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機械鎧(マシンメイル)は戦場を駆ける  作者: 黒沢 竜
第五章~強者が集う聖地~
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第八十一話  準々決勝開始! 拳銃と弓の衝突!

 ブラッド・レクイエム社の目的を調べる為にヴリトラはジャバウォック達に町と闘技場内にSとZの仲間がいないかを探してほしいと頼む。ジャバウォック達もブラッド・レクイエム社の企みを調べ、それを阻止する為に動くのだった。

 闘技場の控室では休憩から戻って来た参加者達が集まり、次の試合に向けて準備をしている姿があった。その中にもヴリトラ達の姿もある。自分達の武器を点検し、万全の状態で戦えるようにしていた。


「もうすぐ準々決勝の第一試合は始まるぞ?リブル、準備はいいか?」

「うん、バッチリ」


 森羅を鞘に抑えながらヴリトラはリンドブルムに声を掛け、リンドブルムもライトソドムとダークゴモラをチャックし終えてホルスターに戻した。


「第一試合はリブルとジージル殿の試合だったな?」

「うん。そう言えば、あのジージルって姫騎士はどんな人なの?」

「ジージル殿は白銀剣士隊の隊長の中でも数少ない弓の使い手だ。弓の腕と視力が高く、弓騎士でありながら最前線で敵と戦うというとんでもない戦術を持つと言われている」

「弓を使うのに最前線で戦うのぉ?」


 ラピュスの説明を聞いて驚くリンドブルム。ヴリトラも以前、戦略会議の時にラピュスからジージルの事を聞かされていたが、最前線で戦う事は知らずリンドブルムと同じ様に驚いていた。ラランとニーズヘッグも三人のところへやって来て会話に参加する。


「しかも彼女は移動速度が速く、近接戦闘に持ち込まれても素早く相手の前から移動して距離を取り、矢を放つと言われている」

「・・・きっと、ザーバット殿もその戦術で負けたんだと思う」


 ラピュスの隣でラランがザーバットの敗因を考えてリンドブルムに話し、それを聞いたヴリトラとリンドブルムは目を見張って更に驚く。弓を使いながら遠近の両方で戦う事の出来る騎士、ある意味でリンドブルムと同じタイプの攻撃パターンを持っている存在に二人は表情を鋭くする。


「・・・リブル、次の試合は最初の戦いの様に楽には行きそうにない。油断するなよ?」

「しかも相手は騎士、間違いなく気の力を使って攻撃して来る筈だからな」

「分かってる。今度は迷わずに拳銃コレを使って戦うつもりだよ」


 ヴリトラとニーズヘッグの忠告を聞いたリンドブルムは腰の二丁の愛銃をポンポンと手で叩きながらヴリトラを見上げる。ラピュスとラランも真面目な顔で二人の方を見ており次の試合が激しくなると直感した。

 五人が試合の話をしている時、ニーズヘッグはふとある事を思い出した。


「そう言えば、アイツ等は大丈夫だろうか・・・」

「アイツ等って、調査チームの事か?」

「ああ、若干納得の行かない様子で行ったけど・・・」


 ニーズヘッグの言葉にヴリトラも「確かになぁ」と言いたそうな複雑な顔をして頷く。ラピュス達も同じ様な顔を見せて顔を見つめ合う。さっきのジャンケンで調査する者と観客席に残る者と別れた時に、調査チームの一部が納得出来ない顔を思い出したのだ。


――――――


 一方、調査チームは町の街道を歩きながらブラッド・レクイエム社の仲間を探して歩いている。街道には殆ど住民の姿は無く、視界に入る人数も数えるくらいしなかった。


「ヘェアックシュンッ!」

「大丈夫か?」


 街道を歩いているジルニトラがクシャミをしてその場に立ち止まり、そんなジルニトラに第三遊撃隊の男性騎士が声を掛けた。二人の後ろにはジャバウォックと三人の男性騎士の姿があり、立ち止まったジルニトラの背中を見ている。結局ジャンケンではこの六人が負けてブラッド・レクイエム社の調査をする事になったのだ。


「ジル、くしゃみなんかして風邪でも引いたのか?」

「違うわよ、きっと誰かが噂をしてるだけ。それにあたし達の体にはナノマシンが入ってるのよ?ナノマシンのおかげであたし達は風邪なんて引かない体になったんでしょう」

「ああぁ、そうだったな」


 ジルニトラの話を聞いてジャバウォックは指をパチンと鳴らして思い出した。機械鎧兵士の体には身体能力を強化するナノマシン以外に体外からの病原菌や危険な薬物を分解する高性能の医療ナノマシンや体温を調整するナノマシンが投与される。よって機械鎧兵士が病気や薬物で体に異常をきたす事は無い。

