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機械鎧(マシンメイル)は戦場を駆ける  作者: 黒沢 竜
第十七章~獣が巣くう共和国~
299/333

第二百九十七話  意外な再会 首都制圧作戦会議


 旧オラクル騎士達と必ずオラクル共和国を解放するという事を約束し、彼等の協力を得た。騎士として国と家族を守る為に立ち上がった旧オラクル騎士達は自分達の知っている事を全て話す。そしてヴリトラ達はその情報を元に様々な作戦を立てるのだった。

 ヴリトラ達は現在の旧オラクル領の情報と敵戦力の配置を旧オラクル騎士達から聞いた後、すぐに最前線へ向けて出発した。だがその前に、自分達に情報を提供してくれた旧オラクル騎士達の安全を確保する為に次の休憩場所である町に駐留している同盟軍に彼等の保護を頼む必要があり、急ぎその町へと向かう。


「もう少しで町へ着く。まずはそこで最前線の状況を聞いて、騎士達から聞いた情報を駐留している同盟軍に伝えよう」

「ああ、そうだな」


 地図を見るヴリトラと運転するニーズヘッグが町へ着いた後の事を話す。後部座席ではラピュス達が自分達の隣に座っている旧オラクル騎士達をジーっと見つめていた。旧オラクル騎士達は揺れる車内を見てかなり動揺している。

 あの後、色んな情報を聞いてすぐに再出発したヴリトラ達。グリフォンを失った旧オラクル騎士達は七竜将の装甲車に乗せてもらった。しかし、初めて乗る装甲車に驚いているのか、出発してから一時間が経過した今でも落ち着かずに動揺し続けている。


「・・・何だか凄く驚いてるみたい」


 ファフニールが小声で隣に座っているオロチに話しかけた。オロチは顔をファフニールに近づけて同じように小声で返事をする。


「無理もない。初めて乗る未知の乗り物だ。しかも自分達の国を襲ったブラッド・レクイエムも同じような物を使っている。その中に自分達がいるのだから僅かに不安を感じているのだろう・・・」

「成る程・・・」


 旧オラクル騎士達が今どんな気持ちなのかを考え、ファフニールは気の毒そうな顔で旧オラクル騎士達を見ていた。

 すると、助手席に座っていたヴリトラが前を見て何かを見つけた。彼の視線の先には町があり、その町を高い城壁が囲んでいる。そしてその町の周りにはレヴァート王国やストラスタ公国のテントが幾つも張られていた。


「見えたぞ、あれがシャクセムの町だ!」


 ヴリトラの言葉にラピュス達や旧オラクル騎士達が反応し前を見る。そのシャクセムの町こそがヴリトラ達の次の休憩場所である町で、現在、最前線付近にある町で最も大きな町だ。そこには大勢の同盟軍が駐留しており、そこから各戦場に戦力を送っている。つまり現在の同盟軍の拠点とも言える場所だ。

 町を確認したヴリトラは後部座席に座っている旧オラクル騎士達の方を向いた。


「あそこでアンタ達を下ろして同盟軍に保護してもらう。俺達が首都を陥落させて戦争がお前るまではあの町で過ごしてくれ」

「ああ、分かった」


 ヴリトラ達に協力を申し出た男性騎士はヴリトラの言葉に頷きながら返事をする。だが、他の旧オラクル騎士達はどこか不安そうな顔をしていた。それに気づいたヴリトラは小さく笑う。


「心配ねぇよ。同盟軍には情報提供者として丁重に持て成すよう話しておく。と言うか、彼等は敵国の兵士だからと言って酷い扱いは絶対にしない」

「いや、その事を心配しているのではない・・・」

「じゃあ、何だよ?あの町にいる仲間の兵士達の事が心配とか?」

「・・・・・・」

「大丈夫だよ。バドムの村にいた騎士から聞いた話だと、この辺りにある村や町に駐留していた旧オラクル軍の兵士達は戦いが始まってすぐに投降したらしいから殆どの兵士達が無事だってよ」

「そ、そうか・・・それはよかった」


 男性騎士が小さく俯いて苦笑いを浮かべる。ヴリトラはその顔を見て目を細くする。自分達の扱いや仲間の身の安全を保障するという話を聞いたのにまだ暗い顔を見せる旧オラクル騎士達を見てヴリトラは彼等がまだ何かを心配しているとすぐに気づいた。


