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機械鎧(マシンメイル)は戦場を駆ける  作者: 黒沢 竜
第三章~戦場に流れる鎮魂曲(レクイエム)~
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第二十九話  鎧を纏いし竜達 【石橋方面】

 再びストラスタ公国軍が攻めてきた。ヴリトラ達はストラスタ軍を迎え撃つために再び石橋に向かう。だが、ヴリトラ達が石橋に辿り着いた直後に村の隣にある大きな草むらから敵の別働隊が姿を現して村に向かった進軍して来た。敵の陽動作戦に引っかかってしまった七竜将と第三遊撃隊。だがその中でヴリトラは冷静さを失わずに各七竜将と遊撃隊に指示を出すのだった。

 石橋ではストラスタ軍の騎士が二人、馬に乗ってヴリトラ達のいる対岸へ向かって来る。それを見たヴリトラ達は敵の騎士達を見ながら武器を手に取り戦闘態勢に入った。先頭に立つヴリトラとジャバウォックは自分達に向かって来る騎士達に意識を集中し、相手が次にどう動くかを計算している。


「石橋の上じゃまともに動けないだろう・・・。ジャバウォック、また火炎放射を頼む」

「ああ!」


 ヴリトラに指示されたジャバウォックは機械鎧の右腕を向かって来る騎士達の方へ向け、前と同じように火炎放射器を出す。そして相手が火炎放射の射程内に入るとジャバウォックは炎を騎士達に向けて放った。

 騎士達は自分達に向かって放たれた炎を見ると、騎士剣を構えながら馬を走らせ続けた。


「あれが先遣隊の情報にあった炎です!」

「フンッ!あんな炎、我等の前では無力だ!」


 ストラスタ軍の騎士達はジャバウォックの出した炎を見て恐れる事無く冷静に対応する。騎士剣を前に向かって突きだすと、二人の騎士剣の刀身が突如オレンジ色に光り出した。すると次の瞬間、ジャバウォックの炎が騎士剣の刀身に吸い寄せられるように集まりだし、炎は騎士剣の刀身に纏われたのだ。それはまるで漫画やアニメに出てくるような炎の刀身を持つ魔法剣に見える。

 火炎放射の炎を刀身に纏わせて攻撃を凌いだ騎士達を見てジャバウォックとヴリトラは驚く。騎士達は馬を走らせて遂に石橋を渡り切りヴリトラ達のいる対岸に足を踏み入れたのだ。騎士達は対岸に辿り着いた直後に一番近くにいるヴリトラとジャバウォックに向かって炎を纏った騎士剣を振り下ろして攻撃する。二人は咄嗟に横へ跳んで騎士達の斬撃を回避し、森羅とデュランダルを抜いて構える。


「しまった、渡られたかっ!」

「やっぱり火の気を操る騎士だったか・・・!」


 自分達の陣地に敵を入れてしまったという失敗を痛感するジャバウォックとヴリトラ。馬に乗っているラピュス達も騎士剣や突撃槍を構えてストラスタ軍の騎士二人を見つめる。二人の騎士は自分達の周りを囲むヴリトラ達を見ても動揺を見せずに騎士剣を構える。既に刀身からは炎が消えて元の状態に戻っていた。


「フッ、前は我々の仲間を意図も簡単に撃退したそうだな?その時の借りを返させておらぞ?」

「既に対岸にいる我が部隊の兵達が石橋を渡り始めている。直ぐに此処になだれ込んで来るぞ?」


 ヴリトラ達を警戒しながら話すストラスタ軍の騎士達。ヴリトラ達が対岸の方を見ると、大盾を構えた重歩兵達を先頭にストラスタ軍の兵士達が石橋を渡り始める。ヴリトラ達が進軍してくる敵部隊を足止めしようとするも騎士達が石橋の前に立ち、行く手を塞いでいるため近寄れない。このまま何もしなければ敵部隊が石橋を渡り切ってしまう。


