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機械鎧(マシンメイル)は戦場を駆ける  作者: 黒沢 竜
第三章~戦場に流れる鎮魂曲(レクイエム)~
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第三十話  鎧を纏いし竜達 【拠点方面】

 ヴリトラ達が石橋前の戦いを終わらせた時間からさかのぼる事三十分前。トコトムトの村では待機していた七竜将、ニーズヘッグ、ジルニトラ、ファフニールがリンドブルムからの通信を聞いて表情を鋭くしている。村のすぐ隣にある大きな草むらに身を隠してストラスタ軍の別働隊が村を制圧する為に迫って来ている事を聞かされて三人は少し驚いていた。

 

「やっぱりジルニトラは村に残しておいて正解だったか・・・。ジルニトラ、ニーズヘッグ、ファフニール!聞こえてたろ?これからそっちに敵さんがやって来る、歓迎の準備してくれ」

「やっと私達の出番だね」

「分かった、こっちは俺達でなんとかする」

「アンタ達はどうすんの?」


 耳の小型通信機から聞こえくるヴリトラの指示を聞き、三人は返事をする。それからヴリトラがリンドブルムとオロチをそれぞれのチームに援軍として送る事を伝え、それを聞いた三人もオロチが村に来ると聞いて小さな笑みを浮かべた。


「その後は各自自由にやってくれ、ただし無茶はするなよ?・・・以上だ」


 その言葉を最後に通信が終り三人はそれぞれ相手の顔を見て状況を再確認した。三人はそれぞれ自分以外の二人を直ぐに確認できるように、立ち位置が三角になる様に立っており、左右にいる相手の顔を見ながら会話を始める。


「奇襲か、オロチの読みは当たったな」

「ええ。敵の兵力が少ないと思ったら、まさか奇襲部隊を用意してたなんてね・・・」

「それじゃあ、まずは皆にこの事を知らせないと!」

「ああ、きっと皆は動揺する筈だ。何とか落ち着かせて戦闘態勢に入らせるぞ?」


 ニーズヘッグはジルニトラとファフニールにそう言って兵士達を集め始める。ストラスタの別働隊が自分達のいる拠点に向かって来ると聞かされ、ニーズヘッグの読み通り騎士達は動揺し始めた。だが、自分達が必ず皆を生かして帰すという言葉を聞き、騎士達は納得して落ち着きを取り戻す。最初の時の様に自分達の事を何も知らない状態の騎士達にそう言っても、きっと納得できずに騒ぎ続けていただろう。しかし、今の騎士達は七竜将の実力と持っている武器の凄さを知っている。そのせいで彼等は七竜将を信じようと言う気持ちになれたのだ。

 騎士達が慌てながらも戦いの準備をしている姿を見て、ニーズヘッグ達も自分達の装備品を確認し始める。そんな時、ファフニールが突然静かな声でこう言った。


「でもでも、パティートンの村からこのトコトムトの村までの道はあの石橋のある道しかないんでしょう?どうやって草むらに入ったんだろう?」


 ニーズヘッグとジルニトラの方を向いてファフニールが愛用の振動ハンマーであるギガントパレードを担ぎながら尋ねる。


「多分、パティートンの村からあの石橋までの間に誰も通らないような獣道でもあったんでしょう?それを通って来たんじゃないかしら」

「あり得るな。レヴァートはストラスタにとっては敵の領内ではあるが、村や町を制圧して周囲を調べる事ぐらいは出来る。いつくか戦いに役立ちそうな獣道や建物なんかを見つけても不思議じゃない」


 ファフニールの質問にジルニトラがサクリファイスの弾倉マガジンを確認しながら、ニーズヘッグがアスカロンを見ながら答える。確かに拠点を制圧してその周囲を調べたり敵の残存が隠れていないかを確かめるのは常識だ。ストラスタ軍がトコトムトの村へ行く他の道を見つけていたもおかしくはない。

