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機械鎧(マシンメイル)は戦場を駆ける  作者: 黒沢 竜
第五章~強者が集う聖地~
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第七十五話  熱き気の力! ラピュスの熱戦

 第三試合でチャリバンスに勝利したヴリトラ。彼の力と言葉に弱者を見下していたチャリバンスの心が小さく揺れ、改心へと導いた。ヴリトラの力を目にしたラピュス達は不思議な気持ちで彼を見つめる。

 試合を終えて試合場から降りて来たヴリトラはラピュス達の方に向かって歩いて行く。戻って来たヴリトラに手を振りながら駆け寄るリンドブルムとそれに続くラピュス達はヴリトラの前までやって来た。


「お疲れ様、やっぱりヴリトラの勝ちだったね?」

「ああ。でも、もしアイツが冷静な状態で気の力を使ってきたら苦戦してたかもな」


 笑いながら自分の顔を見るリンドブルムに小さく笑いながら返事をするヴリトラ。リンドブルムの後ろではニーズヘッグが腕を組みながら微笑んでおり、その隣ではラピュスとラランが意外そうに思う顔でヴリトラを見つめている。


「ヴリトラ、お前、一体どんな手を使ったんだ?」

「ん?どんな手?」


 ラピュスの突然の質問に小首を傾げるヴリトラ。


「今まで人と見下していたチャリバンス殿がお前と一戦交えただけで態度を変えるなんて、普通では考えられない事だ。どうやって彼を改心させたんだ?」

「・・・別に何もしちゃいないさ。ただ思った事をアイツに訴えただけだよ」

「・・・本当にそれだけ?」


 ラピュスに続いてラランも無表情のままヴリトラに尋ねる。ヴリトラは只々姫騎士達の質問に頷き、正直に答えた。


「本当に何もしちゃいないよ」

「う~ん、いまいち信用できないなぁ・・・」

「・・・人の心はそんな簡単には変わらないもの」

「まぁ、確かにそうだけどな」

 

 ラピュスとラランはやはりヴリトラが何かしたのではないかと疑う様に彼の顔を見ながら考え込む。ラランの言うとおり、人は自分の考え方や生き方を簡単に変える事は出来ない生き物だ。一戦交えただけでその考え方や生き方を捨てるなんて出来る筈がない。現に試合が終わった後、チャリバンスは直ぐ変わる事は出来ないと口にしていた。ヴリトラ自身もその事は承知していおり、ラピュスとラランを見ながら苦笑いをする。

 二人が考え込んでいるとリンドブルムとニーズヘッグが困り顔を見せて会話に加わって来る。ヴリトラの人間性を疑っている様子に二人を見て彼等も若干困っているようだ。


「言ったでしょう?ヴリトラは時々人の心を変える不思議な事をするって?」

「コイツは今まで多くの敵と戦い、敵を倒して来た。その中にはヴリトラと戦って自分の間違いに気付き心を入れ替える奴も何人かいた。チャリバンスもその一人って事だ」

「え?俺と戦った敵の中にそんな奴がいたのか?」


 ヴリトラは自分との戦いで敵が改心した事に今まで気付いてなかったのか驚きながらリンドブルムとニーズヘッグの方を向く。二人は今まで自覚してなかったヴリトラの能天気さに呆れたのか、溜め息をつきながら肩を落とす。その様子を見ていたラピュスとラランは黙ってまばたきをしていた。五人が試合場の出入口の前で話をしていると、そこに審判が駆け寄って来る

 

「あの~、間もなく第四試合が始まるのですが・・・」

「え?あっ、そうだったなぁ。次は確かラピュスの番だったよな?」

「ん?・・・ああ、そうだったな」


 ヴリトラの言葉で自分の出番だという事を思い出したラピュス。腰の騎士剣や衣服、鎧がしっかりと着れているかを確認していると、五人の後ろのある出入口からラピュスの対戦相手であるジェームズ・ゾゾムーンが入場して来た。気付いたヴリトラ達は一斉にジェームズの方を向く。ジェームズは真っ直ぐ試合場に向かって歩いて行き、その途中で立っているラピュスの隣まで来ると、立ち止まって彼女の方を向く。


