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機械鎧(マシンメイル)は戦場を駆ける  作者: 黒沢 竜
第一章~異世界と邂逅~
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第三話  未知なる場所での遭遇

 コロンビアでの依頼を終えて高速道路を走っていた七竜将。しかし、高速を抜けた時に目の前に広がっていたにはアメリカの大都会ではなく、人気の無い林の中だった。外を眺めて戸惑うヴリトラ達は一度車の外に出て現状を再確認するのだった。

 林道の真ん中にバンを停め、その間に集まり地図やスマートフォンを見て自分達の位置と何処にいるのかを調べている。


「一体どうなってるんだ?」

「さっきまで高速道路を走っていたのに、どうしていきなり林の中に?」


 腕を組んで考え込んでいるニーズヘッグとその隣で周りを見回しているファフニール。あれから考え続けているのだが、まったく理解出来ずにいた。

 考え込むニーズヘッグとファフニールの近くではスマートフォンの画面を動かしているジルニトラと地図を広げて位置を確認しているジャバウォックの姿がある。場所を調べている二人の後ろからはヴリトラとリンドブルムが覗き込んでいた。ジルニトラのスマートフォンを覗き込むヴリトラとジャバウォックの背中に乗って後ろから地図を覗いているリンドブルム。


「おっかしいわねぇ。マップが表示されないわ」

「マップが出ない?電話は?」


 検索してもスマートフォンの画面にマップが出ない事を不思議がるジルニトラの後ろからヴリトラは電は刃通じるのかを尋ねる。ヴリトラに言われて電話を知合いにかけてみるジルニトラ。だが、繋がらなかった。それどころか電波も通じていない。


「ダメね。まぁ、圏外なら仕方ないけど・・・」

「確かに、電波が一本も立ってないな」


 ジルニトラのスマートフォンの画面を見て電波が繋がっていない事に気付くヴリトラは顎に指をつけて電話の類は使えない事を知る。

 ジャバウォックはコロンビア州の地図を見て何かの異変に気付いた。そして地図と周りの風景を交互に見た。そんなジャバウォックを見てリンドブルムは首を傾げた。


「どうしたの?ジャバウォック」

「おかしいんだよ」

「何が?」

「・・・地図を見たんだが、今のコロンビア州には殆ど林や森が無いんだ。それも、此処の様な大きな林はな」


 ジャバウォックは自分達の立っている場所がコロンビアの地図に無いことで違和感を感じて周りと地図を見比べていたのだ。リンドブルムもジャバウォックの背から飛び降りて周りを見回す。ヴリトラもジャバウォックに話しを聞いて同じように周りを見回している。

 更に不思議な事に、ヴリトラ達が通ったはずの高速道路のトンネルもヴリトラ達の後ろには無かった。あったのは一本の林道だけだった。この時点で自分達がさっきまで走っていた高速道路とは全く違う所にいることが分かった。まるでテレポーテーションでもしたかのように。そのだけでもヴリトラ達は大きな衝撃を受けている。

 ヴリトラ達が自分達の居場所を調べている時、木の枝が揺れる音が聞こえてきた。ヴリトラ達が音の聞こえてきた方向を見ると、オロチが木の枝から枝へと跳んで移動して来る姿が目に映った。オロチは木の枝から飛び降りてヴリトラ達の近くに地口すると、ゆっくりと彼等の方へ歩いて行く。

 オロチは自分達がさっきまでとは違う所にいる事に驚き、周囲の状況を調べる為に木に登って高い位置から情報を集めていた。そして今、情報を集め終えて戻って来たという事だ。


「今戻ったぞ」

「おつかれさん。それで、どうだった?」


 ヴリトラが戻って来たオロチから現状を尋ねる。リンドブルム達も戻って来たオロチの方を向いた。そんなヴりとた達を見てオロチは鋭い表情で口を開く。


「信じられない。木の上から周りを見て見たんだが、この林の周りは一面草原だった」

「草原?」

「ああ。ビルは愚か、道路すら無い」


 オロチの口から出た言葉、最初は理解出来なかったヴリトラ達だったが、しばらく考えている内に理解した。今自分達が立っている林の周りには草原だけでそれ以外の物は無い。ビル、道路、街などの都会を現す物が何も無いという事を。

