表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
機械鎧(マシンメイル)は戦場を駆ける  作者: 黒沢 竜
第十六章~静かな森の妖精達~
291/333

第二百八十九話  反撃開始! バロンの秘密と放たれる斬撃

 バロンに動きを読まれて悪戦苦闘のヴリトラ達。一度はバロンに傷を負わせたものの殆どダメージを与えられず、ヴリトラ達の体力が削られていく一方だった。そんな中、バロンは戦いに終止符を打とうと死刑宣告をする。

 体に火傷を負いながらも余裕の態度のままのバロンは仮面の目を光らせながらヴリトラ達を見つめる。バロンを睨むヴリトラとリンドブルム、その後方で痛む体を動かしながら体勢を立て直すラピュスとジャバウォック。そして離れた所で戦いを見守りながらエリスとリーニョを守るララン。ダークエルフの集落前では緊迫した空気が漂い続けている。


「さぁ、もう終わらせよう。これ以上戦いが長引くとアダンダラが不機嫌になるからな」


 森の入口前で戦っている仲間の事を口にしながら内蔵剣を中段に構えるバロン。そんなバロンを見てヴリトラも森羅を中段構えに持ち、リンドブルムはダークゴモラをホルスターに納めてライトソドムを両手で構える。ライトソドムの銃身、銃口にバチバチとスパークが発生し、レールガンシステムが起動した。

 準備を終えたヴリトラとリンドブルムを見たバロンは二人に向かって走り出す。それと同時に盾を前に出して小型ミサイルを発射しようとする。それを見たヴリトラは両足に力を入れ、バロンに向かって走り出す。リンドブルムはライトソドムでバロンを狙い引き金にゆっくりと指を掛け、いつでも撃てる準備をした。

 ヴリトラとバロンはお互いが間合いに入ると剣を勢いよく振り刃を交える。火花と高い金属音が響く中で睨みある両者。バロンは再び仮面の目を光らせてヴリトラを見つめた。


「これ以上戦っても無様な姿を晒すだけだ。さっさと降伏しろ、そうすれば命だけは助けてやらん事もないぞ?」

「ブラッド・レクイエムの言う事なん信じられるかよ!」

「・・・フッ、愚かな」


 そう言ってバロンは盾をヴリトラに向けて小型ミサイルを発射しようとする。目の前にいるヴリトラに向けてミサイルを撃てばその爆風でバロン自身も吹き飛ばされてしまうと普通は誰もがそう考えるだろう。だが、バロンの盾には電磁シールドが組み込まれている為、普通の盾よりも防御力が高い。それなら至近距離からの爆発にも十分耐えられる。つまり、爆発の受けるのはヴリトラだけという事になるのだ。

 ヴリトラはそれに気づいていたのか盾を睨みながら歯を噛みしめる。そんな時、ヴリトラの後方でライトソドムを構えていたリンドブルムが高くジャンプし、約5mの高さからヴリトラとバロンを見下ろし、そのままバロンに狙いを付けてレールガンを撃とうとした。すだがその直後、バロンは突然盾の向きをヴリトラから空中にいるリンドブルムに変えた。


「えっ!?」


 いきなり自分に盾を向けるバロンの姿に驚くリンドブルム。そしてそれと同時にバロンは持ち手のスイッチを入れて小型ミサイルを発射した。そう、バロンはリンドブルムが空中から銃撃してくる事も読んでいたのだ。

 リンドブルムは迫って来る小型ミサイルを撃ち落とそうとレールガンを発射した。超高速で発射された弾丸は四発の小型ミサイルの内、一発に命中し爆発させる。周りの小型ミサイルもその爆発に巻き込まれて誘爆し、全ての小型ミサイルは空中で爆散した。だが、小型ミサイルに狙いを付けた為、レールガンはバロンに当たる事は無かった。


(コイツ、またリンドブルムの動きを読みやがった!?)