「次は俺達の番だな?お互い精一杯戦おうぜ?」

「・・・ああ」


 ニッと笑いながら挨拶をするジェームズを見て真剣な表情で頷くラピュス。ジェームズはそのまま試合場の方へ先に歩いて行き、それを見届けたラピュスはヴリトラの方を向いた。


「じゃあ、行ってくる」

「・・・頑張って、隊長」

「ファイトだよ!」

「勝利にこだわるな?良い戦いをする事を考えるんだ」


 ララン、リンドブルム、ニーズヘッグの言葉を聞きラピュスは微笑みながら頷く。最後にヴリトラの方を向き、強い意志の籠った目で彼を見つめる。


「ヴリトラ、この試合で勝ち進んだらお前とぶつかる。その時は全力で私と戦ってくれ」

「フッ、OK。だけどその前にちゃんと勝ち残れよ?ニーズヘッグの言うとおり、勝利にこだわっていると冷静な判断が出来なくなる。冷静さを忘れるな?」

「ああ!」


 ヴリトラの助言を聞いたラピュスは力強く頷き、試合場の方へ歩いて行く。試合場では既にジェームズが待っており、チャリバンスの姿も無くっていた。ラピュスが試合場に上がり、ジェームズと向かい合う形に入ると観客席は騒がしくなり、ラピュスの応援に来ていたアリサ達もテンションを上げる。


「たいちょ~っ!頑張ってくださいねぇ~!」

「ラピュス隊長、必ず勝ってくださぁい!」


 アリサや騎士達の声援が周りの観客達の声と一緒に闘技場内に響く。アリサ達第三遊撃隊の前の席に座っているジャバウォック達七竜将もラピュスの姿を見て小さく笑っていた。


「今度はラピュスか。・・・しかしこうも連続で俺達の知り合いの試合が続くなんて、勝負が早く付いちまうから面白みがねぇな」

「確かにそうだな・・・」

「でも、今度は分からないわよ?ラピュスはあたし達と違って普通の人間なんだからが、簡単に勝負がつかないかもよ?」

「それはそれで面白そうだな?」


 ジャバウォックに続いてオロチとジルニトラが試合の進み具合を話していると、背後からアリサが顔を乗り出して来た。


「何を言ってるんですか、皆さん!隊長は強いんですよ?そこら辺の人に負ける筈がありません!」

「そうだぞ!隊長やラランなら直ぐに勝負がついちまうさ!」


 ラピュスを弱く言われたと思ったアリサと男性騎士がジャバウォック達に対して少し表情を険しくし、アリサ達の声を聞いたジャバウォックとジルニトラは驚きながらアリサ達を見ている。オロチは無表情のまま後ろに視線を向けるだけで動かなかった。


「何だがフラグ立てちゃってる様な気が・・・」


 アリサ達の発言にファフニールは苦笑いをしながら試合場の方を向いて呟いていた。

 試合場ではラピュスとジェームズが相手を見つめ合いながら自分の武器に手を掛けている。二人を見ながら審判が二人の紹介を始めようとしていた。


「では、第四試合の選手紹介です!王国騎士団遊撃隊所属のラピュス・フォーネ選手、ここ数週間の間にストラスタ公国との戦いで実績を上げ続けた優秀な姫騎士です!そして、ジェームズ・ゾゾムーン選手は一本のファルシオンだけでこれまでに多くの困難な依頼を完遂してきた実力を持つ傭兵であります!」


