第五十五話 黒の狩人 ガルバとミルバ
ヴリトラチームの前に現れたドレッドキャット。その圧倒的な身体能力に押されるヴリトラ達の前にストラスタ軍の部隊長である魔獣使いのガズンがもう一匹のドレッドキャットを連れて姿を見せる。更に現れたもう一匹のドレッドキャットを見て動揺を見せると思われたヴリトラ達だが、冷静を保ちドレッドキャットを迎え撃つ。そしてそんな戦いの中でファフニールだけがドレッドキャットと戦わないと予想外の事を口にするのだった。
ドレッドキャットの前に立ち、ギガントパレードを下してドレッドキャットの方を見るファフニール。突然戦わないと言いだしたファフニールを見てガズンと姫騎士の二人は耳を疑った。
「お、おいおい、お嬢ちゃん。戦わないってのはどういう事だ?確かに俺は女は生かしておくとは言ったが、それは生き残った奴だけだぜ?うちのガルバもミルバも殺すつもりで攻撃するんだ、そんな無防備な状態で戦わないなんて、殺してくれって言ってる様なもんだぜ?」
敵を前に、それも魔獣使いである自分が調教してドレッドキャットを前にして隙だらけの状態で立っているファフニールに敵であるガズンも流石に情けを掛けたくなったのかファフニールに忠告する。だがファフニールは目を閉じながら顔を横に振った。
「私は戦わないと言いましたけど、負けを認めるとは言ってませんよ?」
「何?」
「私はドレッドキャットとは戦わない。ただそれだけです」
あくまで戦わないと断言するファフニールを見てガズンは次第に表情を変えて行く。敵を前にして戦意を見せずにただ立っているだけのファフニールからガズンは理解出来ない本心と小さな屈辱を感じている。そしてラピュスとアリサも凶暴な猛獣を前にして戦わないと言いだしたファフニールを見て目を丸くしながら驚いていた。
「お、おい、ヴリトラ!どういう事なんだ?ファフニールが戦わないと言ってるぞ!?」
「・・・ああ、そうみたいだな」
「みたいだな、て何を冷静に見ているんだ!早くなんとかしないと殺されるぞ!?」
「心配ないよ。アイツの目から光は消えていない、つまりアイツは死ぬ気は無いって事だ」
「何?」
「それに、アイツはきっと過去を思い出したんだろう・・・」
「え?」
どこか寂しさを感じさせる様な顔でファフニールの方を見ているヴリトラを見てラピュスは思わず声を漏らす。そんなラピュスの事を気にせずにヴリトラは鋭い表情に戻して振り飛ばしたガルバの方を見る。
「そんな事よりも、俺達はこっちのドレッドキャットをなんとかするぞ?」
そう言ってテントの中から姿を見せてヴリトラとラピュスを睨み唸るガルバを見ながら騎士剣を握るラピュスと森羅を構えようとするヴリトラ。すると、森羅が突然引っ張られて構える事が出来ない。ヴリトラはふと森羅の方を向くと、森羅の刀身に巻き付いているガズンの鞭に気付く。その鞭の先ではガズンが太い両腕で鞭を掴みヴリトラを引っ張ろうとしているガズンの姿があった。
「おいおい、ボウズ。俺の事を忘れてるんじゃねぇのか?相手はガルバとミルバだけじゃねぇんだぜ」
「しまった、そうだった・・・」
ガズンと彼の鞭の事をスッカリと忘れていたヴリトラは少し間抜けな顔を見せて思い出した。ヴリトラはガズンとガルバの両方に注意をしながらどう動くかを考える。ヴリトラの後ろでラピュスが騎士剣を握って警戒を強くした。
ガズンは森羅を封じられてジッとしているヴリトラを見つめ、静かに口を開いてこんな事を尋ねた。
「訊きてぇんだが、あのお嬢ちゃんはどうして戦おうとしねぇんだ?」
「何でそんな事を聞くんだ?」
突然ファフニールが戦おうとしなくなった理由をヴリトラに尋ねるガズン。ヴリトラは質問して来たガズンを見て目を細くしながら聞き返す。ガズンはヴリトラを睨みながら不機嫌そうな顔を見せて口を開く。
「戦士として、敵を目の前にし戦う気が無くなった、なんて言われるのは侮辱以外の何でもねぇ。ましてや相手があんな小さなガキならなおさらだ!そもそもどうしてあんなお嬢ちゃんがこんな戦場にいるんだ?」
「そりゃあ、俺達は傭兵だからな?彼女も立派な傭兵だぜ?」
「何だって?あのお嬢ちゃんも傭兵だと?」