 心の中で驚くヴリトラは上空で起きた爆発を見上げる。

 バロンはヴリトラのその一瞬の隙を見逃さず、森羅を押してヴリトラの体勢を崩すとそのまま内蔵剣で突きを放つ。ヴリトラは何とはかわそうとしたが体勢を崩されていた為、かわす事ができずに左脇腹に突きを受けてしまった。


「ぐうぅ!」

「フッ・・・」


 苦痛で表情を歪めるヴリトラを見て小さく笑うバロンは内蔵剣を引くとヴリトラの腹部にキックを撃ち込み蹴り飛ばす。蹴られたヴリトラは4mほど先で仰向けに地面に叩き付けられた。

 ヴリトラが倒れたのを見たバロンは今度はジャンプしているリンドブルムに向かって高く跳び上がり、リンドブルムの目の前までやって来ると内蔵剣を振り下ろして攻撃する。驚くリンドブルムはライトソドムで応戦しようとするが、接近戦では銃より剣の方が速く、応戦する前に左肩の辺りを斬られてしまう。


「うあぁっ!」


 痛みに声を漏らすリンドブルムは落下して地面に叩き付けられる。バロンは地上に着地すると今度はラピュスとジャバウォックに向かって走り出した。

 ラピュスとは自分達に向かって走って来るバロンを見ながらアゾットを構え、ジャバウォックは機械鎧の内蔵機銃を撃って迎撃する。バロンは飛んで来る無数の弾丸を全て内蔵剣や盾で防ぎ、一発も食らわずに二人の前までやって来る。そして素早くラピュスとジャバウォックにキックを撃ち込み蹴り飛ばした。


「うわぁ!」

「ぐおぉ!?」


 蹴り飛ばされた二人もヴリトラやリンドブルムの様に声を上げながら地面に叩き付けられて倒れてしまう。そんな二人を見ながら笑うバロンはチラッと今まで戦いに参加していなかったララン達の方を向き内蔵剣の切っ先を向ける。

 ララン達は今度は自分達に襲い掛かろうとしているバロンを見て一斉に武器を構えて警戒した。


「・・・こっちを見てる」

「今度は私達を狙うつもりか!?」

「二人とも、気を付けるんだ!」


 リーニョがラランとエリスに忠告して弓矢を構える。ラランも突撃槍からSR9に持ち変えてバロンに狙いを付け、エリスも騎士剣を強く握って構えた。

 遠くで自分を睨むララン達を見たバロンは楽しそうな声で笑い出す。


「フフフフ、勇ましい娘達だ。自分達とは比べ物にならない強者に立ち向かうその勇気は見上げたものだ・・・その勇気に敬意を表し、私も全力で叩きのめしてやろう」


 バロンは内蔵剣と盾を構えて三人に向かって走り出す。ラランは走って来るバロンに向かってSR9を発砲し、リーニョも矢を放ち迎撃した。しかし二人の攻撃をバロンはいとも簡単にかわし少しずつ近づいて来る。

 弓ではダメだと感じたリーニョは再び浮遊魔法を使い、地面に落ちている超振動マチェットを浮かせてバロンに向かって飛ばした。バロンは飛んで来る超振動マチェットを盾で防ぐと素早くララン達に盾を向けて小型ミサイルを発射する。飛んで来る小型ミサイルに驚く三人は急いでその場から離れようとするが反応が遅れてしまい、四発の小型ミサイルは全て三人の足元に当たり爆発してしまう。


「「「わあああああぁ!!」」」


 爆風で飛ばされた三人は叫び声を上げながら地面に叩き付けられる。ラランが痛み体を起こしてエリス達の方を向くと、離れた所で苦痛に表情を歪めるエリスとリーニョの姿があった。ラランは痛みに耐えながら何とか立ち上がり、落ちている突撃槍を拾い上げ、バロンの方を向いて構える。バロンはボロボロになりながらも突撃槍を構えて自分を睨む少女を見て意外そうな反応を見せた。


