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機械鎧(マシンメイル)は戦場を駆ける  作者: 黒沢 竜
第五章~強者が集う聖地~
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第八十話  目的を調査せよ!

 武術大会決勝トーナメントの参加者も半分となり、準々決勝が始まろうとしている。ヴリトラ達は見事に全員勝ち残るが、ブラッド・レクイエム社の機械鎧兵士であるZとSも勝ち残ってしまう。既に武術大会の参加者二名が殺されており、ヴリトラ達はZとSに対し更に警戒心を強めるのだった。

 第一から第十試合までが終り、次の準々決勝に備える為に一時間の休憩が参加者に与えられる。その間に参加者達は試合で受けた傷の手当などをして体を休め、観客達も食事や厠を済ませるなどをしている。ヴリトラ達も外の空気を吸う為に闘技場の外へ出て気分転換をしていた。


「んん~っ!一先ず最初の試合は全部終わったな」

「うん、次の試合は前の様には行かないだろうね」


 闘技場の入口前で背筋を伸ばすヴリトラを肩を回しながら見上げて話すリンドブルム。ニーズヘッグもアスカロンを鞘から抜いて異常が無いかチェックをしており、ラピュスとラランは闘技場の近くにある出店に行き、そこで売られていた小さなパンを持ってヴリトラ達の下へ戻って来た。


「ホラ、買って来たぞ?」

「おっ?サンキュー」


 ヴリトラはラピュスの持っているパンを貰いゆっくりと口にする。リンドブルムとニーズヘッグもラランからパンを受け取るとそれを食べ始めた。次の試合が始まるまでに体力を付ける為に何かを腹に入れておこうと思ったのだろう。ラピュスとラランは残った自分のパンを持ったまま周りをチラチラと見回している。


「ん?どうしたんだ?」

「いや、何処か座る場所はないかと思ってな・・・」

「別にいいじゃねぇか、此処で食っちまえば?」

「立ち食いなんて行儀が悪いだろう」

「あのなぁ、こんなに周りに人がいるんだぜ?座る所があったとしても全部取られちまってるよ」


 ヴリトラはそう言ってパンをかじりながらラピュスと同じように周りを見て回す。今ヴリトラ達が立っている闘技場の入口前には観客席にいた町の住民達が外に出て出店なので料理を買って食事をしたり、話をしたりなどをしている。既に数え切れない程の住民達が外に出てベンチや芝生の上に座り込んでおり、とても自分達が座れるような場所はなかった。

 ラピュスはその光景に目を細くして困り顔を見せている。ラランは相変わらず無表情のまま周りの住民達を見ていた。


「たまには立ち食いしたっていいじゃねぇか?それに行儀が悪いって言うなら、前にパティーラム様と買い物に行った時に菓子を食べ歩きしたじゃねぇか」

「うっ!そ、それは・・・」


 以前、騎士の姿で、しかも王族であるパティーラムの前で菓子を食べ歩きしたというはしたない姿を見せた事を思い出して言葉に詰まるラピュス。


「今更立ち食いがはしたないなんて言ってもしょうがないだろう?」

「・・・確かにそう」


 ヴリトラの言葉に納得したラランは頷いてパンを食べ始める。ラピュスも納得の行かない顔を見せて渋々パンをかじる。それを見た三人はニッと笑ってバンを食べるのを再開した。


「・・・それにしても」

「ん?」


 パンを食べながら真面目な顔で何をか思い出すニーズヘッグに気付いたヴリトラ。ラピュス達もパンを食べながらニーズヘッグの方を向いた。


「どうして奴等はこんな事をしたんだ?」

「奴等って、ブラッド・レクイエムの事?」


 リンドブルムが残ったパンを頬張りニーズヘッグに尋ねると、ニーズヘッグはリンドブルムの方を向いて頷く。


「ZとSがブラッド・レクイエムの連中だって事は間違いない。だが、どうして奴等はこの町に二人も機械鎧兵士を送り込んだのか、そして、どうして武術大会に参加しているのか、一体何が目的なんだ?」


