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機械鎧(マシンメイル)は戦場を駆ける  作者: 黒沢 竜
第三章~戦場に流れる鎮魂曲(レクイエム)~
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第四十話  進撃の戦士達と予期せぬ敵

 ゴルバンの町の奪還作戦を始めたヴリトラ達は次々とストラスタ軍の拠点を制圧していき、向かって来るストラスタ兵達を薙ぎ倒していった。僅か九人の侵入者に大勢で戦いを挑むも、あまりの力の差と見た事のない武器に手こずるストラスタ軍は後退していく。その現状にゴルバンの町の指揮官であるブルトリックも焦りを見せ始めていたのだった。

 夜の町中が騒がしくなっている中、ヴリトラ達は最初の拠点を制圧してから僅か一時間で七つの拠点を制圧し終える。倒した敵の数は既に五十人を超えており、今も次の拠点に向かって進撃していた。


「放てーーっ!」


 街道の真ん中で陣を構えているストラスタ兵の部隊。その先頭に一列に並ぶ十人の弓兵の姿がある。部隊の端で馬に乗っている隊長と思われる騎士の合図で弓兵達は一斉に矢を放つ。彼等が矢を放った先には斬月を片手に全力でストラスタ兵達に向かって走るオロチの姿があった。オロチは鋭い表情で向かって来る矢を見て持っている斬月を自分の前に持ってきて両手で勢いよく回転させる。すると、矢は回転している斬月によって全て弾かれて地面に落ちた。弓兵やその後ろにいる他の兵士達もアッサリと矢を落された事に驚き言葉を失っている。


「甘いぞ・・・」


 固まっているストラスタ兵達を見ながら静かに呟くオロチ。斬月の回転を止めると走りながら並んでいる弓兵達に向かって斬月を投げた。回転しながら弓兵達の目の前を横切って全員を切り裂いた斬月はブーメランの様に手の中に戻り、オロチはそのまま敵部隊に向かって走り続けた。

 ストラスタ兵達は簡単に倒された弓兵達に驚いたが直ぐに態勢を立て直す。今度は後ろに控えていた八人の重歩兵が大盾を持ち、オロチを見ながら構える。どうやら近づいてきたオロチに攻撃を正面から止めるようだ。


「正面から挑む覚悟はいい。だが、敵は私一人ではない・・・」


 オロチはまた小さな声で呟き、足に力を入れて5m近い高さまでジャンプした。突然跳び上がったオロチを見上げるストラスタ兵達はまたしても驚いて言葉を失う。そんな兵士達をオロチが走ってきた方向からニーズヘッグが見ている。ニーズヘッグは右足の膝を付けて左足の機械鎧の膝の装甲を動かし、以前使った大型マイクロ弾の狙いを重歩兵達に定めている。


「こっちを見ろよ!」


 ニーズヘッグはオロチに意識を向けているストラスタ兵達を見て言い放ちながら大型マイクロ弾を発射する。左足の大腿の中から放たれたマイクロ弾は真っ直ぐ重歩兵達に向かって行く。オロチに意識がいっていた重歩兵達は大盾の防御も解けており完全に無防備状態だった。そして気付いた時には大型マイクロ弾は自分達の目の前に来ていたのだ。そしてその直後、大型マイクロ弾は横一列に並んでいる重歩兵達の真ん中に命中、八人全員を吹き飛ばした。


「な、何だ、この爆発は!?」

「敵の気の力か!?」


 突然の爆発に驚いて戸惑いを見せるストラスタ兵達。重歩兵の後ろにいた数人の兵士を吹き飛ばし、隊長と思われていた騎士も爆発に驚いた馬から振り落とされて地面に叩きつけられ、馬はその場から走って逃げ去って行く。しかし、それで終わりではなかった。未だにジャンプしたままのオロチは兵士達の真上から様子を伺っており、両足の機械鎧の装甲を動かした。彼女の両脚の下腿の外側の装甲が開き、中から三つの穴が開いた長方形の機械が姿を現した。