「ほぉ?ミサイルの爆風に飛ばされながらも立ち向かおうとするとは大したものだ。だが、その分愚かだな。大人しく倒れていれば痛い目に遭わずに済むものを・・・」

「・・・痛いのが嫌だからって戦わないのは戦士じゃない。ただの臆病者」

「フッ、なら戦士らしく此処で華々しく散るがいい!」


 そう言ってバロンは再び盾をラランに向けて小型ミサイルを撃とうとする。ラランは突撃槍を構えながらバロンに意識を集中させた。いつバロンが小型ミサイルを撃って来てもすぐに回避できるようにする為だ。バロンはラランを見つめながらまた仮面の目を光らせた。

 

(・・・奴はもうすぐ左へ走り出し、しばらくすると大きく左へ跳ぶ。そして両足が地面に付いた瞬間に私に向かって走り出し、突撃槍を構えながら突進してくる。なら、奴が両足を地面に付けた瞬間に小型ミサイルを発射して粉々にしてやればいい)


 心の中で作戦を考えるバロンはラランが行動に移るのをジッと待つ。すると、ラランはバロンの予想通り大きく左へ走り出した。その後を追う様に盾を動かし、ラランがジャンプして足を付ける場所まで盾を持って行く。これでラランがジャンプして地面に両足が付いた瞬間にスイッチを押せば小型ミサイルが発射され、ラランは跡形もなく吹き飛ぶ、バロンはそう考えていた。

 ラランは両足に力を入れてバロンの予想通り左へ跳ぼうとした。だがその直後、ラランはふと足元を見て何かを見つけ、目を見開き驚く。そしてそれを見つけた直後、地面を蹴ってラランは跳んだ。それと同時にバロンも持ち手のスイッチを押して小型ミサイルを発射する。小型ミサイルがラランに命中する、誰もがそう思った瞬間、予想外の出来事が起きた。なんと命中するとも思われていた小型ミサイルがラランに命中せずに地面に当たり爆発したのだ。


「何っ!?」


 小型ミサイルがラランに命中していない事に驚くバロン。戦いを見ていたヴリトラ達も少し驚いた顔をしている。何が起きたのか分からないバロンはフッとラランの方を見た。ラランはバロンが跳ぶと予想していた方向とは全く逆の方向へ跳び、姿勢を低くしながら丸まっている。その姿はまるで何かに覆いかぶさり、それを守っているかのよう見えた。

 丸くなっているラランがチラッと丸まっている自分の下を覗き込むと、そこには一匹のリスがキョロキョロ暗くなっている周囲を見回す姿があった。実はラランは走っている最中に一匹のリスを見つけ、そのまま放っておくと戦いに巻き込まれてしまうと考え、リスを守る為にリスの方へ跳んでリスを自分の体で覆い隠したのだ。


「・・・よかった」


 リスが無事なのを見てニコッと笑うララン。今まで見せた事の無い満面の笑みだった。

 予想外の出来事に驚きを隠せないバロンが丸まっているラランを見て呆然としていた。すると、呆然として隙だらけのバロンにヴリトラは急接近し森羅で横切りを放つ。ヴリトラの存在に気付いたバロンは咄嗟に後ろへ跳んでヴリトラの斬撃をかわそうとする。だが回避が間に合わず、森羅の切っ先はバロンの仮面の左目を掠めた。


「ちぃ、惜しかったなぁ」

「チッ、やってくれたな。一度ならず二度も私に傷を・・・」


 バロンはヴリトラに切られた仮面の左目を押さえながら低い声を出す。ヴリトラは体中の痛みに耐えながら森羅を構えながらバロンを睨んでいた。するとヴリトラはゆっくりと森羅を下して小さく笑い出す。


「・・・どうやら俺の予想は正しかったみたいだな」

「・・・何?」


 ヴリトラの言っている事の意味が分からないバロンは訊き返した。ヴリトラは森羅の切っ先をバロンに向けるとゆっくりと口を動かした。


「・・・お前のその聖獣の仮面、機械鎧だろう?」

「!!」


 バロンはヴリトラの言葉に大きく反応する。二人の周りにいるラピュス達もヴリトラの言葉に意外そうな顔を見せた。


「・・・図星みたいだな?」

「・・・・・・何故分かった?」


 観念したのかバロンは自分の仮面が機械鎧である事を認め、なぜ機械鎧である事が分かったのかヴリトラに尋ねた。するとヴリトラはバロンの右腕の機械鎧を指差し、説明を始める。


