第七十話 武術大会前の思い
武術大会に参加する為に受付に向かうヴリトラ達はそこで武術大会に出場する猛者達を目にし、以前に顔を合わせた事のある王国騎士達とも再会する。それぞれが大会での目標を話しながら相手に自分の闘志をぶつけ、ヴリトラ達も自分達の闘志を燃え上がらせるのだった。
受付を終えたヴリトラ達はズィーベン・ドラゴンへ戻り、目にした猛者やザーバット達の事をジャバウォック達に話す。話を聞いたジャバウォック達は「ほぉ~」という様な表情を見せる。
「ザーバットにクリスティア、そして白銀剣士隊のエリート騎士様か・・・。なかなか手強そうな連中が集まってるみたいじゃねぇか?」
「ああ。それに王国騎士以外にもそれなりに実力者がいるみたいだ」
ジャバウォックとニーズヘッグが出場者の中に強敵がいるという事を話し難しい顔を見せている。その隣ではヴリトラとリンドブルムがジルニトラとファフニールと大会の流れについて話をしていた。
「それじゃあ、まずは大会の前日に参加者全員に予選が行われる町が教えられて、次の日の大会初日にその教えられた町で予選を行うって事なのね?」
「らしいな。どの町なのかはその前日まで分からないし、予選会場を聞いたら直ぐにその町へ向かわないと予選に間に合わなくないみたいだからな」
「何よそれっ?何で受付の時に教えてくれないのよ」
「さぁな?何かむこうで都合があるんじゃねぇの?」
武術大会の流れと要領の悪さに呆れるジルニトラとヴリトラ。その隣で二人の話を聞いていたファフニールもあまり気にならないのかまばたきをしながら二人の会話を聞いている。すると何かに気付いたのかリンドブルムの方を向く。
「ところで、武術大会の受付の時にリブルやラランは何も言われなかったの?」
「何もって?」
「子供は大会に参加できませんとか・・・。あと、銃みたいな武器を使っちゃいけませんとか」
誰もが気になっていると思われる事をファフニール尋ねる。するとリンドブルムは顔を横に振りながら答えた。
「ううん、そんな事は言われなかったよ?子供が参加しちゃいけない決まりなんてないし、武器も自分達が最も使い慣れている物を使って戦った方が全力を出せるから、武器の制限とかも無いって」
「へぇ~、そうなんだ。・・・でも、子供が大人と一緒に参加したら身長が大きくて力の強い大人が勝つに決まってるのに、どうして子供も参加してもいい決まりにしてるんだろう?」
「さぁあ?」
子供の出場制限がない事が不思議なリンドブルムとファフニールは難しい顔をして考えていると、そこへラランが二人の下へやって来て会話に参加して来た。
「・・・騎士の中には私みたいな子供の騎士も何人かいる。だからそんな騎士達でも参加できるようにする為に子供も出場できるという決まりにしたみたい」
「成る程ね、それなら納得」
幼い姫騎士であるラランの説明を聞いて納得するリンドブルム。だがファフニールはまだ納得できない点があった。
「でも、いくら子供の騎士がいるから参加できるようにしたって言っても、子供が武術大会に参加して怪我でもしたら、親から苦情が来るんじゃ・・・」
「・・・勿論。だから怪我をする事を理解した上で参加する事が大切なの」
「自分で決めて参加したから、例え大怪我してもそれは自己責任って事?」
「・・・そう」
「・・・しっかりしてるのか、してないのか、まったく分からないね」
参加者の事を考えているのか理解に苦しむファフニールは目を閉じて溜め息をつきながら愚痴る様に言った。それを聞いていたリンドブルムも同感なのか困った様な顔でファフニールの方を向いて頷く。
「・・・今回の大会で参加している十五歳以下の子供は私とリブル以外はいないみたい」
「そりゃそうだよねぇ、大人だらけの大会に参加しようなんて物好きは子供はそうはいないし、何より親が許すはずないもの」
