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機械鎧(マシンメイル)は戦場を駆ける  作者: 黒沢 竜
第三章~戦場に流れる鎮魂曲(レクイエム)~
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第二十八話  陽動作戦!

 ストラスタ軍との最初の戦いに勝利し、しばしの休息を終えると、七竜将と第三遊撃隊は再びそれぞれの持ち場に戻った。前回の戦いと同じようにリンドブルムとオロチは崖の上の山小屋からトコトムトの村の周囲を見張り、残ったヴリトラ達は村で待機している。七竜将が一年前の昔話をした時から現在まで敵の襲撃は無く、時は既に昼過ぎになっていた。


「・・・こちらリンドブルム、今のところ敵影はなし」

「了解、そのまま警戒を続けてくれ」

「りょ~かい」


 俯せのままM24を構え、小型無線機を使い現状を村に伝えるリンドブルム。小型無線機からはヴリトラの声が聞こえ、彼の指示通りリンドブルムは再びM24を構えて周囲を警戒する。その隣ではオロチが双眼鏡でパティートンの村の方を見ている姿があった。


「今朝の戦いからまだそんなに時間は経ってないんでしょう?だったら直ぐに敵が攻めてくる事も無いんじゃないの?」

「そうとも限らない。今朝相手をしたのはあくまで先遣部隊だ。敵軍は先遣部隊から村を拠点にしたと報告を受けた後に本隊を村に向かわせるつもりだったのだ、つまり敵は戦力にはまだ余裕がある。体勢を立て直したらまた攻めてくるだろう・・・」


 リンドブルムの隣でオロチが敵の戦力と現在の状態を計算し、次に敵がどんな行動を取って来るのかを考え口にする。その話を聞いていたリンドブルムはM24のスコープから目を離してチラッとオロチを見上げる。

 ストラスタ公国軍は用心深く、敵の戦力を計算し、戦いで自分達が確実に勝てるように戦力を投入する連中だ。その為、常に敵の戦力を上回るよう大部隊を用意していると考えられる。よって、トコトムトの村に一番近い敵拠点であるパティートンの村にも大部隊が待機している可能性がある。前の戦いで逃げ帰った部隊から現在のトコトムトの村の事を聞いたストラスタ軍はパティートンの村に待機させてある全部隊をトコトムトの村に送り込んでくる事はこの時、十分考えれた。だから例え戦いが終わった後でも警戒をしておく必要があるのだ。


「敵はどれ位の戦力で来ると思う?」

「ラピュスの話しによると、ストラスタの連中は一つの拠点に少なくとも一個大隊程の戦力を待機させていると言っていた・・・」

「一個大隊?そんな大部隊、小さな村に待機させておけるの?明らか人数が多すぎだよ」


 敵が予想以上の戦力を拠点に待機させている事を知ったリンドブルムは目を丸くして驚く。オロチは双眼鏡から目を離してゆっくりとリンドブルムの方を向く。


「そんな事を私に聞かれても困るのだが・・・?まぁ、村の住人を全て追い出してその村を丸ごと軍の拠点にするという事も考えられるがな・・・」

「もしそうだとしたら、酷い連中だよね?」

「敵国の拠点だからな・・・。それに商業の国で他国よりも資金や人材には困っていないからこそ、一つの拠点に一個大隊を送り込む事が出来るのだろう・・・」


 ストラスタ公国の話しながらリンドブルムとオロチはまたスコープと双眼鏡を覗き込んで周囲を見回す。すると、リンドブルムがパティートンの村の方を見て何かを見つける。そして目を鋭くし、オロチの声を掛ける。


「オロチ、パティートンの村の方を見て!」

「どうした・・・?」


 リンドブルムに言われてオロチも双眼鏡でパティートンの村の方を見る。オロチが覗いた先にはストラスタ軍が並んでこちらに向かって来る光景が目に入った。その部隊は今朝戦った中隊規模と同じ位だが人数は前回よりも多かった。

 それを見たオロチが直ぐに耳の小型無線機を使い、村にいるヴリトラ達に知らせた。


「こちらオロチ、応答しろ・・・」

「・・・こちらヴリトラ、どうしたんだオロチ?」

「急いで戦闘態勢に入れ、敵の部隊がそっちの向かっているぞ・・・」

「何だって?」


 小型無線機の向こうからヴリトラが意外そうな声を出した聞き返してくる。今朝戦ったばかりなのにもう部隊を引き連れて村に戻って来たストラスタ軍の迅速な行動に少し驚いたようだ。オロチは双眼鏡でもう一度ストラスタ軍を確認し、敵の人数と構成を調べる。