「さぁ、どうする?我等二人を倒して兵士達と戦いに行くか?無駄な事だ、我ら二人を倒しても既に我が部隊の戦力の半分以上が石橋を渡っている。もうこの勢いを止める事はできぬ!」


 隊長である騎士が勝利を確信するかのように言い放つ。すると突然森羅を構えていたヴリトラが構えるのを止めてニッと笑いながら隊長の騎士を見る。


「・・・アンタ、甘いな?」

「何?」


 突然のヴリトラの言葉に騎士は彼の方を向いて鋭い視線を向けながら訊き返す。隣にいる騎士もヴリトラの方を見るが、デュランダルを地面に刺して腕を組むジャバウォックに気付き、ジャバウォックの方へ視線を変えた。


「ヴリトラ、遂に使うか?」

「ああ。パティートンの村にいる敵の本隊が動き、俺達の前にいる敵軍の半分以上が石橋を渡ったのなら、使うさ」

「使う?何の事だ?」


 ヴリトラとジャバウォックの会話の意味が分からないストラスタの騎士達は二人を交互に見る。

 同じように二人の会話を聞いていたラピュスも不思議そうな顔を見せ、その両隣には馬から降りている無表情のラランと馬に乗り何かを期待するような笑みを浮かべるアリサが立っている。


「いよいよですね・・・!」

「・・・何が起きるの?」


 ヴリトラとジャバウォックを見ながら言うアリサとララン。二人に気付いたラピュスは不思議そうな顔で二人の顔を見る。


「・・・二人とも、これから何が起きるのか分かるのか?」

「はい、私とラランはジャバウォックさんから少しだけお話を聞きましたから」

「・・・敵を一瞬で倒す仕掛けだって」

「何っ?」


 敵を一瞬で倒す、その言葉を聞いたラピュスは耳を疑う。石橋に仕掛けてある物がどんな物なのかすら知らないラピュスはこれから何が起きるのか全く見当がつかないでいる。

 そんな姫騎士の会話が聞こえていないのか、ヴリトラとジャバウォックは目の前で馬に乗るストラスタ軍の騎士二人を見ながら余裕の表情を見せていた。騎士達はそんな二人を見てなぜか違和感を感じていた。自分達の方が戦力は多く、仲間達は石橋を渡ってこちらに向かっており、更に村には別働隊が奇襲を仕掛ける為に動いている。にも関わらず目の前の敵は余裕の表情を見せていたのだから当然と言える。

 隊長の騎士はヴリトラ達の余裕を少しでも削ろうと、奇襲作戦の事を話す為にヴリトラの方を見て笑った。


「フフフ。お前達、強がるのは止めろ、お前達に勝ち目はない!なぜならお前達の拠点があるトコトムトの村には我が軍の別働隊が向かっているからだ!直ぐにお前達の拠点は制圧され――」

「知ってるぜ?」

「・・・・・・は?」


 ヴリトラの口から出た予想外の言葉に騎士は思わず間抜けな声を出した。隣の騎士もボーっとヴリトラの方を見ている。そんな二人の反応を見ていたジャバウォックは必死で笑いを堪えている。村を奇襲せた事を目の前の傭兵の青年は知っている、その言葉が上手く理解出来ないでいた。騎士はハッと気が付きヴリトラを睨み付ける。


「知ってるだと?・・・口から出任せを言うな!一体どうやって我々の奇襲作戦を知ったと言うのだ!?お前達は私達と接触してからずっと此処にいたのだぞ?どうやって遠くにいる別働隊の事を知ったのだ!」

「そうだ!仮に情報を得たとしても戦力の殆どをこちらに向けているお前達はどうする事も出来ん!」


 隊長の隣にいた騎士もヴリトラを見て叫ぶように言い放つ。二人を見ているヴリトラは右手で持っている森羅をクルクルと回しながら笑い余裕の態度を崩さずにいた。ヴリトラ達はリンドブルムとオロチのおかげで奇襲作戦機に気付き、村にも戦力を残してきてある。それを知らずにヴリトラの余裕の顔を見ている二人の騎士は次第に苛立ちを感じていく。

