第七十六話 高速の鉛玉! ニーズヘッグVSアネット
ラピュスとジェームズの戦いも終わり、トーナメントは第五試合に入った。ニーズヘッグと美人女傭兵のアネット、二人の戦いがどの様に繰り広げられるのか、誰にも予想がつかなかった。
既に試合場に来ていたニーズヘッグとアネットは直ぐに試合場に上がっていつでも試合が出来る状態に入っていた。審判も予想以上に早くやって来た選手に意外そうな顔を見せていたが、直ぐに試合進行に戻る。
「続きました、第五試合を開始いたします!まずはニーズヘッグ選手。ヴリトラ選手、リンドブルム選手と同じ七竜将の一人である青年で見た事のない武器を使うと噂されている人物です!」
観客席を見回しながら今まで通り選手の紹介に入る審判。観客達は連続で登場する七竜将のメンバー達を見て歓声を上げる。この武術大会と今まで七竜将が熟して来た依頼で彼等の存在は既にレヴァート王国中に広まり、彼等を知っている観客達はいつの間にか七竜将を応援するようになっていた。
「対するアネット・ラファキル選手は短剣と体得が困難とされている指弾術の使い手と言われている美しき女性傭兵であります!」
「いやぁ~、美しいなんて大袈裟だねぇ~」
審判の紹介を聞いたアネット本人は頭を掻きながら照れくさそうにする。その様子を見ていたニーズヘッグは少し小首を傾げながら彼女を見ていた。すると、アネットは自分を見つめているニーズヘッグに気付いてウインクをして彼を見ながら笑う。
「どうしたんだい?もしかして、私に見惚れちまってるのかい?」
「・・・まぁ、確かにアンタに興味があるのは間違いないな」
「おっ?直球じゃないか。まさか、本当に惚れちまったとか・・・」
「それはねえよ」
嬉しそうに尋ねてくるアネットを見ながら速攻で否定するニーズヘッグ。アネットも即答されて気が抜けたのか、カクッと前によろめいた。
「・・・酷いねぇ?何もそんなにハッキリと言わなくてもいいじゃないか」
「誤解されると何かと面倒だからな。違うものは違うとハッキリ答えるのが俺のモットーだ」
「ハァ、そう言う男って嫌われるよ?」
「余計なお世話だ」
試合場の上でブツブツ話し合うニーズヘッグとアネット。試合場の外ではヴリトラ達が戦いを始めずに何かを話している二人をジッと見ていた。
「何と話をしてるんだ?アイツ等」
「分からない」
二人の会話の内容が気になる様子のヴリトラとラピュス。二人の前ではリンドブルムとラランがまばたきをしながら試合場の二人を見つめている。
そして試合場の上ではニーズヘッグはアスカロンを抜き、アネットも腰の短剣を逆さまに持ちながら構えている。二人とも戦う準備が整った様だ。
「さっさと始めようぜ?あんまり待たせると観客の人達から野次を飛ばされる」
「まったく・・・アンタ、見た目はいい男だけど女心に関しては鈍いね」
「悪いな?俺は今まで異性に興味を持ったことが無かったから、そっちの方は鈍感なんだよ」
自分が鈍感だという事を伝えてアスカロンを片手で持ちながらアネットをジッと見つめるニーズヘッグ。一方でアネットはガッカリした様な顔でニーズヘッグを見つめながら溜め息をつく。
「残念だよ。アンタ、意外と私の好みだったんだけどね」
「外見だけで男を選ぶのは軽い女のする事だぞ?」
「忠告ありがとう。それじゃあ、鈍感なアンタと軽い私のどちらが強いか試してみようじゃないか」
さっきまでと違いニーズヘッグに鋭い目で闘志をぶつけるアネット。そんな彼女を見てニーズヘッグもようやくやりやすくなったのか静かに笑みを浮かべた。
「・・・始めっ!」
審判の合図で試合が開始される。最初に動いたのはアネットだった。アネットは短剣を構えながらニーズヘッグに向かって走って行き、ニーズヘッグも自分に向かって来るアネットに向かって走り出した。そしてニーズヘッグはアネットが自分の攻撃範囲に入るとアスカロンで袈裟切りを放つ。だがアネットはジャンプでニーズヘッグの斬撃を回避し、空中でクルッと回りながらニーズヘッグの背後の回りこんだ。
「速い!」
「ああ、簡単にニーズヘッグの背後を取るなんて!」
アネットの予想以上の身のこなしに驚くヴリトラとリンドブルム。ラピュスとラランも驚いて目を見張っている。だが一番驚いたのは戦っているニーズヘッグ自身だった。自分の斬撃をかわして軽々と後ろの回りこんだアネットの方を向いて目を丸くしている。
