第七話 ファンダリーム偵察
マリが誘拐され、それを実行したのがヴリトラ達が遭遇した盗賊クレイジーファングの仕業だと知った。そしてラピュスからクレイジーファングのアジトがあるかもしれないと思われる廃鉱のある岩山の事を聞かされる。その岩山の廃鉱にアジトがあるかどうかを確かめるために、七竜将はティムタームの北にある岩山へ向かう事にした。
町を出た七竜将は全員が灰色の特殊スーツに着替えて上からコートを着ている。車の中ではそれぞれ武器を整えながら真剣な表情をしていた。二台のバンが道を走り、その後ろをラピュス達第三遊撃隊の騎士達が馬に乗って後を追っている。自動車を見たこのないラピュス達は初めて自動車を見た時に、バロン達と同じように驚いていた。そして訳の分からないまま岩山へ向かっていたのだ。
「それにしても、速いな。あれが兵士達の言っていたジドウシャとかいう鉄の馬車なのか?」
「そうみたいですね」
「・・・馬でも追いつけない」
前を走るバンを見ながら馬を全力で走らせるラピュス達。ラピュス達姫騎士の後ろでは十人ほどの騎士達が同じように馬に乗ってラピュス達の後を追っている。後ろを走る騎士達を見たアリサは隣を走るラピュスに声を掛けた。
「あのぉ、隊長。本当に私達だけでよかったのですか?クレイジーファングのアジトかどうか分からない所に僅か遊撃隊一個を向けるなんて。相手の規模がどうなのかも分かってないんですよ?」
「・・・しかも傭兵の考えたこと、信用できない」
「そうですよ。騎士団が傭兵に協力するなんて聞いた事ありません」
ラピュスを挟んで自分達の意見をぶつけるアリサとララン。実は今回の行動は騎士団が七竜将に協力するという形で行われているのだ。騎士団の隊が独断で行動をし、自分達の情報を他人に教える事は禁じられている。にもかかわらず、今回はラピュスが無断で自分の隊を集めて七竜将に手を貸している、とても大きな規則違反だ。
馬を走らせながら前を走っているバンを見て、ラピュスは自分の考えを口にした。
「お前達の言いたい事は分かる。騎士団の隊が独断で出撃し、盗賊のアジトや事件の情報を他人に話す事は禁止事項だ。しかも傭兵に手を貸すなどと、騎士団としては問題があると言ってもいい。だが、私はアイツ等の話を聞いて、アイツ等に賭けてみたくなったのだ」
ラピュスの言葉に互いの顔を見ながら不思議そうな顔をするラランとラピュス。
なぜラピュスが七竜将に協力しようとしているのか、それは数十分前、町の入口からバロンの酒場へ戻った時の事だった。
――――――
バロンの酒場、マリアーナへ戻って来た七竜将とラピュス達は店の中で地図を見ながら話しをしていた。七竜将にラピュスとラランはテーブルを囲んでおり、ラピュスは地図の一ヵ所を指差していた。
あの後、ヴリトラから岩山の場所を教えてほしいと言われたラピュス。勿論最初は拒んでいたが、ヴリトラ達のマリを助けたいという強い意志の押されて教える事にしたのだ。
「此処だ。ティムタームの北に数K行った所にある岩山『ファンダリーム』という岩山だ。此処には十数年前に金を採る鉱山があったんだ。だが金を全て採り尽くしてしまい、既にここは廃鉱になっている。そこを何者かがアジトにしたという情報がある」
「それがクレイジーファングの連中なんだな?」
ヴリトラがラピュスの方を向いて尋ねると、ラピュスはヴリトラの方を向いて質問に答える。
「言っただろう?クレイジーファングの連中かどうかは分からないと。だが、かなりの人数のならず者がその廃鉱に住み着いているとは聞いた。クレイジーファングの連中もかなりの人数らしい、我々も岩山や廃鉱の情報が少なく中々調査に踏み込めないのだ」
「人数や山の構造、あと罠があるかどうかを調べてからじゃないと捜索出来ないという訳ですね?」