「敵は前と同じ中隊規模だ、だが人数は百人から百五十人はいる。明らかに前回の部隊よりも大きいぞ・・・。更に重装兵や弓兵の数も多くなっている。敵もどうやら本気で来たようだ・・・」


 今朝の戦いでも遭遇した重装兵が大勢いるという事を伝えるオロチはストラスタ軍の進む先を見て石橋を見つめた。


「奴等は前と同じように石橋を渡って村に向かうようだ・・・」

「分かった。前と同じように石橋の前に防衛線を張って敵を食い止める。それに、そろそろ『あの』仕掛けを使う頃だと思うしな?」

「了解だ・・・。ただ少し気になる事がある・・・」

「何だよ?」


 オロチがストラスタ軍を見ながら低い声を出す。小型無線機からヴリトラが不思議そうな声を出して尋ねるとオロチは双眼鏡を覗くのを止めて小型無線機にそっと指を当てながら口を開く。


「ラピュスから敵は一つの拠点に一個大隊を待機させていると聞いた・・・」

「ああ、それは俺も聞いたぜ?」

「退却した敵も私達の力を本隊に知らせている筈だ。にもかかわらず、今回の部隊は前より人数が少し多いだけだ・・・」


 オロチの話しを聞いて小型無線機向こう側で黙り込むヴリトラ。すると今度はニーズヘッグの声が小型無線機から聞こえてきた。


「つまり、お前はこう言いたいのか?『一個大隊の戦力を持っていながら前と大して変わらない戦力を送り込む敵の行動が変だ』と?」

「ああ、戦力が少なすぎる。なぜ一個大隊全てを連れてこないのか、それが気になってな・・・」


 敵が一個大隊の戦力を持っていながら、トコトムトの村に向かわせた戦力は百五十人程度の部隊。一個大隊なら最低でも三百人はいる筈だ、もしパティートンの村の拠点を防衛する為に戦力を残してきたと考えても、もう少し送り込んでもおかしくない。なのになぜ半分程の人数しか送り込まなかったのか、それがオロチを悩ませていたのだ。

 トコトムトの村の入口前ではヴリトラが小型無線機に指を当ててオロチの話しを聞いている。周りにはラピュス達姫騎士、リンドブルム達七竜将、そして遊撃隊の騎士達が控えている。七竜将は全員が小型無線機から聞こえてくるオロチの話に耳を傾けてストラスタ軍の真意を考えている。すると、ヴリトラが耳の小型無線機を見る様に視線を動かして言った。


「・・・分かった、そっちは前と同じように援護射撃を頼む。敵の真意も気になるし、こっちも手を打っておく」

「了解した・・・」

「こっちで何かあったら無線を入れる。その時は救援を頼むぜ?」

「OK!」


 小型無線機から聞こえるオロチとリンドブルムの声。ヴリトラは小型無線機のスイッチを切り、自分の後ろにいるラピュス達の方を向いた。ラピュス達も振り向くヴリトラの方を向いて真剣な表情を見せている。


「ストラスタ軍が何かを企んでいる可能性が出てきた。念の為に作戦を少し変える、前の戦い以上に注意してくれ!」


 ヴリトラの忠告を聞いたジャバウォック達七竜将、ラピュス達は頷いた。前の戦いを見ていたせいか、騎士達には七竜将に対する不満が殆どなくなり、彼等に何処か期待するような態度を見せていた。ヴリトラの話しが終ると、ラピュスが騎士剣を抜いてララン達を見た。


「行くぞ皆!今度は前よりも敵の数が多い、前回は七竜将のおかげで私達が戦う事なく戦闘は終わった。だが今度はそういう訳にはいかない、覚悟をして掛かれ!」

「はいっ!」

「・・・了解」


 ラピュスの喝を聞き、アリサとラランが返事をする。その後ろの騎士達も声を揃えて返事をした。それを見ていた七竜将も仲間の顔を見て頷く。ニーズヘッグとファフニールは前と同じように村で待機だが、今度はジルニトラも村に残るのか二人の方へ歩いて行く。そして残ったヴリトラとジャバウォックはラピュス達と石橋の方へ向かうようだ。

 ヴリトラがラピュスの方を向くと、ラピュスは頷き、馬に乗って出撃態勢に入る。ララン達も同じ様に乗馬し、それを確認したヴリトラとジャバウォックが走り出して石橋の方へ向かう。ラピュス達もそれに続いて馬を走らせるのだった。

