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機械鎧(マシンメイル)は戦場を駆ける  作者: 黒沢 竜
第十九章~運命の決戦~
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第三百二十九話  元素兵士計画の真実


 逃走したジークフリートとブリュンヒルデを探し出す為に町中を探し回るヴリトラ達だったが、結局ジークフリート達は見つからなかった。警備の兵士達に見られる事なくどうやって逃走したのか疑問に思っていたが、それよりもヴリトラ達には大きな問題が残されていた。

 日が沈み、夜になるとアレクシア達にジークフリートから聞かされた話を説明する為にタイカベル・リーベルト社の拠点に全員を集めたヴリトラはジークフリートから聞かされた事を全ては話す。話を聞いたアレクシア達もやはりかなり驚き、驚愕の表情を浮かべていた。

 拠点の中にある会議室に集まるヴリトラ達は全員が深刻な表情を浮かべている。ヴリトラが元素兵士計画の対象となった事、移動要塞アレクサンダーから放たれたDMで町が消滅した事、そして、そのアレクサンダーを地球へ送り、地球に存在する全ての国で大規模なテロを起こそうという事、その全てがアレクシア達に衝撃を与えた。


「……信じられないな」


 会議室の椅子に座りながらニーズヘッグは呟いた。その隣でもジルニトラやリンドブルムが暗い顔で座っている。


「そうだよね、アレクサンダーなんて移動要塞を開発して、それを使って地球に行こうとしているなんて」

「おまけにヴリトラがジークフリートと同じ元素兵士計画で体を強化された人間だったなんて聞かされれば尚更驚くわよ……」

「でも、一番驚いているのはアレクシアさんだと思うよ?」


 リンドブルムはチラッと会議室の奥を見て俯いているアレクシアを見た。

 アレクシアはジークフリートがアレクサンダーを使って地球へ行こうとしている事やDMを使ってエクセリオンとグランドアヴァロンを消滅させた事よりも、弟子であるヴリトラが自分の遺伝子を組み込まれた存在である事に対するショックが大きかったようだ。無理もない、アメリカ国防省が自分やジャンヌに知らせずに元素兵士計画などと言うとんでもない計画を行っていたのだから。


「あのぉ……アレクシアさんもその元素兵士計画って言う計画の事は何も知らなかったんですよね?」


 俯いているアレクシアを見てファフニールがそっと尋ねる。するとアレクシアは顔を上げてヴリトラ達を見ながら頷く。


「ええ。当時、軍から定期的に健康診断を受ける様に言われており、私は何も疑う事無く言う通りに健康診断を受けました。その時に血液検査もしています。恐らくその時に私の遺伝子を手に入れたのでしょう」

「当然、ジャンヌも知らなかったんだよな?」


 ジャバウォックが腕を組みながら真剣な顔で訊くとアレクシアは頷く。アレクシアも知らなかったのだから同じ遺伝子をジークフリートに使われたジャンヌも知らなくて当然だ。

 全員が黙り込み、会議室が再び静まり返る。すると、会議室の壁にもたれて話を聞いていたDrドクターGGジージーが突然口を開いた。


「そう言やぁ、以前こんな噂を聞いた事があるぜ? アメリカ国防省が世界中から有能な医者や科学者を集めて何かの実験をしていたって話だ。それも確か二十数年前だったから……もしかすると、ソイツ等が元素兵士計画の行っていた連中かもしれねぇぞ?」