 だがそれ以外にもファフニールには分からない事があった。左手の人差し指を顎に付けながら空を見上げて不思議そうな表情を見せる。


「あれ?だったらどうして最初に村に攻めて来た時にその抜け道を使って村に奇襲を仕掛けなかったんだろう?」

「どうせ、最初はそんな事をしなくても簡単に村を手に入れられると思ったんだろう?誰も住んでいない無人の村に気を配るなんて事はしないから敵は一人もいないだろうってな?」

「でも、実際あたし達はこの村に拠点を置いて敵を待ち伏せしていた。敵も最初は驚いたでしょうね?無人の村に敵の部隊がいたんだからさ?それでも敵の戦力は自分達よりも小さいからそのまま攻めても勝てると思って突っ込んで来た、とあたしは考えてるけど?」

「だが現実はそう上手くは行かなかった。俺達の存在がストラスタの連中に予想外のダメージを与え、奴等も今回の様な奇襲作戦を仕掛けざるを得なくなった」


 ストラスタ軍が七竜将の存在を知らずに攻めて来た結果、彼等は敗走しパティートンの村に戻った。そして作戦を練り直し、前もって見つけておいた道を通り迂回しながら草むらに潜伏。頃合いのいいところで村に向かって進軍したのだとニーズヘッグとジルニトラは考えている。

 二人の話しを聞いたファフニールはようやく納得できたのか「ほおほお」という様な表情で頷いた。そんな時、一人の騎士が慌てて走って来る。それに気づいた七竜将と騎士達は一斉に走って来た騎士の方を向く。


「き、来たぞ!ストラスタ軍の奇襲部隊だぁ!」

「「「「「!」」」」」


 七竜将と騎士達は表情を一変させる。状況を確認する為に七竜将は武器を持って騎士が走ってきた方向、つまり草むらの見える方へ早足で向かう。廃墟の間を抜けて広い所に出ると、そこからは辺り一面が緑色と言ってもいい位の大きな草むらが広がっていた。その真ん中で草を倒しながら村の方へ向かって来る大勢の人間の姿。剣や槍、弓を持って走って来る大勢の兵士、大盾を持って兵士達の前を一列に並びながら走っている重歩兵、そしてそれを挟む様に前後を走っている騎士、しかし騎士は馬には乗っていなかった。奇襲を仕掛ける為、馬に乗っては目立つと思い、徒歩で来たのだろう。

 姿や鎧の形からして、確かにストラスタ軍の奇襲部隊だ。それも百人近くいる部隊。敵との距離は村から約400m位だった。向かって来るストラスタ軍を見ているニーズヘッグ、ジルニトラ、ファフニールの三人。その後ろから敵発見を知らせた騎士も姿を見せて近づいてくる敵軍を目に動揺を見せる。


「あ、あんなに沢山の敵、たった数人で勝てる筈がねぇよ・・・」

「何言ってるのよ!さっき言ったでしょう?必ずアンタ達を無事にティムタームに帰すって?」

「だ、だけど・・・」


 ジルニトラと騎士が話していると、ニーズヘッグが敵の方を見ながら叫ぶような声を出した。


「気をつけろ!何か来るぞ!」

「「「!」」」


 ジルニトラの声に気付いてジルニトラとファフニール、そして騎士が奇襲部隊の方を向く。奇襲部隊は草むらの真ん中で止まり、部隊の真ん中にいる兵士の数名が前に出た。よく見ると、その前に出た兵士達は全員が弓兵だったのだ。

 弓兵が前に出たのを見てニーズヘッグはハッと表情を変えて後ろにいる騎士の方を向いた。


「マズイ!皆は建物中に避難させろ!」

「え?」

「急げっ!」

「あ、ああ・・・!」


 言われるがままに村の方へ走って行く騎士。残った七竜将はもう一度草むらの方を向いて敵の様子を伺う。だがその直ぐ後に敵の弓兵達が弓を構えながら角度を50℃程上げた。そして部隊の先頭に立っていた騎士の一人が騎士剣を抜いて村の方を向き、勢いよく騎士剣を振り下ろす。


「放てぇーーっ!」


 騎士の言葉を合図に、弓兵達は一斉に矢を放った。放たれた矢は上空へと飛んでいき、やがてゆっくりと村に向かって降って来る。しかも全ての矢が村に届くように計算されていた。

