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機械鎧(マシンメイル)は戦場を駆ける  作者: 黒沢 竜
第三章~戦場に流れる鎮魂曲(レクイエム)~
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第三十三話  通過点 エリオミスの町

 敵補給基地を制圧する新たな依頼をガバディアから受けた七竜将は補給基地のあるゴルバンの町へ向かう事となった。その依頼にラピュスとラランが同行すると現れ、最初は反対していたヴリトラだったがラピュスの強い押しに負けて連れて行くことになる。七竜将と二人の姫騎士はゴルバンの町へ向かう為に、トコトムトの村を出発。最初にゴルバンの町の情報を得る為に町の手前にあるブンダの丘へ向かうのだった。

 トコトムトの村を出たヴリトラ達はバンを走らせながらブンダの丘へ向かうの為に通過するエリオミスの町へ向かっていた。町へ向かう途中にエリオミスの町からやって来た商人や馬車と出会い情報を聞く。見た事のない鉄の塊を見て最初は動揺していた商人達も首都の姫騎士であるラピュスやラランの顔を見たら七竜将が怪しい者でないと悟ったのか詳しい情報を教えてくれた。その点では二人を連れて来た事はラッキーだったと言える。


「商人の話だと、もう少しでエリオミスの町が見えてくるはずだ」

「ああ、この調子だと夕暮れまでには着くだろうな」


 並んで林の間の道を走る二台のバン。その中で前を走るバンでは運転席に座るニーズヘッグと助手席でガバディアから貰った地図の写しを見ているヴリトラが商人の話を思い出しながら話しており、その後ろの座席ではラピュス、ジルニトラ、ファフニールの女子三人が並んで座っている。初めてバンに乗ったラピュスも最初は車内や道を走って揺れる車に若干驚いていたが、窓から外を見て風景や風を感じ、次第に笑顔を見せる様になっていった。


「どうだ、ヴリトラ?私とラランを連れて来て正解だっただろう?私達がいなかったら商人達に警戒されて詳しい話は訊けなかっただろうな?」

「うっ!・・・・・・そうですね、ラピュスさんの言うとおりです!」


 嘲笑しながらヴリトラに嫌味を言う様に話しかけるラピュス。それを聞いたヴリトラは一度ラピュスの方を目を細くしながら見つめてしばらく黙り込むが、彼女の正論に何も言い返せず、声に少し力を入れて渋々納得する。そんな二人の会話を見てジルニトラとファフニールはニヤニヤ笑っており、ニーズヘッグも前を向いて運転しながら微笑んでいる。その表情は何処か楽しそうに見えた。

 ヴリトラ達がバンの中で騒いでいると、カーナビから発信音が聞こえてきた。それに気づいたヴリトラがカーナビのスイッチを入れると、画面が変わり、後ろを走るバンの助手席に乗っているリンドブルムと後部座席に乗っているラランとジャバウォックの顔が映し出される。


「お~い!そっちから何か見えた~?」


 画面の向こうから手を振るリンドブルムを見てヴリトラは「楽しそうだなぁ」と言いたそうな苦笑いをする。後部座席ではジルニトラが同じように苦笑いを見せ、隣に座っているファフニールが手を振り返した。ファフニールの反対に座っているラピュスは突然カーナビに映し出されたリンドブルムの顔を見て目を丸くして驚いている。


「おい、何だそれは?どうしてリンドブルムがそこにいるんだ?」

「・・・アハハ、お決まりの質問ね」

「うん、何だか小説の世界みたい!」


 異世界物の小説の中で、テレビなどを見て驚く異世界人がする質問とほぼ同じ質問をしてきたラピュスに苦笑いを見せるジルニトラと楽しいのか笑顔を見せているファフニール。驚くラピュスを見て画面の中のリンドブルムはニッと笑っており、その後ろではラランが今のラピュスと同じように目を丸くして驚いている。


「・・・隊長、何でそんな小さな箱の中にいるの?」

「ラ、ララン!?お前、大丈夫なのか?どうやってその中に入ったんだ?」

「・・・入ってるのは隊長でしょう?」

「はぁ?何と言ってる、入ってるのは・・・」


 画面の中の相手を見て戸惑いを見せながら話しをする姫騎士達。どうやらお互いにカーナビと言う小さな箱の中に入って自分と会話してると思い込んでいるようだ。話をする二人の近くに座っている各七竜将は会話を聞いているうちに表情が困り顔になっていき、二人にしっかりと説明した方がいいと悟ったのかラピュスとラランにカーナビの事を説明し始める。

