第二話 血塗れの鎮魂曲と光の扉
コロンビアの聖地の隠れ家制圧作戦の翌日、コロンビア州は麻薬密売組織の話題で持ちきりだった。
テレビや新聞、ラジオでもコロンビア州全域にコロンビアの聖地が警察によって一網打尽にされたと告知され、街は大騒ぎになっている。中には麻薬の密売組織が近くで身を潜めていた事を知り恐れ者、一網打尽になれて喜ぶ者もいた。
しかし、ニュースではコロンビアの聖地を捕らえ、壊滅させたのは警察となっており、七竜将の名は一度も出てこなかった。それもその筈だ、警察が捕まえるのに困難して傭兵を雇って彼等にやらせたという事が明るみに出れば警察の沽券に関わる。 警察はマスコミや新聞記者には自分達が逮捕したと嘘の情報を伝えたのだ。例え逮捕できなく警察のプライドを捨てて七竜将に依頼していたとしても、世間には知られたくないようだ。
「これが今回の報酬だ・・・」
「確認させてもらいますよ?」
コロンビア州の警察署の署長室で来客用のソファーに署長と思われる初老の男と上が長袖にその上からジャケットを着て長ズボンをはいている、私服姿のヴリトラがテーブルを挟み向かい合っている。テーブルの上には署長が報酬と言ったアタッシュケースが真ん中に置かれた。署長の後ろにはスーツ姿の刑事と制服姿の警官が立っており、ヴリトラの後ろでは長袖と袖なしのジャケットを着て長ズボンをはくジャバウォックと長袖に女子高生は着るようなベスト、そしてミニスカートをはいたジルニトラが立っている。
刑事と警官が仏頂面でヴリトラ達を見ている一方で、ジャバウォックとジルニトラは上機嫌な顔で署長達を見ている。ヴリトラがテーブルの上に置かれているアタッシュケースを開けて中を見ると、中には黄金色に輝く金の延べ板がビッシリとアタッシュケースに詰められていた。延べ板には1kgと刻まれており、それを見たヴリトラは頷いた後にアタッシュケースを閉じてニッと笑いながら署長の方を向く。
「・・・確かに五万ドルあるのでしょうね?」
「疑うのかね?」
報酬通りの金額なのか署長に尋ねるヴリトラ。署長が低い声で訊き返すと、ヴリトラは表情を鋭くしてソファーにもたれる。
「そりゃあ、我々の存在を隠して貴方がたがコロンビアの聖地を逮捕したとマスコミに報道させたんですから。そんな警察を信じろと言う方が無理かと?」
「・・・そう言う君等こそ、コロンビアの聖地のメンバーを殆ど殺してしまっていたではないか。おかげで他の密売組織の情報を殆ど手に入れられなかったのだぞ」
「貴方がたは一掃してもいいと言いましたよ?抵抗しない者は生かして、抵抗して来た者を手に掛けたんです。正当防衛では?」
ヴリトラの言葉に署長は言い返せずに悔しそうな顔をして黙り込む。後ろにいる二人も同じような顔だった。ジャバウォックとジルニトラは黙ってはいるが腕を組んでジッと黙り込む署長達を見つめている。
いくら自分達が傭兵で依頼されたとはいえ、警察だけに都合のいい様に話しを進められるのは彼等にとって面白くない結果だ。不満になり、警察を疑うのも当然と言える。
「我々傭兵は仕事を依頼されて成功した時に報酬を受け取る。だが、何処の組織にも属さない我々がどんな目に遭ってもそれは自己責任。つまり傭兵は組織の者達にとっては捨て駒に過ぎない。それは我々も承知していますが、雇った以上は仲間として扱いをしてもらわないと困りますね?傭兵を自分達の名誉を守る為の道具と思っていると、後で痛い目を見ますよ」
署長達に忠告をしたヴリトラは立ち上がってテーブルの上のアタッシュケースを取り、立ち上がって署長室のドアの方へと歩いて行く。すると、ヴリトラは立ち止まってもう一度署長達の方を向いてニッと笑う。
「それじゃあ、失礼します」
ヴリトラは軽く挨拶をして署長室のドアを開けて退室する。それに続いてジャバウォックとジルニトラも署長達を見てニヤリと笑い、署長室を後にした。残った署長達はヴリトラ達の出て行ったドアを恨めしそうに見つめている。
アタッシュケースを持って警察署の廊下を歩いているヴリトラとその後ろから後をついて行くジャバウォックとジルニトラ。廊下を歩いている三人を周りでは警察官達が廊下の端で黙って見ている。
「おい、アイツ等なのか?」