ヴリトラの隣でラピュスを見上げながら尋ねるリンドブルム。ラピュスは自分より背の低いリンドブルムを見て頷く。ヴリトラ達の話しを聞いていたジャバウォックが近くに立っているバロンの方を向いた。
「爺さん、俺達は出会った、つまりさっき会った林は何処にあるんだ?」
「林?・・・ああ、それはここですが・・・」
ジャバウォックから自分達のであった林の場所を訊かれた地図を指差すバロン。バロンが指を指した所には確かに少し小さめの林が描かれてある。よく見るとその林は盗賊のアジトがあるファンダリームの近くにあった。林は岩山から約一K程離れた所にある。
「ここか・・・盗賊のいる岩山の近くにあるな」
バロン達がクレイジーファングに襲われた林がアジトのある岩山の近くにある事に気付いたジャバウォックが髭を触りながら地図を見つめる。周りでもヴリトラ達が地図を見ながら林から岩山への距離、岩山から町への距離を考える。そして一つの答えを導き出した。
「やっぱりマリちゃんを襲ったのはクレイジーファングの連中だ。そしてクレイジーファングのアジトはこの岩山にある」
ヴリトラの出した答えにラピュスとラランは目を見張って驚く。さっきの話だけで岩山にクレイジーファングのアジトがあると何で断定できるのか分からなかったからだ。
ラピュスは地図に描かれてある岩山を指差しヴリトラをジッと見つめる。
「なぜそう断定できる?」
「俺達がバロンさんと出会った時、彼とマリちゃんはクレイジーファングの連中に襲われていたんだ。此処から林までは約2K、そして林から岩山までは1K、俺がKOした男が目を覚まして岩山に戻り、今回の誘拐の準備を進めて町に来れば時間としては十分余裕がある。しかしこれは近くにアジトを持たないと出来ない手口だ」
「だから誘拐事件の犯人はクレイジーファングだと言うのか?」
「ああ」
細かい説明を聞いたラピュスが結論を尋ねるとヴリトラは頷いて返事をする。話しを聞いたラピュスは納得のできない顔を見せている。出会ったばかりで殆ど情報の無い傭兵の言った事を直ぐに信じることなんて出来るはずがない。それは当然の事だ。
「それだけでクレイジーファングのアジトがファンダリームにあるとは納得できないな」
「まぁ、そうだろうな。だけど俺達は此処にアジトがあると踏んだ。それでも俺達はこれからこの山に行くつもりだけど?」
いきなり岩山へ行くと言い出したヴリトラに驚くラピュスとララン。後ろに控えている騎士達も同じだった。ヴリトラはリンドブルム達に指示を出して岩山へ行く準備に入った。ヴリトラはバロンと何かを話して酒場から出ようとする。すると、突然ラピュスがヴリトラに声を掛けた。
「待て、お前達は傭兵、しかも七人で岩山を探索すると言うのか?此処は私達王国騎士団が何とかする。お前達はこれ以上関わるな」
「おいおい、散々人に質問するだけしておいて最後は手柄の横取りか?」
「なっ!?お前、私達騎士を侮辱する気か!」
「この状況では誰が見てもそう思うんじゃね?」
手柄を横取り、それを聞いたラピュスはヴリトラを睨みつけて反論する。ヴリトラは澄ました様な目でラピュスを見つめる。ヴラピュスに睨まれながらもヴリトラは顔色一つ変えなかった。周りではリンドブルム達やララン達が二人の話しを黙って聞いている。
「私達は騎士として民を助けるために戦おうとしているのだ。断じて名誉などの為ではない!」
「俺達も同じさ。バロンさんとマリちゃんに助けられてから助けるだけ。報酬や名誉なんかはいらない」
「それに報酬が欲しい時はちゃんと依頼の手続きをするしね」
「おい!」
気まずい雰囲気で冗談の様に言うリンドブルムにニーズヘッグが注意する。笑っているリンドブルムをラランがジッと黙って見つめている。