 向かって来る雨の様な矢を見て驚くジルニトラとファフニールは咄嗟に廃墟や木箱の陰に隠れる。だがニーズヘッグだけは隠れずに腰に収めてある愛用の超振動蛇腹剣、アスカロンを抜く。そして柄のスイッチを押して刀身を鞭状にすると勢いよく刀身を回し始めた。

 飛んで来た矢は廃墟の屋根や地面、木箱などに刺さり、ニーズヘッグに向かってきた矢は全てアスカロンによって弾き飛ばされる。結果、ニーズヘッグの咄嗟の判断で村にいる者は全員無傷で済んだ。


「ふぅ、危ねぇ危ねぇ・・・」


 アスカロンを元の状態に戻して安心するニーズヘッグ。隠れていたジルニトラとファフニールも顔を出してニーズヘッグの方を向いた。


「大丈夫?」

「ああ、一応な。・・・にしてもお前等、俺一人を残して隠れるなんて薄情だなぁ?」


 安否を気にするファフニールの方をジト目で見つめるニーズヘッグ。二人は隠れるのを止めてニーズヘッグの隣まで来ると奇襲部隊の方を向いて自分達の武器を構えた。


「あたし達は矢を防げないと思ったから隠れたのよ。アンタはアスカロンを使えば簡単に弾き飛ばせるでしょう?」

「それに私のギガントパレードは重たいもん。ニーズヘッグみたいに器用な事は出来ないよ~」


 ジルニトラとファフニールの話しを聞いたニーズヘッグは溜め息を一つ付いてアスカロンを構え直す。そこへ村の廃墟に隠れていた騎士達が全員姿を見せて七竜将の近くに寄って来た。集まって来た騎士達を見て七竜将は全員いる事を確認すると直ぐに意識を敵部隊の方へ向ける。


「皆、よく聞いて。敵部隊には大盾を持ってる重歩兵や遠距離攻撃の出来る弓兵がいるわ。そして人数は約百人。それに引き替え、あたし達の部隊には騎士が数人とあたし達七竜将だけ。人数ではあたし達の方が圧倒的に不利・・・」


 ジルニトラの話しを聞いた騎士達は全員士気を低下させていく。騎士達は自分達を励ますような言葉を期待していたのか、ジルニトラの言葉を聞いた途端に表情を暗くする。だがその後にジルニトラは小さく笑ってこう言った。


「でもね、あたし達は絶対に勝つわ!・・・なぜかって?それは『これ』があるからよ!」


 ジルニトラはそう言って隣に立っているニーズヘッグの方を向いた。ニーズヘッグはジルニトラの考えを察したのか、「仕方がない」と言いたそうにして左足の機械鎧を見る。

 ニーズヘッグの機械鎧は右腕と左足が丸々一本機械化している。彼は左足の膝関節を曲げてゆっくりと座り込む。すると膝関節の装甲が開き、機械鎧の中から大きなマイクロ弾が姿を現した。

 マイクロ弾とは、ミサイルの様に弾頭が尖っておらず、平らになっている特殊なロケット弾。ミサイルよりも空気抵抗が多く、あまり遠くへは飛ばないが中には特殊な成型炸薬が仕込まれており、大型ならば最新型の戦車ですら粉砕できる。

 ニーズヘッグはマイクロ弾の狙いを奇襲部隊に定めていつでも発射出来るように準備した。後ろではニーズヘッグが何をやっているのか分からずに覗き込んでいる騎士達の姿がある。


「発射準備完了だ」

「よし、後は敵が近づいてくるのを待つだけよ!」

「・・・近づいてくると思うか?」

「来るわよ!絶対」


 どこか不安そうな声で尋ねるニーズヘッグにジルニトラは自信満々で頷く。そう言って奇襲部隊の方を見ていると、なんとジルニトラの読み通り、奇襲部隊は前進して来たのだ。それを見て驚くニーズヘッグにファフニール、そして騎士達。ニーズヘッグはジルニトラを驚きの顔のまま見つめる。


