第三百十一話 契約破棄? ブラッド・レクイエムの真意
オラクル共和国にDMが撃たれた事でオラクル軍の士気が低下し、七竜将は最前線へ向かい同盟軍の戦いを支援する事になった。一国の軍隊の士気が低下する中、七竜将は何処まで同盟軍の力になれるのだろうか。
ティムタームの町を出てタイカベル・リーベルト社の拠点へやった来たヴリトラ達。拠点は既に完成しており、少し低めの城壁に囲まれ、あちこちに見張り台が建てられている。施設内には訓練場や寄宿舎、格納庫などが数多く建てられており、地球の軍事基地そのものだった。
ヴリトラ達はアレクシア達が乗るジープの後をバンに乗ってついて行き、拠点のゲートを潜り拠点内に入る。拠点の中には大勢にTR兵やエンジニアらしき人物達が装甲車や戦車のメンテナンスをしたり、訓練している姿があった。その光景を眺めながら七竜将は拠点の奥へ進んで行く。
しばらく進むと、ヘリポートに到着し、装甲車とバンはヘリピート前で停車、アレクシアと七竜将は降車し、ヘリポートで離陸の準備をしている「CH-47 チヌーク」の方へ歩いて行く。七竜将は普段着から戦闘用の特殊スーツに来て、それぞれ自分の愛用の武器をそうびしている。
今回は帝国、そしてブラッド・レクイエム社との最後の戦いになる為、七竜将もフル装備で来ていた。アレクシアも最前線へ向かう為に普段着ているスーツから専用の白い特殊スーツを着ており、腰には日本刀が納めている。アレクシアと一緒に戦場へ行くという事でヴリトラとオロチ以外の七竜将のメンバーは少し緊張した様子だった。
ヴリトラがチヌークの方を見ると、ヌチークの前にはラピュスとララン、そして白竜遊撃隊の騎士達が既に来ており、ヴリトラ達に気付くと軽く手を振って挨拶をする。ヴリトラ達も手を振って挨拶を返し、ラピュス達の下へ向かった。
「よぉ、ラピュス。やっぱりお前達も行くことになってたんだな」
「当然だ。今度の戦いがブラッド・レクイエムとの最後に戦いになる。私はこのレヴァート王国の人間としてお前達の世界の技術を使う唯一の存在だ。最後まで共に戦うつもりでいる」
「フッ、頼もしいな。期待してるぜ?」
「お互い様だ」
微笑み合いながら仲間の力を信じ、期待するヴリトラとラピュス。
ラピュスは七竜将がこの世界に来て最初に力を貸してくれた姫騎士であり、何度も共にブラッド・レクイエム社と戦って来た戦友でもある。七竜将にとって既に彼女はかけがえのない存在になっていた。
ヴリトラとラピュスが会話をしているとTR兵と会話をしていたアレクシアがヴリトラ達の下にやって来た。
「出発の準備が整いました。全員、ヘリに乗り込んでください!」
指示を聞いたヴリトラ達は一斉にアレクシアの方を向き、真剣な表情を浮かべる。ラピュスも一年以上も七竜将と共に戦っていたせいか、任務とプライベートの気持ちの切り替えがすぐにできるようになっていた。
ヴリトラ達がTR兵に誘導されてチヌークに一斉に乗り込む。勿論白竜遊撃隊もそれに続いた。他のヘリポートでもTR兵達が別のチヌークに乗り込む姿があり、タイカベル・リーベルト社の精鋭機械鎧兵士部隊が戦場へ行く為に準備を進めている。アレクシアはその様子を伺ってからチヌークに乗り込み、全員が乗ると、チヌークの後部ハッチはゆっくりと閉じた。
全てのチヌークの後部ハッチが閉じ、離陸準備が整うヘリポートにいるTR兵達は一斉にチヌークから離れた。パイロットがTR兵が離れたのを確認するとプロペラの回転速度が速くなり、チヌークは一斉に上昇し始める。拠点に残るTR兵達は離陸したチヌークを見上げながら敬礼をし、戦場へ飛び立つチヌークを見送った。
