第四話 異世界ファムステミリア
突然不思議な林にやって来た七竜将はそこで盗賊団クレイジーファングの一味を名乗る男に襲われている老人とその孫を助ける。そして老人から今自分達がいる所はアメリカのコロンビア州ではないという事を聞かされるのだった。
盗賊を倒したヴリトラ達は老人の孫を手当てする為にバンに戻り、ニーズヘッグ達に現状を説明する。話しを聞いたニーズヘッグ達は驚いたが、バンやニーズヘッグ達の事を知った老人も驚いていた。
「はい、これでいいわよ」
「ありがとう、お姉ちゃん」
小さな岩の腰をおろして、擦りむいたところをジルニトラに治療してもらった孫は笑って礼を言う。そんな孫を見てジルニトラも笑って立ち上がり救急箱をバンにしまった。
ジルニトラは七竜将の衛生兵を務めており、簡単な応急処置や擦りむき程度の傷なら簡単に治療してしまう。孫は自分の腕や膝に付けられている絆創膏を不思議そうに見つめて触っていた。まるで絆創膏を始めてみたような感じだ。
「ありがとうございました。命を助けてもらっただけではなく、孫の傷まで治療してもらって」
「気にしないでください」
頭を下げて礼を言う老人を見てヴリトラは小さく笑う。周りではリンドブルム達もそんな老人を見つめていた。笑っている者もいれば、無表情な者もいる。
老人は頭を上げるとヴリトラ達の後ろに停まっている二台のバンを見て珍しそうな顔を見せる。老人も絆創膏を見ていた孫の様に不思議そうにバンを見つめた。
「しかし・・・ジドウシャ、でしたかな?こんな鉄の塊が走るとは、とても信じられません。何処の国でもこのような物を作る事は出来ませんからな」
「車を作る事が出来ない。ここは一体どんな所なんだ?」
老人の話を聞いていたニーズヘッグはバンにもたれながら腕を組んで自分達のいるこの世界の事を考え込んだ。周りにはビルも道路も無く、中世風の町と城があり、目の前に立っている老人は自動車を見た事がない、まるでタイムスリップしたような感じだった。
「あの~、バロンさん、でしたっけ?」
「え?ああ、はい、何でしょう?」
ニーズヘッグが考えている時、リンドブルムが老人の名前のような言葉を口にして声を掛ける。実は少し前に老人はヴリトラ達に自分達の名を伝えて簡単な自己紹介をしていたのだ。
名を呼ばれたバロンはリンドブルムの方を向いて返事をし、目の前の小柄な少年を見下した。
「今、僕達七竜将は全員揃っています。出来ればもう一度、戻って来る途中に話した内容を説明して頂けますか?」
「ええ。構いませんよ、恩人である貴方がたの為なら、儂等も出来るだけ力になりましょう」
「ありがとな、爺さん」
リンドブルムの後ろで彼に変わり礼を言うジャバウォック。戻って来る途中にヴリトラ、リンドブルム、ジャバウォックの三人にはこの国の事を一通り話しをしたが、その場にいなかったニーズヘッグ達にはまだ話していない。そこでリンドブルムは話しの内容を確認するのと同時にニーズヘッグ達に説明する為にバロンにもう一度説明してもらう事を頼んだのだ。
バロンは近くにある切株に腰をおろし、孫も座バロンの下へ駆け寄って、バロンに抱きつきながらヴリトラ達を笑顔で見つめる。
「改めまして、助けていただいてありがとうございます。儂はバロン・デンドリオスと申します。こっちは孫のマリ・デンドリオスです」
「よろしくお願いします」
自己紹介をされて頭を下げる孫のマリ。マリの笑顔を見てヴリトラ達も笑って挨拶をする。
自己紹介を終えたバロンは自分達のいる場所のこの国の事を細かく説明し始める。
「まず、ここはレヴァート王国の首都、ティムタームの近くにある林です。儂等そのティムタームで酒場をやっております。レヴァート王国はこの『ファムステミリア』と呼ばれる世界にある大陸、『ヴァルトレイズ大陸』の北東に位置する国で自然の豊富な国なのです」
「レヴァート王国にファムステミリアか・・・まさかヴリトラの言うとおり、本当に異世界に来ちまったとはな・・・」
「にわかに信じられないわねぇ」
バロンの話を聞き、自分達が全く違う異世界に来てしまった事を理解するニーズヘッグとジルニトラ。最初は信じられなかったがニーズヘッグ達だが、オロチの集めた情報とヴリトラ達から聞かされた話しを聞いて信じる事になったのだ。ジルニトラの隣ではファフニールが何やらウキウキしながら腰を揺らしている。
