第三百二十二話 決着! ラピュス決死のバーナーキャノン
ジャンヌはラピュスとアレクシアを強敵と判断し、本気を出す為に機械鎧を付け替えた。金色に輝く機械鎧の腕を使い、殺人拳の「流肘拳」を使いラピュスを圧倒するジャンヌ。強烈な肘打ち攻撃をラピュスとアレクシアをどう攻略するのだろうか。
倒れているラピュスの前に立ち、アレクシアと睨み合うジャンヌ。二人はお互いに相手がどう動くかを計算しながら相手が先に動くのを待っていた。
ラピュスは何とか体勢を立て直す為に目の前にいるジャンヌを何とかしようと、倒れたまま右手をジャンヌに向け、手の平からノズルを出してバーナーキャノンを撃とうとする。だが、ジャンヌがいち早くそれに気づき、大きく後ろへ跳んで距離を取った。
「クッ、見切られたか……」
離れるジャンヌを見てラピュスは悔しそうな表情を浮かべながら立ち上がり、落ちているアゾットを拾う。
ラピュスとアレクシアは離れた所で構え直すジャンヌを見てアゾットと日本刀を構えて警戒する。剣を捨て、素手で戦っているのにジャンヌの戦闘能力は格段に強くなっている事にラピュスは小さな焦りを感じていた。
「……アレクシアさん、どうしますか?」
「流肘拳はさっき話したように破壊力がありますがリーチが短く、肘でしか攻撃しない格闘技です。それを補う機械鎧兵士のスピードを封じる事ができれば……」
「スピード……」
ラピュスは流肘拳を破る糸口がスピードにあると知ってアレクシアの方を見ながら考え込んだ。するとそんなラピュスの一瞬の隙を突いたジャンヌが再びラピュスに向かって走り出す。
走って来るジェンヌに気付いたラピュスがアゾットで迫って来るジャンヌに突きを放つ。だがジャンヌは左手でアゾットの刀身のを払い攻撃の軌道を変える。そして軌道を変えると素早くラピュスの右側面へ移動し、彼女の右腕に肘打ちを撃ち込んだ。
「ぐうぅ!」
右腕から伝わる衝撃に声を漏らすラピュスは大きく突き飛ばされてしまう。飛ばされたラピュスは大聖堂の長椅子に叩き付けられ、長椅子は粉々に破壊された。
壊れた長椅子の中でラピュスは全身の痛みに耐えながら攻撃を受けた機械鎧の右腕を見る。攻撃を受けた箇所は凹んでおり、ジャンヌの肘打ちの威力を物語っていた。
ジャンヌは倒れているラピュスを見ながら笑い、右肩を回しながら近づいて行く。そこへアレクシアは背後に回り込み、日本刀で袈裟切りを放った。ジャンヌはアレクシアの気配に気づくと素早く振り返り、左腕で日本刀を防ぐ。そのまま日本刀の刃を外へ押し戻し、アレクシアの懐に入り込むと彼女に腹部に肘打ちを撃とうとした。だがアレクシアは左手で迫って来るジャンヌの肘打ちを止め、再び日本刀で攻撃した。
「!」
予想外の攻撃にジャンヌは驚き、急いでその場から移動し、アレクシアの攻撃をギリギリでかわした。
ジャンヌが距離を取ると、アレクシアはラピュスの下に駆け寄り、倒れているラピュスを起こした。
「大丈夫ですか?」
「ええ……だけど、凄い力です。私の機械鎧が凹んでしまいました」
「ゴールドチタン合金は機械鎧の素材となる金属よりも遥かに硬く、錆びる事もない特殊金属です。あの合金で出来た機械鎧は高性能のロケットランチャーでも使わない限り破壊はできません」
「つまり、あの機械鎧はジャンヌにとって最強と武器であり、最高の盾でもあるという事ですか」
「その通りです。あの機械鎧をつけたジャンヌこそが本気で戦う彼女の姿です」
ジャンヌの攻撃力と防御力の高さにラピュスは汗を流しながらジャンヌを見る。アレクシアはジャンヌの強さを知っているせいか、焦る様子は一切見せずに冷静な態度を取っていた。
アレクシアの余裕の態度を見たジャンヌはジッと彼女を見つめているが、口元は小さく笑っていた。
(……アレクシア、お前はまだ気づいていない。確かに私は流肘拳の使い手だ。だが私はお前にも見せていない力がある。この流肘拳を更に強くする力をな)
心の中でジャンヌはアレクシアも知らない力がある事を呟きながら再び攻撃の構えを取る。アレクシアはラピュスを立たせると日本とを構え直しジャンヌを見つめた。
その直後、アレクシアはジャンヌに向かって走り出す。ジャンヌが攻撃を仕掛ける前に先に攻撃しようと考えたのだろう。
アレクシアはジャンヌに日本刀で連続切りを放つ。ジャンヌはそんなアレクシアの連続切りを両腕の機械鎧で全て防いだ。目にも止まらに速い攻撃を余裕で防ぐジャンヌを見てラピュスは目を見開いて驚く。
「ア、アレクシアさんの連続切りをあんなに簡単に……」
自分よりも遥かに速い攻撃を防いでいるのを見てラピュスは自分と二人の力の差を思い知らされる。自分は今までこれほど力の差がある相手と戦っていたのかと、僅かに恐怖を感じていた。
ラピュスが見守る中、アレクシアは攻撃の手を休める事無く攻め続けている。だが、ジャンヌには一撃も攻撃が当たらず、このままではこちらの体力が減る一方だと感じたのか、攻撃と止めると軽く後ろへ跳んで僅かに距離を取った。そして日本刀を鞘に納めた状態でジャンヌをに意識を集中させる。
