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機械鎧(マシンメイル)は戦場を駆ける  作者: 黒沢 竜
第一章~異世界と邂逅~
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第五話  姫騎士 ラピュスとララン

 レヴァート王国の首都ティムタームにやって来た七竜将はバロンに案内されて彼の経営する酒場へ向かう。映画やアニメで見た様な町の風景に七竜将は驚きつつも町の中を歩いて行く。

 七竜将が町や町の人々を見回しながら歩いているのと同じようにティムタームの町の中で七竜将に気付き、彼等を見つめている人もいた。人々の視線を気にしながら七竜将はバロンとマリの後をついて行く。


「なんか、皆僕達の方を見ているよ?」

「まるで不審者になった気分だわ」


 周りから怪訝そうな顔で見られている事が気になって仕方がないリンドブルムとジルニトラ。ファフニールも同じような顔をして周りや後ろを振り返っている。そんな三人と違い、ヴリトラ、ジャバウォック、ニーズヘッグ、オロチの四人は気にしていないのか前を向いて歩いていた。


「ねぇ、ヴリトラ達は気にならないの?」

「仕方ねぇだろう?俺達はこの世界の人間じゃないんだから、周りの人達に雰囲気の違う存在と見られちまうのも当然だ」

「ああ、それに気にして周りをジロジロ見てると反って怪しまれるぜ?堂々としてろ」


 ヴリトラと同じ様に周りから変に見られている事を自覚してリンドブルムにしっかりするように伝えるジャバウォック。そんな二人を見てリンドブルムは若干納得のいかないような顔を見せる。ジルニトラとファフニールは仕方がないという顔をして納得した。

 しばらく歩いて行くとヴリトラ達は一軒の店の前にやって来た。屋根の上に大きく看板が立て掛けられ、そこにファムステミリアの文字が書かれてあった。だが、さっきの通行証の時の様に七竜将は文字が読めなく困り顔で看板を見上げている。


「ここが儂の経営している酒場、『マリアーナ』です」

「マリアーナ?」

「はい、儂の父が始めた店で、妻、つまり儂の母の名を店につけたみたいです。因みに孫のマリの名も店の名の頭のマリを取ったものです」


 店と孫の名前の由来を説明するバロン。彼の表情には笑みが浮かんでおり、どこか嬉しそうにも見えた。バロンはゆっくりと店の入口に近づいて行きドアを開く。


「さぁ、お入りください」


 バロンに招かれて七竜将は全員店の入った。その後にバロンとマリも後に続いて店に入る。

 店の中には沢山の円形のテーブルとそれを囲むように沢山の椅子が並べられている光景が目に入り、テーブルの幾つかには既に何組かの客が付いてテーブルに並べられている料理を食べていた。その客達は入店してきた七竜将を見て食事の手を止める。

 静まり返る店に七竜将は思わずピクリと反応する。すると奥から一人の若い女性が出てきた。手にはお盆が持たれ、その上には料理が乗っている。どうやら店で働く店員のようだ。入店してきた七竜将を見た女性は一瞬驚いていたが、すぐに店員としても自分に戻り七竜将に近づく。


「い、いらっしゃいませ。空いている席へどうぞ」

「そんなに驚かんでもええぞ?」


 七竜将の後ろから姿を見せるバロンとマリ。二人を見た女性は意外な人物の登場に驚いた。


「お義父さん、それにマリ?」

「ただいま、ママ」


 マリは女性の下に駆け寄り笑って女性に抱きついた。マリに抱きつかれてお盆が少し揺れて驚くも、バランスを取ってなんとか料理をこぼさずに済む。マリの言葉からこの女性がバロンの言っていた娘のようだ。


「バロンさん、この人が貴方の・・・」

「はい、儂の息子の嫁でキャサリンといいます。儂と共にこの店を経営しているんです」


 一緒に店を経営している。それを聞くヴリトラはよくある事だ、と言いたそうな顔で納得した。自分達の世界でも家族で店を経営している者達も多いからだ。そう考えているヴリトラの後ろでリンドブルムがヴリトラの隣にやって来てバロンを見上げる。


