第二百九十二話 旧オラクル領へ! 動き出す血まみれの聖女
コラール帝国に制圧された旧オラクル領の解放に向かってほしいという依頼を受けた七竜将。それと同時にパティーラムとガバディアから新しくレヴァート王国の猛獣部隊の調教師として雇い入れたガズンの事を聞かされ、ヴリトラ達は驚きの表情を浮かべるのだった。
依頼を受けた次の日の早朝。ティムターム正門前では七竜将と白竜遊撃隊が集まっていた。今回は長期でかなりハードな仕事になるという事で七竜将は装甲車とファムステミリアに来た時に乗って来たバンを用意し、白竜遊撃隊も新人を含めて多くの騎士を連れて来ている。
白竜遊撃隊の新人の騎士達は殆どが実戦経験が少なく、今回の長期の任務に緊張しているのか落ち着きが無かった。そんな騎士達の姿を装甲車の上に座って眺めているヴリトラとリンドブルムは少し心配そうな顔で見ている。
「・・・大丈夫かな?皆かなり緊張してるけど」
「アリサの話では今回の任務に参加している騎士は二十人でその三分の二が新人らしいぜ」
「ええぇ?つまり、十二人近くが新人って事なの?」
「みたいだな」
「・・・大丈夫なのかな、実戦経験の少ない新人の騎士達を今回みたいなキツイ作戦に参加させちゃって?」
現在の最前線である旧オラクル領に実戦経験の浅い新人の騎士を送り込むのは危険ではないかと感じるリンドブルム。それはリンドブルムだけではなく、他の七竜将のメンバーも同じだった。
二人が新人騎士達を眺めているとラピュスが装甲車の隣まで来て同じように新人騎士達を見つめる。
「彼等はレヴァート王国でも一二を争う優秀な騎士隊の隊員、少しでも実戦経験を積ませて自信を付けさせたいというガバディア団長の指示らしい」
「ラピュス・・・」
「私も正直、今回の作戦に彼等を連れて行くのは反対だと思っていた。だが、ブラッド・レクイエムとコラール帝国が手を組んだ今ではいつ激しい戦いが起きるか分からない。その日の為にも彼等には実戦を経験し、帝国との戦い方を知ってもらいたいと団長が仰られてな、私も納得してしまったのだ」
「・・・まぁ、戦いばかりは経験を積まないと強くなれないからなぁ」
「仕方がないと言えば、仕方がないよね・・・」
ヴリトラ、ラピュス、リンドブルムの三人はジッと新人騎士達を意味ありげな視線で見つめた。
戦闘訓練なら命を落とす心配はない。だが、命を落とす事が無いので戦場に立ち、戦う勇気を得る事はできない。戦場で最も重要なのは戦場で敵と向かい合い、戦う事のできる勇気だ。戦いの経験を積ませ、戦場で戦う勇気を得るには戦場で戦うのが一番効率がいいと言えるだろう。
ヴリトラ達が新人騎士達を眺めていると装甲車の運転席からニーズヘッグが出て来て装甲車の上に座っているヴリトラに声を掛けた。
「こっちの準備は整ったぞ。いつでも出発できるが?」
「ああぁ、もうちょっと待ってくれ。まだ一緒に行く闘獣戦士隊が来てないんだ」
「闘獣戦士隊・・・ガズンが調教した猛獣を操るレヴァート王国初の猛獣部隊だったな?」
「ああ、そろそろ来る頃だから、ガズンのおっさんが来たら簡単に任務の内容を確認して、それから出発だな」
「分かった」
返事をしたニーズヘッグは運転席に戻り、装甲車の調子や持って行く物の最終チェックを行う。
バンの助手席に乗っていたファフニールは中から周りを見回してガズン達が来るのを今か今かと待っている。ファフニールの目は輝いており、まるでガズンに会うのを楽しみにしている様に見えた。いや、彼女の場合はガズンではなく、ガズンの猛獣に会う事を楽しみにしていると言った方がいいだろう。
しばらくすると、街の方から何かの団体が近づいて来るのが見え、ヴリトラ達は一斉に団体の方を向いた。その団体は三匹のグリフォン、二匹のドレッドキャットを引き連れて四人の騎士達で構成されており、その先頭では頭の左右と後ろに銀色の髪を生やし、前とてっぺんに髪の無い髪型、髪と同じ銀色のフルフェイス髭を生やした四十代半ばの大柄の男が歩いており、腰には機械仕掛けの鞭が付けてある。そう、嘗てヴリトラ達と戦い、今ではレヴァート王国の猛獣調教師となったガズンだ。
