第二百九十三話 戦争が見せる人間の心
ガズンと再会したヴリトラ達は旧オラクル領へ向かう為に国境へ向かって町を出る。それと同時に、コラール帝国ではジャンヌが同盟軍の進撃を止める為、そして七竜将の成長を確かめる為に旧オラクル共和国の首都オルトロズムへ向かう事を決めるのだった。
ヴリトラ達が町を出てから一日が経ち、ヴリトラ達は旧オラクル共和国の国境近くまで着ていた。空は既にオレンジ色に染まり、少しずつ辺りは暗くなってきている。ヴリトラ達は周囲を警戒しながら国境へ向かって一本道を進んでいた。
「・・・ここまでは順調だな」
「ああ、モンスターに襲われる事も何度かあったが、怪我人は一人も出ていない」
「この部隊のメンバーは全員がエリートだからな。そう簡単にやられたりはしないさ」
助手席で地図を見ているヴリトラと運転をしているニーズヘッグがティムタームを出てから現在までの事を思い出しながらのどかそうな顔で話している。
ヴリトラ達はここまで途中にある町や村に立ち寄ったり、野生のモンスターから襲撃を受ける事が何度かあったが、七竜将やレヴァート王国でも優秀な白竜遊撃隊や闘獣戦士隊の前では野生のモンスターなどは敵ではならなかった。いや、モンスターの中には狼やゴブリンなどもいたが、ジーニアスやガズンの率いる猛獣達を見ると戦いを始める前に逃げ出す者が殆どで激闘と言える様な戦いは一度も起きていない。だからヴリトラ達はここまでのんびりと進んで来たのだ。
ヴリトラが地図を見ながら現在地を確認していると装甲車の後部からラピュスか顔を出して前を覗く。ラピュスは目を凝らして遠くを見ていると、何かを見つけて前方を指差した。
「見えたぞ。あれがレヴァートとオラクルの国境だ」
ラピュスが指差す数百m先には大きな河があり、その河には長い橋が架かっている。橋の前には小さな小屋が建っていて周りには数人の騎士とレヴァート兵の姿があった。
「あれがレヴァートとオラクル共和国を繋ぐ橋なんだな?」
「ああ、あの橋を渡れば旧オラクル領へ入る」
「あっちに渡れば何が起きるか分からない。皆、気を引き締めていくぞ」
真面目な顔で前を見ながら装甲車に乗っているラピュス達に声を掛けるヴリトラ。ラピュス、ニーズヘッグ、オロチ、ファフニールもヴリトラの言葉を聞き、真面目な顔で頷く。ニーズヘッグはアクセルを踏み、装甲車の速度を上げその後ろをついていたバンや白竜遊撃隊、闘獣戦士隊も速度を上げて後をついて行った。
橋の前に付くとヴリトラ達は一旦止まり、橋を見張っている騎士達に自分達の事やパティーラムからの命令の事を伝えた。騎士達は七竜将の姿や彼等が乗って来た装甲車、バンを見て少し驚きの表情を浮かべている。七竜将の名は既にレヴァート王国中に広まっているが、本人達に会った者は少なく、彼等の姿や持ち物を見て驚く者は多かった。そんな驚きの視線に慣れた七竜将は平然な態度を取っている。
大勢のレヴァート兵や騎士達が七竜将、ジーニアス、闘獣戦士隊などを見ている中、ラピュスは橋の警備隊の責任者らしき男性騎士と話をしていた。
「・・・以上が第三王女、パティーラム様より与えられた私達の任務内容です」
「最前線への救援とオルトロズムの制圧ですか・・・」
隊長である騎士はラピュスの話を聞いた後にチラッとヴリトラ達を見る。彼は心の中でこれだけの戦力が送られても大した変わらないのではないかと考えていた。
「・・・噂に聞く七竜将に精鋭と呼ばれる白竜遊撃隊。そして新しく結成されて闘獣戦士隊、三つの優秀な部隊を一度に最前線へ送るとは、姫様は本気で旧オラクル領を解放させるおつもりなのですか?」