 ジャバウォックとジルニトラがナノマシンの事で話をしている姿を第三遊撃隊の男性騎士達は黙って見つめていた。会話の内容について行けずに困り顔を見せている。


「お、おい・・・早く捜索を始めなくていいのか?」

「ああ。早いところ、そのブラッド・レクイエムの仲間を見つけちまおうぜ?」

「んっ?・・・ああ、そうだったな。悪い悪い」


 二人の男性騎士に声を掛けられてやるべき事を思い出したジャバウォックは軽く謝って彼等の方を向く。ジルニトラもうっかりしていたのか、一度軽く咳をして男性騎士達を見つめた。


「それじゃあ、まずは町の入口の方へ行ってみましょう」

「なぜだ?」

「敵の拠点に潜入した時に最初にする事は何だと思う?脱出路を確保する事よ。そうすれば何が起きても直ぐに逃げる事が出来るでしょう?最初に町の入口である正門へ行って怪しい奴がいないかを確かめるの」

「ああ、その後に町中を見て回って怪しい奴や怪しいところを探していくんだ」


 ジルニトラとジャバウォックを見て男性騎士達は「ほぉ~」と納得する。


「その時はアンタ達にとことん手伝ってもらうぜ?この町の事はアンタ達の方が詳しいからな」

「ああ、その時は何でも聞いてくれ」

「よし、それじゃあ正門へ行くぞ。ついでに門の所にいる兵士にも話を聞いてみよう」


 ブラッド・レクイエム社の考えを読み、ジャバウォック達は街道を走りティムタームの町の正門へと向かって行った。


――――――


 闘技場でも、いよいよ準々決勝が始まる様で観客席に再び熱気が戻って来た。控室にもそんな観客達の声が届き、それを聞いたヴリトラ達も少し興奮して来た。


「盛り上がって来てるようだね?」

「ああ、観客達も早く次の試合が見たいんだろうさ」


 出入口の扉の方を見ながら話し合うリンドブルムとニーズヘッグ。ヴリトラ達や勝ち残った他の参加者達も楽しみなのか笑みを浮かべている。その中でZとSは黙って壁にもたれており、その様子をヴリトラ達は二人に気付かれない様に見ていた。


「あの二人、さっきからずっと動かずに壁にもたれているな・・・」

「アイツ等にとっちゃあ、客が盛り上がろうが自分達には関係ないと思ってるんだろう?」

「・・・戦う事しか興味が無い」

「そう言う事」


 ヴリトラはラピュスとラランの二人と小声でZとSを見ながら会話をする。ただ戦って相手を傷つける事しか頭にない彼等を三人は不快に思っているようだ。そこへレヴァート兵が控室に入って来て参加者達に声を掛けた。


「皆さん、これより準々決勝第一試合を行います。リンドブルム選手、ジージル選手、試合場へお越しください」

「ハ~イ」


 レヴァート兵に呼ばれて返事をするリンドブルムは扉の方へ歩いて行く。すると、突然背後からジージルがリンドブルムに肩をぶつかって彼を押し退け、先に扉の方へ向かって行く姿は目に飛び込んできた。


「あいたっ!」

「あら?御免あそばせ♪」


 ジージルは振り返り、軽く謝罪をして控室を出て行く。そんなジージルを見てリンドブルムはムッとしたのか少し頬を膨らませて不快になる。


「何て奴だ」

「試合前からいきなり挑発かよ」


 ジージルの態度を見てリンドブルムの様に不快な気分になるヴリトラとニーズヘッグ。ラピュスとラランも同じ姫騎士としてジージルの行動を恥ずかしく思ったのか軽蔑する様な目をしている。


「リブル、あんな奴コテンパンにしちまえ!」

「・・・最初からそのつもりだよ」


 ヴリトラの言葉にリンドブルムは彼の方を向いて鋭い表情で頷きながらそう言って控室を後にした。

 試合場へ続く通路を余裕の表情で歩くジージルと少し離れて彼女の後を追う様に歩いて行くリンドブルム。真っ直ぐよそ見もせずに試合場へ向かって歩いて行く二人。試合場に出ると二人の入場に観客達は歓声を上げて闘技場は更に騒がしくなった。観客席ではジャンケンに勝ったオロチ、ファフニール、アリサの三人が並んで座りながら試合場を見ている。


