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機械鎧(マシンメイル)は戦場を駆ける  作者: 黒沢 竜
第三章~戦場に流れる鎮魂曲(レクイエム)~
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第三十九話  僅か九人の侵入者!

 ゴルバンの町に潜入したヴリトラ達はストラスタ軍の指揮官のいる本拠点を見つけ、捕らえられていた捕虜の生き残りも救出する。敵の情報を手に入れたヴリトラ達は遂にゴルバンの町の解放作戦を実行するのだった。

 ストラスタ兵が拠点にしている民家。その中では五人のストラスタ兵が待機しており、何時でも動ける準備を行っていた。


「おい、次の出撃じゃあ近くの拠点に援軍を送るって話を聞いたぜ?」

「有り得ねぇな。ブルトリック隊長は友軍よりも自分の身を第一に考える人だ、援軍なんて送る筈がねぇよ」


 自分達の指揮官であるブルトリックを嘲笑う様に話し合っているストラスタ兵達。どうやらブルトリックはラピュスの言った通り、本当に仲間達からの評判が悪いようだ。


「それじゃあ、俺達も戦場へ送られる事も無いって事だな?」

「ああ、もうしばらく遊べそうだぜ」

「おっ?お前、また町の若い娘と遊ぶつもりか~?」

「付き合うか?ハハハハ!」


 自分達が戦場へ出る必要がないと大声で笑う兵士達。他の兵士達も同じように笑っている。そんな時、民家の入口のドアがゆっくりと開き、ドアの隙間から民家の中に向かって何かが転がり入ってきた。それは灰色の筒状の物で先端には奇妙な形をした金属製の物が付いている。


「ん?何だこりゃ?」


 兵士の一人が自分の足元の転がって来た物を見つけて姿勢を低くして顔を近づけると、次の瞬間、その筒状の物から白い煙が勢いよく噴き出て部屋を包み込んだ。


「な、何だこの煙は!?」

「か、火事か!?」


 突然の煙に取り乱す兵士達。するとドアが開いて外から何者か部屋に侵入してきた。その侵入者は腰に収めてある剣の様な物を抜いて、取り乱している兵士達は一瞬にして全員切り捨てる。兵士達は何が起きたのかを理解する間もなく息絶えた。

 ドアから部屋に充満している煙が外に出て、次第に煙が薄くなっていくと、部屋の真ん中には森羅を抜いたヴリトラが立っていた。実はさっき民家に入って来たのはヴリトラの使った発煙弾スモークグレネード。煙でストラスタ兵達が隙を作っている間に突入して全員を倒したという訳だ。


「よし、一丁上がり。次の拠点へ行くぞ」


 ヴリトラが外へ出ると、離れた所から自分に向かって走って来るラピュス達の姿が見に入った。三人がヴリトラの前までやって来ると、武器を握って周囲を警戒する。


「早く移動した方がいいぞ?発煙弾の煙を見つけた敵兵が異変に気付いて偵察部隊を送り込んでくるはずだ」


 ニーズヘッグが民家からまだ出ている白煙を見ながら移動する事をヴリトラに進める。ヴリトラもそれを分かっているのか、森羅の峰で肩を軽く叩きながら周囲を見回す。


「ああ、分かってる。ラピュス、此処から一番近い拠点は何処だ?」

「待ってくれ。今、確かめる」


 そう言って、ラピュスが町の見取図を取り出して広げると、町の見取図の所々に赤く×印が付けられていた。その赤い×印がヴリトラ達が見つけた敵拠点の位置。ラピュスは自分達の現在地を確認して一番近い敵拠点を探す。


「此処からなら西の方に行った所にあるな」

「なら、そこへ向かうぞ!」


 次の目的地が決まったヴリトラ達は見つかる前にその場を後にし、次の拠点を制圧に向かう為、全速で走り出した。だが、此処は敵陣の真っ只中。町を巡回しているストラスタ兵に気づかれるのも時間の問題だった。