 ブラッド・レクイエム社の目的が分からずに悩むニーズヘッグは残りのパンを口に入れて腕を組みながら考え込む。ラピュスとラランも少しずつパンを食べながらブラッド・レクイエム社の目的を考え始める。すると、ヴリトラがパンの欠片を空に向かって軽く投げ、上を向き口を上げる。パンは真っ直ぐヴリトラの口の中へと入って行き、ヴリトラは口の中のパンを静かに噛む。


「何にせよ、アイツ等はこの国の姫騎士を殺したんだ。少なくとも友好目的で来た訳じゃないだろうな」

「ああ、それは同感だ」


 ヴリトラの言葉に同意して頷くニーズヘッグ。


「もしかすると、活動資金を得る為にこの大会に参加したんじゃないのか?」

「それは考え難いな。奴等がその気になればもっと簡単に金を手に入れる事が出来る筈だ。どうしてわざわざ武術大会に参加する必要があるんだ?」

「そう言えば・・・」


 ヴリトラの推理を聞いて考え込むラピュス。なぜブラッド・レクイエム社がこの武術大会に参加したのか、その理由が分からないヴリトラ達は考え込む。


「お~い!ヴリトラ~、皆ぁ~!」


 遠くから聞こえてくるジルニトラの声にヴリトラ達は声のした方を向く。そして闘技場の入口から出て来るジャバウォック達七竜将、アリサ達第三遊撃隊が歩いて来る姿を見つける。


「よぉ!皆」

「お疲れさん!」


 ジャバウォックはヴリトラの肩に腕を回して頭をクシャクシャと掻き回す。ニヤニヤと笑うジャバウォックを少し鬱陶しそうに見ているヴリトラをラピュス達は笑って見ており、アリサ達がラピュスとラランの下へ寄り笑顔を見せた。


「やりましたね、隊長!ラランも凄いじゃない!」

「おお!隊長とラランなら勝ち残ると思ってたぜ!」

「いや、あれはまぐれだ」

「・・・私は手を抜かれた」


 照れくさそうに話すラピュスと視線を逸らして機嫌の笑うそうな声で呟くララン。そんな第三遊撃隊のやりとりを見てジルニトラはニッと笑っていた。


「まったく、調子いいわねぇ?」

「さっきまでサラと言う騎士が倒れた姿を見て固まっていたのだがな・・・」


 オロチの言葉を聞いたヴリトラ、リンドブルム、ニーズヘッグはふと表情を変える。ヴリトラはジャバウォックの腕を退かして髪を整えると、観客席で見ていた者達の方を向いて声を掛けた。


「皆、ちょっといいか?」

「ん?」

「どうしたの?」


 突然真面目な顔で声を掻きてくるヴリトラを不思議像に見るアリサとジルニトラ。ラピュスとラランも真面目な顔を見せてジャバウォック達を見ている。ヴリトラ達の態度が変わったのを見て、ジャバウォック達七竜将は「何か遭ったな」と直ぐに気付いて同じように真面目な顔に変わった。


「此処じゃなんだ、場所を変えよう」


 ニーズヘッグは周りに大勢の人がおり、話しづらいと感じたのか場所を変える為に移動する事を提案する。ジャバウォック達も人に聞かれたらマズイ事だと察して頷いた。ヴリトラ達はジャバウォック達を連れて人気の無い闘技場の隅に移動し、声が漏れないように固まって会話を始める。


「さっきの七試合目は見たな?サラって姫騎士が黒いマントを来たSって奴に殺された」

「ああ、しっかり見たよ。俺達の周りにいた観客達も酷い光景に固まってたぜ」

「確か試合で死んじゃっても、殺した人は罪にならないんだよね?・・・何だかサラって騎士さんが可愛そう・・・」


 七試合目の事をヴリトラに聞かれて各々が感じた事を話すジャバウォックとファフニール。アリサ達第三遊撃隊も同じ王国騎士が殺された事にショックを受けているのか俯いて暗くなっていた。


「じゃあ、あの殺したSって奴はブラッド・レクイエムの機械鎧兵士だって事も気付いているのか?」

「・・・ええ、戦いを見て直ぐに分かったわ」

「あれ程素早く、そして無傷で相手を殺すなんて事は普通の人間ではほぼ不可能だ・・・」


 機械鎧兵士の事に気付いている伝えるジルニトラとオロチ。それなら話が早いとヴリトラは周りにいるラピュス達を見回して静かに口を開いた。


「奴等がこの町に来てわざわざ武術大会に参加した理由が必ずある筈だ。俺達はこれから準々決勝に出ないといけない、そこでお前達に奴等が何を企んでるのか調べてほしいんだ」

