第五十三話 気付かれた潜入 フォルモント戦 開始!
ストラスタ軍の潜伏しているフォルモントの森にやって来た七竜将と姫騎士は森の中を進んで行き、二つの分かれ道の前までやって来る。だが立札なども無く、先に何があるのか分からないヴリトラ達は二手に分かれて探索する事にした。だがこの時、既にストラスタ軍がヴリトラ達の存在に気付いている事を彼等はまだ知らなかったのだ。
Y字の分かれ道で右の道を進んだリンドブルム達のチームは周囲を警戒しながら進んで行く。リンドブルムとニーズヘッグが先頭に立ち、ラランとジルニトラが真ん中、そしてオロチが殿を止める事になった。
「今のところ、敵は見当たらないね?」
「ああ。だがあちこちに罠が仕掛けてある可能性もある、十分気を付けろ?」
「分かってるよ」
ライトソドムとダークゴモラを構えながら歩くリンドブルムにアスカロンを握っているニーズヘッグが忠告する。その後ろでもラランが突撃槍を握り、ジルニトラもサクリファイスを構えていた。
「それにしても、どうしてストラスタ軍はこんな大きな森に一個小隊で程度の人数で潜伏しようなんて考えたのかしら?」
ジルニトラがストラスタ軍がフォルモントの森に拠点を作り隠れている理由が気になり、周りのリンドブルム達に尋ねる様に言うとラランが周囲を警戒しながら答えた。
「・・・この森は広いだけじゃなくて食料も沢山ある。野生の動物がいて魚も川で泳いでるから色んな食料が手に入るの」
「食糧が豊富だからこの森に拠点を置いたって事?」
「・・・それだけじゃない。前にも言ったようにドレッドキャットは森の中で強くなる。だから敵がどれ程の戦力で来ても自分達は場所ではまず有利に立てる」
「成る程、場所が有利な所なら相手に応じて自由に作戦を変えられる上にドレッドキャット達も全力で戦える、つまり全てにおいて有利になるという事か・・・」
ラランの話を聞いてオロチが会話に参加してくる。ラランも答えたオロチの方を向いて静かに頷く。どうやら正解の様だ。
「しかも食料も無尽蔵にあるから長期戦にはもってこいな場所なんだな」
「・・・そう」
「だが、敵国の領内の森でそこまで都合よく戦う事が出来るのか?」
ニーズヘッグがレヴァート領の森でストラスタ軍が有利になれる事に納得できない。ラランに尋ねると、彼女はニーズヘッグの方を無表情のまま見上げて口を開く。
「・・・出来る。魔獣使いは育てる猛獣によって得る知識が変わってくる。水辺に住む猛獣なら水辺の知識、海なら海、そして森なら森に関する知識を得ている。だから森なら例え敵国だろうと直ぐに馴染んで有利に立てる」
「森を知り尽くしてるって事だね?」
「・・・そう」
リンドブルムの方を向いて頷くララン。彼女の話だけで敵の魔獣使いが手強いという事が分かったリンドブルム達。そんな会話をしながら歩いていると、何処からか数人の男達の声が聞こえてきた。リンドブルム達は足を止めて耳を傾ける。
「この声って・・・」
「間違いない、ストラスタ兵の連中だ」
リンドブルムとニーズヘッグは警戒を強くして意識を集中させる。女性衆も同じように声のする方へ意識を高めた。姿勢を低くして何処にストラスタ軍の兵士がいるのかを探り始めるリンドブルム達。しばらく探っていると、リンドブルムが道の外れにある木と木の間を指差した。
「あっちの方から数人の気配がするよ?」
「本当か?」
「うん」
「それじゃあ、ちょっと行ってみましょうか」
ジルニトラはサクリファイスを構えて様子を見に行こうと言い、リンドブルム達も頷く。姿勢を少しだけ高くして気付かれないように静かに前進するリンドブルム達。草を掻き分けながら進んで行くと、木々の少ない小さな広場を見つけた。その広場の奥には一軒の小屋が建っており、その周りには槍を持った五人のストラスタ兵達が見回りをしている。リンドブルム達は立ち止まってその場でまた姿勢を低くし茂みの中に隠れた。
「やっぱりストラスタ軍だったね」
「此処からだと五人確認出来るけど、他にもいると思う?」
「恐らくあの小屋の中に何人かいるだろう・・・」
