第二百九十一話 遠き激戦の地 旧オラクル共和国
オレンジ色に染まった空。そんな美しい夕焼け空の下にあるレヴァート王国首都のティムターム。町の正門前の見張り小屋の前には数人のレヴァート兵の姿があり、周囲を見回している。更に町を取り囲む城壁の上からも大勢のレヴァート兵が遠くを見張っており、町の守りは万全の状態だ。
正門前を見張っている門番のレヴァート兵達は夕焼け空を眺めながら呑気そうな顔をしていた。
「もうすぐ今日も終わりだなぁ。平和に過ごせてよかったぜ」
「おいおい、今の状況でそれを言うのはマズいんじゃないか?」
「何でだよ?」
「俺達がこうしている間にも遠くでは戦争してるんだぜ?最前線で命を賭けて戦ってる連中は死と隣り合わせなんだ。平和に過ごせない彼等の立場になって考えてやれよ」
「ヘッ、関係ねぇよ。俺達は所詮町を護る門番だぜ?町を護る事しか任せてもらえない俺らには最前線で戦うエリート様達の都合なんて知った事じゃねぇよ」
「お前なぁ・・・」
命を賭けて戦っている仲間を軽く見ている同僚を呆れた様な目で見るレヴァート兵。そんな彼の視線を気にもせずにもう一人のレヴァート兵は欠伸をする。
ダークエルフと同盟を結んで今日で丁度二週間が経った。ヴリトラ達がティムタームに戻ってすぐにヴァルボルトは黄金近衛隊を連れてダークエルフの集落へ行き、正式に同盟の組んだ。それからダークエルフ達はレヴァート王国の騎士団と共に前線へ赴き、レヴァート領内、そして同盟国であるストラスタ公国とセメリト王国の領内に侵入して来たコラール帝国軍を次々に薙ぎ倒していく。幸いブラッド・レクイエム社の機械鎧兵士部隊はいなかったので苦戦する事も無かった。機械鎧兵士がいればダークエルフ達がいても苦戦していただろう。
ダークエルフ達の活躍は瞬く間に広がり、三国の住民達もダークエルフ達に感謝するようになる。中にはエルフが信用できないという者もいるがエルフを信頼する者達の言葉で少しずつ信用するようになっていった。しかし、その一方でダークエルフが戦線に加わり自分達が優勢に立った事で町を護る兵士達など、最前線へ行かない者達の中に怠惰な態度を取る者も出て軍の中で問題が起きる事が多くなっていた。
「今まで人間を信用していなかったエルフ達が俺達ともう一度手を組んで戦おうって言ってくれたんだぞ?それなのに俺等人間が怠けたり最前線で戦っている奴等を気にしなくてどうするんだよ」
「俺等みたいな最前線で必要とされない連中が最前線の戦いを心配したって意味ねぇだろう。俺達は首都を守ってアイツ等の帰りを待ってりゃそれでいいんだよ」
「ハァ、お前にはレヴァート王国兵としての誇りや仲間を思う気持ちがねぇのかよ」
「誇りや思いだけで戦争に勝てるんなら苦労しねぇよ」
「まったく・・・」
仲間の屁理屈を聞いてレヴァート兵は疲れた様な顔で俯く。確かに誇りや仲間を思う気持ちだけで勝てるなら苦労はしない。だが、仲間を思う気持ちがあればそれが戦いで自分達の力にもなる事がある。それを知っているかいないかで戦場での生存率は変わって来るものだ。
門番達が気まずい空気の中で会話していると、見張り小屋の中にいた別のレヴァート兵が望遠鏡で遠くを見ていると町に近づいて来る一団を見つけた。
「おい、こっちに何か近づいて来るぞ」
「何だ?商人か?」
「いや、あれは騎士隊だな。多分オラクル領で戦ってた騎士隊が前線から戻って来たんだろう」
「そうか。よし、正門を開いて橋を下ろせ!」
レヴァート兵の一人が城壁の方を向いて手を振り、城壁の隙間からこちらを見ている城壁内のレヴァート兵に合図を送る。それを見た城壁内のレヴァート兵は隣にある正門の開閉レバーを引き、正門を開くのと同時に町を囲む川を渡る為の跳ね橋を下ろした。