 目の前の騎士達を挑発しながらヴリトラはチラッと石橋の方を向く。既に敵軍の兵士達は半分以上石橋を渡っており、もうすぐ対岸に辿り着く所まで来ていた。ジャバウォックも石橋を見て小さく頷き、ラピュス達は不安を抱えながらもヴリトラ達を見て武器を構えている。

 そんな中、ヴリトラは左手を腰に付けているバックパックの中に入れて何かを取り出す。それは手で握るタイプの形をしたプラスチック製のスイッチだ。スイッチの安全装置を切り、親指をスイッチの上に置くヴリトラはストラスタ軍の騎士達をチラッと見てこう言った。


「俺達の住んでいた所にこんなことわざがあるんだよ。・・・『石橋を叩いて渡る』」


 そう言った瞬間、ヴリトラはスイッチを押した。すると、石橋に仕掛けておいた装置全てのランプが青く光りだし、一斉に爆発した。爆発によって石橋に衝撃が走り石橋は大きく揺れた。


「な、何だ!爆発!?」

「石橋が揺れてるぞ!?」


 石橋の上にいたストラスタ軍の兵士達が突然揺れ出した石橋と爆発に驚き周囲を見回す。橋の上には部隊のほぼ全員がおり、突然の異変に足を止めて騒ぎ出す。そしてその直後に石橋が大きな音を立てて真ん中から崩れ始めたのだ。

 突然崩れ出した石橋にストラスタ軍の動揺は更に激しくなる。真ん中から騎士に向かって崩れ出す石橋に兵士達は自分達の立ち位置から近い方向の岸へ向かった走り出す。だが、全員が崩れている事に気付かずその場に立ち竦んでおり石橋の真ん中にいた兵士達は気付いていない兵士達に行く手を遮られて動けなかった。そうしている間にも石橋は真ん中から崩れていき石橋の上にいる兵士達は次々に川へ落ちていく。

 逃げられずに石橋の崩壊に巻き込まれ、叫びながら川へ落ちていく兵士達。しかも兵士達が全員が鎧を身につけており水中で思うように動けずに沈んで行く者ばかりだった。自分の身を守る鎧が裏目に出てしまったのだ。


「ど、どうなっているんだ!?どうしていきなり石橋が崩れた!」

「た、隊長!石橋を渡っていた我が軍の兵達のほぼ全員が川に落下しました!」


 背後から聞こえた爆音に振り返ったストラスタ軍の二人の騎士は後ろで崩れていく石橋を目にし、ただ驚く事しか出来なかった。さっきまで何ともなかった石橋が突然爆発音とともに崩れていき自分達の仲間の兵士達が川に落ちていってしまったのだから当然と言える。

 だが驚いているのはストラスタ軍だけではない。ヴリトラとジャバウォックの後ろにいたラピュス達も同じだった。突然石橋が爆発してストラスタ軍の兵士達を川へ落したのだ。これにはラピュスは勿論、ジャバウォックから話しを聞いていたラランとアリサも驚きを隠せなかった。


「な、何だ、今の爆発は・・・?」

「どうしていきなり石橋が爆発したんですか?」

「・・・これが仕掛け?」

「そうだよ」


 ラランの言葉を聞いたヴリトラがラピュス達の方へ向いて答える。


「実はトコトムトの村に来た最初の日にあの石橋に火薬を仕掛けておいたんだ」

「火薬を?」

「ああ、高性能のプラスチック爆弾をな」

「プ、プラスチック、バクダン?」

「俺達はC4とも呼んでる。このスイッチを押す事でそのC4爆弾を爆発させたんだ。そん爆発であの石橋が崩れたって訳。しかもニーズヘッグが崩れやすい所にセットしたから少量で石橋を崩す事が出来たんだよ」