「こっちも見ろ・・・」


 オロチが静かな声でそう言った瞬間、両脚の機械の三つの穴から一斉に小型のマイクロ弾が発射され、計六発の小型マイクロ弾が爆発で動揺しているストラスタ兵達の真上から雨のように放たれる。小型マイクロ弾はニーズヘッグの方に意識が向いている兵士達を全員吹き飛ばした。兵士達の叫び声が爆発と同時に響き灰色の煙が街道を包み込む。オロチがストラスタ兵達の真後ろの位置に着地して振り返ると、煙が薄くなっていき、その中で二十人はいたであろうストラスタ兵達が倒れている姿があった。その殆どが爆発によって息絶えており、僅か数人が瀕死の状態になっていた。

 僅か十数秒で戦いが終わり、ニーズヘッグの後ろで待機していたヴリトラとラピュスがそん光景をジッと見つめている姿があった。


「す、凄い。三十人近くはいた敵部隊をあっという間に・・・」

「マイクロ弾は元々対物火器の一種で人間ならあっという間に消し飛ばしてしまう程の威力がある。オロチの使う小型は厚さ40mmの鋼板をも貫通するくらいだ」

「それなら、ニーズヘッグの大型だとどうなんだ?」

「まぁ・・・当たり所にもよるけど、戦車一台を吹き飛ばすくらいはあるな」

「セン、シャ・・・?」


 久しぶりにヴリトラ達の世界の物の名前を聞いて理解し辛い様な表情で聞き返す。


「あ~、その~、分かりやすく言えば自動車の上に大砲が付いた様な物だな」

「大砲?大砲って船に取り付けられているあの大砲の事が?」

「ああ、それそれ!て言うか、この世界には大砲があるのか?今まで知らなかったぞ?」

「それは無理もない。大砲がこの世界では船くらいにしか付けられていない代物だからな。火薬も大砲の弾を作ったりするぐらいにしか使わないからな」

「マジかよ?勿体ねぇなぁ・・・」

「も、勿体ない?」


 戦場の真っ只中でいきなり大砲の話をし始めるヴリトラとラピュス。そんな二人を離れた所でニーズヘッグはジト目で、オロチは無表情で見ていた。


「おーい!お前等、此処が戦場だって事を忘れてないか?」

「イチャつくは後にしろ・・・」

「だ、誰がイチャついていると言うんだ!」


 無表情でからかう様に言ってくるオロチにラピュスは頬を少し赤くして否定するラピュス。その隣ではヴリトラが困ったような顔で自分の頬を指で掻いている。そんな時、ヴリトラ達の向かう先の方からまた大勢の声が聞こえてきた。それに気づいたヴリトラ達は陰険な表情を見せて声のする方を向く。


「また来やがったか?」

「恐らくさっきの爆発で近くにいた敵が私達の居場所に気付いたのだろう」

「チッ!ここじゃあ、あんまりマイクロ弾の様な物は使わない方が良さそうだ。簡単に敵は倒せるけど敵に気付かれる危険も高くなる」


 森羅と騎士剣を握るヴリトラとラピュスはニーズヘッグとオロチの下へ駆け寄り、二人と合流して声のする方を見て構えた。すると、自分達から100m先の曲がり角から新たなストラスタ兵の部隊が姿を見せる。数は約二十人で馬に乗った騎士や重歩兵、槍や剣を持った兵士が大勢おり、直ぐにヴリトラ達の存在に気付いて武器を構える。


「まったく、こう次から次へと来られちゃあ、こっちの身が持たないぜ」

「なら、さっさと敵の本拠点を制圧してストラスタ軍を投降させた方がいいのではないか・・・?」


 めんどくさそうな顔をしているヴリトラにオロチが斬月を握り、無表情のまま尋ねる。そこへニーズヘッグはアスカロンを構えて二人を見ながら口を開く。


「確かにな。俺達は既に七つの拠点を制圧した。リンドブルム達もある程度は拠点を制圧しているだろう、そろそろ本拠点に攻め込んでも大丈夫だと思うぜ?」


 ニーズヘッグもオロチの案に賛成なのか、彼女の案を後押しする。ヴリトラは前にいるストラスタ兵達を見つめがらしばらく考え、目を閉じて小さく笑う。


「まっ、確かにそれもそうだな。あんまり時間を掛けてちゃあ弾薬も尽きちまうし、そろそろ敵の大将にご挨拶に行きますかぁ」

「フッ、決まりだな」

「ああ・・・」


 敵の本拠点に攻め込む事を了承したヴリトラを見てニーズヘッグと珍しくオロチも笑って頷く。そんな三人の会話を聞いてたラピュスは騎士剣を両手で握りながら会話に入って来た。