 心配の紹介を聞いて騒ぐ観客達。そんな騒がしい中でラピュスとジェームズは相手の顔を見つめ合っている。


「まさか、王国の騎士様がお相手してくれるとは光栄だね?しかもアンタみたいな美人なら尚更さ」

「社交辞令は結構だ」

「おっと、キツイねぇ?」


 目を閉じたまま冷たく返事をするラピュスを見て小さく笑うジェームズ。だが直ぐにラピュスの方を向いて戦士としての話に切り替えてきた。


「噂じゃアンタ、さっきのヴリトラとか言う七竜将って傭兵隊と一緒にストラスタ軍と戦って生き残ったらしいじゃないか?」

「ああ、私は殆ど何もしてないがな・・・。そう言うお前もそのファルシオン一本でこれまでに多くのならず者達や猛獣を倒して来たらしいな?騎士団に入らないかという話もあったそうだが」

「まぁな。だが俺は騎士団って言う組織に縛られるのが好きになれなくてね、だから傭兵として自由気ままにやってるのさ

「・・・そう言うところ、アイツに似ているな」

「ん?」

「いや、何でもない」


 ラピュスの方を向いて小首を傾げるジェームズ。ラピュスは試合場の隅で自分の戦いを見物しているヴリトラの方を向いて小さく微笑む。ヴリトラの自分を見て微笑みラピュスに小首を傾げて不思議そうな顔を見せる。そしてラピュスはジェームズの方を向いて腰の騎士剣を抜いて構え、それを見たジェームズもファルシオンを抜いて構えた。


「では、そろそろ始めようか?」

「ああ、俺はいつでもいいぜ」


 二人は相手の準備が整った事を知り、小さな笑みを浮かべる。審判は両者を見ていつでも始められる状況だと判断したのか両手を上げ、もう一度ラピュスとジェームズの方を向き二人の状態を確認した。


「・・・始めっ!」


 そして審判は勢いよく両腕を振りおろし、試合開始の合図を出した。

 ラピュスとジェームズは騎士剣とファルシオンを握りながら相手に向かって全力で走りだし、二人はほぼ同時に袈裟切りを放つ。二つの刃ぶつかり高い金属音が試合場に響き、観客達も試合が始まったのを見て盛り上がっていた。ラピュスとジェームズは自分の剣を持つ力を加えて相手の剣を押し戻そうとする。


「へぇ?流石は王国の姫騎士様だ。そんな細い腕でこれ程の力を出せるとはな」

「女だからと言って油断すると、後で痛い目を見るぞ?これでも私は今までに多くの戦場に足を踏み入れてきた、戦いには慣れている」


 相手の顔を見つめながら軽口を叩き合うジェームズとラピュス。態勢を直す為に二人が剣の刃を離すとラピュスは騎士剣を左から横に大きく振って攻撃する。ジェームズはファルシオンを逆さまに構えてラピュスの横切りを防ぎ、その直ぐ後に騎士剣を払いラピュスに袈裟切りを放ち反撃する。ラピュスも後ろに跳んでジェームズの斬撃をギリギリでかわすと騎士剣を前に持って来て中段構えを取る。一瞬の間に起きた攻防に試合場の二人は全身に緊張を走らせる。


「中々力強い振りじゃないか?」

「そう言うお前も大した身のこなしだぞ?」

「ハハハ、お褒めにいただき恐縮ですよ、騎士様」


 ラピュスを見ながら笑い、手首を動かしてファルシオンを回すジェームズ。まだまだ本気を出していない様子の彼を見てラピュスは警戒心を強くしながら出かたを見る。


「ほんじゃあ、今度はちょっと速くしてみるか・・・」

「何?」


 ファルシオンを回すのを止めたジェームズはラピュスを見てフッと笑いながらファルシオンを握り直して構える。ファルシオンの柄の部分を片手で強く握り、両膝を曲げて下半身に力を込める。それを見たラピュスは何か来ると感じて中段構えから柄の部分を自分の側顔まで持って来て切っ先をジェームズに向ける形に構え直す。その直後、ジェームズは勢いよく地を蹴りラピュスに向かって走り出した。