「あのぉ、失礼ですけど息子さんは・・・?」


 リンドブルムの質問を聞いたバロンは少し俯いた後にマリとキャサリンの方を向く。


「・・・息子は王国の騎士団で騎士をしていたのですが、数年前にならず者達との戦いで命を落としてしまいましてな。キャサリンが女手一つでマリを育てたのです」

「あっ・・・すみません・・・」


 悪い事を聞いていしまったと思い謝罪するリンドブルム。そんなリンドブルムを見てバロンは笑って首を横に振った。


「気にしないでください。アイツも国の為に、自分の家族の為に騎士として戦ったのです。ただ、妻と娘を残して逝ったのには息子も後悔しているかもしれませんな・・・」


 バロンはキャサリンの腰に抱きつき目を閉じている。子供だから自分の父親が死んだ事を上手く理解できていないのだろう。バロンの話を聞いても悲しそうな顔一つしなかった。一方でキャサリンは片手でお盆を持ったまま、空いている手でマリの頭を撫でる。その表情は何処か悲しそうに見えるが、娘の前で悲しそうな顔を見せる事はできず小さな笑みを浮かべていた。

 店に着いていきなり暗い話題に入ってしまった為、バロンは話題を変える為に七竜将を見て笑った。


「さぁ、暗い話はもうやめて、席についてください。助けてもらったお礼に美味い物をご馳走しますから」

「え?でも、報酬は既にもらいましたから・・・」


 盗賊から助けた時の報酬は既にもらった為、食事をご馳走すると言うバロンを見てジルニトラは遠慮する。それを聞いたバロンは笑ったまま首を振った。


「いえいえ、やはり命を助けてもらっておきながら、この国の情報を教えるというだけでは儂の気が済みません。どうか当店の食事を召し上がってください」


 命を助けてもらってヴリトラ達の知りたがっている事だけを教えるだけですませるという事だけではバロンが納得しないのだろう。例えヴリトラ達が遠慮しても礼をしっかりする、それがバロンの人としての意思なのだ。

 バロンの熱い意思を受け取った七竜将達はどうするかを考える様に互いの顔を見つめ合う。そして苦笑いをしてバロンの方を向いた。


「分かりました。そこまでおっしゃられては断れませんからね」

「ご馳走になります!」


 バロンの申し出を受けるヴリトラと楽しそうにはしゃぐリンドブルム。そんな七竜将の様子を見てバロンが笑って頷き、マリも笑顔を見せる。だがそんな中でキャサリンだけは話の内容が分からず首を傾げていた。


「あ、あのぉ、命を助けてもらったって、どういう事ですか?お義父さん」

「ん?ああ、その事は追って話そう。まずはこの人達を席に案内しておくれ。儂は料理を作る」

「ハ、ハイ。分かりました」


 腕捲りをして厨房の方へ歩いて行くバロン。キャサリンはバロンに言われたとおりに七竜将を開いている奥の席へと案内する。マリはキャサリンから離れてバロンの方へ走って行った。


「お爺ちゃん、私もお手伝いする!」

「おおぉ、そうか。スマンな」


 手伝いをしようとするマリを見てバロンは笑って頭を撫でながら厨房へと入っていった。席に案内された七竜将円形のテーブルに座り店を見回す。周りでは他の客が自分達を見ている姿があり、目があった客は慌てて目を反らした。そんな周りの雰囲気にオロチ以外の七竜将は苦笑いを見せる。

 それからしばらくして、料理が運ばれテーブルの上に並ぶ。見た事の無い沢山の料理に驚く七竜将。料理がテーブルを埋め尽くすくらい運ばれると、エプロンを付けたバロンとマリがやって来た。


「さぁ、どれもうちの店での人気の料理です。遠慮なく召し上がってください。おかわりも沢山ありますから」

「そうですか?では、遠慮なく・・・」

「「「いただきま~す!」」」


 バロンと話をしているニーズヘッグを余所にヴリトラ、リンドブルム、ファフニールは置かれている木製のフォークやスプーンを手に取り、料理を小皿に持ってがつき始めた。その様子を見たジャバウォックとジルニトラは目を丸くして三人を見ている。


「お、おい、お前等、ちゃんと礼を言ってから食べろよ。失礼だろう?」

「そうよ。ねぇ?オロチ・・・」


 ジルニトラが同意を求めるようにオロチの方を向くと、そこにはフォークを手に黙々と料理を食べているオロチの姿があった。


「・・・ん?何だ?」

「・・・・・・いいえ、何でもないわ」


 声を掛けてきたジルニトラに尋ねるオロチ。その姿を見たジルニトラは目を点にし、呆れながら首を落とす。すると、もうやけくそになったのか、ジルニトラもスプーンを手に取り目の前のスープを口にし始める。その様子を見たジャバウォックとニーズヘッグも、もうどうでもよくなったのか、ヴリトラ達と同じように料理に手を伸ばした。

