第三十五話 出発!ブンダの丘へ
エリオミスの町で一晩過ごした七竜将は自分達の覚悟を口にして勝利を誓い、杯を交わす。その時に七竜将の事を色々知ったラピュスは彼等と過ごす時間の楽しさを知り、より七竜将の事を強く理解しようと思う様になった。
翌朝、七竜将はエリオミスの町にやって来た時に通った入口とは正反対の所にある入口の前に集まり、出発の準備をしていた。まだ町には住民は殆ど出て来ておらず、とても静かな物だった。そんな中で七竜将と二人の姫騎士は真剣な表情で横に並べて停めてあるバンの前に集まっている。
「よし、これで準備は済んだな?」
ニーズヘッグが周りを見て準備が整っているかを確認していると、頬に湿布薬を張ってふて腐れているヴリトラの顔を飛び込んできた。
「おい、どうしたんだその顔?」
「・・・ああ、これか?昨夜、素敵な姫騎士様から貰ったプレゼントのあとだよ」
「・・・あ、あれは仕方がなかっただろう?私も動揺して思わず手が出てしまったんだからな」
ニーズヘッグの質問に不機嫌そうな声で答えるヴリトラ。その隣ではラピュスは俯きながら顔を赤くしていた。昨夜、誤って自分を押し倒したヴリトラを思いっきり引っぱたいた事に少しではあるが反省しているようだ。
二人の会話とヴリトラの湿布を見て、昨夜その場にいたリンドブルム以外の者達が大体の状況を理解したのか頷きながら二人を見ている。
「成る程な、昨夜聞こえた高い音とヴリトラの声がそれが原因か」
「それで私達の部屋に湿布を取りに来たのだな・・・」
ジャバウォックが昨夜聞いた声と音の、オロチが自分達の部屋にヴリトラが来た理由を知って呆れる様な表情を見せる。
「ん?昨夜何かあったの?」
ジルニトラが周りを見ながら何かあったのかを尋ねると、ファフニールがジルニトラをハッとした表情で見上げた。
「あっ、ジルは部屋に着いたらそのまま寝ちゃったから知らなかったんだね?実は昨夜ヴリトラがラピュスさんに何かしたみたいで・・・」
「何もしてねぇ~よ!」
ファフニールの誤解を招く言い方にヴリトラがツッコム。そんなヴリトラを見てリンドブルムは小さく笑いながら更に誤解されるような事を言う。
「えぇ~?昨夜ラピュスを押し倒して楽しそうに話してたくせに~」
「・・・っ!?」
「リ、リブル!お前なぁ!」
リンドブルムの言葉にラピュスはビクリと反応し、ヴリトラもリンドブルムを見て怒り出す。その話を聞いて周りのジャバウォック達は一斉にヴリトラとラピュスに視線を向けた。
「お~お~!ヴリトラァ、お前いつの間にそんな大胆になったんだぁ?てっきりラピュスに無神経な事を言って引っぱたかれたのかと思ったぜ」
「まっ、お前ももう二十二だからな、そういう事があってもおかしくはないな」
ジャバウォックとニーズヘッグが笑いながらヴリトラをからかい、そんな二人を見てヴリトラも徐々に顔を赤くしていく。
「あらあら顔赤くしちゃってぇ、可愛いところあるじゃない?」
「・・・押し倒すなんて、不潔」
「でも、押し倒されてビンタするなんて・・・ラピュスさんって、もしかしてツンデレな性格なのかなぁ?」
「そんな事はどうでもいいだろう・・・」
ジルニトラを始め、女性衆も色々な言葉をヴリトラに言い放つ。やがてヴリトラは顔を赤くしながら俯いて震え出す。
「お前等、いい加減にしろぉ~~~っ!!」
周りで自分をからかう仲間達にヴリトラは遂に怒りを爆発させた。怒ったジャバウォック達は笑いながら走り出し、ヴリトラも怒りながら、からかうジャバウォック達を追いかけていく。朝から騒がしいヴリトラ達を見ているラピュス、リンドブルム、ララン、オロチの四人は追いかけっこをしているヴリトラ達をその場でただ見ていた。
「はぁ・・・」
昨夜あんなに酒を飲んだのにどうしてこんな朝早くから騒がしくできるのか不思議な気持ちとヴリトラと一緒にからかわれた疲れから溜め息をつくラピュス。