「お~い!オメェ等ぁ~!」
「あっ、あれは!」
「ガズンさん!」
「!」
バンの助手席にいたファフニールはガズンの姿を見つけると晩から飛び下りてガズン達の方へ走り出す。それを見たヴリトラは少し驚いた顔を見せた後に装甲車から飛び下りてガズン達の方へ歩き出す。ラピュスとリンドブルムのその後に続いた。
「お~い!」
ファフニールは走りながらガズン達に手を振り、それを見たガズンもニッと笑いながら手を振り返す。
「よぉ、嬢ちゃん。久しぶりだなぁ、元気だったかぁ?」
再会したファフニールに再会の挨拶をするガズン。ファフニールは真っ直ぐガズンの下へ走って行き、それを見たガズンは足止める。そしてファフニールはそのままガズンに飛びつくのかと誰もが思っていた時、ファフニールがガズンの真横とを通過して後ろにいるドレッドキャットに抱きついた。
「ミーちゃん、久しぶり!元気だった?」
「アダッ!」
自分ではなく自分が飼っているドレッドキャットの見る場に抱きついた事をガズンは思わずよろける。そんなガズンを見て彼が連れて生きた闘獣戦士隊の隊員達は小さく笑った。
ミルバは自分の顔に抱きつくファフニールの顔を大きな舌で何度も舐める。どうやらミルバもファフニールの事は覚えていたようだ。そんなファフニールとミルバの再会を見たガズンは苦笑いをしながら自分の髭を整える。
「ハハハ、やっぱ中年のおっさんよりもミルバ達の方がいいか」
「久しぶりだな、ガズンのおっさん」
名を呼ばれて振り返るとそこには笑いながら歩いて来るヴリトラの姿があり、その後ろをラピュスとリンドブルムが付いて来ている。そんな彼等を見てガズンも自然と笑みを浮かべた。
「よぉ、まだ生きてやがったか?」
「アハハハ、それはおっさんもだろう?」
「ガッハハハハハ!そうだな」
ヴリトラとガズンは軽く握手を交わして再会を喜んだ。
「しかし、お前等この一年間、何処にいやがったんだ?一年前にセメリト王国のノーティンク大森林でお前等が死んだと聞いたときは驚いたぜ?」
「ああぁ、あれか・・・ブラッド・レクイエムの補給基地が大爆発を起こしてな。何とか助かったんだけど、奴等にバレると面倒だからしばらく身を隠してたんだよ」
別の世界に言っていたとは言えないヴリトラはとりあえず誰もが納得するような答えを考えてガズンに説明した。
話を聞いたガズンは握手をやめると腕を組みながらヴリトラの顔を見て数回頷く。
「成る程な。アイツ等が絡んでるとなると身を隠すのも当然か・・・」
ガズンは以前にブラッド・レクイエム社の機械鎧兵士と接触した事がある為、彼等がどれだけ恐ろしい存在なのかを知っている。故にヴリトラ達が一年間姿を消していたという事に納得した。ガズンはヴリトラやラピュス達の姿を一度ずつ見た後にヴリトラの肩にポンと手を置きもう一度笑う。
「まぁ、どんな理由であれ、またこうしてあえて嬉しいぜ。お前等には色々と借りがあるからな。その借りを返すまで死なれちゃ困るってもんだ」
「ハハハ、そうかよ」
ヴリトラはガズンの顔を見るて両手を腰に当てながら笑い返す。そんな二人の会話を見ていたリンドブルムも笑って二人を見上げている。
「よぉ、お前等も久しぶりだな?」
「お久しぶりです」
リンドブルムが笑ってガズンに挨拶を返す。ラピュスはただ黙ってガズンを見つめていた。
「・・・よぉ、お前さんも元気そうだな?」
「ああ。しかし、お前がこの町にいたとはな。私達が町に戻って来てから一度もお前の姿を見た事は無かったぞ?」
「ああぁ、ずっと城の方で猛獣達の調教を任されてたからな。城の外に出るのは殆どなかったんだよ。だから街に出る事も無かったし、お前さん達に会う事も無かったって事さ」
「成る程、それなら仕方がないな・・・」