 そんな七竜将の姿を見ていたキャサリンと周りの客達はポカーンとしており、バロンとマリは笑いながら七竜将の食事を見ていた。


「ホッホッホ、凄い勢いじゃ。皆さん、特に男性の方々は若い頃の儂によく似てますぞ」

「皆美味しそうに食べてくれてよかったね?お爺ちゃん」


 自分達の料理をがつきながらも美味しそうに食べてくれる七竜将を見てマリは笑ってバロンに抱きつく。バロンもマリの頭に手を優しく置きながら七竜将を見ていた。

 それからしばらく時間が経過し、先に来ていた客の殆どが店を出て、店内には七竜将と数名の客しかいなかった。七竜将のテーブルの上には何枚も皿が重なっており、既に七人はどれだけの量を食べたのか分からなくなっている。


「お、おい、一体どれだけの量を食べてるんだ?あの連中」

「もう三十分位は食べ続けてるわよ・・・」


 七竜将の様子を伺っていた男女がその食欲を見て驚く。他の客も同じ様子で見ていた。料理を出し続けるバロンは笑い続け、キャサリンは驚きながら料理をテーブルに運び続ける。そしてマリは食べ終えた空の皿を厨房へ運んでいく。


「お、お義父さん、そろそろいいんじゃないんですか?あまり料理を作り過ぎると食材が無くなってしまいますよ?」

「何を言っとる?あの人達は儂とマリの命の恩人じゃぞ?満足するまでどんどん出すつもりじゃ。料理は材料を買って作ればいいが、命はどんなに金を積まれても手に入れる事はできんのじゃ。これ位は当然じゃろう」

「・・・はぁ」


 言葉に情熱を込めるバロンを見てキャサリンは溜め息をついた。そんなキャサリンの足元にからの皿を持った来たマリが近づいてくる。キャサリンはマリから皿を受け取り、台の上に置いて座り込みマリの頭を撫でた。


「マリ、後はママとお爺ちゃんでやっておくから貴女はお買い物に言って来てくれる?」

「うん、分かった」


 キャサリンに頼みを笑顔で聞くマリ。キャサリンは台の上に置かれている金銭の入った革袋を大きめの布袋に入れてマリに渡した。

 布袋を受け取ったマリはそれを肩にかけて笑顔でキャサリンを見つめる。


「それじゃあ、いってきます」

「ええ、いってらっしゃい。気を付けるのよ」

「はーい」


 マリは笑顔で店の入口からおつかいに出掛けて行った。そんな愛娘の笑顔をキャサリンは手を振りながら見送る。そして七竜将の方を向くと苦笑いを見せて新しく作られた料理を七竜将のテーブルに運んでいく。

 

「どうぞ」

「あっ、ありがとうございます」


 食べ物を口に詰め込み、頬を膨らませてキャサリンを見上げるリンドブルム。口の周りにはソースやタレが付いており、近くに置かれている布巾でリンドブルムは自分の口を拭いた。

 新しく出されて料理を小皿に盛るヴリトラ。キャサリンが持って来た新しい料理は細かく切られた肉と細長い黄緑の野菜を炒めてタレを絡ませた料理だ。ヴリトラは大口でその料理を食べると、口の中にまるでレバニラ炒めに似た味が広がった。


「これは、レバニラに似ている味だなぁ。それに臭いがある・・・これは何という料理ですか?」

「それは『ヤムチャロ』という料理で臭いの強い野菜と羊の肉を炒めて作った料理です。うちの店でも人気のある料理なんですよ」

「ほぉ~そりゃ美味そうだ。俺にもくれよ」


 キャサリンの話とヴリトラの感想を聞いたジャバウォックが立ち上がってヤムチャロという料理を自分の小皿に盛った。周りにいるジルニトラ達もそれにつられる様にヤムチャロを皿によそう。

 七竜将が料理を堪能していると店の入口の扉が開き、数人の男が入って来た。男達は皆、銀色の鎧を着けて赤いマントを羽織り、腰には騎士剣を収めてある。中世の映画に登場するような騎士達の様な姿をしていた。