「!」


 それを見て一瞬驚きたラピュスは走って来るジェームズに向かって勢いよく騎士剣で突いて攻撃する。切っ先が当たる直前に体を横へ反らして突きをかわしたジェームズは素早くラピュスの左側面へ回り込み、隙を見せたラピュスにファルシオンで袈裟切りを放つ。ラピュスは咄嗟に左を向いて騎士剣でジェームズの斬撃を止める。だがそのままジェームズはファルシオンの連続切りでラピュスに襲い掛かる。ラピュスも必死でその連撃を騎士剣で防ぐ。


(な、何て攻撃だ!攻撃は速い上に一撃一撃が重い!)


 心の中でジェームズの猛攻に表情を歪めながら呟くラピュス。その姿を試合場の外で見ていたヴリトラ達も真剣な眼差しでその試合を見守っている。


「す、凄いよ、あのお兄さん・・・」

「ああ、使っているのは叩き斬る事を目的として作られた曲剣のファルシオン。短い物でもそれなりに重く、あんなに素早く振り回すのそれなりの腕力がある奴じゃないと無理だ。それをあそこまで軽々と使いこなすという事は、あの男、相当の腕力の持ち主だぞ?」

「・・・ファルシオンだけで猛獣を倒したって噂は本当だったみたい」


 驚くリンドブルムの後ろと隣でジェームズの戦い方を観察しているニーズヘッグとララン。二人も目を鋭くして二人の戦いをジッと見ている。三人の隣でもヴリトラも腕を組みながら試合を見つめていた。


「だけど、ファルシオンにも弱点はある」

「・・・弱点?」

「ああ。ニーズヘッグが言ったように、ファルシオンは叩き斬る事を目的として作られた剣だ。相手に重い一撃をかます為に剣そのものを重くしている、アイツが使っている長さでもそれなりに重たい筈だ」

「・・・つまり?」

「つまり、剣が長ければ長い程重くなって扱い難いって事になる。あのジェームズって兄さんもそれを考えて出来るだけ軽い物を選んでいる筈、軽いって事はファルシオンも短いって事になる。ここまで言えばもう分かるよな?」


 ヴリトラの説明を聞いたラランは顎に右手の人差し指を当てて考え込む。しばらくして、ラランが何かに気付いてハッとヴリトラの方を向いた。


「・・・長ければ重いという事は、軽いファルシオンは短い」

「そうだ、軽ければ剣のリーチも短くなって攻撃の範囲が狭くなる。ラピュスの騎士剣の方がまだリーチが長い、距離を取れば反撃のチャンスはまだあるって事だ」


 ラピュスにも勝機がある、それを知ったラランはラピュスの方を向いて再び試合に集中した。試合場の上ではラピュスがジェームズの連撃を防ぎ続けている。しかし、連続で攻撃を防いでいた為か、ラピュスの表情に疲れが見え、腕にも疲れがたまって来ているせいか防御が崩れ始めていた。


「くうぅ!・・・手が疲れてきた・・・」

「へっ、顔色が悪いぜ?疲れが溜まってきたかっ!」


 小さく笑いながらジェームズが最後の一撃に力を込めて横切りを放つ。その力に耐えられずにラピュスは後ろに飛ばされて試合場に仰向けで倒れた。それを見ていた観客達も試合の盛り上がりに歓声を上げている。歓声が響く中でラピュスは体を起こしてファルシオンを握っているジェームズの方を向いた。彼の顔には自分と違って疲れた様子が無く、余裕の表情を浮かべて座り込んでいるラピュスを見下ろしている。


「今まで俺が戦ってきた敵で俺の連撃を全て防ぎ切ったのはアンタが初めてだった。アンタ、本当に良い腕をしているじゃねぇか」

「私もあんなに重い斬撃を連続で撃ち込む奴を見たのは初めてだ」


 汗を掻きながら笑って立ち上がるラピュスはジェームズの力の強さを褒め、騎士剣を片手で握りながらジェームズを見つめて話す。ジェームズも自分を褒めるラピュスにニッと笑っていた。