「でもでも、私一度でいいからそんな経験をしてみたかったんだぁ~!漫画やアニメで『自分もこんな世界に行ってみた~い』っていつも思ってたもん♪」
「何を楽しんでいるんだ?私達は道の世界に来てしまったんだぞ?子供みたいにはしゃぐな」
「ぶ~!いいじゃんちょっとぐらい。それに私、まだ十四歳で子供だもん」
浮かれているファフニールを注意するオロチを見上げてファフニールは頬を膨らます。前に仕事でコロンビアの聖地の隠れ家は襲撃した時は子供扱いされて怒っていたが、今度は自分を子供扱いしているという矛盾。オロチとファフニールのやり取りを見てジルニトラとニーズヘッグはめんどくさそうな顔を見せている。
「あ、あの~、続けてもよろしいですかな?」
「え?・・・え、ええ。どうぞどうぞ」
話が変わった事で黙ってやり取りを見ていたバロンがヴリトラ達の方を向いて話しを戻すかを尋ねる。ヴリトラもそんなバロンを見て苦笑いをしながら話しを続けるよう伝える。
バロンが話しを続けることに気付いたオロチとファフニールは言い合いを止めてバロンの方を向いた。そして再びバロンの説明が再開される。
「先程も仰ったように、ここはレヴァート王国の首都の近くです。この大陸にはレヴァート王国以外にも、北西に商業の国『ストラスタ公国』、東にレヴァート王国と同盟を結んでいる『セメリト王国』、南にヴァルトレイズ大陸最大の軍事国家『神聖コラール帝国』、そしてコラール帝国に並ぶ程の領土を持つ国『オラクル共和国』の五ヵ国がこの大陸に存在しているのです」
「それで、その五つの国の中で、俺達はレヴァート王国にいるって事ですね?」
「はい。この国の事で儂から話せることはこれ位かと・・・」
ヴリトラが再確認するように自分達がいる国の名を尋ねるとバロンは頷き、話を全て終える。自分達がいる国は大陸に幾つもある国の一つであるという事を知って考え込むヴリトラ。その隣でリンドブルムとジャバウォックも同じような顔で考え込んでいた。
「あの、考えている所を悪いのですが、こちらからもいつくかお聞きしたい事があるのですが?」
「ん?・・・ああぁ、そうでしたね。すんません」
考え込んでいるヴリトラを見るバロンはそんなヴリトラに声を掛けた。散々訊くだけ訊いといて自分達の事を何も話さないのはある意味で失礼だ。そう思いヴリトラはバロンへお詫びをして質問を聞いた。
「貴方がたは一体何処からいらっしゃったのですか?服装といい、その後ろのジドウシャといい、貴方がたの話の内容からどうもこの世界の人間とは思えないのですが・・・」
「・・・・・・ええ、そのとおりです」
バロンの話の内容は認めるヴリトラ。その周りリンドブルム達が静かな、そして真剣な表情でバロンの方を向く。突然真剣な顔にあんった七竜将達にバロンは少しだけ緊張する。
「どうやら俺達は自分達のいた世界とは違う世界、つまりこのファムステミリアに来ちまったみたいなんです」
「こことは違う世界、ですと?」
「ええ。俺達は・・・」
ヴリトラはバロンとマリに自分達が何者で、何処から来たのか、どうしてこの林にいるのかをできるだけバロンとマリに理解出来るように説明した。時々ヴリトラの説明では理解できないところもあったが、そこはニーズヘッグとジルニトラが代わりに説明した。
それからしばらく説明して話しを終えると、バロンは信じられないような顔で驚き、マリは目を輝かせながら話しを聞いた。
「チキュウにアメリカ、それにトカイですか。そんな物がある世界から来られたなんて信じられません。と、言いたいところですが、後ろにある自動車を見れば信じるしかありませんな」
「あっ、自動車を見ただけで信じちゃうんだ・・・」
意外にあっさりと七竜将が別の世界から来たという事を信じるバロンを見てファフニールは驚く。ジルニトラやニーズヘッグも同じような表情を見せていた。オロチは無表情でバロンとマリを見つめていた。
お互いに相手の事を理解し合った事で、今後の事を話し始めるヴリトラ達。
「それで、皆さんはこれからどうなさるのですか?」
