第三百三話 ジャバウォックチームVSサンダーバード姉妹
城の前に来たヴリトラの前にジャンヌが連れて来た幹部、サンダーバードが現れる。しかもそのサンダーバードとは別にもう一人のサンダーバードが現れた。パメラ、パルメと名乗る双子の姉妹サイボーグをヴリトラ達は鋭い眼光を向ける。
城の入口前に並んで立ち、ヴリトラ達の行く手を阻むパメラとパルメ。このままでは城に入る事ができない、ヴリトラは頭をフル回転させてどう対処するか考えた。すると、ジャバウォックとファフニールがヴリトラの前の出てパメラとパルメを睨み、自分達の武器を構える。
「二人とも、何を……」
「さっき言っただろう? 此処は俺達が食い止めると……」
「だからヴリトラ達は予定通り城へ行って!」
当初の予定通り、ヴリトラのチームを城へ行かせて自分達がサンダーバード姉妹を食い止めると言うジャバウォックとファフニールに驚くヴリトラ。ラピュスや他の者達も驚いて二人の背中を見ていた。
サンダーバード姉妹は前に出た二人を見るとおかしいのかクスクスと笑い出す。
「ハハハハハッ! 二人だけで私達姉妹とやり合う気?」
「随分とナメられたものね? 私達は女王直轄の機械鎧兵士なのよ」
ジャバウォックとファフニールの行動を愚かに思うサンダーバード姉妹。そんな二人をジャバウォックとファフニールはジッと睨み付ける。
「お前さん達こそ、俺等をナメてるんじゃねぇのか? 俺達は七竜将だぜ?」
「他の機械鎧兵士と一緒にしないで」
「フン、貴方達七竜将は七人揃って真の力を発揮する部隊。一人の戦力なんてたかが知れてるわ。私達姉妹には絶対に勝てない」
パメラはジャバウォックとファフニールに自分達には絶対に勝てないと自信に満ちた顔で言い放った。二人はパメラの挑発に乗るらずに武器を構えながら睨み続けている。
すると、ジャバウォックとファフニールの後ろで黙っていたヴリトラは構えている森羅をゆっくりと下ろし、真剣な顔で口を開いた。
「……分かった。任せたぜ?」
「ヴリトラ?」
サンダーバード姉妹の相手をジャバウォックとファフニールの二人に任せると言い出すヴリトラに隣にいたラピュスは驚きながら彼の方を向く。
「本気なのか? せめて私かお前のどちらかが残って一緒ん戦えば……」
「城の中にはきっとまだ大勢の機械鎧兵士がいるはずだ。俺かお前のどちらか一人が此処に残れば突入部隊の戦力が大きく下がる。そうなると城の攻略は難しい。此処は二人に任せるしかないんだ」
「なら、入口を見張るタイカベル。リーベルト社の機械鎧兵士を連れて行けば……」
「そうすれば今度は入口前の守りが弱くなる。もし町にいる機械鎧兵士や機械鎧怪物が来たらどうするんだ?」
「そ、それは……」
「俺だって本当は此処に残って二人と一緒に戦いたい。だが、そうなったら敵の幹部を逃がしちまう。そうさせない為にも二人は俺達を行かせようとしてくれているんだ。だから俺は城へ突入する。二人の気持ちを無駄にしない為にもな」
その言葉を聞いたラピュスは黙ってヴリトラの顔を見つめ、その後にジャバウォックとファフニールの背中を見つめた。
城に突入する機械鎧兵士はヴリトラとラピュスの二人だけで、残りはアリサと白竜遊撃隊の騎士だ。BL兵が大勢いる敵城に二人しかいない機械鎧兵士のどちらかを残して一人で行かせるのは危険すぎる。ヴリトラは少しでも城の制圧を成功させる為に感情を押し殺してジャバウォックとファフニールの二人に任せる事にしたのだ。
ヴリトラの気持ちと二人の真意を聞いたラピュスは目を閉じてしばらく黙り込み考える。やがてゆっくりと目を開き、ヴリトラの顔を見て頷く。
「分かった、行こう」
ラピュスもサンダーバード姉妹の相手をジャバウォックとファフニールに任せる事にし、ヴリトラも納得してくれたラピュス見て小さく笑いながら頷いた。
背後でヴリトラとラピュスの話を聞いたジャバウォックとファフニールはお互いの顔を見た後に目の前のサンダーバード姉妹に視線を戻し、再び彼女達を睨み付けた。
「俺とファフニールが道を開く。お前達はその間に城へ突入しろ!」
「分かった。頼むぜ」
自分達の武器を強く握り、何時でも動けるように構えるヴリトラとラピュス。アリサ達も構える二人を見て咄嗟に騎士剣や銃器を構えた。
