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機械鎧(マシンメイル)は戦場を駆ける  作者: 黒沢 竜
第四章~祖国の為に刃を向ける~
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第六十五話  森の一騎打ち! ファフニールVSエント

 エントの機械鎧の内蔵兵器の力に押されているリンドブルム達。隙があれば反撃するも、エントの持つ電磁シールドによってリンドブルムの銃撃は無力化、ファフニールのギガントパレードの攻撃も止められてしまう。そんな状況でファフニールがいきなり一人で戦うと言いだしリンドブルムとガズンは驚くのだった。

 リンドブルムとガズンの前で二人に背を向けながら一人で戦うと言い出したファフニールを驚きの表情で見つめる二人。離れた所で同じようにファフニールの言葉を聞いたエントもまばたきをして少し驚いている様な顔をしているが、直ぐに笑いの表情へと変わった。


「・・・フッ、ハハハハハハ!一人で戦う?三人、いや三人の二匹でも苦戦しているのにお前一人で俺をやっつけるだとぉ?ハハハハ、面白い冗談だなぁ!」

「・・・冗談じゃありません、私は本気です!」


 真剣な眼差しでエントを見つめながら言うファフニール。そんな彼女の言葉にエントも笑うのを止めて鋭い視線をファフニールに向ける。そしてファフニールの背後では未だに驚きの表情を見せるリンドブルムとガズンの姿があった。


「ファフニール、いくらなんでもそれは無茶だよ」

「そうだぞ。アイツの強さはその目で見た筈だ、一人で挑むなんて殺してくれって言ってる様なもんだ!」


 ファフニールを止めようとゆっくりと立ち上がって説得するリンドブルムとガズン。だがファフニールはエントの方を向いたままギガントパレードを握り、静かに口を開く。


「あの人の電磁シールドの前にはリンドブルムの拳銃なんかの鉄砲は効かない、リンドブルムの攻撃は通用しないって事。それはリンドブルムが一番よく分かってるでしょう?」

「うっ・・・」


 リンドブルムの攻撃が愛用に拳銃を使った銃撃、しかしエントの電磁シールドは銃器の攻撃を全て防いでしまう物、リンドブルムにはエントにダメージを負わせる手段がない。自分の攻撃が通用しない事にリンドブルムは思わず黙り込む、だがそれで納得できる筈がない。リンドブルンは自分の右腕の機械鎧に左手を付けながらファフニールに言い返す。


「確かに、ライトソドムとダークゴモラは通じないかもしれない。でも僕にはまだ機械鎧の短剣がある!これを使えば・・・」

「ダメだよ。それはリンドブルムのもう一つの姿を見せちゃう物だから、本当に勝つ方法が無い時以外は使っちゃダメだってヴリトラ達も言ってたでしょう?」

「だから、今がその時じゃないか!」

「今は私がいる!私のギガントパレードならまだあの人に勝つチャンスはある、だから使っちゃダメ!」


 ファフニールはリンドブルムの方を向いて真剣な顔で力の入った声を出す。それを見たリンドブルムは自分よりも二つ年上というだけの少女に一瞬だけ威圧感を感じて目を見張りながら黙り込む。ファフニールは最後の手段という時以外に使うなと言っているが、実際はリンドブルムの包丁小悪魔チョッパー・デビルとしての姿を見たくないというのが本心だった。それにファフニールの言うとおり、彼女のギガントパレードなら電磁シールドに止められはしたものの、エントを一瞬押す事が出来た。上手くすれば電磁シールドを破る事ができるかもしれないとファフニールは考えたのだ。


「それに、ライトソドムとダークゴモラの弾も無駄に出来ないでしょう?まずは私が戦うから、もし私が負けたらリンドブルムがもう一度戦って」

「・・・弾の事もあるけど、ファフニールを一人で戦わせて僕が後ろでそれを見てるだけなんて事をしたら後でヴリトラ達に僕が怒られちゃうよぉ・・・」

「それを言うなら、一人で戦いを挑んだ私も怒られちゃうよ?」

「それはそうだけど・・・」


 敵を前にして子供同士の話し合いが始まった。それを見ていたガズンは戦場で普通に会話をしているリンドブルムとファフニールの精神の驚いており、離れた所ではエントも自分をほったらかしにして話し合っている二人をジーっと見ている。


