第四十一話 対決! 機械鎧兵士VS機械鎧兵士
遂にストラスタ軍の指揮官、ブルトリックのいる本拠点に突入したヴリトラ達。だが、そこで彼らを待ち受けていたのは何とブラッド・レクイエム社の機械鎧兵士だった。サブマシンガンを手にヴリトラ達を取り囲む五人のBL兵達。ヴリトラ達は一気に危険な状態に追い込まれてしまった。
自分達を五つの方向から取り囲むBL兵を互いに背を向けながら見つめて武器を構えるヴリトラ達。なぜブラッド・レクイエム社がストラスタ軍についているのか、その理由が未だに頭から離れずにいた。
「どうしてブラッド・レクイエムの兵士がこの町にいるんだよ?て言うか、なぜストラスタ軍についているんだ!?」
「今はそれどころじゃないだろう?まずはコイツ等を倒す事が先決だ!」
理由が分からずに頭を悩ませているヴリトラにニーズヘッグが今何をするべきなのかを力の入った声で伝え、目の前にいるBL兵の方を向き直す。バルコニーではブルトリックが腕を組みながら囲まれているヴリトラ達を見下ろしている姿がある。
「ハーハハハハッ!ソイツ等は異世界から来たとか言う組織の兵士達だ。ソイツ等の力を見くびるなよ?一人で十人分の戦力になると言われているらしいからな?」
「随分と詳しいんだな?」
ヴリトラがBL兵を警戒しながらバルコニーで勝ち誇りながら笑っているブルトリックに尋ねる。ラピュス達もその事が気になるのか同じように警戒しながらブルトリックに視線を向けた。
「ハハハ!当然だ、儂はこの目でソイツ等の戦う姿を見たのだからなぁ?この町を攻める時にも随分と活躍してくれた」
「・・・・・・成る程、読めたぜ?この町の兵士や騎士を何の要求もせずに処刑したのは町の住民達の抵抗意思を削ぐ為だけじゃなく、戦った兵士達がコイツ等の存在を広めていようにする為、つまり口封じの為だったって事か?」
「ほぉ?なかなか勘が鋭い小僧だな?」
話を聞いたニーズヘッグが兵士達を処刑した理由を推理する姿を見てブルトリックは感心する。言葉からしてニーズヘッグの想像通りの様だ。そこへ更にオロチが二人の会話に参加してきた。
「更にストラスタ兵達の会話を聞いて、彼等はブラッド・レクイエムの事を一言も口にしなかった。・・・ストラスタ軍の兵士達もブラッド・レクイエムの存在を知らないのだろう・・・?」
「・・・フッ」
オロチを見下ろして鼻で笑うブルトリック。どうやら図星の様だ。自分の切り札であるブラッド・レクイエム社の部隊の事を詳しく知っている侵入者達を見てブルトリックの顔からさっきまでの楽しそうな笑みが消えて鋭い表情にヴリトラ達を見つめている。
「・・・貴様等こそ、ソイツ等の事に詳しいようだな?一体何者だ?」
「答えてもいいけど、その場合はこっちの質問にも答えてもらうぜ、隊長さん?」
ヴリトラは自分達を見下ろしているブルトリックをニッと笑いながら見上げる。余裕の表情を見せているヴリトラが気に入らないのか、ブルトリックは表情を若干険しくして手すりから体をのり出しヴリトラを睨んだ。
「貴様、立場がまるで分かっていないようだな?お前達が質問を出来る状況だと思っているのか!これから死ぬ者の質問に答える気などないわぁ!」
「なら、俺達もアンタの質問に答える気は無いね」
鼻で笑いながら言い放つヴリトラとそんな彼を小さく笑いながら見ているニーズヘッグに無表情のまま見つめるオロチ。そしてラピュスは余裕を崩さずにいられるヴリトラに驚き目を丸くしてた。
ヴリトラの態度にとうとうブルトリックの我慢の限界が来たのか、手すりを両手で強く叩きながら怒りの顔を露わにする。