 ヴリトラは自分の押したスイッチをラピュス達に見せながら説明をする。だがラピュス達は話しを聞いても、ヴリトラ達の世界の物であるプラスチック爆弾の仕掛けの事を殆ど理解出来なかった。

 そんなヴリトラ達が聞こえていないのか、先に石橋を渡っていたストラスタの騎士達が石橋の方を見ていた。煙が上がり、石橋は完全に崩れて岸に隅に崩れた石橋の一部があるだけだった。だがその崩れた石橋の一部に落下を免れた数名の兵士と重歩兵の姿があり、生き残った兵士達が騎士達と合流する。


「大丈夫か?」

「は、はい・・・ですが、生き残ったのは我々だけの様で残りは川に落ち、まだ対岸に残っている者達が・・・」

「くっそぉ~!一体どうなってやがる!」


 突然崩れた石橋にまだ驚いている生き残りの兵士達。体勢を立て直して周りのヴリトラ達を見て戦闘態勢に入る。数は騎士が二人に生き残った重歩兵が四人、そして槍と剣を持った兵士が四人の合計十人だけだった。

 生き残った兵士達が騎士達と合流した場面を見たヴリトラ達は再び武器を取り構え直す。


「これで兵力を削る事が出来たって訳だ・・・」

「石橋を叩いてじゃなく、爆破して渡る、になっちまったな」


 生き残って自分達を見ている敵兵を見て真剣な顔をするヴリトラと洒落た事をいう様に小さく笑うジャバウォックは森羅とデュランダルを構えた。ラピュス達も驚くのを止めて目の前の敵に集中し武器を取る。

 そんな中、突撃槍を構えていたラランが崖の方を見ると何かを見つけた。崖の方から小さな黒い点がこちらに向かって来ているのだ。しかもその黒い点を空を飛んでおり、徐々に大きくなっていった。


「・・・あれ何?」

「え?」


 声を掛けられたアリサがラランの見る方を向いた。周りにいるヴリトラ達やストラスタ軍もラランの言葉に気付いて彼女の向いている方に視線を向ける。次第にその物体が形を変えていきヴリトラ達の目でも何なのかを確認できる位にまで大きくなった。その物体がヴリトラ達の頭上までやって来ると、ラピュス達第三遊撃隊やストラスタ軍の兵士達は目を疑った。なんとそれはリンドブルムを背負い、愛用の戦斧である斬月を持ったオロチだったのだ。


「待たせたな・・・」

「遅れてゴメン!」

「お、お前達・・・空を飛んでるのか!?」


 ラピュスや周りの騎士達は目の前で宙に浮いているオロチを見て驚く事しか出来なかった。何しろ目の前で人間が翼も無しに空を飛ぶなんて、ファムステミリアではまず考えらない事だからだ。オロチは周りで自分を見上げて驚いているヴリトラとジャバウォック以外の者達を見回して自分の脚を指差す。


「これのおかげだ・・・」


 オロチは自分の両脚の機械鎧を指差す。ラピュス達はオロチの機械鎧の踵部分から炎が轟音を立てながら噴き出ているのを見て更に驚く。オロチの機械鎧には飛行用の小型ジェットブースターが内蔵されており、連続で一時間ほど飛ぶ事が出来る物だ。七竜将で偵察兵の立場にある彼女にとっては都合の良い機械鎧と言える。

 周りがオロチの機械鎧に目をやっているところをリンドブルムがオロチの背中から飛び下りて着地する。そのままヴリトラの下へ走り、合流するとホルスターからライトソドムとダークゴモラを抜く。