「本気でなければ、これだけの戦力を最前線へ送り込まないでしょう?」
「まぁ、確かにそうですが・・・」
隊長は自分の手の中にあるラピュスから渡された羊皮紙の中身をもう一度チェックする。ヴリトラ達の詳しい任務内容や期間などを確認した隊長は羊皮紙をラピュスに返すとゆっくりと下がり道を開けた。
「どうぞ、お通りください」
「ありがとう」
羊皮紙を受け取り、ラピュスは装甲車へ戻って行く。
ラピュスは装甲車に乗り込むと運転席と助手席にいるヴリトラとニーズヘッグに許可が下りた事を伝えた。それを聞いたニーズヘッグは後ろにいるジャバウォック達に手を振って合図を送り、再び装甲車を走らせて橋を渡り出す。ジャバウォックも装甲車が走っているのを見てバンを走らせ、アリサもジーニアスに指示を出して移動させる。その後に馬に乗った白竜遊撃隊の騎士達、ガルバに乗ったガズンやグリフォンに乗った闘獣戦士隊の隊員達も移動を開始した。
橋を渡っていくと、橋のちょうど中間あたりに丸太でできた移動可能な柵が大量に並べられているのを見つけ、ニーズヘッグは装甲車の速度を落とす。
「あれは何だ?」
ニーズヘッグが遠くに見える柵を不思議そうな顔をする。するとラピュスか後部から柵を見て説明した。
「恐らくあれは敵を止める為のバリケードだろう。此処はレヴァート領と旧オラクル領を繋ぐ唯一の橋だ。此処を敵に奪われてしまうとレヴァート王国への進軍を許してしまう事になるからな。あんなふうにバリケードを作って少しでも守りを固めているのだろう」
「確かにこの橋が敵の手に落ちれば自由に戦力を王国中に送り込める。此処を奪われるのは流石にヤバいって事か・・・」
「そう言えば、此処に来るときに最後に寄った町には大勢の兵士や騎士が滞在してたな?」
「きっと、この橋が敵襲を受けた時にすぐに救援に向かえるように待機させてあるのだろう」
「成る程な、此処は王国を守るのに最も重要な場所なんだから、ある意味で此処は最前線よりも危険な場所かもしれないな」
レヴァート王国への侵入を許さない為に守りを固めてある橋を見て最前線よりも危険な場所ではないかと考えるヴリトラとニーズヘッグ。ラピュスも装甲車の中から橋の上を守ってくれているレヴァート兵を見つめ心の中で彼等を敬服した。
柵の近くにいるレヴァート兵達は近づいて来る装甲車を見ると急いで柵を移動させてヴリトラ達が通る為の道を開けた。道ができるとニーズヘッグは装甲車の速度を上げて柵の間を通り、バンや馬、ドレッドキャットがそれに続く。空からはジーニアスやグリフォンなど空を飛べるものが対岸へ向かって移動しており、地上と空の両方から対岸へ向かうヴリトラ達を見てレヴァート兵達は目を丸くしていた。
「あれが七竜将かぁ・・・噂にゃ聞いていたが、本当に鉄の馬車に乗ってるぜ?」
「ああぁ、それに空には聖賢竜とグリフォンが飛んでやがった。未知の力を持つ傭兵に猛獣の部隊、何だかどんどんこの国も帝国や共和国に似て来ているな」
「そうだな・・・このまま、帝国みたいにならなければいいんだが・・・」
レヴァート王国が軍事力が強化されていく事でこの国が帝国と同じようになっていくのではないかと不安になるレヴァート兵達。するとそこに一人の男性騎士が近づいて来てレヴァート兵達に声を掛ける。
「お前達、冗談でもそんな事は言うな」
「しかし・・・」