「・・・!もしかして・・・」


 ヴリトラが旧オラクル騎士達が何を心配しているのか考えていると、ラピュスが何かに気付き、ヴリトラに小声でそれを伝えた。

 話を聞いたヴリトラは「成る程」と納得し表情を浮かべる。そして俯いている旧オラクル騎士を見た。


「首都にいる家族の事が心配か?」

「「「「「!」」」」」


 ヴリトラの問いかけに旧オラクル騎士達の表情が変わる。どうやら彼等は首都にいる自分達の家族の事をずっと心配していたらしい。

 不安そうな顔を見せる旧オラクル騎士達を黙って見つめるヴリトラ達。するとヴリトラはニッと笑った。


「・・・大丈夫だよ。言っただろう?アンタ達の家族は俺達で保護するって。アンタ達の家族を見つけたらすぐに首都から脱出させてシャクセムの町へ送らせる」

「ほ、本当か?」

「ああ、約束は守る。だから安心してくれ」

「・・・分かった。頼んだぞ?」

「おう!」


 ようやく心配が無くなりホッとする旧オラクル騎士達。そんな彼等を見てオロチ以外の装甲車に乗る者達は微笑む。


「もうすぐ正門に着くぞ。降りる準備をしろ」


 運転するニーズヘッグがヴリトラ達に降車の準備をするよう話し、ヴリトラ達は言われた通りに準備をした。

 それから数分後、ヴリトラ達はシャクセムの町の正門前にやって来た。門番をしていたのはストラス公国の兵士達で装甲車やジーニアス達猛獣を見てかなり驚いていたが、ヴリトラとラピュスの説明でひとまず納得し、正門を開けてヴリトラ達を町へ迎え入れる。

 装甲車やバンが町の中を通ると同盟軍の兵士達やシャクセムの町の住民達は目を丸くしながら装甲車とバンを見つめる。見た事の無い物を見た時の住民達の反応は何処も同じだった。そんな視線を気にしながらヴリトラ達は町の奥へ進んで行き、シャクセム村に駐留している同盟軍の指揮官に会いに向かう。

 暫く街道を進んで行くと町のほぼ真ん中にある広場に到着し、その広場の前に建っている図書館の前で止まった。装甲車とバンから降りた七竜将は一度図書館の前に集まる。アリサ達白竜遊撃隊やガズン達闘獣戦士隊も七竜将の下に集まり、今後どうするかの話し合い始めた。


「とりあえず、この町でしばらく休憩する。だけど、すぐに出発するから、時間は二時間だ。二時間の間に食料や物資の補給を済ませておいてくれ。俺達は此処の指揮官に会って情報交換をしてくる。アリサ、お前も来てくれよ?」

「ハイ」


 指揮官に会う事に同行するよう言うヴリトラにアリサは力強く返事をする。

 ヴリトラはゆっくりと振り返って自分の周りに立っているラピュス達にも指示を出した。


「それじゃあ、俺とラピュス、ニーズヘッグで司令官に会いに行くから、他の皆は物資の調達や町での情報収集を頼む」

「ああ、任せておけ」


 ジャバウォックが笑いながら返事をし、他のメンバーも頷く。話が終わるとすぐに解散し、リンドブルム達や騎士達は一斉に行動に移る。残ったヴリトラ、ラピュス、ニーズヘッグ、アリサ、そして情報を提供して旧オラクル騎士達は図書館へ入った。

 図書館の中は同盟軍が使っているのか、町の住民の姿は見られず、兵士や騎士の姿だけがあった。図書館にある大きなテーブルに地図や資料を広げて自分達が担当する戦場の作戦会議などをしており、そんな光景を眺めながらヴリトラ達は司令官のいる部屋へと向かう。

 騒がしい図書館の中を進んで行くとヴリトラ達は大きな二枚扉の入口がある部屋の前までやって来た。入口前には二人のレヴァート王国の男性騎士が見張っており、ラピュスは見張りの一人に挨拶をする。


「パティーラム様の命を受け、最前線への援軍としてやってまいりました。最前線に向かう途中で旧オラクル軍の騎士から有力な情報を得ましたので指揮官殿にお伝えしたいのですが・・・」


 ラピュスの話を聞いた男性騎士はチラッとラピュスの後ろに立っている旧オラクル騎士達を見つめる。やや警戒しているような視線を向けている男性騎士に対し、旧オラクル騎士達は目を逸らす事なく彼等を見ている。

 旧オラクル騎士達を見た後、男性騎士はもう一人の男性騎士に小声で何かを話し、もう一人も小声で答えた。すると、話が終わった男性騎士の一人が扉をノックして部屋の中へ入って行く。