 突然店に入って来た騎士達に店の中は静かになり、厨房で料理を作っていたバロンやヴリトラ達に料理の説明をしていたキャサリンも騎士に気付いて驚く。


「・・・ん?どうしてんですか?・・・およ?」


 黙り込むキャサリンに気付いたリンドブルムが店に入って来た騎士達に気付く。ジャバウォック達もその事に気付いて一斉に入口の方を向く騎士達を見つめる。だが、ヴリトラだけは入口に背を向けた形で座っている為、チラッと見ただけですぐに料理に目を戻した。


「キャサリンさん、何ですか、あの人達?」


 リンドブルムが小声でキャサリンに訊ねるとキャサリンは姿勢を低くしてリンドブルムに小声で説明をする。


「あの人達はお城の騎士団の方々です。赤いマントを羽織っていますから、恐らく遊撃隊の人達でしょう」

「騎士団の遊撃隊の人達がどうして此処に?」

「さぁ・・・」


 騎士団の遊撃隊が来たら理由が分からないキャサリン。リンドブルムはチラッと遊撃隊の方を向いて騎士達の出方を見る。そんな中でニーズヘッグはジッと遊撃達の騎士達を見て彼等が酒場に来た理由を察していた。


(明らかに俺達が目当てだな・・・)


 心の中で騎士達が来た理由を考えるニーズヘッグ。

 騎士達は店の奥で食事をしている七竜将を見つめると店の中を歩いて七竜将に近づいて行く。店の中を歩く騎士達に客達やバロンとキャサリンに緊張が走った。食事を止めて近づいてくる騎士達を見つめるリンドブルム達。だがヴリトラは黙って食事を続けている。騎士達は七竜将の前で立ち止まり、座っている彼等を見下ろす。


「警備の兵士達が言っていた連中はお前達の事だな?」

「・・・何の事だが知らねぇな」


 質問をしてきた男性騎士にジャバウォックが低い声で答える。質問した男性騎士はジャバウォックの方を向く。


「とぼけても無駄だ。お前達が見慣れない服装で変わった武器を持ち、鉄の馬に乗ってやって来たという事を兵士達から聞いている。我々はそれを確かめる為にやって来たのだ」


 七竜将を見た橋の警備兵士達から話を聞いた騎士達は七竜将がどんな者達なのかを調べるためにマリアーナにやって来た。それを聞いたバロンは厨房から飛び出して男性騎士の下へ早歩きをする。


「あの、こちらの方々は私がクレイジーファングの盗賊に襲われているのを助けて下さったのです。騎士団の方々がどのように彼等を思っているか存じませんが、これだけは信じて頂きたいのです。彼等は決して悪い人達ではありません」

「クレイジーファングの連中に襲われていた、か・・・お前が彼等に助けられた事は分かった。だが、何者か分からない以上、町を守る騎士団としては彼等の事を調べる必要があるのだ。口出しはするな」


 バロンの説得を聞いても騎士としての務めは果たさなくてはならない。その騎士の意思を聞いてバロンは何も言い返せず黙り込んだ。どうであれ、バロンは一市民でしかない。王国を守る騎士団を止める程の力は彼には無いのだ。バロンは説得できなかった自分を悔やみ一歩下がる。

 そんなバロンの様子を見てリンドブルム達はゆっくりと騎士の方へ視線を向けて騎士達を見つめる。


「お前達には色々聞きたい事があるのだ。とりあえず、詰所まで同行してもらう」


 騎士団の詰所、それは元の世界で言うところの交番のような所だった。怪しい者を見つけて野放しにしておく事など騎士団にできる訳がない。まずは詰所まで連れて行き、話を聞くのが常識だ。

 七竜将も無駄な争いは好まない為、此処は大人しく騎士団に従うのが得策と考えている。だが、一人だけ動こうとしない者がいた。ヴリトラは騎士に背を向けたまま、未だに料理を食べ続けている。そんなヴリトラを見てリンドブルム達はめんどくさそうな顔をしている。


「ちょっと待ってください。俺達は今、バロンさんの料理をご馳走になっているんです。せめて今出ている料理を全部食べ終わるまで待ってください」

「な、何?」


 状況を理解していないような態度で料理を食べ続けるヴリトラに騎士は驚き眉を動かす。

 驚く騎士を見てジルニトラは立ち上がり、めんどくさそうな声で騎士に言った。


「悪いんだけど、もう少し待ってくれる?彼、食事を邪魔されるのが嫌いでね。食べ終わるまでは殆ど動かないのよ」

「な、何だと?何を勝手な事を・・・」

「何をしている?」


 店の外から聞こえてきた女の声にヴリトラ以外の七竜将と騎士達は一斉に入口の方を見た。そして外から三人の女騎士が入ってくる姿を見る。しかも三人ともまだ若い少女だ。いや、一人はまだリンドブルムと歳の近い少女だった。