「世界中から医者や科学者を……やっぱり遺伝子が関わる事だから、そういった連中の力が必要だったのかもしれないな……」


 ニーズヘッグが腕を組んで難しい顔をしながら考え込む。ヴリトラ達もその医者や科学者の事が気になり考え始めた。


「……そうだ、医者の事なら師匠は何か知ってるんじゃないですか?」


 ジルニトラが清香の方を向いて尋ねた。だが、清香を見たジルニトラは不思議そうな顔をする。

 アレクシアの後ろに立っている清香はなぜか俯いて暗い顔をしていた。その表情はまるで何か恐ろしい物を思い出したかのようだった。


「し、師匠、どうしたんですか? 顔色悪いですよ?」


 清香を心配するジルニトラが席を立ち声をかける。ヴリトラ達もジルニトラの言葉を聞いて一斉に清香の方を向く。すると清香は俯いたままゆっくりと閉じていた口を開いた。


「……実は、私……元素兵士計画に参加していたの」

「なっ!?」


 清香の口から出て衝撃の言葉にヴリトラは耳を疑い思わず立ち上がる。ラピュス達も驚いて目を見開きながら清香を見ており、アレクシアも流石に驚いたのか固まっていた。


「……清香、今、何と言ったの?」


 アレクシアは震えた声を出してもう一度尋ねる。すると清香はアレクシアの方を向き、もう一度真実を口にした。


「……私は参加していたのよ。国防省の発案した元素兵士計画に……」

「そんなっ! どうして!?」


 席を立ち、清香の肩を両手でガッシリと掴むアレクシア。今までずっと自分を支えて来てくれた清香が自分の遺伝子を利用した計画に参加していたと聞かされれば驚くのも無理はない。

 アレクシアは清香の肩を前後に揺らしながら答えを待った。その姿は嘘だと言ってくれっと言いたそうな態度に見える。

 リンドブルム達は珍しく取り乱すアレクシアを見て止めないとマズいと感じたのか、一斉に立ち上がる。そしてオロチとニーズヘッグがアレクシアに駆け寄って腕や肩を掴んで止めた。


「落ち着いてください、アレクシアさん!」

「まずは落ち着いて清香先生の話を聞くべきかと……」


 二人の声を聞き、アレクシアは我に返ったのかハッとして清香の肩を離した。


「ごめんなさい、つい取り乱してしまいまして……」

「いいえ……」

「しかし、アレクシアさんが此処まで感情的になるとは思わなかった……」

「……私もロボットではないのですから、取り乱す時ぐらいありますよ」


 オロチの冗談交じりの言葉を笑って流すアレクシア。落ち着くとアレクシアは立ったまま目の前で俯いている清香を見つめた。


「清香、教えて。貴女はどうして元素兵士計画に参加したの?」

「……この研究はいずれ世界中にいる病に苦しむ人達を救う事になるからぜひこの計画に参加してほしいと言われて……」

「本当にそれだけ?」


 アレクシアは少し低い声を出して尋ねる。今までずっと一緒にいた者が恐ろしい計画に参加していると聞かされたのだから、親友である清香でも疑ってしまうのは仕方がなかった。

 清香はアレクシアを見て小さく首を横に振る。


「いいえ、遺伝子の研究ができると聞かされて興味半分で参加したのもあるわ」

「そう……」

「でも信じて! その計画が他人に遺伝子を組み込んで強力な戦士を作る計画だとは知らなかったの!」


 自分はただ苦しみ人達を救いたかった、その気持ちだけで計画に参加したと語る清香。彼女の態度を見れば元素兵士計画の事を聞かされていなかったのだという事は誰にでも理解できた。

 しかし計画の対象となったヴリトラはそれだけでは納得できなかった。彼は清香をジッと見つめながら口を動かす。


「……清香先生、全て話してください。貴女の知っている元素兵士計画の全てを」

「ヴリトラ……」


 隣の席に座っているラピュスは鋭い目で清香を見つめるヴリトラを見上げながら小さな声で名前を口にする。

 ヴリトラは右手を強く握り、拳を震わせながら清香を見つめ、周りにいるリンドブルム達はそれを黙って見ている。


「貴女が大勢の人達を助けたいという気持ちがあった事は信じます。ですが、元素兵士計画に参加していたのも事実です……。もし、貴女が俺の両親の死に関わっていたのであれば……俺は、この場で貴女を……」


 ヴリトラは清香を見つめながら震えた声で話す。その声で誰もがヴリトラは清香に対して怒りを感じており、今その怒りを必死に抑えているのが分かる。いくら重傷だった自分を助けてくれた恩人であっても自分の両親を死に追いやり、人生をぶち壊しにした計画に関わっていると知れば誰だって怒りを感じてしまう。

 清香を睨み付けるヴリトラを見て緊迫した空気になっているのを知り、アレクシアやジルニトラ、そしてラピュス達に緊張が走る。


「……先生、答えてください」

「ヴリトラ、落ち着い――」

「アレク……」


 ヴリトラを説得しようとしたアレクシアを清美が止める。清美はヴリトラの方を向き、切なそうな顔で彼を見つめた。


「分かったわ、今此処で全てを話すわ。私があの計画で何をしたのか……もし、話を聞いた後で私の事が許せなかったら、遠慮無く斬って」

「師匠!?」


 とんでもない事を言い出す清美にジルニトラは声を上げる。ラピュス達にも一瞬緊張が走ったが、清美が死ぬのは話を全て聞いてヴリトラが彼女を許せなかった時の事。まだ、ヴリトラが清美を殺すと決まった訳ではない。ラピュス達にできるのはヴリトラを信じて清美の話を聞く事だけだった。