「・・・隊長、大丈夫?」
「ああ。大丈夫だ・・・」
「・・・・・・」
「・・・何だ、ララン?」
黙って自分を見上げるラランにラピュスが訊ねると、ラランは走り回っているヴリトラ達を見た後にもう一度ラピュスを見上げる。
「・・・隊長、本当に押し倒されたの?」
「いいっ!?ち、違う!曲がり角でぶつかりそうになったからその時の驚いて転んだんだ。その時に偶然ヴリトラが私の上に倒れただけだ!」
「・・・それだけ?」
「それだけとは、どういう意味だ?」
ラランの質問に意味が分からずに訊き返すラピュス。ラランはまた走っているヴリトラ達の方を見ると、再びラピュスの方を向く。その表情は一応納得したような顔をしており、数回頷きながら口を開いた。
「・・・何もないならいい」
「?」
「・・・でも、つまんない」
最後にラピュスに聞こえないくらいに小さな声で呟くララン。ラランを不思議そうな顔で見ているラピュスの姿を見ているリンドブルムはゆっくりと未だに走っているヴリトラの方を向いて小さく笑った。
「・・・ヴリトラ、ラピュスは君を意識し始めてるみたいだよ?フフフ」
呟きながら悪戯っぽく笑うリンドブルム。彼はヴリトラとラピュスの間に何を見たのか、とても十二歳の幼い少年が考えないような事を考えているのかもしれない。
一方、オロチはいつまでも走り続けているヴリトラ達を見るのがつまらなくなったのか、無表情のまま走っているヴリトラ達に声を掛けた。
「おい、いつまでそうやっているんだ?もうザーバット隊長には知らせてある。いつでも出発できるんだ、さっさと行くぞ・・・」
オロチの言葉を聞いて追いかけているヴリトラと追いかけられていたジャバウォック、ニーズヘッグ、ジルニトラ、ファフニールが足を止め、ゆっくりとオロチ達の方へ歩いてくる。
「はぁ・・・お前等、ホントにいい加減にしろよ?」
「ハハハ、ワリィワリィ。お前があんなに興奮するところなんて久しぶりに見たからな、思わずからかいたくなっちまったよ」
「だが、お前が誤解されるような事をやっちまったのも事実だろ?」
「だからやってねぇって!」
「どっちでもいいじゃない?面白い話題ならさ」
「そうそう、面白い時には笑っておかないと♪」
まだからかい続けているジャバウォック達にヴリトラはまた腹が立って来たのか、歯ぎしりをしながら四人をチラチラと見る。ラピュス達の所まで戻って来たヴリトラ達は気持ちを切り替えて今後の事についてもう一度確認するように話しをし始める。
「え~っと、それじゃあ、もう一度確認するぞ?まずこの町を出たら俺たいはゴルバンの町の手前にあるブンダの丘に駐留している白銀剣士隊の騎士達と合流する。そこで情報を貰い、準備を整えた後にそのままゴルバンの町へ向かう。いいな?」
ヴリトラはさっきまで怒りながら仲間を追いかけていた態度からこれから戦場へ向かう戦士の態度へと変わっており、真面目な表情で今後の行動内容を確認していく。他の七竜将もさっきまでのニヤニヤと笑っていた表情から鋭い表情へと変わっていた。
「確か、ブンダの丘にはチャリバンスって人がいるんだよね?」
「ああ、白銀剣士隊の中隊長でブンダの丘の駐留隊の指揮官をしているとザーバット殿が言っていた」
「随分な傭兵差別者みたいだけど、大丈夫なの?僕達に敵の情報を教えてくれるとも思えないし」
ラピュスの方を向いてリンドブルムが訊ねると、ラピュスは懐から丸めてある紙を取り出してヴリトラ達に見せた。
「何よそれ?」
「この町に初めて来た時に言った切り札だ」
「切り札、チャリバンスが私達に情報を教えなかった時に出すと言っていたあれか・・・?」
「そうだ。これを見せればチャリバンス殿も簡単には断れない筈だ」
「何が書いてあるの?」
オロチとジルニトラがラピュスの持っている紙を尋ねると、ラピュスはその紙を閉まって微笑み二人を見た。
「それはブンダの丘の駐留基地に着いたら教える」