 三人の内、一人は銀髪のポニーテールで黒い鎧を着てミニスカートを履いている。まだ若く、歳は十代後半もしくは二十歳位、何処かクールな表情をしており腰には騎士剣が納めらえれていた。二人目はリンドブルムと同じ位の歳と身長の女の子で紫のおかっぱ頭、青銅に近い色の鎧を纏って半ズボンを履いている。その手には自分の身長よりも長い突撃槍ランスが握られていた。三人目は黄緑の長髪に銀色の鎧を纏った二十代半ば程の女性騎士だ。腰には銀髪の女性騎士と同じように騎士剣が納められてある。そして三人は赤いマントを纏い、額に銀色のサークレットがつけられていた。


「ラピュス隊長」

「見つけたのか?例の怪しい連中は?」

「ハ、ハイ。此処に・・・」


 ラピュスと呼ばれる銀髪の女騎士は入口の前で腕を組みヴリトラ達を見つめる。その両脇に残りの二人が並び、同じ様にヴリトラ達を見つめていた。


「あの人達が鉄の馬に乗って来た人達ですか?」

「・・・変な格好」


 黄緑の髪の女騎士とおかっぱ頭の少女騎士は見慣れないヴリトラ達の姿を見て各々感想を述べる。

 突然現れた女騎士達を見てジルニトラはキャサリンを見て困り顔を見せる。


「今度は女の騎士が出て来たけど、あの子達誰?」

「第三遊撃隊の隊長を務めてらっしゃる『ラピュス・フォーネ』殿。その両脇にいらっしゃるのがその補佐を務めるいらっしゃる女性騎士の方々です。左の黄緑の髪の人が『アリサ・レミンス』殿、右の女の子が『ララン・アーナリア』殿です。皆さんはこの国で数少ない『姫騎士』の方々です」

「姫騎士?」


 キャサリンの口から出た姫騎士という言葉にジルニトラは小首を傾げた。キャサリンは姫騎士を知らないジルニトラ達に説明を始める。


「姫騎士とは優秀な女性騎士に与えらえれる称号で、姫騎士となった女性は無条件で貴族の称号、つまり爵位を手に入れられるのです。例えそれが平民出身の女性騎士であろうと。あの御三方も平民騎士から姫騎士になって爵位を手に入れられた方々なんです」

「へぇ~~」


 庶民から貴族になった聞かされて驚くジルニトラ。その隣でファフニールも意外そうな顔でラピュス達を見ていた。

 見慣れない姿をしている七竜将を見てラピュスは興味のある様な、そして怪しむ様な視線で見つめている。見た事の無い武器と服装、そして兵士から聞いた鉄の馬、この世界の人間なら興味を引かれるのも当然だ。


「私達はレヴァート王国騎士団、第三遊撃隊の者だ。お前達が見た事の無い格好をして変わった武器を持ち込んでいると聞いて来たのだ」

「持ち込んだって言うのは引っかかる言い方だな?アンタ達が腰の剣を常に持ち歩いている様に、俺達も自分の武器を持ち歩いているだけだ」


 ラピュスの言葉にジャバウォックが言い返す。周りにリンドブルム達もラピュス達をジッと見つめている。店の中の空気が次第に悪くなってきたと感じたバロンとキャサリンは下がり、客も全員店から去っていく。


「とにかく、お前達には色々聞きたい事がるのだ。詰所まで来たもらうぞ」

「・・・だ、か、ら!飯を食い終わるまで待ってくれって言ってるだろう?」

「食事など後で食べればいいだろう!」


 ラピュスの言葉に反論するヴリトラ。そんなヴリトラを見てラピュスを鋭い目でヴリトラの背中を見つめ、彼の近くに立っている騎士に指示を出した。


「おい、その男を立たせろ」

「ハイ」


 ラピュスの指示を受けて騎士がテーブルに置かれているヴリトラの左手首を掴み立たせようとする。だが、ヴリトラの左手はピクリとも動かず、ヴリトラを立たせることは愚か、左手がテーブルから離れる事も無かった。