「・・・私って、物好き?」
リンドブルムの言葉にラランは目を細くして呟く。
大会の話をしているヴリトラ達を少し離れた所から見ているラピュスとその隣で腕を組みながら話を聞いているオロチ。二人は黙ってヴリトラ達の会話を眺めていたが、オロチがその沈黙を破りラピュスに声を掛けた。
「ラピュス、聞きたい事がある・・・」
「えっ?何だ?」
珍しく自分から質問をしてきたオロチを意外に思ったラピュスだが、直ぐにオロチの顔を見て話を聞く。オロチはヴリトラ達の方を向いて話を続けた。
「この中にいる奴で戦ってみたい相手はいるのか・・・?」
「えっ?」
またしても意外な質問の内容に驚くラピュス。なぜそんな事を聞くのかオロチの真意が分からないラピュスであったが、とりあえず質問に答える為に戦い者をヴリトラ達の中から選ぶ始める。そして戦いたい相手を見つけたのかゆっくりとその人物を指差す。オロチはラピュスが指差す人物を無表情のまま見つめる。
「ヴリトラか・・・」
オロチは予想していたのか、あまり驚く様子も見せずに名を口にする。ラピュスは隣に立っているオロチを視線だけ向けて見つめると静かに指を下す。
「なぜヴリトラなんだ・・・?」
「・・・アイツの剣術は私が今までに見た事のない物で興味があるからだ。それに、初めて会った時に私はアイツに剣を振り回していただけでヴリトラの実力をその身で感じていなかった・・・。一度でいい、私はアイツと全力で戦ってみたいと思っていたんだ」
騎士としての本能がヴリトラの強さを知りたがっている、そんなラピュスのヴリトラを選んだ理由を聞いていたオロチは無表情のまま彼女の横顔を見つめている。
「それが理由か・・・?」
「ああ」
「・・・本当か・・・?」
オロチの問いかけにラピュスは質問の意味が分からずにオロチの方を向き小首を傾げた。
「本当、とはどういう意味だ?」
「言った通りだ、お前がヴリトラと戦ってみたい理由は本当にそれだけなのかと聞いているんだ・・・」
「当たり前だ、それ以外に何がある?」
「見た事のない剣術を使うならジャバウォックやニーズヘッグでもいい筈だ。なのにお前は迷う事無くピンポイントでヴリトラを指した。・・・剣術以外にも奴と戦いたい理由が他にもあると私は踏んでいる・・・」
オロチに推理を聞いたラピュスは目を見張りながらオロチの顔を見た。まるで図星を突かれて反応したかのように。
ラピュスはしばらく目を閉じてしばらく黙り込むんでいると、ゆっくりと目を閉じてオロチの方を向く。
「・・・確かに私はアイツの剣術以外にも戦いたい理由がある。アイツは普段ヘラヘラとしているのに戦場に出るとなぜか人が変わった様になる。戦場に出ている時のアイツと戦って普段のアイツと何が違うのかを確かめてみようと思っている。それがもう一つの理由だ」
「・・・本当か・・・?」
またしても問いかけをしてくるオロチにラピュスは若干目を鋭くしてオロチを見つめる。その表情をどこか不機嫌にも見えた。
「お前はさっきから本当かと訊いて来るが、一体何が言いたいんだ?ハッキリと言え」
「・・・ラピュス、お前はヴリトラに何か特別な感情を抱いているんじゃないのか・・・?」
「なっ!?」
予想外のオロチの質問にラピュスは驚き一歩後ろに下がった。
「な、何を言ってるんだ?」
「・・・・・・」
若干動揺している様なラピュスの顔を細い目でジッと黙りこみながら見つめるオロチ。しばらくしてオロチは顔を離し、近くにある椅子に腰を下ろすと目を閉じて口を開いた。
「まぁ、違うのならそれでいいが、これだけは言っておくぞ?・・・男と女の戦いでは先手を打った方が有利になるという事だ・・・」
「は、はあぁ?」