「此処に来る時に石橋が爆発したけど、C4を使ったみたいだね?」

「ああ、敵の半分以上が渡ったところで爆破したよ」

「・・・それなら僕が救援に来なくても大丈夫だったんじゃないの?」


 石橋を爆破した事で兵力の半分以上を失ったストラスタ軍を見てリンドブルムはヴリトラを見ながら言った。そんなリンドブルムを見てヴリトラは小さく笑って口を開く。


「そんな事ないさ。もしかしたら敵がまだ何処かに兵を隠している可能性だってある、それを計算してお前を呼んだんだよ」

「本当かなぁ~?」


 ヴリトラを見上げながら疑うような視線を向けるリンドブルム。

 そこへ宙に浮き続けていたオロチが会話をしているヴリトラとリンドブルムの方を向いて会話に割り込んできた。


「おい、私はもう村の方へ行くが、構わないな・・・?」

「ん?・・・ああぁ!そうだったな?ワリィ、スッカリ忘れてた・・・」

「はぁ・・・。後は任せたぞ・・・」


 オロチの事をすっかり忘れていたヴリトラは苦笑いをしながらオロチに謝る。オロチも呆れて溜め息をつくとブースターの火力を上げて上昇し、村の方へ飛んで行った。村へ向かったオロチを見てライトソドムを持ったまま手を振るリンドブルム。そして直ぐに戦いに意識を切り替えて後ろに軽く跳び、ストラスタ軍から距離を作って近くにいたラランの隣まで移動した。


「ララン、大丈夫?」

「・・・うん、大丈夫」


 突然自分の隣まで来て微笑みながら安否を確かめるリンドブルムに少し戸惑いながらも頷くララン。それを確認したリンドブルムは一度頷いてストラスタ軍の方を向く。ラランは突撃槍を構えながら同じように敵軍の方を向いた。するとラランが敵の方を向いたままリンドブルに静かに問いかける。


「・・・オロチの機械鎧って空を飛ぶ事が出来るの?」

「それだけじゃないよ?他にも装備されてる武器がある」

「・・・どんな?」

「・・・それはこの戦いが終ってからね?」


 そう言って愛銃二丁を構えながら声を低くするリンドブルム。視線の先にはストラスタ軍が武器を構えて自分達を見つめている姿がある。だがその表情には驚きと警戒心が現れていた。


「な、何なんださっきの女?空飛んでたぞ?」

「何で人間が空飛べるんだよ・・・?」

「アイツ、本当に人間か?魔女じゃないのか?」


 ストラスタ兵達が突然現れて村へ飛んで行ったオロチに動揺を隠せずにいた。突然石橋が爆発して仲間を大勢失ってしまった事に続き、空を飛んで現れた敵を目にしたのだからそれは当然と言える。

 そこへ隊長の騎士が後ろで動揺している兵士達の方を向き声を掛けた。


「動揺するな!空を飛ぶ女はもういない、残っているのはたった数人の騎士と女子供だけだ。それに別働隊が敵拠点を制圧すれば我らの勝利は確実となる、それまでにコイツ等を片付けるぞ!」


 隊長の声を聞いた兵士達は別働隊の事を思い出して落ち着きを取り戻した。どうやら別働隊が拠点を制圧すれば自分達の方に救援に来ると勝機を感じたようだ。ヴリトラ達はただ黙ってストラスタ兵達の会話を聞いていた。そして隊長の騎士は騎士剣を振り上げて声を上げる。


「一気に片を付けるぞ!かかれぇ!」


 隊長は馬を走らせてヴリトラ達に突っ込んでいく。後ろにいたストラスタ兵達も武器を構えて走り出す。

 ヴリトラ、リンドブルム、ジャバウォックの三人は少人数で向かって来るストラスタ兵達をジッと見つめて武器を構ると静かに声を出した。


「少人数で未知の戦力がある敵に正面から突っ込んで来るとは、大した度胸だな・・・」

「ああ、だが愚かな選択だ・・・」

「勇気と無謀を履き違えてる・・・」


 先頭を走る騎士が三人の数m前まで来ると、三人は同時にジャンプしてストラスタ軍の真上に移動した。


「何!?」


 いきなり高くジャンプした七竜将に驚き、馬を止めて空を見上げる騎士。跳び上がった三人はストラスタ軍の真後ろまで移動し、直ぐに振り返って部隊の一番後ろにいるストラスタ兵に攻撃を仕掛けた。ヴリトラが森羅で槍を持った兵士を背後から斬り捨て、ジャバウォックもデュランダルで兵士二人を薙ぎ払う。攻撃を受けた兵士達は短い悲鳴を上げて絶命する。