「何をやってるんだ、あのガキどもは・・・?」


 エントは状況を分かっているのかいないのか周りを気にせずに話をしている二人の子供を見つめながら低い声を出す。

 リンドブルムとファフニールはそんなエントに気付きもせずに話を続けていた。


「とにかく、ここは私にやらせて。ヴリトラ達には私が勝手に判断して一人で戦いを挑んだって言ってくれればいいから」

「むぅ~~~っ!」


 納得できないリンドブルムは渋い顔を見せる。するとファフニールがふともの思う様な表情を見せて呟いた。


「それに、私自身あの人と戦いたい理由があるから・・・」

「え?」


 静かな声で呟くファフニールを見てリンドブルムは思わず声を出す。そしてリンドブルムはファフニールがある方向を見ている事に気付いて彼女が見ている方向に視線を向ける。その先には埃まみれになってガズンの後ろで自分達を見ているガルバとミルバに気付く。リンドブルムは二匹のドレッドキャットを見つめながら「もしかして」と言う様な顔を見せてファフニールの方を向き直す。


「・・・分かったよ、君に任せる」

「ホント?ありがとう!」

「何ぃ?」


 ファフニールを一人で戦わせることを承諾するリンドブルムを見て笑いながら礼を言うファフニールとその隣で再び驚くガズン。


「でも、もしファフニールが危ないと思ったら直ぐに僕も加勢するからね?」

「うん」


 笑顔で頷くファフニールはゆっくりとエントの方を向いてギガントパレードを構えた。リンドブルムは愛銃二丁をホルスターに収めてゆっくりと後ろに下がる。


「おいおい、どういうつもりだよ!?本当にあのお嬢ちゃんを一人で戦わせるつもりかぁ?」

「ハイ」

「ハイって、アイツは俺達がまとまって挑んでも勝てるかどうか分からないくらいの相手なんだぞ?そんな奴に一人で戦わせるなんてひでぇじゃねぇか!」


 ファフニールを一人で戦わせる事に納得できないガズンはリンドブルムに力の入った声で抗議する。だがリンドブルムは冷静にガズンを見上げながら答えた。


「僕はファフニールを信じていますから」

「信じるだけで危機的状況を乗り越えられると思ってんのか?」

「勿論、彼女が危険になったら助けます。でも、ファフニールの思いを知ったら一人で戦わせてあげたくなっちゃんたんですよ」

「思い?」


 ガズンは理解できない内容に首を傾げる。するとリンドブルムはドレッドキャット達を見て静かに呟く。


「ファフニールはその子達を守りたいと思ってるんですよ」

「ガルバとミルバを?」


 ガズンは自分の後ろで自分達を見つめているガルバとミルバを見ながら訊き返す。リンドブルムはファフニールの方を向いて話を続けた。


「ファフニールが猫を心から大切に思ってるのは知ってます。今まで自分が好きだった黒猫とその子達を重ねて見てたんですよ、だからその子達を傷つけようとするエントを自分の力だけで倒して、その子達を守ろうとしてるんです」


 リンドブルムから聞かされたファフニールの思いを聞き、ガズンは意外そうな顔でエントの方へ歩いて行くファフニールの後ろ姿を見つめる。彼女の背中はとても十四歳に少女の背中には見えなかった、ガズンには大切な物を守る為に戦う一人の戦士の背中に見えるのだろう。


「だけど、どうしてそこまでガルバとミルバを、いや猫を守る事にあのお嬢ちゃんは拘るんだ?」

「・・・・・・」


 ガズンの質問にリンドブルムは答えずにファフニールの方を向く。既にファフニールは二人から数m離れた位置におり、エントとの距離は五m近くにまでなっていた。

 エントは自分の前で巨大ハンマーを握っているファフニールを見た後に、その後ろで離れた位置から自分達を見ているリンドブルムとガズンに視線を向けると、ファフニールを睨みつけた。


「・・・本当にお前一人で俺と戦うつもりか?」

「さっきもそう言いましたよ?」

「さっきまでお前とあそこの小僧と二人で戦っても俺に傷一つ追わせられなかった小娘が一人で俺を倒そうと考えるとは、随分とナメてくれるじゃねぇか・・・」


 エントが付けている金属製のマスクの下から聞こえてくる不機嫌そうな声。エントは突然一人で戦いを挑んできたファフニールの行動にプライドを汚されて機嫌を悪くしていたのだ。おまけに戦いを挑んで来たのは十代の女の子、もはや侮辱されていると言ってもよかった。