「お前達の気持ちも分かる。強大な力を持つ国はそれ以上の力を持とうとする。それはやがて全てを手に入れようという欲望へと繋がるからな。だが、ヴァルボルト陛下に限ってそのような事はあり得ない。あのお方は民や平和に過ごせる世界の事を考え、必要以上に力を持とうとはしない。セメリトやストラスタ、そしてダークエルフとの同盟も帝国との戦いが終われば無くなるんだ。ギンガムの様な欲の塊の様な男とは違う、お前達なら分かるだろう?」
「・・・ハイ」
「なら信じるんだ。陛下を、そしてこの国の進む道を」
「「ハイ!」」
騎士に言葉に表情を変えた騎士達は力強く返事をする。レヴァート王国が力を付けているのは帝国と彼等に力を貸すブラッド・レクイエム社を倒し、このヴァルトレイズ大陸に平和をもたらす為だ。力のあるコラール帝国に勝つにはこちらも力を高めるしかない。それ故の同盟と猛獣部隊の結成なのだ。レヴァート兵達は自分達の王を信じ、ヴァルボルトの為、そして祖国の為に力を尽くす事を改めて決意する。
橋を渡り、対岸まで来たヴリトラ達は橋の前の広場にやって来る。ヴリトラは対岸に控えていた数人のレヴァート兵に手を振って挨拶をし、挨拶を終えて広場を見た瞬間、驚きの表情を浮かべた。広場には大量の剣や槍、レヴァート王国と旧オラクル共和国の紋章が描かれた盾が大量に落ちており、地面には数十本の矢が刺さっていたのだ。
「これは・・・」
「きっと此処で激しい戦闘が行われたんだろうな。橋を確保していつでも国境を超えられるようにする為に・・・」
ニーズヘッグとヴリトラは広場の光景を見て何が遭ったのかを察し引く声で会話をする。ラピュスやオロチ、ファフニールも窓からその光景を見てどんな戦闘があったのかを想像する。
「武器や盾の数からして、両軍ともかなりの被害が出たみたいだね?」
「当然だろう。この橋を確保しているかいないかで戦況はかなり変わる。有利に立つ為にお互いにかなりの戦力をぶつけたはずだ・・・」
「兵士の人の数が多ければ、命を落とす人も多くなる・・・戦争は本当に残酷なものだよね」
「だが、人は自分達の意見を主張する為に、自分達の国や家族を守る為に戦争をする。それは人間という生き物なのだ・・・」
悲しそうな顔で外を眺めるファフニールにオロチは冷静な表情で答える。そんな二人の会話を聞いていたヴリトラ、ラピュス、ニーズヘッグの三人は黙って彼女達の会話に耳を傾けて。
戦争が起きれば国と国が争い、その国は自分達が勝つ為に金を使い傭兵を雇い、彼等を戦わせる。今ファムステミリアで起きている戦争もまさにそうだった。
「・・・ヴリトラ」
「ん?何?」
オロチとファフニールの会話を聞いていたラピュスが若干低い声でヴリトラに話しかけて来た。ヴリトラはラピュスの方を向き彼女の顔を見ると、ラピュスは何処か複雑そうな顔をしており、それを見たヴリトラは不思議そうな顔をする。
「お前は何処かの国に雇われて国同士の戦争に参加した事があるか?」
「・・・それはこっちの世界に来る前の話か?」
「ああ」
「・・・・・・勿論あったぜ。俺達七竜将は地球ではそれなりに有名だったからな」
「その時、国同士の争いを見て、どう思った?」
「・・・・・・」
ラピュスの質問にヴリトラは黙り込む。運転しているニーズヘッグやラピュスの話を聞いたオロチとファフニールも会話を止めてラピュスの方に視線を向ける。やがてヴリトラはゆっくりと口を開き話し出した。
「・・・正直言って、無関心だった」
「無関心?」