「あたし達は確かに傭兵だけど、恩を仇で返す様な馬鹿じゃないわ。あたし達はあたし達の意思で行くだけよ」
ヴリトラをフォローするように話に加わるジルニトラ。ジルニトラの話しを聞いてラピュスはチラッと彼女の方を見る。ジルニトラの目には金や名誉の為に戦うそこらの傭兵と同じ目ではない事に気付く。誰かの為に出来る事をやる、それを伝える目をしていると気付いたのだ。
ラピュスはしばらく目を閉じて何かを考えていると、もう一度ヴリトラの方を向いて静かに話しをした。
「お前達の考えは分かった。だがな、私達もこの国に仕える騎士団の一員だ。傭兵であるお前達だけに任せるつもりはない」
「んじゃ、一緒にやるか?岩山の捜索?」
突然笑いながら尋ねてくるヴリトラにラピュスは一瞬驚く。それから直ぐに表情を戻して考えると小さく頷いた。
「・・・いいだろう」
「た、隊長!?」
ヴリトラの話しを承諾するラピュスに控えていた騎士が驚く。そこへラランもラピュスを見上げて声を掛けた。
「・・・騎士団の独断の行動は禁止、市民に騎士団の持つ重要な情報を教えるのも禁止、そう決められてる」
「分かっている。責任は全て私が取る。ララン、アリサが戻ってきたら私達第三遊撃隊もこの七竜将に同行してファンダリームへ向かうぞ。コイツ等だけじゃ捕まるのが関の山だ」
「・・・ふぅ、どうなっても知らない」
全ての責任を自分が取ると言うラピュスの言葉にラランは俯いて従う事にした。周りの騎士達も戸惑っていたが、隊長であるラピュスに従う事にした。ラピュスはラランと周りに騎士達の方を向いて今後の指示を出した。
「まずは詰所に行き待機している第三遊撃隊を全員召集させる。その時に団長にも私達の独断行動も知られてしまうが、責任は私が取ると伝えておく。それから念の為に港町カルティンの方へも隊を向かわせるよう話しをしておく」
「・・・受け入れられないと思う」
「そうかもしれないが、誘拐事件の事を話せば本隊も黙ってはいないだろう」
ラピュスの姿を見ていたヴリトラは意外そうな顔を見せている。他の七竜将達もラピュスの凛々しい姿を見て驚いていた。
「へぇ~、あの子若いのにしっかりしてわねぇ」
「あの若さで騎士に対しる熱意と行動力、ありゃあ将来化けるかもな?」
「化けるって、お化けにでもなるの?」
「「・・・・・・」」
感心するジルニトラとニーズヘッグを見上げながら尋ねるファフニール。彼女の言葉に二人は返す言葉も無く黙り込んだ。
それからしばらくしてアリサが戻り、今後の行動を伝えたラピュス。話しを聞いて驚いたアリサはその足でもう一度詰所に戻り、第三遊撃隊がファンダリームの岩山を捜索に行く事を知らせる。そして戻って来たアリサと数名に騎士達がラピュス達と合流して七竜将と共に岩山へ向かうという事になったのだ。
――――――
それが数十分前の話しだった。その時の事を思い出し、ラピュスは前を向いて馬を走らせ続けた。その隣でもラランとラピュスが同じ速さで馬を走らせている。
「アイツ等は普通の傭兵とは違う。金を出さないと動かないそこらの傭兵と違って恩をしっかりと覚えている。あんな奴等は今まで見た事がない、だから私はアイツ等に賭けてみたくなったのだ」
「気持ちは分かりますけど・・・」
「・・・いまいち信じられない」
ラピュスの話しを聞いてもいまいち七竜将を信用できないアリサとラランは不安を口にする。ラピュスはそんな二人の話を聞きながら前を向き続けている。
「勿論、私も完全に奴等を信じてはいない。もし奴等は盗賊側に寝返る様な事があれば、その時は・・・」
七竜将が裏切った時の事も計算して話しをするラピュスの横顔をラランは無表情で見ており、アリサは少し汗を掻いていた。