拠点から飛び立った合計六機のチヌークは最前線である帝国領へ向かう為に同じ方角へ向かって飛んで行く。その一機の中にいるヴリトラ達はアレクシアから最前線の状態と自分達の役割を聞いていた。
「今から最前線の状況と皆さんの役割について説明します。一度しか言わないのでしっかりと聞いておいてください」
いつも穏やかの表情から真剣な表情に変わっているアレクシアを見てラピュスやラランは少し緊張していた。
アレクシアも元はアメリカ陸軍将校だった為、一度戦場に出れば気持ちを切り替え、厳しい態度を取る。七竜将はこのような空気に慣れているのか普通に話を聞いていた。
「現在、同盟軍は二個師団を三つに分け、北、西、南の三方向から帝国領に進軍しています。既に北部と南部の大きな町は制圧を終え、残りは中部にある帝都、そしてその周辺にある町のみとなっています。私達はその周辺の町の制圧と帝都までの進攻ルートの確保、その支援をする事になっており、もし戦力が不足している部隊があればその部隊と共に進攻するという事になっています」
「敵の戦力はどんなものなんですか?」
「殆どが帝国兵だけよ。各拠点にブラッド・レクイエムの機械鎧兵士や機械鎧怪物の姿もあるけど、ほんの僅か、私達を止めるだけの戦力は無いわ」
「やっぱり、あえて少なくしているんでしょうかね?」
「間違いないわね。ブラッド・レクイエムにとって帝国はもう必要のない存在。ジャンヌ達にとってはあろうがなかろうが変わらない存在よ。だから最低限の戦力しか配備していない」
「平気で仲間を切り捨てるなんて、奴等には情けというものが無いのかよ……」
ブラッド・レクイエム社の無慈悲さにヴリトラは苛立ちを露わにする。ブラッド・レクイエム社が冷酷な者達によって結成された組織だという事は知っている。だが、それでもその冷酷さを目の当たりにすれば嫌でも苛立ちがこみ上げてくるのだ。
ヴリトラ達が黙ってアレクシアの話を聞いていると、今度はラピュスがアレクシアに質問をした。
「アレクシアさん、同盟軍の状況はどんなものなのでしょうか?」
「同盟軍はこれといった問題はないわ。帝国よりも戦力は上回っているし、我が社の機械鎧兵士達が同盟軍の兵士達を支援しているのでどこの戦力も大きな損害はない。だけど、それでも帝国兵との戦いで戦死者は出ている。少しずつでも戦力が少なくなってきている部隊があるわ」
「私達はその戦力が不足している部隊に救援として送られるって事ですか?」
「その通りよ」
「因みに各部隊の指揮官はどんな人か分かります?」
ラピュスは帝国領に進攻している同盟軍の部隊の指揮官が誰なのかを尋ねるとラピュスは懐から端末を取り出して情報をチェックし始めた。
しばらくして、目当ての情報が見つかるとラピュスに説明し始める。
「北部の進攻部隊の指揮官は青銅戦士隊の総隊長であるキースリンク・ザーバットさんとストラスタ公国の王女にして白薔薇戦士隊の隊長であるパリーエ・ストラスタ王女ね」
「ザーバット隊長とパリーエ王女が?」
自分の知っている人物が指揮官になっている事からラピュスは意外そうな顔を浮かべる。勿論七竜将も同じような表情だった。
「南部進攻部隊の指揮官も二人。一人はダークエルフの長老のお孫さんであるリーニョさんと言う女性が、そしてもう一人は白銀剣士隊の隊長の一人であるファルネスト・チャリバンスさんと言う方です」
「南部はチャリバンスとリーニョさんか……しかし、ダークエルフが指揮官になる事をよく他の兵士達が賛成しましたね?」
ダークエルフの長老の孫娘とはいえ、ダークエルフが同盟軍の指揮官の一人を務めるとなると不満を露わにする者もいるはず。