「・・・ん?ぐうっ、ぬうぅ!」

「おい、どうした?」


 ラピュスはヴリトラの手首を掴んでいる騎士の行動を変に思い尋ねる。


「そ、それが、コイツ、思った以上に力が強くて、左手が全く動かないんです」

「何だと?」


 ヴリトラの腕が動かない事を聞いて騎士に訊き返すラピュス。ヴリトラの左腕は丸々一本が機械鎧なのだ、機械鎧の人工筋肉は強力で通常の機械鎧の腕なら重さ200㎏以上の物を簡単に持ち上げられるほどの怪力を出す事ができる。そんな怪力を出せる機械鎧の腕を普通の人間が動かせるはずがない。

 いつまで立ってもヴリトラを立ち上がらせる事ができない騎士にラピュスは少し苛立ちを見せる。


「何をしている!お前達、手伝ってやれ」

「ハ、ハイ!」


 ラピュスに言われて別の騎士がヴリトラの右腕を掴もうとする。だがその瞬間、ヴリトラは咄嗟に立ち上がり、回転しながら右腕で自分の後ろにいる二人の騎士を払い飛ばした。だが、その時ヴリトラは左手にヤムチャロを乗せた小皿を持っており、回転した時の勢いで小皿の上のヤムチャロが宙を舞った。


「あっ!俺の!」


 宙を舞うヤムチャロを見てジャンプするヴリトラ。そしてそのまま宙を舞うヤムチャロを大きな口で一口にする。ヤムチャロを食べて笑うヴリトラであったが、ジャンプした先にはラピュスが驚いて自分を見上げる姿があった。


「・・・ムゥ!?ほいてほいて(退いて退いて)!!」

「なっ・・・」


 自分に向かって跳んで来るヴリトラに目を丸くして驚くラピュス。ヴリトラはラピュスの方へ向かっていき、二人がぶつかると思われた瞬間、二人の顔が数cm前でぶつかる事無く止まった。ヴリトラの片足がギリギリで床につき、ぶつかる直前にヴリトラがバランスを取って止まったのだ。今のヴリトラは両手を横に広げ、片足をだけで立っている組体操の飛行機の態勢をしていた。


「・・・ふぅ、危なかったぜ」

「な、な、なな・・・」


 突然自分の目の前で止まったヴリトラの顔に戸惑うラピュス。そんな光景はリンドブルム達七竜将、バロンとキャサリン、ララン達騎士達が黙って見ている。

 そんな中でオロチがヴリトラの後ろ姿を見ながらパンをかじっていた。


「・・・・・・」


 黙ってヴリトラの後ろ姿を見るオロチ。するとオロチはテーブルの上に置かれてあるスプーンを手に取り、それをヴリトラの方へ向かって投げるとスプーンは真っ直ぐヴリトラの後頭部に直撃した。


「あだっ!」


 後頭部から伝わる痛みに声を上げるヴリトラ。だが、その瞬間にヴリトラはバランスを崩してふらつく。そして体制を支えられなくなったヴリトラはそのまま前に倒れる。

 そして、ヴリトラの唇とラピュスの唇が重なった。


「!」

「!!?」


 倒れた拍子にキスをしていしまい驚くヴリトラと固まるラピュス。この時、ラピュスの頭の中で何かがひび割れるような音が響いた。

 周りではオロチ以外の七竜将、バロンとキャサリン、騎士達が一斉に「あっ」という表情を見せた。しばらく沈黙が続き、まるで時が止まったような空気が漂う。そして固まっていたラピュスの目元には次第に涙が溜まっていき、ラピュスの右手がヴリトラの頬を引っぱたいた。


「だあっ!・・・・・・いってぇな、叩く事ないだろう!?」


 強烈なビンタをくらい後ろの飛ばされて尻餅をつくヴリトラ。叩かれた頬を擦ってラピュスを見上げる。最初は叩かれて怒っていたヴリトラだったが、ラピュスを見た途端に目を丸くしてラピュスを見上げる。

 ラピュスの体を青白いオーラの様な物が纏っており、ラピュスからとてつもない怒りを感じられた。


「・・・何が痛いよ?何が叩く事はないよ?・・・この世に生まれて二十年、ず~~~っと守ってきた大事なファーストキスを・・・何で、何で、アンタなんかとぉ!!」


 俯きながら震える声でブツブツと独り言を言っているラピュス。自分のファーストキスに対する思いを口にしながら顔を上げ、涙目でヴリトラを睨む付けるラピュスは腰の騎士剣を抜いた。