「皆藤流剣術壱式、煉獄居合!」
普通の攻撃は通用しないと感じたアレクシアは間合いの読めない居合切りで攻撃した。鞘から抜かれた刃が光りながらジャンヌに迫っていく。だが、ジャンヌは驚く様子も見せずに鋭い目でアレクシアを見ていた。
アレクシアを見たままジャンヌは右腕を前に出し、後前腕部の装甲を開く。すると装甲の下からリニアレンズが姿を見せて黄緑色に光る。その直後、ジャンヌの前に黄緑色の大きな光の盾が発生し、アレクシアの居合切りを止めた。
「ッ! 電磁シールド!?」
「この機械鎧がただ流肘拳を使う為だけの機械鎧だと思ったか? 当然内蔵兵器も組み込んである。それも防御や流肘拳を効率よく使う為の物ばかりがな」
居合切りを止めると電磁シールドは消え、そのすぐ後にジャンヌはアレクシアは背後に回り込んだ。
「しまった!」
「遅い!」
完全に隙を作ってしまい、アレクシアは初めて驚きの表情を浮かべる。そんなアレクシアの背中にジャンヌは肘打ちを撃ち込んだ。
「うあああっ!」
背中から伝わる痛みと衝撃にアレクシアは声を上げた。その様子を見ていたラピュスはアレクシアが攻撃を受けた事が信じられず、学戦とした表情を浮かべている。
肘打ちを受けたアレクシアはそのまま前に倒れて床に叩き付けられる。背中に肘打ちを撃ち込まれた痛みと床に叩き付けられた痛みがアレクシアを襲い、彼女の表情が歪む。それを見てジャンヌは楽しそうな笑みを浮かべた。
「アハハハ。どうだ、流肘拳の威力は? お前がコイツを受けるのは実に二十年ぶりだな」
「うう……流石ですね。威力も以前より上がっていますし、また腕を上げましたか」
「ほぉ? この状況でまだそんな事を言う余裕があるのか?」
「ええ、ありますよ。なぜなら……貴女にも一撃与えましたから」
「何を言っている? 一体いつ私に……」
倒れているアレクシアを見ながら喋っていると、ジャンヌの腹部に横に伸びた切傷が生まれて出血した。
「何っ!」
いつの間にか腹部を切られていた事に驚くジャンヌは腹部を抑えて片膝を付く。そこへラピュスが飛び掛かり攻撃する。しかしジャンヌはラピュスの攻撃をギリギリでかわしてアレクシアから離れた。
ジャンヌが離れるとラピュスはアレクシアに駆け寄って彼女の安否を確認する。
「アレクシアさん、大丈夫ですか!?」
「え、ええ……心配ありません」
まだ若干痛みがあるのか、アレクシアは歯を噛みしめながら立ち上がる。アレクシアが立ち上がるとラピュスは離れたジャンヌを見つめる。ジャンヌは切られは腹部の傷を確認しながらラピュスとアレクシアを警戒した。
「……それにしても、いつの間にジャンヌに傷を?」
「彼女が電磁シールドで煉獄居合を止めて私の背後に回る直前です。あの時にジャンヌに決定的なダメージを与えようとしたのですが、掠った程度でした」
「掠った? でも、あの時、アレクシアさんは攻撃をしていませんでしたけど……」
「……皆藤流剣術九式、音無。刀を振る時の音、敵を切る時の音、全ての音が聞こえないくらいの速さで攻撃する皆藤流剣術の奥義です」
「音が聞こえないくらいの速さ……?」
そんな事ができるのか、そう言いたそうな顔でアレクシアを見るラピュス。彼女の技術はもはや人間の使いこなせる領域ではないと感じ驚きを隠せないでいた。
(この人はヴリトラの師匠だから彼よりも剣の腕は上である事は知っているが、まさかこれほどとは思わなかった……この人がいればジャンヌに負ける気がしない……)
アレクシアの力があれば目の前にいるブラッド・レクイエム社の社長にも勝てる、そう感じたラピュスは勝利を確信した。だが、アレクシアはそう思ってはいなかった。
「ラピュスさん、今のままではジャンヌには勝てません。彼女に勝つには貴女の力が必要なのです」
「えっ? アレクシアさんの力ならジャンヌに負ける訳……」
「いいえ、彼女の力を見くびってはいけません。彼女は状況分析力が優れています。恐らく、もう音無は通用しないでしょう」
「そ、そんな……」
「彼女を倒すには隙を突いて破壊力のある攻撃を叩きこむしかありません。ですが、私にはそれだけの力は私の手の内にはありません」
「破壊力のある攻撃……」
「貴女のバーナーキャノンを当てられればジャンヌでも戦闘不能になるはずです」
勝利の鍵はラピュスのバーナーキャノンにあると言うアレクシアにラピュスは再び驚く。
力も戦闘の経験もアレクシアよりも少ない自分が戦いの鍵を握るとは信じられないのか、アレクシアは自分の機械鎧をジッと見つめる。
(私のバーナーキャノンが戦いに勝つ鍵? 確かにジャンヌは私がバーナーキャノンを撃とうとした時にすぐに離れた。電磁シールドで防ごうと思えば防げたのに……もしかして、奴の電磁シールドはバーナーキャノンを防ぐ事はできないのか?)
