにまばたきをしながら三人の会話を聞いているラピュス。ヴリトラは腕を組み、目を閉じながら俯いた。
「・・・どうして?」
「・・・お前にはまだ早いと思ったからだ。それに、女の子はあまり知らないほうがいいんだよ」
「・・・?」
ヴリトラの言いたい事が分からずに小首を傾げるララン。そんな会話の中、試合場の上では隅に移動してニーズヘッグは自分に向かって来るカーマオを見てアスカロンを構えていた。カーマオも少しずつニーズヘッグとの距離を縮めていき、あと数歩でニーズヘッグが棍棒の間合いに入る所まで来ている。
「さあ~!行くわよぉ~、あたしの一撃、受け止めてみなさぁ~い♪」
カーマオは笑いながら棍棒を振り上げ、そのままニーズヘッグの頭上に振り下ろした。ニーズヘッグは横へ移動して攻撃を回避し、呆れ顔でカーマオを見ていた。
「・・・ハァ、お前とは戦う気になれねぇ。このまま終わらせる」
そう言ったニーズヘッグはカーマオの足を自分の足で引っかけた。
「あら?・・・あらあらあらあらあらあら?」
カーマオはバランスを崩し、片足でその場をフラフラし始める。しかもそこは試合場の隅、目の前には試合場を囲む水路があり、前に倒れれば水路に落ちて場外負けとなる。ニーズヘッグは最初からそれを狙って試合の隅へ移動したのだ。
「ちょちょちょ、ちょっと待ってぇ!?まだ戦ってもいないのに、このまま試合終了なんて嫌よぉ~~!」
場外負けになるまいと必死でバランスを保とうとするカーマオ。だが、ニーズヘッグはそれを許すまいと背後に回り込んで背中を指一本で押した。するとカーマオはバランスを保てなくなりそのまま水路に向かって真っ直ぐ倒れた。
「あんらぁ~~~っ!」
声を上げながらカーマオは水路に真っ逆さまに落ちる。水柱が上がり、周囲に水しぶきを飛ばした。それを見ていた審判はポカーンとしていたものの、直ぐに正気に戻って片手を上げる。
「そ、それまで・・・!」
試合が終わると、観客達はいまいち楽しめなかったのか低い声を出した。試合の盛り上がりの無さが原因らしく、観客達の殆どがつまらなそうな顔をしていた。ニーズヘッグとカーマオの試合は始まってから、たったの三十秒で終わってしまった。
「・・・ハァ、これでようやく落ち着けるぜ」
オカマとの試合が終わり、ホッとしたニーズヘッグは試合場を下りてヴリトラ達の下へ戻って行く。
「大変だったな?色んな意味で・・・」
「まぁな・・・」
戻って来たニーズヘッグに苦笑いをしながら声を掛けるヴリトラ。リンドブルム達も苦笑いをしてニーズヘッグを見ている。
「ま、まぁ、これであのオカマとも顔を合わせずに済むんだから、それはそれでいいじゃない?」
「そ、そうだな・・・」
リンドブルムが何とかニーズヘッグを元気づけようとし、ニーズヘッグもリンドブルムの心遣いに少しだけ気持ちが楽になったのか苦笑いのまま頷く。
ヴリトラ達がそんな会話をしていると、突然五人の近くを冷たい気配が横切る。それに気づいたヴリトラ達の表情は急変し、気配のする方を向いた。そこにはフード付きのマントで顔を隠しているSの姿があったのだ。そう、次の準々決勝四試合目はこのSとラランの試合、Sが此処にいても不思議ではなかった。
「コ、コイツ、いつのま・・・」
「突然気配が出て来たビックリしたよ・・・」
試合場の方へと歩いて行くSの背中を見ながら話をするヴリトラとリンドブルム。ラピュス達もSの後ろ姿を見て真剣な表情を見せている。
「次の試合はSとラランだったね?」
「ああ。・・・ララン、前にも言ったようにこの試合は棄権しろよ?ろくな情報も無い状態で生身の人間がブラッド・レクイエムの幹部と戦うのは危険すぎるからな」
ニーズヘッグがラランの方を向いて前に話した手筈を確認する。するとラランは自分の持っている突撃槍を握って試合場の方を向きながら口を開いた。