「ほぉ?お前のその表情、どうやら期待していい物のようだな?」
ラピュスの顔を見て笑いながら切り札とやらに期待するジャバウォック。他の者達もラピュスの持つ紙の内容を気にしながら微笑む。
「よし、それじゃあ早速出発するか」
ヴリトラの声掛けに、ラピュス達は一斉にバンに乗り込む。エリオミスの町に来た時と同じように乗り込んだ一同は席につき、全員が乗るとドアを閉めてエンジンを掛けた。ハンドルを握るニーズヘッグとオロチはギアを変えてそれぞれゆっくりとバンを走らせる。すると、後方から男の声が聞こえてきた。
「おーい!待ってくれぇ!」
「・・・!止めろ!」
声に気付いたヴリトラがニーズヘッグに声を掛け、それを聞いたニーズヘッグもブレーキを踏んでバンを停めた。隣を走っていたオロチも急に止まったヴリトラ達のバンに気付きブレーキを踏む。
「あれ?どうしたんだろう?」
助手席に乗っていたリンドブルムが隣のバンを見て小首を傾げる。
「・・・あっ、あれ」
後部座席に乗っていたラランが後ろを見て何かに気付く。
町の方からザーバットが走ってこちらに向かって来る姿がリンドブルム達の視界に入った。ヴリトラの気付いた声の主は彼だったようだ。走って来たザーバットを見てヴリトラは窓を下して顔を外に出した。バンの前までやって来たザーバットは両手を膝に付けて息を切らせる。
「はぁ、はぁ。よ、よかった、もう行ってしまったのかと思ったよ・・・」
「どうしたんですか、ザーバットさん?」
ヴリトラがザーバットを見て尋ねると、顔をあがてザーバットがヴリトラ達の乗るバンを見て驚きながら笑みを浮かべた。
「おおぉ!これが自動車と言う鉄の馬車か。噂は聞いていたが、実物を見ない事になどうも信じられなかったよ」
「あ、あの~、用件は・・・?」
「え?・・・ああぁ、どうだったな。すまない」
バンに見惚れて本題を忘れていたザーバットは謝り懐から丸めてある一枚の紙を取り出してヴリトラに見せた。
「これを渡そうと思ってたんだ。持って行ってくれ」
ザーバットに差し出された紙を受け取ったヴリトラは広げて中身を見てみる。そこには何やら町の全体図の様な絵が描かれてあった。
「これは?」
「ストラスが軍の補給基地があるゴルバンの町の見取図だ。それがあればゴルバンの町の何処に何があるのかすぐに分かる。それに、チャリバンス殿の事だ、見取図を持っていたとしても君達に見せるとは限らないからな?」
「成る程ね。ありがとうございます」
チャリバンスの性格を考えてゴルバンの町の見取図を持ってきてくれたザーバットに感謝するヴリトラ。ザーバットも地図を渡すと一歩後ろに下がり敬礼をする。
「私は正直、君達七竜将がどれ程の実力者なのか知らない。だが、君達のおかげで私達がストラスタ軍の奇襲を受けずに済んだのは事実だ。私は君達を信じてみる事にしたよ、君達ならゴルバンの町を取り戻してくれるとね」
小さく笑いながら七竜将を信じると言うザーバットを見てヴリトラ達七竜将は少し驚いていた。ファムステミリアに自分達を信用してくれる人がまだいたという事を知って。ラピュスも驚く七竜将達、彼等を信じてくれるザーバットを見て微笑みを見せた。ヴリトラは表情を戻して敬礼するザーバットに笑みを向ける。
「ありがとうございます。貴方とはいつか一度ゆっくりと話しをしてみたいですよ」
「私もだ。お互い縁があったらまた会おう」
ヴリトラは頷き、ゆっくりと窓を上げる。それを見たニーズヘッグはバンを走らせ、オロチ達もそれを見てバンを動かした。ヴリトラ達を乗せる二台のバンは既に下ろされている跳ね橋を渡り川を越えて対岸へと渡った。跳ね橋を渡り終えるとアクセルを踏んでスピードを上げる。町を出て行ったバンを見送ったザーバットは静かに町の方へ戻って行った。