「最初に違和感を感じたのはお前と戦い始めた時だ。お前は最初、攻撃せずに俺達の動きを観察し、しばらくしてようやく攻撃を始めた。だけど、お前は右腕の機械鎧に内蔵されている超振動剣と盾のミサイルだけを使って攻撃して来た。俺達は今まで多くのブラッド・レクイエムの幹部と戦って来たが、その殆どが複数の機械鎧を纏い、多くの内蔵兵器を機械鎧に仕込んでいたんだ。それを考えると、お前の機械鎧や内蔵兵器の数が少なすぎる。絶対に他に何か武器は隠していると考えた」


 ヴリトラは戦いが始まって自分が感じた事を説明し始め、バロンはそれを黙って聞いている。ラピュス達も黙ってヴリトラとバロンを見ながら会話を聞いていた。


「そして、俺がマイクロ弾を撃ってお前の近くで爆発した時、お前は真っ先に自分の頭を盾で守った。普通は爆発から頭を守る為にやったと考えるが、お前の顔はそのゴツイ仮面で守られているんだ。爆発に巻き込まれても顔は大きな傷を負う事は無い。にもかかわらずお前は体じゃなくて顔を守った。そこで仮説を立てた、お前は本当は顔じゃなくてその仮面を守ったんじゃなかってな」

「・・・・・・」

「だけど、体に大火傷を負ってまでその仮面を守る理由が分からない。そんな時、ラピュスの言った言葉を思い出したんだ。『未来が分かるなんて、まるで予言者だな?』って言葉だな」

「それがどうした?」

「お前はこれまで信じられないくらい俺達の動きや攻撃を読んでやがる。まるで本当に未来が見えてるようにな。そしてお前はその仮面を体よりも優先的に守った。俺はふと考えた、もしかするとその仮面には敵の動きを先読みする事のできる仕掛けが施されてるんじゃないかってな」


 自分の想像を静かに語り続けるヴリトラとそれを黙って聞くバロン。会話だけのはずなのに二人の間には今にも戦いが始まりそうな緊迫した空気が漂っていた。


「それで?この仮面にどんな仕掛けが施されているのか分かったのか?」

「大体はな」

「面白い、聞こう」

「お前の仮面には様々なセンサーで相手の動きを分析し、その行動を先読みする行動予測装置、『オーディンシステム』が組み込まれてるんだろう?」


 ヴリトラが口にしたオーディンシステムという言葉を聞き、バロンはピクッと反応する。

 離れた所からヴリトラが口にしたオーディンシステムという言葉を聞いたジャバウォックは少し驚いた様な顔をしていた。


「オーディンシステムだと・・・アイツ等、そんな物まで持っていたのか・・・」

「ジャバウォック、オーディンシステムとは何だ?」


 ジャバウォックの隣で話を聞いていたラピュスがオーディンシステムについてジャバウォックに問いかける。ジャバウォックはヴリトラとバロンを見つめながらオーディンシステムについて語り始める。


「オーディンシステムって言うのはアメリカの国防高等研究計画局が開発した軍事用予測装置だ。様々なセンサーを使って相手の体温、呼吸、体勢、視線の向きなどを超高速で分析し相手がどの方角へ動き、何をするのかを調べる事ができるんだ」

「そんな装置が地球にはあるのか・・・」

「ああ、因みにオーディンって言うのは北欧神話に出て来る神の名前で全てを見通す予知の力を持っているんだ」

「全てを見通す神・・・」


 ラピュスは呟きながらバロンの方を向き、彼の仮面に注目する。

 バロンは右目を光らせると小さく俯き笑い出す。


「フフフフ、驚いたぞ。僅かな時間で、しかも少ない情報だけで私の仮面の秘密を見抜くとは・・・・・・確かにこの仮面にはオーディンシステムと同じ物が内蔵されている。ただ、私の仮面の装置は我が社がアメリカが開発した物を真似て更に改良を加えた優れものだがな」