ストラスタ兵を見てリンドブルム、ジルニトラ、オロチの三人が茂みの中から小屋を覗き見る。確かにリンドブルム達から見て兵士達は五人までしか確認できない。しかし彼等は敵兵が隠れていると確信していた。
「・・・ねぇ、ララン。あの小屋は何なの?」
リンドブルムが奥にある小屋が何なのかをラランに尋ねるとラランは茂みから小屋を見て何の小屋なのかを調べる。そして覗くのを止めるとリンドブルムの方を向いて説明を始めた。
「・・・あれは避難小屋」
「避難小屋って、森に迷った人達が休むって言ってた?」
「・・・うん、あそこには寝る為の二段ベッドや食料が遭って兵士達が待機するには打ってつけな所」
「あの小屋に何人いると思う?」
「・・・多分、二人ぐらいだと思う」
「どうして?」
「・・・二段ベッドで二人ずつ休憩して残りの兵士は外を警戒するって方法が一番効率がいいと思ったから」
小屋に構造や外にいるストラスタ兵の人数から小屋にいると思われる人数を割り出すララン。その話を聞いているリンドブルムは頷きながら彼女の方を見ていた。
「いずれにせよ、このまま突っ込んで敵を殲滅させるのは簡単だが、それだと他の敵の情報が手に入らなくなる。人数が少なくなった時にとっ捕まえて情報を聞き出そう」
「その方がいいわね」
ニーズヘッグの出した提案に賛成するジルニトラ。その時、小屋の前にいた二人のストラスタ兵が何やら会話を始めた。それに気づいたオロチが二人に声を掛けた。
「静かにしろ、敵が何か話しているぞ・・・?」
「何?」
オロチに言われてニーズヘッグとジルニトラ、リンドブルムとラランが会話を始めた兵士達の方を向く。
小屋の周りを見張っているストラスタ兵達はリンドブルム達の存在に気付かず、普通に見張りを続けている。その中で会話を始めてた二人の兵士は笑みを浮かべている。
「しっかし、驚いたぜ。ドレッドキャットがこの森に侵入した敵兵の事を知らせに来たんだからなぁ?」
「ああ、俺も最初は信じられなかったけどよぉ。西の入口の方を調べたら茂みに仕掛けてあった落とし穴が解除されてたのを見た時を目を疑ったよ」
「「「「「!」」」」」
会話をしているストラスタ兵達の会話を聞いてリンドブルム達は反応した。茂みに落とし穴、それを聞いて自分達が入って来た入口の事を思い出す。自分達が森に入る時に通った入口が彼等の言っている西の入口だとしたら・・・。
「マズイ、俺達が侵入した事が奴等にバレてる!」
「そんな、どうして?入口前の罠とかは全部解除した筈だよ?」
「分からない。だが、バレた事は間違いない。それにアイツ等、さっきドレッドキャットが知らせてきたって言ってたよな?」
「うん」
ニーズヘッグとリンドブルムの会話を聞いていたオロチがY字の分かれ道に向かう途中で感じた気配の事を思い出して顔を上げる。
「まさか・・・」
「どうしたの?オロチ」
ジルニトラがオロチの方を向くと、そこには鋭い目で何かを考える様な顔をするオロチの姿があった。
「実はあの分かれ道に行く途中で誰かに見られている様な感じがしたんだ・・・」
「え?」
「もしかすると、あの気配がドレッドキャットだったのかもしれない・・・」
「ええっ?どうして話してくれなかったのよ?」
「敵に見られてると確証がなかったんだ・・・」
伝えるのが遅れた事で話をするジルニトラとオロチ。茂みの中で小さな声のまま話す二人。そんな二人の会話をリンドブルムが小声で止める。
「二人とも、今はそれどころじゃないでしょう?早くこの事をヴリトラ達に伝えないと!」
リンドブルムの言うとおり、今更過去の事を話しても何の意味もない。とにかく今は最悪の事態にならないように手に入れた情報を別行動中のヴリトラ達に伝える事が先決だ。リンドブルムは小型通信機のスイッチを入れてヴリトラを呼び出す。しばらく呼び出し音が鳴ると、小型通信機からヴリトラの声が聞こえてきた。
「・・・こちらヴリトラ」
「ヴリトラ、聞こえる?」
「リンドブルムか、どうした?」
「大変だよ、敵に僕達の侵入がバレた」
