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機械鎧(マシンメイル)は戦場を駆ける  作者: 黒沢 竜
第三章~戦場に流れる鎮魂曲(レクイエム)~
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第三十四話  前祝の夕食

 エリオミスの町に到着したヴリトラ達はその町に駐留する青銅戦士隊の中隊長であるキースリング・ザーバットに会い、ゴルバンの町にあるストラスタ軍の補給基地制圧を任された事を説明する。事情を聞いたザーバットはヴリトラ達を休ませる為に宿を用意し、ヴリトラ達もザーバットの厚意を有難く受け取るのだった。

 ザーバットへの挨拶を終えたヴリトラ達は兵士に案内されて宿へ向かい、そこで体を休める事にした。外はすっかり暗くなり、一同は一室に集まり地図を見ながら今後の行動について話し合いをする。


「明日の朝には町を出てブンダの丘に向かう。町を出てると道が三つに分かれている。その右の道を進めばブンダの丘へは一本道だ」


 ラピュスは地図を指でなぞりながら周りにいるヴリトラ達に説明をする。ヴリトラ達は地図を見ながらラピュスの話しを聞き、ブンダの丘とエリオミスの間の道に何があるのかを確認していた。


「確か、ブンダの丘までに大きな川があるんだよな?」

「ああ、それでバンでは渡れないから離れた所にある橋を渡るって事にしたんだ」


 ヴリトラが確認するように言うと、その隣にいるジャバウォックが頷いて答える。それを聞いてたラピュスは不思議そうな顔で二人を見た。


「橋まで行く必要はないぞ?」

「え?」

「確かにその川は大きいが決して深くはない。地図では分かりにくいが、川は大きく対岸まで距離はあるが深さは膝よりも下あたりまでしかない。夏には子供が遊ぶくらいだからな」


 ラピュスの話しを聞いてた七竜将は意外そうな顔を見せる。彼等は今まで地図でその川を見ていた為、川がどれ程の大きさなのかは想像がついたが深さまでは分からなかったのだ。その為、橋を渡って対岸に向かおうとしたのだが、その必要も無くなった。

 七竜将を見ていたラランがチラチラと全員の顔を見てまばたきをして口を開く。


「・・・やっぱり私と隊長を連れて来てよかった」


 ラランの呟きを聞いてヴリトラは眉をピクリと動かす。エリオミスの町に向かう間といい、町へ入る時の兵士の説得と今回の川の事、ラピュスのおかげで七竜将は色んな情報を得て今までスムーズに進む事が出来た。もし彼女達がいなかったらもっと苦労していただろう。ヴリトラはラピュスとラランがいた事に改めてよかったと思うのだった。


「それじゃあ、この川は橋を渡らなくてもバンでそのまま入っても大丈夫って事だよね?」

「ああ、少なくともあの自動車が沈むほどの深さではない」

「そう、よかった」


 ラピュスの説明を聞いてリンドブルムはホッと胸をなでおろす。遠回りをする必要も無くなり、真っ直ぐブンダの丘へ向かえる事を七竜将は心の中でラッキーと思った。


「川を越えてからブンダの丘までどれ程の距離だ・・・?」


 部屋の壁にもたれているオロチがラピュスに尋ねると、ラピュスは地図を見て川のあたりからブンダの丘までの距離を計算し始める。しばらくしてラピュスは顔を上げてオロチの方を見て答えた。


「約2Kだ、遅くても昼ごろには丘に着くと思うぞ?」

「そうか・・・」


 それほど時間が掛からないと知ってオロチは壁にもたれながら目を閉じる。他の七竜将も予想よりも早く着く事を知って直ぐに補給基地の制圧に掛かると自分に言い聞かせて静かに気合を入れた。そんな時、部屋の中に何やら低い音が響く。それを聞いたヴリトラ達は反応して部屋を見回した。すると、ファフニールが頬を少し赤くして苦笑いをしながら手で後頭部を掻いた。


