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機械鎧(マシンメイル)は戦場を駆ける  作者: 黒沢 竜
第五章~強者が集う聖地~
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第七十二話  決勝トーナメント開幕!

 予選を勝ち進み、トーナメントの会場である闘技場を訪れたヴリトラ達はそこで勝ち残って来たザーバット達と再会する。それぞれ戦いの意思を胸に抱き、ヴリトラ達はいよいよ始まる決勝トーナメントの開会式へ向かうのだった。

 薄暗い通路を通って開会式の行われる試合会場へ向かうヴリトラ達。その間、全員が緊張しているのか、会話をしてくないのか一言も喋らずに歩いている。やがて通路の奥から光が溢れ出口が見えてきた。出口を見たヴリトラは「いよいよか」という様に表情を鋭くして気合を入れ直す。そして参加者達が出口を通ると、その先には大きな円状で石の試合場があり、その周りには試合場を取り囲む様に細長い水路がある。更に試合場と水路の間には四本の石柱が立っており、そのてっぺんには炎が燃え上がっていた。そして何より、試合場の周りでは大勢の見物客が円状の客席に座っており、ヴリトラ達が姿を見せた瞬間に大声を出して騒ぎ出した。


「す、凄い人だね・・・」

「ああ、ざっと五百人はいるだろうな・・・」


 大勢の観客達の姿に驚くリンドブルムとヴリトラ。他の参加者達もその場に立ち止まって周りを見回す。二人の後ろではラピュスが驚かず、無表情で観客達を見ている姿があった。


「この闘技場はレヴァート王国最大の闘技場だ、国中の住民や敗退した参加者達も見に来ているのだろう」

「国中の人間が見に来るんだとしたら、もっと大勢いるんじゃないのか?」

「ああ、恐らく闘技場の外でも席が空くのを待ってる者がいるだろう」


 闘技場に来ている観客達の人数を想像して更に驚きの表情を見せるヴリトラ。リンドブルムも目を丸くして驚きの顔をしている。すると試合場の方から一人のレヴァート兵が歩いて来て出口の前で立ち止まっているヴリトラ達を呼んだ。


「参加者の皆さん、これより国王陛下からのお言葉を頂きますので試合場の中央へお集まりください」


 レヴァート兵の案内を聞き、ヴリトラ達は中央の試合場へと歩いて行く。観客席からもヴリトラ達が試合場へ歩いて行く姿が見え、その姿を見ていた観客達が更に騒ぎだす。その中にはジャバウォック達七竜将とアリサ達第三遊撃隊の姿もあった。


「あっ!見て、ヴリトラ達だよ!」


 ヴリトラ達の姿を見つけたファフニールが席から立ちヴリトラ達を指出す。隣に座っているジャバウォック達も姿を確認して大きな声で声援をする。


「ヴリトラ~ッ!気合入れて行けよぉ~っ!」

「リブルも頑張んなさ~い!」

「ニーズヘッグ、頑張って~!」

「・・・・・・」


 ジャバウォック、ジルニトラ、ファフニールが応援している中、オロチだけは無表情のまま黙ってヴリトラ達の姿を見ているだけだった。だがそんな彼女も心の中ではしっかり仲間達を応援している。七竜将の後ろの客席ではアリサ達がラピュス達を応援している姿があり、彼女達もかなりテンションが上がっている。


「隊長~っ!ララ~ン!頑張ってくださいね~っ!」

「隊長、しっかり~!」

「ララ~ン!ちゃんと手加減してやれよ~?」


 アリサに続いて第三遊撃隊の女性騎士と男性騎士がそれぞれラピュスとラランを応援する。七竜将と第三遊撃隊、どちらも仲間を応援する為に気合を入れて叫んでいる。だが周りでも同じように大きな声で応援する観客が大勢おり、ジャバウォック達の声は当然ヴリトラ達には遠く筈がない。しかしそれでも彼等は腹の底から大声を出して応援するのだった。

 全ての参加者が試合場の真ん中に集まると、客席の中で周りとは明らかに雰囲気の違う客席がある、参加者達や彼等を案内したレヴァート兵は全員その客席を向いた。その客席の中央には長い白髪に白い口髭を生やした初老の男性が大きな椅子に座っている姿があった。穏やかそうか顔をしているがどこか強い存在感の様な物が感じられる男性だ。