 カーナビの説明を終えて落ち着いたラピュスとラランは自分達の取り乱しようが恥ずかしかったのか、頬を少し赤くして七竜将から目を反らす。そんな二人に七竜将はただ苦笑いをするしかなかった。そんな中で空気を変えようと、テレビ電話を掛けてきたリンドブルムが画面の中から助手席に座るヴリトラに声を掛ける。


「と、ところでさぁ、さっきも訊いたと思うんだけど、そっちで何か見えた?二号車からだと前が見えなくよく分かんないんだ」

「お、おう。まだエリオミスの町は見えないなぁ、でも夕方頃には着くはずだ。今日はとりあえず町で休んで明日の朝に出発する事になると思うぜ?」

「そ、そうなんだ。OK、分かったよ」


 苦笑いをしながら話をするリンドブルムとヴリトラ。それぞれのバンの中では二人の会話を聞いているオロチ以外の七竜将は全員空気を変えようとする二人を見て苦笑いをしたり、外を見ながら小さく笑ったりしている。ラピュスとラランは頬を赤くしたまま自分の隣や前に座っている七竜将を目を細くしながら黙って見つめていた。


「・・・いいぞ?無理に空気を変えようとしなくても?」

「・・・私達、何も気にしてないから」


 と言いつつも未だに頬は赤いままのラピュスとララン。気を使うつもりが却って二人を気まずくさせてしまったヴリトラとリンドブルムは後ろに座っている姫騎士を視線だけを動かして見つめ、苦笑いをしながら汗を垂らす。これ以上はもうやめようと二人は画面に映る相手を見て黙って頷き、テレビ電話を切った。


「・・・オホン。ところで、エリオミスの町は今どんな状態なんだ?」


 ヴリトラは真面目な話しをする為に一度咳き込み、気持ちを変えてラピュスの方を向く。エリオミスの事を聞かれたラピュスもヴリトラの方を向いて気持ちを切り替え、真剣な表情を見せる。


「ああ。エリオミスの町は増援部隊が合流した事で戦力が大きく上がった。今の状態なら敵が大隊をぶつけて来ても十分耐えられる」

「そうか・・・」


 エリオミスの町は敵の攻撃に耐えられる聞かされてホッとするヴリトラ。そこへ二人の話しを聞いていたジルニトラが話しに加わってラピュスに質問をした。


「じゃあさ、エリオミスの町ってどんな所なの?」

「エリオミスの町は音楽や舞台で有名な町だ。毎年、収穫祭や記念日などには町に大勢の人が集まり舞台や演奏を見に来たりしている」

「へぇ~、なんだか楽しそうな町ねぇ」


 ジルニトラはどんな町なのかを聞き、早く町が見てみたいのか上機嫌になる。そんなジルニトラの反応に、運転しているニーズヘッグは低い声を出す。


「おい、今は戦争中だ。そして俺達は戦う為にその町を通過するだけ、楽しむ余裕は俺達にも町にも無いって事を忘れるなよ?」

「分かってるわよ。まったく、アンタは相変わらず真面目ね?ニーズヘッグ」


 注意してきたニーズヘッグを見て、ジルニトラはつまらなそうな表情で軽く返事をする。すると今度はファフニールがジルニトラの陰から顔を出してラピュスに声を掛けた。


「それじゃあ、今エリオミスの町にいる部隊の隊長さんはどんな人なの?」

「確か、エリオミスにいるのは青銅戦士隊のザーバット殿の中隊だった筈だ」


 ラピュスが駐留部隊の隊長の話しをしていると、隊長の名を聞いて助手席のヴリトラは反応しラピュス達の方を向いた。


「ザーバット?・・・確か戦略会議の時に見た騎士だったよな?十字槍の達人の?」

「そうだ、ザーバット殿の中隊は元々エリオミスの防衛を任されていたのだが、敵の襲撃で被害が大きくなり、あの時戦略会議で補給の要請を出していたらしい」

「成る程な。それで、どんな人なんだ?会議の時はよく分からなかったけど・・・」


 戦略会議の時にザーバットは十字槍の名手で青銅戦士隊の所属しているとしか聞いていなかったヴリトラは改めてザーバットの事をラピュスに尋ねる。ラピュスはヴリトラや周りにいるジルニトラ達を見ながら静かに語り始めた。


「キースリング・ザーバット殿はさっきも言ったように十字槍の名手で青銅戦士隊でも一二を争う実力の持ち主だ。彼は町に出ては傭兵達と仕事の話しをしたり、町の人達とも積極的に接している方だ」

