第六話 誘拐事件発生!
バロンの酒場、マリアーナで礼の食事をしていた七竜将はレヴァート王国騎士団の遊撃隊に所属する姫騎士、ラピュスと出会う。出会っていきなり小競り合いを起こしていしまったヴリトラのラピュス。そこへマリが突然マントで顔を隠した人物に連れ去られたという知らせを受け、七竜将と騎士団に緊張が走った。
マリが誘拐された事を聞かされてから数分、酒場は閉店されて、店の入口には騎士が二人待機している。店内ではラピュスが店のテーブルに広げられている町の地図を見ながらララン、アリサの二人と位置を確認して対策を練っていた。遊撃隊の残り騎士達は店の隅で大人しくしている七竜将を見張っていた。七竜将全員はさっきまでと違い鋭い表情を見せている。そんな七竜将を見張っている騎士達は七竜将の表情に若干引いている。
「ああ、マリ、マリィ・・・」
娘が誘拐され、両手で顔を抑えるキャサリン。そんなキャサリンの両肩に手を置いて落ち着かせるバロン。バロンはテーブルの地図を見ながらマリがさらわれた場所とさらった犯人の進みそうなルートを細かく調べているラピュス達を見ている事しか出来なかった。
「そのマリって女の子がさらわれたのはこの雑貨屋の前だとさっきの男の人が言ってました。店の前からこの坂に沿って買った品物が転がっているのが確認されていますから、この道を馬車が進んでいったのは間違いないでしょう」
「だとすると、誘拐犯は一刻も早くこの町から出たいと考えるはずだ。一番早くこの町の出入り口へ向かう道はここだ」
ラピュスが地図に書かれたある道を指でなぞりながら犯人の逃走ルートを推理する。ラピュスの話を聞いていたラランとアリサは真剣な表情でラピュスの顔を見つめる。そんな二人にラピュスは手早く指示を出す。
「まずは橋の警備兵士達に連絡を入れろ。マントで顔を隠している馬車を見たら、必ず止めて荷物を検査するよう伝えるんだ」
「はい!」
「・・・分かった」
ラピュスの指示を聞いて力強く返事をして頷くアリサと回らず小さな声で返事をするララン。そんな姫騎士達の会話を店の隅で聞いている七竜将達は意外そうな顔を見せている。
「へぇ~、あの隊長さん、なかなかしっかりしてるじゃねぇか?」
「確かにね。女騎士達の中から選抜された優秀な女騎士だから、頭の回転だけじゃなくてカリスマ性もそれなりにないと隊はまとまらないわ」
ジャバウォックとジルニトラが凛々しく、そして力強く指示を出しているラピュスの姿を見る。そこには、さっきヴリトラとキスをして取り乱し、泣きながら剣を振り回していた時の姿は無かった。騎士として生きることを決意した女性の姿だけがそこにあった。
「さっきまではヴリトラに唇を奪われてわんわん泣いていたのに、凄い切り替えだね?」
「おい、聞かれたらあの隊長さんに怒られるぞ?」
「あっ、ゴメンゴメン」
小さく笑いながらラピュスの取り乱す姿を思い出しているリンドブルムに小声で話すジャバウォック。ジルニトラもそんなリンドブルムを呆れ顔で見ている。
リンドブルム達が話しをしていると、ラピュスがテーブルを叩き、低い声を出しながら歯を食いしばった。
「今月に入って既に三人が誘拐されている。これ以上町の人がさらわれるのを見過ごす訳にはいかない!」
「分かっています。隊長、必ず女の子を助けましょう」
「当然だ!アリサ、お前は詰所に行き、団長に増援の要請をしてきてくれ」
「はい!」
アリサは更に騎士団の増援を増やす為に酒場を出て騎士団の詰所へ向かっていく。残ったラピュスとラランは地図を見ながら近くに立っている騎士達に指示を出した。騎士達は指示を受けて直ぐに酒場から出て行く。
