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機械鎧(マシンメイル)は戦場を駆ける  作者: 黒沢 竜
第四章~祖国の為に刃を向ける~
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第六十二話  窮地からの逆転!


 フォルモントの森でヴリトラ達とブラッド・レクイエム社の激しい戦いが繰り広げられていく。ヴリトラのチームとリンドブルムのチームはそれぞれ役目を果たしたが、ジャバウォックとラピュスの両チームは敵部隊と接触する。ヴリトラのチームは苦戦しているジャバウォックのチームの救援に向かい、ラピュスのチームは高台で敵部隊と戦いを繰り広げてていた。

 高台からラピュス達を狙撃する敵の狙撃手を倒す為にニーズヘッグとジルニトラの二人はBL兵達の注意を引くために囮となり、その隙にラピュスが高台に上がって狙撃手を倒すという作戦に出た。


「チイィ!何ちゅう弾幕だ!」


 大きな岩の陰に隠れながら敵の銃撃を凌ぐニーズヘッグは陰からBL兵達の方を覗き込みながらアスカロンを握っていた。ニーズヘッグが顔を出すと弾丸が岩に当たり小さな石片が飛び散り、その石片に驚きニーズヘッグは顔を引っ込める。その隣ではジルニトラが姿勢を低くししながらサクリファイスを構え、隙が出来ればBL兵達に反撃するという行動を繰り返していた。


「マズイわよ?向こうが銃撃をしながら接近して来れば直ぐに敵に囲まれちゃう!・・・ニーズヘッグ、こうなったら機械鎧の内蔵兵器を使って一気に片付けましょう!」

「ダメだ。確かに機械鎧の武器を使えばアイツ等を一掃できるかもしれない。だが内蔵兵器は撃つ時や狙いを定める時に一瞬の隙が出来る、相手が歩兵だけならまだしも狙撃手がいる状態で使ったら狙い撃ちにされちまう!しかも敵兵は全員が俺達に集中してる。こんな弾幕の中、味方の援護も無しに飛び出すのは自殺行為だ」


 ニーズヘッグの話を聞いてジルニトラが舌打ちをしながらBL兵達の方を向いた。MP7を持つ四人のBL兵の内、二人は倒れている木の陰からニーズヘッグとジルニトラの隠れている岩を撃ち、残りの二人はMP7を撃ちながら岩へと近づいて行っている。そして狙撃手は高台の上から岩をスコープで覗き込み、二人の姿が少しでも見えると狙撃して二人を威嚇して動きを封じるという援護射撃をしていた。完全に二人を動きを封じられて動けない状態にある、文字通り絶対絶命だ。

 激しい銃撃を岩で防ぎながら二人は手持ちの装備と武器の状態を確認する。そして高台の方を鋭い眼差しで見つめた。


「頼んだわよ、ラピュス・・・」

「早く狙撃手を黙らせてくれ」


 狙撃手の無力化を託したラピュスに呟きながらニーズヘッグとジルニトラは再びBL兵達に意識を向けるのだった。

 二人が銃撃されている時、ラピュスはBL兵達に気付かれないように坂道を駆け上がる高台の上にいる狙撃手の下へ急いでいた。汗を掻きながら坂道を上り、重い鎧を揺らしながらラピュスは走っている。


「ハァ・・・ハァ・・・急がなくては、二人が持たない・・・!」


 遠くから見える銃撃戦を見てラピュスはニーズヘッグとジルニトラの二人の身を案じ、佐上とを駆け上がる足を急がせた。坂を上っている最中に茂みの中から顔を出して二人を狙っている狙撃手の姿を確認したラピュスは騎士剣を強く握り、更に早く足を動かす。そして坂を上り切ると騎士剣を構えながらゆっくりと狙撃手の背後に回り込み、気付かれない様に近づいて行く。


(・・・騎士として相手の背後に回りこんで奇襲を仕掛けるなんて行為は気が退けるが、二人を助ける為には仕方がない!)