 清美が元素兵士計画について話すと聞いたヴリトラはゆっくりと席に座って清美を見つめた。立っている者達も自分の席に付き、清美が話すのを待つ。

 全員が座って自分の方に注目すると清美は静かに語り始めた。


「もう二十三年前のなるわ。当時の私はノーベル賞を取って日本でも最大と言われた大学病院で働いていた。ノーベル賞受賞者という事から周りの医師や看護婦達から注目を集めて私も浮かれていたわ」


 目を閉じて絵本を読み聞かせるように語る始める清美。ヴリトラ達はそんな彼女の話を黙って聞いていた。


「ある日、私のところにアメリカ国防省の人間だと名乗る背広連中がやって来たの。アメリカである重要なプロジェクトが行われる為、優秀な医者や科学者を世界中から集めている。私にもそのプロジェクトに参加してほしいってね」

「そのプロジェクトが元素兵士計画だったんですか?」


 話を聞いていたラピュスが清美に尋ねる。清美はラピュスの方を向いて小さく頷いた。


「……ええ。でも、私がそのプロジェクトが元素兵士計画だと知ったのはずっと後の事だったわ。私はノーベル賞を取った自分の事をアメリカが認めて重要なプロジェクトの為にスカウトに来た、そんな風に感じて迷わずにそのプロジェクトに参加したわ」


 暗い声を出しながら俯く清美。今思えばプロジェクトの詳しい内容を知らずに浮かれて参加してしまった自分が馬鹿だったと清美は深く後悔する。

 ヴリトラはそんな清美を見ながら黙って話を聞いていた。その目はまだ鋭く、清美を恨み様な目で見つめている。

 清美は続きを話す為に顔を上げて再び口を動かし始めた。ヴリトラ達も再び清美の話に耳を傾ける。


「アメリカに渡った私はアメリカ国防省の本省舎ペンタゴンで同じようにプロジェクトに参加した医者や科学者と出会ったわ。参加者は私を含めて六人、アメリカから医者と科学者が一人ずつ、フランスから医者が一人、イギリスとロシアから科学者が一人ずつ、そして、日本から私が参加したわ。全員がアメリカの極秘プロジェクトに参加できる事やプロジェクトが成功すれば医者として、科学者として最高の名誉が手に入ると聞かされて参加した。プロジェクトの詳しい内容なんて誰も聞かされていなかったわ」


 集められた六人の参加者がただアメリカ国防省に利用されているなど考えもせずにプロジェクトに参加できる事だけを喜んでいた。そう清美から聞かされたヴリトラ達は呆れる様な反応を見せる。


「プロジェクトが始まると、参加者達はようやく詳しい内容を聞かされた。内容は遺伝子の操作をし、それを使って癌や脳梗塞の様な重い病気を抱えた人達を助ける為のものだった。浮かれていた私や他の参加者達は背広連中のそんな出鱈目でたらめを疑わずにプロジェクトに参加の契約をしたわ」

「……本当に誰も疑わなかったんですか?」


 ヴリトラが低い声を出して清美に尋ねた。清美はヴリトラの方を向くと目を閉じて口を開く。


「ええ、全員が若くして医者や科学者として有名になった人達ばかりで全員が自分の評価してプロジェクトに誘ってくれたのだとおめでたい考え方しかしなかったわ。私もそんな考えしかしていなかった……情けない話よ」


 自分の馬鹿な考え方を悔やむ清美を見てヴリトラは何も言わずに黙って清美を見つめる。周りにいるラピュス達も同じような反応をしていた。


「それで師匠、その後はどうなったんですか?」


 ジルニトラが続きが気になり清香にその後の事を訊いた。清香は会議室の窓から夜空を眺めて話を再開する。


「プロジェクトは順調に進んで行ったわ。人間の遺伝子をどう操作すれば癌などを治せるようんあるのか、どう遺伝子を組み込めば生命力を活発化させる事ができるのか。そのプロジェクトで知る必要のない事まで知った私達は上機嫌だった。これでまた世界に私達の名が広がる、そんな風にしか考えていなかった……。そしてプロジェクトは最終段階に突入した。ある遺伝子を一人の赤ちゃんに組み込むようにと背広連中から指示されたの。その時、初めて私は違和感を感じたわ。なぜ生まれて間もない赤ちゃんに遺伝子を組み込む必要があるのかってね……」