ヴリトラ達が武器を構える隣ではガズンがガルバとミルバを後ろに控えさせながらヴリトラ達のやり取りを見ている。すると、ガズンがファフニールの隣まで移動し、電撃鞭を勢いよく振って地面を叩いた。
「ガズンさん?」
突然隣にやって来たガズンを見て驚くファフニール。ガズンは電撃鞭のグリップとトングの部分を両手で持ちながらニッと笑ってサンダーバード姉妹を見つめた。
「……俺も此処に残るぜ」
「え?」
「お前等二人だけじゃ、ち~と厳しい相手なんだろう? 俺とガルバ達も手を貸してやるぜ」
「ダ、ダメだよ! この人達は普通の人間じゃないんだよ? ガズンさんもミーちゃんとガーちゃんも殺されちゃう!」
ファフニールは慌ててガズンとドレッドキャット達を心配しながら止める。ジャバウォックも少し困った様な顔でガズンを見ていた。するとガズンは笑ったままファフニールを見下ろして口を開く。
「嬢ちゃん、俺とガルバ達だって今まで何度も命を落とすような危険な戦いを繰り広げて来たんだ。今更どんな敵が出てこようが怖くねぇよ」
「でも……」
「それにだ、俺達をその危険な相手のいる所まで連れて来たのは他でもねぇ、嬢ちゃんのリーダーなんだぜ?」
ガズンはそう言ってチラッとヴリトラの方を見る。ヴリトラは目を合わせないようにさり気なく視線を逸らした。
下がろうとしないガズンを見て困り顔になるファフニール。するとジャバウォックがファフニールの頭にポンと手を置いた。
「ファフニール、ガズンが残るって言ってるんだ。一緒に戦わせてやろうぜ?」
「ジャバウォックまで……」
「ガズンは元々俺達と一緒に行動するはずだったんだ。だったら、最後まで一緒に戦うのが当然だろう? それにさっきも言ったように、ガズンをこんな所へ連れてきちまったのは俺達なんだ。今更危ないって言うのも変だろう?」
ジャバウォックの言葉に何も言えないファフニールがム~っとしながら黙り込む。ガズンは自分の味方をしてくれたジャバウォックを見ると目で「ありがとよ」と伝え、ジャバウォックもニッと笑ってガズンを見た。
しばらくして、ファフニールは仕方がないと考えたのか、ジャバウォックを見上げ、黙って頷いた。
話がまとまるとジャバウォックはヴリトラの方を向いてウインクをし、話が終わった事を伝える。ヴリトラもジャバウォックを見ながら頷き、再びサンダーバードの方を向いた。
サンダーバード姉妹は自分達を放っておいて勝手に話を進めていくヴリトラ達を見て少し機嫌が悪くなったのかジッとヴリトラ達を睨みつけている。
「私達を無視して勝手に話を進めてくれちゃって、完全に私達を馬鹿にしてるわね」
「フン、敵を前に平然と話をするその神経の図太さは誉めてあげるけど、そういう事は相手と自分達の力の差を理解してやったほうがいいわよ?」
怒りの籠った声を出すサンダーバード姉妹。すると、彼女達に体からバチバチとスパークが発生し、今にも放電しそうな状態になった。
そんなサンダーバード姉妹を見てヴリトラは「やれやれ」と言いたそうな表情を浮かべる。
「皆、敵さんがそろそろキレそうだから、さっさと始めちまおう」
「りょ~かい」
ファフニールはギガントパレードを構えて返事をし、ジャバウォックもデュランダルを構え直した。そして、その直後に二人は地を蹴り、サンダーバード姉妹に突っ込む。
ジャバウォックとファフニールはデュランダルとギガントパレードを勢いよく振り下ろしパメラとパルメに攻撃する。
するとサンダーバード姉妹は左腕を上げてジャバウォックとファフニールの攻撃を止めた。普通なら機械鎧兵士でも二人の攻撃を止める事はできないと誰もが考えていたが、サンダーバード姉妹はいとも簡単に攻撃を防いだ。
「何っ! 俺達の攻撃を防いだ!?」
「どうしてそんな事が!」
自分達の重い一撃が簡単に止められた事が信じられないジャバウォックとファフニールは驚きながらサンダーバード姉妹の左腕を見た。すると、サンダーバード姉妹の腕と自分達の武器の間にひし形の黄緑色の光の板がある事にジャバウォックは気付く。
「あれは、電磁シールド!?」
「ウフフフ、やっと気づいたのね、おじさん?」
驚くジャバウォックを見ながらパルメは楽しそうな笑みを浮かべた。