ラピュスは今までのジャンヌの戦いを思い出して彼女がバーナーキャノンを恐れている事や電磁シールドで防ごうとしなかった事に気付く。この時点でジャンヌの電磁シールドは普通の物理的攻撃は防げても威力の高い兵器までは防げない事を知った。そこに戦いに勝つ為の糸口があると感じ、ラピュスの表情が鋭くなる。
そんな考え事をしているラピュスを見ていたジャンヌは腹部の傷が止血した事に気付き、抑えている手を退けて構え直した。
(あの小娘、アレクシアから何か入れ知恵をされたな。だが、何を吹き込まれようと関係ない。何かされる前に叩きのめすまで!)
ラピュスが攻撃する前に勝負をつけようとジャンヌは動き出す。左手をラピュスに向けて突き出すと手首の部分の装甲が開き、中からワイヤー付きの輪っかが飛び出した。その輪っかはラピュスの右手首にまるで手錠の様に掛かり、ラピュスとジャンヌを繋げる。
「な、何だ!?」
突然手首に掛けられた輪っかに驚くラピュス。輪っかがラピュスの手首に掛かるのを確認したジャンヌは左手で伸びているワイヤーを掴み、勢いよく引っ張った。すると繋がっているラピュスはジャンヌの方にものすごい勢いで引き寄せられていく。
強制的に引っ張られる事に驚くラピュスとそれを見て同じように驚くアレクシア。ジャンヌは引き寄せられて飛んで来るラピュスに向かって走り出し、そのまま肘打ちを撃ち込もうとする。それを見たアレクシアは驚きの表情を浮かべた。
(マズイ! あの状態ではジャンヌの機械鎧の力、引き寄せられる力、ラピュスさんに向かって走る勢いの全てがラピュスさんに掛かってしまう。そんな状態で攻撃を受けたらラピュスさんでもただでは済みません!)
今ジャンヌの攻撃を受けるとラピュスは致命的ダメージを受けてしまう。そうはさせないとアレクシアはラピュスを追いかける様に走り出した。
ラピュスは走って来るジャンヌを見て彼女が自分の攻撃をしようとしている事に気付くと右手に持っているアゾットを左手に持ち替え、走って来るジャンヌに向かって突きを放った。
ジャンヌはラピュスが突きを放っても驚く様子を見せずに右肘でアゾットの切っ先を止めた。
「何っ! あの状態で私の攻撃を止めた!?」
「フフフ、経験の差と言う奴だ」
ジャンヌはラピュスを嘲笑うとアゾットを払い、ラピュスの胸に肘打ちを撃ち込もうとする。ラピュスは攻撃を避ける為に後ろへ下がろうとした。だが右腕がワイヤー付きの輪っかで繋がっている為、ジャンヌから離れる事ができない。ラピュスは回避行動を取る事ができずに肘打ちを受けてしまう。
「うあっ!」
胸の衝撃に声を漏らすラピュス。そんなラピュスにジャンヌは続けて肘打ち攻撃を放つ。腕を折ったまま大きく横に振り、肘でラピュスのこめかみを殴打した。
「ああっ!」
頭部を攻撃された事でラピュスは意識を失いかける。だがジャンヌは容赦なく攻撃を続けた。距離を取る事のできないラピュスに連続で肘打ちを食らわすジャンヌ。体中から伝わる痛みにラピュスの精神は少しずつ削られていく。
ジャンヌが一方的にラピュスに攻撃をしていると、アレクシアが駆けつけ、日本刀でワイヤーを切った。ワイヤーが切れてラピュスが解放されるとアレクシアはラピュスを抱きかかえて大きく後ろへ跳び距離を取る。
「チッ、アレクシアめ」
切られたワイヤーを見て舌打ちをするジャンヌ。アレクシアはボロボロのラピュスを心配そうに見つめる。
「ラピュスさん、大丈夫ですか!?」
「うう……ア、アレクシアさん……」
「フゥ、よかった。意識はあるようですね」
「え、ええ……」
「ラピュスさん、よく頑張りました。あとは私がやりますので貴女は休んでいてください」
