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機械鎧(マシンメイル)は戦場を駆ける  作者: 黒沢 竜
第十九章~運命の決戦~
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第三百二十五話  普通の任務


 雲一つない青空の下にあるストラスタ公国の南西にある小さな村。青空の下にある村と来れば平和な雰囲気を誰もが予想するだろう。だが、今のその村には平和などかけらも無かった。

 村の中心にある広場には村人全員が集められており、その村人達を囲む様に大勢のガラの悪い男達が囲んでいる。男達は革製の鎧を着て剣や手斧を持っており、外見からして盗賊の様だ。そう、この村は今盗賊達に襲われていたのだ。


「これで全員だな?」

「へい、間違いありません」


 盗賊の頭らしく男が部下の盗賊に村人が全員いるかを確認し、盗賊は軽く頷いた。盗賊頭は集まって怯えている村人達を見て舌打ちをする。


「……ったくぅ! 最近は収穫や得物が少なくて困ったもんだぜ」

「例のブラッド・レクイエムとか言う組織ですね?」

「ああ、帝国と手を組んでたんだが、今ではやりたい放題やりまくる目障りな連中だ。まったく、鬱陶しい奴等だ!」


 苛立ちをぶちまける盗賊頭は持っている剣で地面を強く叩く。そんな盗賊頭を見て周りの盗賊や村人達は驚きの反応を見せる。

 帝国軍との戦争が終わってストラスタ公国も落ち着きを取り戻してきたが、戦争中に身動きが取れなかった盗賊の様な輩が今になって姿を現して村や町を襲っていたのだ。だが戦争の直後の為、襲える村や町にはろくな食料も金品も無く、盗賊達には鬱憤が溜まっていた。

 この村を襲った盗賊達も戦争で騎士団が動けなくなっているのを狙って行動していたのだが、最近は当たりが無くて苛立っているようだ。


「頭、この村には食料も金も若い女も殆どいません。此処はこれぐらいにして次の標的を探しましょうよ?」

「アホか! 今日までろくな飯も口にしてなくてこっちはイライラしてんだ。このまま帰ったら余計にイライラが溜まっちまう!」

「じゃあ、どうするんですか?」

「……この村の連中を皆殺しにすれば少しは気が晴れるかもな」


 盗賊頭の話を聞いた村人達の顔に緊張が走る。盗賊達も盗賊頭がとんでもない事を口にした事で驚きの表情を浮かべていた。


「か、頭、いくら何でも皆殺しはマズいんじゃないですか? 戦争が終わったばっかりとは言え、騎士団の連中もこの国にあちこちを回ってるんです。もし騎士団が全滅した村を見つけた俺等の存在に気付いたら俺等は全員捕まって一生牢屋の中ですよ?」


 盗賊がやめさせようと盗賊頭を説得しようとする。すると盗賊頭は部下の盗賊を睨みつけながら剣を盗賊の首に付けた。

 剣を首に付けられ、盗賊は驚きのあまり固まる。盗賊頭は驚く盗賊の胸倉を掴んで顔を近づけた。


「そんな甘っちょろい事を言っていて生き延びれると思ってるのか、テメェは! 騎士団には帝国との戦争で大勢の戦死者が出てるんだ。こんなちっぽけな村に人を送れるほど人員の余裕があるはずねぇだろう」

「で、ですが……」

「帝国と同盟軍の戦争のせいで食料や金は殆どが戦争に出ている連中に回されて俺達の得物は殆どなくなっちまった。俺等が生き残る為にはちっぽけな村でも襲い、俺等を見た連中を皆殺しにするしかねぇんだよ!」

「し、しかし……」

「何なら、テメェが俺のイライラを晴らす為に犠牲になってくれるか?」


 盗賊頭はゆっくりと剣を引き、盗賊の首を軽く切る。切られた箇所からは薄っすらと血がにじみ出て盗賊に恐怖を与えた。逆らえば殺されると判断した盗賊は首を小さく振る。それを見た盗賊頭はそっと剣を首から離した。


「嫌だったらさっさと使えそうな物を集めてコイツ等を始末するぞ」

「へ、へい!」


 これ以上盗賊頭のイライラさせないようにする為に盗賊達は言われた通りにした。村に僅かにあった食料や金品を奪い、自分達が持ってきた荷車に積んでいく。村人達はただ震えながら座ってその様子を見ているだけだった。