「・・・私、戦う」
「「「・・・・・・はあっ!?」」」
「なっ!」
ラランの口から出た言葉に七竜将は声を揃えて訊き返し、ラピュスも驚いて声を上げる。
「ちょっと待て、ララン!次の試合は棄権する約束だろう!?」
「・・・気が変わった」
「簡単に言うな!そういう気まぐれな気持ちで戦うのが一番危険だ!」
ニーズヘッグは声に力を入れてラランを止める。するとラランは真剣な表情へと変わりニーズヘッグを見上げる。
「・・・気まぐれじゃない。最初から戦うつもりだった、あの時は話に合わせて棄権するってウソをついた」
「だったら猶更戦うのはやめろ!ブラッド・レクイエムの幹部の機械鎧兵士に何の情報も無しに戦うのは危険だと言ったはずだろう?」
「・・・私じゃ、絶対にアイツには勝てない。だから、次にニーズヘッグが戦う時に少しでも戦いやすい様にする為に私が先に戦って情報を集める」
「しかし!」
「・・・それに私もこれから先、機械鎧兵士と戦う事になるから、隊長の様に少しでも機械鎧兵士との戦い方を経験しておきたいし、自分の強さの限界を知りたい」
普段は無表情で話すラランが珍しく真面目な顔で真面目な話をしている姿にニーズヘッグはジッと彼女を見つめる。そして周りにいるヴリトラ達も真面目な顔を見せていた。すると、ヴリトラがニーズヘッグの方を向いて声を掛ける。
「ニーズヘッグ、行かせてやってもいいんじゃねぇか?」
「ヴリトラ!?」
「ヴリトラ、本気なの?」
ラランの背中を押すヴリトラに驚くニーズヘッグとリンドブルム。ラピュスも少し驚いた顔で彼の横顔を見ていた。
「コイツもお前の為に覚悟を決めて戦うって言ってるんだ、その覚悟を無駄にしたい為にも戦わせてやろう」
「ヴリトラ、お前まで何を言い出すんだ?それにお前の最初は棄権しろって言ってたじゃないか?」
「最初はな?・・・でも、ラランの真面目な顔で戦いたいと言うのを見たら、俺も気が変わっちまってな。それにラランだって俺達とこれからブラッド・レクイエムの連中と何度も戦う事になるんだ、生き残る為にも戦いの経験を積ませておいた方がいいだろう?」
「・・・・・・」
ヴリトラの話を聞いてニーズヘッグは黙って考え込む。リンドブルムもヴリトラの言葉に一理あると感じたのか、ヴリトラをジッと見つめている。そして考えていたニーズヘッグはラランの方を向いて答えを出した。
「・・・分かったよ。ただし、条件がある。奴等はイカれた連中だ、本気で殺しに来る。だから危険だと判断したら直ぐに降参しろ」
「・・・分かった」
条件を飲んだラランは真面目な顔のまま頷く。それを見たニーズヘッグとリンドブルムも安心したのか小さく笑った。
「・・・という事だ、ラピュス。隊長として部下が危険な目に遭うのは納得できないと思うが、アイツも覚悟を決めて戦うと言ったんだ。此処は大目に見てやってくれ」
ヴリトラは隣で真面目な顔をしているラピュスに話し掛けると、ラピュスは目を閉じてゆっくりと口を開いた。
「私は反対はしていない。確かに隊長として危険に飛び込もうとする部下を見過ごす事は出来ないが、ラランも一人前に騎士だ。戦いの事は自分で決め、行動しないといけない。その決意の強さは私にもよく分かるからな?」
「ラピュス・・・」
てっきり納得が行かずに怒るのかと思っていたヴリトラはラランの覚悟を理解したラピュスを見て意外そうな顔を見せた。そしてラランは突撃槍を握り、Sの待つ試合場へと向かう。ヴリトラ達はラランの無事を祈りながら彼女の背中を見つめるのだった。
準々決勝第三試合が終わり、いよいよSの試合が始める。最初は棄権すると言っていたラランが自分の覚悟と力を確かめる為に試合を行う事を告げる。それを了承したヴリトラ達はラランを見守り、Sの強さを探る事にしたのだった。




