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機械鎧(マシンメイル)は戦場を駆ける  作者: 黒沢 竜
第十八章~決別の帝国~
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第三百十九話  敵城突入!


 帝都の各場所で激戦を繰り広げる同盟軍。そんな戦火が広がる帝都にジークフリートの乗るヴェノムが接近している。その事を知らずにヴリトラ達は城へ向かっていた。

 街道を通り、城の前まで来たヴリトラ達は目の前の大きな城門を見上げた。城門の周りには敵兵の姿は無く、とても無防備な状態だ。まるで敵に「どうぞお入りください」と言っているように見える。


「守りの兵士が一人もいないな……」

「どういう事かしら?」


 ヴリトラとジルニトラは周りを見回して敵の姿が全く見当たらない事を不思議に思う。ラピュス達も不思議がって辺りや城門の上を見上げて敵を探すがやはり誰もいなかった。

 

「恐らく、四つの門で戦っている帝国軍の増援にこの城の警備を担当していた兵士達も向かったのだろう……」

「それだと寧ろ好都合だよね」

「ああ、楽に城に突入できる」


 オロチが遠くに見える正門を見ながら呟き、ファフニールとジャバウォックが自分達にとって都合のいい状態である事に笑みを浮かべる。だが、ラピュスやニーズヘッグは警備がいない事で逆に嫌な予感がすると感じていた。


「油断するな? 城の周りに敵の姿が無くても、城の中には敵がいるはずだ」

「ああ、城内に入った途端に一気に攻撃して来る可能性だってある。敵の大将を倒すまで気を抜くな」


 ラピュスとニーズヘッグが忠告をし、それを聞いたヴリトラ達も真剣な顔で二人を見つめる。

 ヴリトラ達が話をしていると、突然目の前の城門が大きな音を立ててゆっくりと開き出す。突然開いた城門にヴリトラ達は驚き警戒する。だが、中から誰かが出てくるわけでもなく、しばらく沈黙が続いた。


「……誰も出来ないね?」

「どういう事だ?」


 敵が出て来ない事に拍子抜けになるリンドブルムとヴリトラ。するとアレクシアは日本刀をゆっくりと下ろして少しだけ開いている城門を見つめながら口を開いた。


「……どうやら、私達を招待しているみたいですね」

「招待?」

「きっと、中に入ってじっくりと戦いを楽しもう、と言いたいのでしょう。まったく、ジャンヌらしい考え方です」

「……行く?」


 ラランが小さな声で尋ねるとアレクシアは黙って頷きヴリトラ達の方を向く。


「皆さん、いよいよ私達は敵城に突入します。ここまで私達は殆どの敵と遭遇してきませんでした。恐らく敵兵の殆どは四つの正門への増援、そしてこの城の警備に戦力を集中しているからでしょう。それ故に私達は侵入地点から此処に来るまで殆ど敵との戦闘を行っていません。ですが、此処からは違います。敵の抵抗は今まで以上に激しくなるはずです。気を引き締めてください!」

「「「「「ハイ!」」」」」


 アレクシアの言葉にヴリトラ達は声を揃えて返事をする。アレクシアもヴリトラ達の覚悟を見て力強く頷くと再び城門の方を向いた。

 ヴリトラ達は敵の誘いに乗る為にゆっくりと城門を潜って城に入って行く。ヴリトラ達が城に入ると少しだけ開いていた城門はゆっくりと閉じ、大きな音を立てて完全にしまった。

 城内に入るとヴリトラ達を迎えたのは豪華なエントランスだった。大きなシャンデリアが吊るされ、エントランスの隅には高価そうな像や壺などが飾られており、豪華さを語っている。ヴリトラ達は周りを見ながら進んで行く。豪華な置物に目をやるだけでなく、しっかりと敵が隠れていないかをチェックしていた。


「流石は皇帝の城だけの事はあるな。どれもこれも高価な物ばかりだ」

「ああ、俺達の世界でなら軽く数百万はするものばかりだ」


 置物を眺めながらヴリトラとジャバウォックはエントランスの感想を口にする。ラピュス達も少し驚いた様な顔をしながら周りを見て歩いていた。

 すると、何処からか若い男の声が聞こえ、ヴリトラ達はピタリと足を止める。


「フフフフフフ! よく来たな、同盟軍のネズミどもめ」

「!」


 声を聞いてヴリトラは前を見ると、エントランスの二階へ続く階段の上には不敵な笑みを浮かべながらヴリトラ達を見下ろしているギンガムの姿があった。その脇にはジャンヌが控えており、黙ってヴリトラ達を見下ろしている。