 彼の左側の席には三人の女性が男性と同じ様な大きな椅子に座っている。一人はヴリトラ達の知っているドレスを身に付けた美女、第三王女のパティーラムだ。男性とパティーラムに挟まれる様に二人の女性が座っており、一人は銀色の短髪に何処か鋭さのある目つきをした女性、露出度の高いドレスを身の纏い、堂々とパティーラムの隣に座っている。そしてもう一人は三人の中で最も背が低くリンドブルムと同じ位の身長の少女だった。十代前半程、髪はクリーム色のショートボブで子供用のドレスを着ている。肩には一匹の黄色い小鳥が止まっていた。


「・・・ラピュス」

「ん?」


 男性とパティーラム達の方を見ていたヴリトラがラピュスに小声で話し掛け、ラピュスもチラッとヴリトラの方を向く。


「・・・もしかしてあの客席に座っているのが、レヴァート王国の王族の人達?」

「ああ、そうだ。中央の椅子に座っておられるお方こそ、このレヴァート王国の第三十七代国王『ヴァルボルト・ゼルクス・レヴァート』陛下だ」

「あの人がか・・・それじゃあ、パティーラム様の隣に座ってる人達は?」


 ヴリトラはパティーラムの隣に座っている銀髪の女性と小柄な少女を指差して訊ねる。


「バカッ!王族を指で指すやつがあるか!あのお二人もパティーラム様と同じく、この国の王女様だ。パティーラム様の隣に座ってらっしゃる方が第二王女様の『エリス・セグ・レヴァート』様だ」

「つまり、次女って事か?」

「そうだ」


 ラピュスから王女達の説明を聞いているヴリトラ。その隣ではリンドブルムとニーズヘッグも同じように話を聞きながら王族達の方を見ている。だが、リンドブルムがある事に気付いて二人の会話に加わって来た。


「ねぇねぇ、あの人が次女なら、隣にいる女の子はパティーラム様の妹なの?」


 エリスの隣に座っている少女を見てリンドブルムがラピュスに尋ねる。ヴリトラとラピュスがリンドブルムの方を見た後に王族の方を向き少女を見つめる。するとラピュスはリンドブルムの方を向いてジッと見つめた。


「違う!あの方こそレヴァート王国第一王女様だ!」

「ええっ!?あんな小さな子が――」


 リンドブルムが驚きながら喋っていると、ラランが咄嗟にリンドブルムの口を押えて発言を止める。


「・・・あの方は身長の事を気にしてる。もし聞こえたら凄く怒る、気を付けて」


 無表情のまま注意するラランを見てリンドブルムは数回頷く。ラランはゆっくりとリンドブルムの口から手を離して第一王女の方を見上げる。


「・・・あの方は第一王女様の『アンナ・リズ・レヴァート』様。昔から体が弱く、あまり人前には出てこられない方」

「そうだったんだぁ・・・」

「まぁ、世の中には色んな人がいるかなら」

「おい、それは場所と空気によっては凄く失礼な発言だぞ?」


 ヴリトラの言葉にニーズヘッグはジト目で彼を見ながら言う。ラピュスも呆れた様な顔で溜め息をつき、ラランは無表情のままヴリトラを見上げている。

 ヴリトラ達がそんな会話をしていると、国王であるヴァルボルトが立ち上がり、前に出て試合場の上に集まっている参加者達を見下ろす。それと同時に観客達も静かになって国王の言葉を待った。静かになってしばらくするとヴァルボルトは両手を広げながら口を開いた。


「武術大会の予選を勝ち上がって来た者達、そして今この闘技場に集まってくれた者達、まずは私に謝れせてほしい。私が不甲斐ないばかりにストラスタ公国との戦争が始まり、多くの民を傷つけてしまった。誠に申し訳ない」


 ヴァルボルトは客席にいる観客達、そして試合場にいるヴリトラ達に対し頭を避けて謝罪する。国王が国民に向かって頭を下げるという光景に観客はざわつく。参加者の中にも驚いている者も数人した。