ヴリトラはリーニョが人間の兵士達と上手くやっているのかどうか心配になり不安そうな顔を浮かべる。ラピュス達も同じような表情を浮かべていた。するとアレクシアはヴリトラ達を見て小さく笑う。
「フフフ、大丈夫よ。報告ではダークエルフ達は人間達と友好的な関係を気付いているみたい」
「本当ですか?」
「ええ、貴方達がダークエルフの為にできる限りの事を尽くした事でダークエルフ達は人間の中にも良い心を持つ者がいると理解し、人間達と親しくなろうと頑張っている。それを見た人間達もダークエルフを昔のように無下に扱わないようにしようと話し合って決めたみたい」
「そ、そうですか……」
意外な事実を聞かされたヴリトラは少し驚きの表情を浮かべる。てっきり過去の関係からダークエルフと人間の関係が昔のようになってしまったのではないかと考えていたが、そうなる事無く友好的な関係を気付いている事にヴリトラ達は少し安心した。
「貴方達の気持ちが人間とダークエルフの両方の種族の考えを変えたのよ」
「……そっか。仲良くなったのね、あの子達」
ジルニトラが目を閉じて嬉しそうに笑いながら呟く。自分達の行いで決別していた二つの種族が再び昔の関係を取りも出した事が嬉しく感じたのだろう。ジルニトラはほんの少しだけうれし泣きをしていた。
そんなジルニトラを見てファフニールも少し鼻をすすりながら笑い、そんなファフニールの頭をジャバウォックは優しく撫でた。
「そして、中部進攻部隊の指揮官がティンクル・ジージルさんという姫騎士とガバディア団長です」
「ガバディア団長が前線に?」
「ええ、そして彼が今回の帝国攻略を務める全同盟軍の司令官でもあるわ」
「流石に帝国との直接対決ともなればガバディア団長自ら前線に出るのは当然か……」
今まで以上に厳しい戦いになる。その事を考えて最前線に出たガバディア団長の意思と覚悟にヴリトラは腕を組んで呟く。今までのカバディア団長は戦争中、首都であるティムタームを守る為にずっと最前線へ出ずにティムタームにいた。だが今回はブラッド・レクイエム社が直接手を組んでいる帝国と戦う事になる為、最前線に出ざるを得なかったのだ。
「現在最も戦闘が厳しいと言われている中部もガバディア団長の指揮により、損害は最小限まで抑えられています。ですが、それでも帝都に近い場所の為、敵の抵抗が他よりも激しく、なかなか進行できない状態のようです」
「それじゃあ、俺達はまず中部部隊の支援に向かうという事ですか?」
「ええ」
「では、中部の支援が終わり、敵をある程度押し戻す事が出来たら、北部と南部の部隊へ救援に……」
「いいえ、北部と南部には我が社の部隊を送ります。七竜将には中部に残り、帝都への進攻を続けてください」
中部に残り帝都を目指す、その言葉にヴリトラ達の表情が鋭くなる。
帝都は当然他の拠点よりも守りが堅く、戦力も大きいはずだ。そして、ジャンヌとジークフリートもいるだろう。そんなところを攻めるとなると生半可な戦力は遅れない。同盟軍側の切り札とも言える七竜将を送らなければとても攻略できないと判断され、アレクシアは七竜将に帝都攻略を任す事にしたのだ。
「今度の戦いでは七竜将全員に帝都攻略についてもらいます。ジャンヌも私達が帝都に攻め込んでくる事を分かっているはずでしょうから、幹部クラスを大勢帝都に配置しているでしょう。勿論、帝都やギンガム皇帝ではなく、自分を守る為にね」
「幹部クラスともなれば、俺達七竜将かタイカベル・リーベルトの中でも精鋭と言える機械鎧兵士でしか倒せないでしょうからね」
「ですが、我が社の幹部は北部と南部の救援に向かわせることにします。北部と南部に敵の幹部がいないとも限りませんから」
「確かに、俺達が中部に行く事を計算して北部と南部に幹部を向かわせるって事も十分考えられます」