「フッ、だがその優れものにも弱点はあるみたいだな?」

「何?」

「さっきお前がラランの動きを予測して彼女の移動先に向かってミサイルを発射した。だがラランは突然方向を変え、ミサイルはラランに当たる事は無かった。その装置は相手が動く直前の相手の状態を分析して行動を予測するもの、だけど行動している最中に相手が考え方を変えて別の行動を取る事は予測できないって事だ」


 ヴリトラはラランの行動を見てバロンの予測装置の弱点までも見抜いていた。先程のラランは動いている途中でリスを見つけ、そのリスを守ろうと方角を変えた。いくら優れた予測装置でも分析して動きを予測した後に起こる事までは予測できず、ラランに攻撃を当てる事はできなかったという事だ。


「・・・フッ、それでどうする?例え私の仮面の秘密を見破ってもお前達が私に勝つ事はできん。動きを予測されてどうやって私に勝つつもりなのだ?」

「弱点や仕掛けが分かれば幾らでも作戦はある」

「ほぉ?では見せてもらうおうか、お前の考えた作戦とやらを・・・」


 余裕の態度を崩さないヴリトラを見てバロンは内蔵剣と盾を構える。ヴリトラも森羅を両手でしっかりと構えながらバロンをジッと睨む。

 バロンは仮面の右目を赤く光らせてヴリトラをジッと見た。仮面の中ではヴリトラの姿がモニターに映し出されており、バロンはそのモニターを見ながら今まで戦っていたのだ。


(フフフ、例えどんな作戦を立てようとこの装置はお前の状態を分析して正確に動きを予測するのだ。私をかく乱させようとしてもこの装置はお前の呼吸や体温からそれすらも分析して読む事ができる。さっきの娘は動いている時に小動物を見つけたという予想外に事で動きを変え、装置もそれを予測する事はできなかった。だが、同じような事が何度も起きない!)


 心の中で呟きながらモニターを見るバロン。モニターの中心には森羅を構えるヴリトラの姿があり、モニターの両端には大量の細かい数字や英文字が映されてヴリトラの状態を分析している。そして分析が終わると画面のヴリトラから赤い半透明のヴリトラが出て来て左へ跳び、足が地面に付いた後にバロンに向かって跳んで来た。それはヴリトラの次の動きを予測してそれを映像化したものだ。

 ヴリトラが次のどう動くかを予測したバロンは小さな声で笑う。その瞬間、ヴリトラは大きく左へ跳んで、地面に足が付くとバロンに向かって跳び急接近した。予測した通りの動きをするヴリトラにバロンは再び笑い出し、ヴリトラの斬撃を盾で止める。


「チッ!やっぱり読まれたか!」

「さっきの娘へのミサイルが外れたのはまぐれだ。一度予測を外したからと言って二度続けて外れるとは限らんだろう?」


 森羅を盾で押し戻したバロンは内蔵剣でヴリトラに斬りかかる。ヴリトラは咄嗟に森羅でバロンの攻撃を防ぎ後ろへ跳んで距離を取った。バロンから離れるとヴリトラは森羅を鞘に納めて少しだけ姿勢を低くしバロンを睨む。


「動きを読まれるなら複雑に動いても意味は無い。なら、こうすればいい!」


 そう言ってヴリトラは地を蹴りバロンに真正面から突っ込んでいく。


「正面からの攻撃?・・・成る程、動きを読まれると分かっているなら正面から攻めてギリギリまで動きを悟られないようにするという事か」


 ヴリトラの単純だが大胆な攻撃にバロンは盾を構えながらヴリトラに向かって走り出す。お互いに少しずつ近づいて行き、ヴリトラはバロンが間合いに入ったのを見計らって森羅の鞘を握った。