一人の警察官が隣にいる別の警察官に小声で尋ねると、もう一人の警察官も小声で答える。
「ああ、そうだ。全員が機械鎧兵士の少数傭兵隊、七竜将。構成は男が四人と女が三人になっていて、その殆どが軍隊や民間警備会社に所属していた連中らしいぜ?」
「マジかよ?あの大男以外の奴は全員がガキじゃねぇか」
「確かにな。奴らの平均年齢は二十一だって話しだ。多分、今存在している傭兵団の中で一番平均年齢の若い連中だぜ?」
警察官が歩いて行くヴリトラ達を見ながら小声で話を続けている。
その会話が聞こえていたのか、ヴリトラ達は歩きながら小声で話している警察官二人を目だけを動かして見つめる。それに気づいていないのか、警察官二人は小声で話を続けた。
「それと、これは本当かどうか分かんねぇが、アイツ等、七人で日本の陸上自衛隊の二個中隊並みの戦力があるんだとよ」
「はぁ?それは流石に嘘だろう」
「俺も最初はそう思ってたんだけどなぁ・・・でもアイツ等、昨日七人でコロンビアの聖地を壊滅させちまっただろう?その話を聞いたら、本当に思えてきてよぅ・・・」
警察署から出て行くヴリトラ達を見て警察官達は驚きの顔を見せている。周りから驚き、もしくは恐ろしさのある視線を向けられながらもヴリトラ達七竜将は傭兵として生き続けてきた。だか、彼等は周りの視線を一切気にする事無く、依頼があれば世界中を回っている。彼等は世界を放浪する傭兵隊なのだ。
警察署の外では二台の黒いフルサイズバンが警察署の前で停まっており、そのバンの前でリンドブルム達が警察署から出てきたヴリトラ達を見つけた。彼等も全員私服を着ており、リンドブルムはジャケットを着て半ズボンをはき、ニーズヘッグはワイシャツの上に上着を着てジーパンをはいている。オロチは長ズボンに胸元を大きく開けた服の上にジャケットを着ており、ファフニールは女子通学生の着ているセーラー服の様な服を着ている。
「おかえり~!」
リンドブルムは戻って来たヴリトラ達に手を振り、ヴリトラも手を振りながら持っているアタッシュケースを見せて笑っている。
「今回の仕事もこれで終わりだね」
「ああ、久しぶりにバカンスとしゃれ込みたいよ」
「いいね、いいねぇ!」
アメリカでの仕事が終わりバカンスを楽しみたいとはしゃぎだすヴリトラとリンドブルム。そんな二人を見てジャバウォック達は肩を落として溜め息をつく。
「お前等、バカンスは物資の補充と報酬を現金に換えて来たからだろう?」
「ああ。気を抜くのはもう少し後にしな」
浮かれている二人を注意するジャバウォックとニーズヘッグ。そんな二人の方を向いてめんどくさそうな顔を見せるヴリトラとリンドブルム。
四人のやり取りを見ていたジルニトラが手を叩いて全員の注目を集めて話しを戻した。
「はいはい。それじゃあまずは昨日使った弾薬と食料の補充、あと機械鎧の部品調達に報酬を銀行に預けに行くこと。これでいいわね?」
「お~!」
話しをまとめたジルニトラを見てファフニールが手を上げて返事をする。オロチは黙ったまま頷き、ジャバウォックとニーズヘッグも頷く。騒いでいたヴリトラとリンドブルムも渋々頷いた。
それから七竜将は予定通り、弾薬と食料の補充に向かい、自分達の機械鎧のメンテナンス用に道具や予備部品を特別なルートで補充した。そして彼等は最後に今回の報酬を銀行に預ける為にコロンビア州を出て別の州へと向かった。
別の州へ向かう為に、七竜将達の乗る二台のバンは高速に入った。トンネルを潜る二台のバンは縦一列に走り、前のバンにヴリトラ、リンドブルム、ジャバウォック、オロチが乗っており、後ろの二台目にニーズヘッグ、ジルニトラ、ファフニールが乗っていた。一台目のバンをヴリトラが運転し、助手席にリンドブルムが乗っている。後ろの座席ではジャバウォックとオロチが並んで座っている。更に二人の後ろには座席が無く、空いたスペースには武器や食料、弾薬や旅に必要な物資が沢山積まれてあった。
「・・・もう少しで高速を抜けるな」
「早く報酬を預けて、何処かへ旅行に行こうよ」
「ハハハ、だな」
ヴリトラとリンドブルムは笑いながら銀行へ行った後の事を話している。その後ろではやれやれと言いたそうな顔で苦笑いをしているジャバウォックと腕を組んで呆れる様な顔をしているオロチの姿があった。
