第四十二話 血塗れのリンドブルム
ブルトリックの差し向けたブラッド・レイクエム社の機械鎧兵士達を倒したヴリトラ達はブルトリックを捕縛する為に本拠点である屋敷の中に侵入する。だがブルトリックが用意していたBL兵がリンドブルム達の前にも立ち塞がっていたのをヴリトラ達は知らずにいたのだった。
ヴリトラ達がBL兵達と戦いを始めていた時と同じ頃、町長の屋敷から400m程離れた所にある街道でリンドブルム達は五人のBL兵に行く手を塞がれていた。MP7とマチェットを構えているBL兵達は街道に三人、街道を挟む様に建てられている左右の民家の屋根の上に一人ずつ立っており、リンドブルム達はBL兵を見つめて武器を構える。
「ど、どうしてブラッド・レクイエムの機械鎧兵士がいるの?」
「知らないわよ、そんな事!」
突然現れて自分達に武器を構えるBL兵達を見てリンドブルムは驚き、ジルニトラは汗を垂らしながらサクリファイスを構えて言った。そんな二人の会話にジャバウォックが加わり、デュランダルを両手で握りながら口を開く。
「前にヴリトラがジークフリートと一戦交えたんだから、ブラッド・レクイエムの機械鎧兵士が他にいても不思議じゃねぇよな?」
「でもどうしてストラスタ軍の補給基地にいるわけ?」
「さぁ、そこまでは分からん!」
ジルニトラの質問にジャバウォックはBL兵の方を見ながら答える。街道に立っている三人のBL兵はマチェットを両手で持ち、屋根の上にいるBL兵達はMP7の引き金に指を掛けていつでも攻撃できる状態に入っていた。そんなBL兵達を見てリンドブルム達は鋭い表情で彼等を見つめる。
「でも、今はこの人達をやっつける事が大事なんじゃない?」
「・・・私もそう思う」
ファフニールはギガントパレードを両手で持ちながらリンドブルム達に今の状況をなんとかする事を提案し、ブラッド・レクイエム社の機械鎧兵士の事を何も知らないラランも危険な状況だという事だけは理解してファフニールの意見に同意する。二人の話しを聞いたリンドブルム達も二人をの方を向いた後にBL兵達を見つめながら自分達の武器を構えた。
「確かにそうだね、今は彼等を倒すことに専念しよう!」
「どうして此処にいるのかは後でいくらでも調べられるしな」
「じゃあさっさとコイツ等を倒してヴリトラ達と合流しましょうか!」
リンドブルム達はそれぞれ自分の戦うBL兵を見つめながら戦闘態勢に入った。リンドブルム、ララン、ジャバウォックは街道の三人を、ジルニトラとファフニールは屋根の上にいる二人に視線を向ける。そしてその直後に屋根の上にいた二人のBL兵がMP7を発砲。銃口から吐き出された弾丸がジルニトラはファフニールに迫って行く。だが二人も正面からの攻撃を横に跳んで簡単に回避する。
銃撃を回避したジルニトラは屋根の上にいるBL兵に狙いを定めてサクリファイスの引き金を引いた。BL兵は屋根の上を走りその場から移動、彼が立っていた所の屋根は銃撃のよって穴だらけになる。
「あっ!待ちなさい!」
走り出したBL兵の後を追うジルニトラ。同じ速さで走る二人は互いに自分の銃で走っている相手を狙い発砲し続けた。ジルニトラはサクリファイスを撃ちながら速度を上げたり下げたり、左右へ移動するなどをして銃撃を回避し、BL兵もMP7を撃ち続けながらジャンプしたりなどをして攻撃をかわした。走りながら相手の弾丸を一発も受けずに銃撃し続けるジルニトラとBL兵。これが機械鎧兵士である彼等だからこそできる事だった。
ファフニールも屋根の上から銃撃してくるBL兵と向かい合っていた。飛んで来る弾丸をかわしながら何とか凌いでいる。
「うわうわうわうわうわ~っ!」
足元に命中し、無数の穴を開ける弾丸に驚きながら両足を上下に動かすファフニール。その光景はまるでギャグ漫画で銃撃を避ける様な姿に見えた。BL兵が弾倉の弾を全て撃ち尽くすと、銃撃が止み新しい弾倉と交換する。その一瞬の隙を見てファフニールはギガントパレードを両手で持ちながら高くジャンプし、BL兵のいる屋根と同じ高さまで上がった。そしてそのままギガントパレードを振り下ろしてBL兵に攻撃する。弾倉交換中のBL兵は咄嗟に屋根から飛び降りてその攻撃を回避。BL兵の立っていた所はギガントパレードのよって破壊され大きな穴が開いた。幸いその民家には誰もおらず、怪我人が出る事は無かったようだ。