「調べる・・・?」

「ああ、奴等がたった二人でこの町に来たとも思えない。何処かに仲間がいる可能性が高い、闘技場の中や町を調べてそれらしい奴を見つけてほしいんだ」

「成る程、確かに仲間がいる可能性は高いな・・・」


 ヴリトラの説明に納得し、町にブラッド・レクイエム社の人間が潜入している可能性を考えるオロチ。周りでも七竜将や第三遊撃隊のメンバーが難しそうな顔やどこか不安そうな顔を見せていた。


「前にもジークフリートと言う男がこの町に潜入した事があって町の警戒は強くなったから怪しい奴は直ぐに見つかる筈だ」

「それに今は武術大会が行われて町の人は殆どこの闘技場に集まっている。町中には殆ど人がいないから探すのも難しくないだろうしな」


 真剣な顔でラピュスとヴリトラが捜索に手間が掛からない事を話し、ジャバウォック達も真面目な顔で二人の方を向き話を聞いている。


「そういう事なら、試合を見ているなんて事は出来ねぇな」

「うん!皆で町中を探そう!」


 ジャバウォックとファフニールが気合を入れて捜索する事を決めてジルニトラとオロチも頷く。アリサ達も捜索に協力する事にしたのかジャバウォック達を見て頷いた。


「あっ、ちょっと待ってくれ」


 ヴリトラが少し表情を和らげて突然ジャバウォック達に声を掛ける。 


「ん?どうしたの?」

「観客席にも二、三人残っておいてくれないか?俺達がSやZと戦う時に俺達じゃ気付かない点とかがあるかもしれないから、観客席から観察しておいてほしいんだ」

「確かに、俺達は敵幹部の事を知らなさすぎる。少しでも情報を得る為に見ておいた方がいいな」


 ニーズヘッグはヴリトラの提案に同意し、周りにいるラピュス達も頷いた。敵の事を何も知らない状態で戦いを挑むのは危険すぎる、その事を十分承知しているヴリトラ達には今後の対策の為にも敵の情報が必要だったのだ。


「それで、誰が客席に残るの?」


 ファフニールがヴリトラを見て尋ねると、ヴリトラはオロチの方を向いて彼女を親指で指した。


「オロチは視力が高いし、観察力も記憶力もいい。まず一人はオロチに決定だ」

「ああ、偵察兵のオロチは欠かせないな」

「・・・・・・」


 ヴリトラとジャバウォックの方を見たオロチは黙って闘技場の壁にもたれる。残るに二人を決める為に一同は集まって人選を始めた。


「それで?誰が残るんだ?」

「私、残りたい!」

「あたしも!」


 ジャバウォックの問いかけにファフニールとジルニトラが素早く手を上げる。


「何だよ、いきなり手を上げて?」

「相手がどんな戦いをするのか見てみたくてね」

「私も!ヴリトラ達を応援する!」


 ニッと笑うジルニトラと笑顔でジャンプするファフニール。周りではラピュス達がまばたきをしながら二人を見ており、そんな中でヴリトラはジト目で二人を見つめながら口を開いた。


「・・・そんな事言って、本当は闘技場や町中を探し回るのがめんどくさいから試合を見ていただけなんじゃないのか?」

「「あっ、バレた?」」


 本音を見抜かれて声を揃えながら笑う二人に一同がカクッとよろめく。


「お前等なぁ~!こんな時にめんどくさがるなよ!」

「そうだよ、ブラッド・レクイエムの連中が何か騒ぎを起こそうとしているのかもしれないんだよ?」


 呆れ顔で二人に注意するヴリトラとリンドブルム。すると、黙って話を聞いていたアリサも苦笑いをしながら手を上げてきた。


「あ、あのぉ~、私も試合を見たいから残りたいなぁ~、何て思っちゃったりして・・・」


 アリサまでも試合が見たいから残りたいと言い、それを見て目を丸くする七竜将とラピュス。そしてアリサの後ろでは第三遊撃隊の男性騎士達もアリサと同じ考えなのかヴリトラ達を見て小さく手を上げている。