「えっ、でも……ジャンヌを倒せるのは私のバーナーキャノンだけだって……」
「ええ、ですから私がジャンヌと戦って隙を探します。それまで貴女は少しだけでも体力を回復させておいてください」
大ダメージを受けたラピュスに少しだけでも体を休めるよう言うアレクシア。ジャンヌの肘打ちを連続で受けてしまったのだ。ラピュスの体力も限界が来ているはず。それを気遣っての判断だった。
だが、ラピュスは目を閉じて軽く首を横に振った。
「いいえ、私は大丈夫です」
「ですが、これ以上戦えば貴女の体が……」
「実は……ジャンヌにバーナーキャノンを食らわせる作戦があるんです」
「え?」
「やらせてください。お願いします」
ラピュスは真剣な表情でアレクシアにジャンヌと戦わせてほしいと頼む。アレクシアはそんな覚悟を決めた様な目をするラピュスを見て黙り込む。そして、しばらくするとラピュスを支えている手を放して彼女を立たせた。
「……分かりました。ですが、その作戦が通用しなかったら私の言う通り、休んで体力を回復させてくださいね?」
「ハイ!」
許可を得たラピュスは全身の痛みに耐えながらアゾットを構えてジャンヌを睨む。ジャンヌはそんなラピュスを見ると可笑しいのか笑い出す。
「アハハハハ! たった今ボロボロにされてまだ一人で私と戦う気か? 無謀を通り越して馬鹿だな?」
「馬鹿かどうかはすぐに分かる!」
笑うジャンヌに言い放つラピュスはアゾットを構えは走り出した。そんなラピュスを正面から迎え撃とうとジャンヌも走り出す。二人の距離は徐々に縮んでいき、すぐに二人の距離は1mまででになった。
ラピュスはアゾットで袈裟切りを放ちジャンヌに攻撃する。ジャンヌは左手でアゾットの刀身を止めると右腕で反撃の肘打ちを放つ。するとラピュスは肘打ちを右に反れて回避し、アゾットを左手に持ち替えながらジャンヌの左側面へ回り込み、アゾットで再び攻撃した。
「私のカウンターをかわすとは、少しは私の動きが読めたみたいだな? だが、その程度では私の流肘拳は破れん!」
ジャンヌはラピュスの方を向いて素早く右手でアゾットを止める。そして左肘でラピュスの顔面に肘打ちを撃ち込もうとした。だが、ラピュスは右手でジャンヌの肘を止めるのと同時に右腕の内側前腕部の装甲を開かせた。すると機械鎧の中から鎌形の刃が飛び出す。
いきなり飛び出した刃を見てジャンヌは初めて驚きの表情を浮かべる。その一瞬の隙を突いてラピュスは右腕を器用に動かし、その鎌型の刃でジャンヌの顔を切ろうと攻撃した。だがジャンヌは後ろへ跳んでその攻撃を回避する。
「クッ! 小癪な真似を!」
ラピュスの攻撃に表情を鋭くするジャンヌはラピュスの方を向いて睨む。だが次の瞬間、ジャンヌの目に飛び込んで来たのは右手を自分に向け、手の平からノズルを出しているラピュスの姿だった。
「!!」
「回避している間は、避けられないだろう!」
大きな声でそう言い放つラピュスはノズルから熱線を発射した。熱線はジャンヌの腹部に直撃し、ジャンヌの体に激痛と熱さが伝わる。
「ぐあああああぁ!」
熱戦を受けて声を上げるジャンヌ。自分がラピュスの攻撃を受けるなど夢にも思わなかったのだろう。
声を上げながら仰向けに倒れるジャンヌを見てラピュスは鋭い眼光を向ける。
(……私の力が自分よりも劣っていると考え、機械鎧の内蔵兵器の事を注意せず、油断していたお前の負けだ)
心の中でジャンヌのミスを呟きながらラピュスはジャンヌを睨みつける。大聖堂での激戦に遂に決着が付いた。
ラピュスのバーナーキャノンがジャンヌに命中し、遂に決着が付いた。ジャンヌにとってそれは信じられない敗北と言える。だがこの時、帝都が崩壊に近づいている事を三人は気付いていない。