「お前の強さは認めよう。だが、私はこんなところで負ける訳にはいかないんだ」

「それはやっぱり賞金が欲しいからか?」

「いいや、強い相手と戦って自分をもっと強くする為だ」

「自分を鍛える為にこの大会に参加して強い奴と戦うって事か?」

「ああ。お前はどうなんだ?はやり賞金目当てか?」

「そうだな、生活するには金が必要だからな」


 笑いながら賞金目当ての事を素直に話すジェームズ。そんな彼をラピュスは不思議そうな顔で見ている。


「お前ほどの実力ならある程度の依頼は簡単に熟せるだろう?なら生活費にもそんなに困らないと思うが・・・」

「いやぁ~。実は俺、とんでもなく酒好きでな?依頼の報酬の殆どを酒に使っちまうんだよ、だから毎日金に困ってて・・・」


 ジェームズの苦笑いにラピュスは呆れ顔を見せ、試合場の外で見物していたヴリトラ達も二人の会話を聞いて呆れ顔をしていた。

 ラピュスは溜め息を付き、騎士剣を両手で持ちながらゆっくりと騎士剣を空に向かって掲げた。


「それなら、これからは酒をもう少し控えてちゃんと生活に使う事だな?まずはこの大会の賞金を諦めて、しっかり働いて金を稼げ!」


 ラピュスは叫ぶようにジェームズの短所を注意しながら真剣な表情を向ける。すると、試合場を囲んでいる四つの石柱のてっぺんで燃えている火がラピュスの騎士剣に吸い寄せられるように集まり出した。それを見たジェームズは目を見張って驚き、ヴリトラ達も火を見て驚きの表情を浮かべている。


「見て!石柱の火がラピュスの剣に集まっていくよ」

「火が集まる・・・。もしかしてあれは・・・」


 何かに気付いたヴリトラがラランの方を向いた。ラランはヴリトラの考えを察したのか彼の方を向いて頷く。


「・・・アレが隊長の気の力。隊長は火の気を操る騎士、火を自分の剣に纏わせて攻撃する事が出来る」


 初めて見るラピュスの気の力にヴリトラ達七竜将は驚いたままラピュスを見つめている。ラランの風、アリサの水に続いてラピュスの火の気を目にしてヴリトラ達や観客席のジャバウォック達も思わず見惚れていた。

 ラピュスは炎を纏わせた騎士剣を両手で中段構えに持ち、ジェームズをジッと見つめた。突然気の力を使って来たラピュスにジェームズは思わす一歩下がる。


「私は勝ち残る為にどんな相手でも全力で勝負を挑む。さっきは防戦一方だったが、今度は私が攻める番だ!」

「お、おお、おい、ちょっと待ってくれ!気の力を使うのはちょっとズルくねぇか・・・」


 慌ててる様子を見せるジェームズに構わずラピュスは炎を纏った騎士剣を握りながらジェームズに向かって走り出す。向かって来るラピュスを見てジェームズもファルシオンを握り構えた。ラピュスはジェームズに向かって騎士剣を勢いよく振り下ろす。ジェームズはファルシオンを横にしてラピュスの振り下ろしを防ぐが、刀身の纏われている火の熱に驚き思わず力を抜いてしまう。斬撃を止めきれずに後ろに下がるジェームズはファルシオンを持っていない手を振って熱を冷ました。


「アチチチッ!こ、これが騎士の気の力かよ・・・」

「まだまだこれからだ!」


 ラピュスはそのまま騎士剣で横切りを放つが、ジェームズも負けじと隙を見てファルシオンで反撃する。だがファルシオンのリーチが短く、刀身はラピュスに当たらず切っ先が鎧を掠めただけだった。ファルシオンの一撃をかわしたラピュスは目を閉じて騎士剣を脇構えに持ち両手に力を入れた。すると刀身を纏っている火が一気に燃え上がり勢いを強くし、ラピュスは目を開いた。