 ヴリトラ達が最初の拠点を制圧し終えた頃、離れた所にいた数人のストラスタ兵が上がっている白煙を見つけていた。


「おい、何だあの煙は?」

「分からねぇ。でも、確かあの辺りには拠点があった筈だぞ?」

「何かあったのか?」

「行ってみよう!」

「おう!お前達は念のために一番近くの拠点に向かってこの事を知らせてこい」

「分かった!」


 一人の兵士が自分の後ろにいる兵士に報告に行かせ、残った数人がヴリトラ達が制圧した拠点の様子を見に行く為に走り出した。そして彼等は民家の中で倒れている仲間達を見つけ、町の中に侵入者がいる事に気付いたのは僅か数分後の事だった。

 ヴリトラ達が次の目的地に向かって走っていると、町の中に鐘の鳴る高い音が響き渡った。ヴリトラ達は走りながら鳴り響く鐘に耳を傾ける。


「あれは警鐘の音か?」

「どうやら気付かれたみたいだな」


 警鐘の音を聞いてラピュスとヴリトラが敵に自分達の存在が敵にバレた事に気付く。ニーズヘッグとオロチも黙って走りながら警鐘の音を聞いている。


「まずいぞ、直ぐに敵が私達の捜索を始める。一旦何処かに隠れて様子を伺った方がよくないか?」


 ラピュスが何処かに隠れる事を提案すると、ヴリトラが前を向いて走りながら口を開いた。


「ダメだ。そんな事をしたら敵が態勢を整えて、かえって状況が悪くなる。攻めるなら今が一番のチャンスなんだよ」

「どういう事だ?」


 ヴリトラの言っている事がいまいち理解出来ないラピュスは走りながら尋ねる。そこへニーズヘッグがヴリトラの考えを分かりやすく説明し始める。


「敵は今、自分達が制圧している町でいきなり攻撃を受けた事で多少ではあるが動揺している筈だ。町中を偵察する程度の部隊編成をしていない奴等は敵の奇襲に対応する部隊編成をしていない。つまり、今のストラスタ軍はまともに戦える状態じゃないって事だ。奴等が体勢を立て直す前に出来るだけ多くの敵を倒しておかないといけないという事だよ」

「だから、そうなる前に一つでも多くの拠点を制圧して相手の戦力を削いどくって事だよ」


 敵の体勢を立て直させないために、今の内に一気に叩く。その作戦を聞いてラピュスは目を丸くして驚いた。普通、僅かな人数で敵の拠点に潜入した身を隠して敵の様子をうかがうが、今この町に自分と共に潜入しているのは七竜将。この世界ではあり得ない未知の力と武器を持った傭兵達。彼等だからこそ取れる作戦だとラピュスは改めて理解するのだった。

 そんな話をしていると、ヴリトラ達の向かう先の曲がり角から四人のストラスタ兵が姿を現した。ストラスタ兵達は自分達に向かって走って来るヴリトラ達に直ぐに気付いて持っている槍や剣を構えた。


「止まれ!何だお前達は?」

「さては、さっきの警鐘はお前達か?」


 警鐘の原因がヴリトラ達だと気付いた兵士達は走って来るヴリトラ達は睨む。

 突然現れた敵兵にラピュスは驚いて走る速度を少し緩める。だが、ヴリトラ、ニーズヘッグ、オロチは速度を緩めるどころか一列に並び更に加速した。ヴリトラは森羅を、ニーズヘッグはアスカロンを、オロチは斬月を構えて立ちはだかるストラスタ兵達に向かって行く。


「と、止まれぇ!」


 ストラスタ兵の一人が警告をするが、三人は鋭い表情を変える事なく走り続けた。ストラスタ兵達も向かって来る敵を見て、何時までも怯んではいられない。剣や槍を構えて走って来るヴリトラ達を睨んだ。すると、ヴリトラの横を走っていたニーズヘッグとオロチがそれぞれ斜め前に跳んでストラスタ兵達の真横に移動した。ニーズヘッグは斜め右に、オロチは斜め左に跳んでストラスタ兵達を左右から挟む形に入った。