 話しを聞いたヴリトラ達はオロチを疑うような目で見つめる。それも当然だ、自分達の目で見ていないのに周りには草原以外何も無いと言われても信じられる筈がない。


「オロチ、本当なのか?さっきまで俺達は都会にいたんだぞ?道路やビルが無いなんて言われても信じられないぜ」

「・・・私がそういう冗談を言わない事はお前達が誰よりも知ってる筈だが?」


 ジャバウォックを見上げて自分が冗談を好まない事をヴリトラ達に伝えるとヴリトラ達は頷いてオロチの言う事に納得した。彼等七竜将は傭兵の仲間として何年も過ごしてきた。仲間達の事は誰よりも理解し合っている。 それゆえにヴリトラ達はオロチの言ったことを直ぐに真実だと考える。


「一体何がどうなってるんだ?高速のトンネルを抜けたらいきなり林の中に出て、周りには草原が広がってるなんて」

「何だか魔法を掛けられてどこか別の場所に飛ばされちゃったみたいだね?」


 ジャバウォックが今の自分達の状況とオロチが得た情報を合わせて何が起きたのかを考え、ファフニールも自分達が魔法をかけられて飛ばされたとファンタジックな考えを口にする。

 ファフニールの話しを聞いたヴリトラがフッと驚くような顔を上げる。そして自分の考えた答えを口にした。


「魔法・・・もしかして、あれじゃねぇのか?いきなり異世界への扉に吸い込まれて、気が付いたらファンタジーの世界に来てました、見たいな感じの?」


 ヴリトラの話を聞いたリンドブルム達。そしてオロチ以外の全員が笑いながらヴリトラを見る。


「プッ!ハハハハ、何よそれ?」

「おいおい、今時それはねぇだろう?」

「そんなの今じゃ小説かアニメの中の話しだよ?」

「フフ、まぁ考えはよかったんだけどなぁ」

「フフフフ、私も自分で言っておいてなんだけど、可笑しいよね?」


 周りのリンドブルム達が笑う姿を見て、ヴリトラは恥ずかしがる様子を見せず、寧ろ自分も笑ってリンドブルム達を見ていた。そんな中で、オロチだけは腕を組んで呆れるような顔を見せている。


「ハハハハ、そうだな。今時それは有り得ねぇな?でもよぉ、いい線はいってるだろう?」

「ハハハ、それは確かにね」


 更に笑いを取る様に声を掛けるヴリトラ。そんなヴリトラを見てジルニトラは笑いながら返事をする。

 静かな林の中に六人の男女の笑い声が響き、静かに優しい風が吹いた。しばらく笑い、ようやく落ち着いたのかヴリトラ達は笑いながら今後の事を話しなった。


「ハハハ・・・・・・さて、冗談はこれ位にして。これからどうするかね?」

「とりあえず、情報が足りない。何処かで情報を得ないといけないな」

 

 ニーズヘッグが今後の為に情報を得る事を提案する。

 ヴリトラ達も同じ考えだった。自分達が何処にいるのかも分からない、これからどうすればいいのか分からない以上、今必要なのは情報だった。情報があれば、自分達の知りたがっている事や今後どうすればいいのかの幾つかは分かる筈だ。


「オロチ、木の上から見た時に他に何か見えなかったか?」


 ニーズヘッグがオロチに尋ねると、オロチは顎に指を付けながらしばらく考える。すると、何かを思い出したのか、顔を上げて自分の視線の先を指差した。


「そう言えば、此処から1Kほど行った先に何か町の様なものが見えたぞ」

「町?なんだよ、ビルや道路が無いって言っておいて、ちゃんと建物もあるじゃねぇか?」


 建物を見つけたと言ったオロチをジト目で見つめながらヴリトラは言った。リンドブルム達も同じようにジト目をしたり、ホッとするよな顔をしてオロチを見ている。

 だが、オロチは腕を降ろすとヴリトラ達を見回して低い声を出した。


「ビルや道路が無いのは確かだ。それに、私が見たその町もなんだか変だったから黙っていたのだ」

「変?何が変なのよ?」


 ジルニトラが訊ねると、オロチは町の見えた方向を見る。そして低い声のまま話しを続けた。


「その町なんだが、中世風の町の周りを高い壁で囲んでいたのだ。そしてその町の中心に大きな西洋風の城が建っていた。それはまるで、外敵から町を守る為に作られ中世の防壁の様だった」

「防壁?・・・今の時代にそんなもの有ったかしら?」

「無いはずだよ?戦争があった時代や戦国時代になら外敵の侵入を防ぐ為に町を防壁で囲んだり、城の周りに堀を張り巡らせることもあるけど、今の時代じゃそれはまずあり得ないよ」