「業火飛竜斬!」


 技の名前を叫びながらラピュスはジェームズに向かって勢いよく騎士剣を右下から左上に向かって振り上げた。その直後に火は更に勢いを増してジェームズに襲い掛かる。ジェームズはファルシオンで切り上げを止めようとしたが力とリーチの計算が間に合わずに上手く止められず、ファルシオンは宙を舞い二人から離れた所に落ちた。

 ファルシオンを弾かれて目を丸くするジェームズ。同時にラピュスの騎士剣から火が消えて刀身は薄らと赤くなっている。ラピュスは再び中段構えとなりジェームズを見つめた。


「・・・どうする?まだやるか?」


 騎士剣を構えながらジェームズに尋ねるラピュス。ジッと自分を見ているラピュスにジェームズはチラチラと左右を目だけを動かして見た後にラピュスの方を向いて溜め息を付き頭を掻いた。


「ハァ、分かったよ。俺の負けだ、降参する」

「それまでっ!」


 ジェームズが降参し、審判は片手を上げて試合終了を宣言する。観客席からは二人の戦いを見て大はしゃぎする観客達の声が聞こえ、その中でジャバウォック達七竜将とアリサ達第三遊撃隊が拍手をしている姿があった。


「白熱した戦いだったな」

「うん、最後の凄かったよねぇ!」

「だから言ったじゃないですか、隊長は必ず勝ちますって」


 笑いながら拍手をしているジャバウォックとファフニールに笑いながら声を掛けるアリサ。体を後ろの席から乗り出し、とても嬉しそうにしていた。

 試合場では試合を終えたラピュスがヴリトラ達の方へと歩いて行き勝利を報告していた。ラピュスの勝利にヴリトラ達七竜将は微笑んでおり、ラランも珍しく小さな笑みを浮かべていた。


「やったね、ラピュス!」

「あの気の力には驚いたぜ」

「・・・凄かった」

「ありがとう」


 ラピュスの勝利を自分の事の事の様に喜んでくれるリンドブルム達にラピュスも微笑みながら礼を言う。そして彼女は自分を笑って見ているヴリトラの方を向いた。


「次はお前との戦いだな?」

「ああ」

「先に言っておくが、手加減なんてするなよ?」

「勿論さ、あの戦いを見たら手加減なんてする気も無くなっちまうよ」

「フッ、それならいい」


 そんな軽口を叩き合っているヴリトラとラピュス。するとヴリトラ達の背後から突然女性の声が聞こえてきた。


「良い試合だったじゃないか?」

「え?」


 女性の声に反応して声のする方を見るラピュスとそれに続いて振り向くヴリトラ達。そこには試合場の出入口の壁にもたれている次の試合の選手であるアネットの姿があった。


「アンタは確か、次の試合でニーズヘッグの相手をする・・・」

「そっ、アネット・ラファキルだよ。試合が待ち遠しくてついさっき来たところさ」


 笑いながらヴリトラ達の所へ歩いて来るアネットを見てヴリトラ達はまばたきをする。アネットはニーズヘッグの方を向いて軽くウインクをした。


「次はいよいよ私とアンタの試合だね、お互い悔いが無いように戦おうじゃないか」

「あ、ああ・・・」


 笑いながら自分を見た後に試合場へと歩いて行くアネットに調子が狂うのか、戸惑いながら頷くニーズヘッグは彼女の後を追って試合場へ向かって歩いて行く。ヴリトラ達も二人の背中を見ながらボーっとしていた。

 苦戦しながらも勝利をしたラピュス。それの続き今度はニーズヘッグとアネットの試合が始まろうとしている。明るい性格の美人傭兵のアネットにニーズヘッグはどう戦うのか。


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