そこへバロンが泣いているキャサリンを連れてラピュス達に声を掛けた。
「お願いします、どうか孫をお助け下さい。あの子は死んだ息子とこの子のたった一人の娘なのです。もしあの子に何かあったら儂は息子に顔向けできませぬ・・・」
「安心してください。お孫さんは必ず私達は助けて見せます」
マリを救ってほしいと頼み込むバロンを安心させようとするラピュス。だが、凛々しい表情をしているラピュスの心には小さな焦りがあった。それの理由はさっきの話の内容にある。
実はマリが誘拐される前にも三件の誘拐事件があった。しかもその誘拐された者が全員子供だという事だ。既に三人の子供がさらわれてしまい、未だに町には帰って来ていない。ラピュスの心には子供達を助けられていないという現実からのかかるプレッシャーと何もできない自分への罪悪感で包まれている。これ以上の被害者を出す訳にはいかない、ラピュスはそう心に刻んでいたのだ。
一方でヴリトラとニーズヘッグはラピュス達の話を聞いて犯人の行動を考えていた。
「ニーズヘッグ、お前が犯人ならどうする?顔をマントで隠して小さな女の子を馬車に乗せて、町の入口にいる兵士達に怪しまれる事無く町から出る為には」
「顔をマントで隠している姿を見られた時点で、そのまま橋を渡り、町の外へ出ようとしても兵士達に止められる。だったらまずは姿を変えるな。その後は女の子を箱や樽の中に隠してから外へ出る」
ヴリトラの質問にニーズヘッグは自分の考えたやり方を説明した。周りのリンドブルム達もニーズヘッグの方を向いて話しを黙って聞く。その話を聞いたヴリトラは腕を組み、今度はその後に犯人がどう行動するのかを想像しだした。
「だが既に三人が誘拐されている、恐らく同一犯の仕業だろう。同じ人間が何度も町を出入りして、その度に誘拐が起きていれば、騎士団もそれなりに手を打ってるはずだ」
「しかし、現実にマリが誘拐された・・・」
「ああ、町に外から来る人間は通行書を見せないといけないんだろう?だったら怪しい人間なん・・・・・・ん?」
橋でバロンが兵士達に見せた通行書の事を思い出していたヴリトラは何か事に気付いて顔を上げた。その反応を見たリンドブルム達も一斉にヴリトラの方を向く。
ヴリトラはゆっくりとラピュス達の方へ歩いて行く。だがヴリトラの前に見張っている騎士達が立ちはだかった。
「待て、何処に行く気だ?」
「ちょっと隊長さんに話しがあるんだ」
「今隊長は誘拐事件の事で忙しい。それにお前達の様な怪しい輩を・・・」
騎士がヴリトラを止めようと彼の肩に手を置いて下がらせようとする。すると、ヴリトラは右手で自分の肩に乗っている騎士の手に自分の手を重ね、ゆっくりと騎士の顔を見る。その瞬間、ヴリトラの顔を見た騎士達の表情が凍りついた。ヴリトラはまるで神でも射殺すような恐ろしい表情で騎士達を睨んでいた。そのヴリトラの表情に騎士達は驚き自然と道を開ける。騎士達の間を通ってヴリトラはラピュス達の下へ向かっていく。リンドブルム達もそれに続いて歩いた。
「ちょっといいかい?」
「ん?・・・ッ、何だ!今私達は忙しいのだ、お前達の相手をしている暇はない。おい、しっかり見張っていろと言っただろう!?」
突然声を掛けてきたヴリトラを機嫌の悪そうな目で見るラピュスとジト目で見上げるララン。そしてバロンとキャサリンも辛そうな顔で七竜将を見ていた。
ラピュスはさっきのキスの事をまだ怒っているのだろう。七竜将達を見張っていた騎士達を見て注意するが、騎士達は睨みつけて固まり、ラピュスの方を向いて大量の汗を掻いていた。
ヴリトラはそんなラピュスの言葉を無視してテーブルの上に広がっている地図を黙って見つめる。しばらく地図を見ていると、ヴリトラはラピュスの方を向いて声を掛ける。