「・・・しばらくお待ちください」


 残った男性騎士がヴリトラ達を待たせ、黙って入った仲間が出てくるのを待つ。ヴリトラ達も入室の許可が下りるまでジッと待ち続けた。

 暫くすると部屋に入った男性騎士が静かに出て来た。


「どうぞ、お入りください。指揮官殿がお待ちです」

「ありがとう・・・」


 招かれたヴリトラ達はゆっくりと扉を開けて部屋の中へと入った。中は学校の教室程の広さの部屋で奥にある大きなテーブルを四人の騎士が囲んでいた。よく見ると、その中にはヴリトラ達の知っている顔もある。


「ヴリトラ殿、ラピュス殿!」

「あっ!パリーエ王女!」

「久しぶりだな!」


 騎士達の中にいた一人の姫騎士、それはストラスタ公国の王女でありストラスタ公国騎士団の白薔薇しろばら戦士隊の隊長であるパリーエ・ストラスタだった。

 ヴリトラ達は久しぶりに会ったパリーエを見て驚きの表情を浮かべている。


「ご無沙汰してます」

「ああ、同盟会談の時以来だな」


 部屋の奥へと進み、ヴリトラはパリーエと握手を交わす。


「でも、どうしてパリーエ王女が此処に?」

「うむ、わらわと白薔薇戦士隊もオラクル領解放の為に最前線へ出て来たのだ」

「そうだったんですか・・・」

「ですが、一国の姫君が危険な最前線へ出るなど・・・」


 ラピュスは不安そうな顔でパリーエを見る。もし一国の王女が戦場で命を落とすなんて事があれば、大変な事になってしまうのは当然。ラピュスはその事が心配でしょうがなかった。

 すると、心配そうな顔をするラピュスの肩にパリーエがそっと手を置いた。


「ラピュス殿、わらわを心配してくれるのはありがたい。だが、わらわも姫騎士、戦場で命を賭ける覚悟はとうにできている。それに多くの兵士達が命を賭けて危険な所で戦っておると言うのに、自分だけ安全な所にいるなどわらわにはできないのだ」

「パリーエ王女・・・」

「心配するな。父上からの承諾は得ている。もっとも、父上を説得するまでかなり長い間、喧嘩をしたがな」


 苦笑いを浮かべながらストラスタ王と口論した事を話すパリーエ。そんな彼女を見てヴリトラ達も苦笑いを浮かべた。


「パリーエ王女、まだ会議中ですよ?」


 ヴリトラ達が苦笑いを浮かべながら話をしていると、テーブルのついている一人の男性騎士が声を掛けて来た。ヴリトラ達がフッと声のした方を向くと、そこにはレヴァート王国の男性騎士が立っていた。しかも鎧の色から白銀剣士シルヴァリオン隊の様だ。金髪でクセ毛のある二十代半ばくらいの眼鏡をかけた男。ヴリトラ達はその男性騎士にも見覚えがあった。


「あっ、アンタは・・・!」

「・・・久しぶりだな、ヴリトラ?」

「チャリバンス!?」


 男性騎士の顔を見たヴリトラはまた驚きの顔を浮かべて名を叫ぶ。そこにいたのは嘗てティムタームで開催された武術大会に出場し、ヴリトラに完敗した第五白銀剣士隊の隊長であるファルネスト・チャリバンスだったのだ。

 一年以上見ていなかった顔にヴリトラやラピュス達は目を丸くしている。そんなヴリトラ達の反応を見たパリーエも呆然としながらヴリトラ達とチャリバンスを交互に見ていた。


「な、何だ?お前達は知り合いなのか?」

「え、ええ・・・まぁ・・・」

「知り合い、と言いますか・・・」

「顔見知り、と言った方がいいかもしれませんね・・・」


 ニーズヘッグの言葉にパリーエは「は?」と理解できない反応を見せる。一方でチャリバンスはヴリトラ達の反応を見て少し不愉快になったのか眉をピクピクと動かしていた。だがすぐに咳き込んで気持ちを切り替えた。