 ヴリトラ達はギンガムの姿を見てすぐに彼が帝国の皇帝である事が分かった。皇族が着る様な高貴な服、自分よりも身分の低い者を見下す視線、傲慢な口調と態度、誰が見ても悪逆皇子と言われたギンガムだと気付く様な姿だ。


「フフフ、お前達が噂の七竜将か。想像通り、頭の悪そうな輩だな」

「……お前がギンガムか?」


 ヴリトラが呆れる様な視線を向けながら尋ねるとギンガムはヴリトラを指差しながら睨み付ける。


「無礼者! 皇帝である俺に向かってお前だと? 口を慎め、この馬鹿者が!」

「やっぱりお前がギンガムか。簡単に正体を敵にばらすなんて、随分と間抜けな皇帝陛下だな」

「な、何だとぉ!」


 自分を小馬鹿にするヴリトラを見てギンガムは歯を噛みしめながら苛立ちを見せる。こんな簡単な挑発に乗るような男が皇帝になっているとは、帝国も終わったな。ヴリトラはそう思いながら「やれやれ」と言う様な表情を浮かべた。

 ヴリトラの態度が気に入らないギンガムはヴリトラや周りにいるラピュス達を睨みつける。その隣ではジャンヌがずっと黙ってギンガムの話を聞いていた。

 

「お前達! 自分達が誘い込まれたとも知らずに随分と余裕の態度を取っているな? お前達は既に袋のネズミなのだぞ!?」

「知ってるぜ? そんな事」

「な、何?」

「まさか、俺達が罠だと知らずに敵城に侵入したと思ってたのか?」

「救えないほどおめでたい人だね、あの人」


 リンドブルムがギンガムを指差し、笑いながら言うとヴリトラ達も一緒に笑う。

 一度ならず二度までも自分を挑発したヴリトラ達にギンガムの堪忍袋の緒は切れそうになっている。七竜将が笑う中、ラピュスとラランはここまで簡単に挑発に乗る者がいるのか、と少し驚いた様な態度を取っていた。


「ぐぐぐぐぐぅっ! どいつもこいつも、皇帝である俺をこけにしよってぇー! もう許さん! 大人しく投降すれば命は助けてやろうと思ったが、絶対に許さん!」


 子供の様な、そしていかにも悪役が言いそうなセリフを吐くギンガムにヴリトラはもはや哀れみすら感じていた。


「ジャンヌ! あの生意気な奴等を全員血祭りに上げろ! 決して生きて返すな!」

「お任せください、陛下」


 ギンガムは険しい表情でヴリトラ達を倒すようジャンヌに命令し、ジャンヌは冷静に返事をする。

 あれだけ怒りを露わにしておきながら自分ではなく、他人にヴリトラ達の始末を任せるというギンガムの態度にヴリトラはもう挑発する気すら失せてしまっていた。

 ジャンヌが軽く指を鳴らすと、エントランスの二階から大勢にBL兵が飛び下りてヴリトラ達を取り囲んだ。その殆どが上級BL兵で様々な武器を装備してヴリトラ達を見つめている。

 いきなり現れて自分達を取り囲むBL兵達に一瞬驚くヴリトラ達であったが、焦る様子は一切見せずに冷静な態度を取っていた。


「わあ~お、団体さんのお出ましだぁ」

「呑気な事言ってないで構えろ」


 ヴリトラに注意しながらアゾットを構えるラピュス。アレクシア達も自分の得物を構えながらBL兵達を睨んでいる。

 BL兵の数はざっと三十人くらいでヴリトラ達なら負ける様な戦力ではない。だが、上級BL兵という事で多少は苦戦するかもしれないと言える。

 囲まれているヴリトラ達を見てギンガムは階段の上から愉快そうに笑った。


「ハハハハハッ! 馬鹿め。俺を馬鹿にする者は皆死ぬ運命なのだ。恨むなら俺を侮辱した自分達を恨め!」

「うわぁ……独裁者の口調だぁ」


 ギンガムの態度を見てリンドブルムはまた呆れ顔を見せる。

 ヴリトラはギンガムの態度に鋭い目をしながら黙り込む。そして、目の前にいる上級BL兵を見た直後に素早く上級BL兵の背後に移動し、森羅を軽く振った。すると上級BL兵の体に切傷が生まれ、そこから血を噴き出しながら上級BL兵は俯せに倒れる。