 突然、左右に跳んで来たニーズヘッグとオロチに驚いたストラスタ兵達は隙だらけとなり、その間にヴリトラは更に走る速度を上げて一気に兵士達に近づいた。そして兵士達の前まで近づくと、ヴリトラは目の前に立っているストラスタ兵を森羅で斬った。斬られた兵士の体には左肩から腰のあたりまで斜めの切り傷が生まれ、そこから出た真っ赤な血が鎧やその下の服を赤く染める。斬られた仲間を見た他の兵士達は驚いて固まってしまう。そこへニーズヘッグとオロチの斬撃が放たれ、ニーズヘッグの前に立っていた二人の兵士とオロチの前に立っていた兵士がその場に倒れる。一瞬にして目の前の敵兵を倒したヴリトラ達を見て、ラピュスは再び驚く。


「い、一瞬で・・・」


 倒れているストラスタ兵達の前で立っているヴリトラ達の隣まで走って来たラピュス。ヴリトラは自分の隣にやって来たラピュスの方を向いて真面目な顔を見せる。


「これからはこんな風に敵がバンバン出てくる。一瞬の驚きと迷いがソイツの運命を左右するんだ。気を抜くなよ、ラピュス?」

「・・・ああ、分かった」


 ヴリトラの真面目な顔と言葉にラピュスも真剣な表情で頷く。すると、オロチが何かに気付いてストラスタ兵達が現れた方を見る。先の見えない一本道をジッと見つめるオロチは姿勢を低くして小型通信機を付けていない方の耳を地面に付けた。すると、遠くから自分達に向かって近づいてくる幾つもの音が耳に入る。


「足音がする、また敵が数人こっちに向かって来るぞ。今度は六人以上だ、しかもその中に馬の蹄鉄ていてつの音も入っている。恐らく馬に乗った騎士だろう・・・」

「騎士か、気の力を使われると面倒だ。早いとこ次の拠点へ向かおうぜ?」

「ああ。ラピュス、さっきも言ったように、ここから更に戦いは厳しくなる。気をしっかり持てよ?」

「大丈夫だ。私だって姫騎士の端くれ、これまでにも青銅戦士隊や白銀剣士隊の増援として多くの戦いに参加して来た。今更この程度で怖気づいたりなどしない」

「フッ、上等。・・・行くぜ!」


 ラピュスの勇ましい表情を見て小さく笑うヴリトラ。ラピュスは遊撃隊の騎士ではあるが、今までに青銅戦士隊などの主力騎士団を支援する為に本格的な戦いに参加した事は何度もある。故にティムタームの警護を主な任務としていても、今の様な大規模な戦いに参加する事は慣れているのだ。だが、今回は遊撃隊の仲間はおらず、数人の傭兵と共に戦っている。少しは不安もあるかもしれないが、彼女は戦いを恐れなかった。なぜなら今自分と一緒にいる傭兵達は自分の遊撃隊以上の力を持っているからだ。

 ヴリトラ達はまた敵と遭遇して戦いが起こる前にその場を移動して次の拠点へ向かって走り出す。徐々にゴルバンの町は騒がしくなり、町の中だけでなく、町の外にいるストラスタ兵達も異変に気づき始めていった。


「おい、何だか町の方が騒がしいぞ?」


 町の外で門の警備をしていた守備隊が町からの消えてくる騒音に気付き騒ぎ始める。


「町で何かあったのか?」

「分からない、とにかく中と連絡を取るんだ!」


 一人のストラスタ兵が門の横にある小さな穴の前まで行き、町の中を覗き込む。ゴルバンの町の門は城壁の内側にいる者が仕掛けを操作しなくては開かない仕組みになっている。つまり、外から門を開ける事は出来ないのだ。しかも門の大きさは5mはある巨大な物、人力で開けるのは不可能。守備隊のストラスタ兵達は門の前で町に入ることも出来ずに騒ぎ続けていた。

 

「おい、一体何があった!?」


 穴を覗き込むストラスタ兵が内側にいる仲間の兵士達に呼びかけるが、誰も返事をしない。変に思った兵士が小さな穴に顔を押し込むようにして城壁の中を覗き込むと、兵士は驚き目を疑った。そこには門を開ける為の大きなレバーの前で倒れている仲間の兵士達が倒れている姿があったのだ。しかもその全員が傷だらけで息絶えてる。


