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機械鎧(マシンメイル)は戦場を駆ける  作者: 黒沢 竜
第四章~祖国の為に刃を向ける~
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第五十一話  フォルモントの森


 ストラスタ公国の軍が国境近くのレヴァート軍の防衛部隊を攻撃し、防衛線を突破。再びレヴァート領内に進軍して来たと報告を受けたヴリトラ達。しかも敵の本隊には猛獣のドレッドキャットがいると聞かされて話を聞いた一同に緊張が走る。その強力な敵部隊を撃退する為にヴリトラ達七竜将とラピュス達姫騎士は出撃を申し出る。そしてその場にいたパティーラムもその出撃を許可、七竜将達は再び前線へ赴く事となった。

 周りを広い平原に囲まれている道を走る二台のバン。そのバンには機械鎧を露出するいつもの灰色の特殊スーツを着てその上からコートを羽織っている七竜将と鎧を身に付ける姫騎士達が全員乗り込んでいる。ヴリトラ達は出撃を申し出た後に準備を開始し、準備が終わって直ぐに町を出た。今回の出撃もゴルバンの町を解放した時の様に七竜将と姫騎士しかおらず、第三遊撃隊の騎士達は同行させていない。それは急いで敵本隊の下へ急ぐのと、少しでも戦いで怪我をする者を減らす為であった。


「この先の分かれ道を左に進んでくれ」

「了解」


 先頭を走るバンの一号車の中では助手席に座るジャバウォックが地図を見ながら運転をしているヴリトラに道を教えており、後部座席ではラピュス、ファフニール、アリサの三人が座っていた。そして二号車にはリンドブルム、ララン、ニーズヘッグ、ジルニトラ、オロチの五人が乗っている。


「確かドレッドキャットのいる敵の本隊はこの先の『フォルモントの森』に潜伏してるんだったよな?」

「ああ、報告をしてきた騎士によると敵はその森に基地を作り、その森を通過しようとする我が軍の部隊に奇襲を掛けているという話だ」


 運転をしているヴリトラが敵の居場所を再確認すると後部座席のラピュスが答えた。助手席のジャバウォックは地図を見てフォルモントの森の位置と大きさを調べる。


「その森はかなりデカイみたいだな?森の手前にある町から一番近くの町に行くにはその森を通過しないといけないようだ」

「ああ、フォルモントの森を迂回して町へ向かう事も出来るが、その場合は町に辿り着くのに丸二日掛かる上、そこは険しい山道で崖もある。しかも道が細いからもしそこで敵襲を受ければ身動きが取れずにあっという間に全滅してしまう」

「安全に、そして短時間で近くの町に行くには森を通過するしかないという訳か・・・」

「そうだ。敵もそれを見越して森に基地を作り敵を待ち伏せしているのだろう」


 敵が自分達に有利な戦いになるよう計算してる事を知り、真面目な顔で会話をするジャバウォックとラピュス。それを聞いていたヴリトラやファフニール、アリサも真面目な顔を見せている。


「だとすると、森を囲んでいる山道にも当然敵が潜んでいるんだよな?」

「間違いないだろう・・・」

「まぁ、俺達はその森に潜んでいる敵本隊を叩きに行くわけだから、山道の敵は関係ないけど?」

「確かにそうだが、その部隊が本隊と合流すると厄介だ。油断しない方が良い」


 運転をしながら山道の敵部隊の事を警戒対象から外すヴリトラに忠告するラピュス。するとファフニールがラピュスの顔を覗き込んで言った。


「ヴリトラの言うとおり大丈夫だと思うよ?」

「何?」

「だって、山道からその森に向かうまで結構距離があるんでしょう?森の部隊に何かあった事に気付いて助けに行こうとしても森に着くのには時間が掛かる筈だもん」

「ファウの言うとおりだ。地図によると森を迂回する道はかなり大回りになってるから、もし山道の真ん中辺りで敵部隊が待ち伏せしていたとしたら森に到着するまで少なくても三十分は掛かるだろう」


 ファフニールの考えを押す様にジャバウォックが地図を見ながらルートを確認する。確かに地図に描かれてある道はかなり遠回りになっており、馬で走ってもかなり時間が掛かるのは間違いない。