「お前、どうして分かったんだよ?アイツ等が前進して来るって?」

「理由?・・・無いわよ、感」

「・・・・・・は?」


 ジルニトラの口から出た予想外の言葉にニーズヘッグは目を点にする。周りの騎士達も同じように目を点にしていた。でもファフニールだけは普通の表情でジルニトラを見ている。


「か、感?・・・そんないい加減な理由なのかよ?」

「いい加減とは失礼ね?戦いには賭けや運だって必要なのよ?あたしは今回その感に掛けただけ」


 根拠も無しに敵が接近してくると考えていたジルニトラを見て呆れる様な表情で俯くニーズヘッグと心配そうな顔をする騎士達。きっと彼等は心の中でこう思っているだろう、「こんな女と一緒で俺達は生きて帰れるのか」と。

 呆れ果てているニーズヘッグ達の隣でファフニールは奇襲部隊の方を指差しながらニーズヘッグの肩を叩く。


「ねぇ、敵、近づいて来てるよ?」

「おおっと、いけねっ!」


 敵が接近してきている事を思い出して狙いを定め直すニーズヘッグ。そしてストラスタ軍がマイクロ弾の射程に入った瞬間、機械鎧の膝から大型マイクロ弾が発射された。マイクロ弾は離れた所に集まっている奇襲部隊に向かっておき、ストラスタ兵達も自分達に向かって飛んで来る物体を見て立ち止まって釘付けになる。そしてマイクロ弾は奇襲部隊の真ん中に落ちて大爆発を起こした。


「「「「「うわああああああっ!!」」」」」


 突然の爆発に周囲のストラスタ兵達は巻き込まれる。爆発に巻き込まれなかった兵達は突然の出来事に驚き、近くで倒れている仲間達を固まったまま見ていた。村からその光景を見ていた遊撃隊の騎士達も驚いてまばたきをしている。


「お、おい、皆死んでるぞ?何だ今の爆発は・・・?」

「いきなり変な物が飛んできて爆発したぞ?」

「これが先遣隊の見た未知の武器なのか?」


 七竜将の武器や機械鎧の内蔵兵器を見た事のないストラスタ兵達はその威力に動揺し、隊列を崩し始める。動揺は直ぐに他の兵士達にも広がり怖気づく者も出て来た。初めて七竜将の武器を見れば誰だってそういう反応を見せるのは当然だ。


「皆、臆するな!敵の中には炎を操る傭兵の姿はない!それに今敵拠点にいるのは僅かな人数のみ、奴等の武器を掻い潜り、懐に入れば我らの勝利だ。草むらに身を隠しながら近づいて行け!」


 一人の騎士が動揺を見せているストラスタ兵達に勇気付ける様に声を掛ける。なんとその騎士は先遣隊を率いてヴリトラ達に戦いを挑み、返り討ちに遭って退却したあの隊長の騎士だったのだ。今回、石橋の部隊は火の気を操る騎士が隊長を務める為、彼は奇襲部隊の指揮を執っていたのだ。

 騎士の言葉を聞いたストラスタ兵達の顔に士気が戻り、彼等は武器を掲げて大声を出した。士気の戻ったストラスタ兵達は騎士の言うとおり、姿勢を低くして草むらに身を隠しながら前進し始める。


「アイツ等、また前進して来たわよ?」

「マイクロ弾一発を見れば動揺して後退すると思ったが、考えが甘かったか」


 敵は後退する事なく前進して来る姿を見てジルニトラとニーズヘッグは意外そうな表情を見せる。おまけにストラスタ軍は姿勢を低くして草むらに身を隠しながら前進してくる、こちらの攻撃を十分警戒して向かって来ているという事だ。


「な、なぁ、さっきのやつをもう一回使う事が出来ないのか?」


 ニーズヘッグの背後にいた一人の騎士がもう一度マイクロ弾を使う事を提案してくる。だがニーズヘッグは騎士の方を向いて首を横に振った。


「撃つ事は出来る。だが敵が姿を隠している以上、正確に狙う事は出来ない。一発撃っても倒せる敵の人数は限られてる。それに、このマイクロ弾は対人用じゃないから白兵戦では役に立たない」