「その前に、まじは目の前の敵を倒す事が先決だろう?」

「おっと、そうだったな。そんじゃあ、コイツ等を片付けてからリンドブルム達の報告して本拠点に向かいましょうかぁ!」


 ニッと笑って森羅を構えるヴリトラ。ラピュス達も自分達の武器を構えて100m先にいるストラスタの部隊に向かって走り出した。それを見てストラスタ兵達も向かって来る僅か四人の侵入者に全員で向かって行く。

 その頃、リンドブルム達も幾つかの拠点を制圧して町の中を進んでいた。リンドブルム達が通った所には大勢のストラスタ兵達が倒れており、その殆どが銃創を負っている者達ばかりだった。そして今も遠くから数発の銃声が聞こえている。

 民家の前に置かれてる樽の陰に隠れながらサクリファイスの弾倉を新しいものと交換するジルニトラ。彼女から50m程離れた所では三人の弓兵が重ねてある木箱の陰に身を隠してジルニトラの隠れている樽目掛けて矢を放っていた。一人ずつ矢を放ち、ジルニトラに反撃の隙を与えないようにしているのだ。


「まったく、矢をあんな風に撃ってくるなんて敵も意外と冴えてるわね?」


 樽の陰から矢を撃ってくる弓兵達を鬱陶しそうに見るジルニトラ。今でも弓兵達は休む間もなく矢を撃ち続けており、樽の陰から一歩も動けない。と、誰もが思う状況だが、彼女は機械鎧兵士。鬱陶しくは思うが、厄介だとは思っていない。彼女が樽の陰に隠れたのはあくまで弾倉を交換する為。ジルニトラは弓兵達の矢を放つタイミングを計り、一瞬の魔が出来た瞬間に樽の陰から飛び出して弓兵達に向かってサクリファイスの引き金を引く。銃口からは無数の弾丸が吐き出され、木箱や姿を見せている弓兵に命中する。木箱に隠れていた弓兵も木箱を貫通した弾丸の餌食となり、三人の弓兵は一斉にその場に倒れた。弓兵を倒したジルニトラは地面に横になった状態で倒れているストラスタ兵達を見つめている。


「ふぅ、こんな奴等に手間取っちゃった・・・」


 ゆっくりと起き上がると、ジルニトラの下へ愛銃を握ったリンドブルムが駆け寄って来た。


「大丈夫?」

「ええ、こっちは何ともないわ。そっちは?」

「ララン達が向こうで増援と戦ってる」

「増援?まったく切りがないわねぇ。それじゃあ、あたし達もジャバウォック達と合流・・・」


 しよう、と言おうとした瞬間、二人の足元の一本の矢が刺さった。気付いた二人が周囲を見回すと、目の前にある見張り台の上から二人を狙った弓を構えている弓兵の姿があった。その姿を見てジルニトラはまためんどくさそうな顔を見せて左手の機械鎧の甲の部分の装甲を動かした。機械鎧の中からは手の甲よりも少し小さい位の円盤状の機械が姿を現す。その中心にはレンズの様な物が付いており、次第に赤く光り出していく。そして左手を弓兵の足元に向けて突出しすと、その円盤状の機械から赤く光る細長い光線が見張り台に向かって真っ直ぐに伸びた。ジルニトラが左手を右下に動かすと光線も右下に動き、見張り台の脚を一瞬にして通過。光線が消えるのと同時に脚が傾き、弓兵のいる見張り台も傾きだしたのだ。