 上級BL兵の一人を簡単に倒してしまったヴリトラを見てギンガムは驚きの表情を浮かべる。ジャンヌは表情を変える事無く黙ってヴリトラを見ていた。

 階段の前で森羅を軽く振り、刀身に付いた血を払い落とすとヴリトラはギンガムを見上げて睨み付ける。


「どうした? 散々偉そうな事を言っておいて、敵が前に来たらビビるのか?」

「ヒイィ!」


 ギンガムはヴリトラの鋭い眼光に驚き、思わず声を漏らす。


「俺はアンタみたいに戦う度胸も無いくせに口だけ達者な奴を見ていると非常に腹が立つんだよ」

「ヒイイ、だ、黙れ! 俺は皇帝だ、お前達の様は下等な連中と戦う必要などないのだ! お前達、さっさとそのネズミどもを始末しろぉ!」


 そう上級BL兵達に命令するとギンガムは階段を駆け上がり二階へと逃げていく。走り去ったギンガムを見てジャンヌもヴリトラ達を見て小さく笑いながら階段を駆け上がり立ち去った。

 

「あっ! 待て、この腰抜け野郎!」


 命じるだけ命じておいて危なくなったら逃げるギンガムを見てヴリトラは思わず声を上げた。そんなヴリトラにまた数人の上級BL兵が近づいて来て彼を取り囲む。

 ヴリトラ達は周りにいる大勢の上級BL兵達を見てめんどくさそうな表情を浮かべる。折角ギンガムとジャンヌを見つけたのにこのままでは逃げられると感じ、焦りを見せる者もいた。


「どうするの? このままじゃアイツ等に逃げられちゃうよ?」

「どうするって言われても、コイツ等を何とかしないと先へは進めないだろう?」

「……通してくれる気は無いみたい」


 焦りを見せるリンドブルムにニーズヘッグとラランは冷静に対応しながら上級BL兵達を見る。上級BL兵達は七竜将達を相手にする為、警戒しているのかなかなか攻撃を仕掛けようとしない。しかも仲間が倒されたのを見て更に警戒が強くなったようだ。

 いつまで経っても戦いが始まらない事にヴリトラも舌打ちをしてどうするか考えだす。ラピュスも上級BL兵達を見回しながらどうやってギンガムとジャンヌを追うか考えている。

 すると、ジャバウォックが上級BL兵達を見ながら小さく笑い出し、ゆっくりと口を開いた。


「……アレクシアさん、先へ行ってくれ」

「え?」


 ジャバウォックの意外な言葉にアレクシアは少し驚いた様な顔をする。

 アレクシア達がジャバウォックに注目していると、ジャバウォックと隣に立っているオロチが得物を構えながらアレクシア達に背を向けた。


「アンタ達はジャンヌ達を追ってくれ」

「ここは私とジャバウォックが引き受ける……」

「お二人とも、彼等の足止めを?」

「ああ、誰かが残らなきゃいけねぇ状況だからな。俺とオロチで話し合って決めたんだ」

「パワーのあるジャバウォックとスピードのある私ならこんな奴等楽に倒せる……」


 それぞれの長所を述べて足止めを引き受けると言う二人をアレクシアやヴリトラ達は黙って見つめる。彼等はジャンヌとギンガムを捕まえる為に此処で時間を食う訳にはいかないと考えて自分達から危険な役目を引き受けると言っているのだ。普通は反対するのだが、今はそんな事を言っている状況ではない。彼等の想いを無駄にしない為にもここは心を鬼にし、彼等に任せると考えた。

 ヴリトラ達がジャバウォックとオロチに任せて先へ進もうとした時、ジルニトラがファフニールが二人の下へ歩いて行き、サクリファイスとギガントパレードを構えた。


「お前達?」

「私も一緒に戦う」

「あたしもよ。仕方ないから付き合ってあげるわ」

「何言ってやがる。お前達もアレクシアさん達と一緒に行け」

「二人だけじゃ心配だもん」

「そうよ。それにこれだけの人数を相手にするんだもん。怪我した時に誰がアンタ達を治療するのよ?」


 二人と共に上級BL兵達を相手にすると決めたジルニトラとファフニールは上級BL兵達を見て笑いながら言った。衛生兵と遊撃兵の二人が入ればより戦いやすくなる為、ジャバウォックとオロチだけよりもずっと楽に戦える上に生き残る確率が高くなる。