「あ~、つ、つまり、歩兵相手には効果が薄いという事か?」


 ニーズヘッグの話しが上手く理解出来ない騎士はとりあえず、自分でも分かる様な答えを口にする。ニーズヘッグは騎士の答えを聞いて頷き前を向き直す。そこへファフニールがギガントパレードを左手に持ち替え、右腕の機械鎧を動かして口を開いた。


「それじゃあさ、対人用で白兵戦で役に立つ武器を使えばいいんじゃない?」


 そう言って、ファフニールは機械鎧の後前腕部分の装甲を動かす。すると開いた装甲の下から奇妙に装置と繋がっている銃口が飛び出した。機械鎧に内蔵されている機銃だ。それを見て膝ついていたニーズヘッグが立ち上がり、右腕の機械鎧の後前腕部分の装甲をファフニールの機械鎧と同じように動かす。そして機械鎧の中から全く同じ形状の機銃が飛び出して来たのだ。それを見てジルニトラは小さく笑い、騎士達が驚いて二人の機械鎧を見つめる。


「確かにお前の言ってる事は最もだな。白兵戦で使えないのなら、使える武器を選ぶのは常識だ」

「そうね。やっぱ、あたし達はこれを使って戦うのが一番ね?」

「とりあえず、撃ちまくろうか?」


 笑顔で物騒な事を口にするファフニールを見てニーズヘッグとジルニトラが小さく苦笑いを見せた。三人は機械鎧に内蔵された機銃とアサルトライフルのサクリファイスを構えて草むらを狙う。

 意識を集中させ、草むらに隠れているストラスタ兵達の気配を探し始める。しばらく探し、微かに動いた草を見つけるとそこに銃口を向ける三人。そして三人は一斉に発砲して草むらに弾丸を撃ち込む。


「ぐわぁーーっ!」


 弾丸が撃ち込まれた草むらの中からストラスタ兵の叫び声が聞こえ、その周りの草が倒れた。どうやら銃撃を受けた兵士が倒れ、その体が草を押し倒したのだろう。他の二か所でも同じような状況になり、ストラスタ兵が一瞬で三人倒される。

 隠れていた他の兵士達も隠れている筈の仲間が倒された事で再び動揺し出しだす。そのおかげで草は激しく動きだし、より分かりやすく敵の位置を把握できるようになった。当然七竜将がそれを見逃す筈がない。


「よしっ!敵が驚いて居場所がはっきり分かったぞ!一気に蹴散らせ!」


 ニーズヘッグの言葉にジルニトラはファフニールは銃撃を続ける。三人の放った弾丸は次々にストラスタ兵を倒していき、次第に数が減っておく。やがて敵の数は百人いたのが半分の五十人にまで減り、七竜将は銃撃を止める。


「これだけ減れば後は剣でなんとかなるだろう。邪魔な弓兵もいなくなったし、皆、後は白兵戦で押し切るぞ!」

「OK!」

 

 機銃をしまい、アスカロンを抜いたニーズヘッグが周りの仲間達に声を掛け、ファフニールもギガントパレードを持ち直して返事をする。


「な、なぁ。どうして全部の敵はそのジュウっていう武器で倒さないんだ?」

「その方が安全に敵を倒せるだろう?」


 後ろに控えていた騎士達が銃撃を止めて接近戦で戦おうとするニーズヘッグに尋ねると、ニーズヘッグはアスカロンを構えながら答えた。


「コイツ等には弾丸っていう者が必要でな。その弾丸には限りがある、無駄遣いすると後々面倒になるんだよ」

「次の戦いで使えなくなっちゃうからね」

「だから、接近で倒せる相手には接近戦で戦うって訳」


 ニーズヘッグに続いてファフニールとジルニトラが付け足すようにに説明する。そして数を減らされながらも怯まずに向かって来るストラスタ軍を見てニーズヘッグとジルニトラは草むらに飛び込んだ。


「・・・ん?」


 二人に続いて草むらに飛び込むもうとするファフニール。だが飛び込む直前に自分達から離れた所で三つの人影が草むらから出て村に入っていくのを見つける。ファフニールはギガントパレードを肩に担いでその人影を見つけた方へと走り出す。