町でガズンを見かけなかった理由を聞き納得するラピュス。すると、ガズンはラピュスの機械鎧化した右腕に気付き、ふと視線を機械鎧に向ける。
「・・・おい、嬢ちゃん。その右腕、ヴリトラ達と同じだが、どうかしたのか?」
「ん?・・・ああぁ、これか。まぁ、色々あってな。右腕を失い、義手を付ける羽目になったのだ」
「右腕を失った?おいおい、それで戦えるのかよ?」
「心配ない。寧ろこの義手を付けてから前よりも強くなった」
「ほほぉ?それは気になるな。是非、戦いの時にはお前さんの力を見せてもらいたいもんだ」
以前よりも強くなったラピュスに興味が湧いたのか腕を組みながら言うガズン。そんなガズンを見たラピュスは目を閉じて小さく笑うのだった。
ガズンがヴリトラ達と話をしているとミルバとじゃれ合っていたファフニールがミルバの隣にいるガルバ、そして後ろにいるグリフォン達を見つめる。
「ガズンさん、このグリフォン達もガズンさんが育てたんですか?」
「ん?おう、そうだぜ」
ファフニールの話を聞いたガズンは詳しい事を話す為にファウニールの所に向かい、闘獣戦士隊の事を詳しくファフニールに話していった。
それから数分後、全員が揃ったを確認したヴリトラは全員を装甲車の前に集めて任務の内容の最終確認に入る。
「皆、集まったな?それじゃあ出発前にもう一度確認をするぞ!・・・俺達の任務は旧オラクル領へ向かい、首都のオルトロズムを制圧して帝国軍を旧オラクル領から追い出し、オラクル共和国を解放する事だ。その為にはまず、最前線にある同盟軍の拠点へ向かい、そこの指揮官と会い詳しい戦況を聞き共に攻略する。くれぐれも同盟軍の戦士と問題を起こすようなことはするなよ?」
「そう言うヴリトラが問題を起こしたら洒落にならねぇけどな?」
「あらっ!」
話を聞いていたジャバウォックの一言でヴリトラはガクッとよろける。それと同時にオロチ以外の七竜将のメンバーは笑い出し、ラピュス、アリサ、白竜遊撃隊の騎士達も笑いを堪え、オロチは無表情でヴリトラを見ている。ガズンは腕を組んで大笑いし、闘獣戦士隊の隊員達はポカーンとヴリトラ達とを見ていた。
少しだけ空気が和んだのを確認したヴリトラは一度咳き込んで気持ちを切り替えると話を戻した。
「オホン・・・とにかく、まずは旧オラクル共和国の国境へ向かう。此処からだと早くても三日は掛かる。途中でモンスターに遭遇する事もあるかもしれない、十分注意しておくように!」
「「「「「「了解!」」」」」」
ヴリトラ以外の七竜将のメンバーが声を揃えて返事をし、周りにいるラピュス達も頷いた。
確認が終わると正門がゆっくりと開き、それと同時に跳ね橋が下りる。ヴリトラ達は装甲車とバンに乗り込み、アリサ達もジーニアスや馬に乗る。ガズン達も自分達が連れている猛獣の背中に乗り、装甲車の助手席からそれを確認したヴリトラはニーズヘッグに指示を出す。ニーズヘッグはアクセルを踏み、装甲車を走らせ、ジャバウォックもバンを走らせて装甲車の後に続く。
ジーニアスやグリフォンなど空を飛ぶ事ができるモンスターは跳び上がってバンの後に続き、ドレッドキャットや馬などは走った続く。最前線へ向かう為にヴリトラ達は旧オラクル共和国の国境へ向かう為にティムタームを出発した。
――――――
同時刻、神聖コラール帝国の帝都、エクセリオンの帝城にある謁見の間では四人の男達が集まり、話し合いをしていた。
一人は金色の短髪に銀色のサークレットを付けた二十代後半ぐらいの青年で王族が着る様な高貴な服を着ていた。そしてその男の前には貴族らしき姿をした男が三人並んで立っている。一人は二十代前半、残る二人は三十代ぐらいの男で玉座に座る男と向かい合っていた。
「・・・以上が旧オラクル領の現在の状況です。皇帝陛下」
「そうか、随分と手こずっておるようだな?」
皇帝陛下と呼ばれる玉座に座った青年はつまらなそうな顔で報告をする三十代の男を見て言った。実はこの玉座に座っている男こそが、現在のコラール帝国の皇帝にして悪逆皇帝と呼ばれる男、ギンガム・ヴァルファッツ・コラールなのだ。