岩山へ向かって走って行く七竜将と第三遊撃隊は岩山の入口らしきものがあるふもとに辿り着いた。バンを停めて降車する七竜将と馬を止める第三遊撃隊は入口らしき所を見回した。周りには岩だけしかな、木も枯れており草も無い。ただ冷たい岩肌だけが辺りを埋め尽くしている。
「此処にクレイジーファングのアジトがあるのか・・・」
「多分な。他にも岩山に入る入り口はあるが、一番楽に入れるのはここだ」
馬から降りたラピュスがヴリトラの隣にやって来て説明する。他の七竜将もヴリトラとラピュスの近くに集まり、ララン達騎士団も集まった。
「高い場所が多いし、人間や馬車が楽に入れるの此処だけ。見張りがいても不思議じゃない場所だな」
「ああ、我々騎士団がこの山を周囲と調査する時は出来るだけ人が通らない他の道を選んでいる。この道を通れば盗賊達に見つかり奇襲される可能性が高いからな」
見張りがいそうな高い大きな岩を見上げながら話しをするヴリトラとラピュス。だが今のところ盗賊達の気配は感じられない。見つかってはいないようだ。
ヴリトラは岩山を見て何処から攻めるかを考え出す。だが、攻めようにも地図を見ただけでは何も分からない。アジトである廃鉱や敵の位置、そしてこの先どんな道のりなのか、罠がどれだけ仕掛けてあるのか。つまり彼等は作戦の練り様が無いという事だ。
「まずは情報を手に入れないとな・・・。オロチ」
「ん?」
「ちょっくら行ってきて状況を調べてきてくれないか?」
「分かった・・・」
オロチはバンの中から旅行カバンを取り出して地面に置き、カバンについているスイッチを押した。すると旅行カバンは独りでに開き、中から長い棒状の物が飛び出して来た。それを手に取ったオロチはゆっくりと持ち上げる。棒の先には斧の刃が付いており、オロチはそれを頭上で回しながら感覚を確かめる。オロチの愛用の超振動戦斧、斬月が姿を現した。
突然カバンから出てきた斬月を見てラピュス達はまたしても驚きの表情を見せる。斬月を肩に担いでヴリトラ達の見たオロチは右の耳についている小型通信機を指で触り、何かあったら連絡すると合図を送った。
ヴリトラ達はそれを見て頷くと、オロチは両足の機械鎧に力を込めてもの凄い勢いでジャンプした。オロチは軽く8m程ジャンプして岩の真上に降り立った。周りを見回して周囲に盗賊の姿がない事を確認するとまた勢いよくジャンプして別の岩に跳び移り、岩山の奥へと進んでいった。
「な、何だ、あのジャンプは・・・?」
ラピュスはオロチの人間離れしたジャンプ力に目を奪われる。ララン達も驚いてオロチが降り立った岩を見て固まっている。ヴリトラは驚くラピュス達を見てニッと笑う。
「アイツは両足を機械鎧にしているからな。機械鎧には人工筋肉が使われて常人の数倍の力を得る事が出来る。あそこまでジャンプできたのはそのおかげさ」
「マシンメイル?ジンコウ・・・キンニク?」
聞いた事の無い言葉にラピュスは首を傾げながら困り顔をする。ラランやアリサ、他の騎士達も理解できずにいた。そんなラピュス達を見て面白そうな顔をする七竜将。山の方を向いてオロチからの連絡と戻って来るのを待った。
偵察をする為に一人岩山へ潜入したオロチを高い岩の上から見渡している。木などがないため兵士達がいればすぐに見つける事が出来るが、それは自分も同じ立場だ。高い岩の上にいる為、敵が見上げれば高い岩の上にいる自分もすぐに見つかってしまう。
「今のところ人影は無いな・・・」
姿勢を低くして偵察を続けるオロチ。すると、オロチが立っている岩の真下を二人の男が通過するのを見つける。二人の男に意識を集中させて二人の行き先や装備を調べるオロチ。男達はバロンとマリを襲った男と同じで顔付きは悪く、身軽な服装で腰に短剣と小型の斧を収めている。どうやら盗賊の下っ端のようだ。
