第八十三話 小悪魔が指し示す強さへの道
気の力を使い、全力で攻撃して来るジージルにライトソドムのレールガンシステムを使って応戦するリンドブルム。超高速の弾丸はジージルの放った矢を粉々にし、弓も破壊した。これにより戦況は一気にリンドブルムの有利へと傾く。
水を纏った矢を粉砕され、愛用の弓すらも折れて足元に落ちる。その光景を目にしたジージルは目を見張り固まった。そんな彼女の姿をジッと見ているリンドブルムはライトソドムをゆっくりと下ろす。
「な・・・何なのよ、今のは・・・?」
手の中で半分になっている弓を見て声を震わせながら呟くジージル。未だに何が起きたのか理解出来ないでいるようだ。
「・・・貴方の得物は壊しました。もうまともに戦う事は出来ません、降参してくれませんか?」
リンドブルムは勝負が見え、これ以上の戦いは無意味だと判断しジージルに降参を勧める。だが、リンドブルムの言葉を聞いたジージルは表情を険しくし、顔を上げてリンドブルムを睨み付けた。
「はぁ?バカ言ってるんじゃないわよ!得意な武器を壊されたから降参しろ?誇り高い騎士である私がそんな事をするはずがないでしょう!」
ジージルは持っていた弓の残骸を捨てると腰に納めてある短剣を抜いて構える。リンドブルムはまだ戦おうとするジージルを目を細くして見つめた。
「これ以上戦っても貴方に勝ち目はない。遠距離からの攻撃が出来る僕と接近しないと攻撃出来なくなった貴方とでは結果は目に見えてます」
「勝ち目がないからって敵に背を向ける事は醜態をさらす事になるわ。そんな事は絶対にしない!」
「自ら負けを認めるのは恥じゃありません。自分の弱さを受け入れ、相手への恐怖を理解する事が強さなんです」
リンドブルムはヴリトラがチャリバンスに言った言葉と同じ様な事をジージルに話す。ジージルも最初のチャリバンスと同じでリンドブルムの言葉に耳を貸そうとしておらず、ただ彼を睨みつけているだけだった。
「私がアンタより弱いなんてまだ分からないじゃない!私にはまだ武器があるんだからね!」
ジージルを短剣を構えてリンドブルムに突っ込んでいく。リンドブルムはライトソドムをホルスターに納め、両手を前に出して構える。ジージルは短剣でリンドブルムに袈裟切りを放ち攻撃した。リンドブルムはその斬撃をかわしてジージルの手首を左手で掴み、右手でジージルの服の襟を掴んだ。そして勢いよくジージルの体を肩越しに投げ飛ばした。見た目は柔道の背負投げに似ている。投げ飛ばされたジージルは試合場に叩きつけられて仰向けに倒れ、それと同時に彼女が被っていたマーチング帽子も試合場に落ちて転がっていく。
「う、うう・・・そんな・・・私が・・・」
自分が投げ飛ばされた事が信じられないのか、ジージルは空を見上げながら呟いた。倒れているジージルにリンドブルムが近づいて行き仰向けになっている彼女を見下ろす。
「これ以上抵抗するとそれこそ醜態をさらす事になりますよ?自分の敗北を受け入れて見つめ直すのも騎士道だと思いますけど・・・」
「くうぅ!傭兵のクソガキが軽々しく騎士道なんて語るんじゃないわよぉー!」
起き上がったジージルは短剣を拾い、再びリンドブルムに襲い掛かる。リンドブルムは素早くジージルの側面へ回り込んで彼女の短剣を持っている腕に手刀を打ち込んだ。
「ううっ!?」
手刀を受けた腕から伝わる痛みにジージルは思わず声を漏らして短剣を落してしまう。リンドブルムはジージルの手から落ちた短剣を素早く右手で取りジージルの背後に回り込んだ。そして左手でジージルの左手首を掴み、左腕を背中に回して動きを封じて短剣をジージルの喉元に付ける。これでリンドブルムはいつでもジージルの喉笛を切り裂き命を奪える形になった。