「とりあえず、此処から1K先に有る町へ行って、なにか元の世界へ戻る手がかりを探そうと思っています」
「此処から1K?・・・ティムタームに行かれるのでしたら儂等がご案内しましょう」
「え?あの城のある町が首都なんですか?」
「ええ、儂とマリはここまで木の実を集めに来ていたのです。その帰りにあの盗賊に襲われてしまいましてなぁ」
ヴリトラ達が見て城のある町が首都ティムタームだと説明するバロンは、自分とマリがこんな遠くまで来た理由を説明する。そこへ道案内までしてくれると言う彼の言葉はヴリトラ達にとっては天の助けだった。
「助かります。なにしろここがどんな所でどんな道になっているのかも分からないもんで・・・」
「ハハハハ。ではご案内します、ついて来てください」
苦笑いをしならが頭を掻くヴリトラ。そんなヴリトラを見てバロンは笑っていた。バロンは立ち上がって林道に沿って歩き出した。
「あっ、待ってください。此処から町まで1キロあるんです、乗っていってください」
「え?乗るとは、その自動車にですか?」
「はい、二人が乗るくらいのスペースはありますから」
ヴリトラは後部座席のドアを開けてバロンとマリを招く。突然見た事の無い自動車に乗れと言われて少し戸惑いを見せるバロン。だが、マリのとても楽しそうな顔で車に飛び乗り、空いている後部座席に座った。
「うわぁ!お爺ちゃん、この椅子とっても柔らかいよ」
「マ、マリ・・・」
楽しそうに椅子に座り飛び跳ねるマリを見るバロン。此処で自分が驚いていては祖父の威厳がないと思ったのか、ゆっくりとバンに乗った。そしてマリの隣の座席に座って、感触を確かめる。
「おお、確かに柔らかいのぉ。今まで座った椅子は全部硬かったからな」
「でしょう?私この椅子すっごく好き!」
経験した事の無い椅子の座り心地にバロンとマリのテンションは上がる。それを見ていたヴリトラ達も笑って二人のやり取りを見ていた。
ヴリトラはリンドブルム達を見て次の行動を指示する。
「よし、これから首都ティムタームに向かうぞ。俺達がバロンさんに案内してもらって首都に向かって走るから、お前達は後に続いてくれ」
「OK!」
「了解だ」
「置いて行かないでよ?」
二号車に乗るジルニトラ、ニーズヘッグ、ファフニールはヴリトラの顔を見て一言挨拶をしバンに乗り込んだ。残ったヴリトラ、リンドブルム、ジャバウォック、オロチもそれぞれ自分の席に座り、バンのドアを閉めた。全員が乗ると、二台のバンは林道を走り、首都ティムタームに向かっていくのだった。
道中、走っているバンに驚きながらも外を眺めながらやや興奮していたバロンとマリ。そんな二人をヴリトラ達は何処か楽しそうに見ている。林を抜けてしばらく走っていくと、ティムタームの町が近づいてきた。
高い壁に囲まれた町を更に大きな川が囲んでいる。その川に大きな橋が架けられており、橋の入口には槍を持っている兵士のような男が三人立っている。装備は軽装で、中世時代の一般兵の様な姿をしている。その内の二人は橋の前に立ち、もう一人は休憩場の様な建物の中で待機している。
「あそこの橋が町への入口です」
後部座席から前方の橋を指差して説明するバロン。兵士に気付いたヴリトラがアクセルから足を離して速度を落とす。ジャバウォックとオロチも後部座席から橋を見て興味のありそうな顔をしていた。
「町に着いたのはいいけど、どうやって町に入ろうか?もし僕の予想通りだったら橋の兵士達は車に驚いて僕達を町に入れてくれないと思うよ」
「ああ、俺もそう思ってた」
兵士達の反応を想像してヴリトラとリンドブルムがどうするかを考える。そんな時、バロンがヴリトラとリンドブルムの顔を見て声を掛ける。
「その事でしたら安心してください。あの兵士達が儂の酒場によく出入りしていますからな。顔がきいています、なんとか説得してみましょう」
「本当ですか?」
「ええ。とりあえず橋の近くまで近づいてください」
バロンの言葉に期待し、ヴリトラは言われたとおり橋の近くまでバンを走らせることにした。
橋の前では二人の兵士が退屈そうに空を眺めている姿があった。そんな二人を小屋の中からもう一人の兵士がジッと見つめている。
