表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
機械鎧(マシンメイル)は戦場を駆ける  作者: 黒沢 竜
第三章~戦場に流れる鎮魂曲(レクイエム)~
32/333

第三十一話  作戦終了と来訪者

 トコトムトの村に攻めて来たストラスタ公国軍を殲滅させた七竜将と第三遊撃隊。一人の負傷者も出ずにパティートンの村に駐留していた敵軍を倒し、エリオミスの町とサリアンの森の補給基地への敵侵攻を阻止出来た事で二つの拠点も制圧される事無く、首都ティムタームからの増援が到着しエリオミスの町の部隊と交戦しているストラスタ軍を押し戻すことに成功、サリアンの補給基地の守りも強化された。増援の編成に二日は掛かる筈だったが、予定よりも早く編成が終わり前線に送る事が出来たようだ。

 戦いが終るとヴリトラ達、石橋方面の部隊は敵数名の捕虜を連れて帰還。ニーズヘッグ達拠点方面の仲間と合流した。そしてその直後に馬に乗ったレヴァート王国の兵士が村にやって来てエリオミスの町とサリアンの補給基地に増援が送られた事を伝える。それを聞いた七竜将と第遊撃隊にようやく安心の表情が出る。これで七竜将と第三遊撃隊の役目も終わり、彼等は町へ戻れる。七竜将は約束通り第三遊撃隊の騎士達を全員町へ帰す事が出来たのだ。


「ん、ん~~っ!これで一安心だな。既に二つの拠点には十分な戦力が補充された、また敵がこの村を狙って進行してきても石橋は崩したから敵もこの村には辿り着けない。仮に村にやって来てまたエリオミスとサリアンに奇襲を掛けようとしても二つの拠点には十分な戦力がある、敵が来ても守り切れるさ・・・」


 夕焼けの空を見上げて背筋を伸ばしながらヴリトラは独り言の様に喋っている。周りではリンドブルム達やララン達がお互いの戦況がどうだったか、怪我はしていないかと話しをしている。ストラスタ軍の兵や雇われたギルドの暗殺者達は一ヵ所に集められて厳重に監視されている。敵軍の情報を聞こうにも、今の状態では尋問を取ることも出来ない。彼等はエリオミスの町かサリアンの森の補給基地のどちらかに送り、改めて尋問する事になった。


「・・・尋問か。あまり大丈夫だろかな?」

「どうしたんだ?」


 声を掛けられ、ヴリトラが声の聞こえた方を向くとラピュスが自分の方に歩いて来る姿があった。ラピュスはヴリトラの隣まで来て仲間達の方を向く。そこには戦いが終り、ようやく帰れると笑顔を見せる騎士達の姿があった。


「さっきまで命を懸けて戦っていたのに、あの緊張状態が嘘の様だな?」

「ああ、確かにな」


 ラピュスとヴリトラは微笑みながら仲間達の様子を伺う。二人も無事に帰れる事を心の中で喜んでいるようだ。


「そういえば、さっき何かを考えているような顔をしていたが、どうかしたのか?」

「ん?・・・ああ、敵の捕虜を尋問するって聞いたから、手荒いやり方をするのかな、と思ってな」

「ああぁ、成る程な。・・・確かに時と場合によっては手荒いやり方をする時もあるかもしれない。だが騎士団もそんなやり方を好んではいない、出来るだけ相手を傷つけずにやってくれるさ」

「・・・その方がいい。拷問みたいに人を痛めつける事を望んでやる様な連中は文字通りの異常者だ、騎士団にそんな人はいちゃいけない」


 ヴリトラは笑顔から真剣な表情へと変わり、まるでそんな異常者を見てきた様な口振りで話す。それを隣で聞いていたラピュスもヴリトラの顔を見て若干目を鋭くした。そこへ一人のレヴァート兵が二人の下へ駆け寄って来た。エリオミスの町とサリアンの補給基地に増援が到着した事を伝えに来た兵士だ。

 兵士は二人の近くに行くと右腕を胸の前まで持ってきて敬礼をする。


「失礼します。第三遊撃隊隊長、フォーネ殿。ガバディア団長がいらっしゃいました。作戦拠点までいらっしゃってください」

「団長が?・・・承知した、直ぐに行く」

「はっ!・・・それから、七竜将のヴリトラ殿もお呼びしろとの事で・・・」

「え?俺も?」


 ガバディアがトコトムトの村に来ており、騎士団のラピュスだけではなく傭兵のヴリトラまで呼んでいる。その理由が分からず二人はお互いの顔を見て不思議そうな顔をする。とりあえずヴリトラもラピュスと一緒にガバディアに会いに行く為、作戦拠点のある廃墟へと向かった。