「ぐおぉ~~!この小僧がぁ!そんなに死にたいのなら望みどおりにしてやる!お前達、生け捕りは止めだ、ソイツ等を皆殺しにしろぁ!!」
堪忍袋の緒が切れたブルトリックはBL兵達にヴリトラ達を殺すように指示を出して屋敷の中に入っていった。残されたヴリトラ達とBL兵達はそれぞれ相手を見つめて自分達の武器を構える。だがヴリトラ達は敵に囲まれている状態にあり、彼等が不利な状況なのは明白だった。
「おいおい、これってヤバいんじゃね?」
「見れば分かるだろう・・・?」
苦笑いをしながら分かりきった事を尋ねるヴリトラにオロチは静かな声で答える。その直後にBL兵達がMP7の銃口をヴリトラ達に向け、ゆっくりと引き金にかけた指を動かす。それを見たヴリトラは表情を一変させる。
「オロチッ!」
「!」
鋭う表情でオロチに呼びかけるヴリトラ。反応したオロチは自分の左隣に立っているラピュスの体に空いている手を回し、そのまま勢いよくジャンプする。
「うわあぁっ!」
突然自分を抱えてジャンプするオロチと跳び上がった事に驚いて声を上げるラピュス。それに続きヴリトラとニーズヘッグもオロチ程ではないが高くジャンプする。その直後、ヴリトラ達を囲んでいたBL兵達はヴリトラ達の立っていた所に一斉にMP7を発砲。銃声を上げて地面に弾痕と砂煙が生まれた。ヴリトラはBL兵の指の動きを見て彼等が銃を発砲してくる事を読んでいたようだ。
ジャンプで銃撃を回避したヴリトラ達はそれぞれ別々の方向へ跳んでばらけた。ヴリトラは屋敷から少し離れた庭の中央に、ニーズヘッグは庭の隅にある花壇の前に、そしてラピュスとオロチは屋敷の屋根の上の着地した。それを見たBL兵達もヴリトラ達のいる所に向かって大きく跳んだ。ヴリトラの前に二人、ニーズヘッグの前に一人、ラピュスとラランの前に二人が着地してMP7の銃口を向ける。
「まだ銃を使う気か?」
銃口を向けるBL兵二人を見て低い声で尋ねるヴリトラは森羅を右手で持ち強く握ると、森羅をもの凄い速さで横に振る。切っ先はBL兵達の触れるか触れないかのギリギリの位置を通過し、BL兵達も突然森羅を振ったヴリトラに驚いて後ろに跳ぶ。そしてヴリトラを狙って引き金を引くが、弾が出なかった。不思議に思ったBL兵達が持っているMP7を見ると、MP7の銃口からストック部分まで一本の切れ目が生まれ、次の瞬間にMP7はバラバラになって破壊された。
「「!」」
持っていたサブマシンガンが粉々になった事に驚くBL兵達。そのままヴリトラの方に視線を向けると、ヴリトラは峰で肩を軽く叩きながらBL兵達を細い目で見つめる。
「空気読めよ?」
ヴリトラのその一言を聞いたBL兵達は無言のまま手に持っている壊れたMP7の銃把を捨て、腰に収めてあるマチェットを抜き両手で構える。それを見てヴリトラも小さく笑って森羅を両手で構えた。対等の条件になってヴリトラもやり気が出たようだ。
ニースヘッグの方でも戦いが始まっていた。ニーズヘッグはBL兵の銃撃を回避しながらアスカロンの刀身を伸ばして攻撃する。だがBL兵もその攻撃をジャンプで回避すると、空中で再びMP7を乱射。ニーズヘッグはアスカロンの刀身を戻しながら横に跳んで回避した。
「流石機械鎧兵士、今までのストラスタ兵とは訳が違うな」
今まで戦ってきたストラスタ軍の兵士とは明らかに実力のが違うBL兵を見てアスカロンを構え直すニーズヘッグ。BL兵も庭に降り立つと左手にMP7を持ち、空いた右手で腰のマチェットを抜いて片手で構える。