 正面で正々堂々と戦う騎士道精神に反する行為に心を痛める様な表情を受けべるラピュスは心の中で呟く。だが、仲間が危険な状態になっている時にそんな事は言っていられない。ラピュスは自分に言い聞かせながら息を殺して狙撃手に近づいて行く。


(・・・よし、此処まで来れば!)


 騎士剣が届く所まで近づいたラピュスは刃を狙撃手に近づけて黙らせようとする。だがその直前にラピュスの上にある木の枝から何か黒い影が落ちてきた。


「何っ!?」


 影に気付いたラピュスは咄嗟に後ろに跳んで狙撃手から離れる。そしてラピュスが立っていた所に落ちてきた黒い影は何とマチェットを握ったBL兵だったのだ。


「!」


 PSG1を構えながら俯せになっていた狙撃手は突然木の上から降りて来た仲間に驚き、急いで仰向けになり自分の後ろにPSG1の銃口を向ける。そして騎士剣を持つラピュスの姿を見つけた。実はラピュスの前に現れたBL兵こそがニーズヘッグがもう一人の狙撃手と思い込んでいた六人目、なんと六人目は狙撃手ではなく、狙撃手の護衛をしていたのだ。

 背後から現れラピュスを見て狙撃手は急いで仲間のBL兵達に通信を入れる。


「おい、こっちにもう一人いるぞ!」

「何?」


 ニーズヘッグとジルニトラを銃撃していたBL兵達は仲間の通信を聞き、銃撃を止めて耳の小型通信機に指を当てる。突然止んだ銃撃にニーズヘッグとジルニトラは不思議に思い顔を出して様子を伺った。


「何?突然銃撃が止んだわよ?」

「・・・・・・ッ!まさか、ラピュスの存在がバレたんじゃ?」

「えぇ!?」


 ニーズヘッグの想像を聞いて驚くジルニトラは双眼鏡を取り出して高台の方を覗く。そして、ラピュスと彼女の前に立つ護衛のBL兵の姿を確認する。


「ニーズヘッグ!もう一人の機械鎧兵士がラピュスの前にいるわ!」

「何?・・・まさか六人目は狙撃手じゃなくて狙撃手の護衛に付いてたのか!」

「どうするの?このままじゃラピュスが――」


 ジルニトラが双眼鏡を覗くのを止めてニーズヘッグにどうするか尋ねようと彼の方を向いた直後に再びBL兵達の銃撃が始まる。驚いて顔を引っ込めるジルニトラと岩陰からBL兵達の方を見て悔しがるニーズヘッグ。自分の読みが甘かった事に腹を立てているようだ。

 二人が岩陰に隠れている中、MP7で銃撃をしながらBL兵達は狙撃手からの通信を聞いていた。


「こっちには護衛がいるが、さっさと終わらせる為にもう一人こっちに来てくれ。俺は引き続き此処で援護狙撃をする」

「了解した。直ぐにそっちへ行く」


 そう言って通信を切ったBL兵の一人がMP7を撃つのを止めてラピュスが高台に上がる為に通った坂道の方へ走り出した。岩陰から顔を出したニーズヘッグは坂道へ向かうBL兵に気付いて一瞬驚きの顔を見せる。


「ヤバいぞ、敵兵の一人が高台へ向かった。間違いなくラピュスの所だ!」

「どうするの?いくらあの子が強いからって、機械鎧兵士二人を相手にするのは無理よ!早くこの現状を打破して助けに行かないと」

「分かってる!」


 急かすジルニトラの言葉を聞きながらも落ち着いてどうするかを考えた。無数の弾丸が岩を削っていく中でニーズヘッグは作戦を練る。しばらくして、ニーズヘッグは腰に付いている手榴弾を手に取った。


手榴弾グレネードなんてどうするの?」

「・・・ジルニトラ、俺が今からこれを高く放り投げる。そしたらお前はそれ撃ってくれ」

「え?その手榴弾を?」

「そうだ!行くぞ?」


 ニーズヘッグはそう言って勢いよく持っている手榴弾を上に向かって放り投げた。ジルニトラは作戦を理解出来ないでいたが、戸惑いながらも言われたとおり宙を舞う手榴弾をサクリファイスで撃ち抜いた。その瞬間、手榴弾は空中だ爆発し周囲に爆音と爆炎が広がった。