「アハハハ・・・。お腹空いちゃった」


 ファフニールの方を向いてヴリトラ達は小さく笑う。真面目な作戦会議の中で腹の虫を鳴らすファフニールの神経に部屋の空気は和み、ヴリトラ達の肩の荷は下りて楽になった。


「ハハハ。ファウ、お前はこんな時でも腹が減るんだなぁ?」

「仕方ないよぉ、お腹減ったんだもん。それにお腹が鳴るのは私のせいじゃないよ?」

「確かにそうだな」


 頬を小さく膨らますファフニールを見下ろしてジャバウォックは笑う。周りでもヴリトラ達が笑ってファフニールの方を見ている。周りの者達が自分を見て笑う姿にファフニールはふて腐れる。


「それじゃあ、ファウも腹を空かせてるみたいだし、そろそろ晩飯にするか?」

「おっ、いいねぇ」

「なら早速行きましょう?」


 提案するヴリトラの方を見てジャバウォックとジルニトラも同意する。ラピュス達も賛成なのか黙ってヴリトラの方を向いていた。作戦会議を簡単に済ませた七竜将と二人の姫騎士は食事をする為に部屋を後にした。

 宿を出た一同は差ほど離れていない料理店に入った。中は既に町の住民や駐留している騎士や兵士達によって騒がしくなっており、席も殆ど埋まっている。それでもまだいくつか席が空いており、店員に案内されてヴリトラ達は席につく事が出来た。


「さて、何を頼む?」

「まずは飲み物でしょう?」

「確かにな。飯はその後に頼めばいい」


 注文する品を尋ねるジャバウォックにヴリトラとニーズヘッグが笑いながら答える。リンドブルム達も笑って頷く。ラピュスとラランは七竜将の食事の流れがよく分からないのか小首を傾げていた。


「それで?飲みモンはどんなのがあるんだよ?」

「メニュー無いの?」


 どんな物があるのか分からずに周りを見回すジャバウォックとメニューを探すリンドブルム。そこへラランが遠くの壁を指差しながら二人に声を掛ける。


「・・・あそこに書いてある」

「え?どれ?」


 リンドブルムがラランの指差す方を見ると、確かに壁にメニューの様な物が書かれた張り紙が貼ってある。だが、そこに書いてあるのは全てファムステミリアの文字、七竜将はまだこの世界の文字を全て読めるようになったわけではなく、ただ黙りこむしかなかった。


「・・・ニーズヘッグ、読めるか?」

「いや、俺も全て読めるわけでは・・・」


 ヴリトラが頼みの綱である七竜将の参謀のニーズヘッグに苦笑いをしながら尋ねる。ニーズヘッグも困り顔で首を横に振る。ニーズヘッグにも読めないのであれば他の七竜将にも読める筈がない。七竜将は皆IQが150以上で頭の回転は速いのだが、勉強嫌いのメンバーが多く、まだ長い文章などは読むのも書くのも出来ないのだ。

 メニューを読めずに困り果てているオロチ以外の七竜将を見てラピュスは溜め息をつき、七竜将をジト目で見て尋ねてきた。


「リブルとファウ以外は全員酒は飲めるのか?」

「え?」


 突然酒を飲めるのか聞いて来たラピュスにジルニトラは訊きかえした。


「私が代わりに注文してやるから、何が飲みたいのか言ってくれ」

「そ、そう?ゴメンね、ラピュス?」

「構わないさ」


 苦笑いをしながら礼を言うジルニトラを見てラピュスは「やれやれ」と言いたそうな表情を見せる。やはりラピュスとラランの様なファムステミリアの住人はこの世界では七竜将にとって重宝と言える。ラピュスを見て七竜将は心の底から感謝した。