(チッ、銃とマチェットの両方かよ。面倒だな・・・。それにあのマチェットも恐らく超振動の鉈だ、切れ味はアスカロンと同じ位、もし機械鎧に触れたら傷ついちまう・・・)
BL兵の持っているマチェットが七竜将の使うのと同じ超振動する武器と考えて心の中で舌打ちをするニーズヘッグが鋭い目でBL兵を睨む。互いに近距離と遠距離での攻撃が出来る状況、条件が互角なら後は技量次第の戦いになる。
「・・・・・・フッ!」
先に仕掛けたのはニーズヘッグだった。勢いよくアスカロンを振ってまた刀身を伸ばし攻撃する。BL兵は横に跳んで攻撃を回避すると直ぐにMP7を撃つ。銃口から吐き出される先端の尖った弾丸がニーズヘッグに迫って行く。
通常サブマシンガンと言えば拳銃と同じ9mm弾を使用するが、MP7はPDWと言うライフルと拳銃の中間に位置する銃だ。ライフル弾を小さくしたような特殊弾を使用し、拳銃並みの軽さと反動にライフル並みの貫通力を備えている為、各国の特殊部隊が多く使用している。そしてブラッド・レクイエム社でもそのPDWを採用しているという訳だ。
弾丸は真っ直ぐニーズヘッグの方へ飛んで行き、彼に当たると思われていたが、ニーズヘッグも負けずと体を反らして回避し、アスカロンの刀身を戻して右腕の機械鎧から機銃を出して反撃する。だが、BL兵も楽々とその銃撃を回避した。
「チッ!かわされたか」
銃撃を回避されて悔しがるニーズヘッグ。再びニーズヘッグとBL兵の睨み合いが始まった。
そしてラピュスとラランも屋根の上でBL兵二人の相手をしている。と言っても、ラピュスは姫騎士とは言え普通の人間、普通の人間が機械鎧兵士に勝つのを難しく、ラピュスに勝機が見える様になるまでオロチが一人で相手をする事になった。
「オ、オロチ、大丈夫か?」
「ああ、この程度なら大したことはない・・・」
オロチの後ろで心配そうな顔をするラピュス。今彼女はオロチの後ろに隠れており、オロチはラピュスの盾になっている状態だった。オロチは斬月を両手で持ち、目の前でMP7を構えているBL兵二人を見つめていた。ラピュスを庇っている為、思いう様に動けないオロチにBL兵は容赦なくMP7を発砲する。ところが事態は思っている以上に酷くは無かった。一見、オロチが不利な様に見えるが、オロチは表情を崩す事無く、斬月の大きな刃を盾代わりにして全ての弾が防いでいたのだ。いくら貫通力の高いMP7でも超振動戦斧の刃を貫通する事は不可能だ。更にオロチのずば抜けた動体視力によって弾の流れは見えておりオロチは一発の銃撃も受けていない。
しばらくすると長かった銃撃は止まり、気付いたラピュスとオロチの眉が少し動く。
「どうした?それで終わりか・・・?」
斬月を下ろしながら尋ねるオロチ。そんなオロチを見てBL兵達は持っているMP7をしまい、腰のマチェットを抜いた。それを見たオロチはラピュスの前から移動して彼女と並ぶように立った。
「ラピュス、奴等はMP7の弾を使い果たしたようだ。もう奴等はマチェットでしか攻撃してこないだろう。これならお前にも勝機はある・・・」
「え?しょ、勝機?」
「ああ、ここからは私とお前、一人ずつ相手をする・・・」
「な、何だと!?無茶を言うな、アイツ等も機械鎧兵士なのだろう?普通の人間である私に勝てるはずがない!」
「そんな事は無い。普通の人間が機械鎧兵士に勝った例もある。お前にも出来る筈だ・・・」
勝つ自信がないラピュスを見て励ましているのか、オロチは冷静な口調でラピュスの背中を押す。
「それに、気の力を使える姫騎士と言う時点でお前は普通ではないだろう・・・?」