敵の幹部が何処にどう配置されるかを考えながら話し合うアレクシアとニーズヘッグ。ヴリトラ達も黙って敵がどう動き、どんなふうに部隊を配置するかを考えていた。
そもそも七竜将は正確にはタイカベル・リーベルト社の傭兵隊ではない。タイカベル・リーベルト社に育てられたヴリトラが一人前になり、独り立ちした後に結成された傭兵隊だ。ヴリトラとアレクシアの計らいで負傷した七竜将のメンバーは全員が機械鎧の手術を受けて機械鎧兵士になる事ができた。ヴリトラは世話になったタイカベル・リーベルト社に恩を返す為にタイカベル・リーベルト社から依頼があればそれを受けて依頼を完遂して来た。それが何度も繰り返されるうちに七竜将はタイカベル・リーベルト社の中でも名の通った傭兵隊となり、今ではタイカベル・リーベルト社の傘下の様な存在となっている。
ヴリトラ達は別にそんな事は気にもせず、ただただ恩返しの為に依頼を熟してきたのだ。
タイカベル・リーベルト社の中にも七竜将と同じくらいの実力を持つ機械鎧兵士はいるが、それでも彼等には届かない。アレクシアは自分の会社の機械鎧兵士よりも信頼している七竜将を敵の本拠点に向かわせ、彼等に勝利への架け橋になってもらうおうと考えていた。
「詳しい状況は帝国領にある同盟軍の本拠点に付いたら説明します。それまでは少しでも体を休めておいてください」
説明を終えたアレクシアはヴリトラ達に体を休めるよう伝え、ヴリトラ達も言われた通りにした。たった数分間の状況確認でヴリトラ達は疲労を感じたのか、椅子に座りながら壁にもたれる。今以上の疲労がこれからのしかかると考え、少しでも休もうと体の力を抜くのだった。
――――――
その頃、コラール帝国にある帝都エクセリオンにある城では同盟国との戦争について、戦略会議が行われていた。会議には皇帝であるギンガムや帝国の貴族や将軍、そしてジャンヌ、ジークフリート、数人のブラッド・レクイエム社の幹部が出席しており、長方形の大きなテーブルを囲みながら座っていた。
将軍から戦況を聞いたギンガムは両手で強くテーブルを叩きながら険しい顔をしている。どうやら報告の内容がよくなく苛立ちを隠せないでいるようだ。
「一体どうなっている!? なぜここまで我が軍が押されているのだ!」
「へ、陛下、どうか落ち着いてください……」
興奮するギンガムを宥めようとする貴族。だが、そんな事でギンガムが冷静になるはずがなかった。
「これが落ち着いていられるかぁ! この数週間の間、同盟軍との戦いは全てこちらの惨敗ではないか。何をやっているのだ!?」
「も、申し訳ありません。なにせ、オラクル共和国が同盟軍側に付き、敵の戦力が大幅に増強されたうえにタイカベル・リーベルトと名乗る組織までもが味方に付いております。敵の戦力は既に我が帝国軍を上回り、兵士達の士気も大きく低下してとても戦いにはならない状況なのです」
「そこを何とかするのがお前達の役目だろうが! 言い訳などしてる暇があるならどうすればいいか考えろ!」
「ハ、ハイ……」
自分は何もせずに指示を出すだけなのに大きな態度を取るギンガムを見ながら貴族達は弱々しく返事をする。悪逆皇子と言われたギンガムが皇帝となった以上、もし反論すれば自分達がどうなるか分からない。貴族達にできるのは渋々彼の命令に従う事だけだった。
ギンガムが貴族達を怒鳴り散らしている時、ジャンヌとジークフリートは黙ってギンガムの話を聞いている。ギンガムの怒りの矛先が自分達に向けられていない為、何も言わずに眺めていたのだ。
すると、ギンガムは今度はジャンヌ達の方を睨み、手元になる羊皮紙をジャンヌ達に突き付ける。