 作戦拠点に着き、中に入るとそこには机を囲んで何やら話し合いをしているガバディアと彼の警護と思われる白銀剣士隊の騎士、数人の姿があった。


「ラピュス・フォーネ、ヴリトラ、参りました」

「おおぉ、待っていたぞ二人とも!」


 ヴリトラとラピュスの姿を見て、さっきまで鋭い表情を見せていたガバディアは笑顔で二人を迎え入れる。周りの騎士達も笑顔ではないが、二人に興味のあるような視線を向けている。それもその筈だ、七人の傭兵と僅か十数人の遊撃隊が二百人以上の敵中隊を殲滅させて進軍を防いだのだから。

 二人は廃墟に入り、ガバディア達の集まっている机の前にやって来て軽く頭を下げて挨拶をした。


「よくやってくれたな。君達のおかげでエリオミスとサリアンの拠点が奇襲を受けずに済み、戦力を補充する事が出来た。もし今回の作戦が無かったら我々は一度に二つの重要拠点を失っていた事になる。改めて礼を言うぞ」


 ガバディアは二人に頭を下げて感謝する。その姿を見て周りの騎士達も不本意そうな顔を見せるか、一応感謝をしているらしく軽く頭を下げる。そんな光景にラピュスは驚きながら両手を前に持ってくる。


「そ、そんな!頭を上げてください!私達は命令で動いたのです、礼を言われるようなことは・・・」

「いや、それは違うぞ、フォーネ。今回の作戦は君の隣に立ているヴリトラが発案したものだ。そして彼は自らその作戦に参加すると進言した。我々は命令をしたわけでもなく、行くように指示もしていない。だから君達に感謝するのは当然の事だ。それに、本来ならこの作戦は危険度が高く、僅か十数人の部隊に任せるようなものではなかっただろう。それなのに君達は生き延びて敵部隊を殲滅させた。これは恩賞ものの功績だぞ?」

「おぉ~!恩賞ですか」


 恩賞、つまり褒美という言葉にヴリトラは反応して目を光らせる。ラピュスはそんなヴリトラの顔を見て呆れる様に溜め息をついた。本当に恩賞が貰えるのかどうか分からないのにテンションを上げるヴリトラにラピュスだけでなく周りの騎士達も呆れる様な顔をしている。だがガバディアだけはヴリトラの反応を見て笑っていた。


「ハハハハハッ!喜びたくなる気持ちも分かるぞ、恩賞はそんな簡単に貰える物ではないからな」

「ア、アハハハハ.・・・」


 笑ってヴリトラを見ているガバディアをラピュスも苦笑いで見ていた。


「ところで、団長?今回の作戦が無事に成功したってことで・・・・・・こっちの方はどうなるんでしょうか?」


 話しを変えたヴリトラが右手の親指と人差し指の先をくっ付けて丸を作り、報酬の事を尋ねる。いきなり話題を報酬の事に変えたヴリトラにラピュスは今度は呆れ顔を見せてヴリトラを見る。


「お前なぁ、何で良い話をしているのにそんな簡単に報酬の話に変わるんだ?もう少し空気を読め!」

「えぇ~?だって気になるじゃん」

「・・・まったく、どうして戦場に出ている時と出ていない時とでこんなに態度が変わるんだ、お前は!」


 戦場に出ている時には冷静に的確な指示を出し、敵を倒していくヴリトラと戦っていない時のチャランポランなヴリトラを比べるラピュスは頭を抱えて俯く。周りの騎士達も心の中では「どうしてこんな奴のが二百人を超える敵部隊と戦って生き残れたんだ?」と思っている筈だ、全員がヴリトラの実力を疑うような目で彼を見つめている。


「安心しろ、報酬は我々騎士団がしっかりと支払おう」

「ありがとうございます」


 笑いながら報酬の事を話すガバディアを見て頭を下げるヴリトラ。なぜか話が合う二人にラピュスや騎士達は笑い合う二人をまばたきしながら見ていた。

 楽しそうに話をしているガバディアとヴリトラだったが、話が終るとガバディアは突然笑顔から真剣な表情に変わった。それを見たヴリトラも表情を変える。いきなり表情を変えた二人を見てラピュス達の目にも一瞬だが緊張が走った。