 荷物が全て積み終わると盗賊達は再び村人達を取り囲む。そして盗賊頭は目の前に座っている村長らしき老人に近づいて県の切っ先を向ける。


「これでもうこの村ともテメェ等にも用はねぇ。あとは俺達の姿を見たテメェ等を始末するだけだ」

「ま、待ってくれ! せめて女子供だけは見逃してやってくれ」

「うるせぇ! テメェ等が俺等の事を騎士団に知らせるとこっちが困るんだよ!」

「絶対に言わない。神に誓う! だから女と子供は……」

「口約束なんて信じられるか! それに俺は今スゲェむしゃくしゃしてるんだ。テメェ等を殺してスッキリさせてもらうぜ!」


 盗賊頭はそう言って剣を振り上げて村長を斬ろうとする。村長はもうダメだと感じたのか目を閉じて覚悟を決めた。

 すると何処からか銃声が聞こえ、それと同時に盗賊頭の持っていた剣が弾かれる。弾かれて地面に刺さる剣を見て盗賊達は驚きながら剣を見つめた。


「だ、誰だぁ!?」


 盗賊頭は周囲を見回しながら大きな声で叫ぶ。そして村の入口前に誰かが立っているのを見つける。それはオートマグを左手に持って盗賊達を睨んでいるヴリトラの姿だった。彼は特殊スーツを着て、腰には愛刀の森羅を収めている。そして左腕は銀色の機械鎧を纏っていた。

 突然現れたヴリトラに驚く盗賊と村人達。ヴリトラはオートマグをゆっくりと下ろし、盗賊頭を見ながら呆れ顔で溜め息をついた。


「……全く、ストラスタ公国のあちこちで盗賊が村を襲ってるって聞いたから飛んで来てみれば、まさかこんな馬鹿な事をしてる連中だとはな。迷惑な事だ」

「まったくだよ。それに生活に困ってるんなら真面目に働けばいいのに」


 ヴリトラの隣にライトソドム、ダークゴモラを持つリンドブルムが現れ、同じように呆れ顔で同意する。

 リンドブルムがヴリトラの隣に移動すると今度はラピュス、ジャバウォックが現れて二人を挟む位置に立つ。呆れているヴリトラリンドブルムに対し、ラピュスとジャバウォックは困り顔で二人を見た。


「そんなめんどくさそうな顔をするな。今こうしている間にも大陸中には大勢の困った人達がいるのだぞ?」

「ああぁ、今そんな連中を助けてやれるのは俺達だけなんだからよ」

「それはそうだけどぉ……」


 ラピュスとジャバウォックの話を聞いてリンドブルムは少し不満そうな口調で言う。ヴリトラは溜め息をつきながら右手で耳の穴をほじっている。

 ヴリトラ達の様子を盗賊達はしばらく黙って見ていたが、やがて自分達の邪魔をする者達だと気付き、盗賊の全員が武器を持って警戒する。その中で盗賊頭はヴリトラ達を見て更に気分を悪くしたのか刺さっている剣を抜き、切っ先をヴリトラ達に向けた。


「テメェ等ぁ! 一体何モンだぁ!? 俺等が有名な黒い盗賊団だと分かってて邪魔してんだろうなぁ!」

「は? キモい盗賊団?」


 盗賊頭を見てヴリトラが興味の無さそうな顔で訊き返す。ヴリトラの挑発的な発言にリンドブルム達は小さく笑い、盗賊頭は歯ぎしりをする。


「テ、テメェ……俺に喧嘩を売って生きて帰れると思うのか?」

「……お前こそ、七竜将に喧嘩を売ってただで済むと思ってんの?」


 ヴリトラがジロッと盗賊頭を見つめながら低い声で言うと、盗賊頭や村人達の表情が一変する。


「七竜将、だと……?」

「おい、七竜将って……」

「前の戦争で同盟軍を勝利へ導いた傭兵隊と同じ名前、だよな?」

「それじゃあ、アイツ等がその七竜将かよ?」


 盗賊達は帝国との戦争で活躍した七竜将が目の前にいる事に驚き小声で話をする。七竜将と言う名はもはや各国の騎士団だけが知る名ではない。大陸に住む全ての人間が知っていてもおかしくないくらい広まっていたのだ。

