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機械鎧(マシンメイル)は戦場を駆ける  作者: 黒沢 竜
第五章~強者が集う聖地~
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第八十四話  全力の戦い! ヴリトラVSラピュス

 準々決勝第一試合が終り、続いて第二試合が始まろうとしていた。次の戦いはヴリトラとラピュスの戦い、二人は自分の強さを確かめる為、そして相手を強くする為に全力でぶつかり合う事を決意するのだった。

 試合場に上がったヴリトラとラピュスは真ん中で相手を見つめ合い、試合開始の合図を待った。二人の間で審判が二人の準備が整った事を確認し、観客達に試合開始の宣言を始める。


「続いて、準々決勝第二試合を始めます!傭兵団、七竜将の団長であるヴリトラ選手と王国騎士団第三遊撃隊の隊長、フォーネ選手!二人は共に何度もストラスタ公国軍と戦い、レヴァート軍を勝利へと導いた良き戦友でもあります!」


 審判の説明を聞いた観客達は大歓声を上げて盛り上がりを見せる。その中でオロチ達は試合場のヴリトラとラピュスを見つめていた。オロチは相変わらずの無表情で見ており、ファフニールとアリサは楽しみにしていたのかテンションを上げて試合を見ている。


「遂に始まりましたよ?ヴリトラさんと隊長の試合が!」

「二人とも、この大会で戦う事を楽しみにしてたもんね」

「ああ、己の強さを見極める為に全力でぶつかると言っていた・・・」


 観客席から二人を見下しながら会話をしている三人。彼女達も自分の仲間達が強くなる為に、そして相手をより強くする為に戦い合うという事をどこか誇りに思っているのだろう。ファフニールとアリサは熱くなっており、オロチも表情は変えていないが声に少しだけ力が入っていた。

 オロチ達の斜め後ろの席ではジェームズ達が同じ様に試合を楽しみにしているのか、笑いながら見物している姿がある。


「来たぜ来たぜぇ?俺を負かした姫騎士様さ!相手はあの噂の七竜将って言う連中の団長かぁ・・・」

「アンタ、随分と熱くなってるじゃないか?」

「そりゃあそうだろう、謎の傭兵団長と姫騎士様の戦いなんて滅多に見れないからなぁ?」

「そうかい?さっきの試合で戦っていたリンドブルムってボウヤも七竜将の一員だろう?それで相手のお嬢ちゃんも姫騎士、状況はあんまり変わらないじゃないか」

「確かにそうだけどよぉ、ガキ同士の戦いと大人の戦いとじゃあ、盛り上がりが違うんだよ」

「そんなもんかねぇ・・・?」


 やたらとテンションの高いジェームズを見て、理解出来ないのかアネットは小首を傾げる。そんな彼女の隣に座っているロンが目を閉じたまま、隣のアネットに声を掛けてきた。


「お主は随分と落ち着いておるな?ジェームズと同じ様に興奮すると思っていたのだが・・・」

「ああぁ、あたしは最初の試合で七竜将の一人と戦ったからね。コイツ程興奮しないよ」


 アネットはニーズヘッグとの戦いで七竜将の戦い方や強さをその身に感じているのでジェームズの様に感情を大きく出さなかった。ロンは閉じている目の片方を開けてアネットを見つめ髭を直しながら話を続ける。


「ほぉ?『コイツ程』、と言う事はやはり少しは試合を楽しみにしておるという事だな?」

「ん?・・・う~ん、まぁね」

「何だよ、やっぱりお前の楽しみなんじゃねぇか」

 

 ロンに本音を見抜かれて照れくさそうにするアネットにジェームズが目を細くしながら言う。アネットはジェームズの方を向き、頬を赤くしながら言い合いを始め、ロンはそんな二人を放っておいて試合場に視線を向けるのだった。

 試合場では既にヴリトラとラピュスが森羅と騎士剣を抜いていつでも刃を交えられるように構えていた。そして歓声の中、審判はゆっくりと後ろに下がり両手を上げる。


「・・・始めっ!」


 審判の合図と共に試合が始まる。先に動いたのはラピュスだった。ラピュスは騎士剣を両手で強く握りながらヴリトラに向かって走って行く。ヴリトラが間合に入ると、勢いよく袈裟切りを放ち攻撃した。ヴリトラも森羅を両手で握り、ラピュスの斬撃を森羅で止める。騎士剣と森羅の刃が交え合った箇所から火花が飛び散り、金属が削れる様な高い音が響く。二人が剣を交える姿を見た観客達も更にヒートアップする。