「それじゃあ、レヴァート王国で有名な酒は何なんだ?」


 レヴァートの名酒は何なのかを尋ねるヴリトラを見て、ラピュスは顎に指を当てて考える。そして何かを思い出したような表情を見せてヴリトラの方を見た。


「レヴァートの名酒と言えば『プレティー酒』だな」

「プレティー酒?」

「リンゴを発酵させた酒だ。甘くて飲みやすく人気がある」

「発酵させた酒かぁ・・・なんだかシードルみたいだな」


 レヴァートのプレティー酒の説明を聞いたヴリトラは元の世界にあるリンゴの発泡酒のシードルを思い出す。そこへリンドブルムが手を上げてラピュスに声を掛けた。


「それじゃあさ、ジュースはどんなのが人気なの?」


 自分の様な未成年は酒が飲めないので子供でも飲めるジュースがないか尋ねるリンドブルム。ラピュスはジュースはどんな物が人気なのかいまいち分からずに考え込んだ。


「・・・ジュースなら『パムベリージュース』がいい」

「パムベリージュース?」


 リンドブルムの隣でジュースの名を上げるララン。リンドブルムもラランの方を向いて訊きかえした。


「・・・甘酸っぱくて凄く美味しいジュース」

「本当?じゃあ僕はそれにする!」

「それなら私も」


 自分が飲むジュースを決めたリンドブルムに続いてファフニールも同じ物を選ぶ。周りで笑う二人を見ながら楽しそうな表情を見せるヴリトラ達。するとそこで、意外な人物が静かに口を開いた。


「私もそのジュースにする・・・」


 声の聞こえた方を一斉に見るヴリトラ達。その声の主は、以外にもいつも冷静でクールな態度を取るオロチだった。ラピュスとラランはオロチがジュースを選んだ事がよほど意外だったのか、オロチの方を見て黙り込む。だが、長い付き合いであるヴリトラ達七竜将のメンバーは小さく笑いオロチの方を見ている。


「どうした・・・?」

「い、いや、お前はジュースを飲むなんて意外だと思ってな・・・」


 自分を見ているラピュスやラランにオロチは問いかけると、ラピュスはゆっくりと首を横に振って返事する。オロチはそんなラピュスを見て「そういう事か」と言いたそうな顔で腕を組む。そこへジルニトラが笑いながらラピュスの方を見て説明した。


「フフフ、そういえばアンタ達は知らなかったわよね?オロチはこう見えて十九歳なの、まだ未成年だからお酒は飲めないのよ」

「何?酒が飲めないのか?」

「そう。あたし達の世界ではお酒は二十歳にならないと飲めない決まりなの」

「そうなのか?ファムステミリアでは酒は十八歳になれば飲めることになっているのだが・・・」

「ええっ!?そうなの?」


 ファムステミリアの未成年者飲酒禁止法の歳が自分達の世界よりも二つ低い事を聞いて驚くジルニトラ。他の七竜将も意外だったのか全員が驚いている。

 十八歳、つまり既に十九歳であるオロチもこの世界でなら酒は飲めるという事を知り、七竜将は一斉にオロチの方を向く。オロチが酒を飲むと言い出すのか気になっているようだ。だが、オロチは目を閉じて静かに口を開く。


「・・・やはり私はパムベリージュースでいい。いくらこっちの世界で飲めても私は向こうの世界の住人だ、酒は二十歳まで飲まない事にする・・・」

「アンタって、相変わらずそうい事に関しては冒険心が無いわよねぇ?」


 真面目に酒を飲もうとしないオロチを見てジルニトラはつまらなそうな顔でオロチを見つめる。オロチはそんなジルニトラの言葉を気にする事なく目を閉じたまま自分の長い髪をなびかせた。

 とりあえず全員が飲み物を決め、店員を呼んで注文するラピュス。しばらくすると、店員が白ワインの様に透き通った黄色い酒の入った木製のジョッキを五つ、紫のジュースの入ったガラス製のコップを四つ持ってきてヴリトラ達の前に置く。自分達の前に飲み物が来たのを確認してヴリトラ達は自分の飲み物を手に取って周りの仲間達を見る。


「全員に渡ったな?・・・・・・さて、俺達は明日の朝に町を出てゴルバンの町へ向かい、そこにある敵補給基地を制圧するわけだが、情報では敵の主戦力とも言えるくらいの大戦力が町に駐留しているって話だ。恐らく、トコトムトの村での戦い以上に危険な作戦になるだろう。皆、覚悟は出来てるな?」