「ハアッ!」
背後に回りこんだアネットは振り向きながらニーズヘッグの背中に短剣で攻撃する。ニーズヘッグは素早く後ろを向いてアスカロンを逆さまにしてアネットの短剣を止める。アスカロンと短剣の刃がぶつかり、そこから多くの火花が飛び散り金属が削れる様な音が試合場に響く。
自分の背後からの攻撃を防いだニーズヘッグの反応速度に驚いたのか意外そうな顔を見せるアネット。彼女は他にも目の前で火花を飛ばし続けている自分の短剣とアスカロンに興味を向けていた。
「今の攻撃を止めるとは驚いたよ。それにアンタ、おかしな剣を使ってるね?」
「んん?・・・ああ、アスカロンの事か」
「火花を飛ばし続ける剣なんて見た事がないよ。そんな物何処で手に入れたんだい?」
「気になるか?・・・俺に勝ったら教えてやってもいいぜ!」
笑いながらアスカロンを大きく振り短剣を払うニーズヘッグは後ろに跳んでアネットから距離を取る。それと同時にアスカロンの柄のスイッチを押し、勢いよくアスカロンを振り下ろした。その勢いでアスカロンの刀身が伸びて離れているアネットに迫って行く。突然刀身が伸びた事に驚いたアネットも素早く後ろの跳んで真上からのアスカロンの刃をかわす。
ニーズヘッグが態勢を立て直すのと同時にアスカロンの刀身は元に戻り、アネットも元の姿に戻ったアスカロンを見ながら驚き続けていた。
「驚いたぁ。アンタの剣、蛇腹剣だったんだね?」
「俺達七竜将は全員が遠近の両方の戦闘を得意としている。その中でも俺は特に複雑な攻撃を得意としているからな・・・俺の懐に入り込むのは簡単じゃないぜ?」
「でもさっき、背中を取られたじゃないか?」
「ととっ・・・痛いところを突いてくるな。確かにさっきは油断したが、今度はそう上手くはいかないぜ」
「そう?それなら私も少し違う方法で攻めて見る事にするわ」
アネットは右手に持っている短剣を左手に持ち替えると、腰の左右に付いている革製の小袋に手を入れて何かを取り出そうとする。アネットは小袋から何かを取り出したが、小さい物なのか手で覆い隠されておりニーズヘッグは何なのかを確認出来なかった。そして次の瞬間、アネットは手の中にある物を親指で弾き飛ばした。
「!」
何か来る、そう感じたニーズヘッグは咄嗟に横へ体を反らした。するとニーズヘッグの頬に何かが掠った様な感触が伝わり、しばらくしてニーズヘッグの頬に小さな切傷が浮かび上がりそこから微量の血がにじみ出る。突然の傷に一瞬驚くニーズヘッグだったが直ぐにアネットの方へ視線を向けた。その直後にまたアネットは右手の親指で手の中の何かを弾きニーズヘッグに攻撃する。ニーズヘッグはその攻撃を体を反らして回避し、ジグザグに後ろへ跳んで更にアネットから距離を作る。
「今のはまさか・・・」
アネットが何をしてきたのかに気付いたニーズヘッグはアネットの右手を見つめて意識を集中させる。するとアネットがまた親指で手の中の物を弾こうとする。その時、ニーズヘッグはアネットの手の中からパチンコ玉程の大きさの鉛玉が姿を見せるのを目にした。
「指弾!ラランから聞いていたが、本当に使って来るとはな。しかもあんなに早く弾き飛ばしてくるとは・・・」
ニーズヘッグはラランや審判からアネットが指弾使いである事を聞いていたが、実は少し疑っていたのだ。その為にいきなり鉛玉を弾き飛ばして来たアネットに反応が遅れて一発頬を掠めてしまったといい訳だ。ニーズヘッグは距離を取った後に連続で飛んでくる鉛玉をアスカロンで防ぎながらアネットの攻撃をかわしていく。だが、指弾を使っているアネット自身も剣で鉛玉を全て防いでいるニーズヘッグに驚いていた。
「まさか、私の指弾を剣なんかで弾いちまうなんて・・・。アンタ、本当に凄い奴だね。だから、私も手加減無しで行くよ。反撃の隙は与えない!」
アネットはニーズヘッグの動きを完全に封じる為に指弾を連続で撃ち続ける。ニーズヘッグもなかなか反撃に移れない状態に少し押されている様に見える。だが、ニーズヘッグの表情を曇っておらず余裕の顔を見せていた。なぜならニーズヘッグはまだチャンスがあると確信していたからだ。
(確かに指弾はこの世界じゃ弓に勝る飛び道具だ。だが、銃弾より速度は遅く、いずれ弾は切れる。勝負はその時だ!)