現在、レヴァート、ストラスタ、セメリトの同盟軍はコラールの領土となっている旧オラクル領を制圧する為に進軍している。コラール帝国に制圧されてからオラクル共和国は食料、金銭、物資などの殆どをコラール帝国に奪われてしまい、旧オラクル領に住む者達は貧困に苦しんでいる。にもかかわらずコラール帝国は旧オラクル共和国の人間達を食料や物資の収入源、進軍や防衛の人材など様々な事に利用しており、完全に旧オラクル共和国の人間を奴隷扱いしていた。勿論、旧オラクル共和国の人間も黙っているはずが無く、生き残った共和国の要人や軍の人間は地下に潜みレジステンスを結成、コラール帝国から国を取り戻す為に戦っている。
同盟軍はコラール帝国の収入源となっている旧オラクル領を制圧し、コラール帝国の収入源を押さえると同時に国を解放する事を決め、旧オラクル領への進撃を開始したのだ。
正門が開き、跳ね橋が完全に下りるのと同時に前線から戻って来た騎士隊が見張り小屋の前までやって来て門番に止められる。先頭にいた男性騎士は馬から降りて自分の通行証の門番に見せた。門番のレヴァート兵は通行証を確認しながら騎士の後ろをついていた他の騎士やレヴァート兵、荷車に乗って運ばれている負傷兵などを確認する。
「・・・見たところ、かなり厳しい戦いだったようですね?」
「ああ、今のオラクル領は殆どの町や村にコラール帝国軍やコラール帝国に支配された旧オラクル軍の兵士が駐留している」
「コラールと旧オラクルの両軍が駐留しているとなるとかなりの規模になるんじゃないですか?」
「そりゃあそうさ。何しろちっぽけな村に一個大隊程の戦力が駐留してるんだからな」
「い、一個大隊!?」
門番は男性騎士から現在の戦況、拠点に駐留している敵の戦力を聞かされて驚く。他の門番達も驚いて男性騎士の方を向く。
「一個大隊と言えば、ざっと四百人はいるんじゃないですか?」
「ああ、まさにその通りだ。ちっぽけな村にそれほどの敵がいるとは誰も考えなかったからな。制圧に向かった部隊はアッサリと敗北し撤退したって話だ」
「そ、そうなんですか・・・」
「我々も一つの町を制圧する為に進撃したのだが、敵の予想外の戦力に敗北してな、こうして首都に戻る羽目になったんだ・・・」
男性騎士は傷だらけの自分の体、負傷している部下達を見て悔しそうな顔を見せる。門番のレヴァート兵は自分が予想している以上に最前線の戦況が厳しいと知り驚きを隠せずにいた。
だが、驚くべき事は他にもあった。男性騎士の話では町や村に駐留しているコラール兵達は旧オラクル兵達を危険な前衛に立たせ、自分達は安全な後衛で寛いでいるとの事。更に自分達が上手く戦えるように旧オラクル兵を囮に使い、敵が喰い付いたところを攻撃すると言うとんでもない作戦まで取るらしい。
そんな話に門番は信じられないのか愕然とした顔で聞いていた。
「・・・自分達は安全な所におり、支配下にある旧オラクルの兵士達を前に立たせるなど、奴等には情けという物が無いのですか!?」
「無いから平気でそんな事ができるのだろう・・・」
「クッ・・・これも、新しく皇帝になったギンガムの仕業なのでしょうか?」
「ああぁ、恐らくな」
悪逆皇子と言われたコラール帝国の現皇帝ギンガムの非道な行いは既に大陸中に広がっている。もはやコラール帝国の住人以外にはギンガムはただの傲慢な悪にしか見えなかった。
「それから、噂で聞いたのだが、最近コラール帝国が旧オラクル領の各拠点に大量の猛獣を送り込んだって話を聞いた」
「猛獣、ですか?」
