第三百十七話 開戦! 帝都エクセリオン
帝都エクセリオンへ向かって進軍を開始した同盟軍。帝都へ向かう中、アレクシアは戦争のあり方やその戦争の秩序というものを語り、それを聞くヴリトラ達は戦争がそれだけ厳しく、悲しいものなのかを理解した。その戦争でこれ以上多くに人を傷つけさせない為にもヴリトラ達は早く帝国との戦いを終わらせようと誓う。
ドリュフスの町を出てから一時間後、既に夜となり辺りは何も見えないくらい真っ暗になっていた。だが、それは夜襲を仕掛けるには絶好のチャンスと言える。
帝都から500mほど離れた所にある森の中から暗視装置付きの双眼鏡で帝都を囲む城壁や門前を確認するヴリトラとリンドブルム。500mも離れていれば双眼鏡でも敵がどんな武装をしているのかは分からないが、城壁の上に何人おり、門前にどれ程の戦力が配置されているのかぐらいは確認できた。
「……流石にかなりに人数だな」
「うん、此処から確認できるだけでも二十人以上入るね」
「流石は敵の本拠地、守りの堅さもレベルが違う……」
ヴリトラとリンドブルムは帝都の正門前と城壁の上の帝国兵、そしてブラッド・レクイエム社の部隊の戦力を確認しながら面倒そうな顔をしている。
現在、ヴリトラ達が隠れている森は帝都の南門側にあり、南門前にはブラッド・レクイエム社のM1戦車が四両、BL兵が十数人配置されており、城壁の上には弓矢を持った帝国兵や狙撃銃を持ったBL兵が二十人近く確認されている。更に、空からの侵入を防ぐ為の対空高射砲のM51も多数配置されており、守りは完璧と言えた。
二人は南門の戦力を偵察しているが、既に他の三つの門の戦力も確認されており、全て南門と同じ戦力が配置されていた。文字通り、隙の無い鉄壁の守りと言える。
ヴリトラは双眼鏡を目から離し、ジッと遠くに見える帝都を睨んだ。これからあそこに攻め込むという事だが、まずは門を突破する為にM1戦車や高射砲を破壊する必要があった。
「……地上からは戦車、空からは高射砲が行く手を阻んでいる。まずはブラッド・レクイエムの戦力を崩さないと帝都に入る事すらできないな」
「でも、こっちにも戦車や攻撃ヘリがあるから何とかなるんじゃない?」
「だけど敵だってその事を分かっているはずだ。何か嫌な予感がする……」
「嫌な予感って?」
リンドブルムが小首を傾げながら尋ねるがヴリトラはそれに答えずに黙って帝都を眺めている。
帝都にはブラッド・レクイエム社の社長であり、最強の機械鎧兵士であるジャンヌがいる。彼女が軍を指揮するとすれば常に一手二手と先を読んで対策を練っているはず。そうアレクシアから教えられたヴリトラは難しい顔をする。
暫く考えたが、結局何も分からずに時間だけが過ぎてしまった。ヴリトラは考えるのをやめると帝都に背を向けて森の方へ歩き出す。
「戻ろう。とりあえず敵の守りを師匠やガバディア団長達に伝えて、それからどう攻めるは決めよう」
「う、うん」
ヴリトラとリンドブルムは薄暗い森の中へ戻って行き、仲間達が待つ場所へ戻った。
森の中を進んで行くと、二人は広い場所に出た。そこにはテントが張られ、大勢の同盟軍兵士達が戦いの準備をしている姿があった。TR兵達は車両や戦車の最終確認をしており、その中をヴリトラとリンドブルムは静かに進んで行く。
周りで作業をしている者達を見回しながら歩くリンドブルム。するとある事に気付いてヴリトラに尋ねた。
「ねぇ、ヘリとかは何処にあるの?」
「ヘリなら森の外、ドリュフスの町がある方角にある丘の上にあるぜ。流石に木が沢山ある森の中に着陸させるのは無理だろう?」
「あっ、確かに……」
「作戦が決まり次第、空から攻める部隊は森を出てヘリに乗りこみ、地上部隊が出た後に出撃する事になっている……今のところはな」
「……作戦が変更される場合もあればヘリが先に出る事もある?」