「私達の内蔵兵器はこの放電装置だけじゃないの。電気を操れる機械鎧という事から電磁シールドも取り付けられているわ。それも、普通の電磁シールドよりも強力で高出力の奴がね」
「出力を最大にすればどんなに重い攻撃でも簡単に止められるってわけ」
パルメに続いてパメラが自分達の電磁シールドの秘密を自慢げに話し出す。予想以上に強力な内蔵兵器の事を教えられてジャバウォックとファフニールはめんどくさそうな表情を浮かべる。すると、その隙にヴリトラ達がサンダーバード姉妹の横を通って城の中へ入って行く。
ヴリトラ達の気づいたサンダーバード姉妹はヴリトラ達を止めようと空いている手をヴリトラ達に向けて電撃を放とうとした。すると、サンダーバード姉妹の前にガズンが回り込み、電撃鞭のスイッチを入れてサンダーバード姉妹に攻撃する。サンダーバード姉妹は素早くその場から消える様に移動してガズンの電撃鞭の攻撃をかわす。
ジャバウォック達は周囲を見回し、既にヴリトラ達が城の中へ入った事と、TR兵達が城と町を繋ぐ街道の入口へ向かったのを確認した。そして三人は姿を消したサンダーバード姉妹を探し始める。
「アイツ等、何処に行きやがった?」
「もの凄い速さで移動したけど、もしかしてお城の中に入っちゃった?」
「いや、いくら機械鎧兵士でも目で追えない速さで移動するのは不可能だ。それに、もしヴリトラ達を追っていったのなら、俺達が見逃すはずがない……奴等はまだこの近くにいる!」
「その通りよ」
突如聞こえてくるパメラの声に三人はフッと上を向いた。そこには両足の機械街からジェットブースターを点火させて宙に浮いているサンダーバード姉妹の姿があった。どうやら彼女達もオロチと同じ様に空を飛ぶ事のできる内蔵兵器を両足の機械鎧に組み込んでいたようだ。
空から自分達を見下ろすサンダーバード姉妹を見てジャバウォック達は武器を構えて睨み付ける。そんな彼等をパメラとパルメは冷たい目で見つめていた。
「まったく、やってくれたわね? おかげでヴリトラ達を逃がしちゃったじゃない」
「どうやら、先に貴方達を倒さないといけないみたいね」
「こっちは最初からお前等と戦うつもりなんだ。さっさと下りてこい!」
ジャバウォックは飛んでいるサンダーバード姉妹に向かってデュランダルを突きつける。するとパメラとパルメは突然クスクスと笑い出す。
「あのねぇ、戦いでは制空権を握った方が有利なのよ? 制空権を握っているのにそれをわざわざ捨てるような事をすると思う?」
「……飛んだまま戦うつもりだと?」
「当然でしょう」
「チッ!」
下りてこないサンダーバード姉妹を見てジャバウォックは舌打ちをする。空を飛んでいる者が有利な状態で自分から空を飛ぶのをやめる者などいるはずがない。そんなのは戦いでは当然の事だ。
自分達が空を飛べない以上、サンダーバード姉妹との戦いでは自分達が不利なのは明白。ジャバウォックはサンダーバード姉妹を警戒しながら作戦を考えた。
(空を飛んでいる奴等に普通の攻撃は通用しない。七竜将で唯一空を飛ぶ事ができるオロチを呼ぶのが一番いいんだが、それだと東門の戦力が削れる。そうなるのは流石にマズイ……なら、やっぱり俺達だけであの姉妹を空中から引きずり下ろして戦うしかないか)
オロチを呼べないなら、自分達で何とかするしかない。ジャバウォックはデュランダルを両手でしっかりと握った。
空中からジャバウォック達を見たサンダーバード姉妹は両手を三人に向ける。すると二人の手の中にバチバチと電気が発生し、それを見たジャバウォック達は警戒心を強くする。
「悪いけど、私達はこんな所で無駄な時間を消費するわけにはいかないの。だから……」
「さっさと終わらせてもらうわよ!」
パルメがそう言った瞬間、パメラとパルメの両手から青白い電撃が放たれる。ジャバウォック達は咄嗟にその場から移動して電撃を回避、電撃は三人が立っていた所に命中し、地面を黒く焦がした。
地面が焦げたのを見たファフニールは電撃の威力に驚く。ガズンも同じような顔をしていた。
「な、何なんだ、あの変な攻撃は……」
「あれは電気を使った攻撃だよ。ガズンさんの鞭にも纏ってるでしょう?」
電気を見た事の無いガズンにファフニールは説明しながらガズンが持っている電撃鞭を見る。ガズンは驚きながら自分の手の電撃鞭に目をやった。