「ああ、グリードベアやバンディットウルフ、あとオラクル共和国が使っていた『グリフォン空撃隊』も主要都市に配備するとか」
「・・・グリフォンは分かりますが、どうしてグリードベアやバンディットウルフなど凶暴な奴まで・・・」
「例のブラッド・レクイエムって組織が何らかの方法で猛獣達を命令を聞く様にしたって話だ」
「そんな事ができるんですか?」
「さぁな、まだ詳しい情報が無いから分からない。ただ、この事は既にヴァルボルト陛下や他の同盟国の王族の方々も知っているらしい。だから何とかする為の対策を練ったとか」
「対策?」
「・・・例の傭兵隊だよ」
「・・・・・・ああぁ、七竜将ですか。確かに彼等なら猛獣もなんとかしてくれそうですね」」
「ああぁ。あと、最近我が国でも新しく猛獣を使った部隊を結成という話も出ているようだ」
「ええぇ?本当ですか?」
「何でも四ヶ月ほど前に優秀な魔獣使いを見つけて雇ったとか」
新しくレヴァート王国も猛獣を使った部隊を結成するという話に門番は意外そうな顔をする。
レヴァート王国は建国から一度も猛獣を使った部隊を結成しようとはしなかった。だが、ブラッド・レクイエム社とコラール帝国の契約の話、彼等の侵略行動といった行為に流石にこのままではいけないと考えたヴァルボルトが元老院と話し合った結果、より戦力を強くする為に半年前から猛獣を使った部隊の結成と猛獣の調教を始めていた。
だが、今まで一度も猛獣を扱った事の無いレヴァート王国がいきなり猛獣を手懐ける事などできるはずがない。そこで四ヵ月前に優秀な魔獣使いを見つけ出し雇ったのだ。それからは猛獣の調教も部隊結成もスムーズに進み、結果、あと少しで実戦投入できるところまで来ていた。
「あと少しで実戦投入できるところまできている。あとは部隊の隊員の選抜と実戦経験を積ませる事だけだ」
「そうですか・・・・・・おっと、すみません。つい長話をしてしまって・・・どうぞ、お通りください」
最前線の状況を聞いた門番は通行証を男性騎士に返し、レヴァート兵と荷車に跳ね橋を渡らせた。先頭にいた男性騎士は仲間が全員は入るのを確認してから馬を引っ張り橋を渡る。騎士隊全員が橋を渡り、町へ入るのを確認した門番達は見張り小屋に入り町へ戻った騎士隊の情報を羊皮紙に記す。
「どんどん戦いが激しくなっていくな。猛獣を使う部隊まで使ってきやがるとは・・・エルフだけじゃ心細いぜ。早いところ、その猛獣を使った部隊を結成してもらわないとな・・・」
不安を口にしながら羽ペンで羊皮紙に文字を書いていく門番。他の門番達も少し不安そうな顔で上がっていく橋を見ていた。
正門前で門番達が話をしている時、七竜将が所有する訓練場では白竜遊撃隊の隊員達が訓練をしている姿があった。皆、剣の特訓や銃器の射撃訓練などを行い、戦いに向けて己を鍛えていた。
訓練する若い騎士達の中に彼等を指導しているジャバウォック、ニーズヘッグ、ジルニトラの三人の姿がある。彼等から数十m離れた所では長椅子に座って何かの話をしているヴリトラとラピュスの姿があった。
「・・・そうか、では今では傭兵組合の傭兵達も最前線へ出る事が多くなったのだな?」
「ああ、軍や騎士団と一緒に戦場に出て戦ってくれる傭兵達には莫大な報酬を用意するって組合本部にも依頼が来てたよ」
ラピュスはヴリトラから傭兵組合に登録している傭兵達に王国から最前線で戦ってほしいという依頼が来ている事を聞いて少し驚いた顔を見せる。
今までは王国から直接傭兵組合に依頼する事はあったが、全て上のランクの傭兵にしか依頼されなかった。だが、今では全てのランクの傭兵達に王国からの依頼が殺到しており、その全てが最前線の旧オラクル領、もしくはその国境近くで行われる依頼ばかりだ。それだけ同盟軍は旧オラクル領の進撃に力を注いでいるという事になる。