「う、うわあぁ!」

「ば、化け物だぁ!」


 背後に回りこんで攻撃を仕掛けてくる七竜将に驚き態勢を崩すストラスタ兵達。先頭に立っていた隊長の騎士も驚きて態勢を組み直させようとするが、前から近づいてくる気配に気づいて向き直した。前からは馬に乗ったラピュスが騎士に向かって来ており、騎士もそれに気付いて態勢を騎士剣を構える。ラピュスの騎士剣が隊長に向かって振り下ろされ、隊長もその攻撃を騎士剣で防ぎ、二人の騎士剣は高い金属音を上げて交わった。


「クゥ!貴様等、あの者達は何者なのだ・・・?」

「教える必要はないだろう?それよりも投降しろ!この戦力差では貴公等に勝ち目はない、兵を無駄死にさせるだけだぞ?」

「姫騎士ごときが舐めるな!我等は誇りを胸に戦っている!敵に情けを掛けられるくらいなら戦死の道を選ぶ!」


 ラピュスの情けを聞き入れる事なく騎士剣を払い反撃する隊長。ラピュスはそんな隊長を鋭い視線で見つめながら応戦した。周りではストラスタの騎士と剣を交えているアリサや兵士と戦っているララン。そして重歩兵の相手をしている遊撃隊の騎士達の姿もあった。

 重歩兵は馬に乗っている騎士の攻撃を大盾で全て防いでいた。離れた所では別の重歩兵が馬から降りている騎士に大盾を構えたまま体当たりをして騎士の体勢を崩していた。そして体制の崩れた騎士に剣を持ったストラスタ兵が近づいて来る。


「覚悟ぉ!!」


 剣を振り上げて騎士に止めを刺そうとするストラスタ兵を見て、体勢を崩した騎士は目を閉じて覚悟を決めた。すると突然銃声が響き、兵士のこめかみに銃創が生まれる。兵士は剣を振り上げたまま横に倒れて動かなくなった。騎士は目を開けて目の前で死んでいる兵士を見て驚いた。そこへリンドブルムが駆け寄って騎士に声を掛ける。どうやらさっきの銃声はリンドブルのもののようだ。


「大丈夫ですか?」

「あ、ああ・・・。大丈夫だ、すまない」


 立ち上がり、落ちている自分の騎士剣を拾った騎士はリンドブルムを見て礼を言う。それを見たリンドブルムはニッと笑い、騎士から離れて別の敵と戦う為に走り出す。自分を助けてくれた幼い少年を騎士は只々見つめており、なぜあんな小さな子が傭兵などをやっているのかと感じていた。

 馬に乗った遊撃隊の騎士が重歩兵相手に手こずっていると別の重歩兵も合流して騎士の動きを封じ始める。身動きの取れない騎士は馬に乗りながら重歩兵のハンドアックスによる攻撃を防いだ。次第に動ける範囲も狭くなり、もうダメかと思った瞬間、デュランダルを持ったジャバウォックが跳んでやって来た。いきなり近くに現れたジャバウォックに驚いた二人の重歩兵は目標を騎士からジャバウォックに変えて彼を左右から挟んで攻撃しようとする。だがジャバウォックは右手に持っていたデュランダルを左手に持ち替えて左にいる重歩兵を攻撃して大盾を弾いた。そして右にいる重歩兵の方を向くと、右腕の機械鎧を動かす。

 機械鎧の肘近くの装甲が開き、そこから小さなブースターの様な物が姿を見せる。右腕を引くとブースターが点火し、炎が吹き出てきた。その力が加わった状態で重歩兵に右ストレートを撃ち込んだ。