「俺達は金で雇われるだけの傭兵、国のお偉いさんや戦争をする理由なんて興味も無かったし、聞いても雇い主達は『余計な詮索はしないで言われた通りにしろ』って言うだけで何も話しちゃくれなかったよ」
「・・・そうか」
「俺達の世界もこっちと大して変わらないさ。金で雇われてただ言われた通りに動く。国と国が争う理由、誰かが誰かを憎み殺しを依頼する理由、反乱軍を制圧する為に自分達を雇った正規軍の理由、そんな事に微塵の興味も無く、ただ戦うだけさ」
「それが、傭兵というものなのか?」
「少なくとも、俺達の知っている傭兵と言える連中はそんな奴等ばっかりだった」
「・・・・・・」
金が貰えれば雇い主の都合や考えなど興味は無い、他人と干渉せず、ただロボットの様に言われた通りに動くだけの存在、そんな傭兵の生き方にラピュスは寂しさの様なものを感じた。
ラピュスが暗い顔で俯いていると、ヴリトラは前を見ながら再び口を開いた。
「まぁ、他の傭兵達はともかく、俺達七竜将はこの戦争に無関心なんて事はしないけどな」
「え?」
「俺達はレヴァート王国が好きだからな。レヴァートの為ならどんな厳しい戦いも引き受けるつもりさ。そして、もしレヴァートが道を間違える様な事があれば、俺達は全力で正しい道へ戻す・・・」
「ヴリトラ・・・」
ヴリトラの口から出て言葉にラピュスは目を見張って驚く。するとヴリトラは再びラピュスの方を向きニッと笑った。
「まっ、俺達はレヴァート以外の国と契約を交わす気なんてないから、安心しろ。絶対に裏切るような真似はしねぇよ」
「・・・フッ」
真剣な事を言ったと思ったら笑いながら軽い事を言うヴリトラを見てラピュスは思わず笑ってしまう。ヴリトラは普段はふざけた態度を取る事が多いが、戦場に出れば非常に頼りになる。ラピュスはそんなヴリトラを心から信頼し、いつしか彼をよく見る様になっていた。
ニーズヘッグとファフニールはヴリトラとラピュスの会話を聞いて小さく笑っており、オロチは目を閉じて耳だけを傾けている。するとヴリトラ達の小型通信機からコール音が鳴り、装甲車に乗る者全員が耳にはめてある小型通信機のスイッチを入れた。
「こちらリンドブルム。ヴリトラ、聞こえる?」
「ああ、聞こえるよ。どうしたんだ?」
「もう僕達は旧オラクル領へ入った訳だけど、この後はどうするの?」
「・・・とりあえず一番近くにある町か村へ行ってそこで休もう。もうすぐ夜になっちまうからな」
「でも、此処は今帝国の物なんだよ?もし町や村に帝国軍や旧オラクル共和国の兵士がいたら・・・」
「その心配はない」
ヴリトラとリンドブルムが話しているとラピュスが会話に入って来た。運転するニーズヘッグ以外の全員が一斉にラピュスの方を向く。
「どういう事だ?ラピュス」
「さっき橋の警備隊から聞いたのだが、国境周辺の町や村は既にレヴァート王国が制圧して管理しているらしい。だから町や村へ近づいても攻撃を受ける事は無い」
「制圧・・・やっぱり戦闘があったのか?」
「ああ、ただその町や村に駐留していたのは旧オラクル兵だけで、帝国兵の姿は無かったらしい。あと、戦意が殆ど見られず、戦闘が始まって暫くしたらすぐに投降してしまったようだ」
「すぐに投降?何でだよ?」
「分からない。警備隊が町の制圧を行った部隊の隊長から聞いた話では旧オラクル兵達には活力が無く、ほぼ全員が町もに戦えるような状態じゃなかったらしい・・・」
なぜ町や村を護っている旧オラクル兵達に戦意が無く、すぐに投降したのか、その理由を考えるヴリトラ達。するとニーズヘッグが運転しながらゆっくりと口を動かす。