「な、何だ!?うわあああああ!」


 突然傾いた見張り台に驚く弓兵は何が起きたのかも理解出来ずに見張り台と共に地面に向かって落下。弓兵は地面に叩きつけられ、見張り台は大きな音を立ててバラバラになった。


「おお~!流石はTLW!どんな物でもあっという間に切り捨てちゃうね」


 ジルニトラの機械鎧から放たれた光線を見ながら感心するリンドウルム。実はジルニトラの機械鎧から出て来た赤い光線を出す機械はTLWタクティカル・レーザー・ウェポンと言う戦術レーザー兵器でメトリクスハートの発電力を利用して高出力のレーザーを撃つ兵器なのだ。七竜将の中でこのTLWを装備しているのは彼女だけ。只これを一度使うと次を撃つまでに五分間の充電時間が必要となる。

 リンドブルムの話しを聞いてジルニトラはハッとする。


「あ~っ、やっちゃったわぁ!町を解放したら町の人達が使うのに壊しちゃったわよぉ・・・」

「気にしない、形あるものみな壊れる」


 リンドブルムは壊れた見張り台を見ながら他人事の様に言う。そこへララン、ジャバウォック、ファフニールが合流して来た。どうやら増援は三人で片づけたようだ。


「おい、今のデカい音は・・・て、あれかぁ~」


 ジャバウォックはバラバラになっている見張り台を見ながら肩を落とす。彼の左右ではラランとファフニールも驚きな表情でガレキと化した見張り台を見つめている。


「ジルニトラがTLWで壊したんだよ」

「成る程な・・・」

「でもレーザーを使わないと勝てないような相手がいたの?」


 ファフニールが小首を傾げながらリンドブルムとジルニトラの方を向いて尋ねる。ジルニトラがファフニールは目を閉じながら小さく笑い首を横に振る。


「いんにゃ、サクリファイスの弾が勿体なかっただけ」

「あっ、そうなんだ」


 ジルニトラの言葉にファフニールは納得する。


(さっきは見張り台を壊しちゃったことに慌ててたくせに。だったら最初からサクリファイスで倒しなよ・・・)


 二人が会話をしている中、リンドブルムは目を反らしながら心の中で呟く。そんな時、ラランがリンドブルムに近づいて来て彼の肩を指で突いた。


「・・・レーザーって何?」

「え?・・・ああ、レーザーって言うのは・・・」


 レーザーの事を尋ねてきたラランを見てリンドブルムは説明しようとする。そんな時、小型通信機から受信音が聞こえ、七竜将は一斉に小型無線機のスイッチを入れる。


「こちらリンドブルム・・・」

「俺だ、ヴリトラだ」


 小型通信機から聞こえてきたのはヴリトラの声だった。七竜将は仲間が無事であることを確認して一先ず安心する。


「ヴリトラ、そっちはどう?」

「順調に敵拠点の制圧をしてってるよ。今のところ誰も怪我はしていないしな。そっちは?」

「こっちも大丈夫だよ。さっきまで戦ってたんだけど、今終ったところ」

「そうか」


 ヴリトラもリンドブルム達の安全を確認してホッとしたのか、小型通信機からヴリトラの安心したような声が聞こえてくる。


「それで、一体どうしたんだ?何が作戦の変更でもあるのか?」


 リンドブルムに続いて今度はジャバウォックがヴリトラの通信の内容を尋ねる。すると、小型通信機からヴリトラの低い声が聞こえてきた。


「そろそろこの戦いを終わらせる。拠点をある程度潰したし、俺達はこれから敵の本拠点に乗り込んで敵指揮官をとっ捕まえる。お前達は敵を倒しながら本拠点の方へ向かってくれ、町長の屋敷だ」

「何?もう攻め込むのか?」

「ああ、弾薬も底を突いちまうし、あまり時間を掛けるとこっちの体力も持たないからな。それにもしかすると敵の増援も考えられる、敵の戦力が少なくなった今がチャンスだ」


 今後の戦いが自分達の有利に流れるとも限らない、そう考えて敵の本拠点を攻める事を決意するヴリトラ。リンドブルム達はしばらく黙り込んで顔を見合わせている。そして答えが出たのかリンドブルム達は口を開いた。


