第五十六話 森林の強襲兵!
ドレッドキャットとの戦いの中で自分が戦わない理由を口にするファフニール。戦いが一時停戦し、ガズンと話をしようとした時に突然小型通信機に入ってきたオロチの緊急通信。その通信の内容はリンドブルム達の前にブラッド・レクイエム社の機械鎧兵士が現れたという内容だった。それを聞かされたヴリトラ達はリンドブルム達の救援に向かうのだった。
予備拠点を出て森の中を全力で入る七竜将。ヴリトラを先頭にラピュス、ジャバウォック、ファフニール、アリサの五人が茂みを掻き分け、倒れている木々を乗り越えるなどして走りながら先を急いでいる。
「ヴリトラ、こっちの道で合ってるのか?」
ラピュスが走りながら自分の前を走るヴリトラに尋ねる。ヴリトラは前を向いて走ったままその質問に答えた。
「大丈夫だ。あの分かれ道までの道はちゃんと覚えてる、あそこまで戻ったらリンドブルム達の向かった方の道へ進めばいい!」
速度を落とさずに前を向いたまま走り続けるヴリトラ。そんなヴリトラの斜め後ろをジャバウォックとファフニールが続いて走っていた。三人は流石は機械鎧兵士と言うべきか、表情を変えず、息を切らさずに走っている。だがラピュスとアリサは姫騎士とは言え普通の人間、機械鎧兵士の速度について行くので精一杯らしく額から汗が垂れているのが見える。
「おいっ!ちょっと待てよ!」
走っているヴリトラ達の背後から聞こえてきた男の声。一同が振り替えるとそこにはドレッドキャットにまたがり自分達の後を追って来るガズンの姿があった。ガズンはドレッドキャットの速度を上げてヴリトラ達の真横まで追いつくとヴリトラの方を向いて口を開く。
「お前達、戦いをほったらかして何処へ行くつもりだ!まさか、今更怖気づいて逃げ出す気か?」
「違う!さっきも言っただろう?俺達が仲間を助けに行くんだよ、逃げる訳じゃねぇ!」
「助けるぅ?」
疑うようね視線を向けてヴリトラの顔を見るガズン。そこへジャバウォックが二人の会話に割り込む様に参加してガズンに言い放って来た。
「アンタ、さっきファフニールから聞いた事、覚えてねぇのか?」
「ああぁ?さっきのブラッド・レクイエムとか言う連中のマシンメイル、ソルジャーがこの森にいるって話かぁ?」
「そうだよ!そしてその機械鎧兵士達が俺達の仲間を攻撃し、アンタのドレッドキャットも襲ったって話だ!」
ジャバウォックが力の入った声でファフニールがガズンに説明した事を振り返るように話す。実は今から数分前にオロチから通信があった後、ファフニールはガズンに通信の内容を説明していたのだ。だがガズンはいまいち信用できず、話がまとまらなかった為ヴリトラ達は話を終えないまま予備拠点を出て今に至るという訳だ。
「俺のドレッドキャット達がそんな訳の分からない連中にやられる筈がねぇだろう!テキトーな事を言うんじゃねぇよ!」
「信じる信じないはアンタの勝手だ。だが、機械鎧兵士を甘く見ると痛い目を見るぞ?」
信じないガズンにジャバウォックが少し挑発したような言い方をして二人は走りながら睨み合っている。
「んもぉーーーっ!二人とも、ケンカしてる場合じゃないでしょう!?」
ファフニールが大声を出して二人を止めに入る。突然声を上げてきたファフニールにジャバウォックとガズンは走ったまま視線だけをファフニールの方に向けた。ファフニールはギガントパレードを肩に担ぎながら木や大きな岩の上を跳んで移動しながら前に進んでいる。
「今こうしている時もリンドブルムやおじさんのドレッドキャットが襲われてるかもしれないんだよ!?今は戦ったり言い争いをするよりも、一時休戦してブラッド・レクイエムの人達を倒す事が先決でしょう!」