「ううぅ!」
「・・・動かないでください?少しでも動けば貴方の喉笛を切り裂きます」
低い声を出してジージルに警告するリンドブルム。その低い声を聞いたジージルは一瞬悪寒を感じて体を固める。
試合場の外でその様子を伺っていたヴリトラ達。ヴリトラとニーズヘッグは真剣な表情でリンドブルムを見つめており、ラピュスとラランは驚きの表情で二人を見ている。特にラランは目を見張り、何かを恐れているような感じだった。
「・・・リブルが剣を持った」
「ララン?どうしたんだ?」
様子の変なラランに気付いたラピュスが不思議そうな顔で尋ねる。この時ラランはリンドブルムの身に異変が起きるのではないかと感じて動揺していたのだ。なぜから彼女はリンドブルムが剣、即ち刃物を持つとどうなるか知っているからだ。
「・・・ヴリトラ、リブルが・・・」
「ああ、分かってる・・・。このままだとアイツ、包丁小悪魔に戻っちまうかもな・・・」
ラランは以前、ヴリトラからリンドブルムの過去を聞かされて、リンドブルムが刃物を持つと性格が変わってしまう事を知っていた。そして彼女はその姿を一度目の当たりにして大きな衝撃を受けていたのだ。
「ヴリトラ、お前リブルの過去をラランに話したのか?」
ラランがリンドブルムの性格が変わる事を知っていた事に驚いたニーズヘッグはヴリトラに尋ねた。ラピュスは話の内容が分からずに小首を傾げてヴリトラとニーズヘッグを交互に見ている。ヴリトラはニーズヘッグの方を向いて頷く。
「ああ、ゴルバンの町を解放した後にな。あの時、リブルの変わり様を見てラランがかなり動揺してたから・・・」
「ああぁ、あの時か・・・。それで、その事をリブルは?」
「知ってるよ。俺が話している時にアイツが俺とラランのところに来たからな」
ゴルバンの町での事を思い出したニーズヘッグは腕を組みながら納得する。そして試合場の方を向いてジージルの動きを封じて短剣を握るリンドブルムを見つめた。そこへラランは少し声を震わせて声を掛けてきた。
「・・・リブル、ジージル殿を殺すの?」
「・・・分からない。包丁小悪魔になった時のリブルの考えは俺達にも分からないんだ」
ラランの質問にニーズヘッグは鋭い表情で答える。それを聞いたラランはフッとニーズヘッグの方を向いて目を見張る。そしてもう一度リンドブルムの方を向いて心配そうな顔になった。またあの時の恐ろしいリンドブルムが現れる、その事がラランの頭の中を過り、不安と恐怖が彼女に襲い掛かる。するとヴリトラがラランの頭にポンと手を置いた。驚いたラランはヴリトラの方を向き彼を見上げる。そこにはジッとリンドブルムを見つめるヴリトラの顔があった。
「心配すんな、大丈夫だよ」
「・・・大丈夫?」
「ああ、俺は信じてる。アイツはジージルを殺さないってね」
リンドブルムを真剣な表情で見つめているが、口元は笑っている。そんなヴリトラを見てラランはまばたきをし、ゆっくりと試合場の方へ視線を戻した。ニーズヘッグもヴリトラを見た後に試合場の方へ視線を向けて試合を見守る。ラピュスは訳が分からずに小首を傾げる事しか出来なかった。
試合場の上では左腕を掴まれて上手く動けないジージルが開いている右手でリンドブルムの右手首を掴み短剣の刃を自分の喉元から離そうとしている。だが、リンドブルムの右腕は機械鎧、ピクリとも動かなかった。
「な、何て力なの・・・」
「どうしたんですか?全然動きませんよ?」