「あっ、リブルが来たよ!」

「相手は姫騎士の様だな・・・?」

「ハイ。彼女は白銀剣士隊に所属しており、弓の名手と言われている人です」

「弓か、リブルと同じ遠距離戦闘をする騎士か・・・」

「ええ。ですが彼女は相手が例え目の前にいても動揺せずに弓で戦い続けるというとんでもない戦術を使います。手強いですよ!」


 アリサから弓を近距離で使うと聞かされたオロチとファフニールはヴリトラ達の様に少し驚いている。観客達の中には体の小さい子供同士の戦いだとつまらなそうにしている者もいるが斬新な戦いだと思って楽しみにしている者もいた。

 オロチ達が座っている客席から右斜め後ろの少し離れた位置にある席には一回戦でラピュス達に負けたジェームズ、アネット、ロンが横に並んで座っており、試合を見物している姿があった。


「おっ、いよいよ始まるみたいだぞ?」

「うむ・・・」

「最初はちびっこ同士の対決みたいだね」


 三人は試合場に上がったリンドブルムとジージルを眺めながら話をしており、その中でアネットは指弾に使う鉛玉を手の中で転がし、ジェームズは飲み物の入った木製のジョッキを手に持っていた。


「あのボウズが噂の七竜将って傭兵隊の一員なんだよな?」

「ああ、あたしが戦ったニーズヘッグっていう兄さんの仲間らしいよ」

「あの歳で傭兵やってるなんて、何か事情があるみたいだな」

「それはあたし達も似たようなものでしょう?」

「ハハハ、確かに」


 笑いながら木製ジョッキの飲み物を飲むジェームズと小さく笑っているアネット。


「それでその相手が同じ年ぐらいの小さい姫騎士さんって訳だ。確かロンのおっさんが戦った相手もアイツと同じくらいの姫騎士だったんだよな?」

「うむ、私と同じ槍使いの娘だった」

「それにしても、準々決勝の第一試合がまさか子供同士の戦いなんて、お客さん達は皆退屈してるんじゃないかい?」


 アネットが周りの客席を見ながら話していると、ロンが目を閉じてゆっくりと口を開いた。


「・・・あの姫騎士は子供ではないぞ?見た目は幼く見えるが、実の歳は二十歳みたいだ」

「ええっ!本当かよ!?」

「あたしとほぼ同じくらいだったんだね・・・」


 ロンからジージルの実年齢を聞かされて驚くジェームズとアネットは目を丸くして驚く。三人はそのまま試合場の方を向き直して試合の見物に戻った。

 試合場の上では見つめ合うリンドブルムとジージルの姿があり、その間では審判が観客達の方を向いて試合開始の宣言をしようとしている。


「しばしの休息が終り、ただ今より武術大会を再開いたします!それでは準々決勝の第一試合、リンドブルム殿とジージル殿の試合を執り行います!」


 審判の説明を聞いて観客達も更に歓声を上げてヒートアップした。そんな歓声に包まれてリンドブルムとジージルはジッと相手を見つめていた。リンドブルムはムッとした様な表情を、ジージルは余裕の笑みを浮かべている。


「ウフフフ♪傭兵風情がよく準々決勝に勝ち残って来たわね?とりあえず褒めてあげるわ」

「どうもありがとう・・・」


 笑いながらリンドブルムを褒めるジージルの顔を見ながら彼は目を細くして答える。この時、リンドブルムは心の中で「さっきと言い今と言い、腹立つなぁ~、この人」と思っていた。


「でも、今度の試合は初戦の様には行かないわよ?私は木偶の坊やチャリバンスの様に油断はしないから、そのつもりでいてね?」

「勿論、当然僕も全力で行かせてもらいますけど」

「あら、そぉ~?それじゃあ、どれだけやれるのかお姉さんが確かめてあげるわ♪」


 憎たらしそうな顔で笑いながら挑発するジージル。リンドブルムは呆れた様な顔で小さな溜め息をつき、ゆっくりと構えた。ジージルも左手に持っていた弓を構え、腰の大きめの矢筒から出ている矢に右手を掛けていつでも矢が抜ける様にした。