ギンガムが玉座のひじ掛けで頬杖を突きながら聞いている中、貴族らしき男達はギンガムに現在の旧オラクル領の状況を一つずつ丁寧に説明していく。
「旧オラクル領の各町や村などからは食料や武器、使えそうな物資を我が国に輸送し、不足している所へ届けております。食料や武器不足が起こる事はまずありません」
「フッ、当然だ。使えなくなったオラクルの町よりも我が国の町や村に物資を送った方がよほど為になる」
「ハハッ!・・・しかし、まだ幾つかの問題が残っておりまして・・・」
「んん?何だ?」
二十代の貴族の報告を聞いたギンガムがチラッと彼の方を向く。すると貴族は持っている羊皮紙に書かれてある内容を確認し、ギンガムに報告する。
「・・・オルトロズムやその周辺の町に潜伏している旧オラクル軍の残党やレジスタンスが我が軍の行動を妨害し、更には押収した食料や物資を奪っているという報告が・・・」
「チッ!忌々しい、敗戦国のゴミどもめ!ソイツ等を見つけ出してすぐに処刑しろ!これ以上奴等を好きにさせるな!」
「し、しかし、レジスタンスや残党が何処に潜伏しているのか全くと言っていいほど手掛かりがありません。それにあそこかオラクルの領土、地の利は彼等にありますので見つけ出すのにはかなり時間が掛かるかと・・・」
「ならば各町の住民どもに詳しい事を聞き出せばよかろう!」
「で、ですが、町の住民達が我々コラール帝国に進んで協力するとは思えませんので・・・」
「だったら協力する者には金を出すとでも言って協力させろ。なんなら帝都に住ませて贅沢な暮らしをさせてやるとでも言ってやれ。とにかく何としてもレジスタンスどもの手掛かりを見つけ出すのだ!」
「はぁ?・・・しかし・・・」
そう都合よくオラクルの人間が侵略者である自分達に協力するとは思えない、と考える貴族達。するとギンガムは玉座を立ち、後ろに飾られている巨大なコラール帝国の紋章を眺めながら腕を組んだ。
「・・・もし、金を出しても協力しないなどと抜かす者どもがおれば・・・誰かを殺しで見せしめにしてしまえ」
「・・・は?」
ギンガムが何を言ったのか一瞬分からなかった貴族は思わず訊き返す。他の二人の貴族も目を丸くしながらギンガムの背中を見つめた。
貴族達の驚きの表情に気付いていないのか、ギンガムは彼等に背を向けたまま喋り続ける。
「旧オラクル領にはまだ我々との戦いに敗れて牢獄に幽閉されている旧オラクル軍の兵士が大勢いるはずだ。その中から何人かを処刑し、その光景を住民達に見せてやればいい」
「それはつまり、見せしめの公開処刑をしろと・・・?」
「そうだ」
「しかし、そんな事をすればオラクル共和国の住民達はますます我々に敵意を向けて協力しなくなってしまいます。最悪、住民達が一斉に暴動を起こす可能性も・・・」
「ならその者達も捕らえて処刑してしまえばよいであろう?」
「ですが・・」
「我がコラール帝国に・・・いや、この俺に歯向かう者に待っているのは恐ろしい結末だけという事を奴等に思い知らせてやるのだ。そうすればこの大陸に住む全ても人間がコラール帝国こそが最強の国家、このギンガムこそがこの大陸の絶対なる支配者である事を理解する事になる!」
己の野心を誇らしげに語るギンガムとそんなギンガムを蔑む様な目で見つめる貴族達。彼等の目にはギンガムは皇帝ではなく、ただ自分の事だけを考える独裁者にしか見えなかった。
「俺には最強のブラッド・レクエムという駒がある。奴等の力を使えばこの大陸だけではない、海の向こうの大陸も我が物にできる。俺は・・・この世界の王になるのだぁ!フハハハハハハハッ!」
両手を高く上げながら謁見の間の天井を見上げ高笑いをするギンガム。彼の傲慢な笑い声は謁見の前だけではなく、外の廊下にまで聞こえていた。