 盗賊達が驚いている中、村人達は有名な傭兵隊が助けに来てくれたことに喜びを感じ笑みを浮かべている。ヴリトラ達は気持ちを切り替えて村人達を苦しめている盗賊達と戦う態勢に入っていた。

 するとさっきまで驚いていた黙り込んでいた盗賊頭がヴリトラ達を睨みつけながら口を動かした。


「……どうしてレヴァート王国の傭兵隊がこのストラスタ公国にいるんだよ? こんな所で何をしてるんだ!?」

「それはさっき言っただろう? この辺りの村が盗賊に襲われていると聞いて様子を見に来たんだよ」

「ふざけるな! どうやってレヴァートでストラスタの村を襲っている俺等の事を知るって言うんだ!」

「ハァ……いくら名前が知られても、盗賊ごときには俺達の持つ武器や道具の事は知られていないのか」


 ヴリトラはめんどくさそうな顔で頭を掻きながら呟く。その表情を見た盗賊は馬鹿にされたと感じて更に目を鋭くしてヴリトラを睨んだ。

 終戦後、タイカベル・リーベルト社は全ての国にタイカベル・リーベルト社の部隊を派遣してブラッド・レクイエム社が襲って来てもすぐに対応できるようにした。今のタイカベル・リーベルト社は大陸中の情報をすぐに得る事ができる。つまりヴリトラ達はストラスタ公国に派遣されているタイカベル・リーベルト社の部隊から盗賊の情報を得て盗賊討伐に向かったのだ。本来なら派遣された部隊が盗賊を討伐するべきなのだが、戦争の爪痕を残す各町や村を立て直す為に動いており、何処も人手が足りない状態なのだ。その為、レヴァート王国の部隊から七竜将が派遣されたという事だ。

 ヴリトラはオートマグをホルスターに納めて森羅を抜き、ラピュスとジャバウォックもアゾットとデュランダルを抜いて構える。リンドブルムも愛銃二丁を構え直して盗賊を睨んだ。そんなヴリトラ達に盗賊達は驚き武器を強く握った。


「さて、ちゃっちゃとコイツ等を片付けてティムタームに戻ろうぜ。あっちでもまだ仕事がたんまり残ってるんだからな」

「ああ、分かっている。だがヴリトラ、盗賊はできるだけ生かして捕縛しろと言う指示だ。面倒だからと言って全員殺すようなことはするなよ?」

「わぁってるって、相変わらず真面目だな、ティアマット?」


 真面目に仕事に取り込もうとするラピュスを見てヴリトラはニッと笑う。そんなヴリトラにラピュスは「やれやれ」と言いたそうな顔を見せる。


「……さて。それじゃあ、行くぞ、お前等!」


 ジャバウォックの言葉でヴリトラ達は一斉に盗賊達に向かって走り出す。盗賊達も向かってくるヴリトラ達を見て一瞬驚くも、すぐに迎え撃つ為にヴリトラ達に向かっていった。

 その数分後、ヴリトラ達は盗賊達を倒して捕まった村人達を救出した。幸い、村人達に怪我は無く、全員が無事だった。盗賊達も何人かは受賞を追っているが命に別状はなく、全員を生きたまま捕まえる事に成功する。


――――――


 盗賊達を捕らえたヴリトラ達は遅れてやって来たストラスタ公国騎士団に盗賊達を任せてレヴァート王国に戻った。帰りのチヌークの中でヴリトラ達はレヴァート王国に戻った後に何の仕事をするのか話し合いをする。


「帰ったらまず今回の任務の結果を師匠達に伝えないとな」

「ああ、ストラスタ公国側にはあとから来た騎士隊が報告してくれるはずだ」

「なら、俺達は師匠とヴァルボルト陛下への報告だけでいいな」


 結果を報告する人物を確認し合うヴリトラとラピュスは手に持っている資料に任務の結果を書き込む。向かいの席ではリンドブルムとジャバウォックが同じように資料に色々な事を記入している姿があった。