「お、お前達、いい加減にしろ!それでも王国を守る騎士なのかぁ!?」


 自分の部下までもヤル気を見せない姿にラピュスもアリサ達を見て声を上げる。怒られてビクつくアリサ達とラピュスの隣で目を閉じ「やれやれ」と言いたそうに顔を横へ振るララン。誰が行くのか決まらずに次第に声を大きくしながら話を始める一同。いつまで経っても観客席に残る者、捜索をする者が決まらない事に困り果てるヴリトラ。するとそこへジャバウォックが手をパンパンと叩いて注目を集める。


「おぉい、これじゃあ埒が明かない。ここは公平にジャンケンで決めろ」

「「ジャンケン?」」

「「「「ジャンケン・・・?」」」」


 ジャバウォックの提案に意外そうな顔を見せるジルニトラとファフニール。そして聞いた事のない言葉に小首を傾げるラピュス達第三遊撃隊の騎士達。そこへリンドブルムがジャバウォックに近づき、彼の腰を指で突く。


「ねぇねぇ、ラピュス達はジャンケンを知らないんだから、それじゃあ公平とは言えないんじゃない・・・?」

「ん?・・・まぁ、ルールを教えて少し練習すれば大丈夫だろう?」

「余計時間が掛かると思う・・・」


 リンドブルムは深く溜め息をついてそう呟いた。


「おい、そのジャンケンとは一体何なんだ?」


 ラピュス達がジャバウォックの方を向いてジャンケンの事を尋ねると、ジャバウォックとニーズヘッグが説明を始める。


「俺達の世界の遊びの一種だ。あと、順番なんかを決める時にもよく使われるもんだな」

「手だけを使って勝敗を決める手段だよ」

「手だけを?」


 簡単なやり方で勝敗を決める方法だと聞いて驚くラピュス。アリサ達も意外そうな顔をしており、ラランは無表情ではあるが興味がありそうな顔をしている。


「そうだ。・・・これがグー、これがチョキ、これがパー、それでこの三つを・・・」


 ニーズヘッグが自分の手を動かして形とルールをラピュス達に説明していく。説明を終えた後に簡単な練習をしてジャンケンを覚えたラピュス達。その姿を七竜将達が闘技場の壁にもたれながら眺めていた。そして十数分が経過し、休憩時間も残り少なくなってきた頃、ようやく本番を始めようとする。


「よしっ!それじゃあ、ヴリトラ達参加者とオロチを除いてジャンケンをするぞ」


 ジャバウォックに呼ばれて、ジルニトラとファフニール、アリサと第三遊撃隊の男性騎士四人が輪を作り準備を始める。


「やっと本番かぁ。かなり時間が掛かったな・・・」

「仕方ないよ、アリサ達は初心者なんだから」

「だけど、この後また時間が掛かるかもしれないぜ?」


 ニーズヘッグの言葉にヴリトラとリンドブルムが彼の方を向く。二人の隣ではラピュスとラランも壁にもたれながらニーズヘッグの方を見ていた。


「全部で八人だろう?あいこが出れば何度だって繰り返すんだ、それで数分は掛かると思うぞ?」

「うへぇ~、そうだったなぁ」


 あいこでまた時間が掛かる事に気付いて面倒そうな顔を見せるヴリトラ。そんな会話の中、ジャバウォック達の方も始めようとしていた。


「それじゃあ、始めるぞ?・・・最初はグー!」

「「「「「「「「ジャン、ケン!」」」」」」」」


 ポンとそれぞれが自分の手を前に出して勝負を始める。その後、意外にもあいこは殆ど出ずにスムーズに勝負は付き、ジャバウォック達も自分達の役目に取り掛かり、ヴリトラ達も遅刻することなく控室へ戻れたのだった。

 間もなく始まる準々決勝。そんな中でヴリトラはブラッド・レクイエム社の目的を調べる為にジャバウォック達に町の捜索を頼み、自分達は試合場でSとZの二人と戦う事に集中する。だがその前にリンドブルムと白銀剣士隊の姫騎士であるジージルの試合が行われるのだった。


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