 ヴリトラがラピュス達の顔を見て覚悟を尋ねると、全員がヴリトラの顔を見て笑いながら答えた。


「当たり前だ、覚悟がなければお前達についてきなどしない」

「僕達はこれまでに何度も命がけの依頼を受けて来たからね」

「しかもその殆どが無謀ともいえる内容だったしな」

「・・・私は平気」

「今更覚悟とか言われてもピンとこないさ」

「そうそう、覚悟が出来てるからこそこの世界にいる様なものだしね?」

「今回もきっと大丈夫だよぉ!」

「ああ・・・」


 ラピュスに続いてリンドブル、ジャバウォック、ララン、ニーズヘッグ、ジルニトラ、ファフニール、オロチがヴリトラを見て各々答え話す。一見、根拠と言えるものは感じられず、何処からそんな自信が湧いて来るのか不思議に思えるが、彼等にとってはそれが普通のようだ。全員が強気な態度を見せている。

 それを見たヴリトラもラピュス達を笑って見ながら手に持つジョッキを顔の前まで持って来た。


「それじゃあ、作戦成功の前祝といきましょうか?」

「OK!」

「・・・今日は沢山食べる」

「酒もジャンジャン飲むぜぇ!」


 リンドブルム、ララン、ジャバウォックがヴリトラを見て自分達の飲み物を手に同意する。他の者達も黙ってはいるが異議は無いのか飲み物をゆっくりと上げて飲もうとしている。


「じゃあ、皆。今夜は食べまくり、そして飲みまくるぜ!」


 ヴリトラのその言葉を合図にラピュス達は飲み物を口にする。それからヴリトラ達は食べ物を注文し、前祝を兼ねた夕食は楽しんだのだった。

 それからしばらくして、七竜将達も酒がまわり少しずつテンションを高くしていった。ジャバウォックは酒に強いのか、かなりの量を飲んでもほろ酔い程度にしかなっておらず、ニーズヘッグも頬を少し赤くしているだけで普通に皆と話しをしていた。だが、ジルニトラは既に顔が赤く呂律もうまく回らなくなっているくらいに酔っていた。


「アッハハハハ、らりよみんな、もう少し飲めらでしょう?」

「お前は飲み過ぎだ、それ以上飲むと明日二日酔いになるぞ・・・」


 夕食を終えて宿に戻るヴリトラ達。ベロベロに酔っぱらったジルニトラに肩を貸しながら話し相手になるオロチ。ニーズヘッグとジャバウォックは自分達の後ろで話す二人を見て苦笑いをしいた。


「かなり酔ってるな、ジルの奴?」

「ハッハッハ!アイツはいつも最初はいいんだが時間が経つと直ぐに酔いつぶれちまうからなぁ!」


 ニーズヘッグの横で笑いながら歩いているジャバウォック。彼も酔っているせいかいつもより大きな声を出していた。周りでは酔っていないヴリトラとラピュス、そして未成年組のリンドブルム、ララン、ファフニールがその光景を黙って見ている。


「・・・おい、ジルは酒を飲むといつもあんな調子なのか?」

「まぁな、どちらかと言うとアイツは酒にはあんまり強うい方じゃねぇんだ。特に初めて飲む酒には直ぐに酔っちまうんだよ」

「成る程。それにしても、飲んでいる時に聞いたんだが、ジルは二十三で私よりも年上だったんだな?」

「ハハハ。オロチの時といい、お前驚きの連続だったな?・・・人は見かけによらないだろう?」

「・・もしそれをジル達が聞いたら怒るぞ?」


 笑いながら失礼な事を言うヴリトラにラピュスはジト目を向ける。幸いジルニトラやオロチには聞こえていなかったようだ。ヴリトラ達はそのまま何事も無く宿屋へ到着し、自分達の部屋へ戻った。


「それじゃあ、おやすみ~」

「おやすみ・・・」

「ふぉらぁ~っ!もっど飲むわよぉ~~!」

「分かった分かった・・・」


 酔いの酷いジルニトラを連れてオロチとファフニール、そしてラランは女部屋へ向かって行く。


「それじゃあ、俺達も部屋に戻って休むか?」

「ああ、そうだな」

「・・・・・・あれ?ラピュスは?」

 