 二人の話を聞いたラピュスは腕を組んで難しそうな顔を見せている。そして隣に座っているファフニールと助手席のジャバウォックの方を向いて口を開いた。


「だが、今回の相手は猛獣ドレッドキャットだ。しかも敵が潜伏しているのは森、ドレッドキャットは別名『森の狩人』とも言われている。つまり奴等にとって森は有利な場所だ。いくらお前達七竜将でも、今度ばかりは苦戦するかもしれないぞ?」

「森で本領を発揮出来る猛獣か。猫に似ているって言うからには当然木登りや木から木へ跳び移る事も得意なんだろうな・・・」

「その通りだ。フォルモントの森にはドレッドキャットは生息してはいないが、奴等は森で生活しているから本能で直ぐに住み慣れていない森に馴染んでしまう」

「そうなったら確かに俺達でも苦戦するかもしれないな。・・・ヴリトラ、どうする?」


 ジャバウォックが運転をしているヴリトラにどんな作戦で行くか尋ねると、ヴリトラは運転をしながら真面目な顔で前を向いて答える。


「まずはそのフォルモントの森がどんな場所に有ってどんな所なのかを調べないといけない。とりあえず森へ行こう、作戦はそれからだ」


 ヴリトラはそう言ってアクセルを踏み、バンの速度を上げる。凸凹した道を走り上下に揺れるバンに初めて自動車に乗るアリサは驚いてラピュスにしがみ付く。速度を上げた一号車の後ろを走っている二号車も速度を上げてその後を追った。

 それから数十分後、ヴリトラ達は大きな崖の近くにバンを停め、そこで少し休憩を取る事にした。バンから降りて外の空気を吸ったり、近くの川の水を飲んで喉を潤したりなどをしてリフレッシュしている一同。その中には川の前で座り込み顔色を悪くしているアリサの姿があった。


「うぅ~、気持ち悪い・・・」

「大丈夫、アリサ?」


 座り込んで顔色を悪くしたままのアリサに近寄りそっと肩に手を置くリンドブルム。どうやら初めて自動車に乗って長い事揺らされていたので酔ってしまったのだろう。アリサは川を覗き込み、水面に映る真っ青な自分の顔を見つめていた。


「うううう、ジドウシャってこんなに気持ち悪くなる乗り物だったんですね・・・?」

「そんな事は無いよ。ラピュスとラランも初めて乗った時は別に体調を崩さなかったよ?」

「じゃあ、どうして私だけ・・・?」

「きっと長い事凸凹の道を通ったから酔っちゃったんだよ」


 苦笑いをしながらアリサを見つめるリンドブルム。そんなリンドブルムの言葉にアリサは溜め息をつき肩を落した。そこへジルニトラがプラスチック製のモスグリーンの箱を持ってアリサの下へやって来た。


「アリサ、気分が悪くなったんだって?」

「あっ、ジル。何だか酔っちゃったみたい」

「何、車酔い?・・・まぁ、初めて乗ってあんなに揺れちゃあ仕方ないか。ちょっと待って、確か酔い止めが有った筈よ・・・」


 ジルニトラは持って来たプラスチック製の箱を開いて中を探る。中には包帯や絆創膏、消毒薬や沢山の小さな箱が入っている。その箱の殆どが薬箱だった。実はその箱は救急箱でアリサが気分を悪くしたと聞いてジルニトラが持って来たのだ。ジルニトラは沢山ある薬箱の中から酔い止めの薬を取り出してそれをアリサに手渡した。


「ハイ、この薬を飲めば少しは楽になるわよ?」

「うう・・・あ、ありがとうございます・・・」


 ジルニトラから酔い止めを受け取ったアリサはそれを口の中に入れて川の水で飲みこんだ。薬を飲んで少し落ち着いたのかアリサの顔色が少しだけ良くなり、それを見てリンドブルムとジルニトラは安心した。


「ところで、ヴリトラは何処?」

「ヴリトラならあっちよ。何か辺り一帯を見渡せるぐらいの高い崖が有ってそこからフォルモントの森を見てるみたい」


 リンドブルムの質問にジルニトラはヴリトラのいる方向を指差して答え、リンドブルムも指の刺されている方を向いた。

 噂のヴリトラはジルニトラの言った通り、一際高い崖の上から自分達が向かうフォルモントの森をラピュス、ニーズヘッグ、ジャバウォックの三人と一緒に見下していた。フォルモントの森はとても大きく、周囲を大きな岩山の崖で囲まれており出入口以外からは侵入出来ない構造になっている。森の出入口は今ヴリトラ達がいる崖の真下に一つと森の出口付近の遠くにあるのと合わせて二つだけだった。双眼鏡で森や出入口付近を見るヴリトラは敵の姿がないかを探っている。