そんな二人を見下ろすパメラはファフニールとガズンに左手を向けて電撃を放とうとする。すると、パメラの右側からジャンプで同じ高さまで跳び上がったジャバウォックが現れてパメラに向かってデュランダルを振り下ろす。
ジャバウォックの存在に気付いたパメラは咄嗟に右腕でデュランダルを止める。勿論、電磁シールドを起動しているのでパメラにダメージは無かった。
「クソッ!」
「残念。言ったでしょう? 私達にはどんなに重い攻撃通用しないって」
パメラが笑いながらジャバウォックに言い放つと、パメラの後ろからパルメが姿を見せてジャバウォックに電撃を放った。
「ぐああああぁっ!」
体中に電気が走り、ジャバウォックは声を上げる。電撃を受けた体制を崩したジャバウォックは仰向けで地面に叩き付けられた。その姿を見たファフニールは驚き、慌ててジャバウォックの下に駆け寄る。
「大丈夫!?」
「あ、ああ、何とかな……」
体に僅かな痺れを感じながら体を起こすジャバウォックとファフニールは飛んでいるサンダーバード姉妹を見上げた。パメラとパルメは楽しそうに笑いながら二人を見下ろしている。
「アハハハハ! 空を飛んでいる私達に勝つなんて、いくら七竜将でも不可能なのよ」
「そうそう。無駄な抵抗はやめて投降しなさい? そうすれば楽に殺してあげてもいいわよ?」
「チッ! 調子に乗りやがって……」
ジャバウォックはデュランダルを拾い、サンダーバード姉妹を見上げながら立ち上がった。ファフニールもギガントパレードを両手でしっかりと握りながらパメラとパルメを見上げている。
二人がサンダーバード姉妹を見上げていると、突如彼女達の背後から跳び上がったガルバとミルバが現れて二人に襲い掛かった。
ドレッドキャット達に気付いたサンダーバード姉妹は素早く横へ移動してドレッドキャット達の飛び掛かりをギリギリでかわす。
「後ろから襲って来るなんて!」
「とんでもない馬鹿猫ねっ!」
後ろから奇襲を仕掛けられて事が気に入らなかったのかサンダーバード姉妹はガルバとミルバに電撃を放ち攻撃した。電撃は地面に着地したガルバとミルバに襲い掛かり、命中しそうになる。だが、ガルバとミルバの前にファフニールとガズンが飛び込み、二匹を電撃から守った。
「うあああああぁ!」
「ぐおおおおぉっ!?」
全身の痛みにファフニールとガズンの表情が歪む。電撃が治まると二人はその場に倒れ、しばらく動けなくなった。
「う、うう……」
「な、何だこりゃあ? こんな痛み、今まで感じた事がねぇ……」
初めて感電したガズンは全身の未知の痛みに混乱する。ファフニールは痛みに耐えながら必死に体を起こした。電撃を受けた二人にガルバとミルバが近づき、顔を擦りつけたりなどしてファフニールとガズンの痛みを少しでも和らげようとする。
サンダーバードじまいはファフニールとガズンの行動が理解できずにポカーンとしながら二人を見ている。
「何やってるのよ、あの二人?」
「わざわざ猛獣の盾になるなんて、頭おかしいんじゃないの?」
サンダーバード姉妹は飛んだままファフニールとガズンの行動を馬鹿にする。そこへジャバウォックがファフニールとガズンの前に移動して機械鎧の右腕をサンダーバード姉妹に向けて突き出す。そして後前腕部の装甲を動かして内蔵兵器の火炎放射器を出した。
「お前等には一生分からねぇさ」
そう言い放った瞬間、ジャバウォックはサンダーバード姉妹に向けて火炎放射器を撃つ。迫ってくる炎をサンダーバード姉妹は後ろに下がってかわした。
「お前等、大丈夫か!?」
サンダーバード姉妹が離れるとジャバウォックは警戒しながら後ろにいるファフニールとガズンに声をかける。二人は痺れの残る体を動かして何と立ち上がった。
「な、何とか大丈夫……」
「ああ、俺もだ……」
立ち上がる二人を見てとりあえず大丈夫だと感じたジャバウォックは離れているサンダーバード姉妹を睨んだ。
「……コイツは予想以上にキツイ戦いになりそうだな」
三人は遠くで空を飛びながら体に電気を纏わせるサンダーバード姉妹を見て呟く。ファフニールとガズンも鋭い目でサンダーバード姉妹を睨んだ。
ヴリトラ達と分かられてサンダーバード姉妹と戦闘を始めた。だが予想外のサンダーバード姉妹の実力に苦戦してしまう。三人は電気を操る姉妹にどう立ち向かうのだろうか。