心の中で呟きながらニーズヘッグはアネットの弾切れを待ちながら攻撃を防いでいる。観客席では指弾を剣で弾くという超人的な力を発揮するニーズヘッグに観客達ははしゃいでいた。ジャバウォック達は「当然だ」と言いたそうな顔で試合を見ている。彼等機械鎧兵士にとって指弾の弾を弾いたりかわしたりするのは造作も無い事だからだ。
騒がしい歓声を気にせずに二人は試合場で攻防を繰り広げていた。既にニーズヘッグの足元には彼がアスカロンで弾いた鉛玉が幾つも転がっており、連続で指弾を撃ち続けていたアネットは指の疲れから表情を少し曇っている。
「まったく、これだけの弾を全て弾くなんて、アイツ、本当に人間かよ・・・」
ニーズヘッグを見つめながら疲労の顔で呟くアネットが小袋に手を入れて鉛玉を取ろうとする。だが、小袋の中に手を入れる何の感触も無く、アネットはハッと小袋を見下ろす。小袋の中の鉛玉は全て使い切り、空っぽになっていたのだ。指弾が止まり、ようやく弾切れになったと、ニーズヘッグは一度息を吐いてアスカロンを下した。
「どうやら、自慢の指弾も弾切れの様だな?・・・それじゃあ、今度はこっちが攻撃させてもらうぜ」
「・・・・・・フフ」
「ん?」
突然笑い出すアネットにニーズヘッグは反応して彼女の顔を見つめる。するとアネットは左手に持っていた短剣を右手に持ち替えて左手をもう一つの革製の小袋に入れる。そして小袋から出した手をニーズヘッグに向けると手の中から鉛玉を出して親指で弾いた。
「!」
突然の指弾に驚いたニーズヘッグは反応が遅れて右腕に鉛玉を食らってしまう。驚いて再びアスカロンを構えるニーズヘッグと試合場の外でニーズヘッグを見て驚くヴリトラ達。アネットは笑いながらニーズヘッグを見て左手の中から再び鉛玉を出し、指で弾く準備をする。
「弾の入っている袋は一つじゃないんだよ?私は常に袋を二つ持ち歩いてるんだ、両手で同時に指弾を撃てるようにね!」
「・・・チッ!見誤ったぜ」
アネットが両手で指弾を使う事に気付かず、一発を腕に受けてしまったニーズヘッグは舌打ちをして悔しがる。そんなニーズヘッグに構う事無くアネットは左手で指弾を連射し始めた。
ヴリトラ達はニーズヘッグが指弾を受けた姿を見て驚きながら試合を見ている。その表情には緊張と興奮の二つが現れていた。
「・・・ニーズヘッグが攻撃を受けた!」
「あんな単純なミスをするなんて、アイツらしくねぇ。相手が女だと油断してたな?」
「ニーズヘッグ、右腕に指弾を受けてしまったが、大丈夫なのか?」
「幸い、彼の右腕は機械鎧だから怪我はしてないと思うよ」
ヴリトラ達はニーズヘッグが次にどのような行動を取るのかを考えながら試合を見守っている。試合場の上ではニーズヘッグが再び始まった指弾の弾幕をアスカロンで防いでいた。だが、前の弾幕を防いだ時の疲労と右腕に一撃を受けた事で若干動揺しているのか動きがさっきより鈍くなっている。アネットは左手で指弾を撃ち続けながら一歩ずつニーズヘッグに近づいて行く。どうやら指弾を撃ち続けてニーズヘッグの動きを封じながら短剣の届く範囲まで近づいて行くつもりのようだ。
(・・・チッ、マズイな。指弾を撃ち続けながら接近戦へ持ち込むつもりか。防御している状態でいきなり攻撃をされれば俺でも対処は難しい。どうする・・・)
近づいて来るアネットを見ながらどうするかを考えるニーズヘッグ。こうしている間にもアネットを一歩ずつニーズヘッグに近づいて来ていた。
(よしっ、このまま短剣の届く範囲まで近づいてって攻撃をする瞬間に指弾を止め、アイツの足を攻撃すれば完全の動きを封じられる。後は相手に降参させてしまえば私の勝ちだ!)