「あっ!逃げちゃったぁ!」
屋根から飛び降りたBL兵を見て、ジャンプしていたファフニールもそのまま降下し街道に着地する。BL兵の方を見ると、新しい弾倉を入れ終えたBL兵がMP7をファフニールに向けて引き金を引いた。ファフニールも咄嗟に横に移動して銃撃を回避。回り込む様にBL兵に向かって走って行き、距離を詰めるとまたギガントパレードで攻撃を仕掛ける。今度の攻撃は反応が遅れたのか、BL兵は回避に遅れてしまい、なんとか攻撃を受けずには済んだが手に持っていたMP7はギガントパレードの頭に当たり粉々になってしまう。回避したBL兵は壊れたMP7を捨てて腰のマチェットを抜いて左手に持つと、右腕内側前腕部の装甲を動かす。中からは外に向かって真っ直ぐ伸びる刃が飛び出て来た。それを見たファフニールはギガントパレードを握って構え直す。
「内蔵武器を使うんですね?・・・それじゃあ、私もちょっと本気を出しますよ」
構えながら鋭い目でBL兵を見つめるファフニール。彼女はMP7による遠距離攻撃からマチェットと内蔵短剣を使った近距離攻撃にパターンを変えた敵とどう戦うのか。
その頃、ジルニトラとファフニールから少し離れた所ではリンドブルム達がマチェットを持っているBL兵と睨み合っていた。戦いが始まってからお互いに相手の出かたを見るだけでどちらもまだ攻撃を仕掛けていなかった。
「攻撃してこないね・・・?」
「待ってるんだろう?戦いでは先制攻撃を仕掛けた方が隙を見せる事がある、それを待ってるんだよ」
「・・・警戒心が強い」
目の前のBL兵を見つめながら同じように出かたを待つリンドブルム達。そして遂に戦いに動きが見えた。今までマチェットを構えていたBL兵達が痺れを切らせたのか高くジャンプしてリンドブルム達に跳びかかって来る。それを見てリンドブルム達も後ろに跳んで距離を作った。リンドブルムが後ろに跳びながらライトソドムとダークゴモラを跳んでいるBL兵達に向けて銃撃した。弾丸が真っ直ぐBL兵達に向かって飛んでいく、だがBL兵達は持っているマチェットで弾丸を全て弾き落してしまう。そして着地した直後に地を蹴り、リンドブルム達に向かって跳んで迫って来た。
「うわぁ!来た!」
一気に近づいて行きたBL兵に驚くリンドブルム。三人は地に足が付くとそれぞれ別々の方へ跳んでバラける。BL兵達もそれぞれ自分の相手の跳んだ方へ向かいその後を追う。
リンドブルムは距離を取ってBL兵の方を向きライトソドムとダークゴモラを構え直す。目の前にはマチェットを片手に走って来るBL兵の姿があり、リンドブルムは愛銃二丁で応戦する。二丁の銃口から吐き出された弾丸は回転しながらBL兵に向かって行き、BL兵はその弾丸を回避するなり、マチェットで弾くなりして全て防いでリンドブルムとの距離を縮めていく。そして目の前まで近づいたBL兵はマチェットを大きく横に振ってリンドブルムに攻撃を仕掛けた。リンドブルムも迫って来るマチェットの刃を体を後ろに倒しギリギリで回避する事に成功した。斬撃をかわすと、マチェットを持っている腕を蹴り上げて隙を作り、そこへライトソドムでカウンター攻撃を仕掛ける。だが放たれた弾丸はBL兵に簡単にかわされてしまった。
「ま、また・・・!?」
連続で自分の銃撃を回避された事に驚くリンドブルムは態勢を直して直ぐに距離を取りBL兵を見つめる。BL兵も蹴られた腕をもう片方の手で擦りながらリンドブルムを見つめる。互いに相手に一撃も傷を負わせられず睨み合いに入った。
ジャバウォックも愛用の大剣デュランダルを器用に操りBL兵のマチェットによる連撃を防いでいた。身長2m近くの巨漢と彼よりも若干身長の低いBL兵の激しいぶつかり合いが街道の隅で繰り広げられていた。
「流石ブラッド・レクイエムの兵士だ、今まで戦って来たストラウスの連中とは比べものにならねぇな」