 ジルニトラを見上げながらリンドブルムはその幼さには似合いそうにない難しい言葉を並べる。

 七竜将のメンバーは年齢はバラバラだが、IQは全員が150以上で頭の回転は速い。これもナノマシンの効果であった。因みに、七竜将で最もIQが高いのはニーズヘッグのIQ200である。故にニーズヘッグは七竜将の兵器開発や機械鎧のメンテナンス、そして作戦参謀を任されている。そしてオロチは視力が高く、さっきの様に1K先の町の情報も細かく伝える事が出来るのだ。


「まぁ、なんにせよ、まずはその町に行って情報を集めよう。その後どうするかはそれから考えればいいさ」

「そうだね」


 ヴリトラの町に行くという提案に賛成したリンドブルム。周りのジャバウォック達も情報を得るために町に行く事に賛成する。ヴリトラ達が車に乗り込もうとした、その時・・・。


「キャーーー!」

「「「「「「「!」」」」」」」


 静かな林の中に突然響いた悲鳴に七竜将全員が反応する。ヴリトラ達は周りを見回して悲鳴の聞こえてきた方向を調べる。そしてファフニールが林道の先を見て指を指した。


「あっちから聞こえて来たよ!」

「車が向かう先か。丁度いい、このまま車で行こう!」


 ヴリトラが車に乗って悲鳴の聞こえてきた方へ向かおうとした時、ニーズヘッグがヴリトラを呼び止めた。


「待てヴリトラ!まだ俺達はこの辺りの地形とかを完全には把握していないんだ。そんな状態で車を走らせるのは得策じゃない。俺達の中で三人くらいが様子を見に行った方がいい」


 状況と地形の事を考えてニーズヘッグは車で行かずに徒歩で様子を見に行った方がいいと提案してきた。

 七竜将のリーダーはヴリトラだが、作戦を決める参謀はニーズヘッグである。それ故に、ヴリトラはニーズヘッグの言う事が正確だと判断し、彼の顔を見て頷いた。


「確かにそうだな。流石は我等七竜将の作戦参謀!」

「お世辞はいいから、早く誰を連れて行くのか選べよ?どうせお前は行くんだろう?」

「ハハハ、バレた?」


 ニーズヘッグの読みを聞いてヴリトラは笑いながら頭を掻いた。

 ヴリトラは周りにいる七竜将のメンバーを見回して誰をどう来させるか選ぶ。そして決めたメンバーを指差して声を掛ける。


「よし、リブル、ジャバウォック、一緒に来てくれ。様子を見に行くぞ」

「OK」

「了解だ」


 指名されたリンドブルムとジャバウォックは嫌な顔一つせずに返事をして自分達が乗っていたバンから武器取り出して装備する。ジャバウォックはヴリトラの日本刀を取ってヴリトラに投げると、彼は飛んで来た日本刀を片手で取って腰に収める。


「残りはこの場に残ってバンを見ててくれ。何かあったら連絡する、通信機なら短い距離なら会話が出来るはずだ」

「「「「「「了解!」」」」」」


 ヴリトラが自分の耳についている小型通信機を指で軽く叩きて連絡を取る事を伝える。七竜将全員はヴリトラの方を向いて声を揃て返事をする。準備を終えたヴリトラ、リンドブルム、ジャバウォックは悲鳴の聞こえた方に向かって林道はバランスを崩す事無く全力で走り出した。その速さは陸上の選手に負けない位の速さだった。

 ヴリトラ達が林道を走っていると、先頭を走っていたヴリトラが何を見つけて立ち止まり、近くの木の陰に隠れた。それに気付いたリンドブルムとジャバウォックも別の木の陰に身を隠す。三人の隠れている木は土手の上に生えており、三人はその土手の上からその下を見下している。

 土手の下には三人の人間が立っていた。一人は白髪で眼鏡をかけ、中世ヨーロッパの男性が着る様な古い服を着た老人だった。その近くではチョッキを着てロングスカートをはいた小柄な金髪の女の子が老人の服にしがみ付いている。

 その二人の前に半袖の服に長ズボンをはいたがらの悪い男が立っている。しかもその手には短剣が握られていた。その光景はどう見ても男が老人と女の子を脅している様にしか見えなかった。