「へぇ~、それじゃあ優しい人なの?」

「ああ、私も何度か話しをした事がある。平民出の姫騎士である私やラランとも普通話しをしてくれる心の広い人だ」

「そうなんだぁ~」


 ラピュスの話を聞いてファフニールは会ってみたくなったのか笑顔を見せている。


「ただ、平民との触れ合いが多いせいか、他の部隊長や貴族出の騎士達からあまり良い目では見られていないようだ。私達と同じだよ・・・」


 貴族出身の騎士達からよく思われていない。それは平民出身の騎士だけではなく、そんな騎士達と接している者達も同じように見られるという話しをしてラピュスの声が少しだけ小さくなる。そんなラピュスを見ていたヴリトラは前を向いて小さく笑い口を開いた。


「そんな騎士がもっと大勢いればいいのにな?」

「え?」


 ヴリトラの言葉を聞いてラピュスはフッとヴリトラの方を向いた。


「お前、トコトムトの村で俺達に言っただろう?誰かの辛さを分かる傭兵がもっと沢山いればいいのにって?それは騎士も同じじゃないのか?平民達の事を思う貴族出の騎士が大勢いれば上下関係とかが少しは良くなるんじゃないかって俺は思うぞ?」


 自分が言った言葉と似た言葉をヴリトラが口にする。それを聞いたラピュスは最初は意外そうな顔で驚いていたが、直ぐに笑顔を見せて頷いた。


「そうだな、お前の言う通りかもしれない」


 笑顔を見せるラピュスを見てヴリトラはもう一度彼女の方を向いてニッと笑う。ジルニトラも微笑みを見せ、ファフニールはニカッと笑顔でラピュスを見つめた。

 二人が笑い合っていると、運転しているニーズヘッグが前を見たままヴリトラ達に声を掛けてきた。


「おい、町が見えたぞ?」


 ニーズヘッグの言葉を聞き、ヴリトラやラピュス達はフロントガラスから目を覗き込む。ニーズヘッグの言うとおり、約1K先にティムターム程ではないが大きな町が見えた。ザーバットの部隊が駐留しているエリオミスの町だ。


「あれがエリオミスの町か」

「意外に大きな町ね?」

「ああ、もしあの町を敵に制圧されるとストラスタ軍の大部隊が駐留できるようになり一気にサリアンの森の補給基地や周囲の拠点を制圧されてしまう。エリオミスの町はこの辺りでも最も重要な拠点なんだ」

「あそこを奪われれば、他の拠点も一気に奪われてレヴァート軍の拠点は一気に失うって訳か」


 エリオミスの町の重要性を聞かされて真剣な表情で町を見つめるヴリトラ。そこへ再びカーナビから発信音が鳴り、画面にリンドブルムの顔が映し出された。


「ヴリトラ、さっき少しだけ町が見えたけど、エリオミスの町に着いたの?」

「ああ、正確にはもうすぐ着く、だけどな。少し急ぐから遅れずについて来てくれ。いいか、オロチ?」

「分かった・・・」


 カーナビの画面から運転しているオロチの声が聞こえ、ヴリトラはテレビ電話を切る。気付くと辺りは既に日が沈みかけ、夕日が二台のバンを照らしていた。


「辺りも暗くなってきたな・・・。ニーズヘッグ、少しスピードを上げてくれ」

「了解」


 ニーズヘッグは言われたとおりアクセルを付加してバンの速度を上げる。その後ろを走っていたオロチもアクセルを踏んでヴリトラ達のバンの後を追うのだった。

 加速してから数分後、エリオミスの町の入口が見えてきた。町は大きな水路で囲まれており、間隔を空けて幾つもの水車が設置されていた。入口の前には木製の跳ね橋が上げられており、対岸では槍を持った二人の兵士が見張りをしていた。ヴリトラ達の乗るバンが町に近づくと、見張っていた兵士達が槍を構えて近づいてくるバンに槍先を向ける。だが自動車を見た事のない彼等は近づいてくる得体の知れないものに驚き、槍を構えながら後ろに下がり出す。


「と、止まれぇーっ!、何者だぁ!?」


 兵士の一人が目の前で停止したバンに槍を向けながら高い声を出す。その光景は七竜将が初めてティムタームの町にやって来た時に入口の兵士達が見せた光景と同じだった。先頭を走っていたバンの後部のドアが開き、中からラピュスが降りて兵士達の方へ歩いて行く。突然出てきたラピュスを警戒してやる向ける二人の兵士。だがラピュスは槍を向けられながらも冷静に対応する。