「お、おい、何処行くんだよ?」


 一人の騎士が突然村の方へ走り出すファフニールを呼び止める。ファフニールは騎士の方を向いて人影の見えた方を指差した。


「あっちに人影が見えたんです。敵かもしれません」

「何!?」

「私ちょっと見てきますから、皆さんはニーズヘッグとジルニトラと一緒に敵を食い止めてください」


 そう言い残してファフニールは一人村へ戻って行った。騎士は呼び止めようとするも、迫って来ている奇襲部隊の方が気になり、仕方なく騎士達も草むらに飛び込んで奇襲部隊の迎撃に向かった。

 その頃、騎士達が全員が出払い無人となった村には三人の男が廃墟と廃墟の間の細道を通って忍び込む様に静かに村の中を進んでいた。その男達は全員が黒い服装で口を灰色の布のマスクで隠している。そして腰には短剣が納められていた。


「おい、レヴァートの騎士達はいるか?」

「いや、誰もいねぇ・・・」

「つまり、奴等は全員戦場に出てるって事だ」

「なら、さっさと拠点にある重要な書類なんかを奪って片付けちまおうぜ?」

「ああ。しっかし、騎士団の連中も随分と簡単な仕事を任せてくれるよなぁ?こんなんで大金が転がり込んで来るんだからよぉ」


 男達は笑いながら騎士団の事を話している。実はこの三人はストラスタ公国軍が雇ったギルドの人間なのだ。彼等に与えられた依頼は敵拠点にある作戦の書かれた重要書類の強奪と敵兵の暗殺。ストラスタ軍が奇襲を仕掛ける為にと前もって雇っておいた者達だ。


「よし、まずは敵の作戦拠点を探すぞ?」

「探してどうするんですか?」

「「「!!」」」


 突然背後から聞こえてくる声に男達はビクつく。一斉に振り返ると、そこにはギガントパレードを担いでいるファフニールの姿があった。


「な、何だこのガキは・・・?」

「いつの間に後ろに・・・」

「・・・皆さんはストラスタ軍の人達ですか?」

「だ、だったらどうなんだ?そっちこそ、どうしてお前みたいなガキがこんな戦場にいるんだよ・・・」


 話を逸らして質問で返す男。ファフニールは自分よりも背の高い男達をジーっと見上げる。そんなファフニールに男達は威圧感を感じて後ろに一歩下がる。そして、ファフニールはパァっと目を光らせて男達を見つめた。


「うぅわぁ~~~♪もしかして、皆さんはギルドの人ですか?盗賊ギルドの人ぉ?」

「な・・・!?」


 自分達を見ていきなりハイテンションになるファフニールを見て更に一歩下がる男達、。ファフニールは大のファンタジーマニア、それ故にギルドなどといったファンタジー関係の物には目がないのだ。

 目を輝かせながら男達に何の警戒もせずに近づくファフニールは更にテンションを高めた。


「凄い凄い!ねぇねぇ、盗賊ギルドって何するんですか?やっぱり泥棒ですか!?」

「な、何なんだお前は!それに、俺達は盗賊じゃねぇ!暗殺者アサシンギルドの人間だ!」

「バカッ!何勝手に喋ってんだよ!?」

「あ、ワ、ワリィ・・・」


 思わず自分達の正体を話してしまった男に別の男が注意する。そこへもう一人の男が腰の短剣を抜いてファフニールを見下した。


「何であれ、見られた以上生かしておく訳にはいかねぇ。ワリィなお嬢ちゃん、お前には此処で死んでもらうぜ・・・」

「・・・ほえ?」


 短剣を構えて自分を取り囲もうとする男達を見てファフニールは小首を傾げる。そんな時、突然草むらの方から爆発音が聞こえてきた。爆発音に反応して、ファフニールと男達は一斉に草むらの方を向いた。