「おい、ジジィ!いい加減にしねぇと本当に殺すぞ!」

「ま、待ってくれ!金は全部やるから見逃してくれ」

「何度も言わせるな!それっぽっちで足りると思ってるのか?」

「じゃ、じゃが、今手元にはこれだけしか・・・」


 老人は金銭が入っていると思われる革製の袋を手に持ち、男を見て怯えている。その陰では女の子が涙目で震えていた。男は短剣を老人の喉元に付きつけて老人を睨みつける。


「なら足りねぇ分は他の物を置いて行け。そこのガキでも少しは金になるだろうからな」

「ま、待て!孫には手を出さないでくれ!」

「お爺ちゃん・・・」


 老人は革袋を地面に落として震えている孫を抱き寄せる。今の老人には震えている孫を守る為に強く抱きしめてやる事しか出来なかった。そんな老人と孫を見て男は短剣の刀身を指で突きながら二人を見下ろしている。

 その光景を土手の上から見下ろしているヴリトラ達。傭兵として今まで多くの修羅場を潜り抜けてきた彼等にとってそんな光景は見慣れているのか、無表情でやり取りを見ている。


「こんな人気の無い所で追い剥ぎかよ、しかもあんな短剣一本で」

「今時銃の一丁も使わないなんて、未成年のチンピラぐらいかと思ってたよ」

「何呑気な事言ってるんだよ、お前等」


 古い追い剥ぎのやり方を見て意外に思うヴリトラとリンドブルムを見て注意するジャバウォック。


「それで、どうするんだ?ヴリトラ」

「う~ん・・・」


 これからどうするのかを尋ねるジャバウォック。ヴリトラはしばらく考えていると、腰の刀を直して木の陰から姿を出す。そして土手を滑り降りて老人達の所へ向かっていく。それを見たリンドブルム達も「やっぱりそうするか」と分かっていたような顔をしながら土手を滑り降りていった。

 男は姿勢を低くしている老人の胸ぐらを掴んで無理矢理立ち上がらせると短剣の切っ先を老人の頬に突きつけた。


「チッ、もういい。このままじゃ埒が明かねぇ。お前を殺して金とそのガキを貰っていく事にするぜ」

「ヒイィ!」

「やめて!お爺ちゃんを苛めないでぇ!」

「うるせぇ!」


 男のズボンを掴んで止めようとする孫を男は足で払って倒した。孫は顔に土をつけて倒れたまま涙目で老人を見上げる。老人も倒れている孫を見て、怪我をさせてしまった事に罪悪感のある顔を見せた。

 男が短剣で老人に斬りかかろうとした時、ヴリトラの力の入っていない声が響いた。


「ちょっと失礼~!」

「「「!」」」


 突然聞こえてきた声に三人は一斉に土手の方を見た。土手を滑り降りてくるヴリトラは三人から少し離れた所に降りてゆっくりと三人の方へ歩いて行く。それに続いてリンドブルムとジャバウォックも土手を滑り降りてきた。

 ヴリトラは右の肩を回しながら男を見て歩いて行く。三人は突然現れたヴリトラに戸惑いながらジッとヴリトラを見ていた。


「老人と女の子相手にちょっとやり過ぎなんじゃねぇの?それ」

「何だお前は?この辺りじゃ見かけねぇな?それに変な格好しやがって」

「変とは酷いじゃねぇか。これでも今流行のファッションを真似て選んだんだぜ?」


 自分の服を掴み服装を馬鹿にする男に自分をアピールするヴリトラ。そんな光景を後ろから見ているリンドブルムとジャバウォックは呆れたような顔をしていた。

 ジャバウォックは腕を組んで呆れた顔のままヴリトラに声を掛ける。


「おい、ヴリトラ。今はそんな事はどうでもいいだろう?それよりも大事な事があるんじゃねぇのか?」

「あっ、そうだったな。わりぃわりぃ・・・」


 振り向いてジャバウォックに笑いながら謝罪をするヴリトラ。

 ヴリトラは視線を戻して老人と男の方を見ると、老人の方を見ながら男を指差した。


「お爺さん、俺達はしがない傭兵です。報酬を支払って頂けるのでしたら、このゴロツキから貴方とお孫さんをお守りしますが?」

「え?」

「いきなり仕事ビジネスの話なんて、ヴリトラらしいね?」


 自分を助けると言うヴリトラを見て驚く老人と仕事の話をしだすヴリトラを見て小首を傾げながら呟くリンドブルム。

 彼等七竜将は傭兵である為、報酬を払うのであればどんな依頼でも引き受ける。例えそれが非合法な依頼や犯罪者からの依頼であったとしても。だが、その点彼等は依頼人を裏切るようなことは絶対にせず、全力で仕事をやり遂げることをポリシーとしている。リンドブルム達も同じ考え方をしていた。それ故に彼等は多くの依頼を行けて名の知れた傭兵隊になったという事だ。