「オッホン!とりあえず、お前達が入手した情報とやらを説明してくれないか?」

「え?・・・ああぁ、分かったよ」


 状況を思い出したヴリトラ達はチャリバンス達の下へ向かう。

 全員が集まりテーブルを取り囲んだヴリトラ達は早速、情報の確認と交換の話し合いを始める。


「まず、お前達がそこにいる騎士達から得た情報を話してもらおうか?」

「ああ、分かった。だけど、その前にこの町にいる指揮官に挨拶したいんだけど・・・指揮官は誰なんだ?やっぱりパリーエ王女?」


 ヴリトラが指揮官が誰なのか尋ねながらパリーエの方を向く。するとパリーエは首を横へ振った。


「いや、全体の指揮を執っているのはチャリバンス殿だ」

「えっ?」


 意外な人物が指揮官である事にヴリトラは目を丸くする。そして一斉にチャリバンスの方を向いた。


「・・・何だ、私が指揮官である事が不満か?」

「いや、不満って訳じゃないんだけど・・・てっきり王族であるパリーエ王女が指揮官だと思ってな・・・」

「パリーエ王女は白薔薇戦士隊の隊長ではあるが、大部隊の指揮を執った事は無い。だから私が指揮官に選ばれたのだ」

「そ、そうだったんだな・・・ハハハ」


 ヴリトラは機嫌を損ねたチャリバンスを見て苦笑いを浮かべる。そんなヴリトラや後ろに控えているラピュス達を見た後、チャリバンスは溜め息をついて話を戻した。


「それで?どんな情報を得たんだ?」

「あ、ああぁ・・・彼等から得た情報は二つだ。一つは首都であるオルトロズムの戦力と旧オラクル領の全部隊を束ねている司令官の名前。そしてもう一つはオルトロズムの周辺にある町の戦力だ」

「ほぉ?それは重要な情報だな・・・」


 敵戦力の情報を得られる事はこれからの攻略に非常に役に立つ。チャリバンスは早く聞きたいと言いたそうな顔を見せた。

 ヴリトラはテーブルの上に広げられている旧オラクル領の地図を見る。地図のあちこちには色のついた木製の駒が置かれてあった。同盟軍の戦力と旧オラクル軍の戦力を分かりやすくする為に置かれてあるのだろう。

 現在、ヴリトラ達がいるシャクセムの町には青と黄色の正方形の駒が置かれており、バドムの村の上にも青い正方形の駒が置かれてあった。青がレヴァート王国、黄色がストラスタ公国を示しているのだ。そして首都オルトロズムの所には濃い緑の正方形の駒が幾つもおかれており、オルトロズムの周辺にある三つの町にも濃い緑の駒が置かれてあった。恐らく、緑の駒は旧オラクル軍の戦力を示しているのだろう。


「彼等の話ではオルトロズムには二個大隊ほどの戦力があり、ブラッド・レクイエムの部隊も駐留しているらしい」

「ブラッド・レクイエムが?」

「ああ、しかも数日前に体のあちこちを機械にした不気味な猛獣達も配備されて戦力が強化されたとか・・・」

「きっと、以前戦った機械鎧怪物マシンメイルビーストだろうな・・・」

「ああ、間違いないな・・・」


 ニーズヘッグの方を向いてヴリトラは小さく頷く。

 機械鎧を纏った猛獣が戦力として配置されればかなりの脅威となる。何も知らずに攻め込む前にこの情報を得られた事はヴリトラ達にとってはラッキーと言えた。


「あと、周囲の町にもそれぞれ旧オラクル軍の二個中隊とブラッド・レクイエム社の部隊を配置していたらしい」

「周囲にもブラッド・レクイエムが・・・・・・ん?ちょっと待て。今、何と言った?『配置していたらしい』と言ったか?」


 パリーエがヴリトラの説明の中に引っかかるところがあり確認する。するとヴリトラはパリーエの方を向き、真剣な顔で頷いた。


「ハイ、何でも彼等が偵察する直前に首都周辺の町に配置されていたブラッド・レクイエムの部隊を全て首都に呼び戻したらしいんです」

「何?どうしてそんな事を?そんな事をしたらその町の戦力が低下してしまう。みすみす敵に町を渡している様なものだ」

「ええ、俺達も変だと思っています。でも、彼等もどうしてそんな事をしたのか分からないと・・・」


 ヴリトラが部屋の隅で控えている旧オラクル騎士達をの方を向き、パリーエ達も一斉に彼等の方を見た。自分達が不利になるような事をする旧オラクル軍の考えが分からず、旧オラクル騎士達も俯いて黙り込んでいる。

 すると地図を見ながら考え込んでいたチャリバンスがゆっくりと顔を上げた。


「恐らく、籠城するつもりだろう」

「籠城?」

「ああ、奴等は周囲の町のブラッド・レクイエムの部隊を首都に集めて戦力を高め、帝国からの増援が来るまで持ち堪えるつもりに違いない」

「その為に周囲にある町を全て捨てるという事か・・・」


 チャリバンスの説明を聞いてヴリトラは不機嫌になったのか低い声を出す。ヴリトラが不機嫌になった理由、それは首都を守る為に周囲の拠点とそこにいる旧オラクル軍の兵士、そして町に住む人々を見捨てた司令官の考えが酷いからであった。