自分の右腕を動かそうと必死になっているジージルを見てリンドブルムは小さな声で楽しそうな尋ねる。それを聞いたジージルは背後のリンドブルムの方を向いて歯を食いしばる。
「早く降参してください。さもないと、このまま喉を切り裂きますよぉ?」
「こ、このぉ!そんな脅しがわたしに通用すると思ってるのっ!?」
「脅し?・・・フフフフ、僕は脅してなんかいませんよ?・・・貴方が降参しないなら本当にこのまま喉を切ります」
「・・・そう、それならやりなさいよ?私も敵に背を向けたり、降参するくらいなら死んだ方がマシよ!」
リンドブルムの言葉を聞いたジージルは空を見上げて言い放つ。リンドブルムはそんなジージルを見てニヤリと笑う。
「そうですか。それじゃあ、そうします・・・。ところで、人間って喉を切られても直ぐには死なないって知ってます?」
「・・・?」
突然意味不明な質問をしてきたリンドブルムにジージルは彼の方に視線を向ける。リンドブルムはまるで言い聞かせる様に静かにゆっくりと話を始めた。
「人間が喉を切れると呼吸困難になって大量に出血し、やがて死ぬんですよ。死ぬまでの間、その人は呼吸ができない苦しさ、切られた事による痛み、大量の出血によって死んでいく恐怖に襲われます。その時間がとても長く感じられて、楽になりたくてもなれないらしいですよ?」
不敵な笑みを浮かべながら話すリンドブルムにジージルは一瞬寒気を感じた。そしてなぜかリンドブルムの方を向く事が出来なくなり空の方へ視線を向ける。
「貴方も喉を切られた後に少しだけ意識が残るはずですから、是非どんな気分なのか感想を聞かせてください・・・。それじゃあ・・・さようなら・・・」
そう言ってリンドブルムは短剣の刃をジージルの喉に付ける。その瞬間、ジージルをとてつもない恐怖が襲い掛かった。このままだと自分は死ぬ、そしてリンドブルムの言っていた苦痛を味わう事になる。その事が頭の中を過り、彼女の心を大きく動かした。
「ちょ、ちょっと待ちなさい。今まで降参する事を勧めておいて今更殺すって、矛盾してるんじゃない?」
「・・・何ですか?さっきまで死んだ方がマシだって言ってたのに、もしかして今になって怖気づいたんですか?」
「そ、そんなんじゃないわよ!ただアンタの考え方が理解出来ないってだけよ!」
「理解しなくて結構です。貴方は死んでくれるだけでいいですから・・・」
そう言って話を終わらせたリンドブルムは再び短剣を持つ手に力を入れて刃を動かそうとする。その瞬間にジージルは死への恐怖に襲われた。
「ま、待って!・・・・・・分かったわ・・・降参する・・・」
「・・・・・・」
ジージルが遂に降参する。死への恐怖が彼女の考えを変えさせたのだ。それを知ったリンドブルムはゆっくりと短剣をジージルの首から離し、掴んでいた左手も解放した。ジージルはゆっくりと両手両膝を試合場に付けて俯き、それを見た審判はハッと表情を変えて右手を上げる。
「それまでっ!」
試合終了の合図をした審判を見てリンドブルムは持っていた短剣を捨てた。観客席からは歓声が聞こえ、観客達を見回したリンドブルムは俯いているジージルの方を向いて口を開く。
「・・・すみません、ちょっとやり過ぎちゃいました」
そう言い残してリンドブルムは試合場を後にする。残ったジージルは両手を強く握り力を込め、両手の甲の上にポタポタと涙を落す。ジージルの顔は涙と鼻水でグシャグシャになっており、死への恐怖と悔しさが彼女を包んでいる。そして最後のリンドブルムの言葉が彼女に止めを刺したとのだ。
(・・・何がすみませんよぉ!・・・覚えてなさいよぉ、必ずアンタをボコボコにして泣かしてやるんだからぁ!)