幼い顔で大の大人二人を叱りつけるファフニール。目の前で自分達を睨む少女を見てジャバウォックとガズンは目を丸くし、ポカーンとファフニールの方を見ていた。
(・・・うわあぁ、何て見っともない姿)
三人の後ろではラピュスの隣を走っているアリサが心の中でジャバウォックとガズンの大人気なさに呆れていた。隣で走っているラピュスもジト目で二人の大男の背中を見つめる。
ジャバウォックとガズンがファフニールに怒鳴られていると、前を走っていたヴリトラが走りながら後ろを見て会話に加わって来た。
「お前達、そこまでにしておけ。まずは避難小屋の所まで急ぐのが大事だろう?・・・それとガズン、お前が俺達の事を信じられないのなら、俺達について来い。そしてその目でブラッド・レクイエムの連中を見ておけ、今後の事で何かと役に立つかもしれないぞ?」
「・・・・・・」
ヴリトラの方を向き黙って彼の顔を見るガズン。彼自身もヴリトラ達の事を信じていないが、自分のドレッドキャット達の事が心配なのも確かだ。しばらく考え、ヴリトラの方を見ながらガズンは自分の長い髭を片手で整える。
「・・・いいだろう。そこのお嬢ちゃんの言うとおり、一時休戦だ。だがもしお前等の言った事がデタラメだったら容赦なくガルバ達を襲わせるからな?」
「ご自由に」
小さく笑いながら言うヴリトラ。話がまとまりヴリトラ達がリンドブルム達のいる避難小屋の場所へ急ぎ向かうのだった。
――――――
ヴリトラ達が走っている頃、避難小屋のある空間はとんでもない事になっていた。ストラスタ兵達が使っていた避難小屋はまるで爆弾か何かで吹き飛ばされたかのように粉々になって煙を上げており、その周りではストラスタ兵達の遺体が転がっている。そして周囲も地面の所々に穴が開いたり草が焼け焦げるなど、さっきまで激しい戦闘が遭った事を物語っている。
「・・・ふぅ。敵の姿は見えないね」
壊れた避難小屋の近くに倒れている大木の陰に隠れる様に座り込んで周りの様子を伺っているリンドブルム。その近くではララン、ニーズヘッグ、ジルニトラ、オロチの四人がリンドブルムと同じ体勢で周囲を警戒していた。
「一体何処に隠れてやがるんだ・・・」
「完全に周囲の風景に溶け込んでるわね」
アスカロンとサクリファイスを握りながら周囲を見回して敵の姿を探すニーズヘッグとジルニトラ。意識を集中させて敵を探しているが中々見つけられない。
「・・・突然不意を突かれた」
大木にもたれながら突撃槍を握って疲れた様な表情で呟くララン。その隣には斬月を地面に置き、目を閉じながら耳を澄ませるオロチの姿があった。
「アイツ等は私達がドレッドキャットと戦っている最中に突然現れて攻撃してきた。しかも投降して戦意を失ったストラスタ兵まで巻き込んでな・・・」
「・・・あと、私達が戦っていたドレッドキャットも・・・」
ブラッド・レクイエム社の機械鎧兵士がどう現れて攻撃して来たのかを思い出しているオロチの隣で話をしているララン。そんな時、耳を澄ませていたオロチが目を開き、周りのリンドブルム達を見て声を上げる。
「上だ、バラけろ!」
普段静かで冷静なオロチが声を上げた事に驚くリンドブルム達。一同が上を向くと、空から何がか自分達に向かって落ちて来るのが見えた。ニーズヘッグとジルニトラは大木を跳び越えてその場から走って離れ、オロチは隣に座っているラランを抱き上げてその場を離れる。そしてリンドブルムも勢いよく跳んでその場から移動した。その直後、リンドブルム達が隠れていた大木の上に何かが落ち、それは大木を巻き込み大爆発を起こす。その爆発で大木は粉々に吹き飛んでしまった。