「ガキのくせにブラッド・レクイエムの幹部兵士を侮辱するとは、身の程知らずもいいところだな」

「・・・ヴリトラがよく言っていました、『自分のプライドを傷つけられて怒りを露わにするのは大抵小物だ』って」


 ファフニールのその言葉にエントの怒りは更に高まり、こめかみ部分に血管が浮かぶ上がる。幼くして相手を挑発するという心理戦を仕掛けるファフニールの行動を見てリンドブルムは小さく頷き、ガズンは目を丸くしていた。

 挑発されて怒りもピークに達していようとしているエントは右腕の鎌形の刃を光らせ、左腕の電磁シールドの出力を上げた。全力でファフニールを倒すつもりの様だ。


「・・・確か、ファフニールとか言ったな?俺はプライドを傷つけられるのが嫌いでなぁ、ましてやお前の様なガキにバカにされると非常に腹が立つんだ・・・!」

「そうですか・・・実は私も貴方の事が嫌いなんです。何の罪もないストラスタ軍の人達の命を奪い、ドレッドキャット達を傷つけた貴方の事が」

「ほぉ?・・・ならその嫌いな男に殺されるのは、さぞや屈辱的だろうなぁ!」


 エントはそう言った直後に右腕の刃でファフニールに斬りかかった。ファフニールは咄嗟にギガントパレードの柄の部分で刃を止める。触れ合う刃と柄の部分から火花が飛び散り、周囲に高い音が鳴り響く。ファフニールはエントの斬撃を止めながら彼をジッと見つめ、エントも右腕に力を入れながらファフニールを見てニッと笑う。


「フフフ、この刃も当然超振動刃だ。そんな細い柄など直ぐに真っ二つになるぞ?」

「確かに普通の金属ならあっという間に切れちゃいます。でもこの柄は機械鎧に使われている特殊金属と同じ物で出来てるんです、普通の超振動剣じゃ切れませんよ」


 ファフニールはエントの顔を鋭い目で見つめながら自分の巨大ハンマーの強度を話す。エントはそれを聞いても驚く様子は見せずに小さく笑っている。まるで「それくらいでないと面白くない」といいたそうに・・・。

 しばらく刃と柄を交わらせていた二人は素早く横に跳び互いに距離を取って体勢を立て直そうとする。だがエントは両足が地面に付くと直ぐに左肩の大砲をファフニールに向けて砲弾を発射した。


「ファフニール!」


 大砲を撃たれてファフニールの事を心配し名を叫ぶリンドブルム。砲弾は真っ直ぐファフニールの方へ飛んで行き、彼女の数m前まで迫って来ていた。ファフニールは慌てずに地面に足を付けると飛んで来る砲弾の方を向き、ギガントパレードを強く握った。そして砲弾が自分の3m前まで近づいて来た瞬間にギガントパレードで砲弾を力一杯打ったのだ。ギガントパレードで打たれが砲弾はファフニールから見て左斜め上に打ち上げられ、空中で爆発した。その爆発によって下にいたファフニールとエントに爆風が襲い掛かる。


「ぐおぉぉっ!」

「わぁ~~~!」


 吹き飛ばされない様にその場で踏ん張るエントとファフニール。離れた所に立っているリンドブルムとガズン、そしてドレッドキャット達にももの凄い勢いで風が吹き彼等を押し飛ばそうとする。そんな中でリンドブルム達も飛ばされない様に耐えていた。

 爆風が収まり、周囲の草や木がゆらゆらと揺れている中でファフニールとエントは再び相手を見て構え合う。さっきの刃の交じり合いと砲弾による爆発で二人の闘争心は更に高まっていた。


「・・・成る程、大した反応速度だ。あの状況で砲弾を打ち上げるとは、一人で戦うと言って来るだけの事はるという訳か」

「私だって、七竜将の一人として今まで多くの戦場で戦って来たんです。甘く見ないでください!」

「だが機械鎧兵士、しかもブラッド・レクイエムの幹部クラスと戦うのは今回が初めてだろう?勝つ自信はあるのか?」

「勝つ自信が無ければ一人で挑んだりしませんよ」


 真面目な顔でエントに力強い声で言い放つファフニール。そんな彼女を見てエントは構えながら笑い出した。


「ハハハハハッ!小娘、お前は本当によく笑わせてくれる奴だぜ。その勇気に免じて、俺も全力でお前を殺してやろう!」


 エントは笑いながら再び右腕の刃を光らせてファフニールに向かって走り出す。ファフニールも向かって来るエントを見てギガントパレードを左手だけど持ち、右腕の後前腕部の装甲を動かし機銃を出すとエントに向かって発砲する。だがエントは左腕の電磁シールドで機銃の弾丸を全て弾きファフニールの銃撃を防いだ。弾丸を防いだままファフニールの目の前まで近づいたエントは右腕の刃でファフニールに斬りかかる。ファフニールは銃撃を止めて上半身を後ろに少し倒してその斬撃をかわし、左手首だけを動かし、持っていたギガントパレードでエントに攻撃する。