「王国騎士団第三遊撃隊長、ラピュス・フォーネです。ガバディア・ロンバルト団長の命を受け、ブンダの丘へ向かう為に町を通過させて頂きたく参りました。指揮官のキースリンク・ザーバット殿に御目通りを願いたいのですが」


 敬礼をしながら自分達が来た理由を説明するラピュス。兵士達も敬礼されて思わず敬礼を返す。説明が終ると、兵士達はラピュスの後ろを覗き込み、停まっているバンを不安そうな顔で見ている。


「う、後ろにあるあの鉄の塊は・・・」

「あれは自動車と言う物だ。七竜将が所有している乗り物だ」

「七竜将?・・・・・・もしかして、首都近くをねぐらにしていた盗賊団を倒し、トコトムトの村を通って奇襲を仕掛けようとしていたストラスタ軍を迎撃したと噂された、あの?」

「噂ではない、本当に彼等がやったんだ。確かにその七竜将だ」


 兵士達の質問に小さく笑いながら答えるラピュス。

 車内では兵士達と会話しているラピュスの後ろ姿を見ながらヴリトラ達がジッと待っている姿があった。彼等からはラピュス達の会話は聞こえていない。


「・・・ラピュス、何の話をしてるんだろうな?」

「見張りの兵士達に俺達の事や町に来た理由を説明してるんだろう?」


 助手席の椅子を少し倒してもたれながらラピュス達の姿を見ているヴリトラと腕を組みながら話しの内容を想像しているニーズヘッグ。その後ろではジルニトラとファフニールが退屈そうな顔で座っている。しばらくすると、兵士達と話しを終えたラピュスは戻って来た。ヴリトラは助手席の窓を下してラピュスの方を向く。


「どうだった?」

「大丈夫だ、今跳ね橋を下してくれる。自動車なんだが、入口の近くに止めておいてほしいと言われたんだ。これに乗って町に入ってもらうのは困るらしい」

「だろうな。こんな見た事のないモンが町中をウロウロしてたら皆が驚いちまう」


 ヴリトラは兵士達の要求に納得し、運転席のニーズヘッグの方を見る。話しを聞いていたニーズヘッグも頷いて納得した。それからヴリトラはテレビ電話を使い後ろのリンドブルム達にバンを入口前に止める事を説明する。

 しばらくして跳ね橋が下りて街へ入る為の道ができ、七竜将はバンを町に向かって走らせる。ラピュスも兵士達にもう一度挨拶をして町に入った。バンが町に入るなり、入口前にいた兵士達や町の住民達がバンを見て騒ぎ出す。そんな騒ぎの中、七竜将はバンを入口に脇に停めてエンジンを切って降車する。バンから降りた七竜将は町を見渡しながら歩き出す。バンから降りて来た七竜将やラランを見て周りの者達がジロジロと見つめている。


「何だか人が集まって来てない?」

「こりゃあ、入口にバンを置いていってもあまり変わんねぇような気がするな・・・」


 歩きながらリンドブルムとジャバウォックが周りの人達を見回している。ティムタームの町に初めて来た時も町の住人達が見慣れない姿をした自分達を見て小声で話し合っていたが、今回はその時以上に注目されていた。ヴリトラ達が歩いていると、入口の方からラピュスが兵士を連れて歩いてきた。


「皆、彼がサーバット殿のいる所へ案内してくれるそうだ」

「はい、こちらです」


 兵士はヴリトラ達を指揮官であるサーバットのいる所へ案内し、ヴリトラ達もその後について行った。

 ヴリトラ達が案内されてやって来た場所は他の家よりも大きな二階建ての家だった。騎士団はそこを作戦拠点として借りており、多くの騎士や兵士が家を出入りしていた。ヴリトラ達は兵士に案内れて家の中へ入り奥へ進んで行く。途中で出会った騎士達からも見られていたヴリトラ達であったが、もう気にしなくなった。


「ここにてお待ちを・・・」


 一室のドアの前で立ち止まった兵士がヴリトラ達を止めて、一人部屋へ入っていく。部屋の中の者達に、ヴリトラ達が来た事を知らせに行ったのだろう。つまりその部屋にザーバットがいるという事になる。

 しばらくすると、ドアが開き部屋の中から先程の兵士が出てきた。


「どうぞ、ザーバット殿がお呼びです」


 招かれたヴリトラ達はゆっくりとドアを潜り部屋へと入っていく。そこは畳十畳ほどの広さの部屋で、部屋の真ん中には木製の机が置かれており、そこには地図や凸型の駒が置かれてある。どうやらさっきまで戦略会議をしていたようだ。そして部屋の奥には以前戦略会議で見た茜色の短髪に青銅色の鎧を身に付け、青いマントを羽織った青年、キースリンク・ザーバットの姿があり、その周りには数人の騎士の姿もあった。