「分かった、僕達も敵や拠点を片付けながら町長の屋敷に向かうよ。僕達が行くまでなんとか持ち堪えて」

「OK。と言ってもお前達が来る前に片がつくかもしれないけどな?」

「ヴリトラ、そんな風に油断してると足元をすくわれるわよ?」

「分かってるって。それじゃあ、何かあったら連絡する」


 ジルニトラの忠告を聞いて軽く返事をするヴリトラは通信を切った。リンドブルム達は互いの顔を見て苦笑いや困ったような顔をしている。そこへ一人だけ通信を聞けていなかったラランがリンドブルム達に声を掛けてきた。


「・・・どうしたの?」

「ヴリトラ達が先に敵の本拠点を攻めるって」

「!・・・大丈夫なの?」


 ラランが一瞬驚きの表情を見せるが直ぐにいつもの様な無表情に戻して静かな声で尋ねる。


「大丈夫。ヴリトラ達も無暗に突っ込むなんて事はしないだろうし、敵の様子を伺いながら慎重に攻めるさ」

「とりあえず、あたし達は出会う敵を倒しながらヴリトラ達と合流するわよ」

「急ごう、早くしないと敵がまた来ちゃうよ?」


 リンドブルムに続いてジルニトラとファフニールが町長の屋敷に向かう事を進言。リンドブルム達はその足で敵の本拠点である屋敷に向かって走り出すのだった。

 そしてヴリトラ達は敵の本拠点である町長の屋敷の前にやって来ていた。既に屋敷の入口の前には警護の兵士達が倒れており、ヴリトラ達が屋敷の庭に入ろうとしている。


「それじゃあ、早速入りますかぁ」


 入口に門を見上げながらヴリトラは笑って言う。その脇にはラピュス、ニーズヘッグ、オロチが門をジッと見つめている姿があった。


「それにしても、流石に本拠点ともなれば守りも固く敵の数も多いな?此処に来るまでにも多くの多くの敵と戦って来たぞ?」

「それだけ敵も俺達をビビってるって事だ」


 周りで倒れているストラスタ兵達を見回しながらラピュスは此処までの道のりを振り返る。そして敵が自分達を強く警戒している事を話すニーズヘッグ。事実、屋敷に向かうまでにヴリトラ達は数え切れないほどのストラスタ兵と遭遇して此処までやって来た。それは敵が自分達を全力で倒すつもりだという事を表している。だが逆に考えれば、そのおかげでヴリトラ達は多くの敵を倒す事が出来た。これでストラスタ軍の戦力は僅かしか残っていないという事になる。


「敵も危険を感じて近くの拠点に救援を求める可能性がある。いや、もう救援を出しているかもな・・・?」

「だったら、増援が到着する前に終わらせるぞ!」


 オロチの話しを聞いたヴリトラが森羅を右手に持ち、左手を腰に回した。そしてバックパックと背中の間から一丁の拳銃を取り出して握る。その銃はシルバーのフレームに黒い銃把グリップの自動拳銃、「AM オートマグ」だ。戦う時は森羅だけで戦うヴリトラが使うサブウェポンである拳銃。マグナム弾を使用する為、通常の拳銃よりも威力が高い代物だ。

 オートマグを手に取ったヴリトラが門の前まで歩いて勢いよく門を右足で蹴破り庭へ侵入する。それに続くようにラピュス達も庭へ入っていった。中に入ると、そこには十数人の兵士や騎士が武器を構えて自分達を睨んでいる姿がある。


「邪魔するよ?」


 と、笑いながら言うヴリトラはオートマグを発砲。次々と兵士や騎士を倒していき、ニーズヘッグも右腕から機械鎧から機銃を出してストラスタ兵達に向かって乱射する。ストラスタ兵達は抵抗する間もなくあっという間にその場に倒れて動かなくなった。庭にいる敵を全員片付けたヴリトラ達は庭を進んで行き、周囲に敵兵がいないかを警戒する。