「な、何だ?」

「「「「「「!?」」」」」」


 突然起きた爆発にラピュスとBL兵全員が驚いてその爆発に意識を向けた。そして、BL兵達に一瞬の隙が生まれる。それを見てニーズヘッグは小さく笑い岩から飛び出す。それを見てジルニトラもようやくニーズヘッグの作戦に気付いたのか一瞬目を見張ってはいたものの直ぐに表情を戻して岩から飛び出しニーズヘッグの後に続く。


「さぁ、今度はこっちも番よ!」


 今まで散々撃たれてきた事でストラスが溜まっていたのか、ジルニトラはBL兵達を鋭い目で見つめ、走りながらサクリファイスの引き金を引く。サクリファイスの銃口から吐き出された無数の弾丸はBL兵達に向かって飛んで行き、MP7を持っている四人の内の二人がその弾丸を受けて倒れた。残りの二人は大きく横に跳んで回避し、跳んだままの状態でMP7を撃ち反撃する。ニーズヘッグとジルニトラも横に跳んで銃撃をかわし、サクリファイスと右腕の内蔵機銃で応戦する。ニーズヘッグの機銃の弾はBL兵に当たり地面に俯せに倒れたが、ジルニトラの弾はまたかわされてしまった。


「またかわしたわねぇ!」


 銃撃がかわされた事で更にストラスが溜まるジルニトラは跳んだ状態のまま左手の機械鎧の甲の装甲を動かしてリニアレンズを出し、それを赤く光らせる。そして足が地面に付いた瞬間、BL兵に狙いを定めてリニアレンズから赤いレーザーを発射し、その状態のまま左手を動かしてBL兵の体をレーザーで真っ二つにする。BL兵の体は腹部で真っ二つになり上半身がゆっくりと前に倒れ、下半身もバランスを崩し後ろに倒れた。

 MP7を装備したBL兵が全員倒したが、まだ安心は出来ない。二人は高台の方を向き、自分達を狙っている狙撃手とラピュスと剣を交えているBL兵を見て坂道に向かって走り出す。狙撃手はPSG1で二人を狙撃するも、弾は全て地面に当たるだけだった。


「この状態じゃあ、スナイパ―ライフルで当てるのは困難だぜ?」

「状況に応じて武器を変えなさい!」


 走りながら狙撃手の方を向いて言い放つニーズヘッグとジルニトラ。狙撃手は体を起こし、片膝を突いた状態で狙撃を続けた。

 そしてラピュスは護衛のBL兵と剣での戦いを繰り広げていた。ラピュスの騎士剣とBL兵のマチェットが刃を交えて周囲に火花を飛ばしながら金属が削れるような音が周囲に響き渡る。ラピュスは両手で騎士剣を握り、何とかマチェットを押し返そうとするも機械鎧兵士の力の前ではいくら姫騎士と言えど普通の人間、力では勝ち目がないのは目に見えている。それでもラピュスは歯を食いしばりBL兵と押し戻そうとした。


「グウウゥ!やはり、機械鎧兵士に接近戦を挑んだのは間違いだったか・・・」


 騎士として敵に奇襲を仕掛けるなどと姑息な手を使ってしまったせいか、これ以上卑怯な手を使いたくないラピュスは騎士として剣で戦いを挑んだが、改めて機械鎧兵士の力を知り無謀だったと実感する。BL兵は歯を食いしばるラピュスにあざ笑うかのように余裕の様子でマチェットに力も入れずに握っていた。その一方でいくら力を込めてもピクリとも動かないマチェットを見てラピュスは屈辱を感じている。


(な、何という奴だ。手に全く力を入れている様子がない、私など力を入れる必要もないという事か!?)