信じられない顔をしながら聞き返すガズンにヴリトラは黙って頷く。
「それとさっきの質問なんだけど、それは俺の口からは言えない」
「なにぃ?」
「言えないが、これだけは教えておくぜ?アイツの戦わない理由、それはアイツの過去が関係しているって事」
そう言いながらヴリトラは森羅の刀身を器用に動かして鞭を切った。切られた事により刀身に巻き付いていた鞭は地面に落ち、森羅は自由を取り戻す。自分の鞭を切られた事に驚いて表情を変えるガズンは鞭を見た後にヴリトラの方を向き直した。
「あ、あの状態で俺の鞭を切っただと?お前、どんだけ器用な奴なんだ・・・」
「俺はただ森羅を動かしただけだ。鞭が切れたのはコイツの切れ味がいいからだよ」
「チッ!」
ガズンは鞭を捨てて腰に収めてある短剣を抜いて構える。そしてテントの近くで唸っているガルバを見て大きな声を出した。
「ガルバ、その男を倒せ!」
「グワォーーッ!」
ガズンの指示を聞いたガルバは地を蹴りヴリトラに向かって走り出した。走って来るガルバに気付いたヴリトラはガルバの方を向いて両手で森羅を構え走って来るガルバの方へ走り出す。そしてガルバが攻撃範囲内に入ると森羅を勢いよく振り下ろして攻撃する。だがガルバは瞬時に横へ移動してヴリトラの斬撃を回避する。斬撃を回避されて一瞬驚きの表情を見せるヴリトラ。そこへガルバが反撃を仕掛けてきた。鋭く光る爪をヴリトラに向かって振り攻撃する。だがヴリトラも負けずと後ろに跳んでガルバの爪をかわした。
「とととっ!早いなぁ、コイツ」
ギリギリで攻撃を回避したヴリトラは態勢を直してガルバを見ながら冷や汗を掻く。だがその一方でガルバはヴリトラを睨みながら唸る続けている。ズシズシと大きな足で歩きながらヴリトラの周りを回る様に隙を伺い始めた。その時、ガルバがヴリトラに意識を向けている隙を突いてラピュスが騎士剣を構えながらガルバに向かって突っ込んでいく。
「ハァーーーッ!」
ガルバに向かって騎士剣を大きく横に振るラピュス。しかしガルバは高く跳び上がってラピュスの背後に移動。隙だらけのラピュスの背中に両後ろ足で蹴りを撃ち込んだ。それはまるで馬が後ろ足で人間を蹴る飛ばすような光景だった。
「うわあああぁ!」
背中から伝わる衝撃と痛みにラピュスは声を上げながら飛ばされる。ヴリトラは飛ばされたラピュスの下へ全力で走り、ラピュスの前へ行く方へ回り込みラピュスを受け止める。だがその力は予想以上に強く、二人はそのまま飛ばされて行き、テントの近くに生えている大きな木に叩きつけられた。
「ぐううっ!」
「ううっ!」
背中から木に叩きつけられたヴリトラは声を漏らし、彼に受け止められながら衝撃に驚いて声を出すラピュス。ヴリトラはラピュスは抱きかかえたままずり落ちる様に木の根元に座り込んだ。自分を庇って背中を木に叩きつけてしまったヴリトラを見てラピュスは顔を上げる。
「ヴ、ヴリトラ、大丈夫か!?」
「てててて・・・ああ、平気だよ」
「本当か?何処か怪我はしてないか?」
「大丈夫だって。俺は機械鎧兵士だぞ?この程度どうって事はない。それよりもお前はどうなんだ?」
ガルバに背中から蹴られて事を心配してラピュスの背中を覗き込むヴリトラ。マントをめくりその下を見ると、ラピュスが来ていた鉄の鎧の背中部分に大きな引っ掻き傷の様な跡が付いていた。恐らく蹴られた時に爪でも攻撃されたのだろう。
鎧に付いている傷を見てヴリトラは驚いて目を丸くする。そんなヴリトラを見てラピュスも少し驚きの顔を見せて彼の顔を見つめた。
「ど、どうしたんだ?ヴリトラ」
「お、お前危なかったぞ?もし鎧を着てなかったら背中の肉を抉られてたかもしれない・・・」
「なっ・・・!?」
鎧が無かったら自分はどうなっていたか、それを想像したラピュスの顔が青ざめて行く。二人が座り込んで話をしていると、ガズンとガルバが二人をジッと睨んで見ている事に気付く。
「おいっ!戦いの最中に何良い雰囲気になってやがるんだ?真面目にやれ!」
「なっ!だ、誰が良い雰囲気だぁ!?」
怒りながら自分達がイチャついていると思っているガズンを見てラピュスは顔を赤くしながら立ち上がり言い返す。ヴリトラもゆっくりと立ち上がって落ちている森羅と騎士剣を拾った。