謁見の間の入口前ではブラッド・レクイエム社の社長であるジャンヌが壁にもたれながらギンガムの笑い声を聞いている。しばらく目を閉じて笑い声を聞いていたジャンヌはやがてゆっくりと目を開き、視線だけを動かして謁見の間の扉を見た。
「・・・フッ、野心しか持たない坊やめ」
ジャンヌは鼻で笑いその場を後にする。ジャンヌもギンガムがコラール帝国の皇帝にふさわしくないと悟っているのかギンガムの愚かさに呆れていた。
誰もいない廊下を歩いているとジャンヌは前を見てピタッと立ち止まる。前からはジークフリートがドレス姿のブリュンヒルデを連れて歩いてくる姿が見え、ジークフリートとブリュンヒルデはジャンヌの前まで来て足を止めた。
「女王、此処にいたか」
「どうしたの?」
「さっき旧オラクル領に駐留している我が社の諜報班から連絡が入った。オルトロズムに潜伏しているオラクル共和国の要人がレヴァート王国に救援を要請したと・・・」
「レヴァート王国に?」
「ああ、恐らくこの数日中にレヴァート、ストラスタ、セメリトの同盟軍が進軍してくるだろう」
ジークフリートからの報告を聞いたジャンヌは腕を組んで考え込む。しばらくすると顔を上げてジークフリートを見上げた。
「レヴァート王国が動くという事は・・・当然七竜将も来るのよね?」
「ああ、間違いないだろう。奴等はこの世界で唯一我々に対抗できる力を持っているからな。奴等が同盟軍や潜伏しているレジスタンスと協力すればオルトロズムを制圧されるかもしれない」
「・・・だとするとちょっと厄介ね」
首都のオルトロズムを制圧されるという事は旧オラクル共和国を解放されるという事だ。ブラッド・レクイエム社にとっては何の痛手にもならないが、解放されてギンガムから文句を言われると面倒なため、オルトロズムを解放される事はブラッド・レクイエム社にはあまり良い事でない。
ジャンヌはどうするか廊下の窓から外を眺めながら考える。ジークフリートとブリュンヒルデは考えこむジャンヌをジッと見ていた。すると、ジャンヌはゆっくりと振り返り二人の方を見る。
「・・・いい機会だ。私が行って七竜将がこの一年でどれだけ強くなったのか確かめてこよう」
「何?」
「ジャンヌ様自ら旧オラクル領へ行かれるのですか?」
ジャンヌの言葉に意外そうな反応を見せるジークフリートとブリュンヒルデ。ジャンヌは自分の機械鎧の右手を見ながらどこか嬉しそうに笑う。
「ええ、この一年間、私は強者と言える者と戦っていなかったからな。七竜将がどれ程強くなったのか確かめてみるのも悪くない」
「・・・まぁ、お前が行きたければそれでもいい。だが、奴等は私達が思っている以上に強くなっているかもしれないぞ?前にレヴァート王国の城へ宣戦布告をしに行った時、ラピュス・フォーネの右腕が機械鎧になっていたからな」
「ラピュス・フォーネ・・・ああぁ、そう言えばそんな事も言ってたわね。きっとあの爆発の時、もしくはその直後に何らかの方法であっちの世界へ戻り、一年間、向こうで力を付けて戻って来んでしょう・・・」
「恐らくユートピアゲートの装置が誤作動を起こして奴等を向こうの世界へ戻したのだろう」
「随分と悪運の強い子達ね?」
「フフフ、確かにな。ところで、旧オラクル領へ行くとしても、流石に社長であるお前を一人で行かせる訳にはいかない。警護はちゃんと連れて行ってもらうぞ?」
「分かってるわ。私の直属の幹部と部隊を連れて行くつもりよ」
「ほう?因みに誰を連れて行くつもりだ?」
「そうねぇ・・・・・・フフ、『サンダーバード姉妹』にしようかしら」
ジャンヌは不敵な笑みを浮かべながら外を眺める。幼い少女の姿をしたブラッド・レクイエム社の女王、その姿をジークフリートとブリュンヒルデは黙って見ていた。
旧オラクル領へ向けてティムタームの町を出たヴリトラ達。だが既に同盟軍の動きはジークフリート達の耳に入り、ジャンヌ自ら旧オラクル領へ向かおうとしている。その大きな脅威にヴリトラ達はまだ気づいていなかった。