「何だか傷つく言い方だな・・・」
オロチの鋭い言葉にラピュスは汗を垂らしながらジト目で言う。そんなラピュスを気にしないように斬月を構えてBL兵達を見つめるオロチ。
「お前なら何とかなる。本気じゃなかったとは言え、初めて会った時にヴリトラを剣で殴り飛ばしたくらいなのだからな・・・」
オロチは初めてラピュス達と出会った時の事を話し、ラピュスも酒場で取り乱した自分がヴリトラを自分の騎士剣で吹っ飛ばした時の事を思い出す。複雑な表情を見せているラピュスの隣でオロチが今度は珍しく小さな笑みを浮かべた。
「安心しろ、全力で援護してやる・・・」
「あ、ああ・・・」
今まで感情を殆ど表に出さないオロチが珍しく笑った顔を見てラピュスは意外そうな顔をしながらも頷く。そして二人は自分の武器を手に握りながら目の前のBL兵を見つめて構え直す。そしてそれを見ていたBL兵達も一斉に屋根を蹴り二人に跳びかかった。
ラピュスとオロチが戦いを始めた頃、庭の真ん中ではヴリトラが森羅で二人のBL兵のマチェットを止めている姿があった。BL兵達は横に並んでマチェット両手で握りながら同時に振り下ろしてヴリトラを攻撃し、ヴリトラは森羅の柄を右手で握り、左手で峰を止めてながら刀身を横にして斬撃を防いでいる。森羅とマチェットの刃が触れ合う事で火花が飛び散り、高い金属音が周囲に響き渡る。
「んぎぃ~、流石に機械鎧兵士二人の斬撃を止めるのはキツイなぁ・・・」
自分と同じように機械鎧とナノマシンで戦闘能力を強化されたBL兵に若干苦戦している様に見えるヴリトラ。だが、実際ヴリトラは表情を歪んでいるだけで戦闘自体を辛いと思ってはいなかった。その証拠に手足に震えといったものは見られず、汗も掻いていなかった。しばらく刃を交え合っていると、ヴリトラは森羅を大きく横に振ってマチェットを弾くと柄を両手で握ってBL兵達の脇腹目掛けて横切りを放った。しかいBL兵達も後ろに跳んでヴリトラの斬撃を回避。攻撃をかわされて隙が出来たヴリトラに一人のBL兵がマチェットで突きを放つ。ヴリトラがその突きをかわすともう一人のBLへが袈裟切りを放つ。
「!」
ヴリトラは一瞬驚きはしたが森羅を器用に操り斜め切りを防ぐと後ろに跳んでBL兵達から距離を取る。二人のBL兵はマチェットを両手で握りながらじりじりとヴリトラに近づいて行く。ヴリトラは森羅を両手で構えていつでも相手の攻撃に対応できる態勢に入っていた。すると、ヴリトラに近づいていたBL兵達が突然足を止めて左腕をヴリトラに向かって突き出す。それを見て不思議そうな顔を見せるヴリトラ。その直後、BL兵達の左腕後前腕部の装甲が上がり、その下から小型のミサイルが姿を現したのだ。そしてBL兵達は同時にヴリトラに向かって小型ミサイルは発射した。
「げっ!?」
突然のミサイル攻撃に驚いたヴリトラは咄嗟に横へ跳んでミサイルを回避する。小型ミサイルは屋敷の隅に置かれている石像やベンチに命中して爆発する。
「この野郎、内蔵兵器を使いやがったなぁ!」
剣の戦いに機械鎧の内蔵兵器を使った事が気に入らなかったのか、ヴリトラはBL兵達を睨みつけながらBL兵に向かって走り出す。自分達に向かって来るヴリトラを見てBL兵達は新たなミサイルを撃とうと左腕をヴリトラに向ける。だが既にヴリトラは目の前まで近づいて来ており、ヴリトラは目の前にいるBL兵を左下から右上に向かって森羅を切り上げて攻撃する。BL兵の体に切り傷が生まれてそこから出血し、一人は呻き声を上げながら俯せに倒れる。