町を出てから数分後、ヴリトラ達は分かれ道に差し掛かり、ブンダの丘へ続く道を済んだ。途中、民家や畑などの前を通り過ぎる事があったが、まったく人の気配がなかった。この辺りも戦場の近くになる為、近くに住んでいる人は皆エリオミスの町に避難したのだろう。そんな風景をバンの中から見てヴリトラ達はレヴァートとストラスタの戦況を感じていた。
「ここも殆ど人がいないな・・・」
「少し前までストラスタ軍がエリオミスの町の近くまで来て交戦してたんだ、前からそれを感じ取っていたザーバット隊長達が住民達を移動させたんだろう」
助手席から外を眺めているヴリトラと運転しているニーズヘッグが戦争の激しさを直感して話している。その後ろではラピュス達がザーバットから受け取った地図を見ながら自分達の現在地やブンダの丘までの距離を調べていた。
「ラピュス、あとどれ位ブンダの丘に着くの?」
「今私達がいるのはこの辺りだ、もうすぐ川が見えてくるはずだ。その川を通り越せば丘が見えてくる」
「その川って、あれの事?」
ラピュスの地図を覗いていたファフニールが前を見て指を指す。ラピュスとジルニトラ、そしてヴリトラとニーズヘッグが前を見ると、そこには確かに幅10mほどの川が見える。前にラピュスの言った通り水量も少なく、バンなら楽に渡れそうば川だ。
「あの川か、確かに浅いな?」
「馬車や馬は通るのが難しいが、この自動車なら楽に通れると思うが、どうだ?」
「ああ、あれ位なら行ける」
ニーズヘッグはハンドルを強く握り、ヴリトラはカーナビのテレビ電話のスイッチを入れて後ろを走るリンドブルム達のバンに連絡を入れる。しばらくして画面にリンドブルムの顔が映し出された。
「リブル、例の川が見えた。俺達が先に川を渡るから、お前達はその後に続いてくれ」
「OK、分かった」
「渡る時に揺れるかもしれない、備えておけよ?」
「分かってるよ」
画面の向こうで笑いながら答えるリンドブルム。その顔に運転していたニーズヘッグは少し不安を感じている。そしてヴリトラ達の乗るバンはゆっくりと川に入っていく。渡る時にガタガタとバンが揺れ、それと同時に車内もグラグラ揺れる。
「ととととっ!後ろ、大丈夫かぁ!?」
「なななっ、なんとかねぇ!」
「おい、あんまり喋るな。舌噛むぞ?」
揺れたまま話しをしているヴリトラとジルニトラに忠告するニーズヘッグ。ラピュスとファフニールも黙ってはいるが揺れる車内に表情が歪んでいた。
ヴリトラ達が揺れる車内で話している時、その後ろを走っているリンドブルム達のバンも揺れ、その中でリンドブルム達が揺れと格闘していた。
「わわわっ!激しすぎない、この揺れは!?」
「仕方がないだろう?我慢しろ!」
体を上下に揺らしているリンドブルムとジャバウォック。ジャバウォックの隣ではラランが椅子に掴まりながら揺れに耐える姿があった。一方で運転しているオロチは表情を変える事なく運転に集中している。
「そろそろ岸に上がるぞ・・・」
オロチが運転をしながらリンドブルム達に伝える。オロチはそう話した直後に前を走るヴリトラ達のバンが川を上がり、オロチ達もその後に続く。それからしばらく真っ直ぐな道が続き、また静かに移動する事になった。因みに二台のバンの後部座席ではラピュス達が姿勢を崩して気分の悪そうな顔をしている。
川を越えたから数分、道なりに真っ直ぐ進んで行くと緑の広がる広い丘が見えた。木などは一本と立っておらず、所々に高低差がある美しい丘だった。
「此処がブンダの丘か・・・」
「ああ、この辺りでは一番大きな丘だ。これだけ広く高低差のある丘の一番高い所に拠点を作れば敵がどの方向から来ても直ぐに対応できる」
丘を見回して驚くヴリトラに後部座席から顔を出して説明するラピュス。ジルニトラとファフニールも後部座席の窓から広い丘を見回して笑みを浮かべていた。その時、ニーズヘッグが丘の高い所にある無数のテントを見つける。テントの周りには大勢の兵士や馬の手入れをしている騎士達の姿がある。どうやらそれがチャリバンスの指揮している白銀剣士隊の駐留基地のようだ。