オロチの言っている事がサッパリ理解できないラピュスは目を丸くしてオロチを見て力の無い声を出す。それからラピュスはオロチの言っている意味を理解しようとヴリトラの方を見るが、まったく分からなかった。
それから受付を終えたヴリトラ達は一週間後に行われる武術大会に備えて特訓を始めた。僅か一週間という短い期間でも何もしないよりはずっといい、そう考えている参加者達も町中で特訓を始めるのだった。
そして武術大会の前日、各参加者達に予選の行われる町を記した手紙が送られた。リンドブルム、ララン、ニーズヘッグの三人は別々の町となったが、ヴリトラとラピュスだけは同じ町で予選を行う事になり、二人は一緒にその予選が行われる町へと向かった。しかもその町は以前一度訪れた事のあるエリオミスの町だった。ヴリトラとラピュスはジャバウォックにジープで送られてエリオミスの町へやって来る。町は既に夕日が差し掛かっており、ジャバウォックは二人を送った後にすぐ帰ってしまった。残った二人は町の中心にある広場で久しぶりに見た町の風景に何処か懐かしさを感じている。
「久しぶりに見るけど、あまり変わってないな?」
「ああ、前にゴルバンの町を攻略する時に立ち寄ったから、そろそろ一ヶ月くらいは経つと思うぞ?」
二人で前に訪れた時の事を話しているヴリトラとラピュス。周りでは以前よりも大勢の人がおり、酒場や武器屋、宿屋の前などに集まり何やら話をしている姿がある。恐らく武術大会の予選に参加する者達だろう。面構えのいい者、ガッシリとした体をした者、細い体をした者など色々な参加者達がおり、それを目にしたヴリトラとラピュスは改めて気合を入れ直すのだった。
「結構な人数だな。この町の予選に参加するのって何人くらいいるんだ?」
「昨日、詰所に武術大会の関係者が来た時に参加者の人数を話していたが・・・確か全部で三百五十人だと言っていたぞ」
「三百五十人!?」
ラピュスの口から出た予想外の人数にヴリトラは思わず声を上げて驚く。町を見回して自分達以外の参加者をまじまじと見回すヴリトラを見てラピュスは小さく溜め息をついて肩を指で突いた。
「おい、言っておくがこの町に三百五十人全員がいる訳じゃないぞ?」
「え?」
ヴリトラは目を丸くしながらラピュスの方を向いてまばたきをする。どこか間抜けさが感じられるヴリトラの顔を見たラピュスはもう一度溜め息をつく。
「ティムタームで話しただろう?此処とティムターム以外にも他の町で予選を行い、その町で予選を勝ち残った者達がティムタームでトーナメントに参加するって。だから今頃、ララン達も他の町で予選の準備をしている筈だ」
「・・・・・・あっ、そうだったなぁ」
思い出したのか、ヴリトラはパッと笑みを浮かべて手をポンと叩く。ラピュスはそんな気の抜ける様なヴリトラの雰囲気に予選が始まる前にも関わらず疲れの表情を浮かべる。ラピュスは戦場に出ている時と普段のヴリトラの態度の違いを見て本当に目の前のヴリトラが戦場で的確に指示を出したヴリトラと同一人物なのかを疑ってしまう。
二人がそんな会話をしていると、予選参加者達の集まる広場の中心に一人のレヴァート兵がやって来て周りにいる参加者達に向かって大きな声を出した。
「武術大会予選参加者の皆さん!予選は明日の午前九時より開始されます。尚、その時に予選の細かい説明もいたしますので決して遅れないようにしてください!」
周りにいた参加者達は明日の予選の事を聞き終えると、酒場や宿屋へ向かい体を休めたり酒を飲みに行ってしまう。ヴリトラとラピュスも町に来たばかりなのでまずは自分達の宿の探す必要があった。二人は何処か空いている宿はないかと町中を探し回り、何とか二人分の部屋を確保する事が出来た。それから二人は自分達の部屋で明日の予選に向けて体を休める。既に外は暗くなり、町の灯りで外は明るく照らされていた。
「明日がいよいよ大会初日の予選か・・・」