「ジェットナックル!!」


 右ストレートを撃ち込みながら叫ぶジャバウォック。重歩兵は咄嗟にジャバウォックのストレートを大盾で防ごうとしたが、ストレートが大盾に触れた瞬間にジャバウォックの拳は大盾ごと重歩兵を殴り飛ばしたのだ。

 大盾を挟んだ状態でも全身甲冑の重歩兵に大打撃を与えたジャバウォックのパンチ。重歩兵は全身に伝わる衝撃と痛みに声を漏らして大きく後ろに飛ばされた。重歩兵は地面を擦るながら飛ばされて行き、約数m先で止まり仰向けのまま動かなくなる。周りでその光景を見ていた騎士や重歩兵も驚いて固まる。ジャバウォックが右手の拳を解くとブースターを機械鎧の中にしまった。


「俺のジェットブースターの力が加わった拳の前じゃ、デカい盾や鎧は無意味だぜ?」


 笑いながら遠くで倒れていう重歩兵に言い放つジャバウォック。そしてゆっくりと振り返り、大盾を弾かれた重歩兵の方を見る。重歩兵が目の前に立つ巨漢の傭兵を見て完全に怯えており、その場に両膝を付いて投降した。

 他にもラランやアリサと戦ってストラスタ兵達は皆倒されたり、投降したりなどして動かなくなっていた。やはり仲間の殆どを失い、たった十人で七竜将と第三遊撃隊に戦いを挑むのは無謀だったのだ。残っているのは隊長の騎士だけ。隊長はラピュスと未だに剣を交え続けていた。


「これ以上の戦いは無駄だ!兵士達も皆私の仲間達にやられ、投稿している。聞こう一人がこれ以上戦う必要はない筈だ!」

「ええい、黙れ黙れ!私達は誇り高きストラスタ公国の戦士だ、例えどんな状況であっても自ら剣を捨てるなど、有ってはならないのだぁ!」

「チッ!この分からず屋めっ!」


 自分達は不利だという事を分かっているにも関わらず負けを認めようとしない隊長にラピュスも怒りをぶつける。そんな時、突然村の方から大きな爆発音が聞こえてきた。


「な、何だ!?」


 爆発に驚いたラピュスと隊長の騎士が町の方を向く。村の方から煙が上がっており、ラピュス達に緊張が走る。そんな時、ヴリトラがラピュスの隣まで近づいて村を見つめる。


「ああぁ、あっちも終わったようだな」

「え?終わった?」

「ニーズヘッグ達が奇襲して来た敵を倒したんだよ」

「何!?」


 ヴリトラの話しを聞いた隊長が声を上げる。当然、敵であるヴリトラの言葉を鵜呑みにする筈がない。


「貴様!でたらめを言うな、奇襲部隊は百人以上の大部隊だ。負けるがない!」

「いいや、負けたんだよ。・・・ホラ」


 隊長の方を見る事なく村の方を指差しヴリトラ。指差す方を見ると、村の上空で機械鎧のブースターで空を飛んでいるオロチとその背中に乗っているファフニールが笑って手を振っていた。そんな二人を見てリンドブルムは笑いながら遠くにいる二人に手を振り返す。


「本当だ、勝ったみたいだね」

「ああ」


 ヴリトラも笑って頷く。村の上でさっき見た空飛ぶ女の姿を確認した隊長は突然持っていた騎士剣を落とした。敵が制圧目標である村の上で笑っている、その状況を見れば、例え往生際の悪い騎士でも認めざるを得なかった。自分達は負けたのだと。


「バ、バカな・・・本当に負けたと言うのか?・・・二百人以上の兵力を持つ我々が、たった数人の小隊に・・・」

「・・・ああ、今回は相手が悪かったな?」


 馬から降りて両手両膝を地面に付く隊長を見てヴリトラは静かに呟いた。

 僅か十数人の傭兵と騎士による小隊で二百人以上の大隊と戦い勝利した。そして石橋のヴリトラ達だけではなく村のニーズヘッグ達も激しい激闘を繰り広げたのであった。


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