 戦士としての誇りを傷つけられたように感じたラピュスはBL兵を睨みながら騎士剣の刃をマチェットから離して後ろに跳んで距離を作った。距離を取って態勢を立て直そうとするラピュスを見てBL兵はそうはさせないと言わんばかりに追撃する。後ろに跳んだラピュスに向かって走り出し距離を詰めていく。それを見たラピュスは両足が地面に付いた瞬間に騎士剣を右から大きく横に振ってBL兵の側面を攻撃する。BL兵は足を止めて右手に持っているマチェットを左手に持ち替え、迫って来る騎士剣をマチェットで止めた。


「あの一瞬で鉈を右手から左手に持ち替えるなんて・・・!」


 またしても自分の攻撃を止められてしまい、ラピュスは悔しそうな表情でBL兵を見つめながら両手に力を入れる。だが、マチェットは左手だけで止められているにも関わらず、まったく動かなかった。

 二度も自分の剣を止められてしまったのを目にしたラピュスは戦い方を変えようと両手に力を入れたまま作戦を考える。だが、BL兵がそんな余裕を与えてくれる筈もない。BL兵は右腕の機械鎧の後前腕部の装甲を動かして内蔵の超振動短剣を出すとその短剣でラピュスに襲い掛かって来た。


「!」


 ラピュスは自分の顔に迫って来る刃に驚き、咄嗟に顔を横にずらした。短剣はラピュスの頬をかすめ、小さな切傷が浮き上がりそこから微量の出血をする。だが回避行動を取った事でラピュスはバランスを崩し仰向けに倒れてしまった。BL兵が倒れたラピュスに追い打ちを掛ける様に再び短剣で攻撃する。迫って来る短剣を見てラピュスは騎士剣を右手に持ち、勢いよく横に振ってBL兵の右腕を騎士剣で払った。刃と機械鎧の腕をぶつかった事で高い金属音が森に響く。ラピュスはBL兵の腕を払うと続けてBL兵の腹部を蹴り、勢いよく後ろに蹴り飛ばした。

 蹴り飛ばされて倒れそうになったが何とか持ち堪えたBL兵。その隙にラピュスは起き上がり、下から斜め切り上げを放つ。今度は態勢を崩していた為かわされる事も防がれる事もなくBL兵に攻撃を当てる事が出来た。切り上げを受けてタクティカルベストに大きな切傷が生まれてBL兵は後ろに倒れ仰向けになって動かなくなった。


「ハァハァ・・・か、勝ったのか・・・?」


 BL兵を倒したのか分からずに不安そうな顔を見せて立ち上がるラピュスは騎士剣を握りながら倒れているBL兵に近づく。傷口からは出血しており、ピクリとも動かない。ラピュスはしばらくBL兵をジッと見つめてようやく死んだと知りホッと一安心する。


「やるじゃねぇか?一人でブラッド・レクイエムの機械鎧兵士を倒しちまうなんて」


 聞こえてきたニーズヘッグの声にラピュスはふと声のした方を見ると、そこには狙撃手を倒してPSG1を手にしているニーズヘッグの姿があった。その隣ではジルニトラがラピュスを見て小さく笑っている姿がある。その表情を何処か嬉しそうに見えた。


「まさかこの世界にたった一人、しかも生身で機械鎧兵士を倒しちゃう人間がいるなんてねぇ」

「ああ、大したもんだよ」

「い、いや・・・今回はたまたま運が良かっただけで・・・」


 二人に褒められ、照れながら謙遜けんそんするラピュス。そんな彼女を二人は笑いながら近づいて行き、ニーズヘッグはラピュスの肩にポンと手を置いた。


「謙遜するな、まぐれでもお前が一人で機械鎧兵士を倒したのは事実なんだからな」

「そうよ。ただ、勝ったからと言って自分の力を過信するのはダメよ?」

「も、勿論そんな事はしない!どんな相手だろうと、油断せずにこれからも戦っていくつもりだ」

「それならいいわ」


 微笑みながら忠告するジルニトラにラピュスは真面目な顔で答える。ニーズヘッグは足元や高台の下で倒れているBL兵達の死体を見ながら周囲を見回し他に誰もいないかを確認し始めた。