「先制攻撃とは、なかなか度胸があるじゃねぇか?」

「お前は一瞬の隙でも与えてしまうと私が不利になる事はよく分かっているからな。お前に有利な状況に持って行かれる前に全力で攻めさせてもらうぞ」


 機械鎧兵士の戦闘能力を恐れず、迷う事無く正面から攻撃して来たラピュスを見てヴリトラは笑いながら話し掛け、ラピュスも微笑みながら返事をする。ラピュスは両手に力を入れ、騎士剣で押そうとするも、森羅はピクリとも動かない。やはり身体能力では普通の人間であるラピュスより機械鎧兵士であるヴリトラの方が勝っているようだ。ヴリトラは森羅を外へ向かって大きく振り、騎士剣を払うと大きく後ろへ跳んだ。


「最初の踏み込みは良かった。だけど、態勢を直させない様にするんだったら連続で斬りかかるべきだったな!」

「しまった!」


 ヴリトラは後ろに大きく跳んで自分から距離を取ろうとする姿にラピュスは失敗したと言いたそうな顔でヴリトラを見る。そしてヴリトラはラピュスから数m離れた位置で着地し、森羅を再び両手で構えラピュスの方を向く。


「さて、今度は俺が攻撃する番だ。言われたとおり全力で・・・」


 ヴリトラがニッと笑いながらラピュスに攻撃宣言をしていると、突然ヴリトラは言葉を止めた。何と視線の先には右手に騎士剣を持ち、左手にハイパワーを握って銃口を向けているラピュスの姿があったのだ。ヴリトラの表情は笑みから目を丸くする驚きの顔へと変わった。


「フフ・・・」


 ラピュスは悪戯っぽく笑いながらハイパワーの引き金を引いた。銃口から吐き出された弾丸は真っ直ぐヴリトラに向かって飛んで行き、ヴリトラは飛んで来た弾丸を森羅で弾き落とす。これには試合場の外で見物していたリンドブルム達、観客席から見ていたオロチ達も驚きの表情をしていた。


「ととととっ!?・・・おい、ラピュス!危ねぇだろう!」

「言っただろう?私は全力でお前と戦うと・・・」

「確かに言ったけど、銃を使うなんて聞いてねぇよ!下手すれば死んじまうんだぞ?」

「お前がこんな物で死ぬような男だとは思ってない。だからこそ、私は迷う事無く銃を使い、全力でお前に斬りかかる事が出来るんだ」


 ヴリトラを高く評価するラピュスは微笑みながら真面目な話をする。それを聞いたヴリトラは調子が狂うのかジト目でラピュスを見ながら肩を少し落とす。そんなヴリトラにお構いなしにラピュスはハイパワーの引き金を連続で引く。放たれた弾丸は全てヴリトラに向かって飛んで行き、ヴリトラもそんな無数の弾丸を全て森羅は弾き落していった。


「ちょちょちょちょ、ちょっと!大丈夫なの、あれ!?」


 試合場の外でリンドブルムが二人の試合を指差しながらニーズヘッグに尋ねる。ニーズヘッグは目を丸くしながら眉をピクつかせて試合を見ていた。ラランは目を見張りながら試合を見つめている。


「ラピュス、ハイパワーを撃っちゃってるよ、それも実弾を!」

「あ、ああ・・・。間違いないなく実弾だな、て言うより殺傷能力ゼロの弾なんてこの世界には無いし・・・」

「そういう問題じゃないでしょう!!」


 リンドブルムは大声でニーズヘッグに言い放つと、ニーズヘッグはハッと表情を変えて数回顔を横へ振った。


「わ、悪い・・・あまりにも突然の事だったから頭が少し混乱した・・・」

「それよりも、どうするの?・・・アレ」


 リンドブルムがもう一度試合場の方を向いて尋ねた。ニーズヘッグは一度自分の頬を叩いて落ち着きを取り戻し、真面目な顔で試合場の上のヴリトラとラピュスを見つめる。


「まさか、迷わずにハイパワーを撃つとは俺も思わなかったぜ。と言うよりも、アイツがこの武術大会で拳銃を持ち込んでいた事すら考えなかった・・・」

「・・・何で隊長は銃を使ったの?ヴリトラ、死んじゃうかもしれないのに」


 ラランもラピュスの行動に驚いたのかニーズヘッグに少し力の入った声を出して尋ねてきた。ニーズヘッグはしばらくジッと二人の試合を見てラピュスが何を考えているのかを考える。そして答えが出たのか、リンドブルムとラランの方を向いて口を開いた。