 真剣な表情で空を見上げながら話を続ける清美。窓ガラスに反射して映る清美の顔を見てヴリトラ達の表情も少しだけ変わった。


「私はなぜそんな事をするのか背広連中に尋ねたわ。だけどアイツ等は知る必要のない事だと言って質問に答えなかった。私は疑問を抱きながらも言われた通り遺伝子を赤ちゃんに組み込んだわ」

「その赤ん坊がジークフリートだったんですか?」

「……ええ、恐らく」


 清美があのジークフリートのジャンヌの遺伝子を組み込んだと知り、ヴリトラ達の体に緊張が走った。清美はヴリトラ達の鋭い視線を感じながらそのまま話し続ける。


「赤ちゃんに遺伝子を組み込んだ後、私はどうしても赤ちゃんに遺伝子を組み込む理由が知りたくて国防省のコンピューターや資料を調べて徹底的に調べた。でも、結局何も分からなかったわ」

「極秘プロジェクトの詳しい内容をコンピューターで調べて分かるようなところに保管しておくはずありませんよ」

「まったくその通りね」


 ニーズヘッグの言葉を聞いた清美は苦笑いをしながら呟いた。


「それからしばらくして、私が研究の書類を届けようとプロジェクトの責任者の部屋に訪れた時、責任者が背広連中と話をしているのを見てね、思わず盗み聞ぎしてしまったの。……そしてその時に知ったわ。私達の参加しているプロジェクトの名前が元素兵士計画である事、そしてその内容が最強の戦士を創る為に一般人の赤ちゃんに優秀な軍人の遺伝子を組み込む計画だと……!」


 自分がとんでもない計画に手を貸していた事を知った時の自分を思い出した清香は声に力を入れて言った。何も知らずに悪魔の様な計画に手を貸してしまった自分に腹を立てるように。


「それを知った私は計画状況を確認する為の会議の時に責任者に尋ねたわ。私が計画の内容を知っている事に責任者や背広連中は驚いたのかかなり動揺していた。だけどすぐに冷静になってプロジェクトの全てを私や他の参加者に話したわ」

「その事を聞かされた他の参加者も清香と同じように驚いていたの?」


 アレクシアが他の参加者達の反応はどうだったのかを尋ねた。すると清美は目を閉じて首を縦に振る。


「ええ……だけど、すぐに驚きは消えて感動した表情に変わったわ」

「感動?」

「元素兵士計画は世界のパワーバランスを変える巨大なプロジェクトだと聞かされ、そんなプロジェクトに参加できた自分達はラッキーだと他の参加者達は話したわ」

「狂っている……」

「……その人達、おかしい」


 リンドブルムとラランが参加者達の反応に対して不愉快になったのか小さな声で呟く。

 他の者達も感動したという参加者達をマッドサイエンティストだと感じながら不機嫌そうな反応を見せた。清美はそんなヴリトラ達を見て小さく息を吐く。ここまで話を進めた事で体の中に溜まった疲れを吐き出すように。


「……私は人の体の中に別の人の遺伝子を組み込み、それを兵士として育てるなんておかしいと考え、プロジェクトから抜ける事を進言した。だけど、他の参加者達は名誉を手にする為にこのままプロジェクトに残ると言い出した。私はそんな彼等の考えについて行けずに一人でプロジェクトを抜けてアメリカを後にした……勿論、アメリカ国防省がそのまま帰すはずもない。極秘プロジェクトに関わった私をアメリカは常に監視するという条件で日本へ帰したわ」