「・・・どうやら、この辺りのブラッド・レクイエムは全部倒したみたいだな」

「本当か?」


 敵の気配を感じないと話すニーズヘッグを見てラピュスはまた不安そうな顔を見せて尋ねる。ニーズヘッグはラピュスとジルニトラの方を向いて頷いた。


「ああ、もしまだこの辺りに敵がいるなら直ぐに飛んで来るはずだ。だがあれだけ派手に戦闘をしたにもかかわらず一人も援軍が来ない。つまりこの辺りには敵がいない、もしいたとしてもそれは直ぐにはこれないくらい遠くにいるって事になる」

「成る程ねぇ」

「それじゃあ、他の敵は・・・」

「恐らく他のチーム、つまりヴリトラ達のところに向かっているか、まだこの森を探索しているかのどちらかだ。いずれにせよ、敵の戦力が分からない今は警戒を続けるしかないし、銃声や爆音を聞きつけてここにも敵が来る可能性が高い。さっさと移動した方がいいな」


 ニーズヘッグの言う通りとラピュスとジルニトラは頷いた。その後、ラピュス達は死んだBL兵達の装備品を調べ、使えそうな物を戦利品として回収してその場を移動する。そして引き続き敵部隊の捜索にあたるのだった。


――――――


 時間は遡り、ラピュス達がBL兵達と戦闘を開始した時と同時刻、予備拠点のある広場ではジャバウォックとラランが別のBL兵達の攻撃を受けて動けなくなっていた。二人は木の上から狙って来る狙撃手とMP7を持つ四人のBL兵の銃撃を岩や倒れた木を盾にして凌いでいる。


「クソォ、まったく銃撃を止める気配がねぇ!」

「・・・どうするの?」


 石片や木片が飛び散る中、ラランは離れた所で仰向けになっているジャバウォックのこの後どうするかを尋ねる。ジャバウォックは仰向けのままラランの方を向いて銃撃してくるBL兵達の方を親指で指しながら口を開いた。


「奴等だって弾が無限にある訳じゃない、奴等の弾が切れたら一気に反撃する!まぁ、そうなる前にヴリトラ達が来てくれれば俺達も楽なんだけどな」

「・・・その弾切れはどれくらい先?」

「・・・さあな」

「・・・いい加減」


 ジャバウォックの適当な答えにジト目で彼を見るララン。ジャバウォックは自分をジト目で見つめる幼い姫騎士にただ苦笑いを見せるしかなかった。二人がそんな会話をしている中、徐々にBL兵達は距離を詰めて行き少しずつ二人に近づいて来ている。MP7から吐き出される弾丸は二人の隠れている岩や木も穴だらけにしていきジャバウォックとラランに小さなプレッシャーを与えていく。二人は近づいて来るBL兵達の気配に汗を掻く。


「やっぱり弾切れは期待できないかぁ・・・」


 一向に弾薬が切れる気配の無いBL兵達の銃撃。ジャバウォックはヴリトラが間に合わなかった時の為にもう一つ作戦を考えていた。ジャバウォックの腰に収めてある一丁の小型短機関銃「IMI マイクロウージー」。この銃を使って応戦しようという事だが、たった一丁で弾薬も限られている状態では焼け石に水だった。ジャバウォックはマイクロウージーを見つめながら苦い顔を浮かべる。


「コイツじゃあ奴等を全員倒すのは無理だ、しかももくにはスナイパ―もいる。絶体絶命だな・・・」


 八方塞となりジャバウォックとラランは覚悟を決めた様に互いの顔を見つめる。だがその時、木の上から二人を狙っている狙撃手の背後から何かがもの凄い勢いで回転しながら狙撃手目掛けて飛んで来る。気配に気づいた狙撃手が振り返ると、もう既にその回転する物体は目の前まで来ており、狙撃手は回避行動に移る間もなくその物体に当たり狙撃手の体は胴体から真っ二つになった。狙撃手は木の上から地面に落下し、MP7を持つBL兵達は銃撃を止めて振り返り真っ二つになった仲間を見て驚く。