突然の爆発によって発生した爆風に飛ばされないようにその場で踏ん張るリンドブルム達。爆風が収まり、リンドブルムが爆発の起きた方を見ると、突然十時の方向からキラッと何かが光った事に気付きそっちに視線を向けると、突然自分の顔に向かって小さなナイフが三本飛んで来る。驚いたリンドブルムは握っていたライトソドムとダークゴモラを発砲し、飛んで来た投げナイフを全て撃ち落とした。その直ぐ後に周り木々の枝が揺れ出して葉が落ちて行く。リンドブルム達は周囲を見回しながら互いに背を向けて背後を守り合う様に迎撃態勢に入った。
「クソッ!アイツ等、木の枝から枝へ跳び移ってやがる!」
「完全に森での戦いに慣れてる連中だよ!」
ニーズヘッグとリンドブルムは自分達の武器を構えて自分達を取り囲む様に木から木へと飛び移る敵に翻弄されている。七竜将は森での戦いには慣れておらず、森の中で縦横無尽に動き回り敵に完全に後れを取っていた。それに引き替え敵は森での戦闘に慣れている連中、地の利を得ている以上戦力に差があっても七竜将をかく乱させることは簡単だ。
また何時攻撃して来るかも分からない敵にリンドブルム達はただ身を守る事しか出来ない状態だった。
「このままじゃ埒が明かないわ!思い切って周りの木の枝を全部銃で撃ちまくってみましょう!」
「敵が何処にいるかも分からない以上、無暗に銃を乱射する訳にもいかない。それじゃあ弾の無駄だ」
「でもこのままじゃいつかはやられるわ。何か行動を起こさないと!」
ジルニトラとニーズヘッグは警戒しながら敵への攻撃方法の話をしていると、また木の上からリンドブルム達に向かって投げナイフが飛んで来た。それに気づいたオロチが斬月を操って投げナイフを弾き落とす。
「ニーズヘッグの言うとおり、銃を乱射するのは得策じゃない・・・」
「じゃあ、アンタならどうするの?」
ニーズヘッグの考えに同意するオロチの方を向いて彼女に尋ねるジルニトラ。オロチは斬月の太く長い柄を両手で持ち、斬月を構えて視線の先にある木の枝を見つめて目を鋭くする。
「銃がダメならそれ以外の武器で攻撃すればいいだけの事だ・・・」
オロチの事がを聞いたニーズヘッグはハッと何かに気付いて自分の手の中にあるアスカロンを見た。アスカロンは超振動蛇腹剣、刀身を鞭の様にして周囲の枝をまとめて攻撃すれば銃器の弾を無駄する事もなく、上手くすればそこに隠れている敵を倒すことも出来る筈だ。
「確かにな。それじゃあ隙を突いて一気に攻撃するか。リンドブルム。ジルニトラ、俺とオロチの援護を・・・」
「援護をしてくれ」ニーズヘッグが言いかけた時、周りの木の枝から何かが飛び出して来た。それは黒い四つの人影で、その人影はリンドブルム達を囲む様に降り立った。その影はゴルバンの町で見た両腕両脚が機械鎧になっており、黒いタクティカルベストを身につけ、顔を濃緑色の金属性フルフェイスマスクで隠したブラッド・レクイエム社の機械鎧兵士達だった。その手にはMP7が握られ、腰には超振動マチェットが納められていた。
着地したBL兵達は持っているMP7を構えて四方向からリンドブルム達を囲み狙いをつける。自分達を囲んでいるBL兵達を見ながら構えるリンドブルム達。完全に動きを封じられてしまった。
「囲まれた・・・」
「緑のマスクを被ってるって事はコイツ等、森林隠密の部隊の連中だな」
「・・・何それ?」
周囲を取り囲むBL兵達を鋭い目で見つめるオロチとニーズヘッグにラランは突撃槍を構えながら尋ねる。
「森林隠密部隊は森や樹海みたいなこの多い場所で活動するブラッド・レクイエムの特殊作戦チームの一つだよ。他にも市街戦や海上とか色々な場所で任務を遂行する色んな部隊があるんだ」
「・・・森の部隊」
ラランの隣で愛銃を構えていたリンドブルムがBL兵を見つめながら質問に答える。四人のBL兵がジリジリとリンドブルム達との距離を縮めて行き、五人も迫って来る敵を見て更に警戒心を強くする。だが、実際五人の囲まれており、少しでもおかしな行動を取れば蜂の巣にされてしまう。文字通り万事休すの状態だ。