「安心しろよおっさん。俺達は敵と戦う時に手を抜いたりイチャイチャしたりなんてしない。するんだったら戦いが終ってからするよ」
「おまっ!?・・・ヴリトラ、誤解を招く言い方をするなぁ!」
余計な事を言って来たヴリトラの方を見て顔を赤くしたままツッコミを入れるラピュス。そんなラピュスの方を向いてニッと笑いながら持っている騎士剣をラピュスに返すヴリトラ。騎士剣を受け取ったラピュスは一度深呼吸をして落ち着くと騎士剣を構え直して自分達を睨んでいるガズンとガルバを睨み返した。その隣でヴリトラも森羅を両手で構えていつでも戦える態勢に入る。
「チッ、まぁいい。どっちにしろお前達じゃ俺の可愛い息子達には敵わねぇんだ、せいぜい死んだ後にガルバ達の餌になってくれよ?」
「生憎俺達はエサになる気はねぇよ。て言うか、食えるところが殆ど無いし・・・」
「何?」
ヴリトラの言っている意味が理解出来ないガズンは聞き返す。彼はまだこの時点でヴリトラ達、即ち七竜将がサイボーグだという事を知らない。それ以前にこのファムステミリアにサイボーグなんて物は存在しないのでガズンはヴリトラが普通の傭兵だと思い込んでいる。それがヴリトラ達の勝利へ繋がるカギの一つでもあった。ヴリトラとラピュス、ガズンとガルバ、二組は目の前の敵を見つめて再び戦いを開始するのだった。
ヴリトラとラピュスがガズンとガルバと戦っている時、離れた所ではジャバウォック達がもう一匹のドレッドキャット、ミルバの相手をしていた。鋭い牙を光らせてジャバウォックに突進していくミルバ。そんな突進をジャバウォックは真正面から止める。ジャバウォックの太い両腕に力が入り、ミルバの頭と体を抑え、ミルバも四本の足に力を入れてジャバウォックを押そうとしていた。
「コイツ、思った以上に力があるな。機械鎧兵士の俺とほぼ同じ力なんて」
「グルルルルルゥ!」
ジャバウォックは唸るなあら自分を睨みつけているミルバの顔を見ながら少量の汗を垂らした。彼のこめかみには血管が浮き上がっており、相当力を入れているのがよく分かる。互いに相手を押し合っているジャバウォックとミルバを離れた所で側面から見ているアリサは騎士剣を握りながら真面目な顔で汗を垂らした。
「あのドレッドキャットを一人で食い止めるなんて、なんて力なの?・・・・・・いやいや、驚いてる場合じゃない、ジャバウォックさんを援護しないと!」
ただ一人ポツンと立ってジャバウォックの戦いに見惚れていた自分に言い聞かせるように呟くアリサ。周りを見回すと、テントの近くに小さな池があるのを見つける。それを見たアリサが池の方を向いて騎士剣を空に向かって掲げる。アリサがゆっくりと目を閉じると突如池の水が何かに吸い上げられるように浮き上がっていき、アリサの騎士剣の方へ飛んで行く。水がアリサの騎士剣を包み込む様に集まり、刀身に水が纏われるとアリサは目を開いてミルバの方を向き騎士剣を構える。そんなアリサに気付いたジャバウォックは彼女の方を向いて目を見張って驚いた。
「ア、アリサ。何だそりゃ!?」
「これは私の操る気の力です」
「気の力?あの騎士達が操るって言う自然を味方につける力の事か?」
アリサが口にする気の話を聞いてジャバウォックが以前に見た事のある気の力を思い出して尋ねるとアリサは真面目な顔のまま頷く。
「そうです。ラランは風の気を操り、トコトムトの村の戦いでストラスタの騎士が見せたのは火の気。そして、私が操るのは水の気です!」
ジャバウォックとミルバから少し離れた位置に立つアリサが力の入った声で言い放ち、騎士剣を肩の高さまで持っていき切っ先をミルバに向ける。すると刀身を覆っている水が突然刀身の周りを回り始める。意識を集中させ、ミルバに狙いをつけるアリサ。そして勢いよく騎士剣をミルバに向かって突き出した。
「水流霊鳥突き!」
アリサが技の名前らしき言葉を口にすると、騎士剣の刀身を覆っていて水が勢いよくミルバに向かって放たれた。水は真っ直ぐミルバに向かって飛んで行く。それに気づいたミルバは回避行動を取ろうとするも、ジャバウォックに抑えられており動けない。そして水はミルバの横腹に命中、その力でミルバを大きく吹き飛ばした。