 持っている資料の内容を確認していたヴリトラはふと窓から外を見つめる。その姿を見たラピュスは不思議そうな顔をする。


「どうした、ヴリトラ?」

「ああぁ、もうあれから一ヶ月も経つんだなぁ、って思ってな……」

「……ああぁ、そうだな」


 ヴリトラが何を考えているのか察したラピュスは同じように外を眺めながら呟く。リンドブルムとジャバウォックは二人の会話を聞き、物思う様な表情を浮かべる。


「帝国軍との戦争が終わって、少しずつ元に戻ってきているけど、それでもまだ各国が受けた傷は残ってるもんね」

「ああ、しかもまだジークフリート達が残ってやがるからな」

「アイツ等は今何処にいるんだろう?」

「分からん。だからアレクシアさん達が必死に探してるんだ」


 リンドブルムの質問にジャバウォックは椅子の背もたれに寄り掛かりながら天井を見上げる。リンドブルムも同じように天井を見上げて難しい顔をした。

 同盟軍と帝国軍との戦いが終戦してから既に一ヶ月が経ち、ヴァルトレイズ大陸中は終戦とともに静まり返った。皇帝であったギンガムが死に、ブラッド・レクイエム社は帝国を切り捨て、そのせいで帝国の治安は酷い状態になっている。同盟軍もブラッド・レクイエム社が離れた事で帝国と戦う理由も無くなり、今では大陸中の国全てが手を取り合い、ジークフリートが率いるブラッド・レクイエム社が共通の敵となっていた。


「終戦の直後、タイカベル・リーベルト社の部隊が帝国領に在ったブラッド・レクイエム社の基地……確か、グランドアヴァロンだったか? その場所を帝国貴族から聞いて制圧に向かったんだが、部隊が辿り着いた時には既にもぬけの殻、ジークフリートは勿論、機械鎧兵士やブラッド・レクイエム社の社員達の姿も見当たらなかった。更に武器や戦車、使えそうな機材も全てな」

「戦いの直後に僕達が攻め込むと考えて一足先に姿を消したんだね」

「ああ、しかも基地はかなりデカかったからな、かなりの量の機材や車両があったんだろう。それが全て無くなっていたんだ、恐らく奴等は俺達がエクセリオンを攻撃する前から準備をしていたんだろう」

「……抜け目のない奴だね、ジークフリートって」


 リンドブルムは帝国との決戦が始まる前からグランドアヴァロンを脱出する準備、つまりジャンヌを裏切る作戦を進めていたジークフリートの考えが気に入らないのかムッとしながら呟く。ジャバウォックも同じ気持ちなのか腕を組み、鋭い表情で頷いた。

 ジャンヌの話が出ると、ラピュスはリンドブルムとジャバウォックの方を向いて少し表情を暗くする。


「ジャンヌ……そう言えば彼女も、結局助けられなかったな……」

「ラピュス……」


 ヴリトラはラピュスの方を向き、そっと呟く。リンドブルムとジャバウォックも黙ったラピュスを見つめた。

 帝都での決戦でブリュンヒルデに背後から撃たれたジャンヌ。アレクシアはジャンヌを助けようと応急処置を施してレヴァート王国にあるタイカベル・リーベルト社の拠点へ戻った。拠点に着くと急いで清美が緊急手術を執り行ったが、既に手の施しようのない状態にあり、何も出来ずにその二日後に息を引き取った。

 アレクシアは敵対していたとは言え、嘗ての戦友を助けられなかった事に責任を感じたのか、しばらくジャンヌの遺体の前から離れられなかった。だが自分の立場と現状から哀しみを押し殺して仕事に励んだのだ。一ヶ月経っているが、それでもまだアレクシアは心に哀しみを残している。


「……アレクシアさん、ジャンヌが亡くなるまでの二日間、彼女に言えなかった事を色々と話したみたいだ。自分とジャンヌと進むべき道の違いや同じ道を歩めなかったのかとか……」

「ジャンヌが道を間違えた理由を知っている師匠だからこそ、彼女を話し合いで説得したいと思ったんだろうな」

「だけど、結局話し合いでは何もできずに二人は戦う事になった。そして、ジャンヌは殺されてしまった……」

「……ったく、何だかやり切れねぇよ」


 自分の師であるアレクシアが友人であったジャンヌの死を哀しむ姿を見て複雑な気持ちになるヴリトラ。ジャンヌのして来た事は決して許される事ではない。だが戦いの無い平和な世界を作りたいと言うジャンヌの考えは完全に否定できなかった。だからこそアレクシアも彼女をすぐに倒そうとせずに説得しようと考えたのだ。友として、彼女と共に同じ道を歩む事を望んでいたアレクシアの気持ちにヴリトラは同情していた。