「どうやらあれが目的地の駐留基地のようだ」
「以外の大規模な部隊じゃねぇか?」
「チャリバンス殿は元々ゴルバンの町の増援部隊として派遣されたんだ。ところが町に到着する前にゴルバンの町がストラスタ軍に制圧され、彼等はそのままゴルバンの町の解放を命じられたと聞いている」
「成る程。でも、精鋭である白銀剣士隊でも攻略できないから俺達七竜将に依頼したという事か・・・」
ヴリトラとニーズヘッグがラピュスの話しを聞いて駐留基地を見つめる。白銀剣士隊でも攻略できないところに僅か七人の傭兵隊と二人の姫騎士が向かう、それは精鋭の騎士隊である彼等にとっては屈辱と呼んでもいい事だった。
「とりあえず、駐留基地に向かって隊長さんにご挨拶したら?」
「それもそうだな。ニーズヘッグ」
「ああ・・・」
ジルニトラの言葉を聞き頷くヴリトラはニーズヘッグに合図を出す。ニーズヘッグはゆっくりとバンを駐留基地に向かって走らせる。後ろに待機していたリンドブルム達のバンもそれに続いた。
坂を下りていって車体を僅かに揺らしながら駐留基地へと近づいて行くヴリトラ達。その時、突然バンに向かって無数の矢が飛んで来た。矢はバンの近くを通過、フロントガラスに当たるなどし、それを見たニーズヘッグはブレーキを踏んだ。突然のブレーキにヴリトラ達の体は少し前の飛び出た。それは後ろを走っているリンドブルム達も同じだった。彼等の場合は前のバンが突然止まったため急ブレーキを踏んだ。つまりリンドブルム達はヴリトラ達以上に体が前に飛び出たのだ。幸いにも誰も怪我はしていなかった。
「ビ、ビックリしたぁ~!一体何なのよ、急にブレーキをかけて!?」
後部座席のジルニトラが声を上げながらニーズヘッグの方を見る。ニーズヘッグはバックミラーでジルニトラの方を見ながら前を指差した。
「文句なら前に言ってくれよ」
言われたジルニトラは前を覗き込む。そこには槍や剣を構えて自分達を取り囲む大勢の兵士達の姿があった。奥には弓を持つ弓兵がいつでも矢を放てるように狙いを定めている姿がある。自動車を見た事のない者なら驚いて誰だって警戒するのは当然だ。周りの状況を見てラピュスは兵士達を落ち着かせようとバンから降りた。それに続くように後ろのバンからもラランが降りる。
兵士達はバンから降りたラピュスとラランを警戒しながら剣や槍を二人に向ける。ラピュスとラランは自分達を囲む兵士達に動揺する事なく近づいて行き、兵士達に向かって静かに敬礼をした。
「王国第三遊撃隊隊長、ラピュス・フォーネです」
「・・・同じく第三遊撃隊所属、ララン・アーナリアです」
「ガバディア団長の命を受けて傭兵達七竜将と共にやってまいりました。指揮官のファルネスト・チャリバンス殿にお会いしたいのですが」
王国の遊撃隊の姫騎士がなぜここにいるのか不思議と不思議そうな顔を見せる兵士達は小声で話し合う。いまいち信用できないでいるが、数人の兵士が基地の方へ戻り知らせに行った。しばらくして一人の騎士が馬に乗ってやって来る。ラピュスとラランの二人と何かを話し、話しを終えるとラピュスはヴリトラの方へ歩いて窓をノックする。
「どうした?」
「面会の許可が出た。だが、私とお前の二人だけで来いとのことだ」
「はぁ~?何だよそれ?」
「知らん、私達が何かを企んでるのではないかと疑ってるのかもしれん」
「はぁ・・・分かったよ。・・・・・・ちょっと行ってくる」
ヴリトラはニーズヘッグ達に伝えるとバンを下りてラピュスと二人で騎士に案内されながら駐留基地の方へ歩いて行く。残されたラランやリンドブルム達は兵士に囲まれながらチャリバンスに会いに行く二人の背中を見つめていた。
駐留基地に来ていきなり重苦しい雰囲気。ヴリトラとラピュスは傭兵を差別する騎士から一体どう接するつもりなのか。