「おい、マリちゃんが誘拐される前に起きた三件の誘拐事件は何処で起きたんだ?」
「何?何でそんな事を聞く?」
「マリちゃんを誘拐した犯人の事を調べる為だ」
「フン、お前達に教えても意味がないだろう!これは私達騎士団の問題だ、部外者は下がっていろ」
ヴリトラの質問に答えずに邪魔者扱いするラピュス。ヴリトラはラピュスの言葉を聞いても表情を変えずにジッとラピュスを見つめている。
「部外者じゃない。俺達はバロンさんとマリちゃんにここまで連れてきてもらったんだ。二人には大きな恩がある、恩人が困っているのに黙って見過ごしちゃ七竜将の名が廃るんでね」
「何を言っている?・・・そもそもお前達は何者なのだ?なぜそんな見慣れない格好をしている?」
ヴリトラの話しを軽く聞いて何者なのかを尋ねるラピュス。ヴリトラ達の情報が少ない今、何者か分からない、しかも自分のファーストキスを奪った男とその仲間を信じる事などできない。
勿論、ヴリトラ達も自分達の事を知らない連中が自分達を簡単に信用してくれるとは思っていない。マリを助ける為にもまずは自分達の事を話すしかないと考え、ヴリトラはラピュスとラランを見て自分達の事を話すことにした。
「俺達は七竜将、この世界とは違う世界から来た傭兵隊だ」
「違う世界?何を訳の分からない事を言っている?ふざけているのなら下がっていろ」
ヴリトラの話しを信じようとしなラピュス。そんな彼女を見てバロンはヴリトラ達をフォローするようにラピュスに自分の知っているヴリトラ達の事を説明し始める。
「本当なのです。彼等はこのファムステミリアとは違う世界から来た傭兵なのです。自動車という見た事の無い鉄の馬に乗り、見た事の無い道具を多数持っておりました。儂も最初は驚きましたが、それをこの目で見た時、彼等は儂の世界とは違う世界から来たと知ったのです」
「・・・ご老人、貴方まで何を言い出すのです?お孫さんが誘拐されて気が動転されているのは分かりますが、こんなわけの分からない者達の肩を持つなど・・・」
バロンまで信じられない事を言い出して、困り顔を見せるラピュス。ラランはジーッとヴリトラ達を見上げ、周りの騎士達は小声で何かをブツブツ話し合っている。恐らく七竜将達をイカレた連中とでも思っているのだろう。
ヴリトラはテーブルを右手で叩いてラピュスに声を掛けた。
「お前が信じないのは勝手だぞ?だが俺達は自分達の事を話した、つまりお前の質問に答えたんだ。今度はお前が俺達の質問に答える番だぜ?」
「な、何?」
「教えてもらうぞ、今まで起きた誘拐事件の事・・・」
自分が質問し、相手はその質問に答えた。だがその質問の内容はとても信じられるものではない。それなにの相手も質問に答えろなどと言ってくる。ラピュスはヴリトラの言葉に黙り込んだ。いくら信用できない答えだからと言って、自分の質問に答えた相手が今度は自分に質問にしてきた。その質問に答えない、つまり一方的に相手の要求して自分達が何もしないのは騎士道に反すると思ったのだろう。
しばらく考えたラピュスはテーブルの方を向いて数ヵ所を指差した。
「この三ヵ所で誘拐が起きた。さらわれたのは皆子供でまだ誰一人帰って来ていない」
「全員子供・・・やっぱり同一犯の可能性が高いな。それで、その三つの誘拐はどれくらい前に起きたんだ?」
「・・・確か、前の誘拐は三日前で、その前は六日前、一番最初の誘拐は九日前だったはずだ」
三日おきに誘拐が起きている、それを知ったヴリトラは後ろにいるリンドブルム達を真剣な顔で見る。リンドブルム達も自分達を見るヴリトラは真剣な顔で見た。彼等の目にはマリを助けるという思いが籠っていた。