「それはまだ分からない。師匠達の話を聞いてからだ」
ヴリトラとリンドブルムは話をしながら歩き、一番奥にある大きなテントの中に入って行く。中では折り畳み式のテーブルの上に帝都の地図を広げ、それを囲むように立っているアレクシアやガバディア達がいた。その中にはラピュスの姿もある。
ラピュス達はテントに張って来たヴリトラとリンドブルムの姿を見るとゆっくりと二人に近づく。
「どうだった?」
「ああ、南門も他の三つの門と同じだった。対地、対空どちらの守りも完璧と言っていいぐらい堅そうだ」
「そうか……」
「そっちはどうなんだ?」
「今、帝都にどう攻撃を仕掛けるかで二つに分かれているところだ」
「どう攻撃を仕掛けるか?」
話を聞いていたリンドブルムが尋ねるとラピュスは頷きながらアレクシア達の方を向いた。
「最初に地上部隊が攻撃を仕掛けて敵軍の注意を引き付け、その間に空中部隊が動き、空と地上から同時に攻撃を仕掛けると言う作戦と先に空中部隊が空から攻撃をして敵の防衛部隊を一掃した後に地上部隊が門を破壊して帝都に突入すると言う作戦の二つだ」
「……地上と空中のどちらが先に攻撃を仕掛けるのかが決まってないって事なんだな?」
「ああ」
話を理解したヴリトラはチラッとアレクシア達の方を向いた。
テーブルを囲む指揮官達は難しい顔をしながらどう帝都に攻撃を仕掛けるかを話し合っている。
「やはりここは空から攻撃を仕掛けてから地上部隊を動かした方が安全だ!」
「いや、それではあの鉄の鳥が飛ぶ時の音で敵に気付かれてしまう。まずは地上部隊で敵を攻撃してから空中部隊を近づけた方がいいだろう!」
「しかし、敵もドリュフスの町でこちらの地上部隊が帝国軍を制圧した事は知っている。敵はきっと地上部隊を迎え撃つ方向に力を傾けるだろう。空から敵の体勢を崩した方が……」
地上と空のどちらがら攻めるかで完全に二つに分かれる指揮官達を見てガバディアは困り顔になる。一方でアレクシアは腕を組み、まるで瞑想をするかのように目を閉じて黙り込んでいた。
そんなアレクシアに気付いたガバディアがそっと彼女に近づき、小声で話しかける。
「……アレクシア殿、貴女はどちらの作戦を行かれるのですか?」
「……」
「貴女が合流されてから中部部隊の司令官は貴女になっている。今は二つに分かれていますが、貴女が決めれば全員その決定に従うでしょう」
「……」
「どちらの作戦で攻めますか?」
ガバディアがアレクシアの意見を尋ねると、アレクシアはゆっくりと目を開き、一度地図を見てから指揮官達に方を向く。
アレクシアが自分の意見を言おうとしているのを見て、ガバディアは言い争っている指揮官達を呼んだ。指揮官はアレクシアの答えを聞く為に黙り込む。そしてアレクシアはゆっくりと自分の意見を言った。
「……両方ですね」
「は?」
「両方の戦力で同時に攻撃を仕掛けます。それも四方向から同時に」
「何ですって?」
予想外の作戦を口にするアレクシアをガバディアや他の指揮官たちは一斉に見つめて意外そうな顔をする。ヴリトラ達はアレクシアを見ているが驚く様子もなく黙っていた。
「なぜ両方の戦力を同時に動かすのです?」
「敵の指揮官は恐らくブラッド・レクイエム社の女王であるジャンヌです。彼女は非常に頭が切れ、こちらの動きを常に読んで手を打ってくるでしょう。しかも私と彼女は軍の同期でした。お互いの事をよく理解していますのでより作戦を立てやすいのです」
「つまり、敵はこちらの作戦を簡単に読んでしまうと?」
「ええ」
敵の指揮官にこちらの手の内が読まれてしまう。それを聞かされた指揮官の騎士達は一斉にざわつく。こちらの作戦が読まれてしまえば勝ち目は無いのだから当然だった。
ざわつく指揮官達を見たアレクシアは彼等とは違い、冷静な表情で話を続ける。