アネットも心の中で勝利への方程式を組み立てながら近づいて行く。二人の距離を徐々に近づいて行き、後2m程でアネットの短剣が届く範囲になる。ニーズヘッグは指弾を防ぎながら未だに作戦を考えていた。
(落ち着け!相手の立場になって考えるんだ。俺がアイツならどうする?指弾を撃っている状態で相手に近づき、短剣の届く範囲まで相手が入ったらどう動く。アイツの立ち位置、今の俺で一番攻めやすいところは・・・・・・ッ!そうか!)
何かに気付いたのかニーズヘッグはハッと顔を上げてアネットの方を見る。だが既にアネットはニーズヘッグの1m手前まで来ていた。
「フッ!」
ニーズヘッグを見て小さく笑ったアネットは指弾を止めて素早く姿勢を低くした。そして右手に持っている短剣を左から外側に向かって横に振り、ニーズヘッグの足に斬りかかる。短剣の刃がニーズヘッグの足に触れそうになった瞬間、ニーズヘッグは素早く右足を後ろに下げた。短剣は右足のあった所を通過してその先にある左足に迫って行く。だが、その先にあるニーズヘッグの左足は機械鎧の足、短剣の刃が左足にぶつかった瞬間、ガキンと高い金属音を立てて短剣はアネットの手から離れて試合場に落ちた。
「何っ!?」
「やっぱりな」
驚くアネットを見て自分の予想通りだと言いたそうに頷くニーズヘッグは左足でカウンターのキックをアネットの撃ち込んだ。アネットは咄嗟に腕を交差させてニーズヘッグのキックを防ぎ、ダメージを最小限に抑えた。その為アネットは腕にアザが出来て後ろに飛ばされ、尻餅をついただけで済んだ。
2、3m先まで飛ばされて座り込んでいるアネットを見つめながらニーズヘッグは彼女に近づいて行く。
「指弾を撃って相手の動きを封じ、その後に致命傷でない足を狙い、完全に動けなくなったところを指弾と剣で威嚇し降伏を勧める。まっ、そんなところだろ」
「・・・へぇ?よく分かったじゃないか」
腕のアザを擦りながら立ち上り、その後に自分の尻を擦って痛みを和らげようとするアネットは小さく笑いながらニーズヘッグを見る。ニーズヘッグもそんなアネットを見て笑いながら彼女を指差した。
「俺がアンタの立場ならそうしたからさ。だからアンタもそうするんじゃないかって思ったんだよ」
「足じゃなく背中に回り込んだり、腕を狙ったりしてたかもしれないじゃないか?」
「それは無いな。腕や背中を攻撃するには俺の隙が小さすぎる、そんな状態で攻撃したらアスカロンの餌食になるだけだ。アンタ程の人間がそんな無謀な事をするとも思えないしな」
「ハハハ、私も随分高く評価されたもんだねぇ」
アネットはニーズヘッグの言葉に思わず笑いながら両手を腰に当てる。ニーズヘッグもニッと笑いながらアネットの顔と彼女の両手に意識を向けている。そしてアネットは鋭い目でニーズヘッグを見つめながら口元を緩めた。
「だけど、まだ戦いは終わってないよ?そういう事は私を倒してから言うんだね!」
アネットは左手を腰の小袋に突っ込み、鉛玉を取り出しながら後ろに跳んだ。鉛玉を右手に移して空いた左手でまた小袋から鉛玉を取り出し、両手に鉛玉を持つ形になる。アネットが足を地面に付けた瞬間に彼女は両手で鉛玉を弾き飛ばし、ニーズヘッグに攻撃する。ニーズヘッグはアネットに向かって走りながらアスカロンで指弾を弾き近づいて行く。そんな中で弾幕が一瞬止んで反撃のチャンスが出来る。するとニーズヘッグはアスカロンの刀身を伸ばして離れているアネットに攻撃した。