「・・・これは俺の推測だが、アイツはヴリトラに全力を出させる為に使ったんだと思う。オロチから聞いたんだが、アイツは全力のヴリトラと戦って自分の限界を確かめると言っていた」

「そう言えば、さっきもそんな事言ってたよね?」

「全力のヴリトラと戦って自分がどれ程強いのか、そして次にブラッド・レクイエムの機械鎧兵士と戦う時にどこまで通じるのかを知りたくてヴリトラを本気にさせようとしてんだと思うぞ」

「・・・そうなの?」

「さっきも言ったように、これは推測だ。・・・それにアイツはヴリトラは大丈夫だと信じてるんだろう、相手を信じてないとあんな事は普通は出来ないからな・・・」


 ニーズヘッグの言葉を聞いてリンドブルムとラランは真面目な顔をしながら試合場のヴリトラとリンドブルムの方を見る。二人は未だに激しい攻防を繰り広げていた。

 ヴリトラはハイパワーを撃ち続けているラピュスを見ながら弾丸を正確に弾き落していく。迫って来る弾丸と撃ち続けるラピュスの両方に意識を向けながら森羅を器用に操っていた。


「・・・おい、ラピュス!ハイパワーを使ってまで俺と戦ってるんだ、俺が多少手荒な事をしても文句は言うなよ!?」

「ああ、最初からそのつもりだ!それに言ったはずだぞ、全力で来いとな!」


 銃声が響く試合場で相手に伝わる様に大声で話すヴリトラとラピュス。お互いに相手が全力で向かって来るように自分達も本気で戦う事に決めた。

 ラピュスはハイパワーを撃ちながら騎士剣を握り、ヴリトラに向かって走り出した。ハイパワーを撃ちながら近づいて来るラピュスを見てヴリトラも真剣な顔になり森羅で弾丸を撃ち落としながら向かって来るラピュスをチラッと見つめる。


(俺の動きを封じる為にハイパワーを撃ちながら近づいて来るか・・・。考えたな、ラピュス。だけど、それじゃあ俺を止める事は出来ないぜ?)


 心の中でラピュスの作戦に感心しながら銃撃を防いでいるヴリトラ。それから弾丸を弾き落としていたヴリトラは素早く姿勢を低くしてラピュスに向かって走り出した。突然自分に向かって走って来るヴリトラを見て驚いたラピュスは足を止めて狙いを定め直し、再び発砲する。しかしヴリトラは向かって来る弾丸を森羅で弾かずに走りながら回避して徐々にラピュスとの距離を縮めていく。


(クッ!速い、ここまで近づかれたらもう銃は!)


 距離が縮んでいき、もうハイパワーの有効範囲ではないと悟ったラピュスはハイパワーをしまい、両手で騎士剣を持ち直し向かって来るヴリトラの方を向いて構えた。ヴリトラはラピュスが間合に入ると勢いよく森羅を振り下ろして攻撃する。ラピュスは騎士剣を横にしてヴリトラの振り下ろしを止めた。再び火花が飛び散り、周囲に金属音が響き渡る。


「ぐうううぅ!」


 両手と両足に伝わる重さに耐えながら声を漏らすラピュス。ヴリトラは騎士剣から森羅を離すとそのまま次の攻撃へ移る。


「このまま休まず行くぞぉ!」


 ヴリトラはラピュスに向かって袈裟切りを放ち、ラピュスも騎士剣を持ち直してヴリトラの斬撃を止める。そこからヴリトラとラピュスの攻防が繰り広げられ、観客達はその戦いに歓声を上げて盛り上がる。そしてその様子を見ていたオロチ達も驚きと真剣なひょじょうで見つめていた。


「す、凄い試合ですね・・・」

「うん、特にさっきのラピュスさんがヴリトラに銃を撃った時はビックリしちゃったもん」

「アイツがヴリトラの実力を信じていたから遠慮無く発砲したのだろう・・・」

「で、でも、もしヴリトラさんが銃を避けられなかったら、どうするつもりだったんでしょうか?」


 アリサが弾丸がヴリトラに命中した時の事を考えて汗を垂らしながらオロチに尋ねる。オロチはアリサの方をチラッと見た後に試合場へ視線を戻し、ゆっくりと口を開く。


「ヴリトラがあの程度の弾丸を回避出来ないなど考えられん。仮に当たったとしても大した事は無い、私達七竜将はこれまでに何発もの銃弾を受けながらも生き残り、戦いに勝って来たのだからな・・・」