ベッドの上で仰向けになりながら明日の予選の事を考えているヴリトラ。ベッドの隅には愛刀の森羅が立て掛けられており、小さな机の上にはオートマグとスマートフォンが置かれてある。スマートフォンには寝坊しない為の目覚ましアラームがセットされていた。
「三百五十人かぁ・・・その中からたったの二十人が決勝のトーナメントに参加できるんだよなぁ。俺やリブル、ニーズヘッグは大丈夫かもしれないけど、ラピュスやラランは大丈夫だろうか?いくら王国の姫騎士と言っても世界は広い、とてつもない敵とぶつかって脱落する事だって考えられる」
機械鎧兵士の自分達は常人とは比べものにならない位の身体能力で超振動剣や銃器を持っているから並大抵の敵には負けないが、騎士であるラピュス達は分からない。今まで友の戦ってきた者達と一緒にトーナメントに参加したという個人的な気持ちがヴリトラの中にあったのだ。
薄暗い部屋の天井を眺めながらそんな事を考えていたヴリトラはゆっくりと起き上がり、ベッドから降りて部屋の出入口の方へ歩いて行く。
「ラピュスと明日の予選の事で少し話でもしておくかな・・・」
予選の事でラピュスと話し合いをしようと、ヴリトラは隣のラピュスの部屋へ行く為に自分の部屋から出て行った。
一方、ラピュスは自分の部屋の窓を開き、町灯りで照らされている外の景色を眺めながら何か考え事をしているような難しい顔をしていた。
「・・・明日がいよいよ武術大会の予選。国中から集まって来た強者達と剣を交えて、勝ち残った二人だけが決勝に参加できる・・・」
ラピュスもヴリトラと同じことを考えていたらしく、明日の予選に参加する猛者達の事を考えながら夜空を見上げていた。窓に掛けられた手には緊張しているのか力が入って少し震えている。
「私は自分を磨く為に今回の大会に出場する事にした、だがその前に予選を勝ち進んで決勝に行かないといけない。今の私にはそれこそが最大の試練という事か・・・」
ラピュスは予選を勝ち残るという今の自分がやらなければならない事を胸に刻みながら更に力に手を入れる。だがそれと同時に、もし明日の予選で敗退してしまったらどうなるかという不安も頭の中を過ってしまうのだ。その事が更なる緊張をラピュスに与えてしまう。
緊張のあまり落ち着かないラピュスは自分の手で頬を叩いて自分自身に喝を入れる。
「いかん!前日からこんなに緊張していては全力を出せない・・・。フゥ・・・シャワーでも浴びて落ち着くか・・・」
ラピュスは窓を閉めるとカーテンを引いて羽織っているマントをベッドの上に投げ捨てる。腰に収めてある騎士剣や小物入れの革袋、そしてハイパワーを近くの机の上に置いてゆっくりとポニーテールを解いた。ラピュスの銀色の長髪が広がり、その美しさを物語っている。革手袋を外してから自分の黒い鎧の止め金を外し、鎧を脱ぎ床の降ろすとその下には灰色のYシャツの様な長袖の服があった。そして服のボタンに手を掛けて一つずつゆっくりと外していき、静かに服を脱いでいくと美しい白い肌の肩が露わになる。ラピュスが服を脱ごうとした時、突然ラピュスの部屋のドアが開き、ヴリトラが入出して来た。
「おい、ラピュス。明日の予選の事で少し話が・・・」
「ッ!!?」
いきなり部屋の入って来たヴリトラに驚いてラピュスは服を脱ぐのを止めてヴリトラの方を向いた。ヴリトラも部屋に入っていきなり目の前で服を脱いでいるラピュスに目を丸くして固まった。しばらく沈黙が続き、ヴリトラとラピュスは互いに目の前で固まっている相手を見つめていた。それからヴリトラは現状をは理解し顔を赤くした。
「い、いい、いやっ!わ、悪い、まさか着替えているとは思わなくて!明日の予選の事を色々考えている内にドアを開けちまったって言うか、それで・・・」