「ですが、彼女が私の考え方を知っているように私もジャンヌの考え方を理解しています。私がどう動けば彼女がどう対策を取るのかという事も。なら、私が考えない様な作戦で攻め込めば彼女の隙を突く事ができる、そう考えました」
「それで全ての戦力を同時にぶつけると言う作戦を?」
「自分で言うのもなんですが、私は用心深く、常に敵の動きを警戒しながら作戦を立てます。何の作戦も考えずに正面から攻撃を仕掛けるなんて事はしません。ですから……」
「正面から一気に攻撃を仕掛けると?」
「作戦も立てずに正面から攻撃を仕掛けるのは危険ですが、ジャンヌも私がそんな無謀な作戦を立てるなんて思ってもいないはずです。必ず隙ができます」
無謀な作戦が今度の戦いには最も効果がある。アレクシアは真剣な顔で言う。しかし、作戦も無く敵に突っ込むと言う危険な命令を兵士達にさせるのは気が引けるのかガバディアや指揮官達の表情は僅かに曇っていた。
すると、そんなガバディア達を見て、ヴリトラが一歩前に出るとゆっくりと口を開いた。
「同盟軍が帝国軍を抑えている間に俺達がヘリで帝都に入り、一気に城へ向かいジャンヌを倒し、ギンガムを捕らえます。できるだけ早く片付けますので皆さんはそれまで持ち堪えてください」
「ヴリトラ……」
「これ以上、帝国との戦いで苦しむ人を増やさない為にも必ずジャンヌ達を捕まえます。ですから皆さんは帝国軍との戦いだけに集中してください」
仲間を傷つけない、辛い思いをさせない、そんなヴリトラの熱い思いを聞きガバディアはヴリトラとアレクシアを見つめる。
危険な作戦だが、敵の不意を突いて有利に立つ可能性が最も高い作戦。ガバディア達はアレクシアとヴリトラの言葉を聞き、なぜかこの作戦なら勝てると感じ始めていた。普通なら考えられない無謀で大胆な作戦。ガバディア達はしばらく考え込み、やがて二人の方を向いて何かを決意した様な顔を見せた。
「……分かりました。アレクシアさん、貴女と七竜将を信じ、儂等は帝国軍と全力でぶつかります」
「ありがとうござます」
「そのかわり……必ず勝ってくださいよ?」
「勿論」
アレクシアはガバディアを見て微笑みながら頷く。それからアレクシア達は簡単な最終チェックをして作戦会議を終え、各部隊に戦いの開始時刻を伝えた。
作戦会議が終わり、ヴリトラは森の外へ出て丘の上に停まっているコブラやチヌークを見つめる。その表情はとても真剣なもので戦いの時を待ち続ける戦士の顔だった。
ヴリトラはヘリを見つめていると、彼の後ろからラピュスは近づいて来てヴリトラの隣に立ち、同じようにヘリを見つめた。
「いよいよだな」
「ああ、もうすぐ帝国との戦いも終わる。ブラッド・レクイエムの連中ともこれで片が付く。気合を入れないといけないからな」
「長かった奴等との戦いも遂に終わるのだな」
今日までのブラッド・レクイエム社との戦いを思い出しながら空を見上げるヴリトラ。その隣ではラピュスも同じように過去を思い出しながら空を見上げている。
振り返ってみれば、ヴリトラ達はブラッド・レクイエム社の手によってこのファムステミリアにやって来てラピュス達と出会う。そして彼女達と共にいるうちにこの世界の秩序や戦い、そして人々の生き方を理解する事ができ、いろんな事を学んだ。考え方を変えれば、この世界に来られたのはブラッド・レクイエム社のおかげとも言える。だが、そのブラッド・レクイエム社はこの世界の秩序を壊し、人々を苦しめようとしているのだ。それを見逃す事はできない。ヴリトラは自分にいろんな事を教えてくれたこの世界の為に今度の戦いに必ず勝利しようと決意するのだった。
「この戦いに勝てばブラッド・レクイエムをこの世界から追い出す事ができるのだな」
「ああ、アイツ等が作ったユートピアゲートを使って元の世界に送り返せばいい。そうすればタイカベル・リーベルもこっちの世界での役目を終える。一緒に戻ればいい」
「そうか……」