「さて、実はフォーネ以外にヴリトラ、君を呼んだのには礼を言う以外に別の理由があるからなのだ」

「別の理由、とは?」


 ガバディアがヴリトラを呼んだ別の理由、その内容が穏やかな内容ではない事はヴリトラは既に気付いている。ラピュスも思わず息を飲み、ガバディアの話しに耳を傾ける。


「君達が今回の作戦を成功させたと聞いた時、儂は一つの作戦を君達七竜将に任せてみようと思ったのだ。この作戦は少々厄介なのでな」

「つまり、俺達に別の作戦を依頼したい、という事ですか?」

「ああ、連続で作戦に参加してもらう事になるが、引き受けてもらえないか?」


 ガバディアは新たな作戦を七竜将に依頼する為にトコトムトの村までやって来たのだ。ガバディアの話を聞いて、ヴリトラは腕を組み考え込む。彼も七竜将のリーダー、リンドブルム達の安全や意見を考えて話を進めないといけない立場だ、そう簡単に依頼をほいほいと受ける事は出来ない。しかも今回の作戦も戦略会議でヴリトラが勝手に引き受けた作戦、これ以上勝手に作戦を引き受ける事は出来ない。

 ヴリトラは目を開き、腕を組むのを止めてガバディアの方を向く。そしてゆっくりと口を開いた。


「・・・とりあえず、依頼の内容を聞かせてくれませんか?」

「ああ。まずは地図を見てくれ」


 ガバディアは机の上に広げられている地図をヴリトラに見せ、ラピュスや他の騎士達も続くように地図を見た。

 地図の中心には多数の色のついた木製の小さな凸型とつがたの駒が置かれてあり、その下には町とその名前が書かれてあった。これは敵の拠点位置や戦力を現す為に駒を置いて戦況を現した地図だ。


「現在、我が軍は最前線でサリアスの森とエリオミスの町、エリオミスの北西の位置にある『ドドロン』の町、エリオミスの北東にある『マティーン』の村に拠点を置いている。一方でレヴァート領に侵攻したストラスタ軍はヌルべスの町に、その南東にある『ザルドラム砦』、南南西にある『アルトムズ平原』、その平原の東と西にある『ゴルバン』の町と『ギングスー』の村、そしてパティートンの村を制圧して拠点を置いている。パティートンの村は君達のおかげで兵力を失い、一番近くにあるマティーンの村の部隊が向かって町の奪還に当たっている。直ぐに取り戻す事が出来るだろう」

「・・・敵は最初に制圧したヌルべスの町を中心に制圧して拠点を増やしていますね?」

「ああ。君も知っての通り、奴等はとても用心深い。自分達の戦力で敵に敵わないと少しでも感じれば直ぐに増援を呼び、必ず勝てる状況で戦いを挑む。故に奴等は直ぐに兵を補充できるよう拠点の近くの村や町を襲撃して領土を増やしているのだ」

「でも、今回の作戦でパティートンの部隊は壊滅して敵もより警戒を強くするでしょうね?」

「その可能性はある」


 ストラスタ軍の攻め方を改めて確認しながら地図を見て話しをするヴリトラとガバディア。地図のあちこちに置かれている凸型の駒の位置や場所を確認し、敵が次にどのように攻めて来るかを考えながら話しを続ける二人。


「我々がストラスタ軍を押し戻すには増援や物資の補給を止める為に補給路を潰すしかない。そこで君達には補給路の中心にあるゴルバンの町に向かってほしいのだ。ゴルバンの町は大きく、補給基地にもなっている。そこを叩けば敵の補給線を止める事が出来る」

「・・・その補給基地のあるゴルバンの町を制圧する事が俺達に依頼する作戦ですか?」

「その通りだ」


 ヴリトラの質問にガバディアは頷く。ヴリトラは隣にいるラピュスと周りで落ち着きの無いような表情を見せる騎士達を見る。騎士達の表情が何処か納得のできない様にも見えた。


「・・・ガバディア団長、この作戦なんですけど軍の上層部とか、そう言った人達は納得してるんですか?この補給基地制圧の作戦を俺達七竜将にやらせる事を?」

「ん?」

「上の人達の中には俺達にこの作戦を任せる事を反対している者もいるんじゃないんですか?」


 ヴリトラの質問にガバディアは一瞬意外そうな表情を見せる。それを見てヴリトラは目を鋭くし、ラピュスは不思議そうな顔でガバディアを見た。ヴリトラの質問の意味を察したのか、ガバディアは目を閉じてしばらく黙り込むとゆっくりと目を開けてヴリトラを見る。