 突然止んだ銃撃にジャバウォックとラランは陰から顔を出してBL兵達の方を見る。


「何だ?銃撃が止んだぞ?」

「・・・弾切れ?」


 不思議に思うジャバウォックとララン。二人が話をしていると、BL兵達は宙を舞う回転する物体に向かってMP7を発砲する。だが弾丸は物体に当たっても弾き飛ばされるだけで落す事は出来なかった。すると物体がブーメランの様に飛んできた方向へ戻って行き、その先には木の枝の上に立っている人物おり、その物体をキャッチする。その人物は鋭い表情で離れた所にいるBL兵達を見つめているオロチだった。そして彼女の手に握られているのは愛用の戦斧、斬月。そう、狙撃手を攻撃したのはオロチだったのだ。その真下ではヴリトラとアリサがBL兵達に向かって走っていく姿があった。


「あれは、ヴリトラ達だ!」

「・・・間に合った?」

「ああ、そうみたいだ」


 救援が間に合った事に喜ぶジャバウォックと驚くララン。二人のBL兵はMP7をヴリトラ達に向かって発砲し、残りの二人はジャバウォックとラランに向かって引き金を引いた。ヴリトラは森羅で弾丸を切り落とし、オロチは枝から枝へと飛び移って回避する。アリサは木や大きめの石の陰に隠れながら慎重に進んで行く。ジャバウォックは銃撃が止んだ為、体勢を立て直してデュランダルを盾にして銃撃を防ぎ、ラランの方へ向かって行き、彼女の下へ近づくとラランはジャバウォックの背後につく。


「ララン、俺の背中におぼされ」

「・・・え?」

「激しく移動する、お前を背後につけてちゃ動きにくい。掴まってろ」

「・・・分かった」


 仕方がないと思ったのか渋々ジャバウォックにおぶさるララン。ラランが自分に掴まったのを確認したジャバウォックは地を蹴り勢いよくBL兵達に向かって走り出した。BL兵達も向かって来るジャバウォックの驚いて銃撃を続ける。ジャバウォックはデュランダルを盾にしたり、刃で切り落としたりなどして弾丸をかわしながらBL兵達に近づく。そして攻撃範囲に入るとデュランダルを勢いよく横に振りBL兵二人を斬り捨てた。ジャバウォックに斬られたBL兵達は狙撃手の様に腹部から真っ二つとなり俯せに倒れる。そして残りの二人もヴリトラに斬られて仰向けに倒れていた。


「よぉ、大丈夫か?」

「ああ、助かったぜ。ギリギリだったけどな」

「おいおい、助けてもらっといてそりゃねぇだろう?」


 笑いながら言うジャバウォックを見て困ったような顔を見せるヴリトラ。その後ろではオロチが無表情で、アリサが困り顔で見ていた。


「ハハハ、ワリィワリィ。感謝してるって」

「フゥ、まぁいっか」


 苦笑いをしながら首を傾げて納得するヴリトラ。ジャバウォックのおぼさっていたラランも降りてジャバウォックの隣まで歩いてくる。ラランに気付いたアリサが近づき安否を確認する。


「アリサ、大丈夫?」

「・・・平気」

「そう、よかった・・・」

「・・・そっちは?」

「こっちも大丈夫よ。と言っても、私は戦わなかったけどね」


 苦笑いと無表情で互いに話し合うアリサとララン。合流して仲間の無事を確認し合う四人を見てオロチが静かな声で話しかけてきた。


「無事を確認し合うのはいいが、早く他のチームと合流した方がいいのではないか・・・?」

「ん?・・・確かにそうだな。ある程度敵部隊を片付けた訳だし、そろそろ合流しても大丈夫だろう」

「ああ、早いとこリンドブルム達を探すか」

「なら急ぐぞ・・・?ついさっきも遠くで銃声が聞こえた、リンドブルム達も戦っている可能性が高い・・・」

「早く助けに行きましょう!」


 ヴリトラ達は他のチームの仲間達の身を心配し、急いで仲間達の方へ急ぎ走り出す。その時、ラランがヴリトラ達が回収し忘れたBL兵の装備の一部を持っていったのだった。

 ラピュスのチームはBL兵達を見事に倒し、ジャバウォックとラランもヴリトラ達のチームと合流する。次第に数を減らしていくブラッド・レクイエム社の機械鎧兵士部隊。だがこの時、敵幹部のエントが動き出そうとしている事にヴリトラ達は気付いていなかった。


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