リンドブルム達が覚悟を決めた、その時、突然森に銃声が響き渡りリンドブルムの前でMP7を構えていたBL兵が銃撃を受けてその場に倒れた。驚いたリンドブルム達が銃声のした方を一斉に向くと、森の奥からオートマグを構えたヴリトラが飛び出す様に現れたのだ。それに続いてラピュス達も自分達の武器を握って飛び出してくる。
「ヴリトラ!」
「・・・隊長!」
仲間達の姿を見てリンドブルムとラランが二人の名を叫ぶ。BL兵達もヴリトラ達の登場に驚いて一斉に跳び上がり木の枝の中に逃げ込む。合流したヴリトラ達がリンドブルム達の前に駆け寄ってリンドブルム達の安否を確認する。
「悪い、遅くなった」
「皆、大丈夫か?」
遅れた事を謝るヴリトラの隣でラピュスが仲間達の心配をすると、ジルニトラが二人の方を見てニッと笑う。
「大丈夫よ。ちょっと危なかったけど、皆怪我もないわ」
「私達は、な・・・」
ジルニトラの後ろでオロチが静かな声で言う。それを聞いたヴリトラ達はふとオロチの方を向き、オロチも避難小屋の近くで息絶えているストラスタ兵達の亡骸を見つめる。それを見たヴリトラ達もブラッド・レクイエム社の残酷さを知り周囲の警戒を始めた。全員が集まり円陣を組み直す一同、するとそこに送れてやって来たガズンとガルバ、ミルバの二匹のドレッドキャットも茂みから飛び出しヴリトラ達の前に姿を見せる。
「うわああっ!ド、ドレッドキャットォ!?」
「どうして此処に!?」
「・・・ちょっと事情があって今は休戦中だ。安心しろ」
驚くリンドブルムとニーズヘッグ。そんな二人にジャバウォックがフォローを入れる様に進言する。だが、安心しろと言われて納得できるはずがない。リンドブルムのチームメンバーは疑う様な視線でガズンを見つめる。
ガズンはそんな視線を気にする事無くガルバの背中から降りて周囲を見回し始める。
「あんだよ、敵の姿なんて何処にもねぇじゃねぇか?」
「・・・木の枝の中に隠れてる」
「ああぁ?木の枝?」
ラランの方を向いて小首を傾げながら聞き返すガズン。その直後に木の枝が揺れて葉が落ち、BL兵が木の枝から別の木の枝に跳び移るのが見え、ガズンは驚き短剣を構える。
「い、今何かが跳んだぞ?」
「あれがBL兵か?」
驚くガズンの近くで森羅を構えながら周囲を警戒しているヴリトラを見てリンドブルムが頷いた。
「うん、森林隠密部隊の連中だよ」
「成る程、奴等ならお前達でも苦戦して当然だな?俺達七竜将は森での戦闘経験が少ないから・・・」
自分の経験の無さを自覚して困り顔を見せるヴリトラ。そんなヴリトラにラピュスは驚き思わず彼の方を向く。
「お、おい、森での戦闘経験が無いのに、どうやってコイツ等と戦う?大体、それならどうして今回の依頼を受けたんだ?」
「仕方ねぇじゃん。森に拠点を置いてるなんて知らなかったんだもん。それに引き受けちゃった後に断るなんて出来ないし・・・」
「何て計画性の無い奴なんだ・・・」
久しぶりに見たヴリトラのチャランポランな一面を見てラピュスは溜め息をつく。するとそこにニーズヘッグが二人に力の入った声で語りかける。
「おい、今はそんな事を話してる時じゃないだろう!?」
「そうだよ、まずはブラッド・レクイエムの人達をやっつけないと!」
ニーズヘッグに続いてファフニールも同じような声で二人に注意する。注意された二人は「確かにそうだ」と言いたそうな顔でお互いを見る。周囲の木の枝が揺れてBL兵達がヴリトラ達をかく乱させていき、ヴリトラ達も意識を更に強くしていく。木の枝の中から一人のBL兵がMP7でヴリトラを狙い、引き金を引いて銃撃した。銃口から吐き出された弾丸は真っ直ぐヴリトラに迫っていき彼の体を貫こうとする。だがヴリトラは森羅を操り飛んで来た弾丸を全て弾き落した。高い金属音と共に弾丸は地面に落ち、弾丸を全て防がれた事に隠れていたBL兵も驚く。そして銃撃によって隠れている場所が分かるとリンドブルムがライトソドムでそこを銃撃。弾丸は隠れているBL兵に見事に命中し、撃たれたBL兵は木から落ちて地面に叩きつけられた。