心の中でリンドブルムに対する悔しさを訴えるジージルは試合場から去っていくリンドブルムの背中を睨みつけていた。
試合を終えたリンドブルムは出入口の近くで試合を見ていたヴリトラ達の下へ歩いて行き、軽く手を振った。
「やっほ~」
「お疲れさん」
微笑みながら手を振るリンドブルムに声を掛けるニーズヘッグ。リンドブルムがヴリトラ達の前まで近づくとラランが不安そうな顔でリンドブルムを見つめる。
「・・・リブル、大丈夫?」
「うん、平気。大した怪我もしてないし」
「・・・そうじゃ、なくて・・・」
「ん?」
どこか落ち着かない様子のラランを見てリンドブルムは小首を傾げた。するとそこへ、ラピュスが会話に加わりラランの代わりにリンドブルムに説明をした。
「さっき、お前の様子が急に変わってラランは驚いていたんだ。何でも、お前が包丁小悪魔に変わったと言ってな・・・」
「・・・ああぁ、成る程・・・」
理由を知り納得の行くような顔をして頷くリンドブルム。彼はラランの方を向いて優しく声を掛けた。
「・・・ゴメンね?思わず短剣を手にしちゃってあんな事になっちゃったんだ」
「・・・大丈夫」
謝るリンドブルムの方を向いてゆっくりと頷くララン。前にBL兵達を一瞬で血祭りに上げたリンドブルムの姿が脳裏に焼き付いているのか、やはり包丁小悪魔としての姿のリンドブルムを見るのは抵抗があるようだ。
「それにしても、どうして短剣なんて使ったんだよ?お前ならアイツを場外にしたり気絶させる事は簡単だろう?」
「ああ。刃物を手に取れば自分が変わるをお前は知ってるはずだ、何でわざわざ殺すなんて脅して試合に勝ったんだ?」
ヴリトラとニーズヘッグはリンドブルムが包丁小悪魔としての性格に変わってジージルに勝利した理由が分からずにリンドブルムに尋ねる。リンドブルムは二人の方を向いて真剣な顔でその質問に答えた。
「確かにそれなら簡単に勝てるよ。でもそれじゃあ彼女は自分の力の限界を理解することなく試合が終っちゃうじゃん。それだと彼女の心はいつまで経っても強くならない、だからあえて彼女に降参させて悔しさを覚えさせたんだよ」
「ジージル殿を強くする為に恐怖を与えて降参させたと言うのか?」
「そう・・・」
ラピュスの方を向いて頷くリンドブルム。するとヴリトラが何かを心配する様な顔で腕を組み考え込み始めた。
「だけどよ、さっき試合場の方を見たけど、ジージルの奴、お前の事を恨めしそうに睨んでたぜ?強くなりたいと言う意思じゃなくて、お前に対する怒りが宿ったんじゃないかって思うんだけど・・・」
「うん、きっと彼女は僕を毛虫の様に嫌って怒りを剥き出すだろうね。でも、その悔しさと怒りを糧にして少しでも強くなってくれたらいいなって思うんだ」
「確かに『悔しさ』や『怒り』を時として強くなる為のきっかけになるかもしれない。だけど、『憎しみ』となればそうはいかないぞ?憎しみは怒りと違い相手に対する殺意しか生まない、強くなるよりも相手を消したいという意志が強くなり道を踏み外すかもしれない・・・」
ヴリトラは今回の試合でジージルが騎士として間違った道を歩むのではないかと少し心配しているようだ。ラピュスやラランも同じ気持ちなのか少し表情を曇らせており、ニーズヘッグも真面目な顔でヴリトラを見ている。するとリンドブルムはニッと笑ってヴリトラを見上げた。
「きっと大丈夫だよ。あの人は騎士のプライドは厚そうだし、騎士として間違った道は選ばないと思う」
「・・・ハァ、お前って時々笑顔で根拠の無い事言うよな?・・・呆れを通り越して尊敬するよ」
「そうでしょう、そうでしょう♪」
「いや、褒めてねぇから・・・」
溜め息をつきながら呟くヴリトラと笑顔で頷くリンドブルム。ニーズヘッグもヴリトラと同じように呆れたのか小さなため息をつき、ラピュスは上手く話について行けないのか少し困った様な顔で頬を指で掻いている。そしてラランは無表情のままリンドブルムを黙って見つめていた。
すると、ヴリトラの耳に付けてある小型通信機からコール音が鳴り、それを聞いたヴリトラ、同じ様に小型通信機からの音を聞き取ったリンドブルムとニーズヘッグが表情を鋭くして小型通信機に目をやる。ラピュスとラランも急に表情を変えたヴリトラ達を見て反応した。