「いかがでしょう?」

「そ、そりゃあ。助けて下さるのならいくらでもお礼をしたしましょう」

「そうですか。では報酬はこのゴミ野郎を片付けた後で」


 契約が成立し、ヴリトラはニッと笑って老人の方を見た。一方で男は自分をゴロツキやゴミ野郎呼ばわりするヴリトラに苛立ちを見せていた。男は老人を突き放して短剣を握りながらヴリトラに近づいて行く。


「てめぇ、さっきから言わせておけばぁ!何処の馬の骨とも分からない野郎が調子に乗りやがって!」

「俺は馬でも骨でもない人間なんだけど?」

「ふざけるなぁ!俺がこの辺りを仕切っている最強の盗賊団『クレイジーファング』の一員だと知ってて喧嘩を売ってるんだろうなぁ?」

「ク、クレイジーファング!?」


 盗賊団の名を聞いた老人が驚いて男を見上げる。ジャバウォックは座り込んでいる老人に手を貸して立ち上がらせ、リンドブルムも女の子の顔に付いている土を払って立ち上がらせた。


「爺さん、大丈夫か?」

「え、ええ、大丈夫です。それより孫は?」

「心配ない、ちょっと擦りむいただけだ。後で俺達の仲間に手当させるよ」

「そ、そうですか・・・」


 孫が無事なのを知って安心する老人。だが直ぐに男の方を向いて焦りの顔を見せる。ジャバウォックは焦っている老人を見て不思議そうな顔をした。


「爺さん、どうしたんだ?」

「あの男、クレイジーファングの一味じゃ」

「クレイジーファング?何だそりゃ?」

「この辺りを牛耳っている大盗賊団じゃ。人数は五十人を超えており村という村を襲って資金を奪い、女子供を奪っていく恐ろしい奴らじゃ」

「へぇ~、聞いた事ねぇな・・・・・・ん?村?」


 老人の言葉にジャバウォックは首を傾げる。村など、コロンビア州にあったか、そんな疑問が頭の中を過っていたのだ。

 ジャバウォックと老人が話しをしていると、男と向かい合っているヴリトラが耳の穴を小指でほじりながら興味の無さそうな顔をする。


「はぁ?最弱の盗賊団?知らねぇなそんな連中」

「クゥ!どうやら死にてぇみてぇだなぁ!」


 とうとう堪忍袋の緒が切れた男は短剣を振り上げてヴリトラに襲い掛かる。そん光景を目にした老人と孫は驚いているが、リンドブルムとジャバウォックはただその光景を黙って見ていた。

 男の短剣がヴリトラの真上から振り下ろされる。短剣がヴリトラの頭に触れると思われた瞬間、ヴリトラの左手が男の短剣の刀身を鷲掴みにして止めた。


「なっ!?」

「おおっ!」

「あぁ!」


 短剣を素手で止めた事に驚きを隠せない男。老人と孫も勿論驚いていた。だがリンドブルムとジャバウォックは小さく笑い、加勢する様子も見せずにただジッと見ている。

 男は握られている短剣を引いて抜こうとするが、短剣はピクリとも動かない。必死で短剣を抜こうとする男の様子を見て、ヴリトラは静かに口を開く。


「どうした?力を入れてるのに短剣は抜けないし、俺の手が切れない事に驚いてるのか?」

「て、てめぇ・・・一体何をしやがった!?」

「ただ握ってるだけだけど?」

「ふざけんじゃねぇ!ただ短剣の刀身を握っただけで、てめぇの手が無事なはずねぇだろう!」


 ヴリトラの手が切れない事と予想外の力に男は戸惑いを隠せずにいる。その間も必死で短剣を引き抜こうと数が、まったく動かない。それもその筈だ。ヴリトラに左腕まるまる一本は服の袖と白い手袋で隠れて分からないが、十年前の事件で失った左腕を補うために纏った機械鎧なのだ、普通の短剣では傷をつける事など出来るはずがない。