 村から出撃してしばらく走っていると、ラピュスがヴリトラの隣に馬を近づけて彼の声を変えた。


「おい、ヴリトラ。さっき通信機を使ってリンドブルム達に手を打っておくと言ったが、何か策でもあるのか?」

「大したことじゃない。ジルニトラが村に残っただけだよ」

「何?それだけなのか?」

「それだけって言うけど、機械鎧兵士一人が増えるだけで戦力は大きく上がるんだぞ?」

「それは分かるが、どうして村の戦力を強化したんだ?それに、そうなると敵部隊と正面からぶつかる私達の方が危険じゃないのか?」


 ジルニトラを村に残したヴリトラの考えが分からないラピュスは困り顔を見せる。だがヴリトラは走ったままラピュスの方を向いて小さく笑う。


「忘れたのか?俺達にはリンドブルムとオロチの援護がある。それにあの石橋には細工がしてあるんだぞ?それだけでも十分こちらの戦力を補える」

「・・・二人の援護はいいが、石橋に仕掛けた物は何なんだ?いい加減に教えてくれ」


 石橋の仕掛けの事を詳しく知らないラピュスはヴリトラに尋ねる。

 防衛線に向かう騎士達の中で石橋の仕掛けの事をなにも知らないのはラピュス一人だけ。ラランとアリサ、一般の騎士達はジャバウォックから話しを聞いた為どんな仕掛けなのかは知ってはいるがどういう結果になるのかまでは知らない。只一人仕掛けの事すら知らないラピュスは何処か嫉妬するような表情を見せている。

 ヴリトラはラピュスの態度を見て小さく笑ったままラピュスに説明をし始めた。


「まぁ、口で聞くよりも目で見た方が早いかもな?」

「何だそれは?」


 話してくれないヴリトラにラピュスは納得のいかない顔を見せる。だが今は敵が接近してきているのだと自分に言い聞かせてラピュスは前を向いた。全速力で走り続けるヴリトラとジャバウォック、それに続いて馬を走らせるラピュス達。ヴリトラ達は敵の侵攻を食い止めるために石橋へ急いだ。

 村を出てからしばらくして、なんとか敵が来る前に石橋に到着したヴリトラ達は石橋の前で布陣して敵を待ち構える。そして数分後、対岸の奥の方からストラスタ軍が向かって来る光景が見えた。リンドブルム達と違い、高い所から見ていなくても、その戦力が前回と違うのが正面から見ているヴリトラ達にもよく分かる。

 ストラスタ軍の先頭には馬に乗った騎士の姿があるが、それは前の部隊を率いていた騎士とは別人だった。石橋の前で止まるうストラスタ軍。隊長と思われる騎士は対岸で布陣しているヴリトラ達を鋭い目で見つめた。


「あれが先遣隊を壊滅状態に追い込んだ敵の部隊か・・・。たったあれだけの人数になぜ敗戦などしたのだ?」

「はい、先遣隊の情報によると見た事のない武器を使い、手も足も出なかったという事です」


 隊長の隣で同じように馬に乗り先遣隊の得た情報を話す別の騎士。隊長はその騎士の方を向いて機嫌の悪そうな表情を見せる。


「チッ!どうせ人数が少ないと油断したのだろう。どんな武器を使って来ようと所詮は小規模な部隊だ、これだけの人数をぶつければ直ぐに片が付く」

「しかし、敵は炎を自在に操り、守りの重歩兵隊を一瞬で蹴散らしたという情報もあります」

「分かっている。その為に私が先陣を切るのだ!私は火の気を操るのだぞ?私に炎は効かん!」


 隊長の騎士は真剣な表情で隣の騎士に話して騎士剣を抜いた。実はこの隊長は火の気を操る騎士なのだ。敵もジャバウォックの火炎放射に対抗する為に火の気を操る騎士を隊長にして先頭に立たせたのだろう。

 その事を知らないヴリトラ達は何時まで経っても動かない敵軍をただジッと見ていた。


「動きませんね?」

「・・・怖気づいた?」

「それも考えられるわね・・・」


 攻めてこないストラスタ軍を見て敵が自分達を恐れているのではないかと話しをするアリサとララン。彼女達の言っている事も一理ある。未知の武器で襲ってきた敵を目の前にすれば大抵の者は恐れて動けなくなるだろう。だが、それは今まで戦争の様な大きな戦いに参加した事のない者の考え方、何でも戦場に足を踏み入れて戦争を経験した事のある七竜将はそう思わなかった。

 先頭に並んで立っているヴリトラとジャバウォックは石橋の向こうで動こうとしないストラスタ軍を見つめながら鋭い視線を彼等に向ける。


「・・・ジャバウォック、どう思う?」

「ああ、動く気配がまるでない。俺達が先に動くのを待っているのか、それとも後続部隊を用意しておき、ソイツ等が来るのを待っているのか・・・」


 ストラスタ軍が何を考えているのか推測するヴリトラとジャバウォック。ヴリトラは腕を組んで敵を見ながら何かを考え始める。すると自分の後ろに控えているラピュスに声を掛けた。