「ようこそ、私がエリオミスに駐留する青銅戦士隊第六中隊長、キースリンク・ザーバットです。お見知りおきを、ラピュス・フォーネ殿、そして七竜将の皆さん。と言っても、フォーネ殿とそちらのヴリトラ殿とは戦略会議で会っているがね・・・」


 自己紹介をしながら笑うザーバットを見てゆっくりと頭を下げるラピュスとララン。その後ろで七竜将が黙ってザーバットを見つめている。


「話によれば、ゴルバンの町の敵補給基地を制圧する為にこの町を通ってブンダの丘に駐留している部隊と合流するとの事だが?」

「はい、補給基地の情報が少ない為、まずはブンダの丘の部隊から情報を聞くことにしようと思っています」

「それがいいな。だが、ちょっと問題があるんだ・・・」

「問題?敵の動きに何か変化が?」


 ザーバットの言葉を聞きラピュスは尋ねる。七竜将も反応してジッとザーバットを見つめた。だが、ザーバットは首を横に振って否定。ヴりトラ達を見てどこか気まずそう表情を見せる。


「いや、そうじゃない。・・・実は、ブンダの丘に駐留している部隊の隊長がチャリバンス殿なんだ」

「チャリバンス?確か、戦略会議に参加していた白銀剣士隊の隊長でしたよね?」


 ラピュスの後ろで黙っていたヴリトラが会話に参加して尋ねると、ザーバットは黙って頷く。


「その通り。前に彼を見た君なら知っていると思うが、彼は傭兵と騎士団を差別する性格でな。騎士としては一流なのだが、性格が悪いのが問題なのだ。恐らく傭兵である君達七竜将には情報を話そうとしないだろう・・・」

「どうしてですか?」

「簡単さ、彼は傭兵に騎士である自分達が命を賭けて得た情報を話したくないからだよ。そんな事をして自分達が助けられたり、手柄を横取りされることは彼等のプライドが許さないからね」

「チッ!くだらないプライドだな?」

「本当ね!て言うか、どうしてそんな奴の部隊が敵の補給基地の一番近くに駐留しているのかが不思議だわ」


 ザーバットが話したチャリバンスの事を聞いたジャバウォックとジルニトラが腹を立てながら言い、リンドブルム達も呆れる様な表情を見せていた。


「その事でしたら心配ありません。こちらには切り札がありますから」


 不快そうな顔を見せているリンドブルム達の前でラピュスが小さく笑ってささやく。それを聞いたヴリトラとラランは不思議そうな顔でラピュスの顔を見た。ザーバットや周りの騎士達もそんなラピュスをまばたきしながら見つめている。


「ところで、ザーバット殿。一晩この町で休ませてもらえませんか?既に外は暗くなって今から丘に向かうのはいささか危険ですので」

「ああぁ、それならご心配なく。最初から君達に休んでもらおうと思ったからね」

「ええっ!本当ですか?」

「よかったわぁ~!ようやくベッドで眠れる~!」


 ファフニールとジルニトラは今まで溜めこんでいた何かを吐き出すように笑顔を見せる。ファフニールのジルニトラと周りでもヴリトラ達が笑って嬉しそうな顔を見せていた。事実、ヴリトラ達がトコトムトの村に駐留している時は寝袋や毛布を使っていたとはいえ、地べたや石の上で眠っていたので良くは眠れなかったのだ。その為か久しぶりにベッドの上で眠れるという事をとても喜んでいる。

 七竜将を見てザーバット達はまたまばたきをして見つめ、ラピュスとラランはジト目で七竜将を見ている。ザーバットは一度静かに席をして部屋の隅に控えている兵士を呼んだ。


「で、では、彼に宿へ案内させますので。・・・頼んだぞ?」

「は、はい。皆さん、こちらです」


 兵士に案内され、七竜将と二人の姫騎士は作戦会議室を出て宿へと向かって行った。残ったザーバット達は心の中でこう思っていた「何処か拍子抜けな彼等がどうやってトコトムトの村で敵を倒して追い払ったのだろう?」と。

 エリオミスの町に着いたヴリトラ達は指揮官のザーバットの厚意で宿へ泊めてもらう事となった。だが、それと同時にブンダの丘にいるのが傭兵を手嫌いしている騎士、チャリバンスであることを同時に知る。小さな波乱が巻き起ころうとしている事にヴリトラ達は気付きながらも体を休める事にするのだった。


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