「恐らく、武器や食料などをコラール帝国に奪われてしまったからだろう。食料や物資が無ければ戦う以前にまともな生活すらもできなくなる。戦意が無いのも当然さ」
「つまり、お腹が空いてた動けなかったって事?」
「それもある。だが、生活するのに必要な物資も無く、戦う為の武器も帝国に持ってかれたんだ、精神的に限界だったんだろう。それで攻め込んで来たレヴァート軍に救いを求めようと投降したって考えるのが一番自然かもな」
ファフニールの質問にニーズヘッグが前を向いたまま答える。
「貧困から逃れる為に敵国の兵士に助けを求めるとは、奴等には国を守る兵士として誇りが無いのだろうか・・・」
「まぁ、確かに兵士としては問題のある行動だな。だが、人としては間違った判断とは言い切れない」
「今や旧オラクル領の人間は帝国の奴隷の様なもの、自分達を奴隷として扱る連中より敵でも自分達をちゃんと人間としてみてくれる同盟軍に身を預けた方がいいと考えたんだろう」
オロチが旧オラクル兵の行動に不満を思っているとヴリトラとニーズヘッグがそれぞれ思った事を口にした。
コラール帝国に敗れて奴隷扱いされている自分達が救われる道はコラール帝国と戦争をしている同盟軍に助けを求めるしかないと考えた末の行動だろう。兵士達にも家族や守りたい人が大勢いる。兵士としてはともかく、人間としてはその全てが間違っているとは言えなかった。
「・・・で、結局僕達は何処へ行くの?」
小型通信機の向こうからリンドブルムが本来の質問をもう一度尋ねた。それを聞いたヴリトラは地図を見ながら自分達の現在地を確認しながら行き先を考える。
「え~っと・・・・・・おっ?この近くに『バドム』って言う村があるなぁ・・・・・・よし、今晩はそこで休むことにしよう」
「了解」
自分達の現在地のすぐ近くに村があるのを見つけたヴリトラは小型通信機を使いリンドブルムに伝える。リンドブルムも返事をし、ラピュス達も異議は無いのか黙って頷く。
行き先が決まるとニーズヘッグはアクセルを踏んで装甲車の速度を上げる。日が暮れる前に村に到着した方がいいと考え、ヴリトラ達は急ぎ目的地のバドムの村へと向かった。
二十分後、すっかり暗くなった中、ヴリトラ達は目的地のバドムの村にやって来た。村の周りにはレヴァート王国軍のテントは沢山張られており、その周りをレヴァート兵が巡回している。そして村の入口前には三人の男性騎士が並んで立っており、入口の警備をしていた。
ヴリトラ達の乗る装甲車とバンは一本道を通って村の入口前まで来るとゆっくりと停車する。入口を見張っていた男性騎士達や村の周りを巡回しているレヴァート兵達は突然やって来て装甲車やバン、そして数匹の猛獣達を見て驚きながら警戒した。
「何者だ!」
男性騎士の一人が鞘に納めてある騎士剣を握り、いつでも抜刀できる態勢のまま目の前の装甲車に尋ねる。すると装甲車からヴリトラ、ラピュスが降りて男性騎士達に近づいて行く。
二人の姿を見て警戒していた男性騎士達だったがラピュスがレヴァート王国ぼ姫騎士だと気付いて警戒を解いた。
ラピュスは男性騎士達の前まで来ると簡単な挨拶をした。
「レヴァート王国第三王女直属特務騎士、ラピュス・フォーネです。パティーラム様より旧オラクル共和国の首都オルトロズムの制圧を命じられ、最前線へ向かうところだったのですが、既に日も暮れてしまいこのまま進むのは危険ですので、一晩休ませて頂きたいのですが・・・」
「姫様からの命令ですか?・・・それを証明できる物は?」