七竜将は地図を見て位置を確認すると酒場の出入り口の方へと歩いて行った。
「お、おい!何処へ行くんだ?」
「橋の警備兵士達に会いに行くんだ。あの人達ならその誘拐事件が起きた日に町の外から来た人の通行証を確認しているだろうからな」
「もし、その三つの事件の起きた日全てに同じ名前の通行証を使っている人間がいれば、犯人を絞れるはずだ」
ラピュスの質問に答えるヴリトラとなぜは町の入口の兵士達の会いに行くのか理由を説明するニーズヘッグ。七竜将は全員、酒場から出て町の出入り口へ向かって行く。
酒場を出て行った七竜将を見たラピュス達は驚き呆然としていた。さっきまでの間の抜けた七竜将達の姿とは違い、優れた行動力と洞察力を発揮する姿に事名を無くしていたのだ。ハッと気が付いたラピュスは七竜将の後を追い酒場から出て行く。ラランも黙ってその後をついて行った。
酒場から出て町に入った時に通った橋の警備兵士の所へやって来た七竜将は兵士三人にマリが誘拐された事を話した。兵士達も世話になっているバロンの孫娘が誘拐されたと聞かされて進んで協力を申し出た。
「まず、俺達が町に入ってから馬車は通ったか教えてくれ」
「馬車か?・・・ちょっと待ってくれ」
兵士の一人が小屋に行き、机の上に置かれてある紙を手に取った。そのには細かい字で数字や名前がビッシリと書かれてある。その紙を持って来た兵士は一番新しい記録を見てヴリトラに伝える。
「お前達が町に来て、今までに通った馬車は全部で二つだ。一つは通行証二千五百一番の『アバン・ザードルフ』という男だ。此処から南に5K離れた港町『カルティン』からを何度も行き来している。今日も午前中にカルティンで取れた魚を届けに来たんだ、ついさっきも魚を届け終えて帰って行ったよ」
「港町の男か・・・もう一人は?」
「もう一人はアバンよりも少し早く町から出て行った馬車だ。通行証三千二十一番の『キキルト・ファトリテム』だ。時々雑貨を買いにやって来る男で東に二キロ行った所にある『ワルゼ村』と言う所からきているらしい」
兵士が紙に書かれてある名前と通行証の番号、出身の村や町を指でなぞってヴリトラ達に見せる。だが、ヴリトラ達はまだこの世界の字は読めない。だから指で指されても理解できない。しかし、彼等にとって重要なのは馬車が通ったかそうでないのか出会って名前が読めるかは問題ではない。
兵士から馬車が通った事を聞いたヴリトラ達。そこへニーズヘッグはヴリトラの後ろから別の事を質問してきた。
「なら、今日の誘拐事件の前に起きた三件の誘拐事件の遭った日に通った馬車の事は覚えてるか?」
「前の誘拐事件?・・・ああ、三日おきに起きたあの誘拐事件か。勿論記録してるよ、ちょっと待ってな」
別の兵士がまた小屋へ戻り、今度は数枚の紙を持って来た。そこにもビッシリと通行証の番号と名前が書かれてある。
紙を受け取ったヴリトラはニーズヘッグや他の七竜将に渡してさっきと同じ番号と名前を探し始める。
「どうだ?有ったか?」
「・・・ヴリトラ!これ!」
ファフニールがヴリトラを呼び、自分の持っている紙に書かれた名前を指差す。ヴリトラは紙を覗き込んでファフニールが指差す名前を見た。そこにはさっき兵士がなぞったのと同じ名前と通行証の番号が書かれてあった。
「二千五百一番、これはアバン・ザードルフか・・・?」
「見て、こっちにもあるわよ」
今度はジルニトラが自分の持っている紙にファフニールの紙に載っている名前と同じ物が書かれてあった。そしてニーズヘッグの持っている三枚目にも同じ名前が書いてある。つまり、書かれてあるアバン・ザードルフという男がマリを連れ去り、今までに三件の誘拐をした犯人の可能性が高いという事だ。