「まったく、そうやって仕事以外の時にヘラヘラしているのだから、仕事の時は真面目にやってもらいたいものだな?」
「んん?・・・失礼だな、俺達は仕事はいつも真面目にやってるぜ?なぁ、リブル」
「そうだよ。て言うか、オロチが真面目すぎるんだよ」
「何?」
「おいおい、この運転中に揉め事を起こさないでくれよ?」
リンドブルムがヴリトラの言葉に同意し、オロチが生真面目すぎるとつっかかる。それを聞いたオロチは眉をピクリと動かして反応した。
オロチの隣で話を聞いていたジャバウォックが空気を読み二人を宥めて落ち着かせた。その時、カーナビから突然着信音が聞こえてきて四人はカーナビの方を向く。
助手席に座っていたリンドブルムがカーナビのスイッチを押すと、カーナビの画面にジルニトラの顔が映った。実はこのバンのカーナビはテレビ電話にもなっており、繋がっている車同士でカーナビの画面を見ながら連絡を取り合える物なのだ。
「お~い、そっちの調子はどう?」
「なんだ、ジルじゃないか。どうしたの?」
リンドブルムが画面を覗き込んで何の用か尋ねると、ジルニトラはニッと笑いながら答えた。因みにさっきのリブルや今のジルというのはリンドブルムとジルニトラの愛称で、仕事の時以外は愛称を持つ者をそう呼んでいるのだ。
「いんにゃ、これといって用は無いんだけど、アンタとヴリトラが『もうすぐ旅行に行ける~』とか言って浮かれてオロチに注意されてるんじゃないかなぁ、て思って連絡を入れただけ」
「まさにお前の言ったとおりだったぞ」
後部座席からオロチが顔を出して画面に映るジルニトラにさっきまでの出来事の内容を説明する。すると、ヴリトラとリンドブルムはニッと笑い、ジルニトラも笑い出した。
「アハハハハ、やっぱりそうだったんだ。相変わらずねぇ二人とも」
予想通りの事が起きていた事を聞いてジルニトラは爆笑する。ジルニトラと一緒に乗っているニーズヘッグとファフニール、そしてオロチ以外の三人も笑い出した。二台のバンの中に男女の笑い声が響き渡った。
少しして笑いも収まった頃、ヴリトラは画面に映りジルニトラを真面目な顔で見ると、前を向いて運転に集中する。
「ところで、ジル。頼んでおいた事は分かったか?」
ヴリトラの真面目な顔と声にジルニトラも真剣化表情に戻って頷く。それを見ていたリンドブルム達もフッと表情を鋭くする。さっきまで笑い声に包まれていたバンの中が重い空気に変わった。恐らくジルニトラ達の乗っている晩も同じようになっているだろう。
「うん。アンタに頼まれてあたしとニーズヘッグで調べてみたわ。そしたらアンタの言うとおり、アンタの見た甲冑の男、ジークフリートの甲冑についていたマーク、あの組織の物だったわ」
「やっぱりそうか・・・」
「ええ・・・」
頷くジルニトラを目だけ動かして見つめるヴリトラは再び運転に集中し、前を見ながらゆっくりと口を動かした。
「・・・『ブラッド・レクイエム社』」
「ブラッド・レクイエム、通称BL社だね?」
ヴリトラの隣で会社の名前らしき名を口にするリンドブルム。その名を聞いてジャバウォックとオロチも鋭い顔をして黙り込む。
そこへ画面の向こうからニーズヘッグの声が聞こえてきた。ニーズヘッグは運転している為、画面には移らず、声だけが画面から発せられる。そして助手席に座っているジルニトラの手にはジークフリートの肩に付けられていた赤い女の横顔のマークが描かれた資料があったのだ。
「BLは自分の社の傭兵、しかも機械鎧兵士を派遣して犯罪やテロに武力を提供し資金を得ている悪名高い傭兵会社だ。過去には人身売内や暗殺なども引き受けており、政府も恐れていた組織。活動資金は莫大で政府のお偉いさんともつながりがあるって話だ。ところが一年前、突然社長とBLに所属している機械鎧兵士全員、そして主要の科学者達が一斉に姿を消した。しかも会社の財産、機械鎧に必要な材料と機材なんかも丸ごと全部な。残ったのは何も知らない一般社員だけ」
ニーズヘッグの説明を黙って聞いているヴリトラ達。その中でヴリトラの頭の中にジークフリートの横顔が浮かぶ。アーメットで素顔は見えなかったが、その兜の下にはとてつもない殺気と悪意が隠されていた事を初めて会ったあの時に直感していたのだ。