「まず一人!」
「残りは二人だ!」
また一人倒して士気が高まるリンドブルムとヴリトラ。ラピュス達の表情にも少しずつ余裕が戻ってくる。ガズンは木から落ちたBL兵を見て目を丸くしながら驚く。今まで見た事のない姿をした兵士に彼はただひたすらまばたきをしていた。
「な、何なんだコイツ等?腕と足が鉄になってやがる・・・。こりゃあ、義肢なのか?」
驚いて戦況を忘れているガズン。そこへ木の枝からマチェットを握ったBL兵が飛び出して隙だらけのガズンに向かって行く。気配に気づいてハッとするガズンは向かって来るBL兵の方を見るが、既に回避も防御も出来ない距離まで接近を許してしまい、表情を歪めて覚悟を決めた。だが向かって来るBL兵が真横からファフニールのギガントパレードの攻撃を受けて殴り飛ばされ大きな木に叩きつけられた。巨大なハンマーの殴打されたBL兵は左半身がボロボロになり地面に俯せに倒れて動かなくなった。
敵である自分を助けたファフニールに驚くガズンは目の前でギガントパレードを振り、動かなくなったBL兵を真面目な顔で見ているファフニールの顔を見て再びまばたきをする。
「お、お嬢ちゃん、お前・・・」
「・・・よそ見はダメですよ?」
「・・・お、おう!」
注意するファフニールに思わず返事をしていますガズン。いつもと雰囲気の違うファフニールに他のメンバーは彼女の方を向いて意外そうな顔を見せていた。
「どうしたんだ、ファフニールの奴?」
「森に入る前と違って俄然ヤル気が出てるわね?」
「確かに・・・」
ニーズヘッグ、ジルニトラ、リンドブルムが分かれる前の状態と違うファフニールを見て話をする。するとそこへオロチが会話に加わって来た。
「恐らく、ドレッドキャットを見て過去を思い出したのだろう・・・」
オロチの言葉に三人は「あぁ~」と言う様な顔を見せる。そんな風に話をしている四人に向かって残りにBL兵二人が木から飛び出して襲い掛かる。彼等の手にはマチェットとMP7が握られており、どちらでも攻撃る状態に入っていた。
会話をしている四人はBL兵達に気付いていないのか顔の向きを変える事無く顔を見合っていた。チャンスとばかりMP7の銃口をリンドブルム達に向けるBL兵。だがその直後にニーズヘッグはアスカロンを鞭状にし、BL兵一人の体を切り刻み、オロチは斬月でもう一人のBL兵の体を真っ二つにした。四人は最初からBL兵が襲って来た事に気付いており、敵を油断させる為に視線を変えず、一番攻撃しやすい位置にいるニーズヘッグとオロチが顔の向きを変えずに感覚だけで反撃したのだ。斬られたBL兵達の体は地面に落ち、これで確認出来たBL兵全てを倒す事が出来た。
「これで全部倒したな?」
「ええ、あたし達に襲い掛かって来たBL兵は全部よ」
デュランダルを下して確認するように尋ねるジャバウォック。ジルニトラもサクリファイスを構えるのを止めて答える。周りでもヴリトラ達が安心して少し警戒を弱めている。そんな時、ガズンがジルニトラと近くに歩いてきた。
「おい、アンタ。アンタ達が戦ったドレッドキャットはどうした?」
「え?ドレッドキャット?」
突然声を掛けてきたガズンに少し驚くジルニトラ。ガズンはそんなジルニトラにお構いなく質問を続けた。
「そうだよ、俺が差し向けた猛獣達だ。何処にいるんだ?」
「あっ!あの猛獣達、アンタの猛獣だったのね?て事はアンタが魔獣使いなの?」