「このアバンって人が怪しいね?」
「ああ、コイツが犯人の可能性が高いな」
「で?どうするの?ラピュス達にこの事を話して港町を調べてもらう?」
「私達に何を頼むのだって?」
リンドブルムがこの後にどうするかヴリトラに尋ねると、町の方からラピュスの声が聞こえてきた。一同が振り向くと、ラピュスとラランが自分達に向かって走って来る姿があった。ヴリトラ達の前まで走って来たラピュスとラランは膝に手をつけて息切れをする。
「・・・ハァ、ハァ、お前達、走るのが速すぎるぞ?」
「・・・疲れた」
息を切らしてヴリトラ達に文句を言うラピュスと汗を大量に掻いているララン。やって来たラピュスに紙を見せてヴリトラは説明を始める。
「この紙に書かれたあるアバン・ザードルフって男が犯人の可能性が高い」
「ハァハァ、な、何・・・?」
呼吸が整ったラピュスはヴリトラが見せる紙を受け取り、そこに書かれてあるアバンの名を目にした。ラピュスの隣でラランが自分より背の高いラピュスの手にある紙を見たく、背伸びをしている姿を見てリンドブルム達は笑いを堪える。
ラピュスは名前を確認した後にその紙をヴリトラに返した。
「このカルティンの町に住んでいるアバン・ザードルフが犯人だとお前達は踏んだのだな?」
「いや、正確には少し違うな・・・俺達はあくまでその『通行証を持った男』が犯人だと思っているだけだ」
ラピュスが鋭い目でヴリトラを見つめて尋ねると、ニーズヘッグが話しに加わりそれを否定する。通行証を持っている男、その言葉にラピュスとラランは不思議そうな顔をした。それではまるで、通行証を持っていても、その男はアバン・ザードルフではないみたいに聞こえるからだ。
「・・・それは、どういうこと?」
「・・・説明する前に、もう一つ確認しておきたい事がる」
ニーズヘッグは兵士達の方を向いて懐から一枚の紙を取り出した。何とそれは写真だったのだ。そしてその写真に写っているのはバロンとマリを襲った盗賊団クレイジーファングの一員の男だったのだ。
「これを見てくれ」
「な、何だこりゃ!?こんな小さな紙に色のついた絵が描かれてあるぞ?」
「どうなってるんだこりゃあ?」
写真を見て驚く兵士達。どうやらファムステミリアには写真という物も存在しないようだ。実は七竜将は自分達が関わってきた犯罪者や政府の要人の顔をひっそりとポラロイドカメラで撮るということをしているのだ。後々情報を集めるのに役立とつ思っているからだ。バロン達と始めた会ったあの時も気絶している男の顔を一枚撮っておいたのだ。
驚く兵士達にニーズヘッグが声を掛けると、男達は冷静さを取り戻した。
「写真の事はどうでもいいだろう?それよりも、もしかしてそのアバン・ザードルフの通行証を見せたのはこの男じゃなかったか?」
「え?・・・あ、ああ!そうだ。この男だ」
「やっぱりな・・・」
兵士達の話を聞いてヴリトラとリンドブルム達は鋭い表情を見せた。それを見たラピュスはヴリトラに声を掛けて話の説明を要求する。
「おい、お前達だけで話しを進めないで説明しろ!一体どういう事だ?その写真とか言う絵に写っている男とそのアバン・ザードルフにどんな繋がりがあるのだ?」
少し興奮するラピュスの方を一斉に振り向く七竜将。ヴリトラはズボンのポケットに手を入れてラピュスの方へ歩いて行き、目の前で止まると低い声を出した。
「結論から言うぞ?マリちゃんをさらったのはクレイジーファングの連中だ」
「な、何?」
「そして今までの三件の誘拐事件の犯人もな?」
「な、なぜそんな事が分かる?」