「だが、そのストラスタ公国との戦いも終わり今こうして再び平和が訪れた。これまで辛く激しい戦いが繰り広げられ、そんな世界で生きてきた皆には今度は明るく過ごしてもらいたい。そこで今回、この武術大会を開催させてもらった。参加者、そして観客達も熱い闘志をぶつける者達の姿を見て戦争の苦しみから少しでも心が解き放たれる事を願っている。そしてもう一つ言わせてもらいたい。皆、この武術大会に集まってくれた事を心から感謝する!」


 ヴァルボルトの言葉が終ると、観客達はしばしの沈黙から大歓声へと変わった。国王が頭を下げて謝るほど自分達の事を考えてくれた事、そして自分達を楽しませたいという思いを知った観客達は喜びの包まれていた。

 試合場でもヴリトラ達が国と民を思うヴァルボルトの姿を見て微笑みを浮かべている。そこへレヴァート兵が参加者の前にやって来て試合のルールを説明する。


「それでは、決勝トーナメントの説明をします。基本は予選と同じでどんな武器を使用しても構いません。素手で戦う事も可能です。しかし、この武術大会は自分達の使い慣れている武器を使って戦います。よって、相手の攻撃によって負傷する事は考えられます。最悪の場合は命を落とす可能性もあります」


 戦争が終わり、ようやく命を落とす者がいなくなると思った矢先に武術大会で命を落とす者がいるかもしれない。それを聞かされた参加者達の中にも少々不服に感じる者もいるが、それはこのレヴァート王国の武術大会で決められた事なので仕方がない。そして予選でもその事は聞かされている、つまり彼等は皆その事を承諾して大会に参加したのだ、文句は言えない。


「時間の都合上、試合の時間は一試合三十分とさせていただきます。相手が降参したり、試合場から出たり、気を失った時点で試合は終了です。時間が経っても勝負が決まらなかった場合はこちらの判定で決めさせていただきますので・・・」

「あのぉ~」


 レヴァート兵が説明をしているとヴリトラが右手を上げて兵士に声を掛けた。


「ハイ、何でしょう?」

「さっき、試合中に死ぬ可能性もあるって言ってましたよね?もし、対戦相手を死なせてしまった場合、その人はどうなるんですか?」


 対戦相手が死亡してしまった時の場合、どうなるのかが気になりヴリトラはレヴァート兵に訊ねた。リンドブルムやニーズヘッグもその事が気になりヴリトラと一緒に兵士の方を向く。


「・・・予選でご説明したと思いますが、この武術大会で参加者自身の身に起きる事はよほどの事でもない限り全て自己責任となっております」

「つまり、相手が死んでも殺した奴は罪に問われないと?」

「・・・ハイ、そう言う決まりですので」


 「酷い決まりだなぁ」と言いたそうな表情を浮かべるヴリトラ。リンドブルムとニーズヘッグも納得のいかない顔をしている。そこへラピュスがヴリトラに近づき小声で話し掛けた。


「ヴリトラ、お前の言いたい事は分かる。私も人の命を奪っても罪にならないという決まりは納得できない、だがこれは王宮で決められた事なのだ。私達には何も出来ない・・・」

「どうしてそんな決まりがあるんだよ?当然あの国王様が決めた事じゃないんだろう?」

「勿論だ。この決まりは王国元老院の人間によって決められた事、陛下でも元老院の決めて事を簡単には変えられないんだ」

「元老院・・・」


 ヴリトラはレヴァート王国に裏に何か大きな闇があると感じたのか、ヴァルボルト達王族がいる客席の方を見上げて難しい顔をする。そんな事をしている内にトーナメントの説明が終って次に進んで行った。


「それではトーナメントの組み合わせを始めますので、控室へお戻りください。組み合わせが決まり次第、第一回戦を始めます」


 トーナメントの組み合わせをする為に控室へ戻っていく参加者達。その姿を見ていた観客達はざわざわと話を始めて一回戦の始まりを待つのだった。

 控室に戻って来た参加者達は部屋の真ん中に集まり、レヴァート兵を囲んで立っている。兵士の手には小さな木箱があり、その木箱の中には細長木の棒が何本も入っていた。


「それでは、組み合わせを決めます。この木箱の中に入っている木の棒の先に一から十までの数字が書かれており、同じ数字を引いたか選手同士が対戦する事になります。更にその数字は試合の順番も示していますので、一番を引いた選手は組み合わせが終わり次第、先程の試合場へ向かって頂きます」