倒された仲間を見てもう一人のBL兵は一瞬驚くも、直ぐにヴリトラの方を向いてマチェットで攻撃しようとする。だがヴリトラは目にも止まらぬ速さでもう一人のBL兵を切り払う。するとBL兵の右肩から左の腰の部分まで切り傷が浮き上がり、BL兵の体は左斜め下にずり落ちてBL兵は命を失った。ヴリトラは森羅を軽く振って刀身に着いた赤い液体を払い取った。
「剣士なら正々堂々、剣で戦え・・・!」
BL兵達の亡骸を鋭い目で見つめながら低い声で呟くヴリトラ。戦いが始まってから僅か数分で二人の機械鎧兵士を倒した彼の体には傷一つ付いていなかった。
ヴリトラが戦いを終わらせた頃、ニーズヘッグの戦いにも進展が出てきた。ニーズヘッグはマチェットを構えながらMP7を発砲してくるBL兵の攻撃を避けながら距離を縮めて行った。そしてBL兵の目の前まで近づくとアスカロンでMP7を弾き、左フックをBL兵の顔に撃ち込んだ。ニーズヘッグのパンチをまともに受けたBL兵はもの凄い勢いで殴り飛ばされて地面に叩きつけられる。
「機械鎧の腕で殴られたんだ、もう起き上がれないだろう?」
殴り飛ばしたBL兵を見ながらニーズヘッグは言った。すると、殴り飛ばされたBL兵はゆっくりと起き上がりニーズヘッグの方を見る。顔を隠しているフルフェイスマスクは殴られた事で凹んでおり、ダメージは受けているようだ。ゆっくりと立ち上がったBL兵を見てニーズヘッグは少し意外そうな顔を見せている。
「・・・まぁ、そんな都合よくはいかないか」
起き上がる事を予想していたのかニーズヘッグは苦笑いをしてBL兵を見つめる。マチェットを蝶手でく握り、地面を蹴ってニーズヘッグに向かって跳んで行くBL兵。ニーズヘッグがアスカロンのスイッチを押して刀身を鞭状にする。そしてそのまま刀身を頭上でグルグルと回し始め、勢いをつけると自分に向かって来るBL兵に向かって刀身を伸ばした。アスカロンの切っ先がBL兵に触れる瞬間、ニーズヘッグは柄を細かく動かした。それと同時に鞭状になっている刀身もまるで蛇の様に複雑に動き出す。刀身が動きを止め、アスカロンの刀身が元に戻ると、突然BL兵の両手両足の機械鎧がバラバラになり、体に無数の切り傷が生まれてそこから血が吹き出る。
「蛇走円舞陣!」
技の名前らしき言葉を口にするニーズヘッグがBL兵に背を向け、BL兵の体は低い音をたてながら地面に落ちた。
「ただ武器を使って戦うだけじゃ勝てないぞ?技や技術をしっかり身につけておけよ」
もう二度と戦う事のない相手に忠告するニーズヘッグ。そして彼の声が聞こえないであろうBL兵のバラバラになった体がその場で転がっていた。
屋敷の屋根の上ではラピュスとオロチが残りにBL兵と刃を交えていた。オロチはBL兵のマチェットを斬月の刃で止め、火花が飛び散る中で攻防を続けていた。BL兵のマチェットを斬月の刃や柄で防ぎながら隙を見つければ反撃するオロチ。だが、BL兵もオロチの斬撃をかわしながら屋根の上を移動する。そしてラピュスもBL兵のマチェットを騎士剣で止めていた。こちらは普通の人間と機械鎧兵士の戦いである為、戦力に大きな差が出ている。
「ぐうぅ!何という力だ!」
ラピュスは屋根の上でBL兵のマチェットを騎士剣で止めながら汗を垂らしている。騎士剣とマチェットの刃が触れ合う事で飛び散る火花に驚きながらも必死で踏ん張りBL兵の押しに堪えていた。だがBL兵はそんな事もお構いなしに力を入れてラピュスを押していく。次第にラピュスは屋根の端へ端へと追い詰められていき、徐々に逃げ道を無くしていく。
(マ、マズイ。このままだと屋根から落される!)