「皆、一万ティル以上の報酬が出るっていう依頼を聞いて目の色を変えたよ。自分が受ける自分が受けるって傭兵同士でもめるくらいにな。まったく、これじゃあ国の為に依頼を受けているのか報酬の為に依頼を受けてるのか分からねぇよ」
「まぁ、殆どの傭兵が報酬目当てだろうな・・・」
「やっぱ、ラピュスもそう思うか?」
「ああ。そう言えば、お前達もダークエルフの森から戻って来てから今日まで色んな依頼を受けていたな?」
「まぁね。最前線の補給基地へ食料を運んでほしいとか、前線近くのレヴァート王国の拠点を防衛してほしいとかな」
「ん?最前線へ出て戦ってほしいという依頼は無かったのか?」
「無いよ。ガバディア団長から聞いたけど、最前線にはブラッド・レクイエムの部隊の姿は無いから俺達の出る幕は無いんだってさ?騎士団やダークエルフ達だけでも十分だって」
「そうか・・・考えてみれば、お前達に最前線へ出ろという依頼があれば私もこの数日間、町で過ごす事などできなかったな」
ラピュスは夕焼け空を見上げながらこの数日間、ティムタームの町でのどかに過ごしていた事を思い出す。ヴリトラはそんなラピュスの横顔を見て自然と笑みを浮かべた。
「・・・ん?どうした?」
「あ、いや、何でもない」
顔を見られている事に気付いたラピュスがチラッとヴリトラの方を向いて尋ねる。ヴリトラは慌てて首を横に振って横顔を見つめていた事をごまかした。そんなヴリトラをラピュスは不思議そうに見ている。
二人がそんな会話をしているとリンドブルムが訓練場に入って来てヴリトラとラピュスの下へ走って来た。
「ヴリトラ、ラピュス!」
「ん?リブル、どうした?」
走って来るリンドブルムにヴリトラは尋ねる。ヴリトラとラピュスの前に来たリンドブルムは少し息を切らせながらズィーベン・ドラゴンのある方角を指差した。
「ズィーベン・ドラゴンにパティーラム様とガバディア団長が来てるんだ。すぐに戻って来て」
「何?姫様と団長が?」
リンドブルムからの知らせを聞いたラピュスは思わず立ち上がる。ヴリトラも新しい依頼が来たかと感じて真面目な顔になる。そして騎士達に指導しているジャバウォック達に元へ走り、リンドブルムの知らせを伝える。それを聞いたジャバウォック達はすぐに訓練を中止にし、ヴリトラ達は急ぎズィーベン・ドラゴンへ戻った。
ズィーベン・ドラゴンに戻ると中ではパティーラムとガバディアが来客用の席に座っている姿があり、その近くでは留守番していたオロチ、ファフニール、偶然ズィーベン・ドラゴンに来ていたラランが立っている。皆、ヴリトラ達の帰りを待っていたようだ。
「お待たせしました、パティーラム様」
「遅れて申し訳ありません」
「いいえ、大丈夫ですよ。私達も先程来たところですから」
謝るヴリトラとラピュスにパティーラムは笑顔で答える。
中に入ったヴリトラ達は来客用の机の前まで行き、ヴリトラとラピュスはパティーラムとガバディアの向かいの席に座り、リンドブルム達は二人の後ろに立ってパティーラムとガバディアを見つめる。
全員が集まるとパティーラムは真面目な顔でヴリトラ達を見回しながら口を開く。
「これで全員揃いましたね?では、早速お話を始めさせていただきます」
「また何かの依頼ですか?」
ヴリトラが尋ねるとパティーラムはゆっくりと頷く。
「ハイ。ただ、今回は今までの依頼と比べてかなり危険です。そして当分の間、ティムタームに戻る事はできません」
「長期間で危険な仕事・・・それで、内容は何なんです?」