 ジルニトラとファフニールに意思を聞き、ジャバウォックは小さく笑いながらデュランダルを構え直した。


「まったく、お節介な娘達だよ」

「勝手にしろ……」


 笑いながら嬉しそうにいるジャバウォックと無表情で呟くオロチ。二人の表情を見てジルニトラとファフニールもお互いを見て笑顔になる。


「コイツ等はあたし達に任せて先へ進んで! 片付けたらすぐに追いつくわ!」


 四人で戦う事が決まるとジルニトラはヴリトラ達の方を見て大きな声を出す。それを聞いたヴリトラ達もここは四人に任せて先へ進もうと決意する。

 ヴリトラ達はギンガムとジャンヌを追う為に階段を駆け上がろうとする。だが、上級BL兵達がそれを黙って見逃がすはずがない。超振動マチェットや銃火器を構えてヴリトラ達を止めよ動き出す。ヴリトラ達は上級BL兵達が動く事が分かっており、襲って来る上級BL兵達を見て冷静に行動した。

 各自、自分達の持っている武器で上級BL兵達を倒しながら階段を上がっていき、一気に一番上に向かう。上級BL兵達も後を追おうとしたが、ジルニトラの銃撃を背後から受けて倒れた。

 ヴリトラ達が二階へ消えていくと、上級BL兵達は残ったジャバウォック達を先に倒してから後を追う事にしたのか、階段を上がるのをやめてジャバウォック達を取り囲んだ。


「さて、ここからが本番だ。気を引き締めて行けよ?」

「分かってるわよ」

「任せて」

「問題ない……」


 それぞれ思い思いの言葉を口にし、四人は上級BL兵達との戦闘を始めた。


――――――


 ジャバウォック達と分かれてギンガムとジャンヌの後を追うヴリトラ達は二階に上がり、薄暗い廊下を走っていた。途中でいくつもの扉を見かけるがヴリトラ達は一つずつ部屋を調べる事無く先へ進んで行く。彼等にはギンガムとジャンヌが部屋に隠れてはいないという事が分かっていたのだ。

 廊下は走り続けていると、ヴリトラ達は大きな二枚扉の前にやって来た。長い廊下を進んだ先にある大きな扉、その向こう側にギンガムとジャンヌがいると確信している。


「この先にあの二人が……」

「ええ、いるはずです」


 ラピュスとアレクシアが二枚扉を見上げながら真剣な表情で話す。

 ヴリトラはゆっくりとノブを握って扉を開けようとした。すると、背後から何やら大勢が走る音が聞こえ、一同は一斉に振り返る。


「何だ?」

「きっとこの城の衛兵達だろう」

「チッ、もう少しでジャンヌ達に追いつくって言うのに!」


 また敵に足止めをされるのかとめんどくさそうな顔を浮かべるヴリトラ。すると、リンドブルム、ニーズヘッグ、ラランが前に出て武器を構え出した。三人の姿を見てヴリトラは少し驚いた様な顔を見せる。


「ここは俺達が引き受けよう。ヴリトラ、お前はアレクシアさんとラピュスの一緒に先へ行け」

「僕達なら大丈夫だから」

「……行って」

「お前達……」

「ジャバウォック達も残って敵を食い止めてくれてるんだもん。僕達にもカッコつけさせてよ」


 リンドブルムがニッと笑いながらヴリトラの方を向いて言い、ニーズヘッグも目を閉じながら小さく笑う。ラランはオロチの様に無表情のまま足音の聞こえる方を向いていた。

 ヴリトラとアレクシアが真剣な顔で、ラピュスは心配そうな顔で三人の後ろ姿を見つめる。やがて、黙っていた三人を見ていたアレクシアがゆっくりと深呼吸する。


「……分かりました。お願いします」


 アレクシアが敵の足止めをリンドブルム達に任せ、ヴリトラもアレクシアの方を向き小さく頷く。ヴリトラもアレクシアと同じ気持ちの様だ。

 心配そうな顔で三人を見ていたラピュスはしばらく考え込んでいたが、ジャバウォック達と同じように敵を足止めする為に残る事を決意したリンドブルム達を見て彼等を信じる事にしたのか真剣な表情を浮かべた。


「三人とも、無理はするなよ?」

「心配するな。そう言うティアマットも気をつけろよ?」

「ああ、分かっている」

「……隊長、気を付けて」

「ああ、お前もな」


 ラピュスとラランはお互いに静かに声を掛け合い無事を祈った。

 ヴリトラは二枚扉を開けて部屋に入り、ラピュスとアレクシアもその後を追った。城内に突入したヴリトラ達は三つに分かれてそれぞれの戦いを始めようとしている。

 城に突入したヴリトラ達はギンガムとジャンヌを捕まえる為に行動を開始する。大勢に敵がいる城の中でヴリトラ達はどう戦うつもりなのだろうか。


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