「グウォオーーーッ!」
「ッ!?・・・ミルバ!」
鳴き声を聞き驚きの表情を見せるガズン。ミルバは大きく飛ばされて地面に叩きつけられる。ガズンはヴリトラとラピュスの相手をガルバに任せるかのようにミルバの下へ走り出し、倒れたミルバの体を擦る。
「しっかりしろミルバ!お前はこんな事で負けるタマじゃねぇだろう?立つんだ!」
ガズンの言葉を聞いて心打たれたのか、ミルバはゆっくりと立ち上がり再びジャバウォックとアリサの方を睨む。立ち上がったミルバを見てガズンは笑いながら頭を撫でた。
「よしっ!それでこそ俺の息子だ。・・・さあ、今度はアイツ等を地面に倒してやれ!」
「グオオオオォ!」
ガズンがジャバウォックとアリサの方を向いて二人を指差すとミルバは大きな声で吠え、二人に向かって走り出す。ジャバウォックは背中に地面に刺しておいたデュランダルを抜いて両手で構え、アリサもジャバウォックの隣までやって来て騎士剣を構え直した。ミルバが二人に飛び掛かろうとしたその時、ミルバと二人の間にファフニールが割り込んできた。そしてファフニールは両手を横に広げて通せんぼする。突然割り込んできたファフニールにミルバは足を止めてファフニールを睨み付けた。
「またお嬢ちゃんか。いい加減にしねぇとおじさんも本当に怒るぜ?敵を前に戦わないというお嬢ちゃんの行動は俺達戦士にとって侮辱的な行いだ、戦う意志のねぇ奴が戦場にのこのこ出て来るもんじゃねぇぞ?」
ファフニールを見て戦う気の無い彼女にガズンは次第に機嫌を悪くしていく。自分のドレッドキャットと戦わないのに戦いに割り込んで邪魔をする、それはある意味で戦士の誇りを傷つけるようなもの。そう訴える様に言い放つガズンを見てファフニールは静かに顔を横に振る。
「戦う意志はあります。ただ、その子とは戦いたくないだけです・・・」
「それは俺のミルバが戦うに値しない相手だという事か?」
「いいえ・・・」
「聞けばお嬢ちゃんがミルバと戦いたくない理由はお嬢ちゃんの過去が関係してるそうじゃねぇか?一体過去に何が遭ったんだ?」
「・・・・・・」
ガズンの質問に答える事なく黙って彼を見つめているファフニール。ジャバウォックとアリサはそんな彼女の背中を黙って見つめていた。質問に答えないファフニールを見てガズンは舌打ちをして持っている短剣の切っ先をファフニールに向ける。
「答えたくないならいい。が、お前をこのまま放っておくとまた戦いの邪魔をされて面倒だ。先に消させてもらうぜ?・・・ミルバ、先のそのお嬢ちゃんを殺っちまえ!」
そう言い放つとガズンはミルバの方を向いて指示を出した。指示を聞いたミルバが目の前で立っているファフニールに飛び掛かり彼女を押し倒した。仰向けでファフニールの両手を両前足で押さえつけ動きを封じるミルバ。そして鋭く伸びる牙の並んだ口を大きく開き、ファフニールの右肩に噛みついた。
「あっ!ファフニール!」
「・・・・・・」
噛みつかれたファフニールを見て思わず叫ぶアリサとそれを真剣な表情で見つめ黙っているジャバウォック。ガルバの相手をしていたヴリトラとラピュスもアリサの声に反応してファフニールの方を向く。
「グルルルルゥ!」
噛みつきながら唸り続けるミルバの牙がコートの上からファフニールの肩に食い込んでいく。だがファフニールは表情を変える事無くただ空を見上げているだけだった。しばらく噛みついていたミルバは何かの違和感を感じてゆっくりとファフニールの肩から口を離した。
「どうしたミルバ?なぜ噛むのを止めるんだ?」
突然噛みつきを止めたミルバに驚くガズン。ファフニールは自分の肩から口を離したミルバを見てゆっくりとミルバの頭の上に手を置く。そしてニッコリと笑いながらミルバを見つめた。
「私は貴方と戦わないのは貴方を弱いと思ってるからじゃない、貴方が昔いなくなった友達に似てるからなの」
ミルバに語りかける様に呟くファフニール。突然目の前の猛獣に語りかけたファフニールに驚いてラピュスとアリサ、そして敵のガズンまでもが目を丸くする。ヴリトラとジャバウォックはファフニールを無表情で見つめていた。