「ここに・・・」
ラピュスは懐から橋の警備隊に見せた羊皮紙を取り出して男性騎士達に見せる。男性騎士達は羊皮紙に描かれている内容を確認し、羊皮紙をラピュスに変えると軽く頭を下げた。
「失礼いたしました。どうぞお入りください」
「ありがとうございます」
「ただ、この村には宿などは無く、村人が住んでいる家が殆どです。家畜を育てるのに使っていた倉庫には旧オラクル兵がおり、今提供できる場所と言ったら・・・ボロボロな古家ぐらいしか・・・」
「それでいいですよ」
申し訳なさそうな顔をする男性騎士にヴリトラは言う。男性騎士達やラピュスはチラッとヴリトラの方を見る。
「今夜一晩休めれるなら俺達は何処でも構いません」
「は、はぁ・・・よろしいのですか?」
男性騎士がラピュスに尋ねると彼女も黙って頷く。彼女は一年間地球でヴリトラ達と傭兵として生きていた。その為、ベッドで眠れない時もあり、時には野宿する事もあった。それ故に今では何処でも寝ようと思えば眠れるようになっていたのだ。それは勿論ラランも同じである。
ヴリトラとラピュスの了承を得た男性騎士は道を開け、一人がヴリトラ達は案内する。ヴリトラはニーズヘッグとジャバウォックに手を振って合図を送り、それを見た二人は装甲車とバンを動かし村へと入って行く。それにアリサとジーニアス、白竜遊撃隊、ガズンと闘獣戦士隊が続き、最後にヴリトラとラピュスが村へと入って行った。レヴァート兵達は村に入って行った見た事の無い部隊を目を丸くしながらただ茫然と見つめている。
男性騎士に案内されて古家にやって来たヴリトラ達。その古家は確かにボロボロだった。家自体は少し大きめだが壁や屋根の至るところに穴が開いており、台風が来れば崩れてしまうほどの物だ。そんな今にも崩れそうな廃墟をヴリトラ達は見ていた。
「こ、これはまた・・・」
「此処で一夜を過ごすんですか?」
「・・・これだけの人数で」
リンドブルム、アリサ、ラランが古家を見ながら驚きの表情を浮かべる。
「贅沢は言ってられねぇだろう?場所を提供してくれただけでもラッキーだと思えよ」
「そうよ?本来なら先に来ていたレヴァート軍の兵士達が使うべきなのにあたし達に貸してくれたんだから」
「いや、もしかすると先に来ていた兵士の人達もこんなボロボロの家に住むくらいなら村の外にテントを張ってそこで眠った方がいいと考えて使わなかったんじゃ・・・」
アリサが兵士達の考えを口にしてジャバウォック達を見ると、ジャバウォックやジルニトラは「一理あるな・・・」と言いたそうな顔で古家を見た。
するとそこに一番最後に村に入ったヴリトラとラピュスが追い付いて来て古家を眺めるリンドブルム達の隣にやって来た。
「うわぁ、確かにこりゃあ酷いなぁ・・・騎士達が複雑な顔をするのも納得だ・・・」
「だが、文句は言ってられないな」
「ああぁ、そうだ。皆!明日の朝には村を出るから、ちゃっちゃと食事を済ませて休めるように準備しとけよぉ?」」
「「「了解」」」
「ハ~イ・・・」
「・・・分かった」
リンドブルム達は返事をすると早速作業に取り掛かる。ヴリトラとラピュスも食事の準備や今後の打ち合わせをするためにニーズヘッグ達やガズンのところへ向かった。
遂に国境を越えて旧オラクル領へ入ったヴリトラ達。既に敵の領土に入ったヴリトラ達は何時敵の襲撃を受けてもおかしくない。そんな敵地の中でヴリトラ達は自分達の役目を果たす為に行動する。その目には恐怖や不安などは感じられなかった。