誘拐事件の犯人がクレイジーファングの仕業だと断定するヴリトラに尋ねるラピュス。そこへまたニーズヘッグが話しに参加してきた。
「そこは俺が説明する。まず俺達は誘拐されている対象について考えた。今回のマリちゃんや今までの三件、その対象となったのが全員子供だって事だ。子供なら例え抵抗されても力のある大人一人で十分対処できる。後は気絶させるなり眠らせるなりなどして大人しくさせたら箱や樽に押し込んで隠すだけ。そうする事で門と通過する事が出来る。しかも港町から魚を届ける男の通行証を使ってるんだから荷物を調べられる心配もない」
「子供を狙ったのも、誘拐を確実なものにする為だというのか?」
「ああ。更に、どうして今回マリちゃんが誘拐されたのかという事だ。酒場で見た誘拐事件の起きた現場は何処も入口の近くで起きていた。恐らく、さらった後に直ぐに町から抜け出せるように入口の近くで実行したんだろう。だが今回マリちゃんが誘拐された雑貨屋は町の中心にあった。どうして入り口近くの子供じゃなくて中心部にいたマリちゃんを狙ったんだと思う?」
ニーズヘッグがラピュスとラランに尋ねると、二人は向かい合った考える。するとラピュスがニーズヘッグの方を向いて一つの答えを出した。
「その時は入り口の近くに子供がいなかったからではないのか?」
「俺達も最初はそう思った。だけど、此処に来る途中に沢山の子供が入り口近くで遊んでいうのを見た。つまり、奴は最初からマリちゃんを探していたという事になる」
「マリちゃんをピンポイントに狙っていたという事は、マリちゃんを見た事がある奴が犯人だという事。だからニーズヘッグはクレイジーファングの男の写真を見せて顔を確認したんだ。そしたらビンゴ、この写真の男だったって訳だ」
ニーズヘッグの持っている写真を見せて説明するヴリトラ。ヴリトラとニーズヘッグの説明についていけてるのかいないのか、ラピュス達ティムタームの人間は難しそうな顔を見せる。
二人の説明を聞いていた七竜将は理解しているような顔をしていたが、ファフニールがヴリトラに質問をしてきた。
「でもどうしてマリちゃんを狙ったんだろう?」
「さぁな。俺達に邪魔されて獲物を捕まえ損ねた事に対する執念か、ただ誘拐しやすそうだったのか。いずれにせよ、マリちゃんを誘拐したのがクレイジーファングの連中だって事は確かだ」
「そうだね」
クレイジーファングが誘拐事件の犯人、それだけは確実と判断してファフニールも頷く。だが、一つだけまだ問題がある。
「後は奴らのアジトが何処にあるかって事だな。例え犯人が分かっても、アジトが分からないんじゃ助ける事が出来ない」
「通行証に書いてあるカルティンっていう港町じゃないの?」
アジトの場所を想像しているリンドブルム。そんなリンドブルムを見下ろしてオロチが腕を組みながら言った。
「それは無いな。私達の様に自分達の正体に気付いた者達が捜索するかもしれないのに、わざわざ通行証に書いてある町にアジトを作ると思うか?」
「あっ、そっか・・・。じゃあ何処に・・・」
考え込む七竜将。そんな彼等をラピュス達は黙って見ている。すると、ラピュスがヴリトラ達に声を掛けてきた。
「・・・クレイジーファングのアジトかどうか分からないが、町の北にある岩山に盗賊団が根城にしている廃鉱があるのだが・・・」
「・・・ええぇ!?」
ラピュスの話を聞き目を丸くするヴリトラ。周りにいるリンドブルム達も驚いてラピュスの方を向いた。
マリが誘拐され、その犯人がクレイジーファングだと突き止めた七竜将。そしてラピュスからクレイジーファングが潜伏していると思われる廃鉱の話を聞いた。この後、七竜将はラピュス達第三遊撃隊と共にその廃鉱へ向かう事になるのだった。