「・・・おい、お嬢ちゃん。それはどういう事だ?」
ガズンはゆっくりと仰向けになっているファフニールの下に歩いて行き、彼女を見下ろしながら尋ねる。ファフニールも自分を見下ろしているガズンの方を向いて口を開く。
「言った通りです。この子は私の大切なお友達に似てるんです」
「だから攻撃しなかったって言うのか?下手をしたら殺されてたかもしれねぇんだぞ?」
「それでも、私は戦いたくないんです・・・」
命を落とすかもしれないのに戦わない。敵である少女のそんなバカげた言葉にガズンはなぜか興味が湧いてしまう。ガズンはファフニールを押し倒しているミルバの背中に手を置いた。
「ミルバ、退いてやれ」
ガズンから指示されてミルバはファフニールの上から移動した。意外な指示にファフニールは少し驚き、それを見ていたヴリトラ達も驚きの表情を見せる。
「ガルバ、お前も止める」
ガルバも指示を受けてヴリトラとラピュスへ敵意を向けるのを止めてゆっくりと後ろに下がる。ガズンは倒れているファフニールを見下したまま引く声でこう言った。
「・・・お嬢ちゃん、お前さんの過去とその友達の事を話してくれ。話の内容によってはお前達を見逃してやってもいいぜ」
「え?どうしてですか?」
「お前さんはミルバが友達に似てるって言ったよな?それはお前も昔、ミルバに似た動物を飼ってたって事だになる」
「・・・・・・」
「俺は騎士団を追い出されてから人間は一切信じないようになっちまった。だが猛獣にだけは心を打ち明けてるんだ。そんなミルバ達と戦って死ぬかもしれないのに戦わなかったお嬢ちゃんの本心が聞きてぇんだ」
自分の心を猛獣達にだけに開いているガズンを見てファフニールは体を起こした。ヴリトラ達もファフニールとガズンの会話を黙って聞いている。
「・・・私の過去、それは――」
ファフニールが話そうとした時、突然小型通信機からコール音が響く。それを聞いた七竜将は一斉に小型通信機のスイッチを入れる。
「・・・こちらファフニール」
「私だ、オロチ。ファフニール、皆は無事か・・・?」
小型無線機から聞こえてきたオロチの声にファフニールは反応し、ヴリトラとジャバウォックも表情を変える。ガズンは突然独り言を言いだしたファフニールに目を丸くする。
「皆無事だよ、どうしたの?」
「直ぐにこっちに来てくれ、面倒な事が起きた・・・」
「面倒?ドレッドキャット達の事?」
ファフニールが口にしたドレッドキャットの言葉に目の前のガズンとラピュス、アリサの姫騎士二人が表情を鋭くする。だが、小型通信機から聞こえてきたのは予想外の答えだった。
「違う、もっとたちの悪い相手だ。・・・ブラッド・レクイエムだ・・・」
「「「ブラッド・レクイエム!?」」」
今自分達がいるこのフォルモントの森にブラッド・レクイエムが現れた、それを聞かされて七竜将は一斉に声を上げ、それを聞いたラピュスとアリサも表情を急変させる。
「ソイツ等が交戦中だったドレッドキャット達を黙らせて今度は私達に襲ってきた、それも結構な数と装備だ。お前に敵の中に幹部クラスの機械鎧兵士がいる・・・」
「ドレッドキャットが負けた?」
「何っ!?」
ファフニールの言葉を聞いてガズンも驚いて表情を変える。
「とにかく、こちらの戦力だけでは少々苦しい。急いで避難小屋の場所へ来てくれ、最初の分かれ道で私達が進んだ方の道から少し進んだ茂みの中にある道を通ればいい・・・」
「了解、直ぐ行くよ!」
ファフニールはそう言って小型通信機のスイッチを切った。その直後にガズンがファフニールの肩をその大きな手で掴んで顔を近づける。
「おい、今ドレッドキャットが負けたって言ったよな?そりゃあどういう事だ、お前さん今誰と話をしてたんだ!?」
「・・・・・・それは・・・」
考え込みゆっくりと説明を始めるファフニール。
ガズン達と戦っていたヴリトラ達のチーム。その戦いの中でファフニールはドレッドキャットと戦わない理由をガズンに語ろうとする。だがそこへ入って来たオロチの緊急の通信からブラッド・レクイエムとの遭遇を伝えられ、更なる緊張が走るのだった。