 リンドブルムが周りを見てラピュスがいない事に気付いた。ヴリトラ達も周りを見てラピュスの姿を探す。


「何処行っちまったんだ?」

「トイレじゃねぇのか?」

「そうかもな」


 ニーズヘッグとジャバウォックがトイレに行ったと思い、納得して部屋へ入っていく。残ったヴリトラとリンドブルムは気になるのかもう一度周りを見てラピュスの姿を探しだす。


「本当にトイレなのかなぁ?」

「さぁな?・・・・・・探しに行ってみるか?」

「あれ?・・・もしかして心配なの?」


 ラピュスを探しに行こうと言い出すヴリトラを見てリンドブルムはニッと笑いながら尋ねる。ヴリトラはそんなリンドブルムを見下ろして少し動揺した様な態度を見せた。


「そ、そんなんじゃねぇよ。ただ気になるだけだ」

「ふ~ん、どうして気になるのぉ?」

「あ~っ!何でもいいだろう!探しに行ってくる!」

「あ~、待って。僕も行くよぉ」


 照れるような態度で歩き出すヴリトラの後を追ってリンドブルムも早足で後を追った。

 宿の中を探し回る二人。宿は既に電気が消えて月明かりだけが宿の中を照らしていた。何処か不気味さを表す廊下を歩きながら宿の中を探す二人。


「何だが不気味だねぇ・・・」

「向こうでも夜中のホテルや旅館って不気味だったからなぁ」


 薄暗い廊下を歩きながら曲がり角に差し掛かろうとした時、突然曲がり角から人影が姿を見せた。


「おわぁ~~っ!」

「わぁ~~っ!」


 声を上げるヴリトラと人影。するとヴリトラと人影は驚いた拍子にバランスを崩してヴリトラはその人影に覆いかぶさる形で倒れた。倒れた二人に驚いたリンドブルムはただ黙って倒れるヴリトラと人影をジッと見ている。


「いててて、何だよ一体・・・ん?」


 頭を擦ってゆっくりと体を起こすヴリトラが自分の下を見ると、そこには仰向けになって倒れているラピュスの姿があったのだ。そう、曲がり角から飛び出して来た人影はラピュスだったのだ。


「ラ、ラピュス?」

「うう~~、ん?ヴリトラ、どうしたんだこんな所で?」

「お前こそ、此処で何やってるんだ?」

「私はかわやへ行って来ただけだ」

「厠って、トイレだったのか」

「そうだ」


 ジャバウォックの言うとおりトイレに行っただけだと知りなぜかホッとするヴリトラ。そんなヴリトラを見てラピュスは不思議そうな顔を見せている。


「・・・まさか、私を探していたのか?」

「え?・・・あ、ああ・・・」


 照れ隠しをしながら頷くヴリトラ。ラピュスはヴリトラの意外な一面を見つめて小さく笑った。


「フフフ、お前みたいな男にも紳士的なところもあるんだな?」

「それ、どういう意味だよ?」

「いや、深い意味はない。フフフ」


 笑うラピュスを見てヴリトラはムッとした顔をする。からかわれている事が気に入らないのだろう。


「・・・・・・あのぉ、ちょっと」

「「んん?」」


 突然声を掛けられたヴリトラとラピュスは声のした方を向く。そこにはジト目で自分達を見つめているリンドブルムの姿がった。


「二人とも、何時までそうしてるつもり?」


 リンドブルムが二人を指差しながら尋ね、指を指された二人は自分達の体勢を確認する。今二人の体勢はヴリトラがラピュスを押し倒している状態になっていたのだ。ラピュスは自分とヴリトラの体勢とリンドブルムに見られている事を理解する。すると、、彼女の顔は見る見る赤くなり、自分の上にいるヴリトラの顔を見上げる。


「~~っ!何時までそうしてるのよ、バカァ~~!」


 久しぶりに女口調に戻ったラピュスは右手で思いっきりヴリトラの頬を引っぱたいた。


「いってぇ~~~っ!!」


 静かな宿にヴリトラの叫び声と頬を叩いた時の高い音が響いた。ラピュスがヴリトラにビンタをする姿はさっきまでヴリトラを紳士の様に見ていたのがウソの様の思えてしまう程だった。


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