タイカベル・リーベルト社の役目が終わる、それは七竜将もこの世界での役目を終えて地球に戻るという事だ。ラピュスにとってそれは複雑な気持ちにさせる種でもあった。
「……ヴリトラ、この戦いが終わったらお前はどうするのだ?」
「俺か? おれは元々こっちの世界の人間じゃないからな……」
「帰る、という事か?」
「この世界にはこの世界のあり方がある。俺達の世界の技術や兵器を使ってこの世界の秩序を変えるのは良くない。それは人間の存在も同じ事だ」
「じゃあ……やっぱり帰るのだな?」
「……」
ラピュスの問いにヴリトラは答えずに黙り込んだ。するとラピュスはそんなヴリトラを見て俯き、悲しそうな顔をした。
数日前にラピュスは自分の想いをヴリトラに伝え、二人の関係は特別なものになった。七竜将がこっちの世界に来てからヴリトラを想うようになったラピュスにとって、ヴリトラとの別れは何よりも大きな悲しみとなっている。それはヴリトラにとっても同じ事だった。
暫くの間、会話も無く黙り込む二人。すると、丘の上にヘリがプロペラを回し始め、それを見たヴリトラとラピュスは丘の方を見る。
「ヘリが発進準備に入った。俺達も行こう」
「あ、ああ……」
もうすぐ大切な戦いが始まる。それを思い出したラピュスは頬を両手で叩いて気合を入れる。
ヴリトラは丘の方へ歩き出し、ラピュスもその後をついて丘に向かう。すると、ヴリトラはピタリと立ち止まってラピュスの方を向いた。
「俺がこの世界に残るか残らないかはこの戦いが終わってからゆっくりと考えるつもりだ。その時にお前にちゃんと俺の出した答えを伝える。だから今は戦いの事だけに集中しろ」
「……ああ、分かった」
「……できれば俺も、この世界に残って、お前と一緒にいたい」
そう言ってヴリトラは再び丘に向かって歩き出す。そんなヴリトラの後ろ姿を見ながらラピュスは右手を強く握った。
自分はヴリトラと一緒にいたい。それはヴリトラも同じであるという事を知り、ラピュスは切ない気持ちで包まれた。
準備が整い、いよいよ同盟軍は帝都への攻撃を開始する。各自、最後の戦いと今まで以上に激しい戦いになる事からかなり緊張しているのか表情が鋭くなっていた。この戦いに勝てば同盟軍は勝利し、帝国から自分達の国を守る事ができる。文字通り、国の命運をかけた最後の決戦の始まるのだ。
――――――
帝都南門前。停車している四両のM1戦車の前でMP7を構えながら周囲を見回す数人のBL兵と帝国兵達。城壁の上からも数人の帝国兵達が弓矢を構えて遠くを見張っていた。辺りは暗くとても静かで少しでも物音がすればすぐに気づくくらいだ。
城壁の上の帝国兵が遠くに見える森を見ていると、一瞬何か光った様な感じがして目を凝らした。
「どうした?」
隣にいた別の帝国兵が声をかけると何かに気付いた帝国兵は森を指差す。
「今、あの森から何か光った様な感じがしたんだが……まさか、敵か?」
「おいおい、脅かすなよ」
「何言ってるんだ。ドリュフスの町が落とされて同盟軍はもうすぐそこまで来てるかもしれないんだぞ? それぐらいの事は考えておけよな」
帝国兵達はジッと森を見つめる。だが、暗さで黒く見えるだけの木々が揺れ、他に何も見当たらなかった。
見間違いだと感じた帝国兵達は目を凝らすのをやめて別の方角を見る事にした。その直後、森の方から何かが飛んできて南門の城壁に命中し爆発した。
「な、何だ!?」
「……て、敵襲ーっ!」
やはり見間違いではなかったと帝国兵は大きな声で叫ぶ。その直後、再び攻撃を受桁城壁は大爆発を起こした。
森の中からはタイカベル・リーベルト社の90式戦車三両が姿を現して南門に向かって前進する。どうやら先程の攻撃は90式戦車の砲撃だったようだ。90式戦車が城壁だけでなく、南門前に停車しているM1戦車も砲撃し、一両を破壊する事に成功した。だブラッド・レクイエム社も負けずとM1戦車で応戦し、90式戦車を一両破壊した。