「おっと!」


 エントは右から迫って来るギガントパレードの大きな頭を後ろに跳んで回避。そんなエントに向かってファフニールは再び機銃で攻撃する。銃口から吐き出された無数の弾丸は真っ直ぐエントに向かっていき、それに気づいたエントは咄嗟に電磁シールドでガードする。弾丸の殆どは電磁シールドで防げたが、一発だけがエントの左肩を掠めた。


「チイィ!」


 肩を掠めた事で気に入らない様な表情で左肩を見つめるエントは体勢を立て直し、電磁シールドを構えたまま離れた所で機銃を構えているファフニールの方を向き彼女を睨み付ける。ファフニールは機銃を発砲せずに銃口を向けたままエントに鋭い視線を向けていた。


「やっぱり、貴方が銃弾を防げるのはその電磁シールドの電磁壁が張られている範囲だけ、範囲外の弾丸は防ぐ事も弾く事も出来ないんですね?」

「フン、それを確認する為に銃の類が俺に通用しないと分かっていながら撃って来たって訳か・・・」

「見ていて薄らと感じてたんですけど、思いついた事はやってみて自分の目で見ないと納得出来ないんです、私。それに私の機銃はリンドブルムの拳銃と違って連射が出来ますからもしかしたら一発ぐらいは当たるかも、て思ったんですよ」


 電磁シールドの小さな弱点を見つけたファフニールを見てエントは彼女を睨んだまま電磁シールドと右腕の刃を構える。自分には通用しない筈の銃器で傷を負わされた事で既にエントのプライドはズタズタだった。エントは自分をコケにした少女を見て歯ぎしりをする。


「このガキがぁ、もう容赦しねぇぞ?二度と立ち上がれない様に全身を粉々にしてやるぜ!」


 睨み付けながら怒鳴る様に言い放つエントを見てファフニールは右腕の機銃を機械鎧の内部にしまい、再び両手でギガントパレードを構えると今度はファフニールが先に動き出してエントに向かって走り出した。

 走って来るファフニールを見たエントは舌打ちをして、同じようにファフニールに向かって走り出す。互いに少しずつ相手との距離を縮めていく二人、そしてファフニールがエントに向かって右斜め上からギガントパレードを振り下ろして攻撃する。エントは電磁シールドでファフニールの攻撃を防ぎ、周囲に電気が走り様な音と衝撃が広がった。


「大したパワーだな?・・・だが、パワーだけじゃ俺には勝てねぇぞ!」


 ギガントパレードを止めながらエントは右腕の刃でファフニールの腹部に斬りかかる。それを見たファフニールはギガントパレードの頭を電磁シールドから放して離れようとする。ところが、かわしきれずに刃はファフニールの腹部を掠り、細長い切傷がファフニールの腹部に生まれる。


「うっ!」


 腹部に走る小さな痛みに声を出すファフニールは後ろに数回跳んでエントから距離を取った。切られたところを左手で押さえながらエントを見つめるファフニール。彼女の額からは少量の汗が滴り落ち、切られた箇所からも微量に出血していた。

 傷口を押さえながら自分を見つめるファフニールを見てエントは鼻で笑いながら刃を見つめる。刃の先には薄らと赤い血液が付着していた。


「パワーだけでなく、スピードもなければ相手の隙を突いて攻撃する事は出来ない。お前はパワーがあるがそのバカデカいハンマーを持っているせいでスピードがあの小僧よりもはるかに低い、だからさっきの俺の急襲をかわしきれなかったんだ」

「うう・・・」


 笑いながら素早さの低いところを指摘してくるエントを見てファフニールは悔しそうな顔を見せる。左手を放してギガントパレードの柄を両手で握りながら構え直すファフニール、既に切られたところは止血しており痛みも引いていた。これも体内のナノマシンによって治癒力が常人以上になっているおかげであった。