「何だって?」
小型通信機の向こうからヴリトラの驚く声が聞こえてきた。ニーズヘッグ達も小型通信機に耳を傾けてヴリトラとリンドブルムの会話を聞いている。
「どういう事だ?森に入る時に罠なんかは全部解除したはずだぞ」
「何か敵のドレッドキャットが僕達を見つけて敵に報告したみたい」
「報告って、相手はデカい猫だぞ?そんな事が出来るはずないだろう!」
「でも現にストラスタ軍に僕達の存在はバレてるよ?」
リンドブルムは冷静に今起きている状況だけをヴリトラに説明する。ヴリトラの納得のいかない様な声が小型通信機から聞こえてくる。
「どうするの?このままじゃいつかは見つかっちゃうよ?」
「ああ、分かってる・・・お前達は今何処にいるんだ?」
「今、目の前に避難小屋があってその周りをストラスタ軍の兵士達が見張ってる」
「そうか。ならお前達はその避難小屋を制圧してしばらくそこに隠れてろ。俺達も今敵の予備拠点らしい小さなテントを見つけたんだ、これから制圧に掛かる」
「了解、終わったら連絡する」
そう言って小型通信機の電源を切るリンドブルム。そして周りにいるララン達の方を向いて真面目な顔で彼等を見つめた。
「皆、敵は既に僕達の存在に気付いてる。まずは安全な場所を確保してヴリトラ達と連絡を取り合いながら敵の情報を手に入れないといけない。だから・・・」
「・・・あの避難小屋を手に入れるの?」
「そういう事」
安全地帯を確保する為に敵に奇襲を仕掛ける、それを聞いたララン達も真面目な顔でリンドブルムの方を見る。五人はそれぞれ自分の武器を手に取り、避難小屋の方を向いてストラスタ兵達の動きを観察し、隙を伺う。そして全ての兵士達が自分達の方を向かずに全員がバラバラの方を向いた瞬間、リンドブルム達は一斉に飛び出す。
「な、何だ!?」
突然草むらから飛び出して来たリンドブルム達に驚くストラスタ兵。周りの兵士達も驚いて槍を落すなどをして隙を作ってしまう。
「一気に片付けるよ!」
「言われなくても分かってるわよ!」
リンドブルムの言葉にジルニトラは小さく笑いながら答える。五人は一斉にストラスタ兵に攻撃を仕掛け、避難小屋にいた数人の兵士も倒されて僅か数分で避難小屋は制圧された。
――――――
一方、左の道を進んだヴリトラ達は分かれ道から数十m進んだ先で茂みの奥にある広場を発見。その広場にストラスタ軍の予備拠点と思われる二つの小さなテントを見つけ茂みから覗き見ている。テントの周りには槍を持った兵士が二人、弓を持った兵士が二人、剣を持った兵士が一人巡回している。戦力的にはヴリトラ達の敵ではないが、テントの中に何人いるか分からない為、なかなか手が出せない。
「テントは小さいけど、結構人数がいるな・・・」
「あの大きさのテントだと、一つに四人位は入れますね」
ヴリトラの隣でアリサがテントを覗き見て中に何人いるのかを推理する。それを聞いていたジャバウォックが二人の後ろからテントを見た後に周囲を警戒して他に敵がいないかを探っている。
「他に敵兵が隠れている可能性もあるな」
「ええ、それも考えられます」
「それじゃあ、まずはテントを制圧して直ぐに周囲を調べてほうがいいね?」
ファフニールがテントを制圧した後の事を話してヴリトラ達の方を見る。ヴリトラ達もそんなファフニールを見て同感なのか小さく頷いた。
「なら、急いだ方が良い。敵がわたし達の存在に気付いたのなら各拠点の戦力を強化する為にこの拠点にも戦力を送ってくるかもしれない」
「ああ。敵の増援が来る前に終わらせよう」
ラピュスの話を聞いたヴリトラは腰の森羅を抜いて敵拠点を制圧する準備を始めた。ラピュスとアリサも騎士剣を抜き、ジャバウォックもデュランダル、ファフニールはギガントパレードを握る。そして一斉に茂みから飛び出す。ストラスタ兵達は突然姿を現したヴリトラ達に驚き武器を構える。
「な、何だ!?」
「ま、まさかお前等が森に侵入して来た連中かぁ!」
「答える必要はねぇよ!」