緊迫したような表情でBL兵を見ながら斬撃を止めるジャバウォック。デュランダルとマチェットの刃がぶつかり火花が飛び散り、周囲に金属音が響く中、ジャバウォックとBL兵は腕に力を入れて相手を押し戻そうとする。そして互いに相手の刃を押し戻して大きく後ろに跳んだ。二人がほぼ同時に地に足を付けると、BL兵は左腕後前腕部の装甲を動かして小型ミサイルをジャバウォックに向かって発射する。
「チッ!」
BL兵が放って来た小型ミサイルを見て舌打ちをするジャバウォックは上半身を横へ反らしてミサイルを回避。そのままBL兵に向かって走り一気に距離を縮め、デュランダルで攻撃する。BL兵は後ろに跳んで攻撃をかわすとまた地を蹴りジャバウォックの方へ跳んで行き、跳んだ状態のままジャバウォックに斬撃を撃ち込んだ。ジャバウォックはその斬撃をデュランダルで何とか防いだ。
「何て奴だ、あの状態で素早く攻撃して来るとは!」
敵の移動速度を恐ろしく感じながらもその場に踏みとどまるジャバウォック。こちらもお互いに一歩も譲らずに戦いを繰り広げているようだ。
そしてラランもBL兵と交戦中だった。だが彼女はラピュスと同じように機械鎧兵士と戦うのは初めてである為、どのように対抗していいのか分からない。しかも自分以上に身体能力の優れている機械鎧兵士が相手だ、ラランはBL兵に押されていた。
「はぁはぁはぁ・・・」
突撃槍を構えながら目の前でマチェットを構えているBL兵を見つめながら息切れをするララン。バラけてから彼女はBL兵に押され続けていた為、体力が一方的に削られ続けていたのだ。
(・・・このままじゃ、負ける)
心の中で呟くラランは突撃槍の先をBL兵に向けて構えている。そこへBL兵が容赦なく攻撃を仕掛けてきた。マチェットでラランに突きを撃ち込むと、ラランは横へ移動して突撃槍でカウンターする。だがBL兵はラランの突撃槍を片手で止めてしまう。
「!」
自分の突撃槍を片手で止められた事に驚くラランは隙だらけだ。そこへBL兵がマチェットでまた攻撃をしてきた。ラランは咄嗟に突撃槍から手を放して後ろに下がり、腰に収めてある非常用の短剣を抜いて構えた。BL兵もラランの突撃槍を捨てて再びマチェットを構える。得物を手放し戦力を大きく削られたラランは文字通り万事休すだった。すると、突然街道に銃声が響き、ラランの前にいるBL兵が高くジャンプして後ろに移動する。
「大丈夫、ララン?」
ラランの下にリンドブルムが駆け寄って来た。どうやらさっきの銃声はリンドブルムがBL兵に攻撃した時の銃声の様だ。リンドブルムはBL兵に警戒しながら落ちているラランの突撃槍を拾い彼女に手渡した。
「・・・ありがとう。そっちは終わったの?」
「それがねぇ・・・全然」
ラランの質問に苦笑いをしながら答えるリンドブルム。するとそこへリンドブルムが相手をしていたBL兵もやって来て二人の前でマチェットを構える。ラランが相手をしていたBL兵も合流して戦力が更に大きくなった。
「・・・それで、どうするの?」
「う~ん、どうしようか~」
「何も考えずに合流したのかよ?」
リンドブルムが悩んでいるとジャバウォックも二人の下のやって来て合流する。そしてもう一人のBL兵もやって来て、三人は戦いが始まる前の状態に戻ってしまった。三人のBL兵に囲まれながらリンドブルム達は自分の相手を見つめながら会話を始める。
「そう言うジャバウォックだってまだ倒せてないじゃない?」
「俺はお前達が大丈夫か心配で来たんだよ。それに久しぶりに機械鎧兵士を相手にするから勘が鈍っちまったんだ」
「・・・それって、言い訳?」
「お、お前なぁ・・・」
ラランがジト目で尋ねるとジャバウォックは汗を垂らしながらラランを見る。そんな時、突然ラランが相手をしていたBL兵が持っているマチェットをララン目掛けて投げつけてきた。
「!」
マチェットに気付いたラランは回避行動に入るが、反応が遅れてしまいマチェットはラランの細い腕を掠った。
「ううっ!」
腕から伝わる痛みにラランが声を漏らしその場で片膝をつく。
「ララン!」
「大丈夫か!?」
攻撃を受けたラランを心配するリンドブルムとジャバウォック。ラランの腕には切り傷が生まれ、そこから赤い血が溢れて腕を伝って滴り落ちていく。ジャバウォックはBL兵に警戒しながらバックパックから応急処置用の包帯を取り出してラランの腕に巻く。その間、リンドブルムがBL兵達を警戒していた。