「どうだ、ヴリトラ?」

「ん~、入口には誰もいないな。森の周りも垂直の崖に囲まれていて崖を降りる事も登る事も出来ない。やっぱり森に入るにはこの下と遠くにある出入口のどちらかだけの様だ」


 状況を確認したヴリトラから侵入路が他に無い事を確認してラピュスは考え込む。ヴリトラの隣ではニーズヘッグとジャバウォックが同じように双眼鏡を覗き込んでいた。


「あの高い崖は森へ侵入させない防壁の様な物だ。此処はまるで自然が作り出した町だな」

「その防壁のおかげで森の中にいるストラスタ軍は奇襲を受ける心配もなく、出入口付近を警戒していれば大丈夫って訳だ。こりゃあ、鳥でもない限る出入口以外から侵入するのはまず無理だな?」


 ニーズヘッグとジャバウォックが双眼鏡を覗くのを止めて会話をする。二人の隣で森を眺めながらヴリトラとラピュスはどうやってフォルモントの森を攻略するのかを考えていた。


「どうするヴリトラ?」

「・・・やっぱり正面から突っ込むしかないな」

「だが、それでは危険すぎるだろう?侵入路が出入口しかないのから敵もそこに必ず罠を仕掛けている、そこに自ら突っ込んでいくなんて自殺行為だ」

「ああ、確かに危険だ。だけど、こっちにはトラップのスペシャリストがいるから心配ない」

「ん?・・・スペシャ、リスト?」


 意味を理解出来ない言葉にラピュスは目を丸くして小首を傾げる。ヴリトラはニーズヘッグの方を向いて笑いながらウインクをする。それを見たニーズヘッグは溜め息をついて「やれやれ」と言いたそうな顔で頭を掻く。それを見ていたジャバウォックはニヤニヤと笑っていた。

 ニーズヘッグに何かの合図をした後、ヴリトラはもう一度ラピュスの方を向く。


「それにだ、罠が仕掛けてある所から侵入すれば敵を動揺させる事だって出来るしな」

「動揺?なぜだ?」

「考えてもみろ、罠を仕掛けてある所から敵が侵入して来ると聞かされたらお前はどう思う?」

「どうって・・・意外に思うな?」

「どうして?」

「だってそうだろう、罠が仕掛けてある危険な所から堂々と入って来るなんて普通は考えられない。逆に相手が何を考えているのか気になってしまう」


 ラピュスの最後の言葉を聞いたヴリトラは笑ってラピュスの唇に自分の人差し指を付ける。突然指を付けられてラピュスは少し驚いた。


「そう、そこだ。敵が何を考えているのか気になり、最悪敵の作戦が分からずに不安になってしまう。お前がそう感じるのなら当然相手もそう感じる筈だ。そうなれば敵は俺達の行動パターンが読み難くなり動揺を見せて隙が出来る筈だ」

「・・・あっ!」

「それと同時に敵の連携も崩れてより攻略が簡単になる。つまり、危険な所から進んで行けば敵は驚いて高い確率で混乱するって事だ。仮に混乱しなくても相手に何かしらの精神的不安を与える事が出来る」

「敵を攻撃するにはまずは敵の平常心を崩す事が大切って事だ」


 ヴリトラの後ろでニーズヘッグが付け足す様に会話に参加する。その話を聞いてラピュスは驚くのと同時に小さな攻略の糸口を見つける。だが、それでもラピュスにはまだ不安が残っていた。それはこの作戦において最大の壁と言えるものだった。


「だが、例え罠が有ってそれを突破したとしても森の中にはドレッドキャットがいるんだぞ?しかも敵の部隊に何匹いるかも分かっていない。どうやって攻略するつもりだ?」

「そっちの方もちゃ~んと手は打ってある」

「本当か?」

「ああ。とりあえずバンに戻って作戦を練ろう。その後にこの真下にある入口前まで行くぞ?」


 そう言ってヴリトラはバンを停めてある方へ歩いていく。残ったラピュス達はドレッドキャットに対する策が分からず、三人は顔を見合って不思議そうな顔を見せた。

 ヴリトラ達がバンに戻った後、一同が森に潜んでいるストラスタ軍の攻略法について簡単な作戦会議をたてる。アリサも既に薬のおかげで気分が良くなっており、作戦会議はスムーズに終わる。ヴリトラ達は再びバンに乗り込み、森の入口前に行く為に細い崖道を下りて行った。そして森の入口から200m離れた所にある茂みにバンを隠してそこから森の入口を覗き込み敵兵がいないかを確認する。