「な、何だこりゃ!?」

「どうした?」

「か、開門をする奴等が全員死んでるんだよっ!」

「何だって!?」


 門を開けるストラスタ兵達が全員死んでいると聞かされ、守備隊の兵士達は更に動揺した。明らかに町で何かが起きている、そう直感した兵士達は顔色は酷くなっていく。


「おい、一体町で何が起きてんだよ!?」

「知るか!とにかく、なんとかして町に入るんだ!」

「確か、反対に裏門があった筈だな?そっちからなら町に入れるんじゃねぇのか?」

「そ、そうだ!急いで裏門へ行くぞ!」

「だけどよぉ、この正門から裏門まではかなり距離があるぜ?間に合うのかよ?」

「ここでジッとしてるよりはマシだろう!」


 ストラスタ兵達はまだ開門する可能性がある裏門へ向かう為に武器を手に取り、町に反対側へ向かって走り出す。この時の兵士達はヴリトラ達が町に潜入する為に使った下水道の存在に気付いておらず、遥か遠くにある裏門へ向かう羽目になってしまった。

 正門前の守備隊が裏門へ向かう為に全速で走っている頃、捕虜を救出したリンドブルム達は捕虜を安全な所に隠し、ヴリトラ達の様に各拠点の制圧に取り掛かっていた。


「急いで拠点を制圧しよう!捕虜の人達を避難させてから随分時間が経っちゃったよ!」

「そんなに慌てるな。さっき正門前のいたストラスタ軍の兵士達を倒したから、外の守備隊が町に入って来るのには時間が掛かる筈だ。その隙に一気に町を攻略するぞ!」


 走りながら話をするリンドブルムとジャバウォック。実は正門前にいた開門をするストラスタ兵達を倒したのはリンドブルム達だったのだ。彼等は外にいる守備隊が増援として町に来る時間を少しでも稼ぐために捕虜を隠した後に正門の方へ向かい、開門隊を倒しておいたのだ。


「それでも急いだ方がいいわよ。多分ヴリトラ達は先に敵の拠点を制圧し始めてるだろうし、早くしないと敵が体勢を立て直しちゃうわ!」

「急げ急げ~!」


 ヴリトラ達と同じように敵が態勢を立て直すことを想定しているジルニトラは愛銃のサクリファイスを握りながら走ってリンドブルムとジャバウォックに声を掛ける。その隣ではギガントパレードを担いだファフニールが少し楽しそうな顔で走っていた。そしてその二人の後ろでは突撃槍を握っていたラランがジルニトラとファフニールの後ろ姿をジッと見て走っている。この時、ラランは心の中で思っていた、「・・・あんな大きなハンマーを持って速く走れるなんて、やはり機械鎧は凄い」と。

 リンドブルム達が一番近くの敵拠点に向かう為に街道を走っていると、突然先頭を走っていたリンドブルムの足元に何かが飛んで来た。


「うわぁ!」


 驚いて足を止めるリンドブルム。足元を見ると、そこには地面に突き刺さっている一本の矢があった。咄嗟に矢が飛んで来た方を見るリンドブルム達。そこには見張り台から自分達を狙って弓を構えているストラスタ兵の姿があった。


「お前達、何者だ!?この町の住民ではないな!」


 ストラスタ兵のその言葉を合図にするかの様に民家の屋根の上から別の兵士が弓を構えて姿を現し、民家と民家の間に隙間から今度は剣を構えた兵士とハンドアックスを持った兵士が二人ずつ姿を見せる。リンドブルム達の前に全部で六人のストラスタ兵達が立ちはだかり、リンドブルム達は戦闘態勢に入る。


「おおぉ!早速敵さんのお出ましだぁ!」

「・・・何で楽しそうなの?」


 笑いながら愛銃のライトソドムとダークゴモラをホルスターから抜いたリンドブルムと突撃槍を構えながら彼の隣までやって来て目を細くしてジッと見つめるララン。一方でストラスタ兵達は見慣れない服装をしたリンドブルム達を睨むつけながら武器を構え続けている。