南門が奇襲を受けたのと同時刻、他の三つの門でも戦闘が開始されて静かな夜の中で何度も爆音が響き渡る。更に空からはコブラ部隊やグリフォン空撃隊が攻撃を仕掛け、城壁の上の帝国兵やM51高射砲を破壊して空からの侵入路の確保にあたるのだった。
城ではギンガムは同盟軍の奇襲を自室で聞かされていた。ギンガムは飲みかけのワインのグラスを落とし、完全に動揺した表情を浮かべていた。
「ば、馬鹿な! なぜこんなふうになるまで敵の接近を許した!? 帝都までの各道には警備隊を配置してあるはずだろう!」
「ど、どうやら警備隊は全て同盟軍に倒されてしまったようで……」
「何だと! ええい、役立たずどもめぇ!」
ギンガムは敵に先手を許した軍に怒り、床に落ちているワイングラスを踏みつける。知らせに来た帝国兵は怒っているギンガムを見てただ跪きながら俯いているしかできなかった。
するとそこへジャンヌがブリュンヒルデを連れてギンガムの部屋に入って来る。ギンガムはジャンヌとブリュンヒルデの姿を見ると少しだけ落ち着いたのか表情が和らいだ。
「おおぉ、ジャンヌ! 同盟軍が奇襲を仕掛けてきた。何とかしてくれ!」
「ええ、分かっています。今我が社の部隊が敵の迎撃に向かっています。ですが、全軍でいきなり総攻撃を仕掛けるとは私も計算していなかったので体勢を立て直すのには時間が掛かるかと……」
「なら、あのアパッチとか言う鉄の鳥と飛竜部隊も動かせ! 空から敵を殲滅するのだ!」
「敵が先に空から攻撃を仕掛けており、アパッチ部隊と飛竜部隊は攻撃を受け、飛び立つ事ができない状態になっています。隙を見つけて出撃させますが、いつになるか」
「何だとぉ!? 何とかならないのか!」
ギンガムは取り乱しながら冷静なジャンヌに何とかできないか尋ねる。ジャンヌは腕を組みながら考え込み、その後ろではブリュンヒルデが黙ってジャンヌの背中を見ている。
「……先程、グランドアヴァロンの方に増援を要請しました。彼等が来るまでに持ち堪えられれば逆転できるかと……」
「ほ、本当か?」
「ええ、それまではこの帝都にある戦力で持ち堪えるしかありません」
「だ、大丈夫なのか?」
「フッ、私にお任せください。陛下は玉座の間に避難をされていてください」
「わ、分かった。頼むぞ!」
ギンガムは報告に来た帝国兵を連れ、慌てて部屋を出て玉座の間に向かった。
ジャンヌはギンガムは部屋を出て行くと、扉の方を向いて不敵な笑みを浮かべる。
「……この帝都を守るつもりなど最初からない。せいぜいしばらくの間の安心を味わっておけ」
「ジャンヌ様、帝都を守るつもりがないと仰りましたが、どうされるおつもりですか?」
「私はこの城で七竜将とアレクシアの到着を待つ。アイツ等なら必ず来るはずだ」
「同盟軍を押し返すつもりはないのですか?」
「先手を許した上に地上と空から同時に攻め込まれてはもう巻き返す事はできない。アレクシアの事だからどちらかを陽動に使い、態勢を崩した時にもう片方で攻撃を仕掛けると思っていたのだがな……」
「裏をかかれましたね」
「ああ、流石だ」
敵であるアレクシアを敬服するジャンヌ。彼女はアレクシアが自分の予想を超えた行動を取る事に喜ぶと楽しさを感じていた。そんなジャンヌをブリュンヒルデはジッと見ながら黙っている。
「ブリュンヒルデ、お前は脱出ヘリの準備を進めておけ。私はアレクシア達の到着を待ち、アイツ等との戦いが終わり次第、ヘリに向かう」
「承知しました」
指示を受けたブリュンヒルデは廊下に出て走り出す。ジャンヌも部屋を出るとブリュンヒルデが走って行った方とは正反対の方へ歩き出した。
遂に帝都への攻撃が始まった。先手を打ち、帝国軍に強烈な一撃を与える事ができた同盟軍。帝国軍が怯んでいる隙にヴリトラ達が帝都へ侵入する事になっているが、上手く侵入し、城を落とす事ができるのだろうか?