「君達七竜将の噂は既に王宮にも知れ渡っている。それは以前に話したな?・・・君の想像通りだ。上層部の者達の中にはいくら盗賊団を壊滅させた傭兵隊とは言え、騎士団でも攻略できない作戦を傭兵である君達に任せる事は出来ないと言う者達もいた。もし作戦が成功し、その事が明るみになれば騎士団の信頼に関わるからな」

「はぁ、やっぱりそんな事でしたか・・・」


 騎士団に出来ないから腕の立つ傭兵に任せるという、騎士団の名誉に傷をつける事をしたくないと言う軍上層部に呆れ顔を見せるヴリトラ。どの世界でも傭兵は騎士団や政府軍には良く思われる存在ではない、ヴリトラは改めて周りからの自分達の評価をしり疲れ顔を見えた。


「だが、儂は君達がこの作戦を行えばなら必ず成功させると信じとる。だから上層部に君達七竜将を推薦した。しかし、最初に言ったように今回の作戦は危険度が高い。君達も自分の命が大切だろう?おまけにゴルバンの町の情報も少ない。だから、もし受けたくなかったら断ってくれてもいい」

「・・・・・・」


 「受けるか受けないかを選択する権利があるだけでもラッキーか」と心の中で考えながら腕を組むヴリトラは黙り込んだ。七竜将は念を入れて食料や弾薬を余分に持ってきている。だがそれでもこのまま補充無しで戦うと食料や弾薬はギリギリといえる状態になる。ヴリトラは腕を組むのを止めると廃墟の出入口の方へ歩いて行く。


「・・・皆と相談してくる。少し時間をくれ」


 そう言ってヴリトラは作戦拠点の廃墟を後にする。彼の後ろ姿を見てラピュスとガバディアは心配そうな表情を見せている。七竜将はこのまま次の戦いに向かうのか、それとも断って町の引き返すのか。二人の心の中で無茶をしないでほしいと祈っている。

 ヴリトラは七竜将のメンバーを全員集めて村の外でガバディアから依頼された作戦の内容をリンドブルム達に説明する。それを聞いたリンドブルム達は真剣な表情でヴリトラの話を聞いた。


「・・・と、いうのがガバディア団長からの依頼だ」

「敵の補給基地の制圧ねぇ~」

「厄介な内容だな?今度の依頼・・・」


 依頼の内容を聞いて頭を掻きめんどくさそうに言うジルニトラと近くの木にもたれながら低い声を出すオロチ。二人の周りでもリンドブルム達がヴリトラの方を見ている。


「それで僕達の意見を聞く為に戻って来たんだね?」

「ああ、前みたいに勝手に決めて文句を言われるのは御免だからな」

「あれは自業自得だろう?」

「俺等がいない所で勝手に決めたんだからな?」

「そうそう」


 リンドブルムを始め、ニーズヘッグ、ジャバウォック、ファフニールが今回の作戦に勝手に参加する事をヴリトラが決めた時の事を思い出す。ヴリトラは周りのリンドブルムを見てただ苦笑いをしていた。


「それで、お前はどうしようと思ってるんだ?ヴリトラ」


 オロチが木にもたれたまま腕を組んでヴリトラの意見を尋ねる。ヴリトラはオロチの方を向いた後にリンドブルム達を見回して自分の意見を口にした。


「・・・正直、俺は今回の依頼は断った方がいいと思っている。今回の戦いで弾薬や爆薬、そして食料もかなり消費した。依頼を受けるなら万全の状態で受けた方がいい」

「でも、確か弾薬や食料は多めに持って来たんでしょう?それなら大丈夫なんじゃないの?幸い僕達の中には負傷者もいないわけだし」


 ヴリトラの意見を聞いたリンドブルムが現状を確認して行動に支障が出る可能性は低い事を話す。そこへジャバウォックがリンドブルムの頭に大きな手を置き、リンドブルムを見下ろしながら口を開く。


「確かに弾の無駄遣いもしてねぇし、今の状態でも行けるだろうな。だが敵の情報やその補給基地のある町の状況が分からない以上は迂闊に攻める事は出来ない。いつもは俺達は依頼主から敵拠点の詳しい情報を得てから作戦を練って行動してるだろう?」

「そういえば・・・」


 いつもはヴリトラとジャバウォック達の様な成人が依頼主から依頼内容や情報を得てリンドブルム達に伝えられている。リンドブルムやファフニールの様な未成年は今まで一度もヴリトラと同行して依頼主から話しを聞いた事がなので依頼を受けた時の詳しい状況は知らなかった。