「オラクルの町や兵士達を平気で見捨てるとは、司令官は相当自分勝手な奴なんだろうな」

「ああ、その通りだよ」


 ヴリトラが司令官の事を悪く言うと意外にも旧オラクル騎士の一人が同意した。周りにいる他の騎士達も黙って俯いている。

 仲間である司令官を悪く言われたのに怒るどころか否定しない旧オラクル騎士達にヴリトラ達は驚いてからの方を向く。


「今、この国を支配している『グーリジル・ラプタン』という男は政治管理を任された我が国の貴族だったのだが、帝国との戦争で敵の進攻を手引きをしたとんでもない売国奴だ」

「祖国を裏切ったのか?」


 ラピュスの問いかけに旧オラクル騎士は悔しそうな顔で頷く。


「ああ、そして大統領が処刑された後、手引きした見返りとして帝国からオラクル領の統治を任されたんだ。そして共和国の食料や物資が帝国に奪われている時、自分だけ十分な食料や物資を与えてもらい贅沢三昧をしているって訳だ」

「文字通り、独裁者って事か・・・」


 ラプタンがどれだけ卑劣な男なのかを知り、ヴリトラ達の表情が鋭くなる。そんな人間にこれ以上好き勝手にさせる訳にはいかない。ヴリトラ達はオラクル領の解放の意思を改めて強くする。

 旧オラクル領解放の意志が強くなったところで、ヴリトラ達はどうオルトロズムを攻略するかを考えた。


「オルトロズムには三つの門があり、そこから町へ入る事ができる。だが、その門に向かうにはその途中にある町を制圧し、そこから各門へ向かう必要がある。オルトロズムの西門へ続く道の途中にある『ジラーフ』の町、東門へ向かう途中にある『バロバ』の町、そして南門の前にある『ガルディン』の町の三つだ。このガルディンの町は丁度このシャクセムとオルトロズムの真ん中にある。そして、オルトロズムに向かう為の最短ルートでもあるのだ。

「つまり、このガルディンの町を制圧した方が早くオルトロズムに着けるって事なんだな?」

「そうだ。だがそれ故にこの三つの町の中でも最も守りが堅い場所だ。だから我々は今、迂回してジラーフの町とバロバの町を制圧し、挟み撃ちで首都を制圧しようという作戦で攻めている」

「・・・・・・」


 今の同盟軍の作戦を聞いたヴリトラは難しい顔を見せて考え込む。するとニーズヘッグがチャリバンスの方を見てこんな事を聞いた。


「それじゃあ、今はガルディンの町には攻めていないのか?」

「いや、一個中隊に攻撃させている。ただ、これはあくまでも他の二つの町から注意を逸らす為の陽動だ。本気で制圧させようとは思っていない」

「囮って事か・・・ヴリトラ、俺達はどうする?ジラーフとバロバのどちらかの制圧の手伝いに向かうか?」

「・・・・・・」


 ニーズヘッグの問いかけにヴリトラは答えずに考え続けている。周りにいるラピュス達はしばらく黙って考え込むヴリトラを見ており、部屋の中は静まり返った。

 やがて考えるのをやめたヴリトラは顔を上げてテーブルの上の地図を指差す。


「俺達はガルディンの町を制圧する」

「何?」


 ヴリトラの出した答えにチャリバンスは訊き返す。ラピュス達も意外なヴリトラの答えに少し驚いた様子だった。

 周りにいる者達が驚く中、ヴリトラはチャリバンスの方を見て笑う。


「三つの町を制圧して、三方向から首都を同時に攻撃できるようにした方が成功する確率は高いからな」

「それは分かっている。だがさっきも言ったように、ガルディンの町は防衛力が最も高いのだ。今の戦力では制圧は難しい!」

「だから、俺達が行くんじゃないか」

「何?」

「俺達がガルディンの町を制圧してオルトロズムへの進軍経路を確保する。そして全ての準備が整ったら一気に攻め込む。それなら戦力を動かす必要もないだろう?」

「そ、それはそうだが・・・・・・具体的になどうするのだ?」


 パリーエが詳しい内容を尋ねるとヴリトラは詳しい内容を説明する。話し合いの結果、ヴリトラの考えた作戦は採用され、作戦会議と情報交換が済むとヴリトラ達はシャクセムの町を出てガルディンの町を目指す。ヴリトラの考えた作戦はこれと言って複雑ではなく、とても単純なものだった。

 シャクセムの町に突き、パリーエとチャリバンスと再会したヴリトラ達は詳しい情報を受け取り、オルトロズム制圧作戦に加わり、ガルディンの町へ向かう。いよいよ、最前線での戦いが幕を開けようとしていた。


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