「んな事はどうでもいい!何処にいるのか教えろ!」
あくまでドレッドキャットの事しか考えていなガズンに彼を知らないリンドブルムのチームのメンバーは更に驚く。そこへ唯一表情を変えていないオロチがガズンに近寄り肩に手を置く。気付いたガズンがオロチの方を向くと、オロチはある一点を指差した。彼女が指差す方をガズンが見ると、倒れている木の近くで横たわっている大きな二つ影を見つける。それは全身傷だらけとなり息絶えて動かなくなっているドレッドキャットだった。
「なあぁ!?デルバ!バルバァ!」
驚いて目を見張りドレッドキャット達の名前を叫びながら駆け寄るガズン。ガルバとミルバも続いて息絶えた仲間も元へ向かう。倒れて動かなくなった二匹のドレッドキャットを体を揺すり、目元に涙を溜めるガズン。彼にとって唯一心を開ける存在である猛獣、それも自分の育てた家族同然の存在が死んだ事はガズンにとって耐えられない悲しみだったのだ。ガルバとミルバも仲間の亡骸を静かに舐めている。
「・・・お前等、いくら襲って来たからと言って、こんな酷い殺しかたする事ねぇじゃねぇか!」
泣きながらリンドブルム達の方を向いて訴えてくるガズン。だが、オロチは静かに顔を横に振った。
「違う、私達は殺してない・・・」
「そうよ、その子達はあたし達に近づいた途端に高い鳴き声を上げながら離れていったのよ?」
「レモンの匂いが効いたんだろうな?」
ニーズヘッグの口にするレモンの言葉を聞いたガズンは理解出来ないような顔を見せる。実はネコ科の動物はレモンの様な柑橘系の匂いが苦手なのだ。匂いを嗅げば嫌がり匂いのする物から直ぐに離れていく。実際、リンドブルム達がドレッドキャット達と戦った時もドレッドキャット達はリンドブルムに近づいた途端に何かに反応し離れていった。Y字の分かれ道でヴリトラ達がレモン汁を体中にかけたのはこれが理由だったのだ。
ニーズヘッグ達の話を聞いていたラピュスが隣に立っているヴリトラに声を掛けた。
「ドレッドキャットはレモンの匂いが苦手なのか?」
「ああ、正確にはネコ科の動物、だけどな?」
「・・・だが私達が戦っている時はドレッドキャットは何の反応も無く襲ってきたぞ?」
「あ~、多分レモンの匂いが消えちまってたんじゃねぇのか・・・?」
苦笑いをしながら言うヴリトラにラピュスは肩を落として溜め息を突いた。そんな会話をしている時、ニーズヘッグ達の話を聞いたガズンは涙を拭い彼等の方を向いて落ち着きながら話を続けている。
「お前等じゃなかったら、一体誰が俺の息子達を――」
「やはり一般兵では倒す事は無理だったか」
何処からか聞こえてくる男の声にヴリトラ達は反応して辺りを見回す。すると木の枝から人影が飛び出して壊れた避難小屋の前に着地した。両腕が漆黒の機械鎧になっており、黒と赤の特殊スーツを身に纏った男だ。濃い赤い短髪に金属製のマスクをつけた三十代前半の男。そう、ゴルバンの町でストラスタ軍の司令官であったブルトリックを狙撃したブラッド・レクイエム社の機械鎧兵士だ。ただ今回はPSG1ではなくフルオートショットガンの「大宇 AS12」が握られていた。そして体には大量の散弾をつけたベルトが巻かれており、左肩甲骨部分には金属製の砲身の様な物が取り付けられている。
「あれは・・・!」
「あれが通信で言っていた幹部クラスの機械鎧兵士だ・・・」
赤髪の男を見て鋭い表情を見せるヴリトラとオロチが幹部クラスの敵でる事を話してヴリトラと同じように鋭い表情で男を睨む。周りのラピュス達も真面目な顔で現れた男を見つめている。
リンドブルム達と合流し、BL兵達を倒したヴリトラ達。だがその直ぐ後にブラッド・レクイエム社の幹部が現れ、再び緊張が走り出す。ヴリトラ達はこの後、更に激しい戦いを繰り広げる事となるのだった。