「な、何だ、今の爆発は!?」

「騎士団に何かあったのか!?」

「・・・・・・あぁ~、ニーズヘッグ達、もう終わらせちゃったのかなぁ?」

「そうだ・・・」


 また突然聞こえてきた声に男達は過剰に反応する。男達が周りを見回していると、ファフニール一人だけが空を見上げて笑みを浮かべた。


「あっ!もう来たんだね、オロチ!」

「「「!?」」」


 ファフニールの言葉を聞いた男達が空を見上げると、自分達の真上からロケットブースターを使って宙に浮き、無表情で見下しているオロチの姿が目に映った。

 男達は踵から炎を出して宙に浮いているオロチを見て更に驚き、オロチの真下から移動した。


「な、ななな、何だあの女ぁ!?」

「そ、空を飛んでやがる!」


 驚く男達の事を気にせずにオロチはファフニールの隣にゆっくりと降下して地面に足を付ける。


「おかえり」

「ああ・・・」

「ヴリトラ達は?」

「リンドブルムを置いてきた。見た時には既に兵力が半分以下になっていたな・・・」

「おぉ~!じゃあ、石橋のプラスチック爆弾を使ったんだ!」

「みたいだな。因みに私はさっき村に着いたのだが、草むらが騒がしかったから少し敵にプレゼントをしてきた・・・」

「うわぁ~、じゃあさっきの爆発はオロチの仕業だったんだね?」


 オロチの話しを聞いて驚くような、そして何処か敵を気の毒そうに思うような表情を見せるファフニール。そんな二人の話しの意味が理解出来ないのか、男達は短剣を構えて二人を睨んでいる。


「お、おい!何訳の分かんない事を言ってんだ!?お前等、今の状況を分かってんのかよ!?」

「状況?・・・・・・そっちこそ、状況を分かってるのか・・・?」


 オロチが冷たい表情と冷たい声を男達に向けると、持っていた斬月を頭上で掲げ、それを見たファフニールも真似するように笑ってギガントパレードを掲げる。そして二人は自分達を挟んでいる廃墟の壁に向かって斬月をギガントパレードを勢いよく振った。斬月の刃とギガントパレードの頭が壁に触れた瞬間、触れた箇所から石の壁に罅が生じ、あっという間に廃墟全体に広がっていく。そして罅が広がりきった直後、二つの廃墟は轟音と砂煙を上げて崩れ落ちた。


「「「・・・・・・」」」


 目の前で二人の女が自分よりも大きな武器を使い、更に大きな廃墟を崩してしまった光景を目にして男達は固まった。目の前に立っている女達は只の女ではない、そして自分達が戦えば、確実に殺される。男達はそう直感した。


「こんな状況でも、お前達は私とファフニールの相手をするのか・・・?」

「いえ、滅相もありません!」

「私達の負けです!」

「投降します!いえ、させてください!」


 抵抗もせずにその場で同時に土下座をする男達。そんな男達を見てファフニールは不思議そうな顔でまた小首を傾げる。一方でオロチが溜め息をついて呆れる様な顔で男達を見ると、隣に立ているファフニールを見下した。


「今頃奇襲部隊はニーズヘッグ達が片付け終えているだろう。私が着いた時にはニーズヘッグとジルニトラが前の方で暴れまわっていた・・・」

「そう。それで、騎士の人達は?皆生きてるの?」

「ああ・・・」

「よかったぁ~」


 騎士達に安否を確認してファフニールはホッと胸をなでおろす。


「石橋でもそろそろ勝負が付いている頃だろう。私は上がって終わった事をヴリトラ達に知らせてくる・・・」

「私も行きたい!背中に乗せてぇ~」

「・・・構わんが、ギガントパレードは置いて行けよ・・・?」

「うん!」


 オロチの言われたとおり、ファフニールはギガントパレードを置いてオロチの背中に跳び移る。オロチは背中のファフニールを確認した後、目の前で土下座している男達を睨み付け、「逃げるなよ?」と威圧した。それを見て男達は震えながら頭を下げる。確認したオロチは機械鎧のロケットブースターを点火し、空へと上がって行った。

 こうして、七竜将と第三遊撃隊の活躍でトコトムトの村での防衛線は勝利に終わり、パティートンの村を占拠していたストラスタ公国軍を壊滅状態にする事が出来た。だが、これはまだストラスタ公国との戦いの序章に過ぎなかった。


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