ニーズヘッグが腕を組みながら尋ねるとガバディアがパティーラムの代わりにその質問に答えた。
「・・・旧オラクル共和国の首都、『オルトロズム』の制圧だ」
「首都の制圧?」
ガバディアの口から出た言葉にニーズヘッグは意外そうな顔で驚く。勿論周りにいるヴリトラ達も同じだ。
驚くヴリトラ達を見ながガバディアは詳しい話を始める。
「現在、我々レヴァート、ストラスタ、セメリトの同盟軍はコラール帝国の領土となった旧オラクル領を進撃している。帝国に食料や物資などを奪われている旧オラクル共和国を制圧すれば共和国を解放するのと同時に帝国の収入源を押さえる事ができるからだ。数日前に地下に潜伏している旧オラクル共和国の要人やレジスタンスから救援の受けてな。彼等の為にも首都を制圧し、オラクル共和国を帝国の手から解放する事にしたのだ」
「ですが、首都となれば当然護りも固いはずです。恐らく、首都やその周辺の町の防衛部隊にはブラッド・レクイエムの兵士もいるはず。更に最近では猛獣を使った部隊までもが旧オラクル領の各拠点に配置されているようなのです」
「そう言えば、オラクル共和国のグリフォンの部隊を送り込んだって話を町で聞いた事があるな・・・」
パティーラムの説明を聞いてジャバウォックが顎に手を当てながら自分が聞いた噂話を思い出す。周りにいるヴリトラ達も聞いた事がある噂を思い出して難しい顔をする。
「あっ!私も兵士の人から聞いたんだけど、最近オラクル共和国に駐留している同盟軍の拠点が沢山の猛獣に襲われて全滅したって聞いた事があるよ?」
「ああ、その話は私も聞いた。何でもグリードベアやバンディットウルフの群れに襲われたとか・・・」
ファフニールとオロチがレヴァート兵から聞いた話を思い出してヴリトラ達に伝える。それを聞いたヴリトラは腕を組み俯きながら考える。
「グリードベアにバンディットウルフか・・・以前俺達が遭遇した事のある猛獣だな」
「ええ、確かあたし達が依頼を受けてヨムリ村へ行った時に退治したのよね?」
「ああぁ、あの時か・・・」
ジルニトラが過去の依頼でグリードベアと遭遇した時の事を話し、それを聞いたヴリトラは僅かの表情が曇らせる。ラピュスとジャバウォックも同じような顔をしていた。
傭兵組合に入って間もない頃、コボルトクラスの傭兵団、太陽戦士団から共に依頼を受けないかと誘いを受け、共に向かったヨムリ村で遭遇したグリードベア。太陽戦士団と力を合わせてグリードベアを倒したものの、その後に遭遇したのがブラッド・レクイエム社によって改造され、機械鎧を纏ったグリードベアだった。機械鎧怪物と呼ぶその猛獣を何とか倒したものの、その後に出くわしたブラッド・レクイエム社の機械鎧兵士によって、太陽戦士団は全員殺害されてしまう。ヴリトラ達にとっては納得のいかない結果に終わってしまった。
嫌な過去を思い出したヴリトラだがすぐに気持ちを切り替えたラピュスとガバディアの方を向いて話を戻した。
「そのグリードベアとバンディットウルフもブラッド・レクイエムが旧オラクル領へ送り込んだものなんですか?」
「恐らくそうでしょう。生き残った兵士の話ではその猛獣達は全身に鎧の様な物を纏っており、普通の猛獣と比べて統率された動きを取っていたとか・・・」
「・・・間違いない、機械鎧怪物だ!」
「ブラッド・レクイエムめ、また厄介なものを!」
機械鎧怪物と戦闘経験のあるヴリトラとラピュスは危険な生物兵器を送り込んだブラッド・レクイエム社に腹を立てる。リンドブルム達も表情が鋭くなっており、僅かに怒りが感じられた。
そんな彼等を見たパティーラムは少し驚いた様な表情を浮かべるがすぐに切り替えて話を戻した。