「・・・大丈夫、掠り傷だ」
「・・・ありがとう」
包帯を巻くジャバウォックに礼を言うララン。それをチラッと見て安心するリンドブルムの顔に小さな笑みが浮かぶ。そんなリンドブルム達を見て、BL兵はマチェットを構え直し、マチェットを投げたBL兵は右腕内前腕部から刃を出して構える。
「・・・・・・」
リンドブルムは目の前で武器を構え直すBL兵と背後で膝をつくラランを見ると、両手に持っているライトソドムとダークゴモラをホルスターに戻し右腕の手首を内側に動かし始める。すると手首の付根の部分から鋭い刃が飛び出した。
ジャバウォックはリンドブルムの機械鎧から飛び出した刃を見て突然表情を鋭くする。
「ヤバいな。リンドブルムの奴、短剣を出しやがった・・・。ララン、俺がいいって言うまで目を閉じてろ」
「・・・なんで?」
「これから此処が地獄になるからさ・・・」
「・・・どういう事?」
「いいから目を閉じろ」
理由も話さずに目を閉じろと言ってくるジャバウォック。だがラランはそれで納得が出来なかった。
「・・・それじゃあ納得できない。理由を教えて」
「・・・・・・はぁ、口じゃあ説明できねぇ。知りたいならリンドブルムの戦いを見ろ。但し、後悔しても知らないからな?」
「?」
後悔、その言葉が引っかかり小首を傾げるララン。ジャバウォックはそう言いながらリンドブルムを見つめながらデュランダルを握り、ラランもジャバウォックの言葉の意味が気になりながらもリンドブルムを見つめる。
リンドブルムは短剣を出した後、目を閉じて俯いたまま立っていた。隙を見せたままその場に真っ直ぐ立っているリンドブルムを見て一人のBL兵がチャンスとばかりマチェットを構えて跳びかかった。そんな中、リンドブルムはピクリとも動かずに俯いたまま立っている。ラランは危険な状態のリンドブルムを目にし驚きの表情を見せ、その隣ではジャバウォックが慌てる様子も見せずにただ鋭い表情のままリンドブルムを見つめていた。
BL兵のマチェットがリンドブルムの首筋に触れそうになった時、リンドブルムは閉じていた目を開いて顔を上げる。そして次の瞬間、リンドブルムは一瞬にしてBL兵の真後ろに移動していた。右腕を横に伸ばし、少し姿勢を低くしているリンドブルム。BL兵はリンドブルムが立っていた所にマチェットを構えたまま立っている。そして、しばしの沈黙が続くとBL兵の首筋から真っ赤な血が噴水の様に引き出したのだ。
「!!」
突然目の前で首筋から血を噴き出すBL兵を見て驚きのあまり固まるララン。BL兵はそのままゆっくりと俯せに倒れて二度と動く事はなかった。リンドブルムは姿勢を戻して右腕を軽く振ると残りのBL兵達の方を向き右腕の短剣を顔の前まで持ってくる。そして仲間が倒されて驚いているBL兵達を見つめてニッと笑う。
「・・・何、あれ?」
「だから見ないほうがいいって言ったんだ」
表情を固めながらリンドブルムを見つめているララン。その声は震えており、今のリンドブルに若干恐怖を感じていた。そんなラランを見てジャバウォックは頭を抱えながら呟く。ラランが驚くのも無理はない、なぜなら今のリンドブルムは相手を殺す事を楽しむ狂人のような顔をしていたのだから。
目の前で笑いながら自分達を見つめるリンドブルムにBL兵は寒気を感じたのか一歩後ろに下がった。一方でリンドブルムは笑いながらゆっくりとBL兵達に近づいて行く。
「・・・フフフ、どうしたの?相手は子供だよ?何をそんなに驚いているのかなぁ?」
不気味な笑みを浮かべながらBL兵達に言い放つリンドブルム。今のリンドブルムにはさっきまでの優しい少年の面影は殆ど残っていない。BL兵達は目の前の小さな少年に自然と危機感を感じていた。そんなBL兵を見てリンドブルムは再び不気味な笑みを浮かべ、BL兵達に向かって走り出す。BL兵の一人が向かって来るリンドブルムに向かって走り出し機械鎧の刃で攻撃を仕掛ける。だがリンドブルムはその攻撃を意図も簡単に回避してBL兵に斜め切り上げを放つ。BL兵の左腰から右肩まで切り傷が生まれて赤い血がタクティカルベストを染める。BL兵はそのまま仰向けに倒れて動かなくなった。短剣と頬に付着している血を気にする事なくリンドブルムは残りのBL兵を見て笑い出した。