 二人を見て、戦える状態になった事を確認した審判は両手を上げていつでも試合開始の合図を出せるようにする。


「・・・始めっ!」


 審判が両手を降ろした瞬間にジージルは大きく後ろへ跳んでリンドブルムから距離を取った。突然後ろへ移動したジージルの行動に意外そうな顔を見せるリンドブルム。するとジージルは後ろへ跳びながら矢筒から矢を抜き、弓を構えてリンドブルムへ向かって矢を放った。


「おっと!」


 突然放たれた矢をリンドブルムは横へ跳んで回避する。そしてジージルは試合場の端のギリギリ落ちそうな所に着地して再び矢を取り弓を構えてリンドブルムを狙った。


「よくかわしたわね。初めてよ?私の最初の一撃をかわしたのは」

「それはどうも!」


 弓を構えたまま話し掛けてくるジージルを見てライトソドムを抜き、ジージルに狙いを付けるリンドブルム。彼はジージルの足元に目をやり、試合場から若干はみ出している踵を見て表情を鋭くする。


(・・・驚いたなぁ。あと数cm後ろだったら試合場から落ちて即負けだったのに、落ちるギリギリの距離を計算して後ろに跳んだって事かぁ・・・)


 心の中でジージルの計算し尽くされた行動に感心するリンドブルム。ライトソドムでジージルを狙い、もう一方の手のダークゴモラのホルスターに近づけていつでも銃を抜ける様にしている。その姿を見ていたジージルも目を鋭くしてリンドブルムを見ていた。


(アレが七竜将が使っているジュウって言う未知の武器ね。どんな武器なのか見せてもらうじゃないの)


 ジージルもリンドブルムの使っている武器に興味があるらしく小さく笑いながら彼を見ていた。そしてその直後に再び矢を放ちリンドブルムに攻撃を仕掛ける。リンドブルムもそれを見て素早く引き金を引いた。ジージルの放った矢はリンドブルムの弾丸によって撃ち落とされ、真ん中から折れて試合場に落ちた。自分の放った矢が突然撃ち落された事にジージルは驚き表情が一変する。


「や、矢が勝手に折れて落ちた・・・。それにさっきの高い音は何・・・?」


 ジージルは聞き慣れない銃声を不思議に思いながらリンドブルムを見つめ、視線だけを矢筒に向けながら手を伸ばして次の矢を取ろうとする。すると突然ジージルの足元に弾痕が生まれ、それと同時に試合場に響く銃声にふとジージルはリンドブルムの方を向いた。そして彼の持つ拳銃の銃口から煙が上がっているのを見つける。


「な、何?」

「・・・僕の使っている拳銃は弓よりも速く、強力ですよ?」


 鋭い目でジージルを見つめながらそう言うリンドブルム。ジージルは未知の攻撃をしてくるリンドブルムを見て静かに舌打ちをし咄嗟に右へ向かって走り出し、新しい矢をリンドブルムに向けて放つ。リンドブルムも咄嗟にジージルと同じ方向へ走り出して矢を回避し、ライトソドムで反撃した。弾丸は試合場を囲む様に立っている石柱に当たり、小さな弾痕を作り出す。ジージルはそんな銃撃に一瞬驚くも直ぐに落ち着きを取り戻して矢を放ち続けた。連続で飛ばされる無数の矢をリンドブルムは撃ち落としながら反撃する。二人は試合場の走り回り、ひたすら矢を放ち、銃を撃ち続けた。

 試合場の外ではヴリトラ達がリンドブルムとジージルの試合を見物しており、試合場の上を走り回りながら攻防を繰り広げている二人をジッと見ている姿があった。


「あんな狭い試合場であれ程激しい攻防を繰り広げるなんて・・・」

「・・・二人とも、凄い」

「ああ・・・それも凄いが、機械鎧兵士のリブルと互角に戦っているあの姫騎士さんも大したもんだぜ」

「そうだな。見たところ、まだ気の力も使ってないみたいだし、初めての銃撃に殆ど驚かずに戦うなんて相当神経が太いぞ?アイツ・・・」


 四人はそれぞれ二人の戦いを見て驚きと関心の表情を露わにする。試合場で激闘を繰り広げる幼い傭兵と姫騎士の戦いはこの後、更に激しさを増していく事になる。

 始まった準々決勝第一試合でぶつかるリンドブルムとジージル。拳銃と弓を巧みに操り戦う二人の小さな戦士は強い眼差しと戦意を相手にぶつけて更に闘争心を高めていくのだった。


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