 ヴリトラは握っている短剣を自分の顔の前まで持ってきて男の顔を鋭い目で見つめる。


「気が済んだか?」


 その言葉と同時に左手に力を入れるヴリトラ。すると、男の短剣は高い音を立てて呆気なく根元から折れてしまった。

 折れた自分の短剣を見て言葉を失う男に隙が出来る。そこへヴリトラの右ストレートが顔面に撃ち込まれた。ヴリトラのパンチをまともに受けた男は数m先まで飛ばされて地面に叩きつけられる。そしてそのままノックアウトされ、動かなくなった。


「・・・・・・」


 一撃で男を倒してしまったヴリトラに驚きを隠せない老人。孫の方は感動したのか目を輝かせてヴリトラを見ている。

 男が倒れて事を確認したヴリトラは振り返り老人の方へ歩いて行く。


「終わりましたよ」

「え?・・・あっ、そ、そうでしたな」


 声を掛けられて我に返る老人はヴリトラの前まで歩いて行き、深く頭を下げた。孫も老人の下へやって来て笑顔でヴリトラを見上げた。


「ありがとうございます!貴方がたが来てくださらなかったら儂は命と孫の両方を失っていました」

「いやいや」


 礼を言われてニヤついているヴリトラ。そんなヴリトラの顔をリンドブルムとジャバウォックはジーっと見つめていた。

 老人は落ちている革袋を拾い上げて中から何やら硬貨のような物を取り出してヴリトラに差し出した。


「報酬の話なのですが、今手元にはこれだけしかなくて。どうかこれで・・・」

「・・・は?」


 硬貨を差し出す老人を見てヴリトラは力の無い声を出した。


「俺達はお金が欲しいとは一言も言ってませんよ?」

「え?」


 金銭は要らない、そう言ったヴリトラに老人は驚き顔を上げた。自分の命を助けてくれた傭兵が金を要らないと言う事が信じられなかったのだろう。


「ちょっと訊きたい事がありましてね。いろいろ教えてくれませんか?」

「は、はぁ・・・それで、報酬は何を・・・?」

「いや、ですから色々と教えてください。それが俺達の望むものですよ」

「・・・・・・ええぇ!?」


 金銭で物資でもない。ただ聞きたい事があるからそれに答えてくれ、たったそれだけの為に自分達を助けた事で更に老人は驚いた。傭兵とは金で動く存在だと老人は今まで思っていたのだろう、だが目の前に立っている青年はそんな自分が想像していた傭兵とは少し違っている。そこの事で老人は驚きと僅かな喜びを感じたのだ。

 ヴリトラの老人の会話を聞いているリンドブルムとジャバウォックは笑いながらその光景を見ていた。


「また出たぜ、ヴリトラの気まぐれな優しさが」

「ヴリトラはあんな小さな事では依頼人からお金を取ろうとしないからね。ジャバウォックも分かってたんでしょう?こうなる事」

「へへっ、まあな」


 笑いながら話しをする二人。付き合いが長いのか、ヴリトラの考え方や優しさが彼等には直ぐに分かる。それが彼等が七竜将の一員として今までヴリトラと同行してきた理由の一つでもある。

 一方で、話がまとまったのか、ヴリトラは老人に早速質問をし始める。


「それじゃあ、早速聞きたいんですけど、此処はコロンビアのどの辺りですか?」

「・・・・・・は?コロンビア?・・・そのコロンビアとは何なのでしょうか?」

「・・・へ?」


 コロンビアが何なのか分からないと答える老人にヴリトラは間抜けな声をだし、それを聞いていたリンドブルムとジャバウォックも思わず老人の方を向いて耳を疑った。


「い、いやいや、ここはアメリカのコロンビア州でしょう?」

「あのぉ、何か勘違いをされておれらる様ですが、ここは『レヴァート王国』の首都『ティムターム』と近くの林ですが・・・?」

「・・・・・・な、何だって?」


 老人の言葉に思わず固まるヴリトラ、リンドブルム、ジャバウォックの三人。

 自分達は数分前までアメリカのコロンビアにいた筈なのに、今自分達がいるのはコロンビアでもアメリカでもない所。レヴァート王国、ティムタームと聞いた事の無い国や町の名前が耳に入ってくる。それを知り、今の自分達の現状を理解する、それが今の七竜将にとっての最初の試練となるのだった。


少々進み具合が悪いですが、気を長くして次話をお待ちください。

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