 ヴリトラ達が帝国との決戦を振り返っているとパイロットが前を向いたままヴリトラ達に声をかけて来た。


「皆さん、まもなく到着します」

「おっ? もう拠点に着いたか」


 報告を聞いたヴリトラは窓から外を見る。既にチヌークはレヴァート領に入っており、遠くには首都のティムタームとタイカベル・リーベルト社の拠点である基地が見えた。徒歩や車では何時間も掛かるがヘリなら一、二時間ほどで到着する。アレクシア達が来る前と比べたらずいぶん楽になったとヴリトラは感じていた。

 ヴリトラはそんな事を考えながら外を眺めていると隣のラピュスが同じように外を眺めて基地を見た。


「ヴリトラ、基地についてアレクシアさん達に報告をしたらどうする?」

「ズィーベン・ドラゴンに戻るさ。別の任務に行っていたニーズヘッグ達も戻ってる頃だろうしな」

「そうか」

「ラピュスはどうする?」

「私は屋敷へ行く。母様に戻ったのを報告しないといけないからな」

「分かった。……それじゃあ、お母さんに報告したら皆で飯でも食いに行かねぇか?」


 ラピュスを外食に誘うヴリトラ。しばらく忙しくて町で食事をした事が無かった為、久しぶりに町で夕食をしたいと考えていた。ヴリトラの話を聞き、リンドブルムとジャバウォックも久しぶりの外食に思わず笑みを浮かべる。まるで家族と外出する事を楽しむ子供の様だった。

 ヴリトラの誘いを聞いたラピュスはしばらく考えてからヴリトラの方を向き、小さく笑って頷いた。


「ああ、いいぞ。屋敷に戻ったらズィーベン・ドラゴンへ向かう」

「決まりだな」

「因みに、ヴリトラのおごりと考えていいのか?」

「え?」


 ラピュスがいたずらっぽく笑いながら尋ねるとヴリトラは思わず目を丸くしながら訊き返す。

 リンドブルムとジャバウォックはラピュスがヴリトラに冗談を言って彼を一瞬困らせたのを見て思わず吹いてしまう。ヴリトラは笑う二人を見た後に動揺した様な顔でラピュスを見た。するとラピュスはまたいたずらっぽく笑って口を開く。


「何だ? おごってくれないのか? 彼女に対して随分と冷たい男なのだな」

「え? ええ?」

「どうなんだ?」

「……あ、ああぁ。勿論俺がおごるぜ?」

「よし、決まりだな」


 ヴリトラがおごると言うのを聞き、ラピュスは満面の笑みを浮かべる。ヴリトラはそれを見た複雑そうな顔で頭を掻いた。


「ラピュス、言うようになったね?」

「ああ、昔のくそ真面目だった時と比べたらスッカリ俺達に近づいちまった」


 二人のやり取りを見ていたリンドブルムとジャバウォックは二人に聞こえないように小さな声で話しあう。その様子はとても楽しそうだった。

 ヴリトラ達が騒いでいると既にチヌークは拠点の真上に到着し、ゆっくりと真下にあるヘリポートに向かって降下を始める。やがてチヌークはヘリポートに着陸し、ヴリトラ達も一人ずつ降りた。

 ヘリポートに降りると整備士と思われる者達が集まり、チヌークのチェックを始める。それを見たヴリトラ達はヘリポートの出入口へ向かって歩き出した。


「さて、それじゃあ早速師匠達に報告に行くか」

「うん、そうだね」

「じゃあ、私はティムタームへ戻る」

「ああ、後でな」


 ヴリトラはリンドブルムとジャバウォックを連れてアレクシアがいる建物へ向かい、ラピュスはヴリトラ達と違う方角へ歩いていく。

 前の戦いから一ヶ月しか経っていないせいかヴリトラ達はあまり変わった様子も無く、いつも通りだった。だがこの時のヴリトラ達はまだ気づいていなかった。ブラッド・レクイエム社がジャンヌの考えていた計画よりも更に恐ろしい計画を企てている事を。


機械鎧シリーズも投稿を再開します。今回が最終章ですので、どうぞ最後までご覧になっていってください。

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