「・・・こちらヴリトラ」
「俺だ、ジャバウォックだ」
小型通信機から聞こえて来たのはジャバウォックの声。ブラッド・レクイエム社の仲間が潜んでいないか町を捜索していたジャバウォックからの連絡にヴリトラ達三人はピクリと反応する。
「ジャバウォック、どうだった?ブラッド・レクイエムの仲間らしい奴はいたか?」
「いや、町の出入口の方を調べてみたが、見張りの兵士達は怪しい奴は見ていないと言っていた。他にも外から侵入出来そうな所を調べて手掛かりを探してたいんだが、それらしい物は無かった」
「そうか・・・」
ブラッド・レクイエム社の仲間や手掛かりが見つからなかった事を聞かされて少し低い声を出すヴリトラ。ラピュスとラランには通信の内容は聞こえていないがヴリトラやリンドブルム、ニーズヘッグの表情を見てどんな内容なのか分かるのか真剣な表情で彼等を見ていた。
「そっちはどうなんだ?SやZって奴との試合は始まったのか?」
「・・・いや、今リブルの試合が終わったところだ。予想以上に時間が掛かってな」
「んん?リブルが苦戦でもしたのか?」
「まあ、そんなところだ」
意外そうに尋ねてくるジャバウォックの言葉に少し楽しそうに話すヴリトラ。そんな彼を見てリンドブルムは少し頬を膨らませて「余計な事を言わないで!」と目で伝える。周りでもラピュス達が頬を膨らますリンドブルムを見て小さく笑っている姿があった。
「ハハハ、そうか。油断するなって伝えておいてくれ」
「・・・僕も聞いてるよ?通信・・・」
「おっとっと!」
笑うジャバウォックが小型通信機を使い話に割り込んでくるリンドブルムの声に驚く。不機嫌そうな声を出すリンドブルムにジャバウォックの庭がらいの声が聞こえてくる。
「ハハハハ、スマンスマン。・・・まぁ、冗談はさておいて、俺達はこのままもう少し町を調べてみる。ある程度調べ終えたら闘技場に戻るつもりだ」
「・・・分かった、そっちは任せるぜ?」
「ああ、後でオロチ達にも伝えておく。と言っても、アイツ等もこの通信を聞いてると思うがな?」
「その通りだ・・・」
通信機からジャバウォック以外にオロチの声が聞こえてくる。七竜将が使っている小型通信機は七つとも全て繋がっており、通信の内容は全員に行き渡るようになっているのだ。故に全員が全ての情報を一度に得る事が出来るという事だ。
「私達は試合を見ながら周囲の観客を調べてみる。もしかすると観客の中に紛れているかもしれないからな・・・」
「そうだな。それじゃあオロチ達は引き続き、試合の様子とS、Zの二人を観察してくれ。ジャバウォック達も頼むぞ?」
「了解・・・」
「ああ、任せておけ」
二人の言葉を最後に通信は終了した。真面目な顔で見つめ合う五人、だが武術大会はそんな五人の都合などお構いなしに進んで行く。一人のレヴァート兵がヴリトラ達の下に駆け寄ってきて声を掛けてきた。
「失礼します。これより準々決勝第二試合を執り行います、ヴリトラ選手とラピュス選手は試合場へ上がってください」
「おっ?もう始まるのか」
予想以上に次の試合が始まるのが早くヴリトラはレヴァート兵の方を向いて言った。ラピュスも同じように兵士を見た後にヴリトラの方を向く。
「ヴリトラ、ブラッド・レクイエムの事も重要だが、私達もSとZを止める為にも早く試合を終わらせよう」
「それもそうだな。・・・それじゃあ、俺達はちょっと行ってくる」
「ああ、頑張れよ、お前達?」
「ヴリトラ、しっかりね?」
「・・・隊長、頑張って」
ニーズヘッグ達に応援され、試合場の方へ歩いて行くヴリトラとラピュス。横に並んで二人は歓声の中、試合場へと向かって行く。
「ヴリトラ、前にも言った通り、私は自分の力がどれ程のものなのかを確かめる為に戦っている。手加減はするなよ?」
「ああ、俺も全力のお前と一度戦ってみたいと思ってたんだ。遠慮無く行くぜ?」
互いに相手を見ながら小さく笑うラピュスとヴリトラは試合を楽しみにしているかの様に気合を入れて試合場の階段を上がって行くのだった。
リンドブルムとジージルの試合はリンドブルムの勝利に終わる。一瞬包丁小悪魔としての姿を見せるも、直ぐに元に戻り試合を終わらせ、次のヴリトラとラピュスの試合が始まるのだった。