「おい、ラピュス。聞きたい事があるんだけど・・・」

「何だ?」


 突然呼ばれてヴリトラの方を向くラピュス。ヴリトラは腕を組むのを止めると前を向いたままラピュスを手招きする。ラピュスがゆっくりとヴリトラの隣まで来ると、ヴリトラはチラッとラピュスの方を見た。


「ラピュス、確かお前達騎士は気の力を操って戦うって言ってたよな?」

「ああ、言ったが?」

「その気の力はこの大陸の騎士全員が使えるのか?」

「勿論。騎士にしか気の力を使う事は出来ないが、この大陸の全ての国の騎士は気の力を使える」

「・・・じゃあさぁ、その気の力を操って炎を防ぐ事も出来るわけ?」


 意味深な事を聞いてくるヴリトラを見てラピュスは目を見張って一瞬驚く。だが直ぐに表情を戻してヴリトラの質問に答える。


「・・・出来ない事ではない。気の力に関係するもの、例えば水の気を持つ騎士は氷や冷たさの対する力を持ち、土の気を持つ騎士は砂や石を操って攻撃する事が出来る」

「それじゃあ、火の気を使う騎士なら炎を防いだり、その熱に耐える事も出来るんだな?」

「よほどの訓練を受けていないと難しいが十分可能だ」

「成る程なぁ」


 ラピュスの話しを聞いたヴリトラはストラスタ軍が動かない理由が分かったのか頷きながら敵軍の方を見た。ラピュスは何かに納得するヴリトラを見て小首を傾げる。だがジャバウォックはヴリトラの考えている事が分かったのか、隣に立っているヴリトラを見て口を開く。


「ヴリトラ、アイツ等が動かない理由が分かったのか?」

「ああ、想像だけどな。多分アイツ等はお前の火炎放射を警戒してるんだろう」

「俺の機械鎧の?」

「防御力の高い重歩兵をあっという間に倒した武器を見たんだ。相手は守りの崩されないようにする為に当然対策を練っていた筈だ。そこで火の気を操る騎士を前に持ってきて、まずは火炎放射がどんな物なのかを確かめる必要がある」

「だから、俺が火炎放射を使うのを待って、耐えられる物だと分かったらそのまま火の気を持つ騎士で切り込み、残りの兵達を重歩兵に守らせながら前進させるって事か?」

「少なくとも俺はそう考えてる・・・」


 ヴリトラの洞察力に感心するジャバウォックと驚いているラピュス。敵の考えを読み、次にどう動くかを予測する。それなりに頭の回る者でなければ出来ない事、だが七竜将の全員がIQの高い者達である為、彼等にとっては当然と言えるのだがラピュスにとっては驚く事のようだ。

 そんな時、突然ヴリトラとジャバウォックの小型通信機から発信コール音が聞こえた。それに気づいた二人は小型発信器のスイッチを入れて受信する。


「こちらヴリトラ・・・」

「ヴリトラ、皆!聞こえる!?」


 小型通信機から聞こえたのは慌てる様なリンドブルムの声が聞こえてきた。リンドブルムの声を聞いたヴリトラとジャバウォックは変に思いながら耳を傾ける。


「どうした、リンドブルム?」

「トコトムト村の隣にある大きな草むらから敵部隊が村に向かってるよ!」

「何だって!?」


 敵部隊がトコトムトの村に向かっている、それを聞いたヴリトラは驚いて訊き返す。隣で聞いていたジャバウォックも驚き、後ろにいたラピュス達は話が聞こえない為、理解出来ないような表情を見せた。

 実はトコトムトの村には石橋方面への道とエリオミスの町、サリアンの森方面への道の二つがある。だた、トコトムトの村はその二つの道以外にもヴリトラとラピュスが髪を洗った川、そして見渡す限りの大きな草むらの二つに左右が挟まれており、村を出るには道を使うしかないのだ。だが草むらは決して通れないわけではない、視界と足場が悪いため通ろうとする者がいないだけで、通ろうと思えば通れるのだ。

 リンドブルムは崖の上からヴリトラ達とストラスタ軍の動きを見ている時に偶然村の隣にある草むらの中心が動いているのに気付き、スコープを覗いたらストラスタ軍の別働隊を見つけてヴリトラ達に知らせたという訳だ。