「おっと!」
迫って来たアスカロンの刃をギリギリでかわしたアネット。刃はアネットの左腰の近くを通過しただけで彼女に当たる事はなかった。だが、その時に刃は鉛玉の入っている革製の小袋に触れて小さな穴を開ける。その破れた小袋から大量の鉛玉がこぼれ落ちて試合場に広がっていく。
「しまった!袋が・・・うわあぁ!」
鉛玉がこぼれた事に気付いたアネットは誤って鉛玉を踏んでしまい、仰向けに転んでしまった。倒れて動けなくなったアネットにニーズヘッグは元に戻ったアスカロンの切っ先を向ける。アスカロンを突きつけられたアネットは驚いてニーズヘッグの顔を見た。
「さぁ、どうする?」
「う、うう~!・・・まいった」
降参したアネットにニーズヘッグはアスカロンを引いて審判の方を向く。審判も二人の試合を見てニーズヘッグを見ながら頷いた。
「それまでっ!」
試合終了と同時に観客達の歓声が広がる。ニーズヘッグは倒れているアネットに手を貸して彼女を起こすとアスカロンを鞘に納めながら小さく笑う。
「あれ程の指弾を会得するにはかなりの特訓をしたんだろうな。アンタ、才能あるぜ?」
「フフ、そうかい。アンタがそう言うんなら間違いないだろうな。それにしても、アンタ何者なんだい?蛇腹剣やその左足の防具、それにさっき指弾を受けた右腕は大丈夫なのか?」
アネットがニーズヘッグの全身を見回しながら尋ねると、ニーズヘッグは小さく俯き、目を閉じながら口を開いた。
「俺は機械鎧兵士のニーズヘッグ、とだけ言っておくぜ」
「マシンメイル、ソルジャー?」
聞いた事のない言葉に小首を傾げるアネット。ニーズヘッグはそんな彼女を残して試合場から降りてヴリトラ達の方へ戻って行く。ヴリトラ達は戻って来たニーズヘッグを見ながら軽く手を振って声を掛けた。
「お疲れ様、ちょっと危なかったね?」
「ああ、つい油断しちまったよ」
リンドブルムの言葉にニーズヘッグは頭を掻きながら頷いた。
「しっかし、お前が油断して隙を作るなんて珍しい事もあるもんだな?・・・・・・もしかして、あの姉ちゃんに見惚れて油断しちまったのか?」
「ハッ、バカを言うな。俺は恋愛に興味なんて無い、めんどくさいだけだからな」
ヴリトラの言葉にニーズヘッグは興味なさそうな顔で否定する。それを見ていたラランとラピュスは「ほぉ」と言う様な顔でニーズヘッグを見ていた。
「・・・ニーズヘッグ、ちょっとカッコいい」
「これがヴリトラの言葉ならただの負け惜しみだな」
「あのなぁ・・・」
ラランの隣でヴリトラの方を見るラピュスをヴリトラはジト目で見つめる。ヴリトラに対してハッキリと言うラピュス、だがそれはそれだけ彼に親しくなったという証拠だった。リンドブルムとニーズヘッグはそんな二人の会話を見て苦笑いを見せている。
ニーズヘッグも苦戦を強いられながら勝利し勝ち進んだ。次はラランの出番だが、その前に二つの試合が控えている。そしてその内の一試合で彼等はこの武術大会に忍び込んでいる悪魔の存在を知ることになるのだった。