「・・・庭にはもう敵兵はいないみたいだな?」

「ああ。だが変だな?此処は敵の最も重要な拠点何だろう?どうしてこんなに守りが薄いんだ?」


 ニーズヘッグの言葉は聞いてヴリトラ達は一斉に彼の方を向く。確かに本拠点であるこの町長の屋敷は大きく、もっと大勢の兵士がいても不思議じゃない。だが、この屋敷の中と外の両方を守っていた兵士を合計すると僅かに二十数人程度、重要拠点を守るにしては戦力が少なすぎる。

 ヴリトラ達が違和感を感じながら守りの薄い理由を考えていると、屋敷の二階の方から男の声が聞こえてきた。


「遂にここまで来おったか、レヴァートの豚どもめ!」


 聞こえてきた声に反応したヴリトラ達が一斉に上を見ると、バルコニーから自分達を見下しているブルトリックの姿があった。


「やっとお出ましか?怠惰騎士のブルトリックさんよぉ?」

「ぐっ!き、貴様ぁ~!儂をそう呼んでただで済むと思っておるのかぁ?」

「思ってるから言ってるんだよ」


 笑いながら挑発するヴリトラ。周りではラピュスが困り顔で、ニーズヘッグが苦笑いで、オロチが無表情でヴリトラを見ていた。ヴリトラの挑発にブルトリックは我慢の限界が来たのか、額に血管を浮かべて怒りを露わにしていた。


「ぐうぅ~~!この青二才めがぁ!もう許さん、貴様らを捕らえたら拷問にかけて嬲り殺してやるわぁ!・・・お前達、いけぇ!」


 ブルトリックが二階の室内の方を向いて何者かに指示を出す。するとブルトリックの背後から五つの影が素早く移動してバルコニーから飛び下り、五角形の形になる様にヴリトラ達を五方向から取り囲んだ。


「!・・・コ、コイツ等!?」


 突然現れた人影を見てさっきまで笑っていたヴリトラの表情が急変し、驚きの顔へと変わる。だが驚いているのはヴリトラだけではない。ニーズヘッグとオロチも目を見張って驚いていた。なぜならその五つの人影は黒いタクティカルベストを身に付け、両腕と両脚がくろがねの機械鎧になっていたからなのだ。更に金属製のフルフェイスマスクで顔を隠しており、手にはサブマシンガンの「H&K MP7」が握られ、腰には軍用のマチェットが納められていた。そう、ヴリトラ達を取り囲んでいるのは機械鎧兵士だったのだ。


「な、何で機械鎧兵士がこんな所に・・・?」

「!?・・・おい、ヴリトラ、アイツ等のベストを見てみろ!」


 ニーズヘッグの言葉を聞き、ヴリトラは言われたとおり目の前の機械鎧兵士のタクティカルベストを見た。なんとタクティカルベストの左胸部分には赤い女性の横顔のマークがマーキングされていたのだ。


「ま、まさか・・・ブラッド・レクイエム社!?」


 そう、ヴリトラ達の前に立つ機械鎧兵士はブラッド・レクイエム社の機械鎧兵士だったのだ。なぜブラッド・レクイエム社の機械鎧兵士がストラスタ軍と共に行動しているのか、ヴリトラ達は疑問に思う。だがハッキリしている事もある。今ヴリトラ達の前にいる機械鎧兵士達は彼等の敵、そして何らかの理由でブルトリックの味方をしているという事だ。


「ハハハハッ!さぁ、異世界の兵士達をよ!ソイツ等を叩き潰せぇ!」


 バルコニーからブルトリックが勝ち誇ったような笑みを浮かべて機械鎧兵士達に命令する。そう、ブルトリックの言っていた切り札とはこの機械鎧兵士達の事だったのだ。今までのストラスタ兵達とは比べものにならない位の力を持つ敵が五人、自分達の前に立ち塞がり、ヴリトラ達の表情に緊張が走りだす。実はこの時、ヴリトラ達は気付いていなかった。今自分達の前にいる機械鎧兵士は全部で十人いる内の半分だという事を。そして残りの半分である五人は本拠点に向かって前進しているリンドブルム達の前に立ち塞がっているという事を・・・。


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