「……? ちょっと待ってください」


 清美の話を聞いたヴリトラは何かに気付いて清美に声をかける。清美やラピュス達はヴリトラの方を一斉に向く。


「今の話では、清美先生はジークフリートに遺伝子を組み込んだ直後にプロジェクトを抜けたって事ですよな?」

「ええ」

「それじゃあ……俺が元素兵士計画の対象となった時には先生はもうそのプロジェクトに参加していなかったという事ですか?」

「……ええ、そういう事になるわ」


 ヴリトラは清美の答えを聞いた途端に驚きの表情を浮かべた。目の前にいる清美は自分が計画の対象になる前にはプロジェクトを抜けている。つまり、彼女はヴリトラの両親が死んだ事に直接かかわっていたわけではないという事だ。それが分かっただけでもヴリトラにとってはとても良い知らせと言えた。自分の命を助けてくれた清美が自分の両親を死なせた件には関係なかった。ヴリトラが清美に怒りを向ける理由が無くなったのだ。


「……ヴリトラ、私はもう一人、元素兵士計画の対象となった赤ちゃんがいる事を知らなかった。そしてそれが貴方だという事も……だけど、例え私が貴方の実家の襲撃事件が起きた時にプロジェクトに参加していなくても、私が元素兵士計画に手を貸していたのは事実よ。……私を殺したいほど憎いのなら今此処で私を殺しても――」

「そんな事はしません」

「!?」


 ヴリトラの口から出て予想外の言葉に清美は目を見開いて驚く。ラピュス達も少し驚いた顔でヴリトラを見ている。ただ、アレクシアだけはこうなる事を分かっていたのか表情を変えずに黙ってヴリトラを見ていた。

 肩の荷が下りたようにヴリトラは小さく息を吐きながら椅子に座る。そして清美の方を向いて小さく笑った。


「確かに貴女は元素兵士計画に参加していました。ですが、貴女は俺が対象になる前にプロジェクトを抜けた。清美先生には責任はありません」

「でも、私は……」

「貴女が苦しみ人達を助ける為にプロジェクトに参加し、騙されて元素兵士計画に手を貸していたという真実を知る事ができただけで俺が貴女を憎む理由は無くなりました。それに貴女は俺の命を救ってくれた恩人ですから」

「ヴリトラ……」


 自分の家族を死なせた計画に参加していた自分を許すというヴリトラの優しさに清美は思わず涙を流す。そんな清美にアレクシアは優しく寄り添う。

 ラピュス達もヴリトラが清美を殺していしまうのではないかと心配していたが、清美を許す姿を見て自然と笑みを浮かべる。

 しばらく泣いていた清美は落ち着きを取り戻すと話の続きをヴリトラ達に語った。


「……私はプロジェクトを抜けて日本に戻ってから今まで通りの医者としての生活を歩んでいた。……それから十三年後、ヴリトラに機械鎧兵士の手術を行った二日後にニュースで元素兵士計画に関わっていた五人の参加者全員が謎の死を遂げたと知ったの」

「謎の死?」

「全員がなぜか同じ時間に自宅や仕事先で頭を銃で撃ち抜いて自殺していたと報道されたわ」

「……きっと国防省は元素兵士計画の対象であったヴリトラをさらう事に失敗し、元素兵士計画の事が明るみに出ることを恐れて計画に関わった医者や科学者を口封じの為に自殺に見せかけて殺したんでしょうね……」

「……酷い」

「でも、それならどうして師匠は無事だったの?」

「きっとアレクシアさんが近くにいたからだろうな。彼女に近づけばヴリトラにアレクシアさんの遺伝子を組み込んだ事がバレると感じて近くにいた清美先生を殺せなかったんだろう」


 ニーズヘッグの分析を聞き、ジルニトラ達は納得の表情を浮かべる。そしてその直後にジークフリートは元素兵士計画に関わった関係者を殺害し、清美がアメリカ国防省から狙われる事も無くなったのだろう。

 元素兵士計画の事を全て聞いたヴリトラ達は難しい顔をする。最強の兵士を生み出す元素兵士計画、その対象となったジークフリートが機械鎧兵士となってヴリトラ達の前に立ちふさがり、世界を壊そうとしている事を考えるとそれはとんでもない事だと言えた。


「……ジャンヌの遺伝子を組み込まれて全ての能力が最高の兵士、しかも機械鎧兵士となればその力は恐らく計り知れないでしょうね」

「ジークフリート、ジャンヌの奴よりも厄介な相手かもしれねぇな……」


 アレクシアとDr.GGが低い声を出してジークフリートの恐ろしさを口にする。それを聞いたヴリトラ達の表情も更に鋭くなり、会議室に思い空気が広がり、ヴリトラ達は近づくブラッド・レクイエム社との戦いに対してより強く警戒するのだった。


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