「此処から見る限りでは敵の姿は確認できないな・・・」

「大きな木の陰や私達と同じように茂みに隠れている可能性もある」


 茂みから顔を出して双眼鏡で入口前を見るヴリトラとラピュス。周りでもリンドブルム達が双眼鏡で覗いたり、目を細くしたりなどをして確認している。そんな時、七竜将の小型通信機からコール音が聞こえてくる。七竜将は一斉に小型通信機のスイッチを入れて受信した。


「・・・こちらヴリトラ」

「オロチだ・・・」

「オロチ、そっちはどうだ?何か見えるか?」


 小型通信機から聞こえてきたオロチの声。オロチはヴリトラ達の隠れている茂みの直ぐ傍に立っている木の上の方にある枝に乗って森の入口前にある茂みなどを見下ろしていた。実は入口前に着いてからオロチは直ぐに近くにある木の真上に移動して周囲を偵察していたのだ。オロチは持っている双眼鏡で入口前の茂みを覗き見ながら小型通信機に指を当てる。


「此処からでも敵の姿は確認出来ない。敵は一人も隠れていないな・・・」

「そうか、分かった。降りて来てくれ」

「了解・・・」


 ヴリトラとオロチが小型通信機の電源を切るとヴリトラは再び入口の方を向き、その直後にヴリトラ達の真上からオロチが降りてきて彼等のど真ん中に着地する。突然上から落ちて来るかのように降りて来たオロチに驚く一同。オロチはヴリトラの隣までやって来て彼と同じように入口の方を覗き込む。


「さっき言ったように敵兵の姿は無かったが、罠が仕掛けられているようなポイントは幾つかあった・・・」

「何処だ?」

「入口に続く道の横にある茂みだ・・・」


 オロチが指を指した方には真っ直ぐ森の入口へ続いている道の左右に広がっている茂みがあり、それを見てヴリトラは鋭い目をする。双眼鏡を下してしばらく考え込んだヴリトラは自分の後ろで待機しているニーズヘッグとジャバウォックを手招きで呼んだ。


「二人とも、一緒に来てくれ。どんな罠が調べるついでに解除しちまうぞ?」

「ハイハイ、分かったよ」

「まっ、最初からこうなると予想してたがな」


 めんどくさそうな顔を見せながらもヴリトラの方へ近寄って行く二人。ヤル気の無さそうな二人を見て少し困ったような顔を見せるヴリトラであったが、彼はそんな二人を心から信頼していた。


「リンドブルム、ジルニトラ、二人はそこ俺達の周囲に誰かいないか警戒しててくれ。もし誰か見つけたら無線機で連絡してくれ。ヤバそうな雰囲気だったら撃ってくれていい」

「分かった」

「了解よ」


 いつもの様に愛称ではなく正式なコードネームで二人を呼ぶヴリトラ。七竜将は作戦中は決して愛称で仲間を呼んだりしない。つまり既に作戦は始まっているという事、リンドブルムとジルニトラも真剣な顔を見せて愛銃を構える。

 準備が整うと、ヴリトラはジャバウォックとニーズヘッグを連れて中腰の体勢で森の入口前まで移動し始める。その間、三人は周囲を警戒しながら進んで行き、入口の手前で止まると自分達を挟んでいる茂みを見る。そしてラピュス達から見て右の茂みをヴリトラとジャバウォック、左の茂みをニーズヘッグが調べ始めた。


「・・・おい、リンドブルム。聞きたい事があるのだが」

「何?」


 三人が罠があるかを調べている時、ラピュスがライトソドムとダークゴモラを抜いていつでも撃てる態勢に入っているリンドブルムに質問をしてきた。


「実はさっき崖の上でヴリトラがスペシャリスト、とか言ってニーズヘッグを見ていたが、どういう意味なんだ?」

「ん?・・・・・・ああぁ、ニーズヘッグは七竜将の工作兵であると同時にブービートラップの達人でもあるからね」

「ブービー、トラップ?」

「・・・何それ?」


 また聞いた事のない言葉にラピュスとその隣で突撃槍を握っていたラランがリンドブルムの方を向いて尋ねる。


「ブービートラップって言うのは戦場で自陣に侵攻して来る敵に対しての抵抗する為の罠さ」

「防衛用の罠の事か?」

「うん」

「・・・リンドブルム達の世界ではそんな風に言うの?」

「何だかカッコいい呼び方ですね」


 ブービートラップの意味を聞いて理解するラピュスとララン。二人の後ろではアリサが興味のありそうな顔でリンドブルムの話を聞いている。リンドブルムの説明が終ると今度はジルニトラがサクリファイスを構えながら説明をしてきた。