「ジャンヌ! お前達ブラッド・レクイエムも何をしているのだ!? ここ数日のお前達の活動はあまりにもいい加減すぎる。最近制圧された最も大きな町は僅か二個小隊しか配備されていなかったそうではないか。どういう事だ!?」
拠点防衛の為のブラッド・レクイエム社の戦力があまりにも少なすぎる事に納得のできないギンガムはジャンヌを睨みながら尋ねる。ジャンヌは腕を組みながらギンガムを見て小さく笑った。
「陛下、我々ブラッド・レクイエム社はオルトロズムの戦いでかなりの戦力を失いました。今動かせる戦力はごく僅か、その状態で我がブラッド・レクイエム社の主力部隊を動かせば帝都の守備部隊の戦力も大きく削られます。それではもし同盟軍がこの帝都に攻め込んできた時に彼等を止める者達がいなくなりますよ?」
「うっ! そ、それは困る」
「でしたら、今は帝国軍だけで同盟軍を足止めしていただかないといけません。今こちらも全力で部隊編成を進めております。部隊が整い次第、各拠点に増援として送りましょう」
「そ、そうか……それならいい」
ギンガムは落ち着き次第ブラッド・レクイエム社が戦力を送ると聞き、安心したのか少しだけ表情が和らいだ。
編成が終わり次第増援を送る、そんなのは勿論嘘だ。ジャンヌは初めから帝国軍に増援を送るつもりなどない。ただ、ギンガムから八つ当たりされるのも面倒なのだ都合のいい事を言ってその場を凌いだだけだ。
「……ただ、我々としてもこれ以上は帝国と契約を結び続ける訳にもいかなくなりました」
「何? それはどういう事だ?」
突然契約を続ける事が出来ないと言う言葉を聞いたギンガムはフッとジャンヌの方を向く。周りにいる貴族達もジャンヌ達、ブラッド・レクイエム社の幹部達の方を一斉に見る。
周りの注目されている事を確認したジャンヌは腕を組んだまま目を閉じてゆっくりと口を開く。
「我々はこの世界の情報と人材を提供するという条件で貴方がた帝国と契約を結びました。ですが、陛下が皇帝になられてからそれはプツリと途絶え、こちらは人材も情報を手にしておりません」
「それはもうお前達には十分すぎるほどの人材と情報を提供したからだ」
「契約の内容は契約を交わしている間、人材と情報を提供し続けるという事だした。つまり、いくら大勢の人材や情報を提供してもそれで提供する必要はないという事にはならないのです」
「つまり、契約を交わしている間はずっと人材と情報を提供し続けろという事か?」
「その通りです」
即答するジャンヌを見てギンガムは気に入らなそうな顔で彼女を睨む。
傭兵派遣会社ごときに人材や情報を提供しなければならないという事が気に入らないギンガムはさり気なく人材の提供をやめてブラッド・レクイエムと無条件で契約を交わす形を作ろうとしたのだ。だが、ジャンヌやジークフリートがそんな都合のいい考えは認めるはずがない。
「嘗ての様に人材と情報の提供してくださる様子が無いので、今度の同盟軍との戦争を最後にコラール帝国との契約を白紙に戻させてもらいます」
「な、何だと! お前達、俺を裏切るのか!?」
「裏切る? 何を仰っているのですか? 私達は約束を果たせない者を仲間と思うつもりはありません、つまり、これは裏切りではない」
「くうぅ! 屁理屈ばかり並べ負って!」
「……ですが、私達も恩知らずではありません。色々と情報や優秀な人材を提供してもらいましたので今度の戦争が終わるまでは帝国側に付かせていただきます。それが終わり次第、契約を白紙にしますので……」
これ以上契約を続ける事はできない、それはつまり、帝国の仲間ではなくなり機械鎧兵士部隊という強力な戦力を失ってしまうという事だ。ギンガムにとってそれは非常に都合が悪い。だからと言って、傭兵如きに人材や情報を提供するのも嫌だ。