「フフフ、アハハハハ!次はアンタだよ?」
リンドブルムの笑みを見て一瞬悪寒を感じたBL兵は後ろに跳んで距離を作ると左腕を突き出し小型ミサイルを機械鎧から出して発射しようとする。だが気づいた時、リンドブルムは既にBL兵の目の前まで来ており、笑いながらリンドブルムは横切りをBL兵に放つ。BL兵の腹部には横に伸びる切り傷ができ、そこから出血しBL兵は無言のまま前に倒れる。前に立っていたリンドブルムは横へ移動して倒れてくるBL兵を避けた。一瞬にして倒された三人の機械鎧兵士、その光景を見ていたラランに顔からは血の気が引いていた。
BL兵を全員倒して戦いが終ると、遠くからジルニトラとファフニールの声が聞こえてきた。
「おーい!そっちは片付いたー?」
「私達はもう終わって・・・あれ?」
走ってリンドブルム達の下へやって来たジルニトラとファフニールはリンドブルムと倒れているBL兵の姿を見て足を止める。血まみれになっているリンドブルムとその足元で倒れている三人のBL兵、その光景を見た二人は何があったのか察したのかラランとジャバウォックの方を向いた。
「あらら、リンドブルムったら、刃物を使っちゃったのね・・・?」
「もしかしてララン、リンドブルムをずっと見てたのかな?」
「多分ね・・・」
ラランの凍りついた表情を見てジルニトラとファフニールの二人は困り顔を見せる。ラランは青ざめた顔でリンドブルムを見つめながら座り込んでいた。そんな時、今度は遠くから無数の足音と男の声が聞こえてくる。声の聞こえた方を見ると約100m離れた所に曲がり角から姿を見せた無数のストラスタ兵がリンドブルム達を見つけて武器を構える。
「マズイよ?こんな時に敵が来ちゃった」
「ええ・・・・・・血の海になるわね・・・」
ジルニトラが鋭い視線でストラスタ兵達を見て低い声を出した直後、さっきまで黙って立っていたリンドブルムがストラスタ兵達に向かって全力で走り出した。ストラスタ兵達は突然自分達に向かって走って来るリンドブルムに一瞬驚き隙を見せてしまう。そして一気に距離を縮めてリンドドブルムは右手の短剣で次々にストラスタ兵を切り裂いて行く。その間リンドブルムは不気味な笑みを浮かべながら敵を切り捨てて行き、その姿はまるで殺戮を楽しむ悪魔の様だった。
ラランは断末魔を上げるストラスタ兵とその命を奪って行くリンドブルムを見てわらわらと震えている。いつも無垢で楽しそうな表情で自分に接してきているリンドブルムとは全く違う姿、それはラランにとって非常に強すぎる衝撃だった。
「言っただろう?後悔しても知らないって?」
震えているラランを見てジャバウォックは呆れる様な顔でそう言う。しばらくして全てのストラスタ兵が倒れて戦いは終わる。死体と血の海の真ん中ではリンドブルムが血塗れの姿で一人ポツンと立っていた。その中でリンダブルムは短剣を機械鎧の中にしまい、表情が少しずつ元に戻っておき、いつものリンドブルムに戻った。周りで倒れているストラスタ兵の死体を見てリンドブルムが小さく溜め息をつく。
「おつかれ~」
遠くから聞こえてくるジャバウォックの声に反応して振り返るリンドブルム。ジャバウォック達がリンドブルムの方を向いてゆっくりと近づいてくる。その中でラランだけは俯いてリンドブルムと目を合わせようとしなかった。
「今回も派手にやったわね?」
「・・・うん」
ジルニトラからタオルを受け取って顔に付いている血を拭き取るリンドブルムは俯いているラランの方をジッと見つめる。ラランが顔を上げてリンドブルムと目が合うと逃げる様に目を反らした。
「・・・君にはあの姿を見られたくなかった」
目を反らすラランに寂しそうな声で話しかけるリンドブルム。ラランは目を反らしながらリンドブルムの声を聞き、目だけを彼の方に向ける。この後、リンドブルム達はヴリトラ達と合流する為に本拠点のある町長の屋敷に向かう。その間も、リンドブルムとラランの間には重い空気が漂っていたのだった。