ラピュスは自分の立ち位置を確認し、自分が窮地に追い込まれている事を心の中で悟る。だがラピュスとていつまでも一方的に押されるつもりは無かった。足に力を入れて踏み止まると両手にも力を入れて騎士剣を大きく横に振りマチェットを払い、BL兵に向かって斜め切りを放った。だがBL兵はラピュスの斬撃を機械鎧の腕で防ぎ、騎士剣と機械鎧がぶつかって高い金属音が響いた。
「なっ!?」
自分の攻撃が防がれた事に驚くラピュス。離れた所ではオロチがその金属音を聞いてラピュスの方を向いた。既にラピュスは屋根の隅まで追い込まれていつ屋根から落ちてもおかしくないと言っていい位の状況に追いやられていた。
「マズイ・・・」
ラピュスの危機を知り、オロチはラピュスの救援に向かおうとする。だがオロチの相手をしていたBL兵がそれを見逃す筈がない。ラピュスに視線を向けているオロチのマチェットで攻撃を仕掛ける。オロチはいち早く気配に気づいてBL兵の斬撃を斬月の柄で防ぐ。そしてそのまま斬月を器用に操りBL兵を胴体から真っ二つにした。BL兵の上半身は屋根を転がって庭に落ちて行き、下半身はその場で倒れた。
BL兵を片付けたオロチはラピュスの方を向く。だがそこには騎士剣を弾かれて武器を失ったラピュスの姿があった。ラピュス自身も抵抗する術を失いゆっくりと後ろに下がるも、既に後は無かった。BL兵は追い込んだラピュスを見つめてマチェットを両手で握り上段構えに入る。
「クッ!ここまでか・・・!」
覚悟を決めて目を閉じるラピュス。だがその時、BL兵の真上を何かが通過した。ラピュスがその通過した物の気配に気づいて目を開くと、ラピュスの目は空をブーメランの様に舞う斬月を捕らえた。斬月は遠くで何かを投げる体制をしているオロチの手の中に戻り、オロチは斬月を肩に担いだ。どうやらオロチがラピュスを助けるために斬月を投げたようだ。それを見て小さく笑みを浮かべるラピュス。そこへオロチが喝を入れた。
「おい、まだ戦いは終わってないぞ・・・?」
「え?」
ラピュスはフッとBL兵の方を見る。そこにはなぜか両腕を失って戸惑う様に立っているBL兵の姿があり、その足元にはマチェットを握ったままのBL兵の両腕が落ちていた。実はさっきの斬月はBL兵の両腕を切断する為の物だったのだ。斬られた腕からバチバチとスパークが起きているのを見てBL兵は後ろに下がる。そしてラピュスもそれがチャンスと悟り、落ちているBL兵のマチェットを拾った。マチェットを掴んでいるBL兵の腕を外し、自分の手でしっかりと握ったラピュスはBL兵に袈裟切りを放つ。BL兵は抵抗する間もなくその場に仰向けに倒れた。動かなくなったBL兵を見た後にラピュスは力が抜けたのかその場に座り込む。
「・・・ふぅ」
「大丈夫か・・・?」
ラピュスの下にゆっくりと近づいて尋ねるオロチ。ラピュスもそんなオロチを見上げて苦笑いを見せる。
「ああ、流石に今回はしんどかった・・・」
「これでお前は機械鎧兵士との戦闘経験を得た。奴等の強さと力の大きさを理解し、どう戦えばいいのかを考える事が出来るようになった・・・」
「今回はオロチが助けてくれたから勝てたんだ。お前がいなかったら私は今頃・・・」
「それでもお前がブラッド・レクイエムの機械鎧兵士を倒したのは事実だ。もっと自信を持て・・・」
オロチはラピュスを見つめて冷たい声でありながらもラピュスを励ますように言った。それを聞いてラピュスもしばらく黙って考えていたが、ゆっくりと立ち上がりオロチの方を向いて頷く。この時、ラピュスとオロチの間に小さな友情が生まれたのだった。
「お~い!大丈夫かぁ?」
庭の方から聞こえてくるヴリトラの声にラピュスとオロチは下を見る。するとヴリトラとニーズヘッグが物置などを踏み台にして二階の屋根に跳び上がって来た。
「大丈夫か?」
「ああ、こっちはなんとかな」
「そうか、こっちも片付いた」
ヴリトラとラピュスがお互いの状況を報告し合い、もう周りに敵がいない事を再確認する。
「それじゃあ、残るは・・・」
「ブルトリックだな?」
「ああ、それじゃあやっこさんに挨拶に行きますか?」
「そうだな・・・」
ニーズヘッグ、ラピュス、ヴリトラ、オロチがブルトリックを拘束する為に屋根からバルコニーに飛び降りて屋敷の中へ入っていく。
ヴリトラ達は見事にブラッド・レクイエム社の機械鎧兵士部隊を倒し、ブルトリックの捕縛に向かう。だが彼等はリンドブルム達も機械鎧兵士達と戦っている事をこの時にはまだ知らなかったのだ。