ブラッド・レクイエム社の説明が終ると、二台目の後部座席に座っていたファフニールが体をのり出して助手席のジルニトラに声を掛ける。
「ねぇ、ジル。あの事は話さなくていいの?ほら、そのジークフリートって人があの港で何をしていたのかって事」
「あぁ、そうだったわね」
「アイツが昨日港にいた理由も分かったのか?」
画面から聞こえてくるヴリトラの声を聞き、ジルニトラは持っていた資料を見て説明をする。ファフニールも後部座席からその資料を覗き込んだ。
「アイツの爆破した倉庫をこっそり調べてみたの。殆んど炎で燃え尽きちゃってたけど、完全に燃えきらずに残ってた物があってね。それを調べたのよ」
「それで?」
「アイツが倉庫で探していたのは何かの設計図みたいね」
「設計図?」
ジークフリートが倉庫で探していた物が設計図だと聞かされてヴリトラは不思議の思う。
なぜ密売組織の所有する倉庫に設計図があるのか、そしてどうして設計図なんて物をコロンビアの聖地の連中が持っていたのか、その理由が分からない。ヴリトラを始め、リンドブルム達も考え込んでいた。
「実はあの時、コロンビアの聖地の連中は海外の兵器会社から、ある設計図を別の兵器会社に密輸する依頼を受けていたのよ」
「設計図を密輸?」
画面から聞こえてくるジルニトラの声を聞き、リンドブルムは小首を傾げる。
「その設計図の書かれている物は法律上、厳しい手続きをして政府の承諾を得ないといけないのよ。そして更に大金を送料として支払わなければならない」
「そこまでしないと海外に持ち出せない物か・・・」
ジャバウォックが腕を組みながら画面に向かって声を掛け、映っているジルニトラも頷いた。
ジルニトラは持っていた資料を後部座席にいるファフニールに手渡してカーナビの画面の視線を向ける。すると、少し低い声を出して顔を画面に近づた。
「それが何の設計図だか分かる?」
ジルニトラの質問に画面に映るリンドブルム、ジャバウォック、オロチが首を振る。周りにいるニーズヘッグ達も黙っている。どうやら誰も分からないようだ。
誰も答えが分からないと判断したジルニトラは画面から顔を離し、腕を組みながら答えた。
「・・・メトリクスハートよ」
「何だって?」
メトリクスハート、その名を聞いたヴリトラは驚く。勿論リンドブルム達も驚いていた。
メトリクスハートは機械鎧の動力、機械鎧兵士の使っている武器の心臓部などにも使われている半永久発電装置。作り方の書かれた設計図は政府に認可された会社だけが持つことを許されており、他社や一般人に無断で渡す事、公開する事は法律上、禁じられている。不法な目的で使用されたり、金儲けの道具として使われることを防ぐ為だからだ。
「あの時、ジークフリートが倉庫で手に入れたのはメトリクスハートの設計図ってことか・・・」
「多分ね。それ以外にコロンビアの聖地が持っていた設計図の中で重要な物は無かったみたいだから」
ジークフリートが倉庫で探していた物がそのメトリクスハートの設計図だと、そして自分のいた形跡を残す為に倉庫を爆破したと考えるヴリトラ。だが、それ以外にヴリトラには腑に落ちない点がある。
運転をしながらヴリトラは考えた。なぜ、一年前に行方を眩ましたBLの機械鎧兵士であるジークフリートが突然姿を現してメトリクスハートの設計図を盗んだのかという事だ。
「でもどうして行方不明になっていた機械鎧兵士が突然姿を現したの?」
リンドブルムも同じことを考えていたのか、運転をしているヴリトラに尋ねた。ヴリトラは右手をハンドルから離し、前髪を直しながら首を横に振る。
BL社は社長と幹部、機械鎧兵士が行方をくらました後に倒産し、残った一般社員達はそれぞれ職探しの為に世界中へ散っていった。その僅か一週間後に機械鎧兵士の一人であるジークフリートが姿を現したのだ、ヴリトラは何かのまえぶれと考えている。
そして、ジークフリートの言葉が頭の中を過った。
(お前達七竜将とはまた会う事になるだろう。そう、此処とは違う世界でな)
(アイツは確かにそう言った。違う世界、どういう事なんだ?)