「さっきから鳴っている警鐘の原因はお前等か!何者か知らないが、たった五人で騒ぎを起こした事を後悔させてやるぜ!やれっ!」


 見張り台の弓兵が他のストラスタ兵達に合図を送ると、その直後にリンドブルムはライトソドムとダークゴモラで見張り台と屋根の上にいる弓兵を撃つ。弾はピンポイントで二人の弓兵の胸に命中し、何が起きたか理解出来ずに見張り台と屋根から落下して地面に叩きつけられた。突然未知の攻撃によって倒された仲間の弓兵を見た他の兵士達は驚き固まる。そこへラランとジャバウォックが突撃槍とデュランダルを持って隙を見せているストラスタ兵達に向かって走り出す。


「おりゃあっ!」

「はあぁ!」


 ジャバウォックのデュランダルがハンドアックスを持つストラスタ兵二人を薙ぎ払し、ラランと突撃槍が剣を持つ兵士を二人突き飛ばす。四人と兵士達を倒して終えて、ジャバウォックとラランは自分達の武器を軽く振った。


「へぇ?やるじゃねぇか?」

「・・・これくらい大したことない」


 小さいながらも敵兵を一撃で二人倒したラランの力にジャバウォックは感心する。周囲に敵の気配がない事を再確認し、リンドブルム達は次の拠点へ向かおうとする。すると、ジルニトラとファフニールが背後から近づいてくる気配に気づいて振り返ると、100m離れた所に自分達に向かって走って来るストラスタ兵隊の姿が目に映った。しかも今度は十人以上の部隊。リンドブルム、ララン、ジャバウォックもその部隊に気付いて武器を構え直した。


「うわぁ~、また来たよ」

「今度はちと骨が折れそうだな?」

「・・・嘘ばっかり」


 苦戦しそうに言うリンドブルムとジャバウォックの言葉にラランは敵部隊の方を向いたまま呟く。そんな三人の方を向いてジルニトラは少し大きな声を出して三人に声を掛けた。


「三人とも!話はそこまで。さっさと片付けて先へ進むわよ?」

「それじゃあ、いっくよ~!」


 ジルニトラの隣にいたファフニールがギガントパレードを両手で持ち、走りながら頭上でグルグルと回しながら敵兵に向かって行く。それに続くようにジルニトラも走り出し、リンドブルム達も後を追うように敵兵に向かって行った。

 その頃、ヴリトラ達は先へ進んで行くごとに出くわすストラスタ兵を倒していき、次々と敵拠点を制圧していった。今も拠点の近くで数人のストラスタ兵と交戦している最中だった。


「ふっ!はぁ!」


 騎士剣を握りながら目の前のストラスタ兵の剣を弾き、一人ずつ確実に倒していくラピュス。そんなラピュスの背後からハンドアックスを持った兵士が走りながら近づいてくる。だが、ラピュスはその気配に気づいていたのか、向かって来る兵士の方を向くと姿勢を低くしてがら空きの腹部に横切りを放つ。斬撃を受けたストラスタ兵はハンドアックスを落としてその場に俯せに倒れる。


「ふぅ、これで何人目だ?」


 少し疲れているのか騎士剣をゆっくりと降ろして倒れているストラスタ兵を見つめるラピュス。そこへ敵兵から奪ったのか、槍を片手に持ったヴリトラはラピュスの下へ駆け寄って来た。


「大丈夫か?」

「ああ、平気だ」

「ならいいけど、戦いは終わるまで油断するなよ?」


 ヴリトラはラピュスに忠告しながら左手に持っている槍を強く握り、後ろに振り返りながら持っている槍を背後に向かって投げた。すると槍はヴリトラの後ろで剣を持っていたストラスタ兵の腹部を貫きそのまま民家の壁に突き刺さる。どうやらヴリトラを背後から襲おうとしたが、彼には見抜かれていたようだ。兵士は持っていた剣を落し、槍によって立たされたまま息絶えた。


「そこで立ってろ」


 小さく笑いながら息絶えた兵士に言い放つヴリトラ。ラピュスは余裕のヴリトラを見て改めて彼の強さを理解するの。そして周りでもニーズヘッグとオロチが残りのストラスタ兵達を全て倒し終えていた。