ギンガムは自分が損をしない形でどうにか契約を続ける事が出来ないかを考える。すると、何かをひらめき、会議室の端で控えている近衛兵に指示を出した。すると近衛兵はジャンヌ達の後ろに立ち、持っている槍を椅子に座っているジャンヌ達に突き付ける。
ジャンヌとジークフリートは近衛兵の行動を見て目を鋭くした。
「……陛下、これは何の真似ですか?」
「今お前達をここで失う訳にはいかない。お前達にはこのまま俺の帝国の為に全力で戦ってもらう。それも無条件でな! 断ればどうなるか分かるな?」
自分が完全に有利に立ったと考え、ギンガムは余裕の笑みを浮かべる。だが、ジャンヌはそんなギンガムを見て小さく笑い出した。
「何がおかしい?」
「ウフフフ、おめでたい方ですね?」
ジャンヌがそう口にした瞬間、突然ジャンヌ達に槍を突きつけていた近衛兵達が倒れる。よく見ると、近衛兵の頭上には銃創があった。どうやら頭上から何者かに銃撃されたようだ。しかも、銃声が聞こえなかった事からサプレッサーをつけて銃撃したのだろう。
倒れた近衛兵を見て驚くギンガムと貴族達は一斉に席を立つ。すると天井に吊るされているシャンデリアの上から数人のBL兵が飛び下りてギンガム達の背後に着地する。そしてサプレッサーを付けたベレッタ90をギンガム達に突き付けた。
いきなり背後に現れて自分達の動きを封じるBL兵達にギンガム達は言葉を失う。そんなギンガム達を見てジャンヌは席を立ち、テーブルの上に乗るとギンガムの前までやって来た不敵な笑みを浮かべてギンガムを見つめる
「いけませんねぇ、陛下? 手荒な真似をしては?」
「な、何を言う、手荒なのはお前達ではないか……」
「先に仕掛けて来たのは陛下です。言ってみればこれは正当防衛と言う奴ですよ」
「う、うううう……」
「いいですか、ギンガム陛下? もし今ここで私達を敵に回すようなことをすれば、我らブラッド・レクエムは帝国に対して総攻撃を仕掛けます。そうなると、貴方がた帝国は強力な戦力を失った挙句、私達と敵対関係になってしまうのです。同盟軍と戦争中の時にそんな事をしてしまってよいのですか?」
「!」
ジャンヌの言葉にギンガムは表情が急変する。自分の言いたい事を理解したギンガムを見てジャンヌは再び不敵な笑みを浮かべた。
「フフフフ、私達を敵に回すのはそちらの勝手です。ですが、今はやめておいた方がいいですよ。我らブラッド・レクイエムとタイカベル・リーベルトが加わった同盟軍、帝国はこの二つの戦力を一度に相手にして勝つ自信があるのですか?」
会議室にいる者は誰もその質問に答えられなかった。ブラッド・レクイエム社の力がどれ程のものかは帝国の人間達は皆知っている。そんな者達を敵に回すなんてことは誰にもできない。そして同盟軍に協力しているタイカベル・リーベルト社もブラッド・レクイエム社と同じ力を持っている。そんな者達が力を貸している同盟軍とブラッド・レクイエム社、その二つを同時に敵に回せば帝国と言えで勝ち目は無い。
ギンガムは冷や汗をかきながら周囲を見回す。いくら愚かなギンガムでもこの状況で言える言葉は一つだけだった。
「……わ、悪かった。どうか、同盟軍を倒すまでの間、力を貸してほしい」
「ウフフフ、勿論です」
震えた声で頼むギンガムを見てジャンヌはニッコリと笑いながら答える。その様子をジークフリートは腕を組みながら見つめていた。
徐々に悪くなっていくブラッド・レクイエム社と帝国の関係。そんな中で最高司令官であるジークフリートは何を考えているのだろうか。そしてヴリトラ達はそんなブラッド・レクイエム社と帝国とどう戦うのか。