慌てながら言い訳をするヴリトラ。そんなヴリトラを見ていたラピュスの表情は次第に赤く険しくなっていく。そして目元には微量ではあるが涙が溜まっており、恥ずかしさと怒りが込み上がって来ているのが一目で分かった。ラピュスは脱ごうとしていた服を前から片手で抑え、胸元を見えないようにしながら机の上に置かれてあるハイパワーを手に取りヴリトラを狙う。
「なっ!?ちょちょちょちょっと待て、落ち着けラピュス!」
「いいから・・・さっさと出てってぇ~~~っ!!」
女口調になり、怒りの声で叫びながらハイパワーを連射するラピュス。宿の中には銃声とヴリトラの叫び声が響き、それを聞いた他の客達が部屋から出てラピュスの部屋の方を驚きながら見つめた。こうして静かだった予選前日の夜は一人の青年の叫び声と銃声によって騒がしく過ぎていったのだった。
翌日の予選当日、日が昇ったエリオミスの町の広場には武術大会参加者が全員集まっていた。時刻は午前九時になりかかっており、参加者の中にはまだ眠気が取れていない者もいれば、眼が冴えている者もいる。そしてその中には機嫌の悪そうな顔をしているラピュスとその隣で頬に絆創膏を一つ張り「まいったな」と言い倒すな顔をしているヴリトラの姿があった。
「・・・・・・」
「・・・・・・」
二人とも昨夜の事があり、今朝から一言も会話をしていない。ラピュスはまだ少し頬を赤くしており、ヴリトラと目を合わせない様に目を閉じている。そんなラピュスを見てヴリトラは絆創膏の張っていない方の頬を指で掻きながら居心地の悪そうな様子を見せていた。
そんな中、広場の中心に数人のレヴァート騎士が集まって来た。その中に一人、本を持った兵士がおり広場に用意されていた台の上に乗り一度集まっている参加者達を見回す。そして全員が自分に注目している事を確認した兵士は大きな声を出して参加者達に語りかける。
「皆さん、大変長らくお待たせしました!これより、レヴァート王国主催の武術大会予選を開始いたします!」
レヴァート兵のその言葉を機に参加者達は一斉に声を上げる。全員がこの時を待ち望んていたかのように熱意を露わにし、自分達の闘志を兵士やそれを見物しているエリオミスの住民達に見せつけるようにも見えた。
「今大会の参加者の総人数は三百五十人。その中の四十八名がこのエリオミスの町に集まっています!この町での予選はこれから始まる午前の部と午後一時からの午後の部に分けられており、その各部を勝ち残った計二名が決勝トーナメントに参加する資格を手にする事が出来ます」
レヴァート兵が真面目に予選の説明をしている中でヴリトラとラピュスの間には未だに重い空気が漂っていた。
「・・・ラピュス」
「・・・・・・」
「・・・ラピュス」
「・・・何だ?」
声を掛けてくるヴリトラにラピュスは目を閉じたまま返事をする。目を閉じたままで自分の方を見ないラピュスにヴリトラは困り顔のままだった。
「・・・昨夜の事、まだ怒ってる?」
「・・・怒ってない」
「いや、怒ってるだろ?」
「怒ってない」
「いや、怒ってるって」
「怒ってない!」
何度も同じ事を言って来るヴリトラのラピュスはイライラして来たのか声に力を入れて返事をする。すると・・・。
「あーそこのお二人、説明中ですよ?お静かに・・・」
説明をしていたレヴァート兵がヴリトラとラピュスに注意をし、二人の周りにいた参加者達も一斉にヴリトラとラピュスの方を向く。二人は自分達が説明の邪魔をしている事に気付いたのか、申し訳なさそうな顔で周囲の参加者達に挨拶をする。それから兵士は再び説明を始め、参加者達も兵士の方を向いた。
「ほら、ラピュスのせいで怒られちゃったじゃないか」
「はあぁ?ヴリトラがしつこく声を掛けて来るからだろう!」
「ラピュスがいつまでも怒ったばかりいるからぁ!」
注意された事で今度は口喧嘩を始めるヴリトラとラピュス。周りの参加者は「またか」と言いさそうな顔を見せて二人の方を向く。