「油断しているBoobyまぬけな兵士達が引っかかるTrapわな、だからBoobytrapブービートラップって言うのよ」

「達人なら仕掛ける事は勿論、解除する事も簡単だよ?」


 リンドブルムがラピュス達の方を見て小さく笑いながら話す。すると、ギガントパレードを握ってヴリトラ達の方を見ていたファフニールがラピュス達に声を変えた。


「皆、ヴリトラ達が茂みに入っていくよ!」


 ファフニールの言葉を聞いて一斉にヴリトラ達の方を向くラピュス達。茂みの中ではヴリトラ達がゆっくりと足元を見ながら進んでいる姿があった。

 ヴリトラとジャバウォックは一歩ずつ、足元に怪しい物が無い事を確認しながら茂みの奥へと入っていく。するとヴリトラが足を止めて立ち止まる。その隣を歩いていたジャバウォックも立ち止まった。


「どうした、ヴリトラ?」

「・・・ここを見てみろ」


 ヴリトラに言われて彼の視線の先を見るジャバウォック。そこに茂みの草と明らかに色の違う草が重なる様に何枚も敷かれてある。そしてその大きさは馬一頭が簡単に入る程の物だった。ジャバウォックは背負っているデュランダルを抜き、切っ先でゆっくりとその重なっている草を突いた。すると、その草には地面に触れる感触が無く、まるでその下に空洞がある様だった。二人は反対側の茂みを調べているニーズヘッグの方を向くと、ニーズヘッグも二人の方を真剣な顔で見ている姿がある。


「二人とも、そっちに色違いで重なっている草が有ったか?」

「ああ。そっちもか?」

「有ったよ。コイツは多分・・・」


 ニーズヘッグが腰に収めてあるアスカロンを抜いて勢いよく切っ先で敷かれている草を突いた。すると草は突然沈む様に凹み、その下には大きな穴が有った。そう、ブービートラップの定番、落とし穴だ。しかもその落とし穴の底には先の尖った太い木が何本も立ててあり、落ちれば串刺しになると言う仕掛けだ。ヴリトラ達も落とし穴を解除すると茂みの外へ出て行き、ニーズヘッグの茂みから出て来た。


「やっぱり罠だったか」

「だけどよぉ、どうしてこんな茂みの中に仕掛けてるんだ?これじゃあ道を通って来る敵には意味ねぇだろう」

「恐らく敵は俺達が罠を警戒して道じゃなく茂みを通って来ると考えて罠を仕掛けたんだろう」

「裏をかいたって訳か」

「ああ、でも入口の近くにも罠が仕掛けたある筈だ。気は抜けない」


 ジャバウォックとニーズヘッグが罠を仕掛けた敵の事、これから先にも罠が待ち構えていると話しながら森の入口を見つめる。ヴリトラは他に自分達の周りに罠が無い事を確認すると隠れているラピュス達に手を振って合図を送る。ラピュス達は安全が確認された事を知り、周囲を警戒しながらヴリトラ達の元へ走って行った。


「やっぱり罠は有ったのか?」

「ああ、落ちたら即死するかもしれない落とし穴がな。だけど、俺達がこれから入るのは森だ。森はそれそのものが罠と言っていい場所、木々で囲まれて感覚がおかしくなって迷う事もあるし視界も悪くなって敵の姿も確認し難くなる。しかもこのフォルモントの森は敵が潜伏している森だ、俺達は文字通り敵の罠の中に入っていく事になる。・・・皆、これからが本番だ。一瞬たりとも気を抜くなよ!」


 ヴリトラの力の入る言葉にラピュス達は彼の方を見て頷く。そしてヴリトラ達は目の前に立ちはだかる自然の迷宮と言える森を見上げるのだった。

 ストラスタ軍本隊が潜伏してると思われるフォルモントの森にやって来た七竜将と姫騎士達。崖に囲まれ、先が見えない位の広い森でヴリトラ達のストラスタ軍の討伐作戦が始める。そして彼等は猛獣ドレッドキャットとどう戦うのだろうか?


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