 兵士の説明を聞いた参加者達は気合を入れる。そんな参加者達にレヴァート兵は一人ずつ回って行きくじを引かせた。全員がくじを引き終わると、兵士は参加者達の方を見て組み合わせの発表を始める。


「それでは、組み合わせを発表します!第一試合・・・リンドブルム選手対ゴーリラス選手!」

「およ?」

「ああ?」


 名前を呼ばれたリンドブルムと控室の隅で椅子に座っているスキンヘッドで上半身裸の大男が顔を上げる。


「いきなりリブルかよ?」

「僕もビックリ・・・」


 一回戦から七竜将のメンバーが当たってヴリトラとリンドブルムは相手の顔を見合って意外そうな顔を見せる。ラピュス達や七竜将を知っている者達も揃ってリンドブルムの方を見ていた。


「第二試合・・・ザーバット選手対ジージル選手!」

「私か・・・まさか初戦から銀色剣士隊の隊長が相手とは・・・」

「ウフフフ、残念だったわね?」

「・・・まだ試合は始まってません、勝ち誇るの早すぎますよ?」

「あら、言ってくれるじゃない・・・」


 隣に立っている相手の顔をジッと見つめ合いながら話をしているザーバットとジージル。既に二人の間では火花が飛び散っていた。


「第三試合・・・ヴリトラ選手対チャリバンス選手!」

「ん?」

「何っ?」


 ヴリトラは顔を上げてレヴァート兵の方を向き、少し離れた所ではチャリバンスがヴリトラの方を向く。


「面白そうな組み合わせだな」

「面白そう?」

「ああ、あの生意気なタカビー野郎がヴリトラとどう戦うのか気になってきたよ」

「タ、タカビー?」


 ニーズヘッグの言葉の意味が分からずに小首を傾げて困りがになるラピュス。ニーズヘッグの見ている先ではチャリバンスがヴリトラを睨みつけ、ヴリトラは興味の無さそうな顔でチャリバンスを見ている姿があった。


「第四試合・・・フォーネ選手対ゾゾムーン選手!


 レヴァート兵がラピュスとファルシオン使いの青年、ジェームズの苗字を口にし、それを聞いたラピュスとジェームズが兵士の方を向く。


「私は四試合目か・・・」

「頑張れよ、ラピュス」

「アイツ、かなりできるらしい。油断するなよ?」


 ラピュスを見て応援するヴリトラとジェームズをチラッと見た後に忠告をするニーズヘッグ。ラピュスは二人の顔を見ながら頷いた。


「第五試合・・・ラファキル選手対ニーズヘッグ選手!」

「俺か・・・」


 ようやく名を呼ばれたニーズヘッグはレヴァート兵の方を見て腕を組む。するとそこへニーズヘッグの対戦相手であるアネットが近づいて来た。それに気づいたニーズヘッグは彼女の方を向く。


「アンタが私の対戦相手のニーズヘッグかい?」

「ん?ああ・・・」

「へぇ~、近くで見ると良い男じゃないか?」

「そうか?俺はそういう事はあんま気にしねぇから」

「アハハハ!そうかい。まぁ、お互い精一杯頑張ろうな?」


 笑いながらニーズヘッグの肩にポンと手を置いたアネットはニーズヘッグから離れていく。その様子を見ていたヴリトラ、ラピュス、リンドブルムの三人はまばたきをしてアネットの背中を見つめている。突然声を掛けて来て風のように去って行ったアネットの少し調子が狂ってしまったのだろう。

 それから第六、第七の選手を発表されていき、ラランは第八試合で槍の名手と言われたロンと戦う事になった。同じ槍の使い手として気になるのかラランは部屋の隅で胡坐をかき目を閉じているロンをジッと見ていた。