「そ、そうなんですか・・・」

「ビックリした?」

「ハ、ハイ、少し・・・」


 七竜将の武勇伝を聞き、目を丸くしているアリサにニッコリと笑いながら尋ねるファフニール。その後、試合場の二人に視線を戻して観戦に戻った。


「これからどうなるんでしょうか?」

「多分、どっちかが降参するか場外になるまで続けると思いますよ?あの二人なら」

「だろうな。だが、ヴリトラはともかく、ラピュスは運が良くない限りアイツには勝てんだろうな・・・」

「そ、そんなの、まだ分からないじゃないですか・・・!」


 自分の隊長が勝つかもしれないとオロチの方を向いて話すアリサ。だが、その声からは自信が感じられなく、彼女自身も負けるのではないかと思っているようだ。


「・・・例え勝てなくても、生身の騎士が機械鎧兵士に一撃でも与えられたら、それは大したものだと思うぞ・・・」

「そうだよねぇ、ラピュスさんはブラッド・レクイエム社の機械鎧兵士を一人で倒した事もあるんだもん。それだけでも凄い事だよ」


 オロチの隣でファフニールはラピュスの実力を認める様に微笑みながら言う。それを聞いたアリサはまるで自分が褒められたかの様な笑みを浮かべて試合場のラピュスを見つめるのだった。

 試合場ではヴリトラとラピュスが森羅と騎士剣の刃を交え続けていた。刃と刃がぶつかる度に高い金属音が響き渡り、戦いの激しさを物語っている。そして戦っている二人は鋭い目で相手を見つめているが、何処か楽しそうな様にも見えた。しばらくして二人は再び自分の剣の刃を交差させて相手の刃を止め合う形に入る。そして再び刃が交じり合う箇所から火花が飛び散るのだった。


「初めてお前の剣を見た時から筋が良いと思ってたけど、戦ってみるとよりお前の技術がハッキリ伝わって来る!・・・大した奴だよ、お前は!」

「・・・フッ、それは私も同じだ。お前の見た事のない剣術は実に興味深い、だから一度お前と全力で戦ってみたいと思ったんだ!」


 刃を交えながら相手の技術を褒め合うヴリトラとラピュスは口元を緩めた。二人は相手が強いという事を戦士の感覚で掴み、その相手と全力で戦える事を心の中で喜んでいる。それが自分と共に何度も戦場の駆け抜けてきた戦友なら尚更だ。ヴリトラとラピュスは目の前の戦友と戦ってくれる事を誇りに思うのだった。


「・・・だが、私がお前とこうして互角に剣を交え合っているという事は、お前はまだ全力を出していないのだろう?」

「・・・・・・」

「私は言ったはずだぞ?・・・全力で来いとなっ!」


 ラピュスは森羅を払うと大きく後ろに跳んで騎士剣を持つ腕を横へ伸ばした。すると石柱の上で灯っている火がラピュスの騎士剣に吸い寄せられるように集まりだし刀身を火で包み込む。ヴリトラはラピュスが気の力を使いだした事を確認し、森羅を両手で構えてラピュスに意識を集中させる。


「アイツ、もう気の力を使うつもりなのか・・・」


 ヴリトラはラピュスが本当に本気で戦うつもりだと改めて理解し、自分も全力を出さないと危ないと直感した。ラピュスは火を纏った騎士剣を両手で持ち脇構えをする。それを見たヴリトラは前のラピュスの試合で対戦相手のジェームズに使った技を思い出した。


「前の試合で使った技を使う気か?」

「ヴリトラ、私は騎士としてお前と全力で戦うと言った。だから私の持てる全ての力をお前にぶつける!」


 ラピュスは声を上げながらヴリトラに向かって脇構えのまま走り出す。それを見てヴリトラも彼女の思いに答えなければならないと思ったのか、鋭い目で走って来るラピュスを見ながら森羅を鞘に納めた。


(森羅を鞘に納めて?・・・一体何を考えているんだ、ヴリトラは!)


 ヴリトラの考えが理解出来ずに心の中で呟くラピュス。彼女の表情は鋭くなり、何処か不機嫌さが見られる。恐らく鞘を納めた事で森羅無しでも勝てるとヴリトラが考えていると感じ、不愉快になったのだろう。しかし、森羅を納めたのはラピュスを甘く見ているからではない。これもヴリトラの戦術である事をこの時ラピュスは知らなかった。

 ヴリトラは腰を少し低くして左手で鞘を握り、右手を森羅の柄に近づけていつでも握れる態勢に入った。試合場の外でその光景を見ていたリンドブルムは意外そうな顔を見せている。