機械鎧兵士は機械鎧で強化された部分の力と生身の部分の力を同じにする為にナノマシンを投与して身体能力を高めている。だが高めているのは身体能力だけではない、五感も鋭くなっている。つまりオロチはナノマシンで強化された視覚と聴覚をフルに使い男達の行動や話しを探ろうとしているのだ。
オロチが見つからない様に気配を消して上から二人の男を見下ろしていると、男達の話し声が聞こえてきた。
「おい、捕まえたガキどもは何時売り飛ばすんだ?」
「さぁな。お頭がまだ客を見つけてねぇみたいだしよ」
「・・・!まだ子供達は無事なのか?」
誘拐された子供達がまだ無事だと知り、オロチは更に詳しい情報を手に入れるために意識を二人に絞る。男達はオロチが話しを聞いているとも知らずにペラペラと話し続ける。
「しかしよぉ、今日のあれは面白かったなぁ?」
「ああ、あれだろう?ジジィからガキと金をぶんどろうとしたら変な格好をした傭兵に邪魔されたって?」
「それで、その顔面にパンチを撃ち込まれてそのまま気絶、ウケるぜ、本当に!」
二人の男の話を聞いてオロチはこの二人がクレイジーファングと繋がりがあると確信する。
「それでお頭から大目玉をくらってまたそのガキをさらいに行ったんだろう?ティムタームの町に」
「ああ、それでさっき帰って来てようやく名誉挽回したって事だ」
「「ハハハハハハッ!」」
この話でオロチは確信した。マリをさらったのはやはりクレイジーファングの連中だと。
オロチは岩から飛び降りて男達の真後ろに着地した。着地の時の音に気付いた男達は振り返る。そして斬月を担ぐオロチの姿を見つけた。
「な、何だテメェ!?」
「どうやってここへ来た・・・」
男達がオロチに質問しようとした時、オロチは斬月を片手で持ちながら男達に突っ込んでいき、勢いよく斬月を横へ払った。
――――――
その頃、ヴリトラ達はオロチが戻って来るまでにバンを目立たない所に隠し、自分達の装備を点検、確認していた。その様子をラピュス達第三遊撃隊の騎士達は不思議そうに見ている。ヴリトラ達の見た事の無い武器や自分達の世界には無い物に興味を惹かれる者も少なくない。騎士達の中には驚きながらヴリトラ達の行動を見る騎士の姿もあった。
「アイツ等は一体何をしているのだ・・・?」
「何でも『武器をテンケンする』って言ってましたよ?」
「テンケン?何それ・・・?」
「さぁ・・・?」
聞き慣れない言葉を聞いたラランはアリサに尋ねる。だがアリサも理解できずに小首を傾げていた。そこへ武器の点検と装備の確認を終えたヴリトラ達がラピュス達の下へ歩いてくる。
「待たせたな?こっちは準備完了だ」
「別に待ってなどいない・・・・・・それよりも、本当にやる気なのか?」
「ああ、必ずマリちゃんを助ける」
ラピュスの質問にヴリトラは頷く。ヴリトラを見てその自信はどこから来るのかと呆れる様な顔を見せるラピュス。
するとそこへ偵察に行って来たオロチが戻って来た。オロチは岩から岩へと飛び移ってヴリトラの近くに降り立った。戻って来たオロチを見てヴリトラは真面目な表情を見せる。
「オロチ、どうだった?通信を入れてこなかったという事は、通信する暇も無く俺達の所に戻ってくる理由があったのか、それとも無線機が壊れたかのどちらかと思うんだけど?」
「通信する必要がないからだ。深い所まで偵察する必要が無く、すぐに重要な情報を手に入れた・・・」
「重要な情報って?」
ヴリトラの隣に立ていたリンドブルムがオロチに尋ねると、オロチはヴリトラ達、ラピュス達を見て答えた。
「ここにはクレイジーファングのアジトがある、そしてまだマリ達は無事だ・・・」
「本当か!?」
ラピュスはオロチの話を聞いて声を上げる。オロチは小さく頷いて自分の得た情報を放し始める。