「・・・・・・」

「あの人が槍の達人のロン・ゴーチャイスさんだよね?」

「・・・うん。私よりも槍の腕が立つかも」

「相手がどんな戦い方をするか分からない以上、無暗に突っ込むのは危険だね」

「・・・うん、分かってる」

「油断しちゃダメだよ?」

「・・・貴方もね?」


 お互いに相手を忠告し合うリンドブルムとララン。ニッと笑っているリンドブルムと無表情で彼の顔を見ているララン。幼い少年と少女は小さな体の中に強い意思と冷静さを持っていた。その後に第九試合の組み合わせが発表され、そこでクリスティアと黄金近衛隊のビビットの戦いが発表された。近衛隊と戦う事になった事を知り、クリスティアは最初は動揺していたが、ヴリトラにリベンジする為に「絶対に勝ち残る!」と言いながら気合を入れる。その姿を見ていたビビットは余裕の笑みを崩さずにクリスティアを見ていた。

 第九試合までの組み合わせが発表され、残るは第十試合で戦う二人の選手だけだった。


「最後の第十試合は、バルバス選手対 ゼット 選手となりました!」

「Z選手?」


 変わった名前だと思ったのか、ヴリトラは十試合目の参加者の方を向く。Zと呼ばれた選手は部屋の隅で壁にもたれていた。全身と顔を黒のフード付きのマントで隠しており顔は見えないが身長は高く2m近くある。顔が隠れている為、性別も分からず今まで一言も喋っていない謎の参加者をヴリトラはジッと見ていた。その一方で対戦相手のバルバスという参加者は大剣を背負っているガラの悪そうな男だった。軽装で身長はZという参加者より少し低い程に見える。


「・・・・・・」

「ヴリトラ、あのZって言う人、どう思う?」


 リンドブルムが小声でヴリトラに話しかけると、ヴリトラはリンドブルムの方を向いて小声で答えた。


「名前からしてまず本名じゃねぇな、その前にもエスって言う似たような名前の奴がいたし」

「最初は変わった名前だなぁ、て思ったけど、二人もいるとなるとちょっと不自然だよね」


 二人は七試合目の選手の中に同じようなSと言う名前の選手がいた事を思い出し、そのSと呼ばれた人物の方を見る。その人物もZと同じく黒いフード付きのマントで顔と姿を隠している。だがZよりも身長は低く、ヴリトラと同じくらいだった。SもZと同じで今まで一言も喋っていない。

 ヴリトラとリンドブルムが小声で話しをしていると、ラピュス、ニーズヘッグ、ラランの三人も二人に近づいて来た。


「変だな、あの連中」

「お前達もそう思うか?」

「ああ、姿を見られたくないからあんな格好をしているんだろうな」


 ニーズヘッグの推理を聞いてヴリトラはもう一度Zの方を見つめる。ラピュス達も離れた所にいるSの方を向いて様子を伺っていた。


「奴等、一体何者だ?」

「さあね、観光客じゃないって事は確かだよ」

「・・・嫌な予感がする」

「ああ、あの二人から何か邪悪な気配を感じる。他の参加者と違いあの二人は何か別の理由でこの武術大会に参加していると考えられるな」


 ラピュスがZとSが賞金や自分達の様に強い相手と戦う為に参加しているのではないと感じて握り拳を作り力を入れる。ヴリトラも怪しい二人に注意を払い警戒心を強くした。そんな時、レヴァート兵が参加者達の方を向いて声を掛けてきた。


「えぇ~、それでは早速第一回戦を開始します。一回戦に選らばれた選手は試合場の方へ向かってください。他の選手の方々はこちらの控室で待機されて結構ですが、試合場の外で戦いを見物をする事も可能ですのでご自由になさってください」


 第一回戦が始まると聞いてヴリトラ達はリンドブルムの方を向く。


「とりあえず、あの二人の事は後回しだ。リブル、あの二人の事は置いといて試合に行ってこい」

「そうだね、そうさせてもらうよ」

「頑張れよ?」

「しっかりな!」

「・・・頑張れ」


 ヴリトラ達に応援されながら控室を対戦相手の大男と出て行くリンドブルム。二人は通路を通って試合場へ繋がる扉を潜って外へと出た。

 遂に始まった武術大会決勝トーナメント。組み合わせが決まり、一回戦に出場する事になったリンドブルム。だがそんな武術大会の中でZ、Sと呼ばれた謎の二人組の姿を確認する。そして、この時のヴリトラ達はまだその二人の正体にすら気づいていなかったのだった。


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