「アンタなんかとぉ!!」

「や、やめろ!おい、コラァ!」


 事故とはいえ、自分のファーストキスを奪ったヴリトラに向かって騎士剣を振り回すラピュス。そしてラピュスの剣をかわし続けるヴリトラ。今のラピュスにはさっきまで部下の騎士に指示を出していた凛々しい姿は無く、ただキスを奪った男に怒りをぶつける乙女のしての姿になっていた。

 そんな二人のやり取りを見て、ファフニールとリンドブルムは少し慌てる様子を見せていた。


「ど、どうしよう・・・」

「何か大変な事になっちゃった・・・」

「て言うか、あの女さっきまで男っぽい口調だったのに、急に女口調になったな」

「今はそれどころじゃないだろう?」


 驚くファフニールとリンドブルムに比べて、冷静にラピュスの口調を指摘するジャバウォックとそんな彼にツッコミを入れるニーズヘッグ。その様子を溜め息をついて見ているジルニトラと興味の無い目でパンをかじり続けるオロチ。


「それも!ヤムチャロ味なんかでぇ、しなくちゃなんないのよぉーーっ!!」


 ラピュスが騎士剣を両手で持ち、体を勢いよく左に回してその遠心力で剣を勢いよく回しながらヴリトラに横切りを放つ。それに気づいたヴリトラは左から迫って来る斬撃を左腕で止めた。剣と左腕がぶつかり高い金属音が店の中に響く。

 それでもヴリトラは遠心力のかかった斬撃の衝撃までは止められず、回避行動をとっていた為、態勢が悪く、そのまま後ろの飛ばされてしまう。


「どわぁ~~~っ!」


 飛ばされるのと同時に情けない叫び声を上げるヴリトラは仰向けに床に倒れる。すぐに体を起こして頭を擦り、そんなヴリトラの下にリンドブルムが掛けよる。


「大丈夫、ヴリトラ?」

「あ、ああ・・・。でもいくらなんでもあそこまで怒る事ないだろう・・・」

「何言ってんのよ?女の子にとって、ファーストキスは命の次に大事といっても過言じゃないわよ?・・・ホラ」


 ラピュスの怒る理由を口にして指を指すジルニトラ。ヴリトラにリンドブルムが指を指す方向を見ると、そこには剣を床に落として座り込んで泣いているラピュスの姿があり、そんなラピュスをラランとアリサは慰めていた。


「あぁ~~っ!最悪よ!悪夢よぉ!初めてのキスがヤムチャロ味だなんて、これ以上の地獄は無いわ~~っ!」

「た、隊長、泣かないでください」

「・・・隊長って、感情的になると女の子の口調になるから」


 泣きながら悔しさと悲しさを訴えるラピュスの頭を擦るラランとアリサ。そんなラピュスをヴリトラとリンドブルムは気の毒そうに見ていた。だが、事故を引き起こした張本人のオロチは気にする事なくパンを食べ続けている。そんなオロチを見てジャバウォック達は呆れるような顔をしていた。

 そんな時、店の外から男が一人飛び込んで来た。とても慌てた様子で大量の汗を掻いている。


「た、た、大変だ!バロンの爺さん!」

「・・・ん?お、おお、どうしたんじゃ?そんなに慌てて」


 さっきまでヴリトラとラピュスの小競り合いを見てボーっとしていたバロンは声を変えてきた男に気付いて我に返る。やって来た男にヴリトラ達七竜将や泣いていたラピュスも涙を拭い座ったまま男の方を向く。ララン達騎士達も男を見ていた。

 男はかなり呼吸を乱しており、バロンを見たまま叫ぶような声を出す。


「さ、さっき、そこでマリちゃんが買い物をしてたんだけど、マントで顔を隠していた男が突然マリちゃんを馬車に乗せて連れ去っちまったんだぁ!」

「な、何じゃと!?」

「「「「「「「!?」」」」」」」


 マリが連れ去らわれた、それを聞いたバロンは大声を出し、キャサリンは口を押える。そして七竜将も一斉に表情を変えて男の方を向いた。勿論ラピュス達騎士も子供がさらわれたと聞き表情を急変させる。

 さっきまで賑やかだった酒場は一変して緊張に包まれる。マリをさらったマントの男とは一体誰なのだろうか?


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