「でも貴方の場合はスピードがある代わりに私に大きなダメージを与えるだけのパワーが足りません。貴方のスピードで私が倒れる前に貴方が致命傷を受ければそれでお終いですよ?」

「フッ、確かに俺にはパワーは無いかもしれない。だがそれを補う為にこの大砲が俺の機械鎧には装着されているんだ」


 エントは自分の左肩の大砲を指差して余裕の表情を見せる。そんな顔を見たファフニールはムッと鋭い表情を見せ、ギガントパレードを上段構えで持ちエントを見つめる。構えを変えたエントも右腕を前に出して刃を光らせ、左腕を胸の前で立てにし電磁シールドを構えた。再び戦闘態勢に入る二人の間で火花が飛び散る。

 リンドブルムとガズンがその戦いを見守っていると、背後から無数の気配を感じて二人は振り返る。そこには爆音を聞きつけてやって来たヴリトラ達の姿があった。


「ヴリトラ、皆!」

「リンドブルム、無事だったか?」

「無事といえば、無事だけどね・・・」


 ヴリトラと互いに相手の安否を確認し合うリンドブルム。ヴリトラもリンドブルムと隣にいるガズン、そしてドレッドキャットの姿を見て頷きながら安心した。そこへジャバウォックがヴリトラの隣でエントと戦っているファフニールの姿を確認し目を丸くした。


「おい、ファフニールが一人でエントと戦ってるのか?」

「・・・うん、ファフニールが一人でエントと戦いたいって言うから」

「何?それでお前は一人で戦わせてるのか?」


 ジャバウォックがリンドブルムを見下ろしながら尋ねると、リンドブルムはジャバウォックを見上げて頷いた。


「何やってるんだ!相手はブラッド・レクイエムの幹部だぞ?一人で戦うなんて無謀すぎる!なにより、どうしてお前も一人で戦わせたりなんかしてるんだ!?」

「・・・ファフニールはドレッドキャットを傷つけたエントのやり方が気に入らなかったんだと思うよ。それはきっと昔あの子が飼ってた子猫の姿を重ねたんだからだと思うんだ。だからそれを聞いてファフニールにやらせてあげようって」

「あのなぁ!いくら過去の事が関係してるからって、一人で挑んで死んじまったら意味ないだろうが!今すぐにアイツに加勢するぞ!」


 ジャバウォックは背負っているデュランダルを抜き、ファフニールの下へ向かおうとする。彼の後ろにいたオロチとラランも斬月と突撃槍を握ってジャバウォックに続こうとするが、そこへリンドブルムが三人の前に立ち両手を横に広げて立ち塞がった。


「ダメ!僕はファフニールと約束したんだ。ファフニールに任せるって、そして彼女が危険になったら加勢するって。だからそれまでは彼女を見届ける事にするんだ!」

「バカ野郎!さっきも言っただろう、死んじまったら何の意味もねぇって!」


 巨漢の男と小さな少年は互いに引こうとせずに自分達の意見をぶつけ合う。ファフニールとエントが戦っている中で七竜将の仲間割れが始まってしまった。そんな二人の言い合いを見ていたヴリトラが手を叩きながら二人を止めに入る。


「ハイハイ、ケンカしない」

「ヴリトラ、お前も何呑気な事を言ってるんだ!?」

「落ち着けよ、ジャバウォック。リンドブルムの言ってる事も一理ある、ファフニールがあそこまで過去に拘って戦うのもきっと訳がある筈だ。多分、過去の自分の過ちとケリを付ける為に戦ってるんだと思うぜ?」


 過去の自分、その言葉を聞いたジャバウォックは少しだけ目を見張って意外そうな顔を見せる。リンドブルムは自分の意見に同意してくれたヴリトラを見て少しだけ笑顔になった。


「この戦い、ファフニールを信じて見守る事にしようぜ?本当にヤバくなったらその時に助ければいいんだからさ」

「・・・・・・ハァ、わぁ~ったよ!」


 渋々納得するジャバウォック。その後ろにいたオロチも無表情で目を閉じて斬月を下ろし、その隣ではラランが「本気?」と言いたそうな顔でヴリトラ達を見回していた。話し合いの結果、ヴリトラ達は引き続きファフニールにエントとの戦いを任せる事となった。

 ファフニールとエントの一騎打ち。リンドブルムやヴリトラ達は彼女を信じて戦いを任せる事にした。果たしてファフニールは勝てるのか?そしてヴリトラの言っていたファフニールの過去の過ちとは何なのだろうか?


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