「あの構え・・・ヴリトラ、『居合』を使うつもり見ただよ?」

「そうみたいだな。しかしラピュス相手に居合を使うなんて・・・」

「ヴリトラが本気で戦うって証拠だよ」

「・・・イアイ?」


 ヴリトラの構えを見て彼が居合を使う事に気付いたリンドブルムとニーズヘッグ。そして二人の会話を聞いていたラランは居合が何なのか分からずに小首を傾げた。

 試合場の上ではラピュスがヴリトラに徐々に近づいて行き、火を纏った騎士剣で攻撃をしようとしている。そしてヴリトラもラピュスが自分の間合に入るのを居合の構えで待っていた。そしてラピュスがもうすぐ間合に入ると感じると、右手で森羅の柄をゆっくりと掴んだ。


「皆藤流剣術壱式・・・」


  久しぶりに皆藤流剣術の技を使おうとするヴリトラ。ラピュスはヴリトラを見つめながら意識を集中させ、自分もいつでも技を使えるようにする。そして二人は相手が自分の間合いに入った瞬間、技を放った。


「業火飛竜斬!」

「煉獄居合!」


 二人を同時に技を放ち、ラピュスは火を纏った騎士剣を右上に向かって振り、ヴリトラも鞘から勢いよく森羅を抜いた。二つの刃がぶつかり、高い金属音が試合場に響き渡る。リンドブルム達や客席の座るオロチ達、ジェームズ達は試合場を見て森羅を振り切って止まっているヴリトラと火を纏ったままの騎士剣を左手で何とか握っているラピュスの姿を見つめる。ラピュスはゆっくりと後ろに一歩下がり、一瞬よろけながらも何とか態勢を保った。


「・・・うう・・・す、凄い力だ・・・」


 騎士剣を持っている左手の力を弱め、騎士剣を試合場に落とすラピュス。そしてそれと同時に刀身に纏われていた火が消えてなくなった。そしてラピュスは右手を左手に当ててゆっくりと膝をついた。よく見るとラピュスの左手が若干震えている。どうやらヴリトラの居合を止めた時に左腕に予想以上の衝撃が掛かり痺れてしまった様だ。

 痺れで表情を歪めるラピュスを見てヴリトラは森羅を持ったままゆっくりとラピュスの下へ歩いて行く。


「・・・お前、やっぱりやるな?ラピュス。俺が居合切りを放った瞬間に立ち止まって、後ろに下がりながら剣で居合を防いだ。もし下がらなかったら大怪我してたぞ?」

「・・・な、何なんだ、さっきの構えは?」

「あれは居合、刀を鞘に納めて一気に抜き放ち攻撃する剣術だ。鞘に納める事で相手に間合を見抜かれないようにするから向かって来る相手には効果的なものだ。しかも間合が分かり難くなるから相手にも回避しづらい。だけど、お前は初めて見た居合を一目で危険だと感じ取り行動した・・・。お前が初めてだよ、俺の居合を一瞬で見抜いた奴は」


 真面目な顔で膝をついているラピュスを見下ろして説明するヴリトラ。その表情は次第に和らいで行き、微笑みへと変わった。


「生身の人間で俺とここまでやれたのは師匠とお前だけだよ」

「ヴリトラ・・・」


 笑いながら自分を褒めるヴリトラにラピュスは少し意外そうな顔を上げる。するとヴリトラは森羅の刀身を自分の顔の前まで持って来て眺めながら話を続けた。


「それで、まだやるか?お前にまだ戦意があるなら俺はいくらでも付き合うぜ?」


 試合を続けるかと尋ねてくるヴリトラを見てラピュスはゆっくりと俯き目を閉じる。しばらく考え込むとゆっくりと立ち上がり、微笑みながら顔を横へ振る。


「いや、止めておく」

「いいのか?」

「ああ、この試合で私はお前には勝てない事が分かった。お前と全力で戦い、お前も全力で戦ってくれた。悔いは無いさ」

「そうか?お前がそう言うならそれでいいが・・・俺の居合切りを止めた事は誇っていいと思うぜ?」

「フフフ、そうか。・・・・・・私の負けだ」


 ヴリトラの言葉を聞き小さく笑いながら負けを認めるラピュス。その直後に審判が試合終了の合図を出した。観客達も歓声を響かせ、試合場の外にいるリンドブルム達、客席のオロチ達は拍手をした。

 ヴリトラとラピュスの試合はヴリトラが勝利した。ラピュスも自分の望む戦いをする事ができ、潔く負けを認める。二人の戦いはお互いを強くするのと同時に絆を固く結びつけるのだった。


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