「私は岩山を偵察している時に二人の男を見つけた。その男達がバロンさんとマリを襲った男の仲間でマリを誘拐して此処に連れて来た事を話した。私は奴らを問い詰めてアジトの入口や場所、あと人数も吐かせた。アジトはこの岩山の中心にあるこの山で一番大きな廃鉱だそうだ。人数は五六人、たいした武器も持ってない。それから、情報を吐いた二人は寝かせておいた・・・」
オロチの説明を聞いたヴリトラ達。オロチは斬月の長い柄で肩をトントンと叩いた。話しを聞いたヴリトラはリンドブルム達の方ゆっくりと向いた。
「指示を出すぞ。オロチの偵察では人数は五十六人。そのうち二人を倒したから五十四人になる。クレイジーファングの連中は自分達のアジトに騎士や傭兵が来るはずないと油断している。どれでも抵抗は激しいだろう、俺達七竜将は三隊に分ける。俺とジャバウォック、ファフニールはマリちゃんを探しながら敵を殲滅していく。リンドブルム、ニーズヘッグ、ジルニトラ、オロチは廃鉱の破壊工作をしながら敵を倒して行ってくれ」
「「「「「「了解!」」」」」」
「お、おい!ちょっと待て!」
自分達を置いてどんどん話しを進めてしまうヴリトラ達を止めるラピュス。ラピュスの声に反応し一斉に彼女の方を向く七竜将。
「お前達だけで行くつもりか?」
「ああ、あの程度の連中は俺達だけで十分だ」
「あの程度って、奴等は五十四人もいるんだぞ?返り討ちにされて捕まるのが落ちだ!」
「心配しないで。あたし達はこう見えても陸上自衛隊二個中隊分の戦力があるんだから」
「・・・は?リクジョウ、ジエイタイ?」
「・・また変な事言ってる」
ジルニトラの説明が理解出来ないラピュスとジト目で七竜将を見ているララン。話は理解出来なかったが、ラピュスは傭兵だけ行かせるつもりは無かった。ラピュスは剣を抜いてヴリトラ達を見つめる。
「私も行こう、お前達の戦い方や戦力をこの目で見極める」
「・・・はぁ、あっそ。それならいいけど、足手纏いにはならないでくれよ?」
「なっ!・・・くぅ、それはこっちの台詞だ!」
また馬鹿にされて顔を赤くするラピュス。そんなラピュスの後ろでラランも突撃槍を両手で握りヴリトラ達を見つめる。
「・・・私も行く」
「え?君も?・・・でも君、まだ子供じゃないか」
「・・・貴方に言われたくない」
自分を子供扱いするリンドブルムをジッと睨みつけて言い返すララン。そんな彼女の顔を見えリンドブルムは少し汗を掻いて苦笑いをする。ヴリトラ達がラピュスの方を向くと、ラピュスはラランを見下ろして口を開いた。
「心配するな。コイツは十一歳で姫騎士の称号を手に入れた歴史上、最も若く、最も優秀な成績を収めた娘だ。私よりも出来るかもしれない」
「へぇ~、そうなんだ」
ラピュスの言葉に意外そうな顔を見せるリンドブルム。ラランはジッとヴリトラを見上げて「連れて行け!」と視線で訴える。そんなラランを見てヴリトラは折れたのか七竜将達にもう一度指示を出した。
「え~、改めて説明するぞ?俺とジャバウォックとファフニールとラピュス、そしてリンドブルム、ニーズヘッグ、ジルニトラ、オロチ、ラランのチームで行動すること。OK?」
「「「「「「OK」」」」」」
一緒に行く事が決まり互いに見つめ合いながら頷くラピュスとララン。すると、後ろの方でアリサが困り顔でヴリトラ達を見ている。
「あ、あの~、私達はどうしましょうか?」
「お前達はここで待機していてくれ。もし何時まで経っても私達が戻らなかったら、一旦町に戻れ」
「は、はい。分かりました」
アリサを岩山の入口で待機させて岩山に入っていくヴリトラ達。廃鉱のある岩山を根城にしていたのは、やはりクレイジーファングの連中だった。ヴリトラ達はマリとさらわれた子供達を助けるために前へ進む。
彼等は無事にマリ達を助ける事が出来るのか?