「おい、空なんか眺めてないでちゃんと仕事しろ!」
「いいじぇねぇか少しぐらい。いきなり敵の大群が迫って来るなんてことはねぇんだしよ」
「そうそう」
まじめに仕事をする様に言う兵士を軽く流して空を見ながら気を抜いている二人の兵士。そんな二人を小屋から出てきた兵士は呆れるような顔で見ていた。
「そうやって怠けているといざという時にしっかりと対処出来ないんだ・・・ん?」
「どうした?」
「お、おい、何だありゃ?」
兵士が何かに気付いて指を指した。怠けていた二人の兵士も指を指した方を向く。三人の視界に自分達に向かって来るヴリトラ達のバンが目に入った。
見た事の無いバンの見て驚く三人。槍を構えて近づいてくるバンに槍先を向ける。徐行して近づいてくるバンに驚きながら、槍を構えたまま後ろに下がって行き、バンが停車すると警戒しながら近づいて行く。
「な、な、何者だぁ!?」
兵士がバンに向かって叫ぶと、一号車の後部の扉が開いた。突然開いた扉に兵士達は驚き後ろに下がる。扉が完全に開くと後部からバロンがゆっくりと降りてきて兵士達の方を向く。
「お前さん達、しっかり仕事をしておるか?」
「ア、アンタは酒場のバロン爺さんじゃねぇか?」
バロンが兵士達の方へ歩いてくる姿を見て兵士達もようやく落ち着いたのか、槍を構えるのを止めてバロンの方へ歩いて行き、後ろのバンをチラッと見てバロンの方を向く。
「お、おい爺さん、何だよありゃあ?」
「あれか?ホッホッホ、自動車という物じゃ」
「ジドウシャ?何だよ、鉄で出来た馬か?」
最初は自動車を始めて見て驚いていたバロンも、初めて自動車を見た兵士達の反応を見て楽しそうな顔をしている。
バロンと兵士達の会話を見て、運転席のヴリトラと後部座席にいたマリとジャバウォックも降りてきた。突然降りてきたヴリトラ達を見て兵士達は再び槍を構える。振り向いたバロンは兵士達が構える理由を知ってもう一度兵士達を落ち着かせる。
「待て待て、この人達はこの自動車の持ち主で儂とマリを助けて下さった方々じゃ」
「爺さんとマリちゃんを助けたって事か?」
「そうじゃ。ちょっと理由があっての、町まで案内したんじゃよ。スマンがお主等、彼等を町に入れてやってはくれんか?」
あえてヴリトラ達が別の世界から来た事を話さずに町に入れるよう兵士達を説得するバロン。だが、兵士達もそう簡単に中へ入れる事は出来ない。難しい顔をして兵士達は首を横へ振った。
「いやぁ、いくら爺さんの頼みでもそれは無理だ。俺達にも立場ってもんがあるからな」
「ああ、怪しい奴を町に入れずに町を守る、それが俺達の任務なんだよ」
「それに、町の外から町へ入るには通行証が必要なのを爺さんも知ってるだろう?」
三人の兵士達は自分の立場を考え、町を守る兵士としての任務を果たす必要がある。確かにいきなり見た事の乗り物に乗って、ファムステミリアでは見かけない服装をしている人間を何の許可も無く通す事は出来ない。それは町に害をなす可能性を少しでも減らす為でもあった。
兵士達の答えを聞いたバロンは自分の懐から一枚の羊皮紙を取り出して兵士達に見せる。そこにはファムステミリアのものなのか、ヴリトラ達が見た事の無い文字が細かく書かれてある。
「儂の持っている通行証じゃ。これを持っとる儂の同行者という事なら問題なかろう?」
「いや、通行証があってもあんな物を持つ連中を簡単に入れる事は出来ないんだよ」
「儂の命の恩人なのじゃぞ?少しくらい大目に見てくれても罰は当たらんじゃろう」
「それでもやっぱり城の者に一度話をつけてからじゃないと無理だよ、そりゃあ」
なかなか話の進展がない様子をヴリトラ達は黙って見ている。バンの中ではリンドブルムとオロチが退屈そうに外を見ており、二号車でも動かない一号車をニーズヘッグ達が黙って見ている。
長々と話しをしているバロンと兵士を見て腕を組むジャバウォック。その足元ではマリが小さくジャンプをしてはしゃいでいた。
「あのおじさん達ね、お爺ちゃんのお店で毎日お酒を飲んでるんだよ」
「ん?あの三人の兵士がか?」
「うん。それでね、お金が無い時はいつもお爺ちゃんに頼んで、お金を後払いにしてもらってるんだ」
「ほぉ~、ツケか」