「時間を食っちまった。先へ急ぐぞ、ヴリトラ」

「分かってる、行こう!」


 戦いを終え、ヴリトラ達は再び近くの敵拠点へ向かって走り出す。既にゴルバンの町は戦いによって騒ぎが広がり、ストラスタ軍だけでなく、町中の住民達の耳にも入っており住民達は民家や宿の窓から外を眺めていた。

 そしてブルトリックが拠点としている町長の屋敷でも騎士や兵士達が騒ぎ始めていた。


「一体何事だ!さっきの警鐘は何なのだ!?」


 突然の騒ぎにブルトリックは苛立ちを見せながら側近の騎士に尋ねる。さっきまで優雅な夜を過ごしていたのに、突然騒がしくなった事で機嫌を悪くしたようだ。騎士はそんな機嫌の悪いブルトリックに敬礼をしながら説明をする。


「ハッ!報告によりますと何者かがこの町に潜入し、我が軍の拠点を攻撃しているとの事です!」

「何だとぉ!?一体どうやってこの町に潜入したのだ、門の守備隊は何をしている!」

「それが、門の確認へ向かった部隊によりますと開門をする兵士達は既にやられており、守備隊も門の外にはいなかったとの報告が・・・」

「な、何て奴等だ!現場を放棄するとは・・・。それで、侵入者の人数は?」

「きゅ、九人です・・・」

「・・・・・・は?」


 ブルトリックは騎士からの報告を聞き、目を丸くしながら聞き返した。


「兵士達の報告によりますと、確認できた侵入者の数は・・・九人です・・・」

「九人、だとぉ・・・?き、貴様ぁ!儂を馬鹿にしておるのか?」

「め、滅相もございません!確かに兵士達は九人だと・・・」

「隊長ーーーっ!」


 ブルトリックと騎士が話をしていると、別の騎士が慌てた様子で走って来た。息を切らせて両手を膝に付ける騎士は顔を上げてブルトリックの顔を見て口を開く。


「ほ、報告します!侵入者は次々の拠点を制圧していき、この屋敷に向かって来ているとの報告がありました!数は四人、既に二十六人もの兵がやられています!」

「バ、バカなっ!警鐘が鳴り始めてからまだ一時間も経っていないではないか!」

「ですが、侵入者を迎撃に向かった兵達は全滅し、こちらに向かって来ているのは確かです。それと、別の場所でも侵入者五人が確認されており、そちらへ向かった兵士達も全滅しました。その数・・・三十人以上」

「あ、ありえん・・・」


 信じられない現実にブルトリックはバルコニーの手すりに寄りかかり気力を失う。屋敷にいる兵士達も少しずつ士気が低下してきており、戦意を失いつつある。だが、だからと言ってそのまま引き下がるほどブルトリックも愚かではない。首を横に振って態勢を直したブルトリックは騎士達に指示を出す。


「それなら今動ける兵、全てをその侵入者達にぶつけろ!何があっても奴等を倒せ、この屋敷の兵達を使っても構わん!」

「し、しかし、それではこの拠点の守りが・・・」

「構わん!これ以上儂の基地で好き勝手はさせん。お前達も行けぇ!」

「「ハ、ハハッ!」」


 怒鳴る様に指示を出すブルトリックを見て、二人の騎士は敬礼をしながらバルコニーを後にする。残ったブルトリックは左目の片眼鏡を直して屋敷の中に入る。二階を歩いていき、奥にあるドアをゆっくりと開いた。その部屋は明かりがついておらず、外からの月明かりだけが部屋の中を照らしていた。そして月明かりすら届かない部屋の隅に、数人の人影がある。その人影を見てブルトリックは機嫌の悪そうな顔のまま口を開く。


「そろそろお前達の出番だ。準備をしておけ・・・!」


 ブルトリックの言葉にその無数の人影はゆっくりと動く。彼等こそがブルトリックの言っていた切り札のようだ。

 遂に戦いが本格的になり、ヴリトラ達も気合を入れて拠点を制圧していく。だがそれでも、相手は四百人近くの大部隊。機械鎧兵士である七竜将がいても油断できない。ヴリトラ達の戦いは更に激しさを増していくのだった。


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