「我々も敵の猛獣部隊に対抗する為に猛獣やモンスターの部隊を結成する事にしました。既に調教も済み、あとは実戦に投入するだけです。ですが、ブラッド・レクイエム社の兵士や彼等が操る猛獣が出てくるとなると我々だけではどうする事もできません。ですから今回、皆さんに首都制圧を依頼したのです」
「・・・成る程、確かに奴等が動くとなれば例えエルフの力を借りて戦力が増えたとしてもキツイですね・・・」
「引き受けていただけますか?」
パティーラムが尋ねると、ヴリトラは笑いながら頷く。
「勿論です」
ヴリトラが依頼を引き受けた事にラピュスや他の七竜将メンバーは「やっぱりな」と言いたそうに微笑む。ヴリトラなら絶対に引き受けると彼等は分かっていたのだ。
パティーラムとガバディアもヴリトラ達が引き受けてくれると信じていたのか笑って彼等を見ている。
「ありがとうございます」
「今回は依頼が依頼だからな。陛下もそれなりの報酬を用意すると仰られた」
「そうですか・・・」
ガバディアから報酬の事を聞かされ、ヴリトラは頷きながら返事をする。
「出発は明日の早朝だ。白竜遊撃隊を連れて旧オラクル領の国境を越え、そこから現在同盟軍が拠点を置く『ボボ』の町へ向かってくれ。あと、今回は既に最前線へ向かっている騎士隊の者達と共に任務に当たってもらう。いくらお前達でもわずか数人で首都を制圧するなど不可能だからな」
「分かりました」
「それからもう一つ、町を出る時に白竜遊撃隊以外にもう一人、同行する部隊がある。その者達とも一緒に戦ってもらうぞ?」
「白竜遊撃隊以外の部隊?」
「どんな部隊ですか?」
ラピュスが小首を傾げながら尋ねると、ガバディアが髭を触りながらニッと笑う。
「結成されたばかりの我がレヴァート王国の闘獣戦士隊だ」
「闘獣戦士隊・・・先程仰られた調教した猛獣やモンスターの部隊ですか?」
「そうだ。その第一部隊を早速実戦に投入する事になったのだ。そしてその部隊長は猛獣達の調教をしてくれた元傭兵の魔獣使い・・・」
「元傭兵の・・・」
「魔獣使い?」
リンドブルムとファフニールが不思議そうにガバディアの言葉を繰り返す。この時の二人、いや七竜将全員が何かに引っかかり考え込んでいた。傭兵で魔獣使い、その二つに当てはまる人物にヴリトラ達は会った事があるような気がするからだ。
ヴリトラ達が考え込んでいるとガバディアがその部隊長の名前を口にした。
「・・・ガズン・バーノードだ」
「「「「「ガズン!?」」」」」
名を聞いた直後に一斉に声を揃えて驚くヴリトラ達。パティーラムとガバディアはそんなヴリトラ達に驚き目を丸くした。
そう、ガズンは嘗て七竜将と戦い、ストラスタ公国からレヴァート王国に亡命した魔獣使いの男だ。元老院の陰謀で七竜将が指名手配にされた時も彼等を助け、七竜将とちょっとした因縁を持つ人物である。
「ガズンのおっさんがレヴァート王国の猛獣調教師になってたなんて・・・」
「ビックリ・・・」
意外な場所でガズンの名を聞いた事でヴリトラとファフニールは驚きを隠せずにいる。勿論、ラピュス達も驚いたままだ。新たな任務を受けた直後に新しい仲間の名前がガズンである事に知ったヴリトラ達はそれから詳しくガズンの事をガバディアから聞いたのだった。
エルフと同盟を結んでしばらくした時に新しい依頼が入って来た。旧オラクル領への進撃という大きな依頼を受けたヴリトラ達は懐かしい名前を聞く。今度の依頼ではどんな出来事と戦いがヴリトラ達を待っているのだろうか。
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