 リンドブルムとジャバウォックの会話を聞いて、七竜将の作戦参謀と言えるニーズヘッグがヴリトラの方を向いた。


「ヴリトラ、お前は団長から敵拠点の情報を何か聞いたのか?」

「いいや、団長もゴルバンの町の情報を殆ど掴んでないみたいだ」

「それじゃあ作戦の立てようがないじゃない?」


 ニーズヘッグに続いて情報の少ない事を聞いたジルニトラも二人の会話に加わり、文句を言う様に言い放つ。


「だから今回の依頼を受けるか断るかを選ばせてくれるって、団長が言ってたんだよ」

「じゃあ、やっぱり断った方がいいよ。いくら私達でも無暗に敵に向かって行ったらやられちゃうよ?」


 ファフニールがヴリトラに依頼を断る事を提案し、それを聞いたニーズヘッグやジルニトラ、ジャバウォックも頷いた。リンドブルムとオロチはどちらでもいいのか、黙ってヴリトラの出す答えを待っていた。


「・・・それじゃあ、今回の依頼は断るって事でいいな?」


 ヴリトラの出した答えも断るというものだった。リンドブルム達も一斉に頷く。全員の答えが一致したことを確認したヴリトラはガバディアの答えを報告する為に作戦拠点の廃墟へ戻って行く。そしてなぜかリンドブルム達もその後をついて行き廃墟へ向かった。廃墟に着いたヴリトラ達は出入り口を通り中へ入る。


「団長、さっきの依頼の話――」

「何だとっ!?」


 廃墟に入った途端に聞こえたガバディアの大声にヴリトラ達は反応した。目の前には一人の兵士の方を向いて険しい顔をしているガバディアとそんな彼を見てラピュスと騎士達が汗を垂らしながら緊迫した表情を見せている。


「それは確かなのか!?」

「は、はい。先程伝達がありました。ゴルバンの町の捕虜が処刑されたと・・・」

「くうぅ!何と言う事だ!」


 ガバディアは力強く机を叩き、歯を食いしばっている。まるで気に入らない事を聞かされて苛立っているようだ。

 感情的になっているガバディアを見たヴリトラはラピュスに近づいて小声で声を掛ける。


「おいラピュス、一体どうしたんだ?」

「ああ・・・実は、さっき話していたゴルバンの町で捕虜となっていた我が軍の兵士達がストラスタ軍によって、処刑されたのだ」

「何?」


 レヴァート軍の兵士達が処刑された、それを聞いたヴリトラと後ろに控えていたリンドブルム達の表情が鋭くなる。七竜将にとって仲間が殺されたという事だ、七竜将全員に衝撃が走った。


「奴等は捕虜に対して情けと言うものを持っておらんのかっ!?・・・ゴルバンの町に駐留していた兵士や騎士は殆どがゴルバン出身の者達ばかり、家族だって目の前に居た筈だ!」

「・・・ゴルバンの町を偵察した者の話しによりますと、民衆の前で処刑されたと」


 報告に来ていた兵士が俯いて暗い声で説明する。それを聞いてガバディアはますます表情を険しくして拳を作った手で机を叩いた。ガバディアが机を叩いた事により、上に乗っていた地図や凸型の駒が一瞬宙に浮き、机の上に落ちた。

 その様子を見ていたラピュスや騎士達も表情を暗くして俯いている。だが、その中で七竜将は鋭い表情のまま話を聞いている。ヴリトラが後ろにいるリンドブルムの方をゆっくりと向いて頷く。それを見たリンドブルム達も黙って頷いた。

 

「・・・・・・ん?・・・おおぉ。ヴリトラ、来ていたんか?・・・見苦しい物を見せてしまったな」


 七竜将に見られていた事に気付いたガバディアはひとまず落ち着きを取り戻し、表情を和らげて七竜将を見つめる。


「それで、今回の依頼はやはり断るのかね?」


 ヴリトラ達には危険な依頼と分かっているガバディアは七竜将の意見を聞く前に断るのではないかと答えを代わりに口にするように尋ねる。すると、ヴリトラはゆっくりと口を開いた。


「・・・・・・いや、今回の依頼、受けさせてもらいますよ」


 ヴリトラの口から出た意外な答えにラピュスやガバディア、周りの騎士達は驚いて七竜将の方を見た。そして彼等の表情を見た時、ラピュス達は一瞬寒気を感じ取る。七竜将全員の顔は鋭く、何処か怒りが籠っているようにも見えたのだ。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