「皆藤流剣術壱式、煉獄居合!」


 勢いよく森羅を抜刀しバロンに居合切りを放つヴリトラ。だがバロンの盾によってヴリトラの居合切りは簡単に止められてしまった。

 自慢の居合切りも止められた事にヴリトラは舌打ちをし悔しがる。そんなヴリトラの顔を見てバロンは楽しそうな笑い声を上げた。


「ハハハハッ!普通の相手なら今の居合で倒せたかもしれないが、私は盾を持っているのだぞ?盾を持つ相手に間合いを読ませない為の居合切りなど意味は無いわ!」

「・・・これもダメか。なら!」


 居合切りもダメな事を理解したヴリトラはもう一度後ろへ跳んで距離を取る。すると今度は鞘に納めずに森羅を両手でしっかりと持ち、左上段構えを取った。

 バロンは上段構えを取るヴリトラを見つめて仮面の目を赤く光らせる。モニターにはヴリトラがその場から動かずにただ左上から右下へ勢いよく森羅を振り下ろすというヴリトラの未来の姿だけが映された。


(・・・どういうつもりだ?その場から動かずに刀を振り下ろすなど、あの位置からでは攻撃など届くはずもない。何を考えている?)


 ヴリトラの考えが理解できずに考え込むバロン。するとヴリトラは一度深呼吸をして落ち着くとバロンを鋭い目で睨み付けた。


「よぉ~く見とけ?これをお披露目するのが今日が初めてなんだからな!」

「何だと?」

「・・・・・・皆藤流剣術零式、竜刃裂空斬りゅうじんれっくうざん!」


 技名を叫んだヴリトラは左上から右下に向けて森羅を勢いよく振り下ろす。此処まではバロンの見た映像通りの動きだ。だが、森羅が振り下ろされるのと同時に青白い斬撃が放たれてバロンに向かって飛んで行く。その光景を見たバロンや周りにいるラピュス達は目を見開いて驚いた。


「な、何ぃ!?」


 信じられない攻撃バロンは驚いて思わず声を上げ、素早く盾で斬撃を防ぐ。だが思った以上に飛んで来た斬撃が重くバロンは足を擦りながら後ろへ押される。2、3m押された先でようやく停止したバロンは深く息を吐く。


「な、何だ今の攻撃は?見たところ、鎌風か斬撃を飛ばしたように見えた・・・いや、鎌風を人間が飛ばすなど、あり得ない事だ」


 ヴリトラが斬撃を飛ばした事がどうにも信じられないバロンはブツブツと小さな声を出す。そしてすぐにヴリトラに反撃しようと前にある盾を退かしてヴリトラの位置を確認しようとする。だが盾を横へ動かすとヴリトラはバロンの目の前まで近づいてきており、一気に距離を縮められた事にバロンは衝撃を受けた。


「!?」

「盾で俺を視界から外したのは失敗だったな?避けて俺を視界に入れていれば俺が次にどう動くのか予測できたのに・・・」

「しまった――」

「皆藤流剣術六式、断絶十字斬!」


 ヴリトラは森羅を両手で握りながら一瞬でバロンの背後に移動した。その直後、バロンの体に十字の切傷が生まれてそこから赤い血が噴き出る。

 自分が一瞬にして致命傷を受けた事が理解できていないのかバロンはしばらくその場に立ったまま固まっていた。


「ば、馬鹿な・・・私が、正面から斬られるとは・・・」


 そう言いながらバロンは持っていた盾を落とし、ゆっくりと前へ倒れる。バロンが倒れるとヴリトラは小さく息を吐きながら倒れたバロンの方を向き彼を見下ろした。


「・・・敵の動きが読めても、その状況に対応できなきゃ、意味ないぜ?」


 低い声を出しながらヴリトラは倒れているバロンに言い放つ。そして静かに森羅を鞘に納めた。

 遂にバロンを倒したヴリトラ達。長かったブラッド・レクイエム社との戦いに遂に終止符が打たれた。それはヴリトラ達とリーニョ達ダークエルフが力を合わせて共通の敵を倒した瞬間でもあった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