「敵部隊って、別働隊がいたのか?」

「多分ね。きっとヴリトラ達の前にいる敵部隊の人数が少なかった理由はこれだったんだよ!」

「前の戦いと同じように正面から向かって行き、私達の注意を引きつけているうちに別働隊を迂回させて村を奇襲するという作戦か・・・」


 驚きながら尋ねるジャバウォックの質問に答えるリンドブルムとオロチの声が小型無線機から聞こえてくる。ジャバウォックの言葉を聞いていたラピュス達は初めてどんな話しをしているのかに気付き驚きを隠せなかった。自分達が敵の罠にはまりおびき寄せられたのだから。騎士達も動揺を隠せずに騒ぎ始める。するとさっき驚いていたヴリトラが冷静になり小型通信機を通して七竜将達に指示を出した。


「やっぱりジルニトラは村に残しておいて正解だったか・・・。ジルニトラ、ニーズヘッグ、ファフニール!聞こえてたろ?これからそっちに敵さんがやって来る、歓迎の準備してくれ」

「やっと私達の出番だね」

「分かった、こっちは俺達でなんとかする」

「アンタ達はどうすんの?」


 村で待機している三人の声が聞こえてくる。ヴリトラは小型通信機の方に視線を向けながら話しを続けた。


「俺達はこっちを片付けたら直ぐに戻る。それまで持ち堪えてくれ」

「心配ねぇよ。お前らが戻る前に片が付く」

「そうだといいけどな?」


 ニーズヘッグの言葉にヴリトラと小型通信機を通して話しを聞いているジャバウォックは笑った。自分達が窮地に追いやられているのに余裕の表情を見せるヴリトラ達にラピュス達は呆然としているだけだった。

 次にヴリトラは崖の上で援護をする事になっているリンドブルムとオロチに指示を出す為に話しかける。


「リンドブルム、オロチ。お前達はこっちと村に一人ずつ救援に向かってくれ。リンドブルムは俺達の方、オロチは村へ向かってくれ」

「分かった」

「了解した・・・」

「その後は各自自由にやってくれ、ただし無茶はするなよ?・・・以上だ」


 ヴリトラが話しを終えると七竜将は一斉に小型通信機を切る。そしてヴリトラも石橋の方を向いて森羅の鞘に手を掛けた。するとそこへラピュスは慌てながら駆け寄ってくる。


「お、おいヴリトラ!何を冷静にしているんだ!?敵が村に向かっているのだろう?早く戻らないと村の拠点が・・・」

「俺達が此処で引き返せばアイツ等も一緒に村へ連れて帰る事になるんだぞ?俺達は此処で敵を食い止めるのが仕事だ」


 ヴリトラが対岸にいるストラスタ軍を見つめながらラピュスに説明をする。ラピュスもストラスタ軍の方を向いてヴリトラの言うとおり、此処で敵を足止めしないと村に戻った時に彼等を奇襲を仕掛けた敵部隊と合流させてしまう事になる。そうなったら自分達に勝ち目はない、そう自分に言い聞かせようとするが、やはり落ち着いてなどいられなかった。


「だ、だが!村の戦力は私達よりも少ないのだぞ・・・?」

「だからジルニトラを残してリンドブルムとオロチをそれぞれ救援に向かわせたんじゃないか?」

「で、でも・・・!」


 いつまで経ってもオロオロしているラピュスを見てヴリトラは彼女の肩を掴み、自分の顔を近づける。


「!」

「落ち着け!・・・いいか?戦場で冷静さを失ったら、確実に死ぬぞ?」


 ヴリトラの言葉にラピュスはハッとして冷静さを取り戻した。落ち着いたラピュスを見てヴリトラは小さく笑い、肩を掴んでいる手を放してもう一度石橋の方を向く。


「・・・安心しろ。俺達がいる限り、お前達第三遊撃隊は誰も死なない」


 ヴリトラの言葉を聞いてラピュスは目を見張って驚き、その後にゆっくりと深呼吸をする。そして騎士剣を抜いてストラスタ軍の方を向き、それを見ていたラランとアリサ、一般騎士達もそれぞれ自分の武器を手に取って構える。その直後、遂に対岸で待機していたストラスタ軍の先頭に立つ二人の騎士が馬を走らせてヴリトラ達の方へ向かって来る。その手には騎士剣は握られており、恐れを見せる事無く突っ込む姿があった。

 再び攻めてきたストラスタ公国軍。だが、石橋方面から来た部隊の他にトコトムトの村の隣にある大きな草むらに身を隠したストラスタの別働隊が村に向かっているという報告を受ける。石橋と草むらの両方から攻めてくる敵軍にヴリトラ達はどう迎え撃つのか・・・。


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