「・・・うっせぇぞ、そこの二人ーーーっ!!」
また説明の邪魔をする二人を見てレヴァート兵は堪忍袋の緒が切れたのか二人を怒鳴りつける。怒鳴られた事でヴリトラとラピュス、参加者達も目を丸くして驚きながら兵士の方を見ている。
「ちゃんと説明聞いてねっ!?」
「「ハイッ!」」
レヴァート兵に怒られたヴリトラとラピュスは小さくなり、真っ直ぐ手を上げて返事をする。それからは予選の説明はスムーズに進んで行き、午前の部と午後の部の組み合わせが発表された。ヴリトラは午後の部、ラピュスは午前の部への出場が決まり、ラピュスは自分の出場する午前の部の予選試合を順調に勝ち進んで行った。一人、また一人、ラピュスは持ち前の剣術で参加者を倒していき、遂に決勝戦まで来た。流石に決勝戦の相手となると手強く、最初は苦戦していたが、何とか勝利してトーナメントの参加資格を手に入れたのだった。
午前の部が終るとヴリトラはラピュスの下に駆け寄り、優勝したラピュスの両手肩に手を置いた。
「やったな、ラピュス!」
「あ、ああ。まさか私が優勝するなんて・・・」
笑顔のヴリトラと違い信じられない様な顔を見せるラピュス。いくら王国騎士とは言え大勢の傭兵や他の騎士達を倒した現実が信じられないのか驚いたままラピュスはヴリトラの顔を見ている。周りでも彼女の敗れたり途中で敗退した参加者達がラピュスを見てざわざわとしていた。
「何言ってるんだよ、トーナメントに参加するつもりだったんだろう?だったら予選を勝ち進んだ事を驚くことないだろう」
「・・・確かにな」
ヴリトラの言うとおりだと思ったラピュスは小さく笑って頷く。
「・・・昨日はあんなに緊張してたのに、今朝になるとその緊張がウソの様に抜けてたんだ」
「ん?」
「・・・もしかすると・・・昨夜のアレで緊張が取れたのかもな」
「あ・・・」
昨夜の着替えを覗いた事を思い出したヴリトラはまた困った様な顔を見せる。ヴリトラはラピュスと目を合わさない様にしてゆっくりと口を動かした。
「そ、そのぉ~、昨日は悪かったな?部屋に入る前にノックするべきだった・・・」
「もういい。そのおかげ緊張が取れて私が予選で全力を出せたのだからな。もし緊張していたら、きっと敗退していただろう」
微笑みながら見つめるラピュスにヴリトラは少し驚いていたが、直ぐに笑顔を見せて胸を張った。
「そぉかぁ!それなら今度また緊張した時は俺が着替えを覗いて・・・」
ガチャリ!
笑っているヴリトラの額に突きつけられるハイパワー。笑顔のまま固まって汗を垂らすヴリトラとそんなヴリトラにハイパワーを突きつけて頭に血管を浮かべて睨み付けるラピュス。
「調子に乗るな・・・」
「・・・ハイ」
固まったまま返事をするヴリトラを見てラピュスはゆっくりとハイパワーを下して腰の納める。ヴリトラも落ち着いて小さく溜め息をつき肩を落とす。
「え~それでは、まもなく午後の部の組み合わせの発表をいたします。参加者の方々は広場にお集まりください!」
レヴァート兵の呼び出しを聞いたヴリトラとラピュスは広場の方を向く。午後の部に参加する者達もぞろぞろと集まってくる。
「それじゃあ、俺も行ってくるわ」
「ああ、油断するなよ」
ラピュスの忠告を聞いてヴリトラはウインクをしながら広場の方へ走って行く。それから行われた午後の部は言うまでもなくヴリトラの勝ち。エリオミスの町で行われた予選は当然の様にヴリトラとラピュスの勝ち抜きで幕を下ろしたのだった。
遂に始まったレヴァート王国武術大会。ヴリトラとラピュスは揃って予選を通過し、決勝トーナメントの出場資格を手に入れる。この予選でヴリトラとラピュスはトーナメントの出場資格と同時に複雑を築く。だが、本人達はその事に全く気付いていない。