酒場での兵士達の頼み込む姿を想像してジャバウォックは微妙な笑みを浮かべた。
後ろで話をしているジャバウォックとマリの話を聞き、バロンは何かを閃いたのか目を光らせて兵士達を見る。
「お前さん達、そう言えば儂の店でかなりツケが溜まってるようじゃが、いつになったら払ってくれるんじゃ?」
「なっ!?じ、爺さん、今その話は関係ねぇだろう?」
「もし!儂の頼みを聞いてくれるのだったら、今までのツケを全て無かったことにしてもいいんじゃがなぁ?」
「「「なっ!?」」」
ツケを帳消しにすると言うバロンの言葉に兵士三人は声を揃えて驚く。どうやら相当ツケが溜まっているようだ。
そんな兵士達に背を向けてバンの方へ歩いて行くバロンは手を振りながら兵士達に軽く声を掛けた。
「じゃが、お主達にも立場があるんじゃったなぁ。なら仕方がない、諦めるがツケはしっかりと払ってもらうぞ?びた一文まけん」
バロンの後ろ姿を見ながら兵士達は相談をし始めた。ここでヴリトラ達を通せば自分達のツケは無くなる、だが通さなければツケはそのまま。相当ツケが溜まっているであろう、彼等にとっては願っても無いチャンスだった。
しばらく話をしていた兵士三人はバロンの方を向き、一人の兵士が手を振った。
「わ、分かった!通ってもいいぜ!」
「・・・よし」
兵士達の方を向いてニッと笑うバロン。その様子を見ていたヴリトラとジャバウォックは肩を落として溜め息をつく。
「結局金で選んだのか、あの人等は・・・」
「あんな奴らに門の守りを任せて大丈夫なのか?」
「大丈夫だよ、おじさん達はちゃんとお仕事をするから」
兵士達に不安を抱くヴリトラとジャバウォックをマリは笑いながら見つめる。
話がまとまり、バンから七竜将全員が出てきて橋の前で何やら話しをしている。その内容はバンを何処へ停めるかという事だった。流石にこの世界には存在しないバンを真に中に入れるとパニックになると考えた兵士達はバンを何処かへ隠すという条件を出してきた。ヴリトラ達もこればかりは仕方がないと周りを見てバンの隠し場所を探す。
「どの辺りに隠そうか?」
「なるべく目立たない所がいいんじゃねぇか?」
ファフニールとジャバウォックが周りを見回してバンを隠しても変に思われない所を探す。ヴリトラ達も辺りを見回して隠し場所を探している。そんなとき、オロチが町の入口の近くにある大きな木とその下にある茂みを見つけた。
「あそこでいいんじゃないか?あそこだったら町を囲む城壁と大きな木に茂みでバン全体を隠す事が出来る」
「あ、本当だ!」
「んじゃ、あそこで決まりね?」
オロチの見つけた隠しポイントを見て賛成するリンドブルムとジルニトラ。ヴリトラ達も異論は無く、バンを動かして壁と茂みの間に二台のバンを隠した。更に木がある為、上から見つかる心配もない。
車を隠し終えたヴリトラとニーズヘッグがリンドブルム達の下へ戻ってくる。バロンはヴリトラ達を見て町へと招き入れる。
「ようこそ、首都ティムタームへ。まずは儂の店に来てください。娘に貴方がたを紹介したいのです」
「確かバロンさんは酒場をやっているって言ってましたね?」
「ええ、酒場でしたら色々と情報が入って来ると思われます」
「そうですか。それじゃあ寄らせていただきます」
バロンの申し出を受けてヴリトラは笑って返事をする。バロンは見張りの兵士達に手を振って挨拶をすると、ヴリトラ達の前を歩き案内を始める。ヴリトラ達は自分達の武器を持ち、オロチとファフニールは旅行カバンのような大きなカバンを持ってバロンの後をついて行った。
残された兵士達はヴリトラ達の後ろ姿を見ながら小声で話を始める。
「お、おい、思わず通しちまったけどよ、どうするんだよ?」
「・・・とりあえず、王国の騎士団に知らせておいた方がいいな」
王国の騎士団、何やら組織のような言葉を口にして兵士の一人が町に入り、奥にある城の方へ走って行った。
異世界ファムステミリアの国の一つ、レヴァートの首都にやって来た七竜将はバロンの経営する酒場へ向かっていった。その時、レヴァートに存在する騎士団が動いている事を、そしてその騎士団に所属している二人の騎士が彼等にとって重要な存在だという事を誰も気付いていなかった。
次回、いよいよヒロインの登場です!