ストラスタ兵の質問に答えるつもりの無いヴリトラは笑いながら兵士達に向かって走って行く。走って来るヴリトラに向かって弓兵が矢を放つ。だがヴリトラは飛んで来る矢を全て森羅で斬り落とし、一気に距離を縮めた。槍を持った兵士達もヴリトラを槍で突くがそれをかわしたヴリトラが槍兵の一人に斜め切りを放つ。槍兵はその場に倒れて動かなくなり、隣にいたもう一人の槍兵が驚いて一歩下がる。そこへラピュスが騎士剣を横に振り、横切りを放つ。その斬撃を受けたもう一人の槍兵も倒れて槍兵は全滅。
「な、何て奴等だ!」
一瞬にして二人も仲間が倒されて驚く他のストラスタ兵達。驚く剣を持つ兵士にジャバウォックが迫って行く。気付いた兵士がジャバウォックの方を向いて剣を構える。ジャバウォックはデュランダルを上段で構え、勢いよく振り下ろした。兵士は剣を横にしてジャバウォックの斬撃を防ごうとするもジャバウォックの怪力とデュランダルの切れ味で兵士の剣はアッサリと折れてしまいそのまま兵士を斬り捨てる。
「う、うわああぁ!」
弓兵は力の差に驚き、その場に座り込む。すると、テントの中から別のストラスタ兵が二人剣と槍を持って姿を見せた。騒ぎを聞いて飛び出して来たのだろう。
「おい、どうした!?」
「何があった!?」
驚くストラスタ兵達は目の前のヴリトラ達を見て侵入者だと気づき持っている剣と槍を構える。新しい兵士達にヴリトラ達も気付いて武器を構えた。ヴリトラ達がテントから出て来た兵士達の方に意識を向けた瞬間、弓兵達はヴリトラ達から距離を取って弓を構え、もう一度矢を放とうとする。だが、その事に気付いていたのか、ヴリトラは左手でオートマグを抜き、離れた弓兵達を撃つ。弾丸は弓兵達の腕や足に命中し、痛みに耐えられなかった弓兵達はその場に座り込む。
「コ、コイツ、見た事のない武器を使うぞ!?」
驚いた槍兵が動揺して隙を作ると、アリサが槍兵の後ろに回り込み騎士剣を喉元に付ける。そして剣を持ったストラスタ兵にはギガントパレードを頭上に持って来たファフニールの姿があった。二人の兵士は動きを封じられてその場で固まる。
「投降してください。私達も無益な殺生は望んでいません」
アリサが投降を進めると、現状を見て自分達に勝ち目はないと察したのか持っている武器を捨て、両膝を地面に付けて両手は後頭部に当てた。予備拠点を制圧したヴリトラ達は周囲を警戒して他に敵兵がいない事を確かめる。
「よし、拠点制圧完了だな?」
「ああ」
なんとか拠点を制圧出来た事で一安心するヴリトラとラピュス。ファフニールとジャバウォックはヴリトラのオートマグに撃たれてうずくまっているストラスタ兵の応急処置をしている。
「な、何で敵である俺達の手当てをするんだ・・・?」
ストラスタ兵は自分の傷の手当てをするファフニールの考え分からずに尋ねた。するとファフニールは笑って答えた。
「降参してくれた人が怪我をしているのに、見て見ぬふりなんて出来ませんよ」
目の前の幼い少女が笑ってそう言い、ストラスタ兵は驚き目を丸くする。しばらくして応急処置が終ると、投降した兵士達を一か所に集めて周囲を警戒しながらヴリトラ達はリンドブルム達に連絡を入れようとする。
「よし、拠点を手に入れた事だしリンドブルム達に連絡を――」
「ッ!待て!」
何かに気付いたジャバウォックがヴリトラを止める。突然止めたジャバウォックに驚くヴリトラは彼の方を向いた。ジャバウォックが自分達が隠れていた茂みの方を向くと、茂みが突然動きだし、そこから大きな影が飛び出してヴリトラ達の前に降り立った。それは黒い毛をしたサーベルタイガーの様な猛獣、ドレッドキャットだった。
「うわぁ!何だコイツ!?」
「コイツは・・・ドレッドキャットだ!」
驚くヴリトラの隣でラランが目の前の猛獣がドレッドキャットだと話す。それを聞いたヴリトラ達は警戒心を強くして武器を構えた。
敵に侵入した事を気付かれて、避難小屋と予備拠点を制圧したヴリトラ達。だが、その矢先にヴリトラ達のチームの前に一匹のドレッドキャットが現れ、状況は更に悪くなってしまった。ヴリトラ達はこの状況をどうやって凌ぐのだろうか!?