頭の中でジークフリートの言った言葉の意味を考えるヴリトラ。
結局ヴリトラはジークフリートの考えが分からないままだったので、警察にジークフリートの事を話さなかった。倒産したはずのBL社の人間が姿を現したと警察に言えば世界中も大騒ぎになる、理由と彼等の居場所が分からない以上、むやみにジークフリートの事を話すのは得策じゃないと考えたのだ。
「そろそろ高速の出口だ」
ヴリトラが自分達が出る高速の出口が視界に入った事でリンドブルム達と画面の向こうのジルニトラにその事を伝える。リンドブルム達は前を向いて高速道路の出口を見た。
出口からは光が溢れており、まるで暗い部屋から光に包まれた外へ出て行くような感じだった。ヴリトラ達の乗る二台のバンは光の溢れる高速の出口は真っ直ぐ走って行く。そして二台のバンが光の中へ走って行き、そのまま外へ出た。
「・・・ん?」
バンを走らせていたヴリトラは目の前の光景を見た途端にブレークを踏んだ。
バンのスピードは落ちていき、やがてヴリトラ達の乗るバンは停止た。その後ろを走っていたニーズヘッグ達のバンも続いて停止する。
突然バンを停めたヴリトラの行動に助手席に乗っているリンドブルム、後部座席に乗っていたジャバウォック、オロチは運転席の方を向いた。
「どうしたの?突然車を停めて」
「・・・・・・」
リンドブルムの質問にヴリトラは答えず、ただジッと前を見ていた。
返事をしないヴリトラを見て、オロチは小首を傾げながらヴリトラの肩を軽く叩いて声を掛ける。
「おい、どうしたんだ?ヴリトラ?」
「・・・前、前を見てみろよ」
「「「前?」」」
突然前を見ろと言われて不思議に思う三人は言われたとおり前を見る。そして、ヴリトラが固まっている理由を知るのだった。
フロントガラスに映っていたのは、アメリカの都会ではなく、都会ではまず見られないおおきな林道だったのだ。周りには緑の木々が並び、鳥の鳴き声や小さな獣達がこちらを覗く姿があった。
リンドブルム達は前を見た後、窓から周りを見て改めて周りを見回した。
「どうなってるの?これ・・・」
「俺達さっきまで高速道路を走ってたよなぁ?」
驚きのあまり若干震えた声を出すリンドブルムとジャバウォック。オロチも黙ってはいるが驚きながら外の景色を見ている。
ヴリトラ達が驚いている中、カーナビの画面が変わり、画面の向こう側から取り乱したジルニトラが顔を見せた。
「ちょ、ちょっとちょっと!これってどうなってんのよ!?一体何が起きてんの?」
「僕達にも分からないのぉ!」
アメリカの高速道路を走っていた筈のヴリトラ達は突然人気のない林の中へ迷い込んでしまった。
そして、この時、彼等はまだ気づいていなかった。ここが自分達のいた世界と全く違う世界だという事を。そして、この世界で自分達が世界を変える程の存在になるという